此処は幻想郷の人里。その一軒の道具屋から威勢のいい声が響いた。「ありがとうございました~」声を発したのは黒髪に日焼けをしたような肌の男。その頭には触角のようなものが2本ほど立っている。男の名は黒陽、どんな運命の悪戯か妖怪の身体を乗っ取った稀有な人間である。「おい黒陽。こっち手伝ってくれ」その黒陽を後ろから呼んだ銀髪に2本の触覚がある男。彼の名は影月、黒陽と同じく妖怪の身体を乗っ取るといったとんでもない事をしてのけた稀有な人間である。この二人、人里にある大手道具屋『霧雨道具店』の店員兼警備兵兼人里の守護者という仕事を掛け持ちしまくっている奴らだ。「それにしても・・・・・・旦那、来ないな~」「そうだな~。もう随分と顔を見てないな」「こないだ若に旦那の話ししたらそんな人間いるのかとか言われちまったぜ」「確かに旦那は規格外だからな~・・・・・・ホントに如何したんだろな」そう言うと二人は今日もただ広く青い空に顔を向けるのだった。所代わりて誰かの家。白髪にリボン、もんぺを穿いた女性が畑仕事をしている。彼女は妹紅、蓬莱の薬により不老不死となり長き年月を持って様々な妖術の扱いに長けた人間。不老不死といえどもお腹は空く。作物を育てて自分の食べる分をしっかり確保しているのだ。「ふぅ・・・先生、こないな~」不老不死から見ればどれほど長い年月だろうと瞬きする間に過ぎ去って行くようなもの。だからと言って、いないものを寂しいと思う気持ちはいつまでも変わることはない。すると、一人の女性が近づいてきた。青を基調にした服装に奇抜な形をした帽子をかぶった女性、名を慧音と言う。慧音は片手を挙げながら妹紅へ挨拶した。「や、妹紅。遊びに来たよ」「いらっしゃい、慧音」「ところであいつ、アスカは来てないのか?」「先生は今日も来てないよ」「そうか・・・・・・」顔を俯けた慧音が何を思うか、それを知りえるのは誰もいない。ふと二人は空を見上げ、それぞれ呟いた。「今日も、いい天気だね・・・・・・」「・・・そうだな」場所は変わって迷いの竹林にある屋敷、永遠亭。其処では一人の女性がだらけていた。彼女は輝夜、長く流れるような黒い挑発に色白の肌、典雅な格好はまさに彼女が姫であることをあらわしている。そんな彼女も暇を潰すことができずにだらけているようだ。「姫様、いつまでだらけてるんですか」「だって、暇なんだもん」彼女に注意を促がした女性は永琳、銀髪に赤と青の二色構成の変わった服を着ている女性だ。ちなみにこの二人、先ほど出てきた妹紅と同じように不老不死の存在である。永琳は輝夜からの返事を聞き更にため息を深くした。「はぁ・・・、アスカさんになんて言われるか分かりませんよ?」「ばれなきゃ平気よ」「なら私がばらします」「ちょ?!永琳!!・・・・・・まぁいいわ」輝夜は永琳の言葉で慌てて跳ね起きたものの、すぐにだらけた体勢に戻ってしまった。それに驚いた永琳は慌てて口を開いた。「ひ、姫様?!良いんですか、言っても?」「言えるものならね。最近アスカ、全然来ないじゃない」「言われてみれば・・・確かにそうでしたね・・・」輝夜からな返事を聞き納得したのか永琳はそのまま黙ってしまった。輝夜は寝転がった状態のまま天井を仰ぎ見て呟いた。「アスカ・・・本当にこないわね・・・・・・」屋敷の外、竹林の中。彼女は兎達へ指示を出していた。彼女は竹林に古くから住む兎の妖怪、てゐ。彼女が指示することは難しくなく、ただ竹林に入り込む人間を迷わすことと、姫の遊び相手だった人間を探すこと。指示を聞き終えた兎達が去っていくとてゐは一人呟く。「まったく、姫様は兎使いが荒いよ・・・あの人間がくたばる訳ないってのに」てゐは適当な竹を背もたれにその場に座り込んだ。その顔にはめんどくさいと感じながらも仕方ないと諦観の表情が浮かんでいるそうして日の光が差し込む空を見上げて呟いた。「ったく。こんだけ探してるんだから、早く見つかりなさいよ・・・」時は回って場所も変わる。ここ太陽の畑は今年も黄金色の向日葵が咲き乱れる。そこで日傘を差して佇む女性は最強の妖怪、風見幽香その人。彼女は何かを期待するように遠くを見つめては、そのたびにつまらなそうにため息を吐く。「はぁ、今年も来ないわね・・・・・・面白みが何一つ無いわ」そう呟いた彼女はもう一度だけ遠くの空を見つめるとその足を向日葵畑へ進めるのだった。風が吹きぬけ見える所も変わる。妖怪の山麓、霧の湖。今日も多くの妖精が気ままに飛び回っている。そんな中、一際は元気に飛び回る青い妖精、チルノがふと動きを止めた。それについて回って飛んでいた緑の妖精、大ちゃんはチルノが止まったとこを不思議に思い口を開いた。「どうしたの、チルノちゃん。急に止まったりして?」「うん、あいつ如何してるかなって思って」「あいつ?」「ほら、あいつだよあいつ・・・よく遊びに来た変な人間。確か・・・アイボ!」「そんな人いたかな~?」「最強のあたいが言うんだからいたのよ」「そっか。チルノちゃんがそう言うんならいたんだよね」「うん。でも、ホント如何したのかな~」チルノはそう嘆くと高く広い空を日上げた。大ちゃんもつられて空を見上げ、どんな人間だったのかと思いを馳せた。景色は流れて何処かの街道。其処には少年のような格好をした妖怪が一人。彼女の名前はリグル、一時期は虫を操り人里に害をなしたがある切欠から人里に手を出さなくなった妖怪だ。彼女は珍しく、本当に珍しく自分から影月へ会いに行っていた。自分が恐れる人間の姿が見えないことが怖くて。「アスカさん何処行ったのかな~。いたら怖かったけど、姿が見えないと余計に怖いよ・・・」彼女は日が高く周りが明るいうちから目に見えない今日にその身を震わせ目的地へ急ぐ。ただ一度、何かを紛らわすように遠くの空を見つめて。其処からさほど離れていない森の中。木々の隙間から歌声が響いてくる。歌っているのは鳥の妖怪、ミスティアである。ミスティア・ローレライ、親しい者・・・と言っても皆妖怪であるが、ミスチーの相性で馴染まれ特定の人間からはぷっくると呼ばれている。彼女もまたリグルと同じ恐怖を味わっていた。以前なら遠めに姿を見かけることや、時には声を掛けられることもあった。そのたびに恐ろしくはあったが、今のように見えない恐怖に怯えることはなかった。彼女は歌う、自らの恐怖を紛らわすために。「~♪~~~♪~~♪」彼女は歌う、願わくば再び姿だけでも見えるように。「~~~♪~♪~~♪」彼女は空を見上げ、世界に響き渡るように歌い続けた。大きく場所を変えて此処はマヨイガ。幻想郷と外界のスキマに漂う、隠れ里。そこに九本の狐の尾を生やした女性と二本の猫の尻尾を生やした少女が歩いていた。狐の尾を生やした女性は藍、猫の尻尾を持つ少女は橙と言う。橙は口を開いて藍へ尋ねた。「藍様、紫様はまだ探してるんですか?」「そうだね、橙。アスカ様は紫様の数少ない友人だったからね・・・可能性が低くても探したいんだよ」「アスカ様はそんなに立派な方だったんですか?」「どうだろう?私はそんなに会った事はなかったし紫様もこないだの件を含めて3度しか会ってないと言っていたね」「それでも探すんですか?」「探すだろうね。受けた恩を返すため・・・何より友人が生きていることを確認するために」「・・・・・・よくわかりません」「少しずつ、分かっていけばいいよ」よく理解できなかった橙は顔を俯けて落ち込んでしまった。藍はそんな橙の頭を優しく撫で、宥めた。そうして、何処でも変わることの無い空を見上げて願った。「(どうか、見つかりますように)」場所は再び変わって幻想郷の妖怪の山。其処では一人の白狼天狗の少女が周囲を見渡し、その傍では河童の少女が不安そうな面持ちでそれを見守っていた。白狼天狗の少女の名を椛、河童の少女の名をにとりと言う。椛が見渡し終わったのか一旦目を閉じてため息を吐いた。それと同時に空から黒い影、烏天狗の少女、射命丸文が降りてきた。にとりはその二人へと労いの言葉をかけた。「二人ともお疲れ様。結果はどうだった?」「こっちはダメです。どれだけ見渡してもまったく姿が見えません。文様はどうでしたか?」「私のほうもダメだったわ。色々と見聞きして回ったけど誰も知らないそうよ」「そっか~・・・・・・」にとりを始め、文と椛をそれぞれの報告に落胆の色を隠せない。そんな中にとりは空を見上げて誰に告げるでもなく呟いた。「ホント・・・何処に行っちゃたんだろうね~」更に場所は変わる。次は妖怪の山の中にある大蝦蟇の祠。其処では3人の白狼天狗が祠を掃除していた。まず一人目は他の二人に比べ凛々しく、何処となく風格の様な物が感じられる白狼天狗、茜。二人目は勝気な顔立ちに長めの髪を三つ編みにしている白狼天狗、才。最後は幼い顔立ちと短めの髪ながら目元まで隠れるほど前髪を伸ばした白狼天狗、塁。3人は全員で祠の掃除を終えると皆で一斉に手を合わせた。「「「早くアスカ様が帰ってきますように」」」そう祈り終えた3人はその場から空へと去っていった。後に残るのは掃除された祠と変わることのない池。そして、そんな様子をただ悲しそうに空を見つめ続けた大蝦蟇だけだった。少し場所を変えてみると近くの川辺に一人の河童の姿が。ワイシャツのような服に緩んだネクタイ、何処と無くサラリーマンを思わせるような格好をしている彼の名は田吾作。川辺に一人座り込んでいる彼の背中には力がまったく無く、何か大切な物をなくしたように見える。田吾作は空を見上げると誰かに語りかけるように呟いた。「アスカ様、あっし達はみんな待ってるでやすよ」<おまけ>「でさ勇儀、アスカがね~」「あれ萃香?何で泣いてるんだい??」「っへ?私泣いてなんか・・・ホントだ、何で涙なんか・・・・・・」「おいおい、大丈夫かい?」「あれ?私泣き上戸じゃなかったはずなのに・・・なんでだろ?おかしいな??」「う~ん、なんか思い当たることは?」「無いよ・・・うん、やっと止まった・・・」「結局なんだったんだろうね」「そうだね~って、勇儀!何で勇儀が泣いてるの?!」「へ?あれま、ホントだわ・・・貰い泣きってやつかね?」「不思議だね~」「ホント不思議だね」地底で飲み続ける二人の会話----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。主人公不在の話、いかがでしたでしょうか?こんな汚い手段で時間を飛ばすなんて・・・流石はお手玉の中身では、次回よこって!またお前らか!!やめろ・・・ぎゃ~~~~~~~~~!!----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------A「我らの時代が来た」B「然り、主人公不在の時こそ我らの時代」C「そう、我らこそが」D「5体あわせて」E「毛玉戦隊」ABCDE「「「「「無駄に硬い毛玉!!」」」」」次 回 「第1話 黄昏に舞う毛玉」 だ、誰かこいつら止めてくれ・・・ガクッ by.kami