「凄まじい雨ですな」「まったくだ・・・・・・お陰で帰れなくなった」「あっしらは濡れても平気何でやすがね~」俺達は今、天魔の家にお邪魔している。と言ってもいるのは俺と家主の天魔、そして一緒に酒を飲みにきた田吾作である。始めは田吾作から貰った新しい道具のお披露目に来ていたのだがいつの間にやら宴会になってしまい、全員が潰れて目が覚めると・・・・・・・・・「日の光すら見えない大雨になっていると・・・・・・」「何を言ってるでやすか?」「現状確認だ。気にするな・・・」「でやすか。まぁ、確かに豪雨・・・というより雷雨でやすな~」「儂もこのような雷雨、長らく見たことがないぞ」「天魔が見たことないって・・・どんだけすごい雨だよ・・・・・・」俺は小さく呆れ混じりに呟いたが、すぐさま雨音にかき消されてしまった。返事を期待したわけではないが声すら消える雨とはなんとも虚しくなってしまう。とは言え、激しいといえども所詮は雨、いつかは止みあがるもの。ならばそのときを待ちつつ今の暇を潰すとしよう。そう考えた俺は田吾作に声をかけた。「それにしても田吾作。随分と良い物をくれたが・・・ほんとに良いのか?」「良いでやすよ。むしろ貰ってくれないと困るでやす」「アスカ殿、田吾作の行為を無碍にするものじゃないと思いますぞ?」「そうか?・・・・・・そうだな。ありがたく貰っておくよ」俺は田吾作から受け取った手袋を掲げながら返事を返した。田吾作と天魔もその返事に満足したようにうなずいている。ちなみにこの手袋は装備者の法力を下に周囲の空気を固めて打ち放てるといった優れものだ。使用する法力も空気の圧縮に限定すればほぼ皆無となるらしい。なんでも、空気を集める過程よりも打ち出す過程の方がより法力を消費するとのことだ。これのお陰で近距離攻撃しか出来なかった戦闘で中距離と遠距離が加わった。しかし、遠距離の場合は圧縮が解けてしまうので威力が落ちてしまうのだが・・・・・・ともあれ、ありがたい事だ。田吾作には、感謝しないとな。そう考えていた時、天魔が違う話題を話し始めた。「そういえばお二人とも、幻想郷に新しい結界が出来ることをご存知か?」「ん、何の話だ??」「あぁ、あれでやすな」なにやら結界の話らしいが、田吾作には思い当たる事があるようで頷きながら言葉を返した。俺には何の事か分からなかったため改めて聞いてみることにした。「なぁ、結界ってどういうことだ?」「そうでやした。アスカ様は人間でやすからあの人からの知らせが行ってないでやすね」「あの人?知らせ??」「うむ・・・あの者とは『八雲』と名乗る妖怪の賢者でな、幻想郷誕生の時よりこの地に住まう最高位の妖怪のことなのだが、胡散臭すぎてあまり付き合いたいとは思わんな。結界の件とはその者が幻想郷を外の世界と完全に別離させるために結界を張ると言ってたことだ」「それはまた壮大な・・・・・・なんでまた外の世界との別離を?」「それでやすが、なんでも・・・外の世界で妖怪がいないものとして扱われだしたとか何とか言っていたでやすな」「うむ、その影響が幻想郷に及ぶ前に関わりを完全に断つ結界だそうだ」「は~・・・やっぱり壮大なことで」俺が呆れたように呟くと、田吾作と天魔も同意したように頷いた。ただあまりにも雨が酷すぎるため雨が止むまでは天魔の家にお邪魔していることが決まった。それから1週間・・・・・・「流石にこれはない・・・・・・」俺は止むどころか更に解くなる雨を見てそう呟いた。そうして、天魔のほうに目を向けてみれば、他の天狗たちから次々に寄せられる被害報告の処理に勤しんでいた。被害報告曰く、哨戒に出ていた白狼天狗が雷に討たれた(茜達は無事だろうか?)曰く、山が削られ家が流されたものがいる(それほどまでに!)曰く、河童が川に流され遭難した(河童が?!)曰く、烏天狗が取材に行こうとしてカメラをなくした(一番どうでもいい!!)それは、信じられないような報告ばかりだった。白狼天狗や河童達、茜や田吾作のことなど非常に心配ではあるがこんな中、外に飛び出していけばそれこそ二次災害にしかならない。如何したものかと思いつつ天魔へと声をかけた。「外はとんでもない状況だな」「まったくだ。こうなっている以上、ただの雨と言う訳ではあるまいが・・・・・・原因がまったく掴めん」「そうか・・・・・・」そうやって返事を返した時だ、正面の扉から何人かが勢いよく転がり込んできた。入ってきたのは文に茜、その他上位の天狗たちだった。今まで外にいたのかその身体はびしょ濡れで水が滴っている状態だ。「だ、大丈夫か?!文、茜!」「ふむ、戻ってきたか・・・・・・」「天魔・・・何か指示を出していたのか?」「少し人里の方などを見てきてもらったのだ」「そうなのか?」「えぇ・・・・・・私の見た限りでは人里というより幻想郷中が大変な状態ですよ」文の言葉を皮切りに其処からは上位の天狗達が各々の見てきた光景を報告してきた。川は溢れかえり氾濫し、人里は豪雨により水没を始め、雷鳴は天を割り地を揺るがさんほど・・・・・・想像を絶するような大災害が起こっていた。「天魔様!このままでは我らも危ないです。すぐに何かしらの手を打たねば!!」「うむ・・・・・・しかし大自然相手にいかような手が通じるか・・・・・・」そういうと天魔をはじめとした天狗たちは皆顔を伏せ考え込んでしまった。そんな中、先ほどから黙りっぱなしの茜へと目を向けた。茜は寒いのか顔を真っ青に染め上げ、自分の身体を抱きしめながらガタガタと震えていた。一体如何したんだ?「文」「へ?アスカ様なんですか」「茜は一体如何したんだ?」「それが私にも分からないんですよ。ここに来る途中で座り込んでるのを見つけて慌てて引っ張ってきたんですから。茜さん?大丈夫ですか」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「こんな感じで反応もないんです」実際に茜はただ震え続けるだけで文の言葉が聞こえているのかも怪しい状態だ。文をその場から下がらせ、今度は俺が声を掛けてみることにした。「茜、俺だ。大丈夫か?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「一体如何したんだ?何か見たのか?」「・・・・・・・・・う・・・・・た・・・」やっと茜が反応を示したかと思えばあまりにか細い声に何を伝えたいのかが分からなかった。俺と文は顔を見合わせ更に声をかけた。「茜さん、何を見たんですか」「茜、話してみろ」「・・・・・・んな・・・・・・・・・」「「何(です)!」」「・・・あんな恐ろしい生き物は始めてみました」茜の言葉を聴き、俺と文は互いの顔を見合わせてしまった。恐ろしい生き物?茜が怯えるほどの??いつの間にか周囲には天魔達が集まりこちらの話に耳を傾けていた。俺は更に茜へと問いかけた。「茜、ゆっくりでいい。何を見たんだ」「・・・・・・恐ろしい生き物です。今まで話でしか聞いたことないような」「知っている生き物か?」「見たことはありませんし姿も知りませんでした。でも、見た瞬間に分かったんです」「何が・・・分かったんだ?」「あの恐ろしい生き物こそが・・・・・・竜なんだと・・・」なん・・・だと・・・?!茜の言葉により周りの天狗たちは再び騒ぎ始めた。その気持ちはよく分かる。竜の逸話は俺も聞いたことがあるから。曰く、竜は幻想郷の天地を作った存在・・・・・・その竜が暴れるということは即ち、幻想郷の崩壊を意味するのだから。ただの自然災害かと思ったらとんでもない話になってきた。そう思い天魔へ顔を向けると天魔もこちらを見て大きく頷き口を開いた。「仕方ない・・・ここは胡散臭い賢者を頼るとしよう」「胡散臭いとはご挨拶ですわね。天狗の長」凄く胡散臭い妖怪が現れた。というかあいつは・・・・・・・・・「紫、何でこんな所に?」「あなたアスカ!何でこんな所に?!」「っむ?アスカ殿はスキマとお知り合いか?」「まぁ、ちょっとした縁があってな。紫が賢者?賢者の名は八雲の筈だが??」「そういえば下の名前しか名乗ってなかったわね。私の姓は『八雲』と言うのよ」「なるほど、しかしお前が賢者?・・・・・・全然にあわないぞ?」「あなた本当に失礼な人ですわね。素敵なスキマ旅行に旅立ちたいの?」「冗談じゃない」手にした扇子で口元を隠しながら聞いてくる紫に俺はきっぱりと拒絶の言葉を返した。なるほど、言われて見れば胡散臭いな。そうして、紫と知り合いであることを驚く天魔達を尻目に俺と紫の雑談は続く。「それはそうと紫、何でここに?ちなみに俺は酒を飲みに来たらこの雨で帰れなくなっただけだ」「天狗の家で酒を飲むって人として如何なのよ・・・・・・まぁ、今回はあなたに用があったんじゃないからいいですけど。天魔、あなたに頼みたいことがあります」「儂にか?」「えぇ、既に聞き及んでるかもしれないけど今回の災害は竜神によってもたらされたものです」「うむ、先ほど報告を受けた」「流石天狗と言っておきましょう。」「ふん、世辞はいい。続きを話せ」「そうですわね。あなたには選んでもらいたいと思いまして・・・私と共に竜神の元へ行き怒りを納めてもらうか。もしくは此処に残って、幻想郷の安定に力を注ぐかですわ。私としましては竜神の怒りを共に抑えてもらいたいのですが・・・・・・」「儂が竜神の前に?無理に決まっておろうが」「ですわよね・・・ならば地上の、最低でも妖怪の山の安定ぐらいは成してください」「うむ、了承した」紫の言葉に天魔が短く言葉を返した。紫自身、その答えを予測していたのか満足気に頷いている。しかし、このままでは紫一人で竜神様の元に行くことになってしまうな。俺は少し考え躊躇った後に、紫へと声をかけた。「紫。天魔ほど力になれるわけじゃないが、俺が同行させてもうぞ」「アスカ?」「あ、アスカ様!何を言ってるんですか!!」「そうですよアスカ様。今、竜神の元に行くなんて自殺行為ですよ」俺の発言を聞き、紫は不思議そうにこちらを見つめ返し、茜と文は慌てて止めようと口を開いてきた。天魔や他の天狗たちも同意見なのかその顔は一様に厳しいものだ。「止めてもダメだぞ?そもそも、そんな危険なこと紫一人に任すなんてできないからな」「あら、心配してくれてるんですの?でしたら「何言ってるんだ紫?」??」「心配するのは当たり前だからどうでも良いとして、お前一人じゃ胡散臭すぎて頼りないんだよ」「・・・・・・流石アスカ、誰も言えないような事を平然と言ってくれますわね」「なんだ?歯に衣着せた言葉の方が好みだったか?」「普段はそうですけど・・・・・・今はありがたく受け取っておくことにしますわ」「よろしい。と言うわけで天魔、後頼むな」俺の言葉に紫が笑いながら礼を述べるのを聞き、そのまま天魔へと声をかけた。天魔のほうはまだ納得が出来ていないのか顔をしかめたままだ。「アスカ殿。儂は反対です。どれほど強くなろうとアスカ殿は人間、竜神とまともに戦えるはずもありません」「戦うって・・・・・・物騒なこというな。こっちはお願いしに行くんだから戦闘にはならないよ。だろ、紫」「そうですわね。そもそも戦闘になれば確実に死んでしまいますわ」「ならば尚のこt「それにさ」・・・」「仲間が大変な時に何も出来ないって、嫌じゃんか」「アスカ殿・・・・・・」「そんな顔するなよ天魔。別に死ぬわけでもないんだし」「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」俺の返事を聞き、天魔たちは全員複雑そうな顔をして黙り込んでしまった。あの文でさえその表情からは不安が滲み出ている。俺は一つ大きくため息をつくともう一度口を開いた。「はぁ~・・・、茜も文も俺に死んで欲しいのか?」「そ、そんなことありません!」「あやややや、そんな訳ないじゃないですか!」「んじゃ、戻ってきたときには宴会の用意をしといてくれよ?天魔も頼むな」「ふぅ・・・分かりましたよアスカ殿。無事に戻ってきてくだされ」「戻ってきたら取材を受けてくださいよ」「お早いお帰りを待っています」「おう。それじゃあ紫、行くとしますか」天魔達からの返事を聞いた俺は早速、竜神様の元へ向かうべく紫へと声をかけた。紫は既に準備を終えていたのか、不気味な空間を広げて待っている。「もういいのかしら?」「おう、竜神様の所へ行くとしよう」「じゃあこの中に入って。気を付けなさいよ、隙間を抜けたら竜神の目の前ですからね」「心得た」「では、素敵な素敵なスキマツアーへ出発~♪」「しまらない号令だな・・・」紫の言葉を最後に、俺はあまり訪れたくない目玉だらけの空間、スキマの中へと送り込まれた。相変わらず不気味な所だ。そう考えていると隙間の割れ目が見えてきた。どうやら出口のようだ。はてさて・・・鬼が出るのか蛇が出るのか・・・・・・・・・竜だったか。それは暗雲の世界。雷鳴轟き風雨が吹き乱れあらゆる存在を赦さんとするそんな世界。其処ではその世界の主が全てを壊しつくさんと暴れている。あまりにも巨大なその姿は時折暗雲のよりはみ出る様な形でその姿を他者に晒す。一本のロープのような身体に蛇のような鱗を纏い、身体に比べればいささか小さな手足には鋭い爪が。時折覗かせるその顔は見るものに恐怖を与えその咆哮は雷鳴とは比べ物にならないほど響き渡る。これぞ竜神。幻想郷の天地を作り、滅ぼさんと暴れる存在。そんな竜神の前に小さな空間の切れ目、スキマが二つ開いた。先に出てきたのは男。竜神を見たことで顔を引きつらせその身を竦ませている妖怪の山の薬師、アスカ。次に出るは女。男と同じように竜神への恐怖からその身を竦ませている幻想郷に住む妖怪の賢者、紫。荒れ狂う竜神の前に二人の人物がスキマから降り立った。竜神にとってはあまりにも小さな存在。だからであろうか、竜神はその身を止め二人が口を開くのを待った。それから僅かに逡巡し、意を決しアスカは問う。「竜神様、なぜ荒れ狂うのですか!!」荒ぶりし竜神は答える。「ただ一種なる妖怪によって幻想郷が世界から外れんが為」続いて紫が叫ぶ。「そうしなければ妖怪は存在ができなくなります!!」荒ぶりし竜神は静かに答える。「ならばそれが世界のあるべき姿」その答えは二人にとって認めることの出来ないものだった。二人は叫んだ。叫び続けた。片や自らの友と仲間のために、片や自分の愛した理想の楽園のために。果たして二人の言葉が届いたのか竜神はその身を鎮め静かに口を開いた。「ならば認めよう」そして、更に言葉を続けた。「かの地、幻想郷から我は去ろう。ゆえに汝たちの力だけで、かの地を楽園として見せるが良い。そして最後に汝らの力を見させてもらう」二人は問い返した。「「力を試す?」」竜神は語る。「幻想郷を去る我が最後に一度だけ汝らを試す。結果がどの様になろうと関係なく我は去ろう。ただ汝らにどのような未来があるか見たくなっただけだ。では、死ぬでないぞ!幻想の子らよ!!」そう吼えた竜神は今までと比べ物にならないほどの風雨を生んだ。かくして竜神は幻想郷より去り幻想郷には新たなる結界『博麗大結界』が張られ外界より完全に隔離された世界となった。博麗大結界が張られ幻想郷はその平和な姿を取り戻して行った。ただ一人、人間の姿を幻想からも消して・・・・・・<おまけ>「雨、止みましたね・・・・・・」「止んだでやすな・・・それじゃあ宴会の準備をするでやす」「そうですね」「あ、私は取材の準備をしてきます」「文様~取材の準備よりも宴会の準備を手伝いましょうよ~」「あはは、良いじゃんか椛」「そうですよ椛さん。私達ががんばればいいんです」「でも文さんだけサボるのはずるいと思うよ塁」「後でアスカ様に教えればいいんだよ才」「なるほど」「なるほどじゃありませんよ二人とも!先輩からも何か言って下さい!」「文、あなたが悪い」「あやややや・・・・・・」「ほらほら、遊んでないで張り切って準備をするでやすよ」始まらない宴の準備----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書どうも、真っ黒になったお手玉の中身です。幽香の時よりもでかい死亡フラグだ。ヒャッハー正直ここで完結させてもいいような気がしないでもない作者なんですorzでも、色々出て来てない人もいますし・・・まだ完結はしませんよ~では、次回予告----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------どうも、田吾作でやす・・・主人公候補とか言われやした。足りない生活いない友そこにいた筈なのにもう誰もいない次 回 「主人公なんてどうでもいいでやすからアスカ様に帰ってきて欲しいでやすよ」 これが・・・暗黒面の力か by.kami