「数多の虫に貪らせ、塵一つ残さない!」・・・なんか偉そうな少年が現れた。黒いマントっぽいものを首に巻き、緑の髪からは二本の触覚?が飛び出している。さっきの言葉からすると、こいつも妖怪なんだろうが・・・どうにも見た目が・・・・・・すると後ろから苦しそうなうめき声が聞こえてきた。俺が何事かと思い黒陽達の方を振り向くと二人が苦しそうに体をくの字に曲げていた。「お、おい!二人とも大丈夫か?!」「だ、大丈夫と言いたいところですが・・・」「かなりいっぱいいっぱいです・・・」二人がなぜ苦しんでいるのか見当もつかない俺は少年の警戒をしながらも腰元からいつもの万能薬を準備した。それを見ていた少年(妖怪)は可笑しそうに嗤うと無駄だと忠告してくる。「お兄さん、そんな薬無駄だよ。そいつらが元人間でも今は飛蝗の妖怪。『虫を操る程度の能力』から逃げることは出来ないんだよ!」「なに?!」「むしろ、今まで操られずに耐えれてることの方が凄いことだけどね・・・。私の言うことを聴かない虫なんて初めてだよ」「ま、まだまだ~・・・・・・」「俺達、霧雨道具店警備兵を舐めんじゃねぇぞ・・・」「ふん、その割にはもう限界みたいだけど?」少年の言うとおり、何とか反論している二人の様子は今にも崩れ落ちてしまいそうなほど弱弱しいものだった。今までの会話から推察するにこの餓鬼を潰せば二人は元に戻るようだ。ならば・・・・・・「お前ら、もう少し耐えてろよ?」「「だ、旦那・・・?」」「おい、糞餓鬼・・・・・・」「糞餓鬼とは言ってくれるね、たかが人間が・・・・・・まぁいいや、何かいいt「黙って・・・」??」「死んでろ」餓鬼に対して宣言した俺は目の前の餓鬼に向かって走り出した。虫が集ってくる・・・知るか!虫が這いずり回ってる・・・知ったことか!!虫が体に食らい付いてくる・・・どうでもいい!!!無数の虫が群がってくる中、俺は餓鬼を目指して走った。そんな光景を餓鬼は信じられないような顔で呆然と見ていたが後数歩の距離になると慌てて逃げ始めた。しかしもう遅い、其処は・・・「此処までやっといて逃げれると思ったか?」俺の・・・「っひ?!」手の届く距離!「死ね!」「っっ☆△×○□?!?!」逃げようと後を向き、飛び上がろうとしていた餓鬼の背を全力でぶん殴ってやった。餓鬼は声にならない悲鳴を上げながら宙を舞い、一回・・・・・・二回・・・三回ほどバウンドを繰り返し転がりながらその動きを止めた。大地に沈んだ餓鬼はまだ生きているのか、時折ぴくぴくと動きながら喘ぐ様に咳き込んでいる。いつの間にやらアレほど周りにいた虫達は一匹も残っておらず、周囲からはその鳴き声すら響いてこない。ただ聞こえて来るのは目の前の餓鬼の咳き込むような苦しむ喘ぎ声だけ。そんな餓鬼に近づこうと一歩足を踏み出すと、左腕に先ほどまで感じなかった鋭い痛みを感じた。見てみると虫が一匹残って噛み付いている。自分の身体を見てみれば、先ほど虫の大群に突っ込んだせいか至る所に傷が出来ていた。しかし・・・まぁ、この程度なら大丈夫だろそう考えた俺は最後まで身体に引っ付いていた虫を握りつぶすと改めて餓鬼に向かい歩き始めた。餓鬼はある程度落ち着いたのか、それとも俺の近づく気配に気付いたのか、倒れたまま此方に振り向くと、立ち上がる力も無いのか短く悲鳴を上げて地を這いずる様に逃げはじめた。だが、逃げるだなんて・・・赦すわけが無い。俺は逃げようとする餓鬼の背を踏みつけ動けないようにした。餓鬼は苦しそうにもがいている。「おい、何処に行く気だよ?餓鬼・・・」「っは、っかは、ひゅ、ひゃ、や、ひゅぅ~・・・」「何が言いたい?言葉はきちんと話そうぜ・・・餓鬼」俺が足の力を強めると餓鬼は更に苦しそうにもがいた。その口から漏れ出す言葉は、最早言葉ではなくただの音と成り下がった。これくらいでいいだろう・・・・・・そう考えた俺は餓鬼の背から足をどけると・・・「苦しいだろ?」頭へ置き換え・・・「そろそろ・・・」力をじわじわと掛け始めた。「潰れなよ」「っぎ?!ぎゃああぁぁぁあぁあぁぁああぁぁ!!!」力を掛けていくたびに餓鬼の頭は軋むような悲鳴を上げ、その口からは絶叫が迸る。餓鬼は必死に逃げようとしてるのかジタバタともがきながら時折、人の足を叩いてくるがまったく力が入っていない。何をどう叩いているのかも分からないのだろう・・・・・・そのまま10分ほど時間が経っただろうか?餓鬼の頭は意外に固かったようでまだ潰れずに原形を保っている。その間も常にその口からは耳障りな悲鳴を上げ続けた。・・・・・・そろそろ、この汚い悲鳴にも気分が悪くなってきた。そう考えた俺は、餓鬼の頭から足を一度退かした。餓鬼は頭にかかっていた痛みがなくなったからか足を退かせると悲鳴と動きを止めた。その様子には生き延びられた安心感が何処と無く感じられる。だから俺は・・・・・・「いい加減しつこいぞ?」足を振り上げ・・・「死ね!」全力で餓鬼の頭を踏み抜いた。あまりにも強く踏みつけてしまったせいだろうか、辺りには砂埃が立ちこめた。立ち込める砂埃の中、一息ついたところで俺は後ろの二人はどうしただろうかと気になり、二人のいた位置へ振り向いた。しかし、其処には二人はいなかった。何処へ行ったのかと辺りをキョロキョロと見回してみると砂埃の向こうに人影が見える。影は二つ、両方とも蹲っているようだった。砂埃が晴れると、その先には探していた二人・・・黒陽と影月。そして、二人の手の中にいるのは・・・・・・?!俺は慌てて自分の足元を確認し、二人に向かって口を開いた。「なぁ、何でそいつがそこにいるんだ?」「えっと・・・なんて言いますか・・・・・・」「気付いたら身体が勝手に・・・・・・ははは・・・」二人の腕の中には俺が踏み潰したはずの餓鬼が納まっていた。おそらく踏み潰す直前に引き抜いたんだろうが、なぜそんなことを?そう考えた俺は改めて二人にたずねた。「その餓鬼、敵のはずだよな?なら此処で殺すべきじゃねぇのか?」「た、確かにこいつは憎い敵ですけど・・・・・・」「な、何も殺さなくとも・・・」「おいおい、そいつはお前らを一度殺してるんだろ?何で庇ってんだよ」「確かにそうです・・・だけど!」「そんな簡単に殺さなくとも言いと思うんです」「・・・・・・マジか?」「「意味は分かりませんがマジです」」こいつらの様子・・・操られてるかと思ったら違うみたいだし。本気で庇ってるよ・・・・・・自分殺した餓鬼を。「しかし、助けてどうする?その餓鬼が霧雨道具店を狙ってることには変わらないだろ」「それなら大丈夫」「俺達に考えがあります」「考え?」その考えを聞いた俺は鼻で笑い一蹴した。しかし、二人は諦めなかった。何がこの二人を掻きたてるのかは分からないが必死に餓鬼の命を助けるように俺に懇願してきた。その頼み込みはとうとう、土下座まで入ってきた。流石にここまでされては・・・・・・「認めないわけにはいかないだろ・・・」「「でしたら旦那!」」「はぁ~~~~・・・・・・、納得は出来ないが一応見逃してやるよ」「「あ、ありがとうg「ただしだ!」?!」」「その餓鬼が霧雨道具店をまた襲ったら、今度こそ潰すぞ」「わ、分かってます」「むしろそのときは俺達の手で・・・」「其処まで解ってんなら良いや・・・・・・」俺はため息交じりで言葉をつむぐと腰元からいつもの万能薬、そして二人のいた位置においていた荷物から藍に使った滋養強壮薬を取り出した。二人は此方を不思議そうに見ていたが、俺が滋養強壮薬を差し出すと薬と俺に視線を行き来させながら尋ねてきた。「えっと旦那?こいつは??」「特製の体力回復薬だよ・・・このまま何もしなければそいつ多分死ぬぞ?」「ちょ?!旦那!それ本当ッすか!!」「こんなことで嘘言ってどうするよ。最初殴った時とか本気でやってるから自己治癒間に合わないと確実に死ぬぞ」「これ、頂きます」そう言ったのは黒陽だったか影月だったか・・・とりあえず薬を受け取った二人は早速餓鬼に薬を飲ませようとした。しかし、餓鬼は薬を飲む力も残っていないのか口の端からこぼれていくだけ。それを見た影月は薬を自分の口に含むと餓鬼へ口移しに飲ませだした。餓鬼の喉が嚥下する。どうやら無事に飲み下すことが出来たようだ。「飲んだか?」「飲みました!」「んじゃ、落ち着けるところで休ませるとしよう。此処からだとお前らの家のほうが近いのか?」「俺らのは家って言うか・・・」「住処ッすね」「・・・・・・まぁそこで言いや・・・ほれ、運ぶぞ」そうして俺は二人の家、魔法の森奥地にやってきた。そこは魔法の森の奥深くにも拘らずキノコの胞子が舞っていない珍しい場所だった。辿り着いた家は・・・・・・辿り着いた小屋は非常に汚かった。そんな汚い部屋の中、物を適当に脇に寄せてスペースを作るとそこに餓鬼を寝かせ、俺は改めて二人にたずねる事にした。「んで、ホントの所なんでこいつを助けようと?」「っへ?」「いや、だからっすね、このまま死んだらかわいそうだな~と思ったからですけど」「自分殺した相手に同情する奴はいないよ・・・さっきは頭にきてたからよく考えてなかったが冷静になったらわかることだぞ」「・・・・・・・・・・・・影月、自分で言えよ」「っちょ!黒陽?!苦楽を共にすると誓ったじゃないか!!」「それとこれとは別だボケ!よく考えたらこんな苦労してるのもある意味お前のせいじゃねぇか!!」「っぐ・・・・・・」「結局、どういうことなんだ?」俺が聞きなおすと黒陽は影月の方を向き、影月は下を向いて黙ってしまった。それから数分ほど待っただろうか。影月が顔を上げると勢いよく口を開いた。「お、俺!」「ん?」「その子に惚れたんです」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は???」「だから、影月のバカはその妖怪に一目ぼれしたんですよ」「そうなんです」「・・・・・・・・・・・・・・・な、なんじゃそりゃ~~~~~~!!!」詳しく話を聞いてみるとこの二人、妖怪として復活した後に餓鬼の前に連れてこられたらしい。それで、霧雨道具店を狙っていることなんかを聞き出したとの事なんだが・・・影月のバカがそこでこの餓鬼に一目ぼれしたせいで、その後の戦いでも何とか傷つけないように追い払うためいつも手加減して戦ったらしい。・・・・・・かっこいいけど、真性のバカだ。「お、おまえな~・・・」「やっぱり旦那も呆れますよね~」「んな?!いいじゃないですか!恋は突然なんです!!」「とは言え・・・あの餓鬼、男の子だろ?」「「っへ?」」「ん?どうした」「旦那・・・あいつあんな格好ですけど」「女の子ですよ」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」「俺も最初は驚いたんですけど影月の奴が・・・」「うぃっす、戦ってる最中に当たったら軟らかかったです!!」「自慢して言うことかよ・・・・・・・・・」本物のバカだ。さすが警備兵・・・俺の予想をはるかに超える行動を取る。其処に痺れもしなければ憧れる事も無いと考えた再会の晩だった。<おまけ>もふもふA「やった・・・・・・遂にやったぞ~~~~~~!!」もふもふB「どうしたのもふもふA?そんなに喜んで」もふもふA「もふもふB!聞いて聞いt「祝い事があると聞いて飛んできたでやす」・・・・・・」もふもふB「田吾作さん・・・・・・」田吾作 「おや、どうしたでやんすか?二人とも??」もふもふA・B「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」田吾作 「まぁいいでやす。なにやら祝い事の気配を感じてきたでやすが何かあったでやすか?」もふもふB「(いつもの事だけど何処から来てるんだろ、田吾作さん)」もふもふA「まぁいっか・・・。田吾作さん、遂に能力を強くすることが出来たんです」田吾作 「それは、おめでとうでやす。どんな能力になったんでやすか?」もふもふA「鈍器しか扱えなかった日々にさようなら。明日から私の能力は『あらゆる武器を使う程度の能力』になったんです」田吾作 「それは凄いでやす!!」もふもふB「すご~い!!」もふもふA「この能力を使えば私が武器だと思ったものはどんな物でも手足のように使えるんですよ」もふもふB「すごい!すごいよ、もふもふA!!」田吾作 「いやはや・・・、驚きのあまり声も出ないでやす」もふもふA「それじゃあ・・・早速、私は行ってくるよ」もふもふB「っへ?!」田吾作 「何処へでやすか??」もふもふA「そんなの決まってるじゃないですか!いまだ見たことのない憎き敵の潜む、大蝦蟇の池へ!」もふもふB「まだ覚えてたの!!」田吾作 「なんと言う才能の無駄遣いでやす・・・・・・」もふもふA「さぁ、復讐するは我にあり!!いくぞ~~~~~~~~~~~~!!」もふもふB「行っちゃった・・・・・・」田吾作 「どうしようもないでやすな。無事帰ってくるのを祈っておくでやす」もふもふB「そうですね・・・・・・『神様』に祈って待っておくことにします」怪しい液体まみれとなったもふもふAが発見される前日の会話記録より----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身ですお手玉の中身的残酷物語、いかがでしたでしょうか?荒んでしまった心は緩和剤の、影月とんでも告白とおまけ話で癒してください。では、次回予告です----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------えっと・・・、前にチルノちゃんが迷惑をかけたので、今回は私が次回予告を担当します。あまりにも呆れてしまうような影月さんの告白アスカさんとしてはなかなか認められるものではありませんそれでも黒陽さんと影月さんの計画は進みますはたして・・・・・・???あれ?リグルちゃん・・・生きてられるの???次 回 「愛する心はいつまでも」 大ちゃんすげ~!! by.チルノ