月が消え去り日が昇る。宴会が終わった後、懐かしの我が家で一晩明かした俺は気持ちの良い朝を迎えていた。旅先で泊まる宿もいいがやはりは自分の家が一番良いと言うことだろう。目を覚ました俺は久しぶりの日課を行うことにした。大蝦蟇の池まで行って祠を掃除し池の水を貰う。朝一でするだけあって、なんとも爽やかの気分になれる。その後、池の淵に佇む大蝦蟇を相手に何処へ行こうかと相談をする。相手は喋れないと言うのに・・・我ながら可笑しな姿だと思う。「今日は何処まで行くかな~」「・・・・・・・・・・ゲコッ」「左腕の怪我が治るまではあまり無理をしたくないんだよな~」「・・・・・・・・・・・・ゲロッ」「はてさて・・・」「ゲコゲコッ」「人里にでも行ってみるかな?」「ゲロロッ」「よし、そうするか」「・・・・・・・・・・・・・ゲコッ」こうして大蝦蟇と相談し俺は人里に向かうことにした。なんだかんだ言っても、やはり俺は人間だし人里の噂は気になるものだ。昔に比べ鬼退治屋が卑怯になったなどの変化があるように幻想郷にも色々な変化があるはずだ。なにより妖怪目線ではなく人間からの視点での話しも聞いている分にはなかなか面白いものがある。そう考えた俺は大蝦蟇の池を後に人里へと足を進めた。そして池からさって行く俺の姿を大蝦蟇は何も言わずに眺め続けていた。・・・青年移動中・・・・・・やってきたのは幻想郷の人里。これも太郎の影響だろうか以前は感じることの無かった新鮮さが味わえた。新鮮さと言えば、道中に会ったはずの地蔵が消えていたことが少し気になった。今度田吾作に頼んで新しい地蔵をこしらえてもらう事にしよう。そうして考えながら俺は適当な道端に薬を広げ、臨時薬剤店の営業を開始した。今日もまた満員御礼・即日完売が踊りまわる売れ行きだった。紫は薬屋を幻想郷へ引き込むべきだと思う今日この頃だ。まぁ、薬屋=医者だから薬の専門技師なんて早々いないだろうが・・・そう考えながら俺は、商売中に聞くことの出来た噂話を纏めた。噂話曰く、数日前にお地蔵様が消えてしまった。(・・・田吾作に作ってもらうことにしよう)曰く、最近妖怪の力が増した気がする。(紫の計画が実を結んでいるようだ)曰く、妖精の悪戯による被害が増えてきた。(落書きレベルと可愛いものである)曰く、増えた妖怪に子供が襲われないか心配だ。(しっかり面倒みろ)曰く、魔法の森に多くの妖怪が住み着き始めた。(薬草の宝庫が!!それは困る)などなど、なかなかに面白い話が聞けた。消えた地蔵に関しては誰が盗っていったのかも分からず現在もその行方を捜しているとのことだ。帰ったら早速、田吾作に頼んで作ってもらうことにしよう。妖怪が増えると言うのは結界がしっかり働いているからいいことなのだが、魔法の森を荒らされるのはあまりうれしくない。後で様子を見に行くことにしよう。妖精の件は・・・、うん、春告精の例もあるしほって置くとしよう。落書き程度の悪戯なら可愛いものだ。なにより、よっぽど強い妖精でなければ普通の人間でも十分に倒せる。俺がそんなことをしたら弱いものいじめにしかならないからな・・・となると、とり急いでするべきは魔法の森の様子見か。そう考えた俺は、魔法の森に行く前に薬草採取用の道具を買っていくことにした。幸いなことに、先ほど売った薬のお金で懐も潤っているので問題は無いだろう。そうして人里の店をみて回っていると一軒の道具屋で足が止まった。道具屋の前では主人らしき男が掃除をしており、此方に気付いたのか軽く頭を下げながら声を掛けてきた。「おや、お客さんですか?いらっしゃいませ」「あ、あぁ・・・。店主、この店には草刈鎌などの類は置いてあるか?」「はいはい、ありますよ。大きいものから小さいものまで取り揃えております」「そうか・・・、なら見せてもらうことにしよう。ところでご主人」「はい、なんでしょうか?」「すまんが店の名前を教えてくれないか?良い品だったら今後とも贔屓にしたいからな」「はぁ・・・、それはありがたいのですが、店の看板だったら上にも・・・」「なに、気に入った店の名前は主人から聞きたいものなんだよ」「さようでしたか」道具屋の主人、男は俺の返答に納得したように頷くと顔に笑みを浮かべながら改めて応えてくれた。「では、改めまして。『霧雨道具店』へようこそいらっしゃいました、お客様。私は店主の『霧雨源次郎』と申します。今後ともご贔屓に」「あぁ(あの店主の子孫か・・・縁とは不思議なものだ)」「お客さん?何かおっしゃいましたか?」「いや、なんでもない」「はぁ・・・、さようで・・・」まったくもって、人の縁は何処で繋がっているのかわからないものだった。俺にとっては懐かしくとも相手にとっては初めての出会い。正確に言うなら俺にとっても初めての出会いなんだろうがこの店主からはあの時の警備兵や店主の影がよく見える。きっと立派な店主なんだろう。そう考えながら俺は、必要な道具を買うと、魔法の森へ足を進めた。・・・青年移動中・・・・・・魔法の森は静かなものだった。妖怪が新たに住みついた気配はするものの、特に荒らされている訳でもなく、昼なお暗く静かな世界はいまだ姿を変えることなくそのままであった。俺は森が荒らされていない事にホッと一息吐くと薬草の採取を始めた。魔法の森は薬草の宝庫で昔から妖怪もあまり近寄らない森だった。ならなぜ魔法の森などと呼ばれ恐れられているのか、それは奥に行くほどその理由を知ることが出来る。魔法の森は奥に行けば行くほどより暗くなり多くの野草を生やしている。その中でも特に多いのがキノコだ。このキノコが厄介なことに、その胞子に幻覚作用を持っている。幻覚作用から幻を見て、帰れなくなる者、帰れても支離滅裂な発言をするものが出てくることからこの森は魔法の森と呼ばれ恐れられている。とは言え、それ以外は俺にとって薬草が多く手に入る天然の宝物庫のような場所ではあるが。そんな妖怪ですら近寄らない森に住み着く妖怪が何をしているのか見てみたくもあったが・・・、どうやらこの様子では奥に住んでいる妖怪もいそうに無い。おそらく付近に住み着いた妖怪を魔法の森に住んでいると勘違いしたのだろう。俺は自分の考えをそう締めくくると薬草採取の手を早めるのだった。どれくらいの時が流れただろう?気付けば暗い森は先ほどよりも深い闇に包まれていた。思いのほか薬草採取に夢中になっていたのか、いつの間にやら日が沈んでいたらしい。其処彼処からも虫や梟の鳴き声が響いてくる。今日はこの辺でやめて、もう帰るべきだな。そう考えた俺は森から出るために歩き出した。あまり奥まで入っていなかったお陰だろうか、森の出口は思っていたよりすぐに見えてきた。森を出ると外は暗く、空には明るい月がその姿を現していた。遠くに目をやれば人里の明かりも見える。俺は今日一日が平和だったことを特に信じてもいない神様に感謝しながら妖怪の山へと足を進めた。思ってみれば・・・神様なんかに感謝したのが悪かったのだろう。どこか遠くから歌声のようなものが聞こえてきた。「~♪~~~♪~~♪~~~~♪」「なんだ、これは?」俺はそうやって一人呟くと歌声の響く方向へ足を進めた。5分ほど歩き続けたところだろうか・・・歌声はちょうど森の木々に隠れた所から響き渡っていた。近くによることで歌の内容もきちんと聞こえるようになってきた。歌の内容は何かを誘うような静かな歌だった。個人的にはもう少し陽気な歌が好みではあるんだが。そう考えていた俺には歌声に近づくにつれもう一つ、気になること出てき始めていた。歌声に近づくにつれて・・・・・・酷く・・・匂う。草むらを踏み分け、木々をかわして奥へ行くと其処は広場のような草むらだけの空間が出来ていた。広場の中央では一人の少女・・・いや、羽が生えているから妖怪の少女が歌っていた。月が雲に隠れているせいか廻りはよく見えないが少女の動作ぐらいはその影から判断することが出来る。すると、少女が此方に気づいたのか歌声が止まった。「やった♪今晩はご飯が二人分もやって来た♪」先ほどまでの歌声と同じ声で弾むように誰か、おそらくは目の前の少女が話した。その間に段々と雲が流れ広場にも月明かりが差し込んできた。雲が流れきり、広場が月明かりに照らされると、其処にはにおいの元・・・引き裂かれバラバラとなった人間が転がっていた。月明かりに照らされた少女は此方に微笑みながら詠うように告げた。「ようこそいらっしゃい♪私の新しい晩御飯♪」神様なんぞに二度と感謝するもんか!!<おまけ『文々。新聞』>※噂のあの人は一体?○月×日本日は私、清く正しい射命丸文が妖怪の山にて有名な人間、Aさんの取材をすることに成功しました。取材内容はAさんの能力と日課に関してです能力に関して Aさんの能力は『不可視の影響から逃げる程度の能力』との事です。 読者の皆様にはこの名前からでは想像し難いでしょうから詳細に関しても確認しておきました。 不可視とは文字通り目に見えない、つまりAさんの目に映らない力がこの能力の対象となります。 影響とは何か、Aさん自身も把握しきってはいないようですが、直接その結果が目に見えない力の影響との事です。 例に挙げるならAさんを惑わすために作られる幻影、これは幻影を作り出す前の段階でその力が不可視であるため 幻影の影響から逃げられるとの事です。 その他にも音や風なんかも見えないから逃げられるそうです。(風に関しては視認できるほど強力になると対象外) 最後に逃げると何度も表記していますがこれに関しては影響を受けなくなる、もしくはかわすとお考え下さい。日課に関して Aさんの日課はずばり暇つぶしを兼ねた散歩です。 Aさん自身、山の薬師としての仕事を持っているのですが、山の妖怪にとって薬が必要になるほどの怪我をすること が無く、病気にもかからないので在って無いような仕事の為、普段が暇でしょうがないのだそうです。 またその際、大蝦蟇の祠や竜神の石造、人里のお地蔵に手を合わせたり掃除をしていたりなどする光景をよく目に するのですが、そのことに関して尋ねると、「神様は信用できないからそれ以外を信じる」との返事がいただけま した。最後になってしまいましたが今回、この記事を書くに当たりましてAさんより実名を入れないことを条件とされたため、実名ではなく『Aさん』との表記になってしまっている事をご了承ください。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。今回は霧雨道具店の店主が変わっているお話でした。警備兵達に関しては・・・どうしよう、何も考えてなかったorzついでに、時間の概念どうしよう・・・、原作開始まで後数百年は余裕で残ってる・・・orz色々と頭を悩ませるお手玉の中身でした。では、次回予告お願いします。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------私が次回予告?いいわよ~♪~~♪~~~♪~♪~~~~~♪~~~~♪~~♪~~♪~~♪~♪次 回 「~~~♪~~~~♪~~♪」 しまった、鳥頭は字(カンペ)が読めなかった!! by.kami