太郎との別れのせいだろうか。見慣れたはずの家路でさえ新鮮でしょうがない。神秘的な大蝦蟇の池、池の淵にある祠、家まで続く道とも言えない山道、遠くに段々と見えてくる我が家。とりあえず家で一度落ち着いたら、勇儀や萃香、田吾作たちを呼んで宴会をしようと考えた。そんな楽しい未来を思い浮かべて、俺は心を弾ませながら我が家の扉を開けた。家の中に入ると驚いたことに萃香が居間で眠っていた。俺は「なぜここで?」と、思い萃香を揺り起こした。「おい、萃香・・・起きろ。起きろ萃香!」「う~~ん・・・、まだのめるよ~」「・・・起きろ幼女」「幼女じゃない!萃香だよ!!って、アスカ?!」まさか幼女で起きるとは・・・起こそうとしても起きなかった萃香を試しに幼女と呼んでやると見事に飛び起きてくれた。飛び起きや萃香は驚きの表情を作って此方の顔を凝視している。すると、段々とその瞳に涙が溜まっていき、こちらに向かって飛びついてきた。「うぐっ!ひぐっ!あずが~~~~!!」「うおっ?!なんだなんだ、どうしたんだ萃香?!」「うわぁ~~~~ん!!」「ほんとに・・・どうしたんだよ・・・・・・」そのまま萃香をあやしつつ、泣き止むのを待つこと数分。萃香もやっと落ち着いてきたのか俺から離れて笑顔を見せてくれた。「落ち着いたか、萃香?」「うん、ありがと。それと、おかえり、アスカ」「おう。それで、突然泣き出すなんてどうしたんだよ」「・・・それがさ」そうして萃香から教えられた話は信じられない・・・いや、信じたくない内容の話だった。萃香の話を要約すると、最近の人間、鬼退治屋は昔と違い嘘や不意打ちなどの卑怯な手を使ってくるようになってしまった。鬼にとってはそれは戦いと呼べるものではなかった。正々堂々と戦い負けるのなら何をされようとも納得は行く。しかし、複数人の上に騙まし討ちまでされる様になってしまったら納得なんかできるはずも無かった。鬼はそれでも堂々と戦った。ただ、それ以上に鬼が騙まし討ちにあう方が多くなってしまった。そんなときだ、幻想郷に住む妖怪の賢者と名乗る存在から旧地獄、忌まわしき妖怪を封じ込めた地底の管理を依頼されたのだという。鬼達は悩んだが結局人間を見捨て旧地獄を管理することを承諾した。今でも幻想郷には鬼は残っているものの、皆散り散りとなりもうその所在を掴む術は無いのだと言う。師匠と勇儀もまた、旧地獄へと降りて行ったとの事だ。折角帰ってきたのに・・・師匠も勇儀もいないのか・・・・・・。ならなんで萃香が?「ホントかよ・・・萃香・・・性質の悪い冗談とかじゃないのか?」「アスカ・・・、鬼は嘘が嫌いだよ」「そっか・・・、なぁ・・・萃香・・・。」「ん、なに?」「それなら何でお前はここに残ったんだ?」「わたしはまだ諦めたくなかったんだ。人間だってまた正々堂々と戦う心を思い出すはず。そんな日が来るのを諦めたくなかったんだよ!」「そっか・・・「それと」、ん?」「友達が帰ってくるなら迎えないといけないからね」そう言い切って、萃香が満面の笑顔を見せてくれた。そんな笑顔を向けられた俺は顔が熱くなるのを感じながらそっぽを向いてしまった。「あ、ありがとな」「おやおや~、顔が赤くなってるけど・・・。アスカ~、もしかして照れてる?ねぇ照れてる?」「うっさい、幼女め」「っむ!わたしは幼女じゃなくて萃香だって何回言えば分かるんだよ」「うるさい、照れてないよ」「むむぅ、嘘はダメだよ~、アスカ~」「ったく・・・、人が素直に礼を言ってるんだから茶化さずに受け取っておけよ」「むふふぅ~」そうやって笑いあっていると入り口から誰かが入ってくる気配がした。俺達が入り口を見てみるとそこには田吾作に茜、椛ににとり・・・ついでに黒いのを含めた友人達が揃っていた。「ほら、あっしの言ったとおりでやしょう。アスカ様が帰ってくるような気がしてたんでやすよ」「はぁ~、凄いですね田吾作さん・・・、まさか本当に帰ってきていらっしゃるとは・・・」「それを信じて宴会の準備を進めてた先輩も凄いですよ」「まったくだよね~」「これは記事に出来ますね。しかし、その前に言うべき事がありますね」「そうでやすな」「そうですね」「はい」「うん、そうだね」「「「「「おかえりなさい(でやす)」」」」」・・・全員同時に言わなくてもいいだろうに。全員がこちらを見ながら笑顔で言葉を言い切っている。その手にはそれぞれ宴会用の料理や酒を持って。だから俺も、その宣言に笑顔で答えた。「あぁ、ただいま」そこから始まるのは仲間達との宴会。そこには萃香以外の鬼の姿はもう無いが、それでも天狗に河童がいる。だから寂しくは無い。よく考えれば、今生の別れというわけでもないからそのうち会いに行けば良いだけの話だった。まったく、我ながら恥ずかしいことだ。萃香も今更ながら泣いていたことに照れているのか酒をやけ飲みしている。・・・いや、あいつが飲むのはいつものことだった。それはともかくとして、俺の隣では天魔が共に酒を飲んでいた。「ぷはぁ~、良い酒ですなアスカ殿」「そうですね、天魔殿」「羅豪殿をはじめとした多くの鬼、友がこの地を去ってしまい寂しくもありましたが、こうしてアスカ殿に帰ってきていただけて寂しさも紛れましたぞ」「それは俺の言葉ですよ。旅先でできた友は死に目に会うこともできず、帰ってきてみれば多くの仲間がいなくなっていた。それでも寂しくないのは天魔殿や他の仲間と友がいたからです」「そうですか・・・」「そうなんですよ・・・」「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」お互いに語り終えた俺達は手元の盃を共に呷った。飲み終え、空となった俺の盃に天魔は酒を注ぎながら再度口を開いた。「アスカ殿、ほら、酌をどうぞ」「あぁ、ありがとうございます。天魔殿」「そう、それじゃアスカ殿」「っは?なにがですか??」「友相手に殿はいらんよ。気軽に呼び捨ててはくれんか?」「それなら天魔殿こそ呼び捨ててはどうですか?」「かっかっかっ・・・、儂のこれは癖みたいなものじゃ、勘弁してくれ」「そうなんですか?」「そうなんじゃよ」「じゃ、天魔ってこれからは呼ばせてもらうぜ?それと・・・ほら、返盃だ」「おっと、かたじけない」「じゃあ、旧地獄へと旅立った友たちに向けて乾杯でいいですか?」「それは良い考えじゃ」「では、旅立った友たちに!」「友たちに!」「「「「「乾杯!!」」」」」俺と天魔との音頭にあわせて何時の間にやら盃を構えていた天狗や河童達も同時に盃を掲げ、呷っていた。そこには友のいない悲しみではなく友の無事を願う純粋な思いが込められていた。ここで終わればただの良い話・・・しかし、それではなんとなくもの悲しいものがある。そう考えた俺はどうすれば楽しめるだろうと思いながら周囲を見渡した。隣には天魔の顔、少しはなれたところではにとりと椛が楽しそうに酒を飲んでいる。茜は色々と料理を運びながら何処と無く忙しそうだ・・・後で労っておくことにしよう。萃香は天狗たちの酒の飲み比べを始めていた。既にその周りにはピクリとも動かない天狗が何人か・・・。そして田吾作は・・・なにやってんだアレは??白狼天狗の集団の中で何か講義しているようだが・・・あいつはあんな奴だったか???そう考えていると視界の端に眩しい光がはいった。・・・・・・そうだ、こいつがいた。きっと今の俺は非常に悪い顔をしているはずだ。俺は自然と浮かび上がる笑みのままそいつに話しかけた。「お~い、黒いの~♪なにやってんだ~♪」俺が呼んだ瞬間に素晴らしい速さで黒いのは飛んできてくれた。その顔は早くも涙目だ。「だからアスカ様~、私は射命丸文で黒いのじゃありませんよ~」「しかし、黒いのも名前だろ?」「そうですけど~~~。え~~~ん」「そのくらいで泣くとは・・・情けないぞ『文』」「え~ん、だからわたしの名前は射命m・・・って、今なんて!」「そのくらいで泣くとは」「違います!その後ですよ!!」「なるほど、情けないぞだな」「ち~が~い~ま~す~!!その後!!」「くくっ、そんなに呼んでほしかったのか?『文』」「・・・も、もう一度」「黒いのに戻してやろうか?文」「い、いえいえ。そんな必要ないですよ。えぇ無いですとも。あやややや、今日は最良の日ですよ~!!」黒いの、もとい文はそう叫ぶと一気に飛び去ってしまった。最後に確認できた顔には最初の涙目が嘘のような笑顔が浮かんでいた。すると天魔が不思議そうにたずねてきた。「なんじゃアスカ殿、もうよろしいのですか?」「あぁ、もうほとぼりも冷めた頃だし。これ以上は必要ないだろ?」「アスカ殿がそうおっしゃるのなら儂からは何も言いますまい」「天魔の判断に感謝感謝だよ」「かっかっかっ・・・、やめてくだされ。擽ったくてしょうがありませんわ」「おやおや」「かっかっかっ・・・」「ははははは・・・」そうして俺と天魔は二人で笑い合った。遠くの空からは「これからは、清く!正しい!射命丸文をよろしくお願いします~~~!!」と、叫び声が聞こえてくる。よほどうれしかったのだろう。ただ、一つだけ心残りが・・・椛の作戦に引っかかってやれなかった・・・<おまけ>もふもふA「お~いおいおいおい・・・」もふもふB「もふもふA、ほら泣き止んで・・・。どうしようもないじゃない」もふもふA「だって・・・、だって~~~。びえ~~ん!!」もふもふB「ほんとに・・・どうしたものやら・・・」田吾作 「泣き声が聞こえたのでやってきたでやんす」もふもふB「田吾作さん!ちょうどよかった、助けてください」もふもふA「お~いおいおい・・・」田吾作 「・・・もふもふAはどうしたでやんすか?」もふもふB「それがですね、能力が弱くなってしまったらしいんですよ」田吾作 「それはまた・・・。一体どんな能力になったでやんすか?」もふもふA「ひくっ、ひっく・・・、『鈍器を扱う程度の能力』」田吾作 「・・・なんでまたそんなことに」もふもふB「剣の修行に合わせて盾で敵を倒す訓練をしていたらこんな事になってしまったみたいで・・・」田吾作 「そうでやすか・・・。しかしそれならまだ大丈夫だと思うでやすが?戦えない訳でもないでやしょうに?」もふもふB「それがですね・・・」もふもふA「能力名がかっこ悪いよ~、びえ~ん!!」田吾作 「・・・しょうがないでやすな。なら、この場で田吾作の能力談義を開かせてもらうでやす」もふもふB「いいんですか?」田吾作 「いいでやすよ。他にも聞きたそうな子がいるみたいでやすし宴会の席に少々無粋でやすが構わないでやしょう」もふもふB「それじゃあ・・・」もふもふ達「「「「「よろしくお願いしま~す」」」」」田吾作の能力談義(予定外講座)の風景 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。既に次に登場するのを誰にするか思いつきで決めてしまってるのがお手玉の中身。ちなみに余談ですが、スカーレット姉妹は大体この時期に生まれたらしいですね。なにやら後書になってないような気もするがそんなことは一切気にせず、次回予告はいります。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------清く!正しい!射命丸文!参上!!次回予告は私が取り仕切ります!!懐かしきは幻想郷帰ってきた日常に以前の日課を繰り返す人里によって見れば懐かしい面影がそして、増えてきた妖怪たちは・・・次 回 「もふもふAの人気に昇格を考える作者がいた」 文・・・、最後の題名はかなりおかしくないかしら? by.茜