俺の目の前には驚愕の表情を浮かべた女性の妖怪、紫がいる。いつぞやか怪我していたところを助けてやったのを切欠に知り合った妖怪だが・・・顔を見るまですっかり忘れてた。紫は紫で、いまだ驚きの表情を浮かべたまま質問をしてきた。「あなた・・・本当にアスカ?何で生きてるのよ?!」「なんか生きてたら悪いような言い方だな?」「人間が数百年も生きてたら不思議に思うわよ!何だってまだ生きてるのよ、しかも見た目も変わってないみたいだし・・・」「俺の師匠の説明はしたことがあるだろう。その修行の影響で不老になってるんだよ。お前こそなんでここに?ってかあのもふもふ狐はお前のか?!手綱は締めといてくれよ・・・」「私は幻想郷に住んで管理をしているのよ。それと藍が迷惑を掛けたのは謝るわ。でも、あなたが強引に幻想郷に入ったのが悪いのよ」「家に帰るのに良いも悪いもあるかよ・・・」「家?あなた幻想郷に住んでるの?今まで見たことないけど・・・」「それはこっちの言葉だ。俺こそお前を見たことないぞ?」なんとも不思議な話で俺も紫も同じ郷、幻想郷に住んでいながらお互いの話を一度も聞いたことが無かった。お互いに頭を捻っていると怪我をしたまま放置していた左腕が今更ながら痛み出してきた。「っつ・・・、とりあえず落ち着けるところに移動しないか?この腕の治療もしたいんだが」「それもそうね・・・。いいわ、私の家で話を聞くことにしましょう。大丈夫、私の能力を使えばほんの一瞬で辿り着けるから」「なんだそれ?どう言うこt・・・?!?!」どういう意味か紫に聞こうとした瞬間、身体が宙に浮くような浮遊感に襲われるとよく分からない空間に落とされていた。おそらくはこれが紫の能力なんだろうが・・・周りに浮かんでいる眼?がなんとも落ち着かない。そんなことを考えながら目を瞬かせてみると、次の瞬間には畳の上に立っている俺がいた。先ほどまでの空間と違い和風でなんとも落ち着く場所だ。多分ここが紫の家なのだろうが・・・、本当に一瞬で着いたな。そう考えながら呆然としているとテーブルを挟んだ先にあった空間が何かに切り裂かれるように開き、その中から紫が上半身を覗かせた。紫は呆然としている俺を見るとその顔に笑みを浮かべ、手に持った扇子で口元を隠しながらたずねてきた。「ふふふ・・・、いかがだったかしら?スキマ旅行の気分は?」「あまりいい物じゃないな。あの眼みたいな物は気分が悪くなるよ」「あらあら」やはり先ほどまでの空間は紫の能力らしい。なんとも悪趣味なやつだ・・・「っむ、何かおかしなことを考えてはいませんこと?」「そんなわけないだろう。悪趣味な能力だとは考えたがな」「それがおかしなことでしょう!」「おかしいわけがあるか。誰に聞いてもあの空間が悪趣味と言わざるえないぞ!」「・・・そうなのかしら」「そうだよ」既に全身を外に出していた紫は俺の言葉を聞くと目に見えて落ち込んでしまった。自覚が無かったのだろうか?紫はそのままあさっての方向を見て、なにやらぶつぶつと言っているがこれなら放置していても大丈夫だろう。そう判断した俺は、手持ちの薬で自分の治療を始めた。・・・青年治療中・・・ついでに紫凹み中・・・・・・「そういえばさ紫・・・あのもふもふ狐、どうしたんだ」片手で不便ではあったものの、やっとこさ治療を終えた俺は紫に気になったことをたずねてみた。ちなみに左腕に関しては当分の間動かせそうにない。絶対安静、全治2週間と言った所だろうか。紫は未だぶつぶつと言っていたが俺からの問いかけに顔をこっちに向け、「もふもふ狐って・・・藍よ。藍なら別の部屋で寝かせてるから傷が治ったら勝手に起きてくるわよ」「大丈夫なのか?」「大丈夫も何も・・・人間に殴られたぐらいで気絶するあの子も悪かったんだろうけど死ぬほどじゃないでしょ?気絶しただけみたいだったし、もう目を覚ましてるかもしれないわね」「・・・・・・すまん、死ぬかもしれん」「は?」紫は俺からの返答を聞くと何を言っているんだといった顔で此方を見返してきた。たしかに、普通の妖怪退治屋やその類の人間に殴られたぐらいならあのもふもふ狐、もとい藍なら死なないだろう。ただし・・・、「実は・・・、鬼を殴るのと同じくらいの勢いで殴った・・・」「っへ???」俺は師匠の修行とその後の生活で、弱い鬼くらいなら力技で倒せることを紫に説明した。紫は俺の言っている意味がよく分からなかったのか頭を捻っていたが、時間が経つにつれて段々と顔が青くなってきた。そして、その顔が真っ青になった時、ようやくその意味を理解したのか勢いよく立ち上がると、「っちょ!それホントなの?!藍!!ら~ん!!!」っと、叫びながら別の部屋へと走っていった。これは流石にまずいか・・・俺は紫が出て行った方向へ慌てて駆け出した。そして辿り着いた部屋には布団で寝かされている藍とそれを心配そうに揺すっている紫だった。「ちょっと、藍!大丈夫なの、ねぇ!返事をしなさい!藍!!」どうやら状況的にはあまりよろしくないらしい。実際に藍の顔色は土気色。思いっきり死相が浮かび上がっていた・・・というより今にも死にそうだった。「おい紫、そいつの状態は?」「アスカ!あんたどれだけ馬鹿力なのよ?!藍の消耗が激しすぎて体力が全然足りない状態になってるわよ!!」「つまりは体力さえ戻ればいいのか?」「大雑把に言ってしまえばその通りよ。藍は九尾の狐を式にしたもの・・・、体力さえ戻れば自己治癒で何とかなるわ」「それなら・・・」よかった、それなら何とかなる。紫の説明を聞いた俺は自分の荷物の中から滋養強壮薬、簡単に言えば体力回復の薬を取り出した。「これを飲ませろ」「・・・なによそれ。そんな濁った白だか黒だか分からないような色の薬見たことないわよ!!」「いや、見た目は確かに悪いんだが・・・とにかく飲ませろ。特製の体力回復薬だ」「・・・信じるわよ?」「素直に信じとけ」紫は俺から滋養強壮薬をホントに大丈夫かといった顔で受け取ると、そのまま藍の口へと流し込んだ。・・・こいつほんとに心配してるのか?確かに処方はあってるが何か違う気がする・・・そう俺が考えている最中もドクドクと藍の口の中に薬が流し込まれていく。そうやって、急に口の中に薬を流し込まれたことで藍の顔は苦しげに歪んだものの、薬を飲み干した辺りから顔色がよくなってきた。暫くすると、呼吸も規則正しくなり顔色も完全に元に戻っていた。紫も一安心したのか全身の力が抜けたように藍の傍に座り込んでいる。これでもう大丈夫だろう。そう考えた俺は改めて紫に声を掛けた。「どうだ?大丈夫だっただろう」「怪我の原因が何を言ってるのよ・・・。でも、礼は言っておくわ。藍を助けてくれてありがとう」「どういたしまして。ほら、さっさと立て。何時までも病人の部屋にいるもんじゃないぞ」「私は自分の能力で戻るからあなただけ先に戻ってなさい」「なるほど、了解」そうして俺は藍の眠る部屋を出て元いた部屋へと戻った。元の部屋へ戻ってみると既に紫が座って茶を飲んでいた。空間移動能力・・・うらやましい限りだ。そんな能力があれば迷子にならずにすむのに・・・。そう考えながら俺が机の向かい側に座ると紫が丁寧に頭を下げてきた。「改めて礼を言うわ、アスカ。あなたのお陰で藍は助かった。この通りよ、ありがとう」「やめてくれ。怪我をさせたのはお前の言ったとおり俺なんだからそこで礼を言われたら自作自演もいいところじゃないか」「それもそうね・・・。でも、藍に侵入者を追い出すように命令していたのは私だから結局は謝らないと。ごめんなさいね」「もう過ぎたことだ。それよりも侵入者ってどういうことだ?今まで幻想郷に住んでいたがそんなこと言われた事ないぞ?」「それは私も聞きたいことよ。幻想郷は私が管理する土地・・・いくらなんでもあなたみたいな人間がいたらすぐに見つかると思うんだけど」「ふむ・・・、少し話し合う必要があるな・・・」「そのようね」そこから始まった話し合い。俺は普段から放浪癖があり幻想郷に家を持っているもののあまり住み着いていなかったことを。紫からは最近、幻想郷での妖怪の力が落ちてきたため妖怪拡張計画を行っていることを。「妖怪拡張計画?なんだ、それは??」「アスカも知ってはいると思うけど、最近の人間はより賢く妖怪と戦うようになったわ。その結果、幻想郷での妖怪の力と数がどんどん減ってきているの」「ふむ・・・それで?」「そこで管理者として私は幻想郷の人間を減らすのではなく、郷の外にいる強い妖怪を幻想郷へ引き込むことにしたのよ。幸いと言うべきか、外の世界では妖怪の存在が段々と過去の物にされているわ。それを利用して、幻想郷に『幻と実体の境界』を張る事にしたの」「幻と実体の境界?」「えぇ、幻想郷を幻、外の世界を実体とすることで、外の世界において幻となる存在、つまりは妖怪達を自動的に幻想郷の中に引き込む結界よ」「なるほど・・・だから人間であり結界を越えた俺は侵入者扱いになったと言うことか」「そういうことね」なんとも壮大な話だ。俺が内心驚いている中、目の前の紫はのほほんとお茶を飲んでいる。郷一つを丸々蔽ってしまう結界・・・紫の力はあの頃とは比べ物にならなくなっている様だ。そう考えていると紫が話しかけてきた。「そういえば、あなたはこの後どうするの?もう家に帰るのかしら」「そうだな・・・、仲間達の顔も見たいし一度帰ることにするよ」「そう、一応私も久しぶりに会った友達なんですけど?」「っは、同じ郷に住んでる上に結界で外にも出られないんだ・・・またすぐにでも会えるだろう」「それもそうね、送っていくわ。この家は人が近寄らないように変わった場所に建っているから出るのも来るのも一苦労するのよ」「そんな辺鄙な所に作るなよ・・・」「くすくすっ・・・、そういわないで頂戴。何処まで送ればいいのかしら?」「それなら妖怪の山にある大蝦蟇の池まで頼む」「分かったわ。今度は私のほうから会いに行かせてもらうわよ。藍と一緒にね」「今度は襲わせないでくれよ」そういってお互いに笑い合うと紫の能力で大蝦蟇の池まで運んでもらった。空間移動能力・・・ほんとに便利だ・・・そんな思いを心に秘めて、俺は懐かしい家路を辿り始めた。<おまけ>あ~驚いた。まさか人間であるアスカにまた会うことになるとは思っても見なかったわ。それにあの力・・・藍はわたしの命令を忠実にこなしていた。ということは、アスカと戦っているときの藍の力はわたしに匹敵するほどだったはず・・・。それを打ち破ったということはわたしが戦ったとしても負ける可能性があるということ。一人の人間には過ぎた力ね・・・。まぁいいわ・・・あの時返せなくなったと思っていた借りがやっと返せるのだから。・・・・・・しまった。住んでいる場所を聞くのを忘れてたわ。不老という事は人里には住んでいないんでしょうけど、妖怪の山もありえないし・・・。その付近を捜すべきね。藍が元気になったら早速探させることにしましょう。恩を返し損ねた紫さんの話----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書どうも、お手玉の中身です。藍様危機一髪編、いかがでしたでしょうか?やっと古いメンバーを出すことが出来ました。その代わりに勇儀と師匠が当分の間お休みに・・・では、次回予告です----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------もふもふB「今回の次回予告は私が行います。もふもふAはとある事情でお休みです」もふもふB「帰ってきたのは懐かしの我が家」もふもふB「待っていたのは残酷な連絡」もふもふB「それでも仲間はそばにいる」もふもふB「祈るは消えた仲間のために」次 回 「もふもふAの悲しみ」 ほら、もういい加減泣き止んでもふもふA by.もふもふB