人間の友人、太郎のために一晩泣き明かした俺は自分の家に帰ることに決めた。浦島太郎の話通りとするなら竜宮城で過ごしたのは数日どころか百余年になっていそうだからだ。実際に、霧雨道具店に寄ってみると違う道具屋が建っており、聞く話によればもう随分昔に移転したとの事だ。こうなると警備兵コンビ・・・黒陽と影月に出会うことももう無いだろう。なんだかんだであの二人も友人みたいなものだっただけになんとなく悲しいものである。早く友達や仲間に会いたい、そう考えた俺の足は自然と速くなり幻想郷への道のりを辿って行った。はずだったのだが・・・「どうなってんだ、これは?」幻想郷に近づくにつれて妙に強い妖怪や妖獣と出会う。その上、なぜか幻想郷に入ることが出来ない。何か・・・、見えない力に邪魔されているかの如く。どうにも厄介事があるようにしか考えられない。とは言え、俺の家は幻想郷の妖怪の山・・・此処で引き返すわけにも行かない為、自分の能力を使いながら進んでみることにした。すると能力に違和感が感じられる。名前をつけるなら・・・『不可視の影響から逃げる程度の能力』そうして変質した自分の能力を改めて自覚し、山と森を抜けると・・・そこは懐かしい幻想郷の風景だった。よかった、今度は無事にたどり着けたようだ。何が邪魔していたのかはよく分からないがその辺りは師匠か天魔殿辺りに聞けば分かる事。俺は妖怪の山、自分の家を目指して歩き出した。「そこまでだ!侵入者!!」ま た こ れ か !!さぁ行こうと思い足を踏み出した瞬間に呼び止められるとは思っても見なかった。と言うよりもいい加減、このパターンはやめて欲しいものだ。助けて竜神様。俺はそう考えながら振り返ると、新たなる感動、衝撃と出会った。見た目は道士風の服装に頭の天辺で二股になっている、ピエロ帽のような変わった帽子をかぶっている女性だったが、その背には信じられないものがついていた。九つの黄色いもふもふだ!!何と表現すればいいのだろうか、白いもふもふは一人一つだったのにあの女性は欲張りに九つも持っている。素晴らしい、この感動を何と表現するべきなのか。あのもふもふは狐の尻尾みたいだからもふもふ狐と呼ぶことにしよう。そうやって俺が感動に打ち震えているともふもふ狐が呆れ顔で口を開いた。「ふぅ・・・、今回のあの方の計画では幻想郷に人間が入る事は織り込まれていないのよ。運が悪かったと思って・・・ここで消えて頂戴」もふもふ狐は何かを諦めたかのように呟くと、その直後に五つほどの炎の塊を周囲に浮かべ、それを此方へ放ってきた。五つの炎はどれも人の頭よりふた周りほど大きな状態で当たれば消し炭になってしまいそうだった。とは言え、黒いのに比べればなんて事はない。人の口上すら聞かない点では黒いのよりも性質が悪いが、攻撃が目に見える分には黒いのよりも遥かにぬるいと言える。どれほどの脅威であろうと眼に見えているならかわす事は容易く、どれほどの速さで飛来しようとも黒いのの風に比べればあまりに遅い。一発目と二発目は身を捻り、三、四発目はかわした後の体勢のまま当たることすらなく横を素通り。直撃しそうになった五発目は握った拳で殴り飛ばしてかき消してやった。普通に当たったのなら消し炭になるのは此方だが、法力で拳を守っていれば多少熱い程度で一瞬の接触なら何の問題も無い。そう考えながらもふもふ狐に改めて目を向けると、信じられないものを見たといった表情で呆然としていた。「嘘でしょ・・・、私の狐火を素手で殴るなんて・・・、あなた本当に人間?!」「人間以外の何に見えるってんだ!・・・狐火って事はおまえは狐の妖獣か?」「ふん、妖獣と同列にしないで貰えるかな。私はあるお方の式神。確かに狐が基になっているけど、妖獣とは比べ物にもならないわよ」「なるほど・・・、つまりは比べ物にならないほど弱いと」「何でそうなるのよ?!強いわよ!私は!!」「そうなのか?」「何で疑問系?!そうなのよ!!」もふもふ狐は俺との会話が気に入らなかったのか、怒気を体から発しながら新しい狐火を作り出し再び俺に放ってきた。その数は先ほどの倍、十はあるだろう。しかし、数が増えたところで結果が変わるわけでもなく黒いのの風に比べれば本当にぬるい攻撃だった。当たれば消し炭になるんだろうが軌道の読める攻撃がかわせないわけもなく、準備していれば十分に迎撃できる程度の物だ。とは言うものの、絶え間なく放ってくるものだから近づくことが出来ない。黒いのとの戦いでは投げる物があったからいいが、ここには投げれるものなんて何もなかった。さてどうしたものかと考え始めた時、もふもふ狐に変化があった。「っく!まさか人間に私の狐火がこれほどかわされるとは思っても見なかった」「単純にお前の攻撃が鈍間なだけだろ?」「っな?!こしゃくな人間め!それならこれでどうだー!!」もふもふ狐は攻撃方法を変えたのか狐火を小さくしその代わりに数をやたらと増やして飛ばしてきた。なんとなく散弾銃をイメージできる。しかし、これはチャンスだ。あの程度の大きさと威力なら・・・多少当たっても痛いぐらいですむ。俺は自分の考えを信じて正面から狐火の雨の中に突撃した。もふもふ狐との距離は10メートルほど・・・そのくらいは走ってしまえば一瞬なのだが・・・、この狐火予想以上の威力だ。体に接触した狐火はその場で小爆発を起こし他の狐火を誘爆していく。それでも今更引き返せる分けも無く爆発の中を突き進んだ。そして爆炎を抜けた先には、もふもふ狐の真正面!!爆炎で多少の傷を負ったものの、この程度ならまだいける。もふもふ狐は俺が目の前に出たことに驚いているのか唖然とした表情で固まってしまっている。爆炎から突き抜けた低い姿勢のまま俺は拳を握り締めると、もふもふ狐へ叩き込んだ。しかし、もふもふ狐は抉りこまれた拳に苦しそうな表情を作りながらもその手、爪を振り上げ俺の首筋めがけて叩き込んできた。「死ね!」「冗談!」鮮血が舞う。とっさに首を庇うように殴ったほうとは逆の腕、左腕で防御をしたものの、もふもふ狐の爪は鋭く、首を狩れずともしっかり人の腕を切り裂いていった。もふもふ狐は攻撃の失敗から、俺は痛む腕を庇うため、お互いにはじかれる様に後ろへはね跳んだ。冗談ではない、黒いのの時とは違い手加減無しで殴り、更には完璧に近い当たりだったと言うのに反撃するほどの余力を残すとは完全に予想外だった。見た目こそ肉弾戦向きに見えない道士風の格好だが・・・耐久力はまったくの別物だったらしい。俺は離れた状態のまま苦しそうにしているもふもふ狐へと悪態をついた。「っち?!どうゆう体してんだよおまえは!しっかりと体にめり込んでただろうが!!」「ごほっ!それは私の言葉だこの化け物が!!幻術に惑わされずに私に向かってきたかと思うとアレほどの威力の拳を・・・おまえ本当に人間か?!」「うっせ!俺はまだ人間やめたつもり無いぞ。もふもふ狐が!!」「もふも・・・って!・・・人間・・・殺してやるぞ!!!」「やってみろ!もふもふが!!」俺は宣言するやもふもふ狐に向かって駆け出した。もふもふ狐も俺のもふもふ宣言に怒ったのか憤怒の表情を浮かべ、後退しながら新しい狐火を次々にはなってきた。狐火は俺を狙うものから避けた先を予測したもの、まったく当たるはずもないばら撒かれたものまである。狐火の大きさは最初のものに戻ったが、飛んでくる早さが全然違った。耳元で唸りを上げて通り過ぎていく狐火の音を聞きながら、その狐火の余熱に肌を焼かれながら、ひたすらに前へ前へと走り続けた。もふもふ狐の耐久力が予想以上にあった上に左腕からは血が出続けている。長期戦をするには条件がわるすぎた。迫り来る炎から時には伏せ、時には身を翻しながらかわし前へと走り進んだ。幾つもの炎をかわしきり、ようやく視界が開けたところに飛び込んできたのは、先ほどと同じもふもふ狐の信じられないといった顔だった。先ほどの焼き回しであるかのように俺は拳を握り締めもふもふ狐へと叩き込んだ。もふもふ狐も今度は呆けていなかったのか両腕を交差させて防ぎに入った。だが、単純に力や速さでは俺のほうが上だったらしくもふもふ狐は防ぎながらも痛みに耐えるような顔に変わった。ここで離れてしまったら、短期決戦はもう無理だ。そう考えた俺は、もふもふ狐をその場から逃がさないように拳と足による打撃を重ねていった。もふもふ狐も離れることを諦めたのか爪を構え迎撃を仕掛けてきた。一発殴り込めばその隙に爪が顔面をえぐろうと迫り来る。顔をそむけてかわすと同時に蹴りを放つと蹴りを受け止めながら軸足を払うように蹴り返してくる。払われないように飛び上がりながら蹴りを放てば身をかがめてかわした後に爪を全力で振るってくる。そのまま数分ほど攻防をお互いに繰り返し続けただろうか。俺の体はもふもふ狐の爪によっていたるところから血を流しているものの、左腕に比べれば問題ない程度。もふもふ狐はそのダメージを体に溜め込んでいるのか足元がかなりおぼつかなくなっていた。耐久力の違いからより多くの攻撃を当てなければいけなかったがやっとここまでダメージを与えることが出来た。ここまできたら、しっかりとトドメの一発を叩き込んでやる。「はぁ、はぁ、ふぅ・・・、つぶれる覚悟はいいか?まぁ答えは聞いてないけどな・・・」「はぁはぁはぁ・・・っつ、本当に人間なのか・・・」「人間だよ、てめぇを倒せる程度のな!!」俺は最後の言葉を言い放つと、以前黒いのに叩き込んだ時と同じように震脚を踏みしめ、もふもふ狐の腹へと抉るように拳を叩き込んだ。「ぶっつぶれろ!!」「っっっぐ!!!」もふもふ狐は殴り飛ばされるとそのまま後ろへ飛んで行き、2度、3度バウンドをして大地に沈んだ。その様を最後まで見ていた俺はもふもふ狐がもう動きそうに無いと思いその場に尻餅をつくように座り込んだ。「っっっはぁ~~~!死ぬかと思った・・・」これほどに強い妖獣(本人は式神と言っていたが)と闘ったのはこれが初めてだった。幻想郷に近づくにつれ段々と力の強い妖怪や妖獣がやたら喧嘩を売ってきたが、もふもふ狐はその中でダントツの強さだった。ただ、その闘い方が強さと一致しないような気がした。まるで誰かの力を借りて闘っているようなそんな闘い方だ。「ったく・・・、どうなってるんだ一体?」「それは私のほうが聞きたいことね」「んな?!」即座に飛び起きて声のする方に身構えた。さっきまで俺は一人だったはずで独り言を言っていたのに、それに返事を返す奴がいるはずがない。身構えた方向には誰もおらず、声の主を探して辺りを見渡すと・・・いた!もふもふ狐のそばで傘を差している存在がいた。「大丈夫かしら?藍」「紫様・・・申し訳ありません・・・お力を貸していただいたのに・・・」「死んでないだけで十分よ、ゆっくり休みなさい。後は私が片をつけるから」どうやら休むには早すぎるようだ。声の様子から女性のようではあるが傘のせいで顔を見ることが出来ない・・・おそらく相手からも此方の顔を見ることはできていないだろう。それにしても、幻想郷の傘を差した女性はみんな危ない存在なのか??そんなどうでもいい事を考えていると、女性から声を掛けられた。「こんにちは、人間さん。うちの藍が世話になったようね」「いやいやそれほどでも。お礼の品は特にいらないよ」「それじゃあ私の気が治まりませんわ。是非お礼を受け取ってください」その言葉と共に傘を上に傾けその顔を出してきたのだが、相手はこちらを確認するとその顔を驚愕に染め上げた。そういう俺もその顔を見て驚かずに入られなかった。なんせ相手が・・・「紫!」「アスカ!」いつぞやかの助けた妖怪だったのだから。<おまけ>「行ってしまったでやすな~」「そうだね~」「萃香様も行ってしまうでやすか?」「わたしは・・・わたしはもう少しアスカを待つよ」「それはよかったでやす」「どうしてだい」「アスカ様は寂しがりでやすから、帰ったときに仲間や友達がいなくなってると悲しむでやすよ」「確かに、その通りだ」「羅豪様に続き勇儀様も地獄へ行ってしまった今では他の鬼の方々も行方が知れない状態でやす。アスカ様はきっと寂しがるでやすよ」「そうだね・・・。それでも今生の別れじゃないんだし行きてればまた会える!それを伝えるためにもわたしはもう少し待つことにするよ・・・」「わかったでやす。なら宴会の準備をしとくでやすよ」「ん?どうしてだい??」「なんとなく・・・、なんとなくでやすが、アスカ様が帰ってくる。そんな気がするんでやすよ」「そうかい・・・」「そうなんでやす・・・」鬼と河童の友を待つ会話----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。今回の話はいかがでしたでしょうか?3度目の戦闘描写・・・そろそろまともになってきているとは思うものの、今一自己評価が下せないお手玉の中身です。今回の話でスキマさんとの再会を目指しました。むしろこの辺りで出しとかないともう出すことが出来そうになかった。では、次回予告をお願いします。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------もふもふA「今回の次回予告は」もふもふB「わたし達もふもふが行います!」もふもふA「毎回、帰るたびに騒動が起きるアスカ様」もふもふB「面倒なことではあるけれど」もふもふA「必ずしも悪いことばかりでない」もふもふB「時には古い知り合いとの再会も」次 回 「これが本当の再会編」 そうでやす、それが次回予告でやすよ