「亀の鈍間~」「鈍足亀~」「亀覇目波~」なんだあれ?俺は霧雨道具店から新しいの薬剤調合用の道具を仕入れると、そのまま日本各地を渡り歩くような旅を再開した。そんなある日、丹後と呼ばれる国に寄った俺の目の前に亀を囲んでいじめる子供の集団が眼に入った。なんとも子供はむごいものである。ここは止めるところだろうと考えた俺はそのまま子供の集団に近づいていった。「「おい!そこの子供達」」「ん?」「なんだよ?」「兄ちゃん達??」「「ん??」」自分の同じタイミングで声を掛けた奴がいる。声のした方を見てみると、俺と同じように驚いた表情をしている男が一人。どうやら同じ考えだったようで、俺と同時に声を掛けたようだ。まったく気付かなかった。俺が驚いたまま呆けていると、男は子供達に向き直り注意を始めた。「こらこら子供達、亀をいじめてはいけないよ」「いじめてんじゃないよ」「遊んでるんだよ」「だよ~」「それでもだよ。ほら、亀をこちらに渡しなさい」「「「やだ~~~」」」「困ったな~・・・・・・」どうやら子供達は亀を放す気、もといいじめるのを止める気は無いようだ。「(やだじゃねぇだろ・・・。餓鬼共が・・・)」俺がそうやって考えながら、さてどうしたものかと悩んでいると、子供の相手をしていた男が自分の竹魚籠を見せながら再び口を開いた。「それなら俺の釣ってきたこの魚と交換でどうだ?さっき釣って来たばかりだからうまいぞ~」「う~ん・・・」「それなら・・・」「いいよ~」「そうか、それはよかった。それじゃ・・・はい、交換だ」「「「わ~い♪」」」子供達は魚を男から受け取るとそのまま走り去ってしまった。俺が悩んでいる間に解決するとは・・・できるなこの男。それはともかくとして・・・「おいあんた。いいのか?」「ん?なにがですか??」「いや、なにがですか。じゃなくて、さっきの魚・・・釣ってきたって事は今日の晩飯か何かじゃなかったのか?」「あぁ、そのことですか。別に構いませんよ、それでいじめられていた亀を助けることが出来るんですから」「あんたな~・・・」男は俺の質問に対して亀を助けたことへの満足そうな笑顔で答えた。呆れたお人よしだ。世の中、良い人間や悪い人間は当然いるがここまでお人よしなのは珍しい。そして、それを心配する俺もまたお人よしだ。俺は内心、自分に対しても呆れながら自分の荷物を男へ差し出した。「はぁ~・・・、それじゃあこれやるよ」「これは、干し肉ですか?何で??」「なに、俺もそこの亀を助けようと思ってたからな。それに干し肉はまだあるし、同じように亀を助けようとしたあんたに渡しても問題ないだろう?」「いえ、こんな・・・受け取れませんよ」「いいから受け取っておけ。亀を先に助けてくれた俺からの礼だと思って」「はぁ・・・、それでも受け取れません!!声を掛けたのは同時でしたし」「頑固だな・・・、それならこうしよう。俺は今晩泊まる宿を探しているんだが、あんたの家に止めてくれないか?その礼がこの干し肉だ」「どっちが頑固なんですか・・・、分かりました。家まで案内しますから着いてきてください。っとその前に、僕は『太郎』と言います。あなたは?」「俺はアスカだ。今夜一晩よろしく頼むぜ」「はい。っと、その前に亀を海に逃がして起きましょう。ほら、もう捕まるんじゃないよ。」そう言って太郎は亀を海へと返した。太郎と俺は亀が海へもぐり姿を消すのを見送ると共に太郎の家へと歩き出した。その後、俺は太郎の案内で家へと招かれた。太郎の母は子の親にしてこの子ありと言いたくなるような善人で、太郎の話を聞くとよい事をしたねと太郎をほめた。その光景は妖怪の山で過ごした仲間との日々を思い出させてくれた。そして次の日・・・俺は太郎と共に海へ釣りに来ていた。俺の保存食の中に干し肉しかない事を太郎に伝えたところ、一緒に釣りをして干し魚にしないかと誘われたのでつれて来てもらったのである。そうしてつれて来てもらった海岸で釣り糸を垂らすと太郎が口を開いた。「アスカさん、この辺は穴場になってますから魚もよく釣れるはずですよ」「さすが地元漁師。余所の人間が知らない釣り場をよく知ってるな」「ははは、それほどでもありませんよ」「いやいや、十分に自慢していいことだぞ」「ありがとうございます。っと、アスカさん!竿、引いてますよ!!」「なに?!ほんとだ!」そのまま俺と太郎、合わせて10尾ほど釣り上げた頃だろうか・・・。海から何か・・・ではなく亀が2匹やってきた。なんだこの亀はと俺と太郎が顔を合わせて不思議に思っていると亀が口を開いて喋り始めた。「ふむ・・・、あなた方が太郎殿とアスカ殿ですかな?」「「そうですが(だが)・・・」」「儂は昨日助けていただいた亀の母の兄の父親の妹の友人の爺ですじゃ」「まるっきり他人(他亀)じゃないか・・・」「だよね・・・」「ごほん、それはどうでも良いとしまして、件の亀を助けていただいたお礼に我らが姫があなた方を城へ招きたいとの言伝を預かって来ましての、いかかじゃろうか?これより我らと共に来てはくださらんか?」「はぁ・・・、どうしようか?」「実際に助けたのは太郎だし、お前が決めればいいよ」「う~ん、よし。分かりました。そういう事でしたらお招きにあずからせてもらいます」「ほっほっほ・・・、それはよかった。でしたら太郎殿は儂の、アスカ殿はそちらの亀の背に乗ってくだされ。儂等の背に乗っておれば城へ行くまで安全に行けますゆえに」「分かりました」「おう」そうして俺達は亀の背に乗って海へ潜って行った。水圧だとか呼吸だとか色々と質問してみたが、亀から「儂等の背中ですからじゃ」の一言で全て片付けられてしまった。亀の背中、もとい甲羅は素晴らしいものだ・・・今度、田吾作の甲羅についても聞いてみることにしよう。周囲か明るい青から暗い青へ、そこから真っ暗闇になっても太郎たちは見える不思議。それから更に潜っていくと、この真っ暗闇の世界に不似合いな明るい場所が見えてきた。どうやら目的地の城へ着いたらしい。「ようこそお客人。ここが儂等の城、『竜宮城』じゃ」「(竜宮城?・・・聞いたことがある気がしたが、どこだったかな?・・・まぁ、思い出せないならどうでもいいか)」「ん?アスカさん、どうかしましたか」「いや、なんでもない」「ほっほっほっ、どうですじゃ、竜宮城は。素晴らしいものでしょう」「そうですねお爺さん」「たしかに」「ほっほっほっほっほっ・・・」そして到着したのは竜宮城。近くに来てみてよく分かったが、竜の城だけあって立派なものだった。そして、亀に連れられるまま中に入ってみると老舗旅館のように女性が一列に並んでおり、こちらを確認するやいっせいに頭を下げてきた。「「「「「ようこそ、竜宮城へ」」」」」その対応に俺と太郎が驚いていると、列の真ん中にいた女性が一歩前に出て笑顔を浮かべながら歓迎の言葉をつむいだ。「ようこそいらっしゃいました。太郎様、アスカ様、この度は亀を助けていただき本当にありがとうございます。つきましてはお礼に、この竜宮へお招きさせていただいた次第です。申し送れました、私はこの竜宮の管理を任されています『乙姫』と申します」「・・・あ、ありがとうございます。僕が太郎です」「一応名乗らせてもらうとアスカだ。亀を助けたのはどっちかと言えば太郎のほうだから俺はおまけだな」「っちょ?!アスカ君」「いえいえ、アスカ様も私共にとっては大事なお客様。精一杯歓迎させていただきます」「あ~・・・、どうも」「さて、何時までもこんな所でお二人を立たせておくのも失礼ですね。どうぞ奥の方へいらっしゃって下さい。歓迎の宴の席が整っております」そうやって俺と太郎は、乙姫に促がされるままに奥の座敷へ上がり宴を楽しませてもらうことになった。それからはまさに、此処こそが楽園かと言うような毎日だった。3食出てくる食事は基本が海鮮料理だったがうまい。宴の席で見せられる女官(竜宮の女性達は女官と言う立場らしい)達の踊りは見事の一言に尽きる。竜宮内に設置された四季の間はそれぞれが各季節を彩る素晴らしい広間。そして何より、旅をしている間に何度と無く現れた雑魚妖怪が出てこない・・・これが一番素晴らしかった。また、乙姫から聞いた話によると竜宮城とはこの一つだけではなく他にも用意されておりそこに住む女官が管理しているとのことだ。そもそも、竜宮城自体が竜神の休息の場らしくめったに帰ってこない竜神がいない間は管理者、つまりは女官たちの自由にしていいそうだ。竜神様・・・ホントにいたんだ。祈っていたのも存外に無駄じゃなかったんだな。そんなある日だ、「母さん・・・どうしてるかな・・・」太郎が何時からか遠くを見るような目をしていると思ったらこんなことを言い出した。不老である俺は友達も基本、妖怪などだったため時間の心配はしていなかったが、普通の人間である太郎はその限りではなかった。その一言が皮切りになったのか、太郎はその日のうちに乙姫へ自分が家へと帰る旨を伝えた。「すみません乙姫様、折角招いて頂けたというのに・・・。家に残してきた母が心配なので、そろそろお暇しようと思います」「そうですか・・・、残念です。アスカ様も・・・お帰りになられるのですか?」太郎は問題なく帰れそうだが乙姫のあの残念そうな顔を見せられては流石に俺まで帰ることは出来そうにない。俺は内心ため息を吐きつつ、顔では笑顔を浮かべて答えた。「いえ、俺はもう少しお邪魔させてもらいます。太郎、お袋さんによろしく伝えてくれよ」「分かったよアスカ君。陸に戻ったら家によってくれよ?また歓迎するからさ」「おう、楽しみにしてるよ。それじゃあ乙姫さん、太郎を送ってくれ」「はい、太郎様此方へどうぞ。アスカ様は、自由にお寛ぎください」そうして太郎は乙姫に案内されて竜宮城の外へと去って行き、俺はそのまま竜宮でしばらくの休息を楽しむのだった。<おまけ>もふもふA「やった・・・、やったぞ~~~!!」もふもふB「おめでとう、もふもふA」もふもふA「ありがとう、もふもふB」田吾作 「お祝い事があると聞いてきやした」もふもふA・B「「田吾作さん」」田吾作 「なにやら嬉しそうでやすが、何かお祝い事でも?」もふもふB「そうなんです」もふもふA「とうとう念願の能力、『剣を扱う程度の能力』を手に入れたんだよ♪」田吾作 「ほほぉ、そいつはおめでとうでやんす」もふもふA「ありがとう」田吾作 「となると次は能力を成長させるでやすか?」もふもふA「能力の成長??」もふもふB「どういう意味なんですか田吾作さん」田吾作 「そういえば説明してやせんでしたな・・・、良い機会でやすからここで説明するでやす」もふもふA・B「「お願いします」」田吾作 「今回の説明は後天性能力の成長に関してでやす」もふもふA「後天性能力って言うと・・・」もふもふB「さっきもふもふAが手に入れたみたいな努力で手に入れる能力のことですよね?」田吾作 「そうでやす。後天性能力は先天性能力と違い修行を積めばどんどん手に入れることが出来るでやす。 もちろんある程度の才能は必要でやすが」もふもふA・B「「ふむふむ」」田吾作 「それゆえに、後天性能力はその後、更に修行を積むことで先天性能力の鬼才型のように発展させることが出来るでやす。 これを秀才型と呼んでいるでやす」もふもふA「秀才型・・・」もふもふB「なんで鬼才型じゃないんですか?」田吾作 「先天性と後天性の違いもありやすが、一番の違いは修行の仕方で能力がまったく違うものになるでやす」もふもふA・B「「えぇ~~~!!」」田吾作 「例えば『剣を扱う程度の能力』が強くなると『剣術を扱う程度の能力』になる可能性もありやすが、 別の可能性として『刃物を扱う程度の能力』になる可能性もあるでやす」もふもふA「『剣術を扱う程度の能力』・・・」もふもふB「『刃物を扱う程度の能力』・・・どう違うんですか?」田吾作 「その名の通りの違いでやす。剣術を使えるようになるか、それとも剣だけでなく斧や槍などの刃物を扱えるようになるかの違いでやすな」もふもふB「なるほど・・・」田吾作 「注意しないといけないのは間違った修行をすると逆に弱くなってしまったり強くなっても条件が限定されてしまうでやす」もふもふA「っえ?!弱くなっちゃうの!!」田吾作 「でやすよ。弱くなった場合は『剣を少し扱える程度の能力』、 条件が限定された場合は『逆境で剣をうまく扱える程度の能力』といったところでやすな」もふもふB「あれ?田吾作さん。条件が限定された場合は能力が強くなってるようにも見えるんだけど・・・」田吾作 「ある意味正しいでやすよ。条件の限定、使う場面が決められてしまってるせいでそこにだけ集中的に力が集まる結果でやす。 その代わりに他の場面では同じ能力は使うことが出来なくなってるでやすがね」もふもふA・B「「なるほど~」」田吾作 「付け加えるなら秀才型は単純に修行する以外にも何か衝撃的なことに出くわした場合にもなる可能性があるでやす」もふもふB「衝撃的なことですか?」田吾作 「でやす。例えば自分の能力と似た能力を持った存在に命を助けてもらった時、その存在に憧れて似たような力に発展する可能性があるでやす」もふもふA「へ~」田吾作 「他には、大事な存在、家族や友達が死んだ時なんかにもその原因を排除しようと能力が変わる可能性があるでやすな」もふもふB「そうなんですか」田吾作 「でやすよ。だから能力を鍛える時には注意しながらどんな能力にしたいかしっかり考えるでやすよ」もふもふA・B「「は~い」」田吾作の能力談義『上つ弓張編』より抜粋----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。正直、今回の話は大体の人が結末を予想できる内容じゃないかと考えています。予想通りになると・・・なんともシリアスな展開にorzお手玉の中身は悲しいシリアスは嫌いなのです。まて、次回!!っと言うわけで次回予告を彼に任せます。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------今回の予告は僕がさせてもらうよ僕が陸に帰った後も竜宮での生活を楽しんだアスカ君でも、どんなに楽しくとも終わる時は必ず来るそうして陸に帰ったアスカ君が知ることは・・・次 回 「アスカ君・・・また、会えると良いね」 ・・・こんな流れでいいんだろうか by.kami----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------