俺は今鬼と対峙している。最初は頭に角のアクセサリーを付けている変な趣味を持った強面のおっさんだと思っていた。次は衆道の気がある変態だと思った。それも違う、むしろその方がましだったかもしれない。宣言されて始めて分かった。どうやっても逃げれない、どうあがいても勝つことはできない、どれほどもがこうとも抵抗できない。そんな、絶対的な存在が目の前にいた。そういえばさっきまで聞こえていた鳥の鳴き声が今はもう聞こえない。「さて、おまえを食らう前に最初の質問に戻るか」「なぜおまえはこんなところで縛られているんだ」どんな意味があるかはわからないが鬼はそう尋ねてきた。俺は何とか生き延びようとどもりながらも必死に返事をした。「そ、それにここ答えればばく食わ食わないでくれるのか」「そんな馬鹿な、この質問は暇つぶしだ答えようと答えまいとおまえを食うことに変わりない」冗談ではなかった、死にたくなかった、何度も横たわっている母の姿を幻視しながら俺はどうすれば生き残れるか考え続けた。そんな俺の気も知らず、鬼はいいことを思いついたといわんばかりの顔で口を開いた。「しかしだ、もしおまえが俺様と勝負をして勝つことができれば食わんでおいてやらんことも無い」なん・・・だと・・・!!「ほ、本当か!おおまえと勝負して勝て勝てれば食われずに済むのか!!」「本当だとも」俺は突然提案された生き残りの為の僅かな希望を目の前の鬼に再度確認をした。「う、嘘じゃないよな!本当に助けてくれるんだな!」「鬼は嘘が嫌いだ!そうさな・・・おまえが勝てたときにはついで俺様にできることで願いをかなえてやるよ」鬼は「勝てるわけ無いがな」と笑いながら答えてくれた。それはそうだろうと考えてしまった。力比べは当然のこと俺みたいな餓鬼が鬼と知恵比べできるわけも無い、なんせ実年齢は5歳児だからな。ただし、前世の記憶を足せばそれは違ってくる。「それなら、勝負方法はこっちで決めてもいいか」「いいともいいとも、どんな勝負にするんだ?力比べか?知恵比べか?」「勝負方法は知恵比べで、内容は数取りと言う遊びだ」「数取り?なんだそれは?」俺が勝負方法を提示すると鬼は聞いたことの無い勝負方法に首を捻った。「なんだか知らんが俺様が知らん方法ではどうしようもないぞ」「あぁ、だからこれからやり方を教える」勝負の説明のために鬼から小石を21個集めてきてもらった。「それで、この小石でどうするんだ?ぶつけ合いでもするのか?」「違う違う、まぁ少し聞いてくれ」鬼が見当違いの事を始めようとするのを止め、やり方を説明する。流石と言うべきか鬼は一度説明しただけでやり方を覚えてしまった。「ふむ、なるほどな・・・つまりこの21個の小石を交互に取りあい最後の石を取ったほうの負けだと」「あぁ、その通り」「そして一度に取れる石は1~3個までか・・・ふむ、なるほど」鬼はルールを確認しなおしているのか顔を伏せている。実はこの遊び、俺が前世で覚えている中で数少ない必勝の遊びである。とは言うものの、そのことを僅かでも表情に出したりすればばれてしまう可能性がある。そういう意味では目の前の鬼が放つ気迫で萎縮している俺はどうやっても笑顔なんか作れないだろうがな。そうこうしている内に鬼は大きくうなずき、「では、勝負を始めるか」っと、こちらに告げてきた。「じじゃあ、しょ勝負方法はここっちで決めたから鬼さんが先でいいよ」「鬼さんではなく羅豪と呼ぶがいい、呼べるのは短い間だけだろうがな俺様は3だ!」どうやら鬼は『羅豪』と言う名のようだ。いい加減鬼の気迫に感覚が麻痺してきたのか、頭がクラクラとするものの何とか返事を返す。「分かったよ、羅豪さん、1です」「おいおい、たった1かよ」羅豪は1しか取らなかった俺を小馬鹿にするがこれでいい。むしろ知っている必勝法ではこれ以外はダメだから。「ふん、俺様はもう一度3だ!」「なら1です」「また1か・・・なら俺様も1だ」「今度は3」「ほう1以外も言えるではないか、再び3だ!」「1です」羅豪との勝負は続く・・・俺がミスしない限りは最早負けは無いとは言え油断はできない。口を滑らすこともできない、口を滑らして余計な数字を言えばそれこそ命が無いから。「ふん、2だ」だからこの最後の宣言で一気に力が抜けた。「2です!!」「っむ、1取りで俺様の負けか」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」沈黙が痛い、勝負には勝てたものの俯いて小刻みに震えている鬼が怖い。そう思った瞬間に鬼が顔を勢いよくあげ、「がぁっはっはっはっはっはっはっはっは!!」勢いよく笑い始めた。羅豪が顔をあげた瞬間、びっくりした俺はそのまま後ろに倒れてしまい、そのまま大笑いをする羅豪をぼんやりと眺めながら笑い声をBGMに意識を暗転させた。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------とうとう4回目になった後書+追記お手玉の中身です。感想掲示板に書き込みがあった・・・・・・・・・感激です。感激のあまり、勢いで4話目を作ってしまいました。これからも楽しんでもらえると嬉しいです。jannquさんありがとうです。完全に見逃してました、むしろ命の瀬戸際にこんなミスさせるなという話ですねorz