拝啓、鍵山雛様。厄が満ち溢れてます。助けてください。拝啓、リリー・ホワイト様あなたが災厄ではなかったのですね。怯えてすみません。目の前に現れた厄介事、もとい黒い塊を見ながら手紙に書くようなことを俺は考えていた。空には月と星が輝き、町の明かりも届くこの五条大橋。だというのに橋の中心はそこだけ光が届かないかのように真っ黒に塗りつぶされていた。そして中からは再び同じ問いかけが・・・。「あなたは食べられる人間ね」どうしよう、人食系の妖怪だとは思うがこんな真っ黒な奴聞いたこと無い。そもそも、黒い塊がどうやって食べるんだろう?食われるのはイヤだが見てみたくもある。すると、再び声が聞こえた。「あなたは食べられる人間ね」・・・なんだろう、何かがおかしい。「あなたは食べられる人間ね」もしかしてこいつ・・・「あなたは食べられる人間ね」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」人のことに気付いてね~~~~~!!さっきから同じ事しか言わないと思ってたら、どうにも人のことに気付いてないようだ。「あなたは食べられる人間ね」しつこっ!!びびって損した!というよりも何時からここでそんな事言ってるんだよ、こいつは?!「あなたは食べられる人間ね」だめだ、本当に腹が立ってきた。そう考えた俺は近くにあった石を拾うと、「あなたは食べられる「しつけ~~~~!!」へぶぅ?!」全力で投げつけた。黒い塊からは痛そうな声が響くと何かが倒れる音がした。するとどうだろう、黒い塊が段々と薄くなって消え始めたではないか。塊が消えると中からは黄色い髪に黒い服を着た少女が出てきた。少女は頭にたんこぶを作って目を回している。「これが・・・正体か?」呟いては見るものの、その問いに答える者は無く、仕方が無いので少女を橋の下まで移動させた。流石にあのまま放置すると俺は完全に通り魔になってしまうし・・・。・・・青年運送中・・・・・・そうして橋の下で手当てをしてやり目覚めを待つこと数分。「う、う~ん」とうとう目覚めたようだ。念のために田吾作製、鬼も縛れる縄で捕まえているから大丈夫だろう。「こ、ここは・・・私のご飯は??」「・・・ここにはないぞ~」「あっ、私のご飯?!」ご飯扱いされた・・・師匠以来の扱いだ・・・うれしくもない。「ご飯違うから」「ご飯じゃない・・・あんたは人間?」「人間だが?」「それならご飯だ♪」人=ご飯・・・師匠より性質が悪かった。俺が呆れていると少女はもぞもぞとしながら口を開いてきた。「ん?この縄、邪魔ね・・・。ねぇ、解いてくれない?ご飯食べたいから」「ちなみにご飯とは?」「あんた」「誰が解くか!このあほが~!!」まさか助けを要求された上で、ご飯扱いを受けるとは思ってなかった。さてはて、どうしたものか・・・ん?俺が悩んでるのを見かねたのか、少女は更に口を開いた。「わかった。あんたはご飯じゃないから縄を解いて」「・・・解いたらまず何をする?」「お腹一杯にする」「・・・なにで?」「あんたで」「・・・・・・・・・・・・・・・・」その場で痛む頭を抱えた俺を誰が責めれようか。「ねぇ~頭抱えてないで、解いてよ~」ここに居た。「うっさいわ。このアホが!」「っむ!私はアホじゃない!!『ルーミア』だよ」「名前のことじゃねぇ~~~!!」突っ込んでしまったがこのまま会話を続けても疲れるだけだろう。どうしたものかと考えていると少女、もといルーミアが再び口を開いた。「わかったよ~。食べないから縄を解いてぇ~」「・・・ホントか?」「ほんとほんと」「・・・俺は」「ご飯じゃない人間」「・・・・・・・・・念のために聞いておくが能力は?」「『闇を操る程度の能力』」最後の質問はダメ元で聞いたら普通に返された。解った・・・この子はアホとかそんな問題の前に・・・「足りない子だったのか・・・」「ん?どうしたの??」「いや、なんでもない・・・。俺の名前はアスカ、ご飯じゃないからあしからず。今解いてやるからな」「わは~♪」その言葉を聴くとルーミアは花が咲いたような笑顔を見せてくれた。正直、あんな黒い塊でいるより普通に近づいたほうが人間を捕まえられるんじゃないだろうか?そう考えながらルーミアをロープから開放する。「アスカ~、ありがとう~」「・・・そこでお礼を言われるとなんだか罪悪感が・・・」「そーなのかー」ルーミアは何がそんなにうれしいのか終始笑顔のままである。「ところでルーミア。橋の上で何やってたんだ?」「お腹がすいて倒れたの、そしたら太陽が出てきたから能力を使ってご飯を待ってた。しばらくするとご飯の来る気配がしたから立って食べられるか聞いてみたけど、どのご飯も食べれないみたいだったの」そう言い終るとルーミアは再びその場に突っ伏した。「お腹すいた~~~」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」本当に足りない子だ・・・へばってたれている姿は垂れるーみあと呼ぶしかない。仕方がない・・・「これ、食うか?」「食べる!!」俺が鞄の中から干し肉を出して垂れるーみあに見せると、素晴らしい反応速度で垂れるーみあが跳ね起き、ルーミアへ進化した。なんて分かりやすい反応だろう。「その代わり、俺はご飯じゃないからな?」「うんうんうんうん・・・」ルーミアは凄い勢いで頭を縦に振り続けている。俺がそのまま干し肉を渡すと勢いよく食べ始めた。この子は人を疑うことを知らないのだろうか・・・、いい意味で素直、悪い意味ならホントに足りない子だ・・・。・・・ルーミア食事中・・・・・・「そういえばルーミア」干し肉を食べ終わったルーミアへ俺は気になっていた事を聞いてみた。「闇を操る程度って何が出来るんだ?」「??闇が操れるんだよ?」「それはわかるよ。そうじゃなくて闇を操って何が出来るかって事だよ」「??????????」本気でわかってないようだ。ルーミアは困ったような顔で首をかしげながら必死に悩んでいる。俺は例え話を出して聞きなおすことにした。「あ~・・・、つまりだ。闇を操って人を閉じ込めるとか、もしくは闇で攻撃するとか・・・。そんなことは出来ないのか?」「全然出来ないよ。むしろ真っ暗で見えなくなる」「誰が?」「私が」「おまえがかよ?!」ルーミアはとても自慢気に答えた。なんなんだこいつは・・・あまりにも頭が足らな過ぎるぞ。今までどうやって生きてきたんだ?と言うかそんなの自慢することなのか??「おまえ・・・今までどうやってご飯取ってたんだ?」「木の実とか畑の野菜に兎と亀。後は、能力を使ってないときに人間を捕まえてご飯にしてた♪」「能力使わないのかよ?!」ツッコミどころがありすぎる・・・。木の実に野菜はまあ良しとしよう。でも亀って何さ??兎だからなのか?この頃にはもうこの童話あったっけ???その上、人間捕まえるのに能力無しって・・・、橋の上でおまえなにやってたよ?!?!「わは~」「・・・もういいや。もう疲れたよ田吾作」「あれ?」「何でだろうな・・・。世の中こんなはずじゃなかった事ばかりだ」「綺麗な髪飾りだ~♪」「なぁ師匠、もう、ゴールしてもいいよな?」「ほしいな~」「ホントど・・・ってなんだ?」俺が嘆いていると袖を引っ張る感触があったのでそちらへ顔を向けてみた。するとルーミアが赤い布切れを指差しながら、「ねぇねぇ、これ貰ってもいい」と、たずねてきた。どうやら俺の持ち物だったようだが・・・はて?何時こんなのを持ってきてただろうか。俺は不思議に思いながらも特に大切なものでもなかったのでルーミアにやることにした。このとき俺は気付いてなかったが、布切れの端には小さく『田吾作製』と書かれていた。「おう、別にいいぞ」「わは~♪ありがとう。ねぇねぇ、髪につけてくれる?」「おう、いいぞ」ルーミアからねだられるままに髪に布切れ、もといリボンを結んでやった。ルーミアは川の水でそれを見てうれしそうに笑った。「わは~♪わは~♪ありがとうアスカ」「どういたしまして」「わは~♪」この無邪気さを見ていると人食系の妖怪とは思えないほどだ。いや、違うか・・・無邪気だからこそ人食になれるんだろう。同じ姿をしているものは種族の違いはあれども、僅かながらに仲間意識が生まれてしまう。鬼は人攫いをしているが、あれは長年の習慣・・・種族的な特徴と言ってもいい。その代わりとして、正面から勝負をすると言うのが同じ形をする人間への無意識の遠慮なんだろう。まぁ、嘘や卑怯なことが嫌いだと言った理由もあるみたいだがな。そして、天狗にしてもそうだ。人をホントに馬鹿にするなら見る必要すらない。見下してる時点で人間と、その可能性を認め自分達の優位性が崩れないようにしている表れだ。それらは無意識の産物ながらも、それぞれの種族の内に必ず秘められている要素だ。だが、無邪気と言うのはそういった事を一切気にせずにただ自分の思うが侭に行動することだ。ルーミアのように人肉がおいしいから食べる。これは、こうやって会話できるほどの理解力を持ちながらにして無邪気であるから行えることである。そうやって、俺が一人で自分の考えを纏めているとルーミアがこちらに走り寄ってきた。ルーミア笑顔のまま頭のリボンを見せながらたずねてきた。「ねぇ、可愛い?かわいい?」「あぁ、かわいいな」「わは~♪」ルーミアは無邪気に飛び跳ねて喜んでいる。これから先、再びルーミアに出会うかは分からないが、彼女の無邪気さが消えないといいな。そう考えた五条大橋での一幕<おまけ>妖怪の山にて河童と鬼の会話「そういえば田吾作?」「なんでやすか?」「アスカの荷物に入れた『特製の札』ってどんな物なんだい?」「それでやすか、あっしが作った修行用の封印札でやす」「封印札?」「でやす。持っているだけで本人も気付かないぐらいの付加を体に掛け続けて、札を手放した時に一気に能力を上昇させることが出来る札でやす」「そいつは凄いけど・・・アスカは力的にはもう成長は無いんじゃないのかい?」「確かにそうでやしょうが・・・、まぁ無いよりましと言ったところでやすな」「なるほどね~・・・、それで?その札ってのはどんなやつなんだい?」「赤い札でやすな。しかも、材質が紙じゃなくて布でやす」「布?それって札でいいのかい?」「いいんじゃないでやすか?」「まぁどうでもいいけどね。その札のことはアスカ・・・知ってるのかい?」「本人も知らないうちに修行が出来るのは素晴らしいことでやす」「知らないんだね・・・」田吾作の暗躍記録より抜粋----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身ですルーミアとの出会い編いかがでしたでしょうか?彼女は純真であるがゆえに躊躇わない、作者はそう考えます。さて、予め予告していた内容もいよいよ再会を残すばかりとなりました。誰と再会するんでしょうね~。待て!次回!!っと言うわけで、次回予告をお願いします----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------次回予告なのかー一人旅に戻ったご飯じゃない人間、アスカ郷の外ではまったく知名度の無いアスカは何度も襲われる!襲撃に疲れたアスカがその身を休めるために立ち寄った町で懐かしい再会を果たす次 回 「再会と未来への伏線」 この再会は・・・、知りたかったら次回もよろしく by.kami----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------