季節は秋を飛ばして冬。山には雪で見事な雪化粧。そして俺の家には・・・、「おい黒いの、次は野菜を入れてくれ」「だから私は射命丸文です!これでいいですか?」「そうそれって、田吾作とにとり!鍋にキュウリは無いだろう?」「いやいや、これで結構おいしいでやんすよ?」「私達は」「おまえ達はかよ?!」「文様、このお肉をどうぞ。先輩、こっちも煮えてますよ」「ありがとう椛、あなたも食べなさい」普段よくいるメンバーで鍋を囲んでいた。寒い時期に鍋をする・・・王道ですね。とは言え、既に出来上がっている鍋にキュウリ・・・やってみたいようなやらない方がいいような、何とも判断に迷う食材だ・・・ここは一つ、「黒いの、キュウリ・・・食ってみ」「文です!って何で私が?!」「何でって・・・黒いのだから?」「また疑問系?!嫌ですよ!椛!あなたが食べなさい!」「ひどっ!文様酷い?!私にはそんなの無理です!先輩、お願いします!!」「ちょ?!其処で私に振るの?!え、え~と・・・あ、アスカ様「却下」で、では文「嫌です」・・・椛「先輩・・・」・・・」「キュウリキュウリでやんす♪」「かっぱっぱ~♪かっぱっぱ~♪キュ~ウリ~♪」・・・尊い犠牲だった。そうやってみんなで鍋を囲んでいると先日出会った姉妹神をふと、思い出した。回想雪がしんしんと降ってくる今日この頃、俺はいつもどおり大蝦蟇の池で祠掃除をしていた。池の表面には薄い氷が張ってあり水を飲むことは出来ないが、習慣となっていたこれを止めるつもりも無いからだ。その後に、これまたいつもの如くふらふらと散歩していると見覚えの無い、人の家ほどの社があることに気づいた。前に出会った雛もそうであったが、最近、神様が何人(柱?)か山に住み着いたとの事だ。この社もその神の物なんだろうと思い、一応、念のため手を合わせておくことにした。するとどうだろう。社の中から悲しそうな泣き声がするではないか。何があったのか気になった俺は早速声をかけることにした。「すみませ~ん、どなたかいらっしゃいますか~」すると泣き声が止まり返事が返ってきた。「は、はーい、どちらさまですか~」「集金で~す」「はーい、今いきまーすってそんなわけ無いでしょ!!」ノリの良い神様だ。そうやってでて来たのは赤い帽子にぶどう?のアクセサリーをつけた少女だった。少女が出てくると何処と無く芋の香りがする。「君がこの社の神?」「そういうあなたは?」「俺はこの山に住むアスカって者だ。見覚えの無い社を見つけて気になってね」「あら、そうなの?それじゃあ自己紹介と行きたい所だけどここじゃ寒いわね。どうぞ、中に入って頂戴」「あぁ、ありがとう」そうして招かれた社の中は暖かく外の寒さと比べればまさに別世界だった。暖かな部屋の中には少女にそっくりな紅葉の髪飾りを付けた別の少女が居た。「それじゃあ、私から自己紹介をさせてもらうわね。私は豊穣の神『秋 穣子』そしてこっちが姉の」「紅葉の神『秋 静葉』です。ようこそ我が家へ」「お姉さんのほうは知らないから改めて紹介させてもらうな。俺はこの山に住んでいる薬師のアスカと言うものだ。神様が薬の世話になるかは分からないがその時はいつでも言ってくれ」そうして自己紹介の終わった俺は静葉さんへ、さっき聞こえた泣き声についてたずねてみた。「そういえば、さっきこの社から泣き声が聞こえたんだが?」「あっ、聞いてらしたんですか?恥ずかしい・・・」「う、思い出したらまた悲しくなってきた・・・」「一体どうしたんだ?」「「秋が・・・」」「秋が?」「「秋が終わってしまったんです(のよ)」」「は?」「ですから紅葉の季節が終わってしまったんですよ」「実りの秋が過ぎ去ってしまったのよ」「私達は秋の姉妹」「秋が過ぎれば役立たず」「「これが泣かずにいられようか。お~いおいおい・・・」」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」とても個性的な神様だった。よもや神様とは雛を含めてこんなのしかいないのか?だとしたらイヤ過ぎるぞ、日本の神々。そのときの俺には将来、更に濃い神々が現れるとは露にも思っていなかった。とはいえ、未来の話は置いておき、現代の話へ戻ろう。さて、目の前で抱き合い泣いているこの姉妹、どうすればいいだろう。流石に放置して帰るのは人として不出来すぎる。「え~とだ、つまりだ、二人とも秋が終わったから泣いていると?」「そうそう」「えぇ、その通り」「それじゃあ、冬がなくなればいいのか(無くなるわけはないが)」「何を言ってるのあなたは?」「冬は嫌いだけど無くなったら必要な時間がとれずに作物が育たなくなるわ」俺が適当に尋ねると姉妹からは何言ってんだこいつはと、切り返しを受けてしまった。・・・・・・こんな神様嫌いだ気を取り直して俺は一つの提案をしてみた。「それなら、秋が感じられるものを使って何かすれば冬である事も忘れられるんじゃないのか?」「ふむふむ」「なるほど、一理あるわね」よかった、今度は好評なようだ。「それじゃあお鍋をしましょう」「そうね、秋の作物に紅葉を浮かべて」「いいわね~、流石穣子」「それじゃあお姉ちゃんは紅葉の準備を、アスカさんは鍋を準備してくれる?私は作物を持ってくるから」「分かったわ穣子」「俺も参加か・・・、まぁ了解」そうして始まる冬山の秋尽くし鍋。出るわ出るわ、薩摩芋などの芋系に始まりキノコに栗、そして梨やブドウといった果物。いや、栗でも微妙なのに梨やブドウを鍋に入れるのは勘弁してくれ。そうしていい感じに煮立った鍋へ紅葉を数枚浮かせることで何とも風流な紅葉鍋ができた。欲を言うなら魚などがほしかった所だ。そうして、平和に鍋をつつき終えるとこの時は思っていた。いや、期待していた。「そういえばこの作物は全部、穣子さんが?」この質問がいけなかった。「そうよ、私は豊穣の神、お姉ちゃんと違って豊かな作物を実らせることが出来るの」静葉の笑顔が凍った。「大丈夫ですよアスカさん。私は稔子と違って、山々を美しく彩ることができますから」穣子が笑顔で固まった。ところで静葉さん?穣子さんの名前、発音がおかしくありませんでしたか?「お姉ちゃん?私の名前は穣子だよね?いくら作物が実らせれないなんて本当の事を言われたからって名前を間違えなくてもいいんじゃない?」「あら、お姉ちゃんは稔子と呼んであげたわよ?稔子こそ紅葉を綺麗に彩ることが出来ないからってそんな言い掛かりを付けなくてもいいんじゃない?」「・・・決着を付ける時みたいね、お姉ちゃん」「やっと負ける覚悟が出来たのね?稔子」「「・・・・・・・・・・・・・表に出ろやぁ~!!」」こんな神様マジいやだ。外へ出て行く二人を尻目にそんなことを考えていると二人はすぐに戻ってきて揃って壁に向かって体育座りをしてしまった。「えっと・・・二人とも・・・、どうしたんだ?」「「冬だって忘れてた」」・・・・・・もう放っておく事にしよう。そう考えた俺は二人に別れを告げてそのまま家に帰った。ちなみに鍋はきちんと片付けたので問題ないはずだ。回想終了そして目の前には極々普通の鍋を囲む風景が・・・。普通が一番だ。そう考えていると視界の端に怪しいものを見つけた。「なぁ田吾作、それ、なんだ?」「これでやんすか」田吾作は赤く細長いものを持って答えてくれた。「これはキュウリでやんす」「その赤いのが?!」「でやんす。あっしが品種改良に改良を重ねた辛いキュウリでやんす」「「「「(なんだそのキュウリは~?!)」」」」俺達の心はにとりを除いて一つになった。辛いキュウリ・・・だと・・・これはまずい、先ほどのキュウリよりも更に難易度が上がっている。「おっちゃん、それはダメだよ」ナイスだにとり。俺達は視線でにとりを褒め称えた。「何ででやんすか?」「あたしの作った黄色いキュウリも入れないと」「「「「(なんだって~~~!!)」」」」神は死んだ!いや、あんな神様だから当然か!!辛いキュウリより更に意味の分からないものが出てきたぞ。黄色ってなんだ?甘いのか?酸っぱいのか?興味はあるが体験はしたくない?!それならここは・・・「なあ、茜、あれ・・・食ってみ?」「ちょ?!ここで私ですか!私はいやですよ、絶対に!椛!先輩命令です。食べろ!!」「ひゅっ!そんな殺生な!!いやですよ先輩。文様~助けてください~!」「椛、成仏してくださいね」「ぞんな~あやざま~「そうか、黒いのがいたか」あずがざま?」「っへ?その目はなんですかアスカ様??茜さんまで??」「どうでもいいから、な、食ってみ・・・黒いの」「文、大丈夫・・・ここには薬も一杯あるから、食べろ」「ちょ?!なんですかその連携!!椛!助けて「知りません」椛~~!!」「「いいから食え、黒いの(文)!」」「?!?!?!?!?!」「うまいでやすな~にとり~」「キュウリウマー」そうして混沌とした3色のキュウリ事件は黒いのの尊い犠牲によって幕を閉じた。しかし、油断してはいけない。また気を抜くようなことがあれば第2第3のキュウリが現れるのだから。<おまけ>「うぅ~、気持ち悪いですよ~」「大丈夫かい、文?無理してあんなに食べるからだよ」「(違います!あなた達のキュウリが原因です)」「まぁ、その気持ちは分からないでもないけどね~♪」「(分かってません!分かってませんよ。にとり)」「それにしても凄いな~。田吾作のおっちゃんは。赤いキュウリは思いつかなかったよ・・・。これは負けていられないよね~♪」「っは?」「帰ったら早速、紫のキュウリの研究だ~♪」「ちょ?!にとり??」「よ~し、燃えてきたぞ~~~!!文!わたし先に帰ってるからね?じゃあね~♪」「ま、待ってくださいにとり?!それは、それだけはやめて~~~?!」友の凶行を止めようとした烏天狗の日記より抜粋----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+報告+次回予告どうも、お手玉の中身です。今回は秋を飛ばして冬にしましたが如何でしたでしょうか?きっと皆さんの期待をいい意味で裏切っていると思います。報告なのですが、「そーなのかー」が完成しました。再会は誰に合わせるべきか・・・では、次回予告をお願いします。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------あらあら、この私に次回予告?いいわ、その度胸に免じてやってあげましょう。時が流れて世界は歌う新たな命の芽吹きも彼には関係が無いアスカが考えるのはただ一つ「奴が、奴が現れる!!」次 回 「旅立ち、再び」 間違ってないのに物足りない気のする次回予告 by.kami----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------