狭い部屋の中で何かが弾ける音が響いた。「っひゃ?!なんですか」確認してみると其処にはアスカ様からいただいた湯飲みが真っ二つに割れているのが見えた。『茜』と書いてある名前がものの見事に真ん中から・・・なぜだろう?机においていながら突然割れるなんて・・・言い知れない胸騒ぎに私は居ても立ってもいられなくなり普段ならもう少し遅くにする予定の哨戒任務を早めることにした。「(無事で居てください。アスカ様)」彼女には役割があり、それを全うする義務がある。それは、誰かと天秤で量れるような物ではなかったために。・・・穏やかな風が吹く。誰かが頬を触りながら頭をなでる感触がする。そして後頭部には柔らかな感触がって・・・・・・・・・・・・生きてる?!そう考えた瞬間、俺の意識は覚醒し、目を見開いた。視界に入ったのは何処までも広く青い空と幽香の笑顔って?!「きゃ?!」頭を勢いよく跳ね起こすと、幽香が小さく悲鳴を上げるが構ってる余裕がなかった。俺は痛む自分の体をぺたぺた触りながら生きていることを実感した。「い、生きてる・・・・・・。良かった~~~~~」「あらあら」俺は自分がまだ生きている事に安堵したものの、その声でいまだ油断ならない状況であることに気づいた。俺はそのまま勢い良く振り返り、油断なく構えると幽香と言う名の生物兵器を睨んだ。まさか、生身でビームを出せる存在がいるとは・・・俺がそんなことを考えていると、幽香は服の裾を払いながら立ち上がり口を開いた。「随分とひどい反応ね?折角膝まで貸してあげていたのに」「膝までって・・・、もしかして介抱してくれたのか?」幽香が何をしていたのか想像の付いた俺は一気に毒気を抜かれてしまった。幽香はこちらからの質問に答えることなく、呆けている俺を見て再び面白そうに笑い出した。「くすくす、本当に面白いわね、あなたは。手加減したとはいえ、あの一撃に耐え切るのだから大したものだわ」「あれで手加減かよ」「あら?当然よ」そう答えた幽香は楽しそうに笑い続けた。まさか生身ビームが手加減されていたなんて・・・・・・。そんなショックを受けていると再び幽香が喋り始めた。「そんなに落ち込むことはないわよ、手加減していたとは言え私と戦い、あれを使わせて生きていられる存在なんて、私の知ってる限りでは両の手の指ほどしかいないわよ」「そ、そうなのか」それはそれで、改めてとんでもないのと戦っていたと思う。「ええそうよ。それに私はあなたの事が気に入ったわ♪5段階評価の0以下10だったのが今では0以上の3ぐらいよ」低っ?!最初の評価が低すぎる!!-10評価ってどんだけ嫌われてたんだよ俺?!「さて、それじゃあ改めて自己紹介させてもらうわ。さっきも言ったけど私は『風見幽香』、夢幻館の主にして最強の妖怪。そして・・・・・・」幽香は一旦言葉を切ると日傘の先端を地面に向けた。「フラワーマスター」幽香がそう告げると先端を向けた地面からタンポポに福寿草などの花々が咲き乱れた。俺がその光景に目を奪われていると幽香は更に告げた。「それで、あなたの名前は?」「あ、あぁ。俺はアスカ。妖怪の山に住む人間だ」すると幽香は驚いたような表情を作った。「妖怪の山?!噂は聞いたことあったけど本当に住んでたのねぇ・・・」妖怪の山に住む人間は珍しいだろうから噂というのもそのことだろう。まぁ最早今更であるが・・・・・・。「妖怪の山に住む、妖怪の中心で人間を叫ぶ人外・・・本当にいるとは・・・」そこかよ?!幽香さんそこなんですか!!「なるほどねぇ・・・。そういえば、この時期になんでここに来たの?あなたは」「この時期っていうのは?」「知らずに来ていたの?!いけないわね生きている内の10割を損してるわよ」凄まじい損失だ。「ここは太陽の畑。夏になれば向日葵の花で埋め尽くされる美しい場所よ。花の美しさを知らないなんて・・・・・・まさに生きている意味がないわね」幽香はそう言い切った。というよりも、最早生存の否定までされてしまった。「それで?そのことを知らなかったあなたは何でここに?」「あ~・・・、それは、だな・・・」こちらを見つめながら再度質問を投げかけてきた幽香に俺は言葉を詰まらせながら視線を外し空を見上げた。適当に来たとは言えないし・・・そうやって考えると、視界の中、青空に一点の白が・・・・・・白いの、もとい俺の不幸の使者がいるのを見つけた。「あれが原因だ・・・」「あれ?」俺が上を見ながら苦々しく答えると幽香も不思議そうに空を仰ぎ見た。「春告精が原因?」「春告精って言うのか?」どうやら不幸の使者には名前があるらしい。「ええ、春になると春を告げる妖精だから春告精」存外に安易なネーミングだな。「ちなみに名前はリリー・ホワイト」一気にカタカナになった!!「それで?あの春を告げるしか能のない春告精がどんな原因になるのよ?」「それはだな・・・」俺はここに来る経緯となった不幸の使者発見の話しをした。まさかあいつが俺に厄を持ってきてるんじゃないよな?「へぇ~春告精なんて珍しいものじゃないでしょうに・・・、よっぽど暇してたのね」「確かに暇にはしていたが春告精も見たことなかった」「それはそれで問題ね・・・」「確かにな」そう言った俺達は先ほどの戦闘も忘れて笑いあった。何気にこの土地では戦闘後に友情を結ぶのがデフォルトのようである。そうして幽香との会話を楽しみながら俺は自分の傷の手当に移った。毎度の事ながらこの薬にはよく世話になる。痛みはするものの、傷はさほど深いものではなく薬を塗るとすぐに塞がって行った。・・・・・・・・・・・・天然の回復力ではなく薬の力だと思いたい。「それじゃ、俺はもう行くな?」「あら、暇してるんでしょ?それならもう少し話をしましょうよ」「それは魅力的だけど、人里にも行って試したいことがあるんでね」「そうなの・・・、まぁ会えなくなる訳でもないし、どうぞ行ってらっしゃい」「おう、行ってくる」「夏にはまた来てね。花の素晴らしさを教えるわ」そう告げてくる幽香の言葉を背に受けて、手を振りながら俺は人里へと足を向けた。・・・青年移動中・・・・・・奴はついて来てないな、不幸の使者は・・・そうして人里にたどり着いた俺は試してみたいこと、自前の薬を売ってみることにした。見習いがとれ、妖怪の山でもそこそこには頼られるようになってきた薬師の俺にとっては、人里までの道中にある薬草で十分すぎるほどの薬が作れる。きっと売り物になるだろうと思っていたのが10分ほど前、そして現在・・・、「お買い上げありがとうござま~す。薬はこれで全部です。またのご来店お待ちしておりまーす」満員御礼、即日完売が頭の中で踊っていた。まさか実演すら必要なく飛ぶように売れるとは予想外だった。警戒心が無いのかと思えば、聞く話によると人里には薬屋が無いので医者から処方される薬が全部なんだと言う。つまり、常備薬が無いので体調不良になった時や怪我をした時は医者に行くか自然治癒に任すしかないんだそうな。それは売れるわけだ。また作って売りに来ることにしよう。そう考えながら俺は予想外の臨時収入に心を弾ませて、早速土産でも買って帰り、みんなで楽しもうと思っていた。そんな時、奴は現れた・・・・・・青年買物中・・・・・・・・・・・・酒を買った俺は、その足を妖怪の山へ向けると遠くから楽しそうな声が聞こえてきた。「 ですよ~♪」なんだろうとその方向を振り向いた俺に戦慄が走った。「春ですよ~♪」奴はまっすぐこちらに飛んでくる。俺は一切の躊躇無しに奴に背を向け全力疾走を始めた。「春ですよ~♪」「こっちくんな~~~!!」何を思ったのか、不幸の使者はふらふらと飛びながらもこちらへ向かってくる。「春ですよ~♪」「どうでもいいから、くるんじゃねぇ~~~~~!」その日から、人里には一つの噂が追加された。噂話曰く、春になると妖精から全力で逃げる青年が現れるとのこと。<おまけ 『幻想郷縁起』>人間の項名前 アスカ職業 山の薬師能力 薬が作れる程度の能力、法力を少し扱える程度の能力住んでいる所 妖怪の山二つ名 妖怪の山に唯一住む人間、妖怪と人間の薬師、妖怪の中心で人間を叫ぶ人外危険度 低友好度 低解 説 いつの間にやら妖怪の山に住み着いていた人間。 人間なのに山に住む幾多の妖怪から畏怖と敬意の念を持たれている。 山において薬師を営んでいるようではあるが、妖怪相手には意味が無いのか人里まで降りてきては薬を売っている。 なおこの薬、妖怪が使うものなのかは不明であるが効き目のほうは大変高い。 本人に話を聞こうとしたところ二つ名で呼びかけると無視されてしまったことからあまり友好的ではないのかもしれない。「子供が転んで泣いているのを薬で助けているのを見つけた」 匿 名 子供が好きなのだろうか?「太陽の畑で女性と酒を飲んでいるのを見つけた」 匿 名 その女性が人間なのか妖怪なのか気になるところである。「お地蔵様に向かって、手を合わせているのを見た」 匿 名 意外と信心深いのかもしれない。 著 稗田阿余----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------田吾作の後書+次回予告どうも、盟友に代わりやしてあっし、田吾作が今回の後書を勤めるでやんす。盟友は無残にも毛玉の奇襲によって小豆をばら撒くことになってしまったでやんす。今回の話はアスカ様の生存が決まったでやんすね。あっしは主人公って柄でないでやんすからホッと一安心でやすよ。あっしからは後書で多くを語ることは出来ないでやんすが、盟友から書置きを貰ってたんでそれだけ発表しとくでやす。今後の予定「オリ姉妹(原作)」→「そーなのかー」→「再会」何の事でやしょうね?では、次回予告を頼むでやんす----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------今回は次回予告まで担当させてもらうでやす見え始めたのは能力の兆しそんなの関係ねーとばかりに出てくるのは谷河童?!暑い季節にアスカ様も喜ぶ!そして、あっしにも出番がwww次 回 「最強と相撲と自分の能力」 おっちゃん凄いね~、次回も読んでよね、盟友----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------