目の前に広がる木、木、木。右を向いても木、左を向いても木、ついでに後ろにも木。周りが全部木だらけというか森の中。しかも縄で縛られると言うオプションつきで見事に放置されている。・・・・・・・・・ちくしょう。さてはて、何でこんな状況になったか思い出してみよう。・・・少年回想中・・・・・・俺がこの世界に転生し早数ヶ月が経過した頃、俺は早速挫折を味わうこととなった。正直俺は転生することができて人生勝ち組決定とか喜んでいたが、世の中甘くなかった。まず、ぼんやりとしか見えなかった物がはっきり見えるようになりだしてから気づいたのだが、家が妙に古臭い。家というよりも小屋と言ったほうが正しいような作りな上に現代日本では見られなくなったような古い竈(かまど)が置いてあるからだ。その時点では多少変わった家と思っていたが母に外に連れ出してもらいそれが間違いだと思い知った。外の風景はどこを見渡しても田畑に自分の家に似たような家がぽつぽつと点在している。一体どこの田舎だと思い何とか情報を集めようとは思ったものの新聞すらなく母が近所で話す内容はどうでもいいことばかり。それでも注意深く聞いていれば離れた村が山賊に襲われたなどと言う物騒な話が出るしまつ。現代日本に山賊なんているはずが無い・・・そうして俺はここが現代日本の田舎ではなく山賊が当然のように出てくる過去の日本だと理解するに至った。次に、いつも母さんやご近所からは「坊や」としか呼ばれなかったから自分の名前すら分からなかったが、ある日髭の生えた熊(父親?)が現れ、「おぉ~、あすか、元気にしているか」とか言いながら抱いてきたから『あすか』が俺の名前のようだ。そんな風に色々と確認していくと、俺が前世で培った知識は電気の概念すらなさそうなこの時代ではまさに無用の長物。せめて農耕の知識があればよかったがそういったものもまったく持っていない俺は1から勉強し直すような状態となった。俺が夢に抱いていた人生勝ち組計画はこうして幼き日のうちに砂の城となり崩れ去った。まぁそれでも俺は、優しい母に見守られながら病気になることも無く山賊に襲われることも無く(何気に重要)無事に成長することができた。ところが、俺が5歳になった日、状況が一変した。俺の住んでいる村が異常気象に襲われてしまったのだ。大雨が降ったかと思えば川の水が干上がるほどの快晴、暑い日の次は雪が降り出してしまう日まであった。当然、こんな天気が続けばまともに作物が育つはずも無く元々蓄えのある村でもなかったので村全体が飢えるのに時間はかからなかった。村全体が芋ひとつで争うような日常が続いたが、そんな中でも俺の母さんは自分の食事を俺に与えてくれるやさしい母だった。飢饉が4ヶ月ほど続きとうとう村では餓死者が出始めたそんなある日、村に怪しげな祈祷師が現れとんでもない事を言ってくれた。祈祷師曰く、「この天気はとある子供の生が山の神の怒りに触れたが為のもの、子供を生贄にせねば作物が実ることは無い」っとかなんとか。村の偉い人たちは祈祷師に縋り付きその子供は誰かと確認した所、俺がその子供だったとか。それに対し、母さんはそんな馬鹿なと反抗したものの村中が祈祷師の言葉を信じている中では母さんは罰当たり者として村人から袋叩きにあってしまった。俺は母さんを助けようとしたものの大人の力に勝てるわけも無くあっさりと縛られてその場で転がされてしまった。俺は必死に叫んだ、母を助けたい一身でもがいた、人垣が割れその中が見えた時、中にいた母は頭から血を流しぐったりと力なく横たわっていた。それを見た瞬間、俺の頭の中で何かが切れる音がし視界が真っ黒になった。・・・そして、「こうやって森の中で縛られて放置されるのかっと・・・」俺はそう呟いて、何とか縄を解こうと身をよじってみたがかなりきつく縛られているようで、解けそうにも無い。あれからどれほど気絶していたかは分からないが、最後に見た母の姿からもう母が死んでいるのだろうと理解してしまった。唐突に視界が歪み、両の頬に何かが伝って落ちて行く感触がする。「ははっ・・・、最悪だ・・・」年齢5歳、前世合わせるなら29にもなる歳だが身近な人の初めての死だった。おまけ余談ではあるが熊(父親?)の報告どうもあの熊は都のほうで大きな仕事にありついたらしくそのついでに俺と母を捨てて行ったのだが、護衛していた人が殺されたからその責任でそのまま切り捨てられたらしい。見事な因果応報である。