【第11章 駆引き The Game その2】
ハリーは急いで杖を構えたが、目の前でハッフルパフ生の杖が空を切って飛び、全てアンの手に収まった。
「これで君たちは、私にだけ警戒していればいい。先に部屋を出てくれないかしら? 外で待ち伏せするのは、よしてちょうだいね」
ハリー、ロン、シェーマスがアンに杖を向けながら、五人は出口に向かった。ハリーは外に出て扉を閉めるまで警戒を弛めなかったが、ハッフルパフ生の呪いも何も、ハリーたちに飛んでくることはなかった。もっとも、エドの野次を除いたらだが。
「スリザリンに対抗するための、俺たちの完璧な作戦の足手まといになってみろ!! 悪霊の呪いをかけてやる!!」
監督生の風呂場から少し歩き、曲がり角の先の安全をロンとシェーマスが確認してるときに、ハリーはハーマイオニーに尋ねた。
「やっぱり、罠なんじゃないかな? 見たところ、さっきのハッフルパフ生は七年生、最上級生だ。それなのに、四年生の僕たちをあんなにあっさり逃がすなんて、怪しすぎる。得点を増やすチャンスじゃないか」
尾行がいないか背後を確認していたハーマイオニーが、振り返った。
「その件に関しては、アンって人がちゃんと説明していたでしょ? スリザリンを優勝させないためだって。それにあの人たちが付けていたノーマルエンブレムの数は数えた?」
「いや、たくさん付けてたけど…」
「おそらく、チームのほとんど全てのノーマルエンブレムを、あの人たちが守ってるんだわ。だから万が一私たちにエンブレムを奪われたら、ハッフルパフチームは挽回がほとんど不可能になるのよ。エンブレムを付けていないと、他の寮の選手を攻撃できないんだから」
ハリーたちはロン、シェーマスを先頭に、パーバティ、ハリーとハーマイオニーが続いて角を曲がった。
「それに、尾行もいないみたいだから安心しなさいよ」
「けど、発信機みたいなものを付けられていたら…」
「もう!」
ハーマイオニーは呆れ顔で続けた。
「ロンもあなたも、いつになったら『ホグワーツの歴史』を読むの!?」
何度この会話を繰り返したことだろう。
「君が全部暗記してるから、読む必要がないよ。それにまた、ホグワーツの城内では電気は使えないって言うんだろ?」
「わざわざ覚えていてくれたなんて、光栄だわ!」
ハーマイオニーはつっけんどんに言った。
「でも、魔法で同じことができるとしたら?」
ハリーの言葉で、ハーマイオニーの顔に不安の色が表れた。
「だけど……そんな魔法は聞いたことがないわ。授業で聞いていたら覚えてるはずだし、図書室の本でも見たことないわ」
「いや、君は、ホグワーツの学生がそういう魔法を過去に使ったことがあるのを知ってるはずだよ」
ハリーは確信を持って言った。
「そんな!! 学生でも使えるなんて……あっ!!」
ハーマイオニーも気が付いたようだ。閃いた興奮と、それが意味することへの不安が入り混じった表情のハーマイオニーを見て、ハリーは言った。
「そう、『忍びの地図』さ」
「でも、あなたのお父さんたちは、アニメーガスになれるくらい優秀だったわ」
「そのとき学生だったことには変わりはないよ。他のホグワーツ生が、父さんたちと同じように人の位置を特定する魔法を使えても、別におかしくない」
「うーん……」
ハーマイオニーは、一人で考え込み始めた。時折、ハーマイオニーの口から「図書館で」とか「隠れ穴の」という言葉が出てくるのが、ハリーの耳にも届いた。
そのときだ。それは一瞬の出来事だった。ハリーの視界の端、ハーマイオニーの背後の窓を、大きな影が横切った。ハーマイオニーは気が付いていない。ハリーは、謎の影を確認しようと窓に駆け寄った。
「ちょっと、いきなりどうしたの、ハリー?」
ハリーは窓の外を見回したが、豊かな水を湛えた眼下の湖に、ダームストラング校の選手団が乗ってきた船が浮かんでいるだけだった。
「どうしたんだ、ハリー?」
前を行っていたロン、シェーマス、パーバティが戻って来た。
「窓の外に大きな影が見えたんだ。気付かなかったのか?」
シェーマスは頭を振った。
「いいや。廊下を警戒するだけで精一杯さ。窓の外までチェックする余裕はないよ」
どうやら、気付いたのはハリーだけのようだ。
「ハリー、ここは六階だぜ。誰が窓の外から襲ってくるんだ? きっと、ふくろうか何かだろ」
ロンは再び廊下に注意を戻した。
ハリーはみんなに続いて歩きだしたが、、たったいま目にした影のことを考えていた。
ふくろうだって? そんな大きさではなかった。もっと大きな何かだ。どうしてみんな気付かないんだ?
ハリーはふと、二年生のときのことを思い出した。ロンにもハーマイオニーにも聞こえない、姿なき声を聞いたときのことだ。あのときは、パーセルマウス、つまり蛇語使いでしか理解できないバジリスクの声だった。
しかし、今回は実際に見たのだ。ただ単に、他の四人が気付かなかっただけなのだろうか? ハリーも、ハーマイオニーのほうを向いていなかったら気付いていなかったのかもしれない……
グリフィンドール生にも他の寮生にも出会さずに、五人は階段まで辿り着いた。ロンが先に立って階段を上がり始めた。
「ロン、どこに行くつもり?」
ハーマイオニーが引き留めた。
「そりゃあ……」
ロンは辺りを見渡し、声をひそめた。
「エリアだよ。監督生の風呂場がハッフルパフのエリアじゃなかったって、報告しなきゃならないし」
「全員で行くことないわ。二手に分かれましょう。私はマクゴナガル先生と話がしたいから、エリアに戻るわ」
ハーマイオニーはハリーに目配せした。位置特定呪文について、マクゴナガル先生に訊ねるつもりなのだろう。
「私も。ラベンダーが戻るまで待機組に入るわ」
「僕も戻るよ。ラベンダーの代わりに、ディーンが来てるはずだから」
「それじゃあ、僕とロンは下の階を調べて来るよ。また後でね」
ハリーとロンは、ハーマイオニー、シェーマス、パーバティの三人と、そこで別れた。
五階へ向かう階段の途中から、ピーブズの仕業だろう、照明が粉々に壊されていた。しかし気に留めることもなく、二人は向かった。
寒く、薄暗い階下へと。
【あとがき&裏話】
世間では、もう夏休みなんですね……
私はレポートに追われています(涙)
レポートそっちのけで、最新の第25章を執筆したりしていますけれども(苦笑)
この第11章ですが、オリジナルキャラが二人登場しちゃっています。
ハッフルパフの七年生って、名前が判明しているキャラがいないので……
ちなみに、セドリックは六年生ですよ。
某錬金術漫画の兄弟を意識しつつ、一人は女性キャラにしたかったので「アン」という名前に変更しました。
「アル」だと、フレッドと被る恐れもありましたし(「フレッド」は「Alfred」や「Frederick」の愛称)。
男性の方は知らないかと思いますが、ポンパドールは女性の髪形の一つです。
私も、「僕等がいた」のガイドブックを見て知ったんですけどね。
ポンパドールだと、少しバカっぽく見えるんじゃないかという声も聞こえてきそうですが、アンはどんな髪型でも聡明な雰囲気が滲み出ているんですよ、きっと(苦笑)
ちなみに、ドレッドヘアのアンジェリーナとの対比も意識しています。
次回、いよいよあのキャラが!!
ってことで、別のお楽しみも企画中です。