【第11章 駆引き The Game その1】
ロンは自分が開いた蛇口を閉め、ラベンダーはセドリックが開いていった蛇口を閉めようとしていた。
轟音とともに、突然扉が勢いよく開いた。
「ステューピファイ! 麻痺せよ!」
黄色いエンブレムをいくつも身に付けた上級生が五人現れ、一斉に失神呪文を唱えた。そのうちの三本は壁に当たって撥ね返ると、水中に吸い込まれて消えた。しかし、二本がラベンダーの胸に直撃した。
「あぁぁぁー…」
床に溜まったお湯を撥ねさせて、ラベンダーが仰向けに倒れた。
「ラベン…」
「隙を見せるな! 来るぞ!」
ラベンダーに駆け寄ろうとしたパーバティに、ハリーが叫んだ。立ちすくんだパーバティに、ハッフルパフ生の一人が杖を向けたが、側にいたシェーマスが巧く呪いを逸らした。別のハッフルパフ生が、ラベンダーのローブについたエンブレムに飛びついた。
「インペディメンタ! 妨害せよ!」
ロンが唱えた妨害の呪いは逸らされてしまったが、その隙にハーマイオニーが叫んだ。
「モビリコーパス! 体よ動け!」
ラベンダーの体が、手首・首・膝に見えない糸が取りつけられたように宙へと吊るし上げられ、操り人形のような状態になった。ハッフルパフ生は構わず飛びつこうとしたが、ハーマイオニーが杖をクイッと動かした。ラベンダーの体は水面を滑るようにして、ハーマイオニーの方に動いた。それでも追いかけようとしたハッフルパフ生は、溢れたお湯のせいで見えなくなっていた浴槽の縁に蹴つまずいて、頭からお湯の中に突っ込むことになった。
ハーマイオニーがラベンダーを下ろすと、頭の禿げた背の高い黒人の魔法使いが現れた。片耳のイヤリングがキラリと金色に光った。その手には、何故かブロンドのゴブレッドが握られている。 魔法使いは、ラベンダーの状態を確認した。
「この子は、医務室に行かなければならない。エンブレムは預かっておきなさい」
ハーマイオニーは、魔法使いの深くゆったりした声に従った。バチンッ、バチンッという音がして、ラベンダーの姿は消えた。
残りのハッフルパフ生は一人が入り口を守り、ハリーたちの退路を絶った。色とりどりの呪文が飛び交う中、ハリーがかわした武装解除呪文が蛇口のひとつに当たった。途端に蛇口からお湯が飛び出し、水面を跳び撥ね、呪文を唱えたハッフルパフ生に直撃した。刈り上げた頭のそのハッフルパフ生は吹き飛ばされ、ロンの近くの壁にぶつかって伸びた。
「たなぼただな」
ロンが六つのエンブレムを剥ぎ取ると、バチンッ、バチンッと音がしてハッフルパフ生は消えた。ロンが奪ったエンブレムは、五つが黄色いハッフルパフのもので、残りの一つはグリフィンドールの、ケイティ・ベルのエンブレムだった。
ハッフルパフの女生徒二人が、ハリーとロンに杖を向けた。ハリーも応戦すべく、呪文を唱えた。
「ステューピ…」
「そこまで!!!」
風呂場に大音量が響き渡り、ハリー、ロン、ハーマイオニーとハッフルパフの女生徒二人は、両手で耳を塞いだ。浴槽の反対側でも、パーバティ、シェーマス、それに二人が戦っていたもう一人のハッフルパフの男子生徒が、同じ行動を取った。
「あー、少し大きすぎたわね。クワイエタス! 静まれ!」
ハリーは声の主を探した。どうやら、部屋の入り口に陣取っていたハッフルパフ生のようだ。どこか聡明な雰囲気を漂わせた女性徒で、とび色の髪をポンパドールにしている。
「みんな、杖を下ろして」
ハッフルパフ生は渋々杖を下ろしたが、ハリーもロンもシェーマスも、警戒して杖を下ろさなかった。入り口の女生徒は苦笑いした。
「まぁ…そうよね。いいわ、そのままで聞いてちょうだ…」
突然、浴槽から水しぶきがあがり、浴槽の中に落ちていたハッフルパフの男子生徒が叫んだ。
「タラントアレグラ! 踊れ!」
呪文がロンに命中し、タップダンスを始めたロンが浴槽にはまりそうになった。ハリーとハーマイオニーが必死に引き戻して、ロンは間一髪のところで水泳の飛び込みを免れた。すかさず、シェーマスが男子生徒に杖を向けた。
「エドも杖を下ろして!! フィニート! 終われ!」
入り口の女生徒が唱えると、ロンの足が華麗なタップダンスを止めた。
「私たちは、これ以上あなたたちと争いたくないの」
「何を勝手なことを!! あなたたちのせいでラベンダーは!!」
パーバティが叫んだ。
「ええ、そうね。初めは、あなたたちを下級生だと思って甘く見ていたわ。無傷で全員倒せると思っていたの」
「大変な思い違いね!!」
パーバティが睨みつけた。
「そっちは一人が倒れて、エンブレムも六つ、私たちに奪われたわ!!」
「まぁ、あれはこちらの自滅といった感じだったけれど。それでも、使う呪文や一瞬の判断力からして、年齢の割にあなたたちが相当できることはわかったわ。だから和解を持ちかけているの。そちらも一人が倒れて五対五。無言呪文が使える私たちが有利だとは思うけど、これ以上倒されると困るの。ましてや、万が一私たちが全滅したときには…」
「アン!! 喋りすぎだ!」
浴槽から這い出て杖でローブを乾かしていた、エドと呼ばれた男子生徒が言った。
「そうね。とにかく、あなたたちはすでに六個のエンブレムを奪ってるんだから、悪い話ではないと思うけれど?」
「本当は、僕たちに勝てる自信がないだけじゃないのか!?」
ハリーが挑戦的に言った。エドは手をピクリと止めて、ハリーを睨んだ。
「アン!! こんなやつら、有無を言わせずやっちまえばいいんだ!!」
「あのね、これはどちらにとっても大事なことなの」
杖を強く握り締めたエドを目で制止しながら、アンが忍耐強く続けた。
「今ここで争ったところで、スリザリンの優勝を促すだけよ。やつらが早くも勝負をかけてきているのは、知ってるかしら? 五人一組で五組が城内を詮索して、ノーマルエンブレムもボーナスエンブレムも、悉く手に入れているようよ」
ハリーは、五階の大鏡の裏でスリザリン生に感じた違和感が何だったのか、ようやくわかった。胸のエンブレムの数だ。ハリーたちがエンブレムを二つ付けていたのに対して、スリザリン生は五人全員が一つしか付けていなかった。ほとんど全員がエリア外に出ているのなら、それも頷ける。
「なんでスリザリン生の行動がわかるんだ?」
ロンが疑いの目をアンに向けた。
「知らなかったの? 各寮の談話室に巨大なスクリーンが置いてあって、試合の様子や得点を見ることができるようになっているのよ。交替して入ったメンバーの話では、スリザリンは二位に大きく差をつけて、首位を独走しているの」
ハリーは、ロンと目を見合わせた。ロンは、ピクシー小妖精を噛みつぶしたような顔をしている。ハーマイオニーが言った。
「でも、それって逆にチャンスよね? いまスリザリンのエリアを突けば、簡単に攻め落とせるわ」
アンは肩をすくめた。
「そう思って、私たちもスリザリンのエリアを探してるんだけど…。きっと、見つからない自信があるからこそのこの大胆な作戦なんだわ。とにかく、この場は和解ということでいいかしら?」
ハーマイオニーが、ハリーとロンのローブの袖をそっと引っ張った。
「言う通りにしたほうがいいわ。スリザリンに優勝させたくないでしょ? 私は絶対嫌だわ!」
まだ杖を構えていたロンは、渋々杖を下ろした。ハリーは、シェーマスとパーバティに目配せした。二人も杖を下ろした。
「わかった。こっちも和解ということでいい。だけど信用していいのか?」
「それなら心配ないわ……こうするのよ!」
ハリーたちが反応する間もなく、アンは杖を振り上げた。
【タイトル&TOP変更と、新しいお題】
サブタイトルを変更しました。
~それぞれの願い~ では、作品の特徴もなく、あまりにも寂しかったので(汗
TOPの文章は、謎めいたものにしたくて、書き足しました。
一口に「彼」といっても、指している人物は一人ではないので、想像を膨らませてみてください。
少し鬱展開みたいな文章ですが、作品自体はそんなことはないので、その点は安心してください。
そして、新しいお題!
「ホグワーツ城には、どんな罠が待ち構えているでしょう?」
自由に想像してください♪
活躍させたい生徒がいるのであれば、その旨も添えてください。
もっとも、すでに物語のクライマックス直前まで書きあげているので、作中で実際に使われることはないと思いますが、リクエストがあれば番外編として書くかもしれません。