【第10章 人魚の唄 The Mermaid's Song その2】
「君には意味がわかるの?」
ハリーが訊ねた。
「いいえ、まだわからないことが多すぎるわ。でも、『あなたが求めるもの』というのは、エンブレムのことで間違いないと思うの」
ハーマイオニーがさらに続けた。
「次に最後の二行、『あなたが溺れ死ぬまでに 潮が満ちてきているわ』の部分ね。『潮が満ちる』とは、お湯が浴槽から溢れ出て、この部屋を満たしてしまうということ。だから『溺れるまでに』というのは、まさに言葉通りの意味よ」
ハリーは開いたままの蛇口を確認した。お湯の勢いは弱いので、まだまだ時間に余裕がありそうだ。
「それじゃあ、エンブレム獲得の手がかりが、まだなんにもないわけじゃない」
ラベンダーは、ハーマイオニーが仕切っているのが気に食わない様子だ。
「えぇ、そうね。だから、エンブレムの手がかりがあるはずの最初の五行を解かなきゃ」
ハーマイオニーが、唄の歌詞を杖で空中に描いた。
「今度は五行目に注目して。『珠』とは宝石のこと。そしてその『雫を受けとめ』るの。何か気がつかない?」
「蛇口ね!!」
パーバティが叫んだ。
「蛇口の取っ手には宝石が嵌め込まれていて、開けば水の雫が落ちてくるわ!」
「そして、お湯のかわりにエンブレムが落ちてくる蛇口があるってことか!」
熱風の呪文でローブを乾かしていたシェーマスが、手を止めて納得した。ハーマイオニーが頷いた。
「私もそう思うわ」
「じゃあ簡単だ! 全部の蛇口を開いてみればいいんだ!」
ロンが近くの蛇口に向かった。
「だめよ!! ロン!!」
ハーマイオニーが叫んだ。
「えっ!?」
しかし、ロンはすでに一番近くの蛇口を開いてしまっており、サッカーボールほどもあるピンクとブルーの泡が吹き出し始めた。
「正しい蛇口を早く見つけないと、浴槽から溢れたお湯が部屋中を満たして、私たち、本当に溺れてしまうわ」
ハリーが浴槽を覗きこむと、いつの間にか半分近くまでお湯で満たされていた。
「おそらくここに来たときに開いていた蛇口は、セドリックが試しに開いてみたものだと思うわ。詞の五行目と六行目だけを解き明かした段階で。けれど、まさか蛇口が閉まらないとは思わなかったでしょうね」
「じゃあ、前半四行を解き明かせば、どの宝石の蛇口を開くべきなのかわかるんだね?」
ここまでのハーマイオニーの推理に、ハリーは感心した。しかし、ハリーの期待の眼差しから、ハーマイオニーは目を逸らした。
「えぇ、そうなの。でも、私、宝石はそんなに詳しくなくて……」
「二人なら詳しいんじゃないか?」
シェーマスが、ラベンダーとパーバティを振り返った。
「えぇ、まぁちょっとくらいなら……」
ラベンダーが、指を折って数え始めた。
「ダイヤモンド、エメラルド、サファイア、ルビー、オパール、ヒスイ、トパーズ、サードオニクス、ガーネット、アレキサンドライト―――」
ラベンダーの両手がグーになり、パーバティが引き継いだ。
「アメジスト、ヘリオトロープ、アクアマリン、トルマリン、トルコ石、ジルコン―――」
「それじゃないか!?」
ロンがパーバティの言葉を遮った。
「アクアマリンが、この絵にはピッタリなんじゃないかな?」
ハリーは顎に手を当てた。確かに、アクアマリンという名前は海にピッタリだ。しかし……
「もしそうだとして、詞の残りの部分はどう解釈するの? ねぇ、アクアマリンのこと、詳しく知ってる?」
ハーマイオニーがラベンダーに訊ねた。
「えぇっと……エメラルドと同じように、ベリルっていう宝石の変種よ。藍緑色で三月の誕生石だわ」
そこで六人はしばし考え込んだが、解決の糸口を掴んだ者はいなかった。緑色であることや、三月に関係があることは、この詞には無関係のように思われた。
「とりあえず、最初の行から考えるしかないみたいだね」
シェーマスが腕組みしながら言った。
「まずは『女神アルテミス』から、何か思いつかないかな?」
「狩の女神よね。魔法史のビンズ先生がおっしゃってたわ」
さすがハーマイオニーだ。あの魔法界が考え出した最もつまらない学科を聞いているなんて。
しかし、絵の中の人魚は、意味ありげに鰭を上向きにパタパタさせている。「嘆きのマートル」は、騒々しい人魚に対する不快感を顕にしていた。人魚の意図を読み取ったラベンダーが、絵の中の満月を指差した。
「狩の女神でもあるけど、ここでは月の女神じゃない? トレローニー先生が、『星座占い』のときにおっしゃってたわ」
ラベンダーやパーバティにとって、トレローニーは偉大で尊敬すべき存在であった。一方ハーマイオニーは、トレローニーの名前を聞いてフンッと鼻を鳴らした。ハーマイオニーは去年、トレローニーのハリーに対する仕打ちや自分に対する侮辱に憤慨して、占い学のクラスから去っていた。 そんなハーマイオニーの事情など知らない人魚は、自分のヒントが伝わったことで、海に飛び込んでは岩の上に華麗に戻り、ご満悦な様子だった。
「月長石じゃないか!?」
月と聞いて、シェーマスが叫んだ。
「『安らぎの水薬』の材料になるやつ! 『魔法薬調合法』に載ってるあれだよ!」
パーバティが、宝石としての月長石の解説を加えた。
「透明で、青みを帯びた白色の宝石ね。お守りに使われることもあるわ。確か、六月の誕生石よ」
これも違うな、とハリーは思った。二行目以降が説明できそうにない。蛇口から溢れ出すお湯が、そろそろ浴槽を満たそうとしていた。
【双子とドラコの「シャドウ」攻略法】
その前に……
「おし……りがい……たいorz」
ではなくて、前回の攻略法でハーマイオニーがブリ○ドを唱えなかったのは、「ネギま」17巻の巻末に書かれているように、熱力学第二法則の関係で低温にする魔法のほうがより高度で、まだ習っていなかったからです。
双子とドラコの攻略法は至ってシンプルで、影(「シャドウ」)の本体を倒すというもの。
双子の場合は勢いで、先に部屋に入ったほうを失神&蘇生。
狡猾(誉めてる)で泥臭い方法を嫌うドラコは、一度潔く部屋を出て、決闘クラブのときに出した蛇を先に部屋に入れ、蛇をその「シャドウ」ごと消滅。
え?
ずいぶんと都合のいい障害だって?
き、きっとマクゴナガル先生なら、いくつかの攻略法を用意していますよ(汗
次回、いよいよ「人魚の唄」解決編!