【第6章 すれ違い The Misunderstanding その2】
目的の場所に着くと、ハリーは必要の部屋の石壁をノックして叫んだ。
「エッグヘッド! 知ったか!」
目の前の石壁にピカピカに磨かれた扉が突然現れ、ロンが扉から顔を出した。
「ハグリッドとけっこうしゃべってたんだな」
「いや、談話室にも寄ってたんだ。透明マントと…」
ハリーはローブの中から忍びの地図を取り出した。
「この地図を取りにね」
「ハリー! あなた、なに考えてるの!?」
強い口調にハリーもロンも驚いて振り返った。ハーマイオニーが咎めるような目つきで近付いて来ていた。
「忍びの地図を使ったら、あなたたちだけじゃない、みんながつまらなくなってしまうのよ。だってエリアの場所がすぐわかるなんて卑怯じゃない! 今日はただのゲームなのよ! そこまでして勝ちたいの!?」
ロンが言い返した。
「ルール上は問題ないはずだ。それに男には、どんな手段を使ってでも勝たなくちゃならないときがあるんだよ」
「なにが『男には』よ! 大人ぶってるだけで、女心もわからないおこちゃまじゃない!」
ロンの耳が真っ赤になった。ハリーが言った。
「けどハーマイオニーだってスリザリンに勝たなきゃならないはずだ」
「ええ。そして、ハリー。あなたはセドリックに、ね」
ハーマイオニーが辛辣に言い放った。
「ハーマイオニー、きみはどこまでおせっかいなんだ!」
ロンの言葉にハーマイオニーが反論した。
「おせっかい!? わたしはあなたたちのために言ってるのよ!」
「それをおせっかいって言うんだよ! 行こうぜ、ハリー」
ロンが部屋の奥へ歩き出した。
「口で言ってもわからないみたいね」
ハーマイオニーが杖を取りだし、なにやら呪文を唱えた。杖先から細い紐が出てきて忍びの地図を縛った。去年、スネイプやルーピン先生が使っていた呪文だ。結び目は複雑で固く、ほどけそうにない。これにはハリーも怒った。
「ハーマイオニー! そこまですることないだろ!」
「すぐにほどけよ!」
振り返ったロンも加勢した。それでもハーマイオニーは毅然とした表情だ。
「こうでもしないと絶対使うでしょ! 反対呪文を探してる暇があったら、正々堂々ゲームを楽しむことね」
「そうか。きみはクラムに勝たしてやりたいんだ!」
ロンのこの言葉に、ハーマイオニーの感情が爆発した。
「なんでわからないの!? もう、勝手にすればいいわ!」
ハーマイオニーは怒って奥に行ってしまった。
「『勝手にしろ』だって!? かまってきたのはそっちじゃないか!」
ハリーもロンと同じ思いで奥に向かった。
部屋の一番奥にはすでに卵の形をした金色のエリアエンブレムが輝いていた。
「みんな揃ったようですね。ではノーマルエンブレムを取りに来なさい」
マクゴナガル先生が、卵型で赤色のエンブレムを配り始めた。四年生はシェーマス、ラベンダー、パーバティがまずはエリア待機組だったので、ハリーがシェーマスの、ロンがラベンダーの、ハーマイオニーがパーバティのエンブレムも受け取った。ハリーのエンブレムは他より一回り大きい。
ハーマイオニーはハリーとロンには目もくれず、ジニーのところへと戻った。どうやら二人で行動するようだ。
「ロン、ハリー、これを持って行け」
ジョージが棚から取り出した臭い玉と糞爆弾を二人に手渡した。
「そっちのはなんだ?」
ロンが指差した先に白い大きな袋があった。
「こっちは俺たちの試作品さ。数もないから使いきっちまうと、また一から作りなおしだ」
ハリーが中身を覗く間もなく、部屋中に大音量が響きわたった。
「あー、あー。聞こえるかな?」
バグマンの、魔法で拡張された声だ。そろそろ時間だ。
「よーし! 準備はいいか? それでは寮対抗エンブレム争奪戦『スクランブル・エッグ』、ヨーイ…」
ノーマルエンブレムを身につけたグリフィンドール生は、扉の前に並んだ。興奮と程よい緊張からか、ハリーは気分が高揚するのを感じた。
「始め!」
ややフライング気味にスタートを切ったフレッドとジョージに続いて、開幕の合図と同時にハリーとロンは勢いよくエリアから飛び出した。
【あとがき&裏話】
最初に、頂いた感想へのコメントから。
皆さんのアドバイスは、決してお節介ではありませんよ♪
ありがたく読ませてもらっています。
少なくともアドバイスに従った場合は、私の中で納得してそうしているので、心配なさらないでください。
納得できないものは鵜呑みにしないということは、感想掲示板で以前にしっかり意思表示していますしね。(追記:当時のコメントは削除してしまいました)
もちろん、納得していてもさまざまな理由から皆さんの勧告に沿えない場合もございますので、作品に反映されてないからといって、的外れな内容だと私が思っているわけではないということもご理解ください。
感想掲示板のあとがきは、削除すると欠番ができてしまい、誰かが都合の悪いコメントを削除したみたいに見えるので、残しておこうと思います。(追記:上の追記参照です。すみません)
原作をもう一度読みたくなったというコメントは、私の狙い通りで嬉しいです。
素晴らしい原作があってこそのSSですので、原作へのオマージュは意識しています。
どのシーンのオマージュであるか調べるのも、この作品の楽しみの一つだと思っています。
恋愛要素に関しては、争奪戦のテンポにも関わるため、また炎のゴブレットの時点では謎のプリンスほどロマンスが描かれていないので、描写を最低限に抑えています。
ですが、恋愛感情というものを無視してしまうと登場人物が薄っぺらくなってしまいますし、私自身ロマンスは大好きなので、少しはと作品中に含まれています。
例えば、前の章のアンジェリーナは、自分に対するフレッドの好意を試す可愛らしい一面を覗かせていますし、この章でハリーが透明マントや忍びの地図を持ち出したのは、チョウとセドリックに出会ったことによる動揺が大きく影響しています。
ハリー本人は無意識ですが、普段のハリーならばマントや地図の使用を自制していたと思います。
そうそう、まだツンしか見せていないけれど・・・
「ハーマイオニーの微ツンデレ仕様は原作通りだと信じている!」(←
さて、第6章解説!
Misunderstandingはこの場合、「誤解,解釈違い」というよりは「意見の相違,けんか」という意味合いです。
実はDA PUMPの同名の曲が好きだから使ったという裏話もあるのですが(笑)
ちなみに、White Moon Lullabyという曲が、曲調や歌詞がハリーにピッタリな感じで大好きです。
それはともかく・・・章タイトルは二つ以上の出来事を指すことも多いです。
今回のハグリッドとの「すれ違い」は、Misunderstandingというほどではないですけれど。
そして、ハーマイオニー、ごめんなさい。
忍びの地図は、どうしても使用を制限する方法が他に思いつかなくて、彼女に辛い役目をさせてしまいました。
他にも、ハリーとロンの二人で行動させたかった理由がいくつかあるのですが・・・それはまたの話。
さて、ようやく争奪戦の開幕です。
第7章をお楽しみに♪