【第6章 すれ違い The Misunderstanding その1】
ハグリッドの小屋に着くと、ハリーは扉を叩いた。中からは返事がなく、かわりに小屋の裏からハグリッドが現れた。モールスキンのオーバーを着込み、ドラゴンの革の手袋をはめている。何か作業をしていたようだ。
「ハリー! おまえさんを待っていたんだ」
ハグリッドがポケットをまさぐり始めた。ハリーが尋ねた。
「ハグリッド、先週はどうしてたの? 日曜も小屋を訪ねたんだけどいなかったし」
ハグリッドは急にそわそわし始めた。
「えーと…大したことじゃねぇが、話しちゃならんことになっとる。詮索せんでくれ。そいで…ほんとはこいつもよくはないんだが…」
ハグリッドはポケットから取り出した黒い袋をハリーに手渡した。チャリンという音がする。ハリーが中を覗くと、金貨が袋いっぱい入っていた。
「ハグリッド、何なのこれ!? こんなの受け取れないよ!」
ハグリッドが辺りを気にしながら言った。
「ハリー、レプラコーンの金貨だ。だがあと数時間は消えないだろう。あー…」
ハグリッドは言葉を選んでるようだ。
「あー…かわいらしいのに追いかけられたら、バラまけ」
「それってどういう…」
「さあ、もう時間がねぇだろ、え? 俺も忙しいんだ。行った行った!」
ハリーはハグリッドに追い帰されたことにはショックを受けていなかった。時間もなかったし、何か話せないことをこっそり伝えたかったのだろう。
だが、ハグリッドがなぜ金貨を渡したのかはわからなかった。あのセリフとこの金貨がなにか暗号にでもなっているのか?
ハリーはエリアに戻る前に談話室に寄った。肖像画を抜けると、ネビルとディーンに出会った。ディーンはクィディッチの応援で使った旗を持っていた。
「やぁ、ハリー。忘れ物かい? さっきフレッドとジョージがやって来たところだよ」
「二人が?」
「あぁ。でっかい袋を抱えて持っていったよ」
ひっかけ菓子でも持っていったのだろうか?
「それより、ハリー! あれ見て!」
ハリーがネビルの指差したほうを見ると、暖炉の向かいの壁に大きな鏡のようなものが浮かび上がっていた。よく見るとホグワーツの様々な場所が映し出されている。
「『両面鏡』ってやつの応用らしいよ。どこかに固定された鏡や、先生や魔法省の役員が持ってる鏡の映像がここに映るらしい。マクゴナガル先生が言ってた」
なるほど、これなら談話室にいても楽しめそうだ。ハリーは、ピーブズが三階の廊下をヒョコヒョコ跳ねているのを鏡の中に見つけた。
「ちょっと取ってくるものがあるんだ」
ネビルとディーンを大広間に残して、ハリーは寝室にあがった。透明マントと忍びの地図を取りに来たのだ。今日はファイアボルトとナイフは必要ないだろう。
ファイアボルトは三年生のときに、ナイフはクリスマスプレゼントに、どちらもシリウスからもらったものだ。ファイアボルトは世界最高の競技用箒で、ナイフはあらゆる鍵をこじ開け、どんな結び目も解く付属部分も持つ優れものだ。だが箒はもちろん城内では必要ないし、『アロホモラ』で開かない扉は立入禁止エリアの入り口くらいのものだろう。
ハリーは透明マントと忍びの地図をローブの中にしまい、急いで談話室に下りていった。
肖像画から出る前にデニス・クリービーに捕まってしまった。首からカメラをさげている。近くの肘掛け椅子では、クルックシャンクスが気持ち良さそうに眠っていた。
「こんにちわ、ハリー! コリンにきみの活躍をカメラにおさめるように頼まれているんだ。ほんとは自分で撮りたかったらしいけど、試合に出ないといけなくなっちゃったんだって。うまく撮れるかな?」
「あー、きっと大丈夫だよ」
ハリーは苦笑いで言った。デニスがカメラにフィルムを入れ忘れていることを願って、ハリーは必要の部屋へと急いだ。