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No.9982の一覧
[0] 恋姫無双外史・桃香伝(無印恋姫SS)[航海長](2009/07/01 22:28)
[1] 恋姫無双外史・桃香伝 第一話[航海長](2009/07/04 18:05)
[2] 恋姫無双外史・桃香伝 第二話[航海長](2009/07/04 18:07)
[3] 恋姫無双外史・桃香伝 第三話[航海長](2009/07/06 20:39)
[4] 恋姫無双外史・桃香伝 第四話[航海長](2009/07/09 21:30)
[5] 恋姫無双外史・桃香伝 第五話[航海長](2009/07/16 18:24)
[6] 恋姫無双外史・桃香伝 第六話[航海長](2009/07/21 18:12)
[7] 恋姫無双外史・桃香伝 第七話[航海長](2009/07/24 18:50)
[8] 恋姫無双外史・桃香伝 第八話[航海長](2009/07/29 20:26)
[9] 恋姫無双外史・桃香伝 第九話[航海長](2009/08/02 22:31)
[10] 恋姫無双外史・桃香伝 第十話[航海長](2009/08/06 16:25)
[11] 恋姫無双外史・桃香伝 第十一話[航海長](2009/08/10 18:01)
[12] 恋姫無双外史・桃香伝 第十二話[航海長](2009/08/18 18:21)
[13] 恋姫無双外史・桃香伝 第十三話[航海長](2009/08/25 23:00)
[14] 恋姫無双外史・桃香伝 第十四話[航海長](2009/09/27 01:05)
[15] 恋姫無双外史・桃香伝 第十五話[航海長](2009/09/27 01:04)
[16] 恋姫無双外史・桃香伝 第十六話[航海長](2009/11/24 22:26)
[17] 恋姫無双外史・桃香伝 第十七話[航海長](2010/01/01 21:25)
[18] 恋姫無双外史・桃香伝 第十八話[航海長](2010/01/24 00:10)
[19] 恋姫無双外史・桃香伝 第十九話[航海長](2010/02/26 00:46)
[20] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十話[航海長](2010/03/03 01:17)
[21] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十一話[航海長](2012/06/02 13:34)
[22] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十二話[航海長](2012/11/01 05:12)
[23] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十三話[航海長](2013/02/26 23:01)
[24] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十四話[航海長](2013/09/23 22:45)
[25] 恋姫無双外史・桃香伝 第二十五話[航海長](2014/01/05 22:49)
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[9982] 恋姫無双外史・桃香伝 第七話
Name: 航海長◆ccf1ea4b ID:88514eac 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/24 18:50
 汜水関の城壁の上で、彼女は東を睨んでいた。遥か地平線のほうから黄色い土煙が吹き上がり、風に乗って吹き付けてくる。膨大な軍勢が……公称五十万、実数は恐らく二十万だが、それでも彼女が指揮する軍勢の七倍に及ぶ大群が迫ってくる。兵士たちが踏み鳴らす足音が、地響きとなって伝わってくるようだ。
 それでも、彼女の表情には恐怖は感じられない。圧倒的な敵を相手に、いかに己の武を発揮するか。その一念のみがある。とは言え、彼女にも心配事が無いわけではない。自分が戦い、命を懸けることに恐れは無いが、主と仰いだ少女の身柄は……
 そう考えていた時、城壁の上に彼女と肩を並べて戦う、もう一人の将が現れた。一瞬男が目のやり場に困りそうな服装の、長身の女性だ。豊かな胸に晒しを巻いただけの上半身に外套を羽織った、一見無防備とも言えるその姿は、神速とも言われる用兵を実現するため、乗馬にできるだけ負担をかけないための軽装だ。
「おう、帰ったで、華雄」
「ああ、張遼か。どうだった? 洛陽の様子は」
 二人は言葉を交わす。待っていたのは汜水関の副将、華雄。洛陽から来たのは主将の張遼。いずれ劣らぬ武勇の持ち主であり、董卓軍の誇る名将たちであった。
「ああ、あかんかった。賈駆っちには会えたけど、城には入れず仕舞いや。あの怪しい白覆面どもが隙間無く見張っとる」
 張遼が忌々しげに言う。
「そうか……無事だと良いのだが。で、賈駆からは何か指示は?」
 華雄が尋ねると、張遼は首を横に振った。
「変わらず、何とかここで敵を食い止めてくれ、の一本槍や。まぁ、他にやりようもないけどな」
 華雄は一度背後の洛陽の方へ顔を向け、続いて再び東に視線を戻す。土煙は着実にこちらへ近づいていた。
「おうおう、仰山おるなぁ。こらウチらも年貢の納め時かも知れんで」
 張遼が言う。しかし、その顔は……
「状況の割りに楽しそうだな、張遼」
 華雄が言う。彼女の言うとおり、張遼はこれから楽しい事が起こりそうな、子供のような表情を浮かべていた。
「ま、武人の本能っちゅうヤツやろ。この際、ウダウダ悩んどっても埒が明かん。ウチらが本領を発揮すれば、ここで連合軍を追い返すのも夢や無い」
 華雄はそれを聞いてフッと笑った。
「同感だな。主のために我等ができることは、これしかないのだから」
 迫り来る強大な敵を相手に、二人の武人は己の中の昂ぶりを静かに、しかし熱く燃え立たせていた。
 
 
恋姫無双外史・桃香伝

第七話 桃香、策をもって関に挑み、武人たちは競演を見せる事


 汜水関の手前十五里のところで、全軍は一時停止した。平原はここまでで、ここから先は洛陽を囲むように広がる山地、その中の狭い谷間が続いている。微かに汜水関の威容がここからも見えた。
「あれが汜水関……」
 桃香は馬上からそれを仰ぎ見る。城壁の上に何旒もの牙門旗が翻っているのは見えるが、ここからでは誰が篭っているのかはわからない。そう思った時、騎兵が一騎、桃香たちのほうへ駆け寄ってきた。
「伝令! 伝令! 孫権殿、北郷殿より連絡です。汜水関の牙門旗は『華』及び『張』の二種類!」
 それを聞いて、白蓮と星が同時に違う相手の名を呼んだ。
「張遼か!」
「華雄か!」
 桃香は並んで立つ二人を交互に見た。
「知ってるの? 白蓮ちゃん、星さん」
 そう質問を投げかけると、まず答えたのは白蓮だった。
「神速の張遼。私が騎兵使いとして意識している二人の将のうちの一人さ。武人としても大した腕で、飛龍偃月刀の達人だそうだ」
 続いて星が言う。
「華雄は董卓軍きっての猛将で、猪突気味なところはあるものの、その突撃の破壊力は凄まじいと聞いております。兵に慕われることでも名高いとか」
「なるほど、強敵ってことだね」
 桃香が言うと、白蓮は少し心配そうに先鋒の二軍を見た。
「張遼と華雄の組み合わせでは、恐らく北郷も孫権も苦戦は免れないだろうな。桃香、今のうちに先鋒が苦戦している時の対策を立てておいてくれ」
「うん、わかった」
 白蓮の命令に桃香が頷いた時、前方で鬨の声が上がり始めた。同時に孫権軍が汜水関に向けて動き始める。
「もう仕掛けるの!? 早すぎる!!」
 桃香は驚いた。まずは布陣して陣営を築いてから攻めかかると思ったのに、孫権軍は逸り過ぎている。
 
 孫権軍の突出はもちろん汜水関からも見えていた。
「あれは江東の虎やな。ええ気合やけど、ちと空回りしすぎちゃうか?」
 張遼が言うと、華雄がそれこそ虎のような凄みのある笑みを浮かべた。
「なら、戦というものを少し教えてやるべきか」
 張遼もにやりと笑う。
「出るんか?」
「ああ。篭りっ放しでは味方の士気も保てんからな。まずは一戦、相手の鼻っ柱を殴りつけておく事だ」
 華雄は胸壁に立てかけておいた愛用の武器、金剛爆斧を取り上げると、副官に命じた。
「華雄隊、出撃するぞ! 江東の虎退治だ!!」
 おおう、と汜水関の兵士たちがどよめく。華雄は引き出されてきた愛馬にまたがると、金剛爆斧を振るった。
「開門!」

 華雄隊の出撃は孫権軍からも見えていた。
「蓮華様、敵が出撃して来ました! 牙門旗は華の一文字、華雄です!」
 甘寧が馬を寄せてきて報告する。孫権は頷くと腰の宝剣、南海覇王を抜き放ち、号令をかけた。
「孫呉の勇者たちよ、今こそ功名を挙げる時ぞ!! 天下に我等が武の誉れを知らしめるのだ!!」
 周囲の兵士たちが怒涛のような鬨の声を上げる。それを聞きながら、孫権は思った。
(姉様なら、この戦いを楽しんで行えるのだろうな)
 彼女の姉、江東の小覇王と呼ばれた英傑だった孫策は、孫呉の名の下に天下を統一すると言う壮大な夢を描き、その夢の下に江東の民を団結させた。自由を尊ぶ気風の強い彼らだが、孫策のためなら命を投げ出しても惜しくないほどの強い忠誠心を抱いていた。
 しかし、その孫策は数年前に僅かな油断から重い戦傷を負い、それが元で亡くなった。姉の圧倒的なまでの強さを知っていた孫権にとって、それはまさに晴天の霹靂と言うしかない出来事だった。
(あれ以来……姉様の夢は、私が引き継ぐことになった。でも、私には姉様ほどの器はない……)
 孫権にとって、孫策は憧れの人であると同時に、あまりにも高い、超えるべき目標だった。誰もが孫権に孫策の夢を継ぎ、孫呉による天下統一を達成する事を望む。だが、孫権は江東は江東で一つの地域として、豊かに生きて行ければそれでいい、と考えていた。天下統一など、孫権にとっては重荷でしかない。しかし。
(器はないが……それでも皆が望むなら、私は皆のために天下を取ろう。その為にも、私はここで孫呉の武威を示さねばならない……!)
 孫権はそう決意していた。連合に参加したのもそのためだ。ここで孫呉の力を天下に見せつけ、同時に自分がその王たる器である事を示さねばならない。もはや最前列の敵兵の表情すら見えてきたその時、孫権は叫んだ。
「私は姉様を越える……! 邪魔をするな!!」
 その叫びが聞こえたわけではないが、華雄は相手の気迫を感じ取り、それに呼応するように己の武をよりいっそう昂ぶらせていた。強敵に対し、自分の力を限界以上に引き出す。これこそ、強き武人に求められる資質である。
「良き敵のようだ……だが、青いな」
 そう言うと、華雄は馬腹を蹴った。選りすぐりの駿馬がよりいっそうの加速を見せ、華雄は軍の先頭に躍り出る。彼女の荒ぶる武が、続く兵士たちに伝染していく。
「さらに駆けよ! 我らの主に勝利を捧げるぞ!!」
 華雄の叫びと同時に、董卓軍は歩兵すらがまるで騎兵の如く加速し、人鉄の津波となって孫権軍に激突した。
「な……!?」
 孫権にとっては目を疑うような光景が展開された。華雄隊の加速により、ほんの一瞬、号令をかける機会が遅れる。その隙を狙って突撃してきた華雄隊は、思う様槍を、矛を孫権軍に叩きつける。血しぶきと悲鳴、怒号が湧き、孫権軍の先陣が波の直撃を受けた砂の城の様に崩れ立った。
 とりわけ凄まじいのは華雄だ。彼女の金剛爆斧が右に左に閃くたび、兵士たちの命が枯れ草のように刈り取られていく。隊長格の士官が槍を持って立ち向かうが、数合ともたずに馬上から叩き落され、その光景が孫権軍の士気を萎えさせ、華雄隊の士気を高めた。
「何と言う奴……まともに指揮など取っていないのに、兵士を自在に進退させている!」
 孫権は唸った。指揮官がその武を見せ付けることで、配下の兵士たちも感化され、力を高めているのだ。亡き姉、孫策にもそういう傾向はあったが、それをより極端にしたような用兵だった。
「華雄を討たねば、そうでなくとも動きを止めねば……」
 孫権が言うと、横にいた甘寧が馬腹を蹴った。
「思春!?」
 呼びかける主に、甘寧は「勝利を」とだけ答えると、兵士たちの間を縫って華雄の前に立った。
「我が名は甘興覇! 華雄よ、我が挑戦を受けるか!!」
 幅広の曲刀、鈴音を鞘から抜いて突きつける甘寧に、華雄は獰猛な笑みをもって答えた。
「孫権の懐刀、甘寧か! 相手にとって不足なし。華雄、推して参る!」
 その叫びと共に、華雄は馬を走らせ、その勢いも乗せて金剛爆斧を叩きつける。甘寧は鈴音を斜めに構え、強烈な一撃を受け流した。二つの武器が火花を散らしてすれ違い、甘寧は相手から受け取った力を刃に乗せ、頸断の一刀を華雄に送り返した。しかし、華雄は足の動きだけで愛馬を後退させ、その必殺の一撃を回避する。
「やるな! さすがは甘寧。その武、噂に違わぬようだ!!」
 華雄が賞賛の言葉と共に攻撃を送り込み、甘寧は無言で回避する。もともと口数の多い方ではないし、孫権以外の人間に褒められた所で、別に嬉しくもない。
 こうして、二人は壮絶な一騎打ちを繰り広げた。甘寧は華雄をそう簡単には討ち取れないと判断し、とにかく一騎討ちに専念させて指揮を取らせないことを心がける。そうすれば、孫権の用兵で華雄隊を押し戻せると踏んだのだが……
「くっ、奴らの勢いが止まらん!!」
 孫権は必死に押し寄せる華雄隊への手当てを続けていたが、華雄が甘寧に対して優勢に戦いを進めていることが華雄隊の兵を昂ぶらせ、勢いが止まる事無く孫権軍を削り続けている。理を越えた敵の動きに、いかんとも対処しがたく、歯噛みする孫権の所へ、一人の兵が走ってきた。
「伝令! 伝令! 北郷殿より伝令です! ここはひとまず退いて仕切りなおしを図るが上策との事!」
「退けだと!?」
 一瞬頭に血が上った孫権だったが、自軍の兵が斬り倒されて挙げる断末魔の悲鳴に、その血を沈静化させる。
「わかった……引き鉦を鳴らせ! 銅鑼を打て!! 退くぞ!!」
 孫権は命じた。間もなく鉦と銅鑼が撤退の合図を知らせ、それは一騎打ちを続ける甘寧の耳にも入った。
「ち……華雄よ、その首預けておくぞ!」
 振り下ろされる華雄の一撃を避け、甘寧は馬首を巡らせた。同時に華雄の耳にも、汜水関から響く自軍の引き鉦の音が聞こえてきた。
「ふ……まぁ良いだろう。敵もこれで多少は警戒するだろうしな」
 辺りを見回し、倒れているのが自軍より孫権軍の兵士が圧倒的に多いことに満足の笑みを浮かべ、華雄は命じた。
「我らも引く。今日の宴はここまでよ!」
 緒戦の勝利に、華雄隊の兵士たちは勝ち鬨を上げると、一斉に汜水関へ向けて退き始め、後には両軍の屍だけが残った。
 
 孫権軍が戻ってくると同時に日が暮れた。夜襲を警戒して篝火が煌々と焚かれる中、袁紹軍の陣地中央に設えられた大天幕で軍議が開かれた。
「孫権さん、無様な戦いをしたものですわね」
 袁紹の厳しい言葉に、孫権は一瞬顔を強張らせ、そして項垂れた。
「返す言葉もない……」
 まだ集計は済んでいないが、孫権軍の死傷者の数は推定で千近くに達しており、生還した兵士たちもかなり士気が下がっていて、苦戦の程が伺われた。一方、この勝利で汜水関に篭る董卓軍の士気は大いに高まっているだろう。
(これでは、周瑜に何を言われるかわからない……)
 孫権の表情は暗い。周瑜は亡き姉孫策の側近にして親友であり、孫策亡き後は天下統一を最終目標とする拡大派の筆頭である。彼女を抑える政治力を得るためにも、この遠征で戦果を得る事を望んでいた孫権にとって、緒戦でのこの失敗は、あまりにも痛い政治的失態だった。
「まぁ、孫権さんはよろしいですわ。あの生意気な関の敵軍を破るためにどのような策を立てるべきか、皆さんの意見を聞こうと思うんですの」
 袁紹が打ちひしがれている孫権を無視して言うと、曹操がさらっとツッコミを入れた。
「あら、賊軍相手に策は不要だったんじゃないの? 袁紹」
「おだまりなさい、曹操さん! 揚げ足を取られるのは不愉快ですわ!!」
 袁紹は目を吊り上げて激怒する。軍議に来ていた桃香と白蓮はため息をついた。
「そんな揉めてる場合じゃないだろう。曹操も自重しろ。孫権、良い気分じゃないと思うが、敵の様子について詳しく教えてくれ」
 白蓮が議題を進めるよう促す。そこで、孫権は華雄隊との戦いについて詳細を語り始めた。聞き終えた所で、孔明が言った。
「なるほど、華雄さんの武勇によって成り立つ部隊ですか……華雄さんを止めるだけでは、部隊全体の勢いは止められませんね。華雄さんを何とかして討つ必要があります」
 確かに、華雄さえ討ってしまえば、部隊そのものが瓦解するだろう。しかし、江東きっての勇将である甘寧でさえ手こずったほどの相手となると、討つのもそう簡単ではない。それにもう一つ問題がある。
「しかし、華雄が今回出戦したのは、孫権軍が他の軍と連携を取らず突出したため。今後は関に篭っての防衛戦に専念するでしょうから……」
 荀彧が言う。そう、相手の出鼻をくじく事で味方の士気を高揚させる、と言う董卓軍の狙いは達成されているのだ。明日も華雄が出てくるという可能性はほとんどないだろう。
「関を攻めるしかないってことか……ヤッバイな。あたし攻城戦苦手なんだよ」
 馬超がうんざりした感じで言う。彼女の指揮する涼州軍は、全軍の三分の二、二万が騎兵と言う編成だ。騎兵はどう考えても城攻め向きの兵種ではない。
「ここは正攻法しかありませんね。大軍に戦術無しと言います。全軍を幾つかの部隊に分け、波状攻撃を仕掛けましょう」
 桃香は言った。流石にこの状況を簡単に打開する策は思いつかない。それなら、数の力に物を言わせ、相手を少しずつ削っていくしかない。
 すると、孔明が手を挙げた。
「待ってください。その作戦ですけど、少し変えれば、上手く相手を引きずり出して勝てるかもしれません」
 曹操が顔を上げた。
「何か思いついたのかしら?」
「はい。まずは、劉備さんの言うとおりに……そこで、機を見計らって仕掛けを入れます」
 孔明の説明を聞いて、桃香は流石と感心した。やはり本職の軍師は発想が違う。曹操は荀彧にも尋ねた。
「やれそうかしら? 桂花」
「問題ないかと。私も似たような事を考えていました」
 荀彧の答えを聞いて、曹操は袁紹に言った。
「と言う事だけど、問題ないかしら?」
 そこで白蓮も言い添えた。曹操への反感で良い作戦を否定されてはかなわない。
「本初、これは良い手だと私も思う」
 すると、袁紹は以外にも素直に頷いたが、さらに意外だったのは作戦へのもっともな疑念を提示した所だった。
「構いませんけど、決定的な役割を果たすのは誰がするんですの? それが決まらないと何とも言えないでしょう」
 それには一刀が答えた。
「策を出したのはうちの朱里だ。なら、それもうちで引き受けるさ」
 袁紹は怪訝そうな視線を一刀に向けた。
「貴方が? 兵の数は少ないですけど、大丈夫なんですの?」
「ああ、やれる。うちには華雄に負けない武人が二人もいるからな」
 一刀は自信ありげな笑みを浮かべた。
 
 軍議が終わり、自分の陣地に引き上げる途中で、白蓮が桃香に話しかけてきた。
「一時はどうなるかと思ったが、何とか事態を打開できそうだな」
 桃香は頷く。孔明が立てた作戦は、上手く行けば確実に汜水関を陥落させる事ができるはずだ。
「そうだね。それにしても、やっぱり孔明ちゃんは凄いな。あの子に較べると、わたしなんて軍師の真似事でしかないなぁって思っちゃう」
 桃香には正攻法しか思いつかなかった。すると、白蓮が桃香の肩を叩いた。
「そんな事ないさ。桃香がああ言ったから、孔明も作戦を思いつけたんだろう。お前はもうちょっと自分の仕事を自慢してもいいぞ」
「……ありがとう、白蓮ちゃん」
 桃香は笑顔で親友の顔を見た。すると、白蓮の顔が引き締まったものになった。
「汜水関の事はあれで良いとして、ちょっと気になる事があるんだ」
「……どうしたの?」
 桃香が聞くと、白蓮は袁紹のことさ、と答えてから話を続けた。
「本初はワガママで身勝手だけど、根は悪いやつじゃない。なのに、今日の軍議での孫権に対する言葉……あれはきつ過ぎる。あんな底意地の悪い事を言う奴じゃないはずなんだが」
 それに、と白蓮はさらに言葉を続ける。
「初めての軍議の時も、作戦が無いなんて言っただろ? あれもおかしい。本初はあそこまでバカじゃない。バカはバカだけど、それだけに定石と言うか、手順にはこだわる奴だ。あんな粗雑な事を言うはずがない」
 確かに、名家の後継者として帝王学を学んだであろう人物が、あんなお粗末な事を言うのは不自然だ。桃香は初めてその事を疑問に思った。
「どうも妙な事が多いよな、この遠征……桃香、ちょっと気をつけて周りを見ておいてくれ。戦いの指揮は私と星でやるから」
 白蓮の言葉に、桃香は固い顔で頷いた。

 翌日から、連合軍は本格的な攻城戦を開始した。諸侯の軍が一日三交代で関を攻め、矢を射掛け、あるいは石を投げつける。衝車も用意され、門に先を尖らせた巨木が叩きつけられた。
 一方、汜水関の篭城軍も二日目以降は野戦を避け、城壁の上から矢と石を落とし、敵の撃退に務めた。最初の三日くらいは、防衛戦も順調に進んだ。名だたる曹操軍も、城壁に手をかけることなく退いていくのを見て、歓声が上がったほどだ。
 しかし、これが五日目に入る頃になると、次第に篭城軍の士気が低下してきた。理由は疲労である。交代で戦うため、一日か二日は休養と負傷者の治療に専念できる連合軍と異なり、篭城軍の兵士は連日戦わなければならないのだ。食事の暇も無く、疲れがたまり、動きも命令に対する反応も鈍くなる。また、負傷者の治療も思うに任せない。
「ち……むこうの大将連中、案外冷静やな。初日に面子を潰された孫権なんて、確実に隙を見せると思うたんやけど」
 張遼が見回りをしながら舌打ちをする。敵が後退した後、関のあちこちにその場で倒れこんだり、座り込んだりしている兵士たちがいるのが見えた。
「このままでは、いずれ守りきれなくなるな……張遼、今のうちに虎牢関の守備部隊と交代できないだろうか?」
 華雄の提案に、張遼は聞き返した。
「呂布を呼ぶんか?」
 頷く華雄。彼女ですら絶対に敵わない、と認める董卓軍最強の武人、呂布。今はこの汜水関の背後にある虎牢関に三万の兵を持って詰めている。
「呂布に来てもらって、その間に我々は虎牢関まで後退し、部隊を再編する。場合によっては洛陽の守備部隊を呼び寄せても良い。とにかく、このままではまずい。兵士たちが限界を迎えるのもそう遠くないぞ」
 ううむ、と張遼は考え込んだ。華雄の言う事は良くわかるが、呂布は董卓軍の切り札だ。そう簡単に切るわけにはいかない。
「……わかった。ウチは賛成や。せやけど、ウチらの独断で関の守備部隊を交代はできへん。賈駆っちに許可を取るから、伝令を出す」
 張遼は言った。華雄も仕方ない、と言うように頷く。
「伝令が行って帰ってくるまで、二日ほどか……何とかそれまで保たせるとしよう」
 そう言った華雄だったが、翌日、一気に戦局は動く事になる。
 午前中の攻撃を担当していた公孫賛軍が後退を開始し、入れ替わりに北郷軍が前進してくる。華雄は兵士に弓の用意をさせながら舌打ちをした。
「まったく、食事の暇も無い……む?」
 華雄の視線は、前進してくる北郷軍の後方に吸い寄せられた。後退していく公孫賛軍と、今日三番目の攻撃を担当する孫権軍が、どういうわけか揉み合っているように見える。同士討ち、と言うわけではないのだろうが、後退の手順に混乱でもあったのかもしれない。
 一方、北郷軍はそんな騒ぎに気付く様子もなく進んでくる。その数は一万五千程度。一方、華雄隊はこれまでの戦いで若干被害を出しているとは言え、二万七千を数える。
 これは絶好の機会だと華雄は直感した。他の部隊との連携が取れない少数の北郷軍なら、野戦で叩き潰せる。それに成功すれば、汜水関を守りきる事も可能だろう。華雄は咄嗟に決断した。
「華雄隊全軍に告げる! 出陣だ!! 鉦を叩け! 銅鑼も鳴らせ!!」
 その時、張遼は関内の物資の残りを調べていた。食料は十分だが、矢がだいぶ不足してきている。これは洛陽から運ばせなくては、と考えながら竹簡を置いた時、突如出撃の合図となる鉦や銅鑼が打ち鳴らされ始めた。
「な、何が起きたんや!?」
 慌てて立ち上がった張遼の所に、泡を食った様子で副官格の武官が駆け込んできた。
「張遼将軍、一大事です! 華雄将軍が独断で出撃を!!」
「何やて!? 何で止めへんかったんや!!」
 張遼は怒鳴りつけたが、すぐにこの武官では華雄を止められはしないだろうな、と思い直した。とにかく、自分が行って止めねばなるまい。しかし、門のところに駆けつけた張遼が目にしたのは、今まさに華雄隊の最後尾が門を駆け抜けていくところだった。
「くっ……なんで華雄は出撃なんか決めたんや!」
 そう言いながら、張遼は城壁に駆け上がった。戦場のほうを見回すと、華雄隊と今まさにぶつかろうとしている北郷隊の後方で、公孫賛軍と孫権軍が混乱しているように見える。しかし……
「あかん、華雄の奴ハメられよった。何時もなら見抜けたやろうに……くっ、どないする?」
 張遼が迷ったのは一瞬だった。同僚を見捨てるわけにも行くまい。張遼は関全体に聞こえるような大声で叫んだ。
「張遼隊、出るで! 神速の足で華雄を助けるんや!!」

 その頃、華雄隊は北郷軍と激突していた。華雄の突撃のたびに、北郷軍の兵士たちが木っ端のように吹き飛ばされていく。
「手応えが無いぞ、雑魚共! この華雄と渡り合えるほどの剛の者はいないのか!!」
 十数人目の兵士を葬った時、本郷軍の兵がさっと割れて、長い黒髪をなびかせる美貌の将が現れた。
「そこまでだ、華雄! お前の相手はこの北郷が一の家臣、関雲長が務めよう!!」
 華雄は金剛爆斧を振るって血を払うと、関羽に向き直った。
「知らぬ名だな。貴様ごときが私を止められると思うのか?」
 そう言いながらも、華雄は感じ取っていた。この相手は強い、と。
「ならば、貴様を討って名を挙げるまで。行くぞ!!」
 関羽が突進しながら青龍偃月刀を叩きつける。華雄は咄嗟に金剛爆斧の柄でその一撃を食い止めたが、両手に凄まじいまでの痺れが残った。
「なに……! やるな、貴様!!」
 その痺れを無理に無視し、華雄は金剛爆斧を振り下ろす。巧みに馬を操り、回避する関羽。彼女は青龍偃月刀を両手で持つと、頭上で高速旋回させた。
「受けてみろ……! 今日の私は機嫌が悪い!!」
 それは、この戦いの被害のせいだったが、遠因は桃香にある。連合全軍が合流した日の軍議で、一刀の帰りが遅かったのは桃香と話していたからだとか、今日の作戦を思いついたのは桃香のおかげだとか、朱里が話していたからである。
 朱里は「本当に、劉備さんは決して悪人ではないと思いますが……」と言っていたが、愛紗は信じていない。桃香に侮られないようにするには、とにかく北郷軍の名声を上げ、桃香や彼女が属する公孫賛軍などより、そして袁紹や曹操と比較しても、天の御遣いたる一刀を擁する荊州軍こそが、この世を正す正義の軍であると示さねばならない。
「くらえ、華雄!」
 決意と憤懣を込めて、愛紗は青龍偃月刀を振り下ろした。
 
 一方、張遼隊は関を出たところで、前を公孫賛軍に塞がれていた。
「ちいっ、やっぱり擬態かい!」
 この戦いが始まってから、何度目になるかわからない舌打ちをする張遼。そう、公孫賛軍と孫権軍がぶつかり合って動けなくなっているように見えたのは、言うまでも無く見せかけであり、華雄隊が釣れた直後から、今度はその退路を断つように動いていたのだ。
 しかし、完全に華雄隊の背後に回り込めたのは、見たところ一万ほどの騎兵だけのようだ。張遼自身の手勢は二万近い。まだ華雄を救う機会は去っていないと張遼は思った。
「敵は小勢や! 一気に蹴散らすで!!」
 張遼は味方を鼓舞するように叫び、突撃の号令を出す。しかし、相手はただの騎兵ではなかった。
「来たな、張遼。あいにく私はお前を討とうとか、まともに組んで戦おう、とかは思っていない。華雄隊が崩れるまで、しばらく踊ってもらうぞ」
 騎兵を自ら率いる白蓮が言うと、今日は桃香ではなく白蓮に付いて来た星が、凄みのある笑みを浮かべた。
「もっとも、討てるようであれば、この趙子龍がその首をいただくつもりだがな」
 白蓮が苦笑する。
「ま、無理に討ちには行くなよ? 今回の相手はあくまでも華雄だからな……よし、全軍私に続け!!」
 頃合を見計らい、白蓮は剣を抜くと、それを振り下ろして合図をした。直ちに公孫賛軍の騎兵隊が駆け出し、張遼隊との間に一定の距離を置きつつ、馬上から弓矢や投槍を浴びせて攻撃する。それは張遼隊に少なからぬ打撃を与えた。
「くっ、邪魔するなや!」
 張遼はその神速と言われる用兵術で公孫賛軍に迫るが、そこは白蓮も騎兵使いとして天下に名高い将だ。巧みに騎兵隊を進退させ、張遼の猛攻をいなし続ける。これがもし、張遼が普通の精神状態だったなら、白蓮の牽制を突破しえたかもしれないが、焦りと本人も自覚していなかった疲労が、張遼の判断力を鈍らせていた。何度目かの突撃が空振りに終わったとき、華雄隊と北郷軍が激突している方向から、わあっという歓声と悲鳴の入り混じったどよめきが聞こえてきた。
「しまった、華雄……!」
 張遼は手遅れになった事を悟らざるを得なかった。しかし、失敗による精神的衝撃から、一瞬で立ち直って見せたあたりは、流石に彼女も天下に聞こえた名将だった。
「この戦、ウチらの負けや! 全軍撤退! 汜水関も放棄や! 虎牢関まで退く!!」
 そう命じると、張遼は全速で撤退にかかった。
「追いますか?」
 尋ねる星に、白蓮は首を横に振った。
「やめとこう。手負いの獣は手強いぞ。それより、華雄隊を掃討する。全軍反転!」
 撤退していく張遼隊を追って、孫権隊が動き出しているのを白蓮は見ていた。復讐心に燃える連中のほうが、そんな仕事には相応しいだろう。馬首を巡らせた白蓮たちは、前方の華雄隊最後部に突っ込んでいった。
 
 わずかに時間は遡り、関羽と華雄の一騎打ちは、関羽が華雄を圧倒する展開になっていた。自分の金剛爆斧よりも重い青龍偃月刀を、息も乱さず流星のように繰り出してくる関羽の前に、華雄は防ぐのが精一杯の状況だった。
(馬鹿な、こんな武人が名を知られることも無く、この天下にはいたのか。私を越えるのは呂布一人だと思っていたのに……!)
 華雄は目の前の現実が信じられなかった。関羽ばかりではない。北郷軍の先頭に現れた、張飛と言うらしい別の武将も、凄まじい武を発揮して華雄隊をなぎ倒している。その小さな体から繰り出される蛇矛が閃くたび、華雄が手塩にかけて育て上げ、鍛えぬいた精鋭たちが、まるで人形のように吹き飛ばされていく。その雄姿に北郷軍の兵士が奮い立ち、華雄隊の兵士たちを次々に屠って行く。
 それは、華雄と全く同じような戦い方で、しかも彼女を上回っていた。己の武に絶対の自信と誇りを抱いていた華雄にとって、信じられない悪夢のような戦いだった。
(だが……負けられない。負けるものか。私を信じてついてきてくれた兵たちのため、私を拾い一端の将にしてくださった主のため、信頼を裏切ってしまった僚友のため、そして何より我が武のために……!!)
 華雄はそう自分を奮い立たせ、裂帛の気合を込めて金剛爆斧を関羽に叩き付けた。
「私は、こんな所で負けられないのだ! どけぇーっ!!」
 しかし、現実は非情だった。
「それは、こっちも同じこと! これで決めてやるぞ、華雄!!」
 関羽の青龍偃月刀が、華雄の全力を超える速度で閃く。その一撃は華雄の手から金剛爆斧を弾き飛ばし、速度と威力をほとんど衰えさせる事なく、華雄の身体に吸い込まれた。
 その瞬間、華雄は宙を舞っていた。馬上から吹き飛ばされ、天地がめまぐるしく逆転する。
(私は……負けた……のか?)
 そう思うと同時に、激痛が押し寄せ、華雄の視界は急速に暗くなっていった。最後に彼女の視界に映ったのは、崩れたち敗走していく彼女の兵士たちの姿だった。
(……済まない……)
 そう詫びると同時に、華雄の意識は完全に闇に吸い込まれていった。
「汜水関の守将、華雄殿を北郷が一の家臣、関雲長が討ち取ったり!!」
 愛紗の勝ち鬨が、激しかった汜水関の戦いの終わりを告げる合図だった。
(続く)


―あとがき―

 今回は華雄と霞(張遼)の二人が激しく目立ちました。好きなんですよ、この二人。
 次回は呂布初登場。今回以上に武人たちが乱舞します。


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