ちょっとだけシャイな僕は、きっと純情世界一。
『9話・夢』
ほいやっそいやっ。
えいやっはいやっ。
「……何をしているんですか?」
一心不乱に腰を前後に動かす僕に、メアが疑問を投げ掛けてきた。
激しく腰を前後に動かしながらメアの問いに答える。
「いや、ゲッダンを少々?」
「いえ……訊かれても……」
それもそうだねーと云いながら、腰の動きはラストスパートへ。
「その、そもそも、げっだんって何ですか?」
「僕に訊かれてもなぁ……」
「えぇ……」
ぶんぶんっ! ぶんぶんっ! ごきっ。
「ぬぐわぁ!?」
「だ、大丈夫ですか!? いま鈍い音がしましたよ!?」
腰がぁ……腰がぁ……っ!!
「ぼ、僕は……もう、だめ……だ……」
がくり。
「わあああああ!! ど、どうしよう!? ジジ! ジジーーー!!」
倒れ伏した僕を見て、メアが叫び声を上げる。
慌てるメアも可愛いなぁ。
腰の痛みが引いていく気がする。
「呼んだかの?」
ジジが前方空中回転をしながら現れた。
そのまま、僕の腰に着地する。
「あんぎゃああああああああああ!?!?」
「おお!? なんじゃ、びっくりしたじゃろうが!」
そう云って僕の腰をぺしんと叩くジジ。
「お? おお!? 顔面が蒼白にっ!?」
「きゃあああ!? しっかりしてください!!」
うん、それ無理☆
僕の意識が、薄れていく。
「もう、むりぽ」
深い暗闇の眠りに落ちた僕であった。
*****
草木が生い茂り、大樹が日の光を適度に抑える。
とても清い風の吹き流れる樹海。
此処は、聖地と呼ぶに相応しい場所。
精霊があまねく森林。
その森林に存在する、ひとつの集落。
「そんなこんなで、やって来ました妖精族の里! ひゃっふぅ~!!」
集落の入り口。
唐突に叫び声を上げた僕を、不審そうに見る妖精族の皆様。
ああ、突き刺さる視線が気持ちいい……。
僕が「何こいつ、ちょっとヤバくない?」的な視線に晒されて、身体をワナワナと震わせていると、声がかかった。
「あの、誰に説明しているんですか?」
「それ以前に、お主テンションが高すぎんか?」
一人と一匹が不思議そうに尋ねてくる。
だが、何故に僕と距離を取っているのだろうか?
僕にはさっぱり分からない。
「こーゆー時は、説明口調で云うのが古典なのさ! テンションが高いのは、妖精とかファンタジー要素が出まくりだからさぁ!」
良いよね、妖精。ファンタジーの王道だよ。
耳の長い妖精族のお姉様な妖精に、ちっこい妖精らしい妖精。
赤い帽子を被った幼女妖精に、青い帽子を被った少女妖精。
見渡せば、妖精、妖精、妖精。
妖精が選り取りみどりだぜ! 流石は妖精族の里!
ひゃっふぅ~! と再度叫ぶ。
途端に強まる、突き刺す視線の嵐。たまらんね。
男の妖精? いや、そんなのに興味無いし。
兎にも角にも、妖精は美人さんが多い。
僕が見た限りでは、約6割が美人だ。物語の定番だね!
ぐへへへへぇ、と笑いが洩れる。
おっと、涎が……。
「さて、そろそろ急ぐか。のぅ、メア」
「そうですね。先方を待たせても悪いですし。行きましょう、ジジ」
メアとジジが悠然と歩みを再開させる。
その足には迷いがない。
おやおや、僕は無視かい?
*****
僕達は植物で出来た城にやってきた。
集落なのに城があるのはどうなのだろうとも思ったが、ファンタジーだものと自己完結しておいた。
城門を守る男の妖精騎士。
身体は細身なのに、ひ弱さを感じさせない。
なによりも、その容姿は実に整っている。けっ、イケメンが。
唾を吐きだしたいのを堪え、中に通される。
そこで、給仕服を着た女性の妖精が出迎えてくれた。
僕が妖精のお姉さんの後ろ姿に情欲を掻き立てられ、息遣いが荒くなってきたころ、一際大きな扉の前に到着した。
その扉が開き、僕達は中に入る。
部屋の中は豪奢な装飾品が飾られ、この部屋を荘厳に感じさせる。
奥には玉座があり、その前で豪奢に着飾った一人の佳人が立っており、その部屋の壁に沿って何人もの妖精騎士が立ち並ぶ。全員見目麗しいことこの上ない。
大半が女性の妖精騎士なのが特に華々しさを際立たせる。
おそらく、両脇に美人な妖精騎士のお姉さんを侍らせて、玉座の前に立つ佳人が妖精族の長なのだろう。
というか、妖精族は女性主権なのだろうか?
「よく来たわね。歓迎するわ」
柔らかい笑みを浮かべて、妖精族の女王が歓待の言葉を云う。
「うむ。久しいな、ティタニア」
「お久しぶりです。ティタニア様」
ジジとメアが言葉を返す。
そこには気負いなど感じられない。
きっと、気心知れた善き友人みたいな関係なのだろう。
しっかし、女王様の名前も定番だねぇ……。
僕は眼前に立つ麗しのご婦人を見ながら思う。
さらりと流れる金髪はまるで絹糸ようで、瞳はどこまでも澄んだ蒼色をしており、白い肌をした身体は凄く蟲惑的な肉付きをしている。
そのふくよかな胸が目に眩しいです。
「ふふ、貴女も健勝そうね。流石は"ナインライブス"と云った所かしら? それとも、今は聖魔様、だったかしら?」
「それは昔の話じゃろう。それに今の呼び名も、仰々しくてワシは好かんのじゃがなぁ」
「うふふ、百年前は"血塗れの殺戮者"と謳われた貴女も丸くなったわねぇ」
「そういうティタニアも、"妖艶妖王"と呼ばれておった頃に比べれば、随分丸くなったもんじゃろう?」
「その呼び名も懐かしいわねぇ」
「なんせ百年前じゃからなぁ」
お互いに笑い合う妖精の女王と2本の尻尾を持つ子猫。
なんだか、中学二年生が考えそうな言葉が出て来た。
うむ、これでこそ異世界だ。
語り合う妖精と子猫という、ある種のシュールさを感じさせる光景を前にして、僕は妖精の女王の肉体を見つめる。
うむ。実にエロイ身体だ。素晴らしい。
「そこの方は初めまして。私はティタニアと申します」
ふと気付けば、女王が僕の方を見ていた。
取り敢えず、言葉を返す。
「初めまして。女王様はエロイですね」
「ちょっ、な、何を云ってるんですか!?」
メアが声を荒げて僕に云う。
つい心の声を口に出してしまった。
ざわざわと、ざわめきが広がる。
「なんと不埒なっ!!」
「極刑ものですわ」
「……下劣極まりないな」
「聖魔様と魔女殿の知り合いでなければ斬り捨てているとこだ!」
「まったくだな」
物騒な内容が聴こえる。
既に女王の両脇に控える二人のお姉さんが、腰に下げている剣の柄に手をかけ、僕を睨んでいる。
うわぁい、居心地最悪だぁ。
どうしようかなぁと、ぼんやり考えていると、女王が微笑みを浮かべながら妖精騎士の皆さんを窘める。
「お客様に失礼ですよ。不躾な事は控えなさい」
女王の言葉で、一気に敵意の視線が和らぐ。権力万歳。
女王は再び僕を見遣り、微笑む。
あ、ど~も。
「お主は……まったく、少しは緊張感を持てと云うに」
ジジが嘆息する。
残念だが僕はそんなことを云われた覚えはない。
「なかなか、面白そうな御仁ね?」
「こやつと一度暮らしてみるか? 二度とそのような事を云えんくなるぞ」
あんまりだ。
「あらあら、そうなのかしら?」
女王が僕を見て問いかける。
「はっはっは。ジジはツンデレなので、本心はきっと僕にぞっこんです」
「それはない」
「メアも僕にぞっこんです。もう少しで恋仲な関係になりますよ」
「なりません」
僕の言葉が一蹴される。
まったく、この照れ屋さんどもめ。
「あらあらまぁまぁ、ホントに楽しそうねぇ」
女王がクスクスと笑う。
その姿は本気で綺麗だ。まるで名匠の描いた絵画の様である。
「しかし、女王様は美しいですね」
「あら? 今度は私を口説くおつもりかしら?」
面白そうに目を細める女王。
「許されるのなら、すぐにでも口説きたいですね」
「まぁ……」
驚いたように目を見開く女王。
そして、すぐに面白そうに笑顔を浮かべる。
「いいですよ。どうぞ私を口説いてみて下さい」
その言葉に周囲が騒然となる。
「女王陛下!」
「なにを仰っているのですか!?」
「この様な下衆にそのようなことを!」
口々に抗議の声が上がる。
随分な物言いもあった気がする。下衆って云うな。興奮するじゃないか。
「静かになさい」
女王が周囲を見回す。
それだけで喧騒が静まるのだから凄い。
「さぁ、どうぞ」
女王が僕を見て口説き文句を促す。
そこで僕はどのような口説き文句が良いか考える。
条件1・女王は年上。少なくとも百歳以上。
条件2・素晴らしい美貌を誇る。まさに人間離れした美しさの容貌を持つ。
条件3・しかしながら、中々に妖しい気配を持っている。イッツミステリアスなり。
これらの条件から最適の言葉を選び出す。
そして、ひとつの言葉が脳内検索にヒットした。
よし、これならば……イケるっ!!
「それでは、失礼して」
「ええ」
微笑む女王。
僕はひとつ咳払いをして、言葉を口にする。
「ババア、結婚してくれ」
牢屋にぶち込まれた。
*****
はっ! と意識が覚醒する。
窓から外を見ると、既に暗闇が迫っていた。
……随分と懐かしい夢を見た。
起き抜けの頭でそう思う。
まぁ、懐かしいとは云っても半年程前なのだが。
あの後が大変だった。
牢屋にぶち込まれて、どうしたものかと色々とやってみたら、牢屋番のお姉さんに「うぜぇ、こいつマジうぜぇ」な目を向けられた。
最終的には、まるで汚物を見る様な目で見られた。
「あの目には興奮したものだ」
うんうんと頷いてみる。
何故にあのような目で見られたのか、未だにさっぱりだが。
「……あ、起きましたか」
背後から声をかけられ、振り向くとメアがいた。
「大丈夫でしたか?」
「うん。だいじょーぶ」
心配してくれていたようだ。良い子である。抱きしめたい。
「ジジは?」
「『天罰じゃ!』とか云って、出掛けました。もうすぐ帰ると思いますが」
僕に一切の配慮もない。酷い奴だ。抱きしめてやる。
「そういえば、なんだか嬉しそうな顔をしていましたけど、夢でも見ていたんですか?」
「うん。妖精族の里でのことをね」
「…………ああ、あれですか」
メアが遠くを見つめて虚ろな目をしている。
まるでトリップした様な状態で、うふふと笑い声が洩れている。
どうしたんだろうね?
「帰ったぞ……むっ、起きておったか」
ジジが帰って来たようだ。
ジジは、なにやら尻尾に器用に袋を提げている。
「それ、なぁにぃ?」
「むっ、これは、そのぅ……」
ジジがそっぽを向く。
若干照れた様な声で云う。
「お主の為に、その、腰の塗り薬を……」
恥ずかしいのだろう。
声が徐々に小さくなっていく。
その様子を見ていた僕は、思わずジジに飛びかかった。
「このツンデレめぇ!!」
「にゃっ!?」
ジジが悲鳴を上げるが、もう遅い!!
ぼきっ。
「ぴゃあああああああああああああ!!?」
飛びかかった直後、再び僕の腰から異音がした。
崩れ落ちる僕。
「大丈夫ですか!?」
ようやくトリップ状態から我に還ったメアが僕に駆け寄る。
ジジも警戒しながらも、心配そうに見ている。
その後、僕の部屋に運ばれて介抱された。
偶には腰を痛めるのも、いいかも知れない。
ぽんっ。
びきっ。
「ぎゃあああああああ!?」
「あ。すまん」
折角、綺麗に、纏めようと、したのにっ……!!
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あとがーき
作者のネタがそろそろ尽きてきました。もう限界よ!
もうなんだか、無性に甘いものが食べたい心境です。とろけるプリンとか。
てか、最近暑いのでだれまくりですよ。うなー。
▼感想毎度ありがとうねぇ……
>へ、変態だーっ!!(笑)
>…いや、可愛ければ男でも構わない、とか言わないだけマシ……やっぱり変態は変態だな。
変態(略 紳士だ(略
>P.S.そのうち、大根持って「ふんどし!」とか言い出しそう…って、ネタわかる人いるのか?
作者は浅く狭い知識しかないので、ネタはグルグルくらいしか分からないですよー。にぱー。
柴田のアーミン先生のネタかと思いました。
>逆に考えるんだ。
>こんな可愛い子が女の子なわけないとか
>付いてる?むしろご褒美ですとか
>可愛いからいいじゃないかどっちも穴あるしとか意識改革すればいいと
>思うよ。
>まあこの主人公の場合次の日くらいにその領域に至りそうだw
その境地に達したら色んな意味でヤバイですね。流石に。
主人公は紳士なので、その境地にはそれほど遠くない内に到ることでしょう。
>おい!なんだこれ!おもしれーぞ!
>頭空っぽにして読めました。
おう!ありがとよ!うれしーぜ!
何も考えずに読んで頂ける、軽い内容で構成されているのが当作品でございます。
今後ともご贔屓のほど宜しくお願いいたします。
>あなたを変態です。
惚れました。嘘ですが。