喧嘩は止めて争わないで、僕のた……うわっ、石を投げるな!
『28話・女王と癒しの魔女-a』
準備完了いざ王都という運び。なんやかんやと色々な出来事もあったけど、結局は当初の目的を果たす為に馬車に乗り込み王都へ向う。
ガタガタ揺れる馬車の中。相も変わらず気分が悪い。先日、馬車でエライ目にあったのは記憶に新しい。
確かに原因は十割が十割、僕である。それは違えようもない事実。
「しかし、これは酷いのではなかろうか」
「適切な処置じゃ」
ぐるぐる巻きに身体を縛られ拘束されている僕、いと哀れ。
なんでも、僕が吐きそうになったら問答無用で馬車外へと叩きだすためらしい。叩きだすのに動き回れたら鬱陶しいので拘束したとのこと。
僕の人権がおそろしく軽い扱いを受けている。これは断固抗議すべきであろう。
「これは人道的に見て明らかに酷い。断固として抗議する!」
「ファンタジーじゃから仕方ない」
なんてことだ。まさか、ファンタジーの一言で片づけられるとは思ってもみなかった。凄まじくこの状況に合致していないのに、何故か納得しそうになる僕。しっかりするんだ僕、意識をしっかりと保て。
「ファンタジーは関係ないと思う!」
「ならば、ネタじゃ」
「それなら仕方ないね」
「……納得しちゃうんだ」
ネタならば仕方なし。そう思っている僕に、呆れた声を上げるユリアさん。ザ・変身モードである。
何故にユリアさんが同行しているのかと云うと、今後の方針として王城で騎士になるらしい。剣の腕前には自信があるらしく、事実その腕前は騎士として充分の力量とジジの太鼓判もある。
さらに云えば、安全面で云えば女王直属の近衛兵になるのが最も安全。その為の口添えもジジとメアがするとのこと。二人の優しさ此処に極まれり。
まぁ、詳細に二人の過去を知り得ている訳ではないけれど、それが中々に暗いモノであることは、日々を共に過ごせば自然と感じ取れる。そういった節を見かけない訳でもないし。
故に、同じ様な境遇のユリアさんを放ってはおけないのだろう。
「どうせなら、その優しさの半分を僕にくれても良いのにぃ」
そうとは分かっていても、ちょっとした不満があるのも事実。僕だって優しくされたいんだよ! 確かに、僕は過剰な優しさには不安になるけどさ、それでも優しくしてくれたら嬉しいんだよ!
具体的には毎日添い寝とか、日々の接吻とか、僕のセクハラ行為を容認してくれるとか!
「凄い邪心を感じます」
メアの勘が冴えわたっているから困る。以心伝心が極まり過ぎた。僕の心のプライバシーが侵されかねない。メアだったら望むところだったりするけれど。
そんなことを考えていると、お腹の虫が『アンゴルスター星雲二十五時!』と鳴いた。吐かれたら敵わないと、朝食を食べさせて貰えなかったのだ。空腹でお腹の虫が騒いでも仕方ないよね!
「相も変わらず、狂った腹の音じゃな」
「ねぇ、貴方は本当に人間なの?」
ジジの呆れを通り越して感心に達した呟きと、僕の種族を疑いにかかるユリアさんの疑惑に満ちた言葉。
まさか、腹の音だけでこんな反応をされるとは思ってもみなかった。そんなに僕の腹の音は変なのだろうか。
「変じゃ」
「変ね」
「変です」
三人同時に変だと云われた。可笑しい。元の世界では好評だったのに。何処ぞの前線基地には、この程度の腹の音を持つ男達で溢れているというのに。
なんというカルチャーショック。
*****
道中になんやかんやと有りはしたが、無事に王都へと辿り着いた僕達である。空腹加減と気分の悪さが半端無い。
太陽も頂点に座す時間帯だというのに飯処に向うでもなく、そのままに王城へと直行する。
確かに王城で食事を頂けることは想像がつく。仮にもVIP待遇のジジとメアがいるのだ。豪勢な食事程度は用意してくれるだろう。
故に食事を取らないで王城へと直行するのは良い。ああ、いいとも。
「しかし、何故に僕は縛られたままなのか」
「お主は平然とマリエルの前で無礼を働くからな。それくらいの扱いは当然じゃ」
「そうですね。むしろ、今こうして五体満足で居られることが不思議なくらいですし」
ああ、それは僕も思う。王族とか偉い人相手に無礼をしている意識はきちんとあるし、その上でそういう行動をとっている訳だけど、よくもまぁ、今現在こうして命を繋ぎとめているものだ。
普通なら、その場で処刑されてもおかしくないことをしているのにね。それでも僕が無事なのは、ひとえに応対した相手が悉く奇特な人物であったことが幸いした。幸運万歳、超万歳。
流石はファンタジー。現代社会では考えられない人物が跋扈している。これだからファンタジーって大好き。ご都合主義大万歳。
「それに加え、僕の主人公補正も加算されている! ふははっ! やはり僕は選ばれた人間なのだよ!」
「多感な時期の子供が口にするようなことを云うのね、貴方。その年で」
「心はいつでも少年なのさ。性癖はアダルティーだけど」
身体は大人、頭脳は子供、趣味嗜好はプライスレス。それが僕であるからして。
「ようこそ、おいで下さいました。ご足労をお掛け致しまして申し訳ございません」
グダグダと心温まる会話を三人と続けていると、不意に、こう、あからさまな程に好青年でイケメンだぜ! というような声が耳に滑り込んできた。
視線を前に向ければ、既に王城へと着いていた模様。その城門の前に、イケメンスマイルを浮かべて立つ美青年。
憎いアンチクショウこと、スティーノである。
「出迎え役が貴様だなんて、がっかりだ!」
「私も貴方が同伴しているのに落胆の念を禁じ得ませんよ」
僕とスティーノの間で火花が弾ける。この野郎、しばらく会わない間に、というかたったの三日間で成長してやがる。まさか僕に皮肉を返すとは。
くそぅ、スティーノのどや顔が非常に腹立たしい。
「やるようになったじゃないかっ」
「ええ、御蔭さまで」
ふふふと互いに笑い合う。この野郎、絶対にまた極悪な悪戯をしてやる。貴様は弄られキャラがお似合いなのだ!
「え、なに? 仲が悪いの?」
「いえ、仲良しです」
「あやつに友人と呼べる輩が居るとすれば、スティーノ位じゃしな」
なにやら三人がひそひそ話をしている。残念ながら内容を聞き取ることは出来なかったが。一体なにを話していたのだろうか。
そんな三人に、正確にはユリアさんに気付いたスティーノが口を開く。
「おや、そちらの方は?」
「僕の愛人です」
「ははっ、冗談が過ぎますよ」
こいつとは一度決着をつけねばなるまい。
「それで、実の所はどのような?」
「うむ、マリエルの近衛にどうかと思ってな」
「は、初めまして! ユリア・イルゲードと申します!」
「ユリアさんは剣の腕が立ちまして、そこで陛下の近衛が足りないと嘆いておられたようですので、ならば如何かといった次第です」
スティーノの言葉に、ジジ、ユリアさん、メアの順で答える。
「そうでしたか。それならば、イルゲード殿も謁見の場に?」
「うむ。出来ればワシら直々に紹介したいと思っているのじゃが、都合してくれぬか?」
「委細承知致しました、聖魔殿」
「すまぬな」
「労いをかける程のことじゃないよ」
「ええ、確かに労いの言葉をかけて頂く程のことではありませんが、貴方が云わないで下さい」
それは断る。
「まぁ、こやつの事は放っておけ。その方が楽じゃろう」
「……そうですね。改めまして、ようこそおいで下さいました」
「ふははっ! よきにはからえ!」
「静かにしましょうね?」
最近メアの辛辣度が増している気がする。ツンデレ状態のツン期が、かくも辛辣な物であろうとは。予想GUYです。
「それでは、どうぞお入り下さい。陛下も御待ちでございます」
そう云って王城へと歩を進めるスティーノ。そんなスティーノについて行く三人。うん、ちょっと待とうか?
王城内部へと歩く三人の後ろ姿に声をかける。
「ちょっ、僕の縄をほどいてぇ!? 放置!? ここでも放置なの!? やだ、悔しい! なのに、感じちゃうっ!!」
簀巻き状態で何をどうすればいいのか分からないが、取り敢えず、ビクンビクンしておこう。
*****
「悪いわね。こんな下らない諍いに巻き込んで」
謁見の場。
玉座に座り、僕達へと言葉を発する女性が一人。
その相貌は見目麗しく、同性でさえ羨むほどの体躯を誇り、知に明るく武に精通する才覚を持ち、人々の上に立つ資格を生まれた際より手にした御仁。
それが、眼前の玉座に悠然と座す女性――マリエル陛下、その人である。
「しかし、本当に東も煩わしいことをしてくれたわ」
「確かにな。こうも公然と条約を破棄するなど、何を企てておるのやら」
「ええ。妾としても、その辺りが実に気にかかるわ」
ジジと言葉を交わすマリエル陛下。
先代たる父から実権を奪い、名実ともに歴代最高峰の賢君と謳われる女傑であるが、流石に此度の事態は頭を悩ます物らしい。
歴代の王族の中でも抜きんでた傑物であり、一人称が「妾」であるにも関わらず年寄り口調でない独特の個性持ち。そんなマリエル陛下でさえ、今回ばかりは、何かと後手後手に喫するという。
「東の動きが迅速過ぎるのよねぇ。妾の打つ手打つ手を即座に潰しにかかるなんて。それも戦争回避の物だけを」
「東方世界は戦争を望んでおると云うのか?」
「そう考えることしか出来ない動きだもの。不気味でならないわ」
「なるほど、ならば確かにワシ等が王都に居た方が、なにかと利があるのう」
「ええ。それに、本格的な戦争に突入するかもしれないのだから、貴女達を近場に置いていた方が牽制も出来るしね」
「身の守りに適すとは云えんがな」
「いいのよ。数多の伝説を残す聖魔が居ると分かれば、それだけで効果は絶大なんだから」
「じゃから、間者をあえてそのままにしておったのか」
「虚実混ざった情報ほど怖い物はないからね」
「なんじゃ、別にそのままにしとる訳でもないのか」
「後手に回っていると思わせるのも駆け引きというものでしょう?」
なんだか会話が早いなぁ。ちっとも理解出来ない。所々の要所を抜いて話しているから尚更に。
盛り上がりを見せるジジとマリエル陛下から視線を外し、横目でユリアさんとメアを見る。
メアは話しの内容を理解しているのかいないのか茫洋としており、ユリアさんは緊張に身を強張らせている。
視線を周囲に走らせれば、城の兵士達が――十数名だが――泰然と壁を背に並んでいる姿。その中の何名かは僕を睨んでいる。無理もないけどね、初っ端と先日と続けて陛下の前で無礼な振る舞いをしたのだから。内心腸が煮えくりかえっていることだろう。
しかし、僕は主人公であるからして、そんな彼等を華麗に無視する。世の中の主人公補正万歳。マジ万歳。……誰だ、僕を主人公じゃないなんて思ったやつは。
そんな思いを振り払うように、視線を玉座に向ける。マリエル陛下の傍らに立つのは、スティーノと陛下直属の近衛隊長。
うむ。スティーノは、僕に向けられる僅かな敵意を感じ取っているようだ。表情は平然としているが、お腹をさするようま感じで手を置いている。気を配る奴ほど、この状況は憂うべきものだからね、当然と云えば当然なのかしら。
まぁ、近衛隊長も僕に敵意を向けているしね。いや、むしろ殺意なのかな? どちらにしろ、女性から受ける物は快感になるから問題ないけど。
そんな風にこの空気を楽しんでいたら、いつの間にか話題はユリアさんの事になっていた。
特筆することもなく、流れる様にユリアさんが近衛隊に入隊する運びになったのは、マリエル陛下の度量の広さ故か、ジジの巧みな会話運び故か。たぶん、どっちもだろうけど。
「さてと、疲れもあるでしょうし、食事まで休んでいてくれて構わないわ」
そんな陛下の言葉と共に、謁見は解散の運びとなった。
謁見の間を辞す際に、一言も喋ってないことを思い出す。しまった、今回もスリーサイズを聞こうと思っていたのにぃっ。
まぁ、知りたい事は知れたから良いか。
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なんてっこたい!
20話で書いた、主人公的昔話の完全版のデータを消してしまうという悲劇。すべて消去してから気づくなんて……。
ちくしょう!やる気がなくなってくるぜ!なんてこったい!
▼体調には気をつけましょう。作者は、もう……。
>ベロリンチョで悪寒が襲ってきた。気持ち悪いです。
>急に鳥肌がぞわわわわ。もっと自重してほしい。
本当は「ペロッ……これは涙!」みたいなネタ的な表現にしようとしていたのですが、これに関しては主人公の、人によっては鼻につくとか悲惨な過去(笑)とか、そういったものから築かれた行動理念・思想に関係しているので、あえて入れた表現だったりします。
確かに人によっては好みの別れる表現ですね。まぁ、非難覚悟で投稿している様な物なので、作者的にはそういった評価は当然だと思います。
ですが、少々のやり過ぎた感があるのは事実なので、これからは出来るだけ自重しようとは思いますが、果たして作者の自重と貴方様の自重がどこまでの認識によるのか分かりません。なので、もしもお気に召さずに気分を害するようでしたら、「この作品は最悪だ」と喧伝しても構わないと思っています。
作者としても表現などには気をつけるつもりですが、もしも、その限りでは無い場合は、この作品を読まないことをお勧めします。所詮は素人作品なので内容も文章も拙いと思いますし。
取り敢えず、作者の狙い通りの反応を頂いたので、内心でほくそ笑んでおこうと思います。うへへ。
なんにせよ、指摘に感謝致します。ありがとうございます。
>一言だけ…「リア充」というか「メア充」むしろ「ハレ充」?
>あたまわるくてすいませぬ。
御安心を。作者はもっとあたまわるいのですよ!
このような作品を書いている時点で明らかですね!
>ダイナブレイドの出番にMOTTOMOTTO~とか歌って叫ぶ。何時の間に手懐けたのでしょう。
>涙をキスで啄ばむ描写は見たことあるけど、ベロリンチョは珍しい。主人公の紳士道は一線を区してますなぁ。
この表現は何気に主人公のこれまでの背景を想起させる一言ととして入れたのですけれど、ぶっちゃけそうは思えませんね。
ううむ、作者の腕もまだまだですなぁ……。
>シリアス? 尻assの間違いですね。意味が重複しております。
ち、ちくしょう!もう…もう後戻り出来ないってのか……っ!?
>この涙は…尻assしている味だぜ!
>綺麗な顔しているとはいえ初対面の同性の顔を躊躇いなく舐めまわすことのできるブチャさんは紳士の鏡だと思うのです。
>そう、われらが主人公のように!
JOJOでしたっけ、ブチャさんって?
作者はJOJOは一部と三部しか読んだこと無いので、あまり詳しくないのですよ。……ブチャさんって、一部と三部に登場…してませんよ、ね?ね?