朝。いつもの癖で目が覚めたので、のそりと起き上がって立ち上がり────ってデジャヴ感じるわー。
とか思ったけどそこまで昨日どおりって訳でもなかった。
「おはよう。セイゴ」
声掛けられたのでそっちを見ると、エリ坊がすでに制服に袖を通していた。昨日とは若干立場が逆に、やるなエリ坊。くやしい…! でも(ry
「うん……? ……あー、おはよう。今日は俺より早起きなのな」
「うん、わくわくして早く起きちゃった!」
昨日と同じくストレッチを始める俺にそんなことを言うエリ坊。わくわく……だと……?
「訓練の内容ハードになるからってわくわくするとかエリ坊はドMなん?」
「……? どえむ……? なにそれ────ってセイゴどうしたの、倒れこんだりして?」
「……いや、気にしないでくれ。お前の純粋さを目の当たりにして軽く打ちひしがれてるだけなんだ」
そして自分の薄汚れた感性に絶望しただけなんだ。うん、ホントそれだけなんだよ。なのになんでこんなに胸が痛いのああ俺ってホントダメな感じ。
「えっと……よく分かんないけど、頑張って!」
「ああ、純粋な視線が痛い……でも頑張るよ、俺」
「……?? ……?」
本気で首をかしげてっるぽいエリ坊を見ながら、キミは薄汚れないように努力してくれとかちょっと真面目に願う俺だった。……男である以上無理だと思うけど。
そんな感じのやり取りで始まる朝でした。
昨日と同じく二人で出勤。俺はジャージに、エリ坊は訓練着に着替えて演習場へ行くと、今日は先客がいた。
エリ坊見るときょとんとしとるから、きっと来るとか聞いてなかったんだろうな。
「で、なんでキミたちまでいるのか不思議でならないんですが」
「なんでって、自主練に決まってるじゃない。エリオがやるなら私もやるわ」
「えっと……私もです!」
「キュクルー」
「私もっ!」
朝っぱらから元気ですねスバ公さん。てか別に参加するのは構わねーんだけど、事前に言ってくれねーから今日の訓練メニューエリ坊のことしか考えてないんですけど。
確かスバ公が15でティア嬢が16だったような。どうせこの二人も才能天元突破してんだろうから基本年齢より高めでいい気もする。
しかしスペック詳しく知ってるわけでもねーしエリ坊のメニューでとりあえず流しておけばいいかもしれない。
キャロ嬢とか10だからエリ坊と一緒でもいいかと思うけど、なんかこの子ちょっとひ弱なイメージなんだよな。
けど高町の教導受けてるわけだから体力はそれなりなんだろうか……? うーん……。
「まあいいか。とりあえず俺の動きを反復してくれ。言っとくが生ぬるいとか内容薄いとかそう言う文句一切受け付けないから。サプライズで来たお前らが悪い」
「……なんか適当ね」
「まーね。でも、内容はそれなりじゃねーかな。何せ俺が生きて任務から帰ってくるために必死で考えたかんね。効果は一応俺が実証済み」
「へぇ、そう考えると結構すごそうな感じじゃない」
そんな会話してちょっとわくわくしてそうな表情浮かべたティア嬢。だからなんでエリ坊もお前も訓練きつくなるって言ってんのに楽しそうなんだよってお前たちだけじゃありませんねスバ公目が輝いてるしキャロ嬢も頑張るぞって感じに頬が紅潮しとる。
向上心の高い子供たちですね。7年前くらいの俺に見習わせたい。
何せあの頃の俺と来たらどうしようもなく無気力だった気がする。
心の奥底で望んでいたことを達成してしまったせいでそれまで頑張ってきた反動が来た、というのが最近の俺のあの頃の俺に対する考察の一つだが、あの状態から俺をここまで持ってきたあの隊長ってのは……凄いよなぁ。
「あの、もしもーし……?」
「……ん、ああ、どうしたスバ公」
「いや、ぼうっとしてるからどうしたのかなーって」
「ああ、スマン。ちょっと考え事をな。じゃ、そろそろ始めようか」
俺のセリフに、四人全員たたずまいを直す。そんなに緊張しなくても……とか苦笑しながら、さて、まずはダッシュ10本を3セットと……。
とか考えて、俺はエリ坊たちを「さ、やんぜー」と促して朝練を始めた。
で、一時間半後。
俺はなぜか高町の隣でガジェットもどき相手に訓練するスバ公たちを観察する羽目に陥っていた。
なぜこんなことになったかと問われれば流れでですが何かとしか言いようがないが、とにかく俺謹製、朝練の訓練メニュー終えたころにやってきた高町に強引に誘われる形でビルの上から新人どもを高みの見物と洒落込む流れに引き込まれてしまった。
てか高町って結構高い所好きだよね。馬鹿と煙は……なんでもないです。
そう言えば朝練の結果だが、一人も脱落者は出ない感じで終わった。
特にスバ公なんかは「いい運動だったー」とかちょっと清々しい感じにさわやかにタオルで汗拭いてたし、ティア嬢もちょっと息切れしてた感はあったけど普通についてきていた。
「なんであんた息一つ切らせてないのよ!」とか絡んで来たけどまあお目こぼしをください。いつもと比べて自然と軽く流す感じになってしまってたので。
しかしこの調子ではいずれ体が鈍っちまうっつーか体の動かし方を忘れちまうっつーか。今夜あたりからちょっといろいろ調整しないとまずいかなーとか思ったりもする。
ところでエリ坊も本日は普通にいい感じに運動してた。ちょっときつそうだったけど。まあ、そうなるように調整してたわけだからそうでないと困るわけだが。
ちなみに驚きだったのはキャロ嬢だ。
精々三分の二くらいでギブアップするかと思っていたのに、存外最後まで頑張ってついてきていた。
いや、管理局に入って十数年。人は見かけによらないってのは十分に学んできたつもりなんだけど、こういうの見るといちいち驚くよ、ホントさ。
つーかまったく関係ないんだけど、スバ公のあの右手のナックル超かっけーんだけど。
あのギアの部分の外観とかヤマトの波動エンジン思い出して超燃える。フライホイール接続ですね分かります。
必殺技とか打つ時に超回転してオレンジ色に発光したりするんだろうか。もしそうならちょっと見てみたい。そしてBGMに『ヤマト渦中へ』を流したい。
とか考えてたらいつの間にか高町がこっち見てた。何かと思って聞いてみる。
「どうかしましたか、高町さん。私になにか?」
「……ううん。ただ、そう言う顔をしてる時のせーくんは大抵どうでもいいことを考えてるはずだから、今度はどんなことを考えてたのかな、って」
なになんで俺の表情変化把握してんのちょっと驚愕。
とまあそれはとりあえずおいといてしかしあれだ。
「よく動きますね。さすが若いと元気なことで」
「若いって……。せーくんまだ二十二歳だよね?」
「甘いですね高町さん。人間二十越えたら途端にいろいろ疲れますから気をつけた方がよろしいですよ。主に人生観的な意味合いで」
「こ、怖いこと言わないでよせーくん……」
「あと一歳! あと一歳!」
「怖いこと言わないでよせーくんっ!?」
「現実は目の前です。そんなことよりほら、もっとちゃんと自分の生徒を見ないと」
「だ、大丈夫。ちゃんと見てるよ」
そう言って新人どもの方に視線を戻す高町。それを見て内心疲労気味なため息を吐いていると、さっきから俺の横でいろんな機器使って新人どものデータ収集してた子がくすくす笑っていた。
それに気付いてそっち見ると、その子が話しかけてくる。
「本当に話に聞いていたとおり面白い人ですね。プレマシー准空尉さんって」
「お褒めいただき恐悦至極にございます。ところで先ほどから気になっていたのですが、あなたはどこのどちらさまでしょうか」
「あ、そう言えばまだご挨拶していませんでしたね、すみません。シャリオ・フィニーノ一等陸士です。シャーリーとお呼びください」
そう言って頭下げてきたので俺も会釈。一等陸士かー、なら敬語いらんね。
「ここ六課では通信主任として働いています。他にもデバイスマイスターとして仕事をしていますから、何か困ったことがあったら申し付けてくださいね」
「なるほど、ではこちらも。誠吾・プレマシー准空尉。よろしく」
そんな感じで自己紹介してから込み入った話を聞く。
何でもこの人いろいろ忙しいから普段はオフィスにいないんだとか。つまり今のところの行動範囲が専らオフィスである俺と会うわけがなかったというわけだ。
それが朝練後のこんな所で会うことになったのだから、巡りあわせってのは数奇なもんだね。
「しかしここで酢飯か。飽きないな、この課は」
「……はい? 何か仰いましたか?」
「いや、なんでも。ところでシャーリー。きみ、デバイスマイスターなんだよな」
とっさに話を逸らす俺。視界の端で高町が微妙な表情を浮かべているような気がするが、そういえばあいつ地球出身だ。寿司も知っているよな。
しかし何も言わないなら知らないのと変わらん。このまま話の方向性を変えてしまおう。
「はい。もしかして何かご入り用ですか?」
手元の機器操作しながら聞いてくるシャーリー。そう、今のうちに是非とも実現してもらいたい装備がある。デバイスじゃないけど。
俺がどんなものをどんな風に作ってもらいたいかを伝えると、彼女は訝しげに眉をひそめた。
「えっと、多分出来ると思いますけど。そんなもの何に使うんですか……?」
主に俺の身の安全確保に。ついでに言うと俺のデバイスの安全確保にとか伝えると、なんかちょっと思いついたような顔になって、
「あの、プレマシー准空尉」
「なに? ついでに言うと俺のこととかセイゴさんとかでいいよ。堅苦しいのめんどい。ある一定の人間とは距離を置くためにわざと堅苦しくしてるけども」
とか言ったらまたもや視界の端で高町が反応を示した。しかし今度はちょっと泣きそうな雰囲気。
「ならセイゴさん。お望みの物を作る代わり、と言っては難なんですが……」
「なんでしょうかね」
とか軽く聞き返すと答えて来た。俺のデバイス見たいらしい、今ここで。
「……どうしても今ここで?」
「え、あの、そんなに嫌なら無理にお願いはしませんけど……。セイゴさんのデバイスって、アームドデバイスの刀剣とインテリジェント・デバイスの銃で一対のデバイスだと聞いていたので、結構興味がありまして……」
「……ああ、なるほど」
そう言えばセイス隊長のところにいた時にも、同じ課のデバイスマイスターが楽しそうに観察しとったっけ。
「……あの、ダメでしょうか?」
「いや、ダメってことは無いんだけど」
そう、見せるのは別にいい。問題なのは見せる際に今現在このデバイスの要となっているクソ宝石にかけてあるインテリジェント特有の意志を封印するための術式(俺オリジナル)を解かなければならないことにある。
別に戦闘のためならいちいち躊躇とかしないんだが、他人に見せるためだけにあのめんどくさい人格呼び起こすのとか超嫌だ。いや、自分で作っといて何なんだけどさ。
その旨伝えるとシャーリーはそんなに酷い人格なんですか?とか聞いてきたので是と答える。
もともとは真面目な口調の普通の人格だったのだが、二年くらい前に悪ふざけでダチ連中と一緒にいろんなロクでもないデータ詰め込んだら見事なネタ頭脳をもったマシンガントーク人格が出来上がってしまった。ちなみにC.V.福山潤である。
性能自体はその魔改造によって劇的に向上し(デバイスの意識が色濃くなったのが原因のようだ)、自分でも驚きの精度で誘導弾が当たったりした。
そんなわけで普段はあの耳障りな音声聞かないようにするためにデバイスそのものに俺以外が電源をONに出来ないように封印処理をしてあって、これ解除は俺が電源ONにするだけだから楽なんだが再封印は手順があってめんどい。だからあんまりやりたくない。
だってここまでしないとあのデバイス自分で勝手に電源ONにしてくるからね。マジで。
あれと話してると退屈はしないんだが途中から相当ウザい。出来るなら戦闘以外ではお近付きになりたくない。
なので戦闘データから適当にいろいろ引っ張って観察してくれるようにとお願いする。
シャーリーはちょっと残念そうに眦を下げながら了承してくれた。助かります。
ところで、
「せーくん、わたし以外とは普通にみんなと仲いい……うぅ」
とか言ってるのが一人いたんだがとりあえず無視した。つーか仲微妙なの別に高町とだけじゃねーから。
しかし、俺のこと見ながら部下のこともちゃんと見てるその器量は本当にすごいと感心するよね。
介入結果その八 スバル・ナカジマの不安
朝練を終えて、なのはさんに今日の反省について聞きに行くと、一緒に私たちの訓練を見ていたセイゴさんが表情をいつもより少しだけ真剣なものに変えて横から口を挟んで来た。
「よく動いてるし攻撃もかなり威力高いと思うんだが、敵を撃破する時に体が止まる癖があるようなのでそこはどうにかした方がいいと思う。撃破確認と同時にバックステップとか結構重要だと思うんだ。具体的には────」
そして、きょとんとしながら「せーくんが珍しくこういうことで饒舌だ……」と言っているなのはさんと一緒に近接戦を重視したスタイルでの立ち回りについていろいろと教えてくれた。
それは私にとってすごく参考になる意見で、やっぱりこの人はすごい人なんだと実感させられた。
そう言えば、初めてセイゴさんに会った日、すごくきれいな動作で私たちの前から走り去っていったことがあった。
あの身のこなし、私も身につけてみたい。
そう思ったのでどうすればいいのかと聞くと、毎日ちゃんと走ってればそのうち体が勝手に動くよと言われた。
それからちょっと複雑そうな表情になって、
「しかしこのまま行ったら俺、一年後とかには多分ここにいる全員に追い抜かされてるねー。老兵は死なず、ただ消え去るのみ……て洒落にならん。いやー世知辛いなおい」
と苦笑して言った。
エリオとキャロはそれを嬉しそうに聞いていたし、ティアもちょっとだけ頬を赤くして「何よその根拠のないセリフ」とか言いながらセイゴさんに突っかかっていっていたけど……。
────彼のその姿がとても寂しげで、私はなぜか、とても不安になっていた。
2009年6月22日 投稿
2010年8月23日 改稿
2011年8月16日 再改稿
2013年6月2日 再々改稿
2015年3月16日 再々々改稿