朝。目覚ましは無かったもののいつもの癖で目が覚めたので、のそりと起き上がって立ち上がり、軽く伸びをする。
さすがに床に直で寝たせいか全身がバキバキになっててやばい。つーか布団も掛けてなかったので寒い。自業自得なんだけどさ。
まあ仕方ないのでとりあえずストレッチして硬直をほぐしていく。
そうしていると、ベッドで眠っていたエリ坊がのそりと起き上がった。
昨日は結局宿のあてがなかったので、六課に戻って転送装置で送られてきた荷物の中から体動かす時に使う目的で置いてあったジャージとか取り出してから、エリ坊の部屋にあがりこませてもらったのだ。
その際この少年、俺が床で適当に寝るからお構いなくと言ったら、え、それじゃ寒いだろうから一緒にベッドで寝てもいいよ? とか言い出したけど辞退した。
子供とは言え男と一緒のベッドとかちょっと。私はどこのお父さんですか。
「……んー、セイゴ起きたのー?」
「あ、ワリー。起こしちまったな」
「ん、いいよ。朝練あるし」
目を擦りながらベッドを下りてくるエリ坊。その姿は、制服を着て肩肘張っている時とは違って年相応に見えて、なんか和む。
「てかお前も朝練なのか、奇遇だな」
「え、奇遇って、セイゴも朝練とかするの?」
「失敬な。管理局入ってから十何年と経っているが、その間鍛錬を欠かしたことはほとんどないんだぞ」
「ほとんどなんだ……」
そりゃ風邪とかひいたりしたし、入院したことだって少なくなかったわけで、その辺はしょうがないんじゃないかなぁと思ったりする感じ。
「って、セイゴ早起きなんだね。いつもより一時間も早いや」
エリ坊が時計を見ながら驚く。
「あれ、そうなのか? ならもう少し寝といた方がいいんじゃないのか、成長期少年」
「ううん。セイゴの鍛錬ってのに興味あるし、一緒に行くよ。良ければつきあってもいいかな?」
「別にいいけど、へばんないでくれると助かるなー」
「む、大丈夫だよ。これでもなのはさんに鍛えてもらってるんだから」
そう言って頬を膨らますエリ坊。
ふむそうか。ならば着替えて出発だ。
で、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「やっぱ無理だったね。仕方ないね」
六課に着いて、演習場へと案内してもらい、俺の毎朝の訓練メニューの三分の二を消化したあたりでエリ坊がダウンした。
なので持ちこんでいたタオルでエリ坊の頭を扇いでクールダウンを手伝うだけの簡単なお仕事。
つか注意しない俺もあれだと思うが、こいつはこんな感じでこのあと高町の教導とか受けられるのだろうか。
「せ、セイゴ……毎朝、こんなに動いてる……の…っ?」
動いてるか動いてないかと言われれば動いている。ちなみにこのあと刀の素振りと、型の反復練習もしたりする。時間が余れば誘導弾とかも。
「う、うそ……」
何その驚きよう。こちとら接近戦型の近代ベルカ式魔導師なんだから、こんぐらいしなきゃ安全に戦えないのであった。
しかも俺にできることと言ったら魔力のせた刀で斬るか誘導弾打つかの二択。あとはシールドのバリエーションとかで攻撃捌いて、回復魔法で時間稼ぎつつ敵を倒す感じ。
収束砲撃は適性無いし、普通の斬撃だって高ランク魔導師相手じゃ真っ向からじゃ弾かれるだけだから敵の防御の隙間突く感じに攻撃しないとならない。
そのためにはいろいろと安定した体が必要不可欠なのだ。だから鍛錬は欠かさない。と言うか欠かすとまずい。
「まあ、十年以上前から毎日毎日やってる俺にいきなりお前が追いついてきたらお兄さんちょっと立ち直れねーから丁度いいな」
「う、うぐぐ……」
俺なんかに負けたのが悔しいのか、エリ坊が頑張って体を起こそうとする。
しかしズルリと滑って頭から地面に突っ込みそうになったので、肩持って支えた。
「────ほれ、しっかりしなって。なんなら明日にでもお前の分の訓練メニュー考えてみるからさ」
「本当!?」
俺に支えられながら目を輝かせるエリ坊。何その欲しいおもちゃ買ってもらえた子供みたいな反応。俺があげるの訓練メニューだよ?
しかし訓練メニューか。今日ここまでついてこれたこと考えると、俺が15の時の訓練メニューくれてやればちょうどよさそうな感じ。
でもねー。これが才能の差ってやつなのかねー。
10歳の時点で俺の15の時相当の運動能力持ってるとかどういうことなの……。
そのうち普通に抜かれちまうんだろうな、こいつにも。
はぁ、こちとらガキの頃から必死で魔力負荷掛けて魔力増やしたり、毎日毎日訓練励んだりして今の領域に達したってのに、なんか切ないっす。
ま、いいや。
どうせここでの俺は、高町の精神安定剤以上でも以下でもないんだから。
「セイゴ……?」
俺がそんなこと考えてぼうっとしてるとエリ坊が不安そうに俺の顔を覗き込んできた。
無意味に怯えさせるのもどうかと思うので、頭に手をのせて髪の毛かき混ぜてみる。
なんか、やーめーてーよー、とか聞こえるが、なに、気にすることはない。
そうしてじゃれていると、
「あ、エリオ君とセイゴさんだ」
「ホントだ、二人ともおはよー」
フォワード陣の女性メンバー到着。それに伴ってエリ坊の頭から手を離す俺。よれたエリ坊見てティア嬢が不審げに表情を変える。
「どうしたのよエリオ、あんたもう既にボロボロじゃない」
「あ、はい。セイゴの朝練に付き合っていたんですけど、ついていけなくて……」
「は……?」
恥ずかしそうに説明するエリ坊と、それを信じられないというような表情で見るティア嬢、それとポカンとしてるスバ公とキャロ嬢。
「あんた、エリオだけになんかやらせて自分はさぼってたの?」
「んな訳なかろう。自分でやらなきゃ鍛錬にならんだろうが」
「じゃあなんでエリオがボロボロなのにあんたはぴんぴんしてんのよ。しかもほとんど汗かいてないし!」
汗なら少し休んだので引っ込みました。それと俺はいつも通りに動いてただけです。
という旨を説明したら、
「嘘。あんたそんなに体力あるの……?」
「そんなってのがどんなかは知らんが、医学知識をふんだんに盛り込んで十年以上かけて造り上げた体は割と頑張ってますよ」
まあそれだけじゃないんだけど。
力瘤作りながら得意げにしてたら高町がやってきた。
で、
「せーくんの体力? うん、かなり凄いと思うよ。努力の結晶って感じだね」
ティア嬢の質問に簡単に答える高町。
ん? なんだろうこの違和感。
何と言うか、昨日俺に対していた時とは月とスッポン。
高町は部下とは一枚壁をおいて付き合うタイプなのだろうか?
そんなこと考えてるうちに、高町はパンパンと手をたたき、
「さ、みんな今日の訓練を始めるよ。エリオ、いける?」
「────はい! 大丈夫です!」
さっきまでぐったりしていたエリ坊がきびきびとした動きで立ち上がりながら返事をした。回復早いな。これが若さか。
「じゃあせーくん。朝練の続き、頑張ってね」
「はい。ありがとうございます、高町さん」
敬語で返すと少し眦を下げる高町。
とはいえ一度決めたことなので、自分の中で一区切りつくまではやめようとは思わないから、そんな顔されてもと思う。
だから黙って軽く会釈した。高町は後ろ髪惹かれてそうな感じでありながらも、四人を連れて去っていく。その背を見送ってから、さっきの続きを始めようとして────俺の方に近付いてきた赤髪三つ編みの少女を発見。
「────あれ」
「よ。よぉ……」
片手上げながらぎこちなく挨拶をされたので、俺の方もとりあえず軽く頭を下げ、
「おはようございます。ロヴィータさん」
ちなみにロリとヴィータの合わせ技です。ロリィータ的な。
ヴィータがしかめっ面になった。敬語と呼称の相乗効果か、なかなか凄い顔になっている。
「……てめー、その呼び方やめろって言ってるだろ」
「まあいいじゃないですか、細かいことは。ところでこんな所でどうしたんですか?」
「ああ、新人たちの訓練見に来たんだけど……」
「俺がいたから声をかけたわけですか」
というか敬語にツッコミがないのは八神か誰かから話が通っているからだろうか。
と、そこで昨日あのあと高町に聞き出した話を思い出した。せっかく会ったので聞いてみよう。
「ところでヴィータさん」
「ん? なんだよ。ていうか、さんはいらね────」
「少し小耳に挟んだんですが、あなたも俺の異動に賛成していたというのは本当ですか?」
「……お、おぅ?」
わー……。この反応はマジですね。
「意外です。あなたなら正面突破で勧誘くらいしそうなものなのに」
本当に意外だった。あんな搦め手に乗るとかいままでの出来事思い返しても想像が出来ない。
俺のしれっと言ったセリフに、ヴィータはまた言葉を詰まらせた。
それから数瞬ほど待っていると、ぼそりと何かつぶやく。聞き取れない。
「────何か言いました?」
「────っ! だから、近くにいてくれればあたしがお前を守ってやれるだろって言ったんだよ!」
「────…は?」
何を言っとるんだこいつは────と思って、唐突に過ぎる嫌な思考。まさか、未だにあの時のあれを気にしているとおっしゃるか。
「……あの」
「な、なんだよ」
呆れ声で話しかけると、ヴィータは怯えたように後ずさった。
「あなたもしかして、まだあのときのこと気にしてんすか」
「……当たり前だろ。だってあの時、あたしは……」
「八年って、長いですよね」
「……は?」
唐突に俺がそう言うと、ヴィータはわけが分からなそうに反応した。
「昔っからもう、何度言ったか分からないくらいに言ってますけどね、あのときのあれは、俺が勝手に飛び出して、勝手に死にかけただけなんですよ。で、俺としては完膚なきまでに忘れ去りたい悪しき記憶なんです」
つーか青臭くて恥ずい記憶と銘打ってもいい感じ。人間関係って難しいよねー。
「だからあなたにも、さっさと忘れ去っていただきたい類のあれなんですけど」
それともあんたはそんなに当時の俺の失態を鮮明に覚え続けていたいのか嫌がらせですかコノヤロー。とか言ったら、ヴィータの表情が怒りに染まった。
「忘れろって……忘れられるわけねーだろっ!?」
怒られた。いや、確かにそうだけど、忘れられなくとも話題に出さないようにするくらいは出来るはずなので、そういう努力お願いできませんかねー。てか、
「俺、もう気にしてないんですが」
「気にしてないって……っ。それじゃあたしの気がすまねーんだよ!」
「俺の気は済んでますから」
「それでもあたしはっ、自分が出遅れてまた誰かが目の前で傷つくのはいやなんだ!」
言われて不覚にも目を剥いた俺がいた。その反応に、ヴィータが意外そうなものを見る目を向ける。
「な、なんだよっ……」
「……あー、いや。まあ、そこまでおっしゃるなら、どうぞお好きに」
「するさ! ────…て、え?」
「……じゃ」
そう言い残して、ひらひら手を振りながら俺はその場を去った。
ちょっと前に、自分がやらかした盛大な失敗を思い出した。
もう朝練続ける気分じゃなかった。
それに、今のうちにしておきたいこともある。
介入結果その五 八神はやての認識
朝一で部隊長室にやってきた誠吾くんが、やっぱり似合わない敬語とともに差し出してきたのは、どこかのサイトへと繋いであるらしい携帯端末。
それを机越しに突きつけてくるので、私は訝しがりながらも画面を読んで────
────絶句した。
そこに書いてあったのは、六課に対する誹謗中傷。
なんであんな課があるのかわからない。
金の無駄。
つーかあの課ただの仲良しごっこじゃねwメンバー幼馴染集めてるって聞いたけどw
よくもまあ地上もあんなもんつくるの容認したよな。
あれだってよ。聖王教会の秘蔵っ子の権力のゴリ押しwwwまじきたねえwww
ああ、あの噂本当だったのか。魔力ランクとレアスキルだけで地位を上り詰めてるやつがいるって────
そこまで読んで、私は力任せに携帯端末を押し返した。
睨むように誠吾くんの方を見ると、彼は不気味な無表情で私の方を見とった。
彼はその表情を保ったまま言う。
「言っておきますけど、それ私がなにかしたってわけじゃないですから。文字通り、検閲フィルター皆無の市民の生の声です」
そう言って誠吾くんは携帯端末を机の上に残して、くるりと踵を返して私に背を向けた。そして、扉の近くまで行ってから、もう一度こちらを見た。
「それ以上読む読まないはあなたの判断にお任せします。けど、あなたなら読みますよね」
だってあなたも、高町さんに負けず劣らず負けず嫌いですから。
彼の皮肉とも取れるその言いように、私は先ほどの内容を思い出して、頬がひくひくと引きつる。しかしそれを悟らせたら負けな気がするので、なんとか平常心を心がけて声を出す。
「……そ、そっか。わざわざ私のためにこんなサイト探してくれてありがとな。……疲れたやろ?」
「や、そんなことないですよ。むしろなんか途中から楽しくなってきましたね」
「……一応参考までに聞くけど、なんでなん?」
「いや、あなたが今浮かべている表情を思い浮かべてですが」
そう言い置いて、誠吾くんは部屋を出て行ってしまう。
ああ、なるほど。彼のしたい事が分かった。
「……嫌がらせやね。確実に」
それも私単体への。しかもそのために一晩でこんな掲示板まで探してきて。
「けど、市民の声、か……」
……あまり気は進まないけれど、目の前にある端末の中身は、私がしたことへの周囲の反応。これを無視して先へは進めない。
だから、端末に指をかけて、ゆっくりと手元に引き寄せる。
さっき読んだ場所までページを進めて、そこからさらに読み進めた。
否定と罵倒、それと少しの賛同。それらを目にしながら、胃がキリキリするのを感じつつしばらく読み進めていると、暴言の熱量にあてられて朦朧としかけていた頭を一気に冷やすような文を見つける。
そういや今日さ、俺の先輩が六課に無理やり引き抜かれた。
え、マジかよw
マジ。あの人俺とか他の新人のこととかすげー真面目に面倒見てくれてて、これなら慣れるまで何とかなるかと思ってたのにいきなり引き抜かれたからもう毎日残業確定。ひでえ。
全身から血の気が引いた。
彼を無理に引き抜いたことへの、誠吾くん本人以外の被害者の明確な言葉。
ああいうことをすれば、こういうことにもなる。
「こんなことにも気付けなかったなんて……。焦ってたんかな、やっぱり」
理屈ではわかっていた。……つもりやった。ただ、それを想像の中で考えるのと、現実で見るのとでは話が違う。
それに、今回彼にしてしまったのは、権力の暴力。私が、上に行って何とかしたいことの一つ。
それを、彼にしてしまった。本末転倒もいい所。
そして、彼の用意したこれ。これだけが全てだとは思わない。けど、六課への否定的な意見の数は、少ないどころか、多い。
さらに、彼の部下を名乗る人の現実味の濃い書き込み。
本当かどうかは分からないけれど、でも確かに、彼をいきなり引き抜かれたあの隊には、大きな損害が出たはず。
「いくらなんでも、悪いことしてもうたよね。今更やけど……」
────だけど私は謝れない。
安易に頭を下げられる立場では、もう無くなってしまっていたから。
食堂で朝飯食い終わった後、フォーク銜えて手持無沙汰にぼんやりしてたら、対面に誰かが座った。
顔を向けるとそこには八神がいて、得体のしれない笑みを浮かべながら、手を組んでその上に顎のっけてこっち見てる。
「……あー。さっきぶりです。八神部隊長」
「うん。さっきぶり、誠吾くん。そう言えば今朝は朝練しとったそうやね、なのはちゃんが嬉しそうに言うとったよ」
そうですか。と答えながら、俺は内心結構動揺してた。
さっきあんな嫌がらせしたばっかだってのに、なんでこのタイミング?とか、ここで話しかけてきた意味は?とか、今さら何の用?とか、疑問が浮かんでは消えていく。
そんな感じで焦って黙りこくっていると、勝手に話をすすめてくれた。
「ところで誠吾くん。ちょっと小耳に挟んだんやけど、きみ、職務中でなければ友達付き合い続行してくれる気でおるそうやね」
「ちょっとタイムカード通してきますね」
「ツヴァイの てが すべる」
立ち上がろうとしたら腰のあたりを何かが通過。ズボンのポケットが軽くなる。
「……リインフォースⅡ空曹長、准尉命令です。財布を返しなさい」
「返さなくてええよ。部隊長命令や」
ぐっ……またも権力の力が……。
というか高町、口滑らすの早すぎですありえん。何がそんなに嬉しかったのかも知らんけど、バラす相手もありえん。
「遅くならない段階で、一回腹割って話し合いたいと思うとったんや。そしたらそう言う話思い出してな」
「あなたが腹割ったら、悲しむ人が出るからやめた方がいいと思いますよ。大体あれ超痛いと噂です。そもそも介錯どうする気ですか」
「切腹と違うよ、誠吾くん」
軽口もあっさりと返されて俺がっかり。脱力しながら椅子に座りなおす。
「……それで話とは?」
「ああ、これは友達としての言葉やからそう言う気持ちで聞いてほしい。今回のことはごめんなさい。さすがにやり過ぎました」
そう言って頭を下げた八神。友達としてとか強調しなくてもいいです。
「つまり、局員として下げる頭は無いわけですか」
「簡単に下げられる頭と違くなってしまっとるんよね。いろいろとしがらみも多いし」
そう言って暗い表情を浮かべた。それがいつもの誤魔化しなのか本音なのかは、俺には区別がつかない。
「けど、焦ってたとは言えこんな時期に碌に準備期間も与えずに異動させてしまったんは確かに私のミスや。せやから私からセイス隊長の部隊のこと、いろいろフォローしようと思う」
「フォローって、具体的には?」
「事件への派遣任務と捕り者任務。その他の仕事で、本来なら誠吾・プレマシー一等空士が担当するだろうはずだった事件を、こちらに回してくれるように頼んでみる。これならセイス隊長の方も優秀な人財探すまで何とかなるやろ」
「それ、ちょうど俺も頼みに行こうと思ってたことですぜ。ここに来た条件ーみたいな言い訳して」
「おや、なんや知らんけど私たち以心伝心しとったみたいやね」
「わー、すごく寒気がする。けどまあ、感謝はしときますねー」
「ええんよ。身から出たサビや」
八神はそう言って小さく笑うと、少し離れた場所で俺たちを見ていたツヴァイを呼んだ。
「話はそれだけ。ほら、財布返したって」
「了解ですぅ」
「返却確認したですぅ」
「ま、真似しないでくださいっ!」
「了解ですぅ」
「うううううううセイゴさん!」
そうして頬を膨らますツヴァイ。
財布掏った恨みだ。
介入結果その六 八神はやての内心
今回の件は、ひとえになのはちゃんのためやった。
なのはちゃんが悲しんどる。その原因は、あの時彼女の命を救った彼。
彼はなのはちゃんが再三六課への出向をお願いしていたにもかかわらず、頑としてそれに首を縦に振らなかった。
何が彼をそこまで頑固にさせるのか、私はそれを、何となくわかっていた。
彼はきっと、私がなのはちゃんたちに対して感じているものを、あの課の中に感じている。
だからあそこを出る気はないと言ったのだと、それは理解できる。
だけど私には、なのはちゃんが笑って仕事をしてくれることの方が────彼女が100%の力を出せることの方が、大事やった。
だから彼を引き抜いた。
誰も文句をつけられんように、カリムの力まで借りて。
それは彼との付き合いが始まってから数年、彼の休暇になのはちゃんや私たちとの予定を無理矢理にでもすべり込ませることが当然みたいになってしまっていて、彼に対して謀略を仕掛けることに罪悪感が薄れてしまっていた。という理由も、あったのかもしれん。
せやけど、今回のこれは明らかに、彼以外の人にも迷惑をかけてしまっていたから。
だからきっと、私は許されないと思っていた。
なのに昨日の夜、
「にゃはは、せーくんに怒られちゃった」
と言って電話をかけてきたなのはちゃんの話を聞く。
そしてあの誹謗中傷。
少しでも罪滅ぼしになればとセイス隊長の課のフォローをすることにした。
本当に、焦ってたんやと思う。本来ならこういう弊害が出ることなんてわかりきっていたことなのに、それを計算のうちに入れていなかった。
それほど私の中で、なのはちゃんが笑わないというのは、重大なことだった。
彼女曰く、
「落ち込んでいたつもりはなかったんだけど、断られる度にせーくんが私のこと嫌ってるのかもしれないと思っちゃって……」
だ、そうだ。
彼と彼女の間に何があったのかは、私は知らない。
だけど何かがあった。
あの管理局のエースオブエースと呼ばれる少女の心に、何かを残した男。
それだけが、私の心に引っ掛かっていた。
今回のことは、本当に申し訳ありませんでした。
とりあえず、もっといろいろと事実関係を確認して投稿するよう心がけていきたいと思います。
今回の件でご指摘をくださったシアー様には最大級の感謝を。
また、皆さんが下さった感想も、今後の参考にしていきたいと思います。
これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。
2009年6月20日 投稿
2010年8月23日 改稿
2011年8月16日 再改稿
2013年5月30日 再々改稿
2015年3月15日 再々々改稿
2018年7月8日 再々々々改稿