肩にフリード乗っけたキャロ嬢と休憩所のベンチで並んでジュース飲んでいる。
そんな現状だった。
まあこんなんいきなり言われてもわけわからんだろうから始まりから今ここまでをさらっと事情説明すると、
「そ、その。お話の練習相手をしてほしくて……」
「ああ、キャロさん告白事件のときの約束のアレか」
って感じで、以前約束した会話の練習台になってくださいって旨を伝えられたものだから、こっちとしても以前のあれのようなオフィスでの告白を度々繰り返されてたら身も心も持たないと思った関係上、是非も無くその申し出にYESを献上つかまつったわけであった。
ちなみに高町の風邪ダウンの翌日の夜練終了後の出来事である。
そういや高町と言えば、俺が看病をフェイトさんに変わった後に、目元の腫れ具合から見て盛大に号泣してたみたいね。
一応今朝、フェイトさんに当たり障りなく昨日はどうでしたかと聞いてみたら、居眠りしちゃって逆になのはに毛布かけられちゃったよ。と恥ずかしそうにあははと笑いながら言われたので、彼女はその辺気付いてなかったみたいね。
だから、いつ泣いてたのかは定かではないんだけれど。
けど、普段よりはよほど休養を取っただろうことで、精神的な負担とプラマイゼロにでもなったのか、動きに若干のぎこちなさは見えるものの病床から復帰して早々、今日も今日とて新人相手にお仕事モードの凛々しい顔付きで指導を授けていた感じではあるのだけれど。
まあ、泣いてた云々だけなら、高町にだって精神不安定になるような時くらいあるだろうよとスルーする所なんだが、それだけじゃ無かったからそうもいかないわけで。
いやはや、失念していた。
俺が怪我した時の話題で取り乱されるまで気付けないなんて、本当に自分が馬鹿で嫌になる。
そりゃ、高町の事だ。程度がどうこう言う話でなく、俺が怪我すりゃそれをあいつが気にかけるなんてこと、少し考えりゃあ分かることだったってのに。
どうせ、自分が俺をここに呼び寄せる口実を作ってしまったから云々かんぬん、とでも思っているのだろう。
それが、あいつが泣いてたことにも繋がってるかもとも邪推したりもする。
まあ、泣いてた事と俺の怪我の事で悩んでいる事に繋がりがあるかどうかは分からないが、とはいえ繋がりがあっても無くても、少なくとも俺がゼストさんに負けた時の事をあいつが気にしているのは事実で。
別に俺としちゃ、あの場で自分がやるべきことをやったってだけのつもりだったんだけどもな。
多分に私情が混じっていたのは否定しないが、でも私情が混じっていたからこそ、あの怪我ほか体の不具合は俺自身の責任だと言っていいだろう。
ただ結局、そんな認識は俺の主観的なものなのであって、高町からすればそう言うことだけに認識が留まらないだろうってのも、確かに配慮の範疇に入れとくべきだったわけで。
尤もあの状況じゃ、配慮したから何か出来たってわけでもないだろうけれど。
でも俺の怪我をあそこまで気にされてしまうってのは、どうも精神衛生的にもよろしくはないよね。
俺的にも、高町的にも。
俺のせいで高町に要らぬストレスを与えて足を引っ張るような真似は、こちらとしても望む所じゃないわけだし。
だって、魔導士にとっては邪魔で邪魔で仕方がないリミッターさんのおかげで同ランクになっているとはいえ……というか、同ランクになっているというのならなおさら、俺の戦力なんかよりも高町の戦力の方がこの隊には必要だろうし。
ただでさえ魔力量が元から多いってのに、魔力の効率的運用プログラムの構築理論にまで手を出して、それでどっかの教授を唸らせるような術式を生みだすようなやつだからね、高町。
それが当時12歳。俺と出会って一年くらい経った頃だったか。
その理論たるや、俺も少しはそっち方面も齧っているとはいえ、正直どれだけ頑張っても届くとは思えないほどに磨きこまれた理論構築だった。
大胆な発想と、豊かな構成力と言うのは、こういう術式の事を言うのかと感心しきりだった覚えがある。
その上そういうのには昔から熱心だったあいつは、俺が過去に学校で教授を手伝った論文とかまで読み漁ったらしく、安全性を考慮した魔法運用についてって論旨について熱心に講義を頼まれたこともある。
その論文ってのは簡単に言うと、魔法が自身の肉体に与える負荷を最大限軽減するプログラムを魔法に組み込む有用性であるとか、出来る限り安全に魔法を運用するために、安全弁のようなものをプログラムの各所に設ける際に、それがどういった場面でどのような効果を上げるのかとか、そう言った事をこと細かに纏めた論文で、教授に付き合って半年ほど理論を詰めてから三徹ほど試行に費やして完成させた、教授俺他数名の力作であった。
こないだ錯乱してエリ坊の前で自分の頭を吹き飛ばそうとした時、あの魔法につけていた安全装置の理論にも、そのあたりは利用されている感じ。
で、まあ、もう出来る限り怪我をしないように努力をしようって高町の態度には心打たれるものがあったし、俺たちの努力の結晶に興味があると言われるのは嬉しいものがあったし、俺の方としても変に遊びに誘われるよりは通信越しにこんな話をしていた方が気楽ではあったから付き合っていたわけだが。
そのせいと言うべきかそのおかげと言うべきか、効果的かつ安全性の高い魔力運用について、あいつの右に出るような奴なんてリアル数えるほどしかいないんじゃないだろうか。
才能と努力をいとも簡単に……と言っていいかは定かじゃないが、その二つを同棲させる魔導士。それが高町なのはである。
俺が神童笑だとしたら、あいつは神童真だった。
んで、今となっちゃ、そんなあいつとあんな俺の間にある差は、歴然としたものへと形を変えている。
俺が一つ誘導弾を作りだすのに10の魔力が必要だとしたら、それを4程度の魔力でやってしまうのが今のあいつだ。
おまけに俺の使う物よりも、安全性はともかく誘導性はかなり高い。
魔力弾一つとってもそれなのに、他にも数え切れないほどの優秀性を内包しているあいつが、なぜ今も空戦Sランクに留まったままなのか、全く理由が分からん位だ。
本人曰く、「燃費が良くなっただけで、魔力が増えたわけでも、戦闘が上手くなったわけでもないからだよ」らしいが。
Aランクにまで抑え込まれた魔力で、Sランク相当の砲撃を苦も無く受け止める人間のセリフとはまるで思えない。
それでも、ファントムのおかげで高町相手にも誘導弾のみでの打ち合いでなら互角くらいにはなれていると思うのだけれども。
閑話休題
そんなわけで、高町は俺なんかよりもよっぽどこの隊には必要なわけなので、さっきの件についてはちょっといろいろ考えなくちゃあならんと思う。
と、まあ。そんな事を考えてる途中で横のキャロ嬢が無言になってる俺を訝ったのか、「どうしましたか……」と声をかけてきてくれたものだから、盛大に思考が明後日の方へすっ飛んで行っているのを自覚した。
高町の件は気をつけておくことにして、話を戻そう。
で、かなり前述にはなるのだが、件のような理由でキャロ嬢の依頼に応えるべく、俺たちは休憩室に場所を移し、適当に缶ジュース奢ってからベンチに座って二人きりで話をする事に。
でも俺としちゃあ、いきなり二人きりはハードルが高すぎるんじゃねーかと思うよね。
ほら、会話とかって二人きりより三人寄った方が盛り上がるし。
女が三人寄ると姦しいとか言う話じゃないが、三人寄れば文殊の知恵とかのことわざとかからしても、円滑なコミュニケーションは三人くらい人がいると楽に出来ると思うんだ。
どんだけ親しい人が相手でも、二人きりだとそこまで話も弾まんし。
だから適当にエリ坊とか呼び出してスリーマンセルで談笑でもしようかと思っていたのだが、キャロ嬢本人にそれじゃあ成長しないから二人きりでお願いしますと頼まれて今の流れ。
別にいいけどさ。俺は。
「んで、それじゃあ差し当たって、一体何の話をしようか」
「……え」
「え」
「キュクルー」
なにこの反応。
なんだろう。まさかお話ししようって勇気を出して誘ってみたまではいいものの、その後の事は特になにも考えてなかったとかそういうオチだろうか。
キャロ嬢らしいと言えばらしいけれども、ちょっちこれは困ったもんだと言わざるを得ない。とか思いながらとりあえずその場凌ぎの代案を口にする俺。
「えっと、じゃあ、なんか俺に聞きたいこととか、そう言うのあるなら答えられる範囲で受け付けるけど」
「あぅ。……きゅ、急に言われても」
「……断じて急ではないとのツッコミ待ちだろうか」
これキャロ嬢から持ちかけて来た会談だよね
むしろ俺の方が急ごしらえでここに来てるというかなんというか。
まあそれはともかく、俺のツッコミを受けてキャロ嬢がわたわたと慌て始めてしまったので、何とも言えない気分になりながらさっさとフォローを入れる。
他のやつらならともかく、キャロ嬢相手にそこまで意地の悪さを発揮するつもりは、俺には無いのだった。
「まあいいや。じゃあ今日は、俺から話題を提供しよう。だから、次からはキャロ嬢がなにかフリートークの題材でも考えてきてくれ」
「ふ、ふりー、とーく。……ですか」
やだなにこの子。肩に乗ってるフリードと一緒になって小首傾げて随分と子供っぽくてかわいらしい。
じゃねーよおい。まさかそこから説明しろってか。
いやいいけどさ。キャロ嬢になら多少の手間は惜しまない。エリ坊と並んで俺の精神安定に一役買ってくれているのだし。
というわけで、フリートークの意味について一通り説明。お題一つについてそれぞれエピソードを語ったりする感じの雑談的な何かだよと説明する。
「例えば、最近嬉しかった事、とか。大事な人との忘れられない思い出、とか」
そんな感じで一つずつ教えていくと、キャロ嬢は「なるほど……」と納得の表情になる。
と、そんな感じで説明終了。
キャロ嬢からの話題振りは、次からのお題ってことにして、今日は俺から話題を一つ提供することにした。
「ところで、こないだ会った俺の親父、覚えてるか」
「はい」
すごく落ち着いた感じの、格好いいおじさんでした。と語るキャロ嬢。
落ちついた感じの、格好いい……
いやまあ、いろいろとツッコミたい所はあるのだが、話が進まないのであえてそこはスルー。
「実はあの親父、一時期常にボディーガード雇ってなきゃいけないくらい超VIPだったことがある」
「あ、そうなんですか へぇー。…………え」
おお、盛大にポカンとしてる。
まあそりゃそうか。この間の出会いでの第一印象からして、そんな殺伐とした雰囲気なんかとは全くの無縁とでもいえそうな見た目と、天然とでもいえそうな能天気さ加減を前面に押し出しているって感じでしたしね。
昔はあの人の研究内容が学者世間では割と注目されていた時期もあって、その研究ってのが学会で発表されると一部の人間には著しく都合が悪いものだったりそうでなかったり。
その研究ってのが、今まで簡単には救えなかった人たちを楽に救えるようにって魔法の基礎理論の開発だったんだけれども。
大人の汚い事情と言うか、そういうモンのせいでいろいろと妨害にあってたらしい。
まあ、俺だって上っ面のことしか知らねーんだけども。
その研究が完成した時点で、これまで様々な方面から進められていた他の研究に、軒並み意味が無くなってしまうとか。
そのせいで、その意味が無くなる研究を支援していたスポンサーたちがいい顔をしないだとか。
研究に意味が無くなって仕事が無くなって、その研究に携わっていた人間たちが、路頭に迷うかもしれないだとか。
それが高じて面倒なことになっているんだとか。まあ、そんな感じの上っ面を、いくつか。
結果的に言えば親父は研究を成功させたし、その研究成果は今だって着実にいろんな人のために使われてるはずだ。
けど結局、当時研究開発プロジェクトの中心人物だった親父への風当たりを弱くするために、開発責任者を増やしたり、病院関係者が各方面に根回ししたり、いろいろと大変だったみたいなんだが。
で、その中の対策の一つで、正式に学会で発表されるまでに誘拐されたりなんなりを防ぐため、または、そう言うことしそうな連中をとっつかまえるために、局から送り込まれる担当だけじゃ心許なかったってんで、フリーの嘱託魔導士雇ってたりしたのだった。
そんなトコまで考えが及んだ所で、キャロ嬢が恐る恐ると言う感じで、
「な、なんでですか?」
とか聞いてきたので、さあ、なんでだろうね?とはぐらかす。
キャロ嬢は、困ったように眦を下げた。
「せ、セイゴさんからお話を振って来たのに、誤魔化さないでほしいです……」
「いや、むしろここで誤魔化さなかったら俺じゃないっぽくね?」
「……否定できないです」
いやそこは否定して欲しいです。
まあ、別にいいんだけどさ。
「と、まあ。こんな感じで、少しずつ会話に慣れていくってことでいいのか?」
「あ、はい。頑張りますっ」
手をぎゅっと握りながら、頬をほんのりと紅潮させて意気込むキャロ嬢だった。気合十分ですNE☆
しかしまあ、俺なんかで役にたてるんだろうか。なんか会話に変な癖つけちまいそうで若干怖いよね。
とか思いつつも、隣で無邪気に笑うこの子を見てると、せめてフェイトさんに気兼ねなく甘えるくらいには会話に慣れさせてあげたいとは思うから不思議である。
と、そんな都合もあって。
後、二、三会話してから帰るかー、なんて思いながら、次の話題はどうしようかねー、なんて思考にふける俺なのだった。
……休憩室の陰から覗く朱の瞳には、まだ気付いていない時分の話。
ユーノくんに頂いた例のあの資料共を昨日からの暇な時間に読破してみた。
ホントはと言うか本来はと言うか、当初の予定としてはこんなに早く読み終えられるなんて思ってもいなかったんだが。
俺のしてることを他人に悟られないようにエリ坊の部屋で読み進めることは出来ないってのも、勤務中にまとまった時間を取れそうにも無い最近の仕事振りからしても、目を通すだけじゃなくて内容を理解しなければならないってトコからも、読み終わるのに数日はかけることになりそうだと思っていた。
それに加えて、彼の作ってくれた資料の物量は当初の想像通りに大した量で、まあ、あの短期間であの量をあそこまで読みやすく綺麗にまとめてくれたという予想外はあったのだけども。
ただ、高町の看病を押し付けられた関係上、資料の読書にあてられる時間が文字通り目の前に転がっているという展開になったってのは、幸運だったとでもいうのかなんというのか。
でも、面倒事を押し付けて来た八神に結果論で感謝するのはなんだかとてもいやだったので、その辺については頑張って目を逸らしてる次第。
そんなわけで、時折目を覚ましては「手……」と言葉少なにいつもと比べてとんでも無く弱気な要求をしてくる高町に、読んでるものの内容を悟られていやしないかとヒヤヒヤしながらも、せっかく出来た空き時間を無為に過ごすような余裕を最近の生活に見つけることのできなかった俺は、必死になってユーノくん御手製の資料を読み進めた。
その結果。分かりたくも無かったっつーか、目を逸らしていたかったっつーか。そんな感じに都合の悪い現実が少しずつテメェの目の前に広がって来てしまったと言わざるを得ない。
とはいえ、なんの収穫にもならない現実逃避にいつまでも浸っていられるほどに持て余した時間が満ち溢れているわけではさっきも言った通りに全く無いので、さっさと現実に目を向けてみることにした。
俺がここ数年に経験と一緒に積み上げてきた戦法じゃあ、ゼストさんレベルの格上には絶対に勝てねーって現実に。
魔法を構築する時ってのは、その場その場の用途に応じて適した魔法を実力と知識の中から引っ張り出して使うってのが基本だと思う。ってか基本だ。
魔力ってのは、有限で貴重な魔導士にとってのガソリンみたいなモンで、その大事な大事な燃料を、次の瞬間何が起こるか分からないような戦場で取捨選択もせずに無駄にガツガツ使うなんて愚は、基本的に普通の魔導士はおかさない。
雑魚相手だろうがボス相手だろうが、全力で止め刺してそのあと別の敵に奇襲されて全く抵抗できずにブッ倒されましたー、なんて本気でシャレにならん。努力次第で余力を残して勝利できる可能性があるのなら、出来る限りそうするよう努力するべきだと俺は思う。
そういう経験から得た実力は、長い目で見れば任務先で死ぬ可能性を減らすし、残った魔力を別の任務に充てることで、救える人を増やすことだってできるかもしれない。
というわけで、大抵の魔導士は魔力の無駄使いなんてしない。
誰だってそうする。俺だってそうする。高町だって収束砲撃とか以外は見事なまでに節約してる。
いやまあ、俺個人に関しては、魔力の消費を出来るだけ抑えてる理由はそこだけに収まらないんだけども。そこについてはあとで説明するってことで、今は話を進めることにしよう。
で、俺がリンカーコアを壊して以降に相手にしていた連中の傾向は、基本的には見事なまでに格下ばかりだ。
そうなるように、極力気をつけて任務とか日程とか連れていく仲間とかを俺の操作できる権限の範囲で調整していたので、そこは確かに狙い通りではあった。
時々少々手を焼くような同格を相手にすることなんかもあったりはしているが、そんなのはマジで数えるほどだし、そう言う時は大抵仲間連中と一緒に対処に当たってるから特に問題はなかった。
だから、それに合わせて俺の使い込むことになった魔法も戦法も、かなり偏ることになった。
そう言う戦闘を想定した、出来る限り魔力消費を抑え込んだ、高町とかのSランク魔法レベルからすると著しくランクの下がる感じの魔法構築理論が主軸。
恥ずかしいことだが、今のような悩みを抱えることになる場面をつい先日までは全く想定していなかったから、格上を相手にすると想定した場合の魔法を磨く努力はほぼ皆無。
魔法に注ぎ込む燃料をケチりすぎて、Sランクの魔導士を相手にすることをはじめから想定してみると、絶対的に火力不足に陥っているわけだった。
リンカーコア的にはエコロジーだとか省エネだとか言えば聞こえはいいのだろうが、結局はSランク相手にそんな小手先の技術が通じるわけがない。
現に俺の使う魔法じゃあ、ゼストさんの攻撃を防ぎきることも、防御を貫くことも容易じゃなかった。
防御一つにも、発生させるシールドに注ぐ魔力を増やすためにカートリッジを数回ロードし、そこでさらに今まで自分が得て来た経験の全てを駆使して攻撃の受け方を瞬時に決め、それでようやく攻撃を逸らすことが出来る程度。
攻撃に至っては、どれだけカートリッジをロードし、魔力配分の薄いと予測した防御部位に死角から全力での攻撃を加えても効果を見込めなかった。
本来なら、そういう風に足りない分は経験とか知識とかカートリッジとかから補うもんなんだが、ちょっとそういう小手先じゃあ補えないくらいに加える魔力が足りてないという現実。
そもそも普段からそう言う小手先をいじくりまわした戦法ばっか取ってるせいで、カートリッジの消費量が他の局員と比べて半端ないのでこれ以上は俺自身経済的にもどうにもできない範囲だったりする。
魔力消費を増やし、威力の底上げする以外にゼストさんに勝てる道は無い。
それは、ユーノくんのくれた資料からしても大筋で間違っていない。
とまあ、ここまでだったら改善の道も完全に閉ざされるってわけじゃなかった。
だから、これ以降に説明しなきゃならない問題が、俗に言う全ての元凶って呼び方をするものになるのかもしれない。
これまでは、前述したような様子でなるたけ格上と戦わないようにしてたから表面化しなかった問題。
実は、あの怪我を負ってから約8年。あれ以来、ずーっと、延々と、一月にいっぺんくらいの周期で、親父にも内緒で俺個人の単位で細々とした実験を繰り返している。
内容は、いつ、どんな状況で、どのように魔法を使うと、リンカーコアがどれくらい痛むのかってのを検証する実験だ。
昔よりは大分マシになっているとはいえ、それでも俺のリンカーコアは完全に痛みが発生しなくなったわけじゃあもちろんない。
まず、デバイス起動時みたいな、魔力の使い始めは毎度のように痛みがある。
で、使い始めでなくても、時々ランダムで魔法発動時にチクリと痛むこともある。
昔ほどには痛まないってのは割と有益な救いではあるんだが、それでも痛いものは痛い。
他にもそういうシチュエーションってのはいくつかあるんだが、それでもそれは、戦闘に決定的な影響を与えたり、痛みを我慢できなくなるようなレベルのものとなると、かなり少ない。
ただ、少ないってことは中にはそういうレベルに達するようなシチュエーションってのもあってしまうわけで、そういう風な状況に陥ってしまう原因となる魔力の使い方について探るというのが、さっき言った検証実験の目的になる。
その実験の結果、直接戦闘に影響を与えてしまう痛みを発生させてしまう条件が一つ判明している。
────ある一定の量以上の魔力を自力のみで瞬間的に引き出そうとすること。
それを不用意にやってしまうと、ちょっと筆舌に尽くしがたいほどの痛みがリンカーコアを襲う。
これが、俺が出来るだけ格下を相手にしようと尽力していた理由で、格上を相手にした戦闘を想定する上で、最大にして唯一無二と言えるくらいの難題となる巨大な壁だ。
補足になるが、リミッター発動時にはなぜかその魔力上限がさらに低下してしまうことも、ここ数ヶ月で分かっている。
俺が戦闘中に必要に迫られても大威力の魔法を使わないと言うか使えない理由はここにある。
高町たちに出会う以前には、俺にだって大威力の切り札的魔法は存在していた。こないだエリ坊に怒られた時の魔力圧縮弾だってその一つだ。
だけどさっきの痛みの条件を分かりやすく説明すると、高威力の魔法を超高速で発動させようとするとヤバいってことになる。
つまり高威力の魔法を、安易にとか簡単にとかそういう精神論の話でなく使うことが出来ない。
使えばさっきも言った通り、本気で身動きとれなくなるくらいの激痛が俺を襲う。冷や汗が額から背中から滝のように流れ出て、息もまともにできなくなるくらいの激痛。
そのせいで集中が乱されるから、何とも情けなくも魔法は完成の憂き目をみることなく出来損ないの状態で消滅する。
根性でどうにか出来るならそうしたいところだが無理だった。時間をかけて、痛みが引いて行くのを我慢する以外に、症状を緩和する方法を見つけられていない。
リンカーコアから瞬時に引き出す魔力を抑えればいいわけだから、カートリッジを大目に使って補助すればそれなりのことはできる。今まではそれでなんとか騙し騙しやって来た。
大きな魔力を引き出すのだとしても、魔法の発動までの過程にいくつかの強制術式低速処理の術式を組み込んで、先日の超高密度魔力圧縮弾や幻影魔法発動の時のように、魔力の注入に通常の発動の何十倍もの時間をかけるようにすれば大丈夫だ。
そういう抜け道はないことも無い。が、前者は前回の戦闘でゼストさんに見事に粉砕されたし、後者は戦闘中に魔法の発動がもたついていていいわけがなく、見事にこの時点で詰んでいるという悲しみ。
そもそも、後者の低速処理の術式は、それ単体でかなりの集中力を必要とする上、それを組み込んで発動した魔法は余計なノイズが入り混じりすぎてとても安定したものになるとは言い難い。
発動が出来るような時間があるとしても、実戦に投入できるような安定性は見込めない。
尤も、こんな悩みは抱えてるんだけど、怪我した当初よりはよほどマシなんだけどさ。
あの頃は、魔力弾を数発撃っただけで冷や汗を流していたくらいで、それが理由で先輩にかけていた迷惑と押し付けていた責任は、今になっても本当にすまなく思う。
……しかし本当、どうすりゃいいというのだろうか。
無限書庫にある資料ともなれば、その辺の問題とかさらっと解決してくれるような論文もありそうじゃねとか思ったから、言い訳的にもこれはいい機会とユーノくんに頼んでみたのだが、完全に当てが外れたとまでは言わないものの、試すとヤバそうな方法ばかりがちらほらといくつか解決策として残ってしまった感じ。
ユーノくんにあんな風に心配されている手前、あまりその辺の方法については試したいとは思えないんだがなー。痛いのも普通に嫌だし。
しかも何が困るって、俺のリンカーコアのこれ、現代医学的には『異常なし』って判断が出てる所にあるよね。
なにせ一年に一回開催される申し訳程度の健康診断でも、親父と俺が運よく双方暇な時にやる精密検査の時も、全く問題なくその機能を維持してるって診断結果が出てるのだから。
だから最初に俺が魔法使うまで誰にも気付かれずにいたわけだけで、そのおかげで親父たち以外にはバレてねーわけで、そこは良かったと言えば良かったんだろうけれど。
異常があるとすれば、俺が痛みを訴えていることと、事故前まではかなりのペースだった魔力の増加がほぼ見られないということくらいのもので、前者はあくまで俺の自己申告なわけだし、ストレス性の思い込み的な痛みだとか言われたらそれまで。
後者はちょっと特殊だけど成長止まっただけじゃね? と言われたらそれまでなのだ。
つまり、治すべき所がない、もしくは分からないから、俺にうてる手は今の所ない。
分かってることなんて、リンカーコアを使い続けることで痛みが小さくなってきているのかもしれないってことくらいで、それ以外にははっきり言えることなんて無い。
それはそれは見事なまでの八方塞と言うわけで、一体全体俺はこれからどうすりゃいいのよと頭を抱えているというのが、俺の今ぶち当たっている壁の全容であるわけなのだが……
「この見事なまでの不条理の嵐。一体どうすれば乗り越えられると思うよグリフィスくん」
「いや。いきなり意味が分からないんですが……」
「ですよね状態」
キャロ嬢とのお話を終えて数分後、彼女を見送ってそのままその場に残った俺がさっきまでのような悩みについて深く考察している所に丁度グリフィスくんが休憩にやってきたので悩みの過程を全てすっ飛ばして話しかけてみたのだが、何とも言えない空気になってしまった。
苦笑気味のグリフィスくんを適当に茶化して誤魔化しながら、ポケットから煙草を取り出して銜え、立ち上がって灰皿に近付くついでに彼から距離をとって、灰皿近くに備えつけの空気清浄機を作動させた。
ライターでさっと火をつけてから煙を吸い込み、それから空気清浄機に向けて息を吐いていると、グリフィスくんが自販機で買ったらしいジュース缶に口をつけながら言った。
「そういえばセイゴさんて、タバコ吸うんですね」
以前は見かけていなかったのにと言いながら煙の行方を眼鏡越しに追っているグリフィスくんの指摘に、俺はタバコを持つ右手を少し持ち上げながら返す。
「ああ、これ? まあ少々理由もありましてね」
「理由ですか?」
右眉を下げて分からないとでも言いたげなグリフィスくんに、俺は溜息とともに答えた。
「これ吸ってれば、かまって欲しい年頃のガキんちょが、お母様(仮)の忠告聞いて近寄ってこないんよ。……ふ。自分の頭の良さが怖い」
「……あー」
おいなんだその態度。その変に納得した感じの頷きと憐みの視線をこちらへ寄越すのをやめてくださいお願いしますとかやめてーやめてーとふざけてると、
「あ、せーくん。休憩中かな?」
ただいま極めて聞きたく無かった声が聞こえたので休憩スペースの入り口の方を見ると、件のお母様(仮)がいかにも今こっちを見つけましたと言う感じに進行方向への慣性の法則に急に逆らった感じのポーズで立ち止まっていた。
で、俺が銜えてるものに目を止めてから眉根を寄せ、あ、またタバコ吸ってるっ! とか頬を膨らませて不満げに俺の方を指差す高町。
「体に悪いから駄目だよって言ってるのにっ!」
「いいじゃないですかちょっとくらい……」
大体それを言ったら六課内だって吸ってる人それなりにいるじゃん……。ていうか最近マジでいろんな意味でストレス過多だからこれくらいの息抜きは許して下さいお願いします。ついでにヴィヴィオも追い払えるし。
つーかあなたってばこの時間いつもならこんなとこ来ないでしょうよ書類仕事片付けてるせいでとか思ったのでなんで今日に限ってうろついてるんですかと聞いてみると、昨日せーくんが私の書類片付けてくれたおかげで、今日の分ならもう終わらせちゃったのとか言われてがっくり。
つまりこの状況は、俺の善行(笑)が巡り巡って俺の元へ返って来たと言うのだろうか。なんてことだろうと俺は天を仰いだ。
情けは人のためならずなんて諺は、今後絶対に信じない事にしようと思う。巡り巡って返って来たのが善行ではなく仇的な何かだった時点で俺の悲しみはとどまる所を知らない。……いや、確かに微妙に嫌がらせ的な側面もあったけどさ、昨日の書類整理。
と、そんな感じで俺が地球の日本に存在する諺に見当はずれな難癖をつけてると、
「それに、早く部屋に戻ってヴィヴィオの相手をしてあげようと思って」
昨日相手をしてあげられなかった分も、ね? とかはにかんだ感じに微笑しながら言って、グリフィス准尉もお疲れ様とか彼を労いつつ高町が俺に近付いてきたものだからさあ大変。
喫煙中なのにこっちくんなよとか思いつつ、俺はタバコの火種を空気清浄機の方へと追いやった。
高町に副流煙とか吸わせたりしたら、士郎さんとか桃子さんに申し訳が立たないが故の処置だった。
が、申し訳が立たないが故の処置とは言え不満が無いわけではないので、一応露骨に嫌味を言ってみたくなる今日この頃。
「ああ、ちょっと待ったママ。今タバコ吸ってますからあまり近づかない方がいいですよママ。ほら、子持ちの女性は体に気を遣わないとママ」
「……随分と奇怪な語尾ですね」
グリフィスくんのツッコミに心の中でシャラップでお願いしますマジでとか思ってると、高町が不満そうな表情で口を開いた。
「……ねえ、せーくん」
「なんでしょうか」
「もしかして、それを言い訳に私を遠ざけようとしてる?」
高町にしては随分と鋭いもんだと感心するがなにもおかしい所はないなとか思いつつ適当に笑いながら「of course」とか言ったら、「That' s rightじゃなくてof courseってところに悪意を感じるよ……」とか言われたけど気にしない。
しかも無駄に発音がいいし……と落ち込む高町に、まあ悪意しかありませんからねとさらっと言うと、そこは否定してよ……とため息まで吐かれた。
で、ため息ついでにか知らんがずんずんとさらにこっちに接近してきたので、仕方なく慌ててタバコを備え付けの灰皿に押し付けてねじ消す。
こいつ俺が副流煙を自分に吸わせたがってないの見越して体張ってきやがった。なんなんだこの無駄な自己犠牲精神は……。
あーあ、まだ一息しか吸ってねえのにもったいねとか思いつつ、ところで一体どんな御用で俺に近付いてくるんですか高町様とか笑顔でお伺いを立ててみると、様付けと笑顔のコンボが恐ろしかったのか一瞬うっとかうめいてから、「ち、ちょっと、お話がしたくて……?」とか言われたので即行で逃げだそうとしたらバインドかけられた。
なんて無駄のない高速魔法展開だ。ただしこんな場面で俺に使っているという時点でとんでもないレベルの無駄が発生しているのは言うまでも無く、なるほどこれが無駄に洗練された無駄のない無駄な魔法ですね分かりますとか思いながらマジで一体何の御用なんですかとため息混じりに聞いたら、「あ、ぅ……」とかちょっと言い辛そうな仕草を見せたあとにその場凌ぎみたいに何かいいことでも思いついたみたいな表情を浮かべてから、小さな声で「ニックネームっ」とか言い出したのでクエスチョンマーク。
どうせ本題は別だったのを誤魔化してるだけなんだろうなーとか思いながらなんのことかと追加で問うと、なんか知らんが俺がティアのことをティア嬢でなくてティアと呼び始めたこととか、スバルのことをスバ公でなくてスバルと呼び始めた件について小耳に挟んだそうで、それならついでに自分も名前呼びとか駄目だろうかと要望を出しにわざわざいらっしゃったとか言い訳された。
……いや、その理由が仮に本当だったとしたら、そんなことのために仕事の合間を縫って俺を探してるあたり、そんなに名前で呼んで欲しいものだろうかと激しく疑問に思うのだが。
そう言えば六課内でも、高町を名字で呼んでるのは俺以外だとそんなに多くないって点を思い返してみると、何かしら思う所はあるんだろうなあとは思うんだけど、俺的にはなんかもう名前で呼ばないようにするってのはガキの頃からずーっと続いてるよく分からん意地が原因なわけで、どんだけ大人気ないと言われようが名前呼びは拒否の方針だった。
しかしまあ、その手の話題が議題に上がって来ても、ちょっと前と違っていきなり俺の背後に仁王立ちしてから般若顔負けのプレッシャーをばら撒かなくなったってのは、こいつが成長したのかそれともこないだの俺の怪我のこと引きずって俗に言う遠慮ってやつを見せているのか。
前者の理由であるならばむしろ大歓迎と言うかバッチコイと言うかそんな感じなのは言うまでも無いが、後者だったらなんだかちょっと調子狂うなーとか思いつつ、とりあえずニックネームの件についてはグダグダにしてうやむやにするべく会話をすることにした。
「というかあなたは、俺がそんなふわっふわとした理由で呼び方変えると本気で思ってるんですか?」
「えっと……。最近のせーくん、私の相談とかにも乗ってくれたりして、なんだか優しいし……?」
「なぜ疑問形ですか」
つか別に、大して優しくしたわけでもないのにこんな風に期待されても困るんですがと言わざるを得ない。
普段とのちょっとしたギャップくらいで、俺に対して今ならなんでも許してくれるんじゃないかなんて甘い幻想を抱くってならその幻想をぶち壊す。
「だからその……。す、少しくらいは考えてくれるんじゃないかなー、……なんて」
言ってる本人がそもそもそんな妄言を信じていない様子なのは、まさかと思うが俺のツッコミ待ちなのだろうかとか思いながら、でもこれならそんなに苦労もせずに話を逸らせそうでなんだか安心しましたありがとうとか思ったので、窓の外の空を見上げて遠くを見る目をして言う。
「寝言は寝て言うものと、そう思っていた時期が私にもありました」
「ね、寝言じゃないんだけど……」
俺は高町の方に向き直って、にこりと嘲笑って言った。
「高町さん。寝言は寝て言えって言ってるじゃないですかコノヤロー」
「だ、だから寝言じゃない……よ?」
不安そうな表情を浮かべながら小首を傾げる高町に、笑顔を崩して視線を逸らしながら気付かれない程度に小さくため息をついた。
本当、見た目は可憐な女性だからねこいつ。美人は得とはよく言ったものである。
まあ、別にこいつが美人だから態度変えるとかそういうわけじゃないが、少々やり辛いのは事実。
そんな感じでもたもたしてたら、そもそもどうしてティア達の呼び方を変えたの?とか聞かれたものだから、激しく面倒ではあったんだがどうせバインドかけられてるうちは逃げられねーわけだしどうせ逃げても二次被害が酷くなりそうだしで結局しぶしぶ説明することに。
なんか嬢とか公とか子供扱いっぽくてそれが嫌だったらしいですよとかティアの方とスバルの方の理由を適当に混ぜた理由を口にしてみると、私も名字呼びが他人扱いみたいで嫌だよっとか言われてどよーんとした空気を纏うしかない。
それなら俺も仲が良くて馴れ馴れしい雰囲気がなんとも言えない感じです名前呼び。とでも言いたかったのだが、ここでこれ以上落ち込まれてもあれなのでそれは自重する。
「てかもういいじゃないですかメンドクサイ。そもそも今更呼び名変えるとか俺からしてみれば難しいんですよ。なんだかんだ言って8年これですし」
「でも、なのはって呼んでくれるくらいならっ!」
「高町一等空尉を名前呼びするなんてー、私のような底辺局員には荷が重いデース」
「絶対そんなこと思ってないよね……。大体フェイトちゃんのことはフェイトさんって呼んでるし!」
「以前にも言いましたが、それは、苗字が長いからであって他意はないんですけれど」
「うぅ……ああ言えばこう言う……」
そりゃそうだ。俺が高町に勝てるのなんて口くらいのものなんだから。とか思いながら追撃の言葉攻め続行。
「ならあれだ。あなたも名字を長くすればよろしいのでは? 例えばほら……────高町・ファイナルビッグバン・エターナルフォースブリザード・なのはとか」
「本当に長いよっ!?」
というかそんなのどうすればいいのっ!? とか聞いてきたので、ツッコム所がそこだけなのかーとか思いながら、いい加減窮屈だった故にかけられたバインドにハッキングをかけながら言った。
「知らねっすよ。まあどうしてもってなら、ファイナルビッグバンさんとか、エターナルフォースブリザードさんとかと養子縁組するとか? けどそんなことしたら、士郎さんたちさぞ悲しむでしょうねえ」
「うーっ。せーくんがいじめる……」
「知りませんよ────と。馬鹿なことを言ってるうちに」
「え。────あ」
パキンという音と共に、腕ごと俺を拘束していたバインドを解除する。
まさか俺がそんな事をするとは思っていなかったのか、グリフィスくんも高町もキョトンとしていたが、別にそんな事は知ったこっちゃないので、とりあえず結構喋って喉渇いたしと自販機で缶コーヒーを購入した。
で、何か言いたそうな微妙な表情になっている高町の方に向き直ったところで、高町に部隊長様からのお呼び出しコールがかかった。
内容の方はなんか知らんが業務連絡的なもののようで、こんな時間にわざわざ呼び出すくらいだからなんか重要案件なのかねえとか思ったんだが、
『せやから、誠吾くんと愛の語らい中のとこ悪いんやけど、部隊長室まで来てくれんかな?』
とかニヤニヤしながらくっだらないこと言い出したので多分別に大した案件じゃないなと自己完結。とかしてる俺の横で高町が「あ、あい……?」とか言いながら肩を縮こまらせつつ軽く俯いて、ほんのりと頬を染めているのがなんとも不気味だと言わざるを得ない。
俺としては長年職場の女性陣とかにいじられていた関係上、この程度の軽口くらい右から左にスルーするのが当然だったので大丈夫だったのだが、高町の方はVIP待遇的なもののせいなのか、この手の話に耐性が無いらしく妙な反応だった。
普通こんな反応示されたらまさか自分好かれてるんじゃね?とか思うのかもしれないが、俺とすれば今更そんな勘違いは起こすだけ疲れるだけなので最初から無しってことで可能性は排除の方向。
なんと言っても高町ってのは、思わせぶりな態度をとらせたら天下一品。グランプリとかあったらぶっちぎりで優勝とか狙えそうな奴だからね。
それにこいつがそんなつもりじゃねーのは、まあ、うん、いろいろあったよね……。どうせ高町は覚えてないんだろうけどさ……。
ただまあ、このまま放置して自分のせいでもないのに追加で八神にいじられるのは癪だったので持ち前のスルースキルを活用して流すことにした。
「だそうですよ高町さん。部隊長もお忙しいでしょうし、早めに行ってあげた方がよろしいのでは?」
『……誠吾くん、さっきのセリフ一応ツッコミ待ちなんやけど』
「愛なんかねーよこのバカヤローが」
『敬語やめてまうほど嫌なん!?』
「あ、すみませんつい」
あまりのあれっぷりについつい敬語で無くなってしまったことについて即座に謝罪してから、落ちつけ落ち着くんだこのバカヤローとか自分に言い聞かせてると、敬語でなくなるのは別にええけど、こういう時だけ敬語やめるのはやめてっとか八神が騒ぎ出したが知らん。
むしろ今まで似たようなネタで散々いじって来てくれた中の一人が、なぜ俺が嫌じゃないと思ったのかとか詳しく聞きたい気持ちでいっぱいだったわけだが、その辺の追及をする前に、いつの間にか不機嫌になってた高町から不満たっぷりの指摘が入った。
「……なんだか、すごく体よく追い払われてるような気がするんだけど」
「すごく体よく追い払う口実が出来たのならば使わない手はないですよね」
「せーくんはどうでもいい所で正直すぎるよっ!?」
もうちょっとそういう本音は隠して欲しいの! とか言いながら、高町が俺をばしばし叩いてくる。別に死ぬほど痛いわけじゃないものの、痛いことは痛いので叩いてくる手を適当にいなしながら通信画面越しの上司様に伺いを立てた。
「八神部隊長。お時間の方よろしいんでしょーか?」
『う、うーん。ちょっとまずいかなぁ……?』
「うぅー! せーくんあとでまたお話だからね!」
八神に遠回しな催促をされてから、なんとも恐ろしい宣言をこっちを指差して捨て台詞のように言い置いて、高町は休憩所から駆け去って行った。
それを見送ってから、あとで面倒くさそうだから今夜は端末の電源切って隊舎で寝ようかなとか画策しつつ、結局何をしに来たんだろうか、まあ来た時よりも元気な感じで去ってったから別にいいかとか思いながら缶を開け、コーヒーを口に運んだ。
で、グリフィスくんが微妙に呆けているのに気付いて、声をかける。
「そういえば、さっきからあんまり喋ってないけど、どうかしたの?」
「……あ、いえ。どうにも気後れしてしまって」
「気後れ?」
そいつはどうにも、いつもオフィスでリーダーシップを発揮しているキミには、なんとも似つかわしくない言葉だと思うんだけど。と率直な感想を口にすると、グリフィスくんは困り顔で笑いながら言った。
「セイゴさんは、よく高町一等空尉相手にあれだけ皮肉を言うことが出来ますよね。恐れ多くて僕にはとても……」
「あー、まあ、うん。悪い意味で付き合い長いしねー」
腐れ縁とか悪友とかそういうレベルでなく悪い意味だと思うよねとか思ってたら、
「僕も一応、かなり昔からの知り合いではあるんですけどね」
どちらかと言うと尊敬の対象なものですから、あまりフレンドリーにはなれないんですよ。と苦笑気味に言うグリフィスくん。
そんな彼の言葉に、ああなるほど、そう言えば高町は現在の管理局において生ける伝説的な何かでしたねとか納得しながら、俺の前ではその片鱗的なものをあまりにも少ししか見せてくれないあいつは別の意味で大物ですねとか思いつつ、でもこれ以上高町の話で盛り上がるような気分ではなかったので別な話題での雑談的なものを始めようとする俺なのだった。
2011年3月1日投稿
お待たせいたしました。
忙しくてあまり筆を進められてはいないのですが、とりあえずキリのいい所まで投稿です。
ではまた次回の更新で。
追記:すみません。私の手違いで記事が上がってしまったようです。
とりあえず私は無事であることのご報告をさせていただきます。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 3月14日
2011年4月20日 大幅加筆
すみません。何度も修正を加えていたら遅くなりました。
ただ、難しい場所は越えたので、次からはもう少し早く投稿したいところです。
ではまた次の更新で