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No.9553の一覧
[0] 【習作】半端な俺の半端な介入録(リリカルなのはsts オリ主)最新五十八話更新[りゅうと](2017/05/22 20:30)
[1] プロローグ-別れと出会いと-[りゅうと](2018/07/08 02:01)
[2] 第一話-旅と道連れ世に情け-[りゅうと](2018/07/08 02:23)
[3] 第二話-驚き桃の気キャロさんの気-[りゅうと](2018/07/08 02:41)
[4] 第三話-愛しさと切なさとなんかいろいろ-[りゅうと](2018/07/08 03:00)
[5] 第四話-朝練と三等空尉と部隊長と-[りゅうと](2018/07/08 03:11)
[6] 第五話-六課の中の誠吾-[りゅうと](2015/07/26 21:34)
[7] 第六話-朝と依頼と高い所と-[りゅうと](2015/07/26 21:42)
[8] 第七話-初任務とあれ以来のそれ-[りゅうと](2015/07/26 21:45)
[9] 第八話-始まりと決意と焦りと-[りゅうと](2015/07/26 21:53)
[10] 第九話-一つの出会いと焦りの果て-[りゅうと](2015/07/26 21:59)
[11] 第十話-中二×理念=フラグ-[りゅうと](2015/07/26 22:09)
[12] 第十一話-経過と結果と副作用-[りゅうと](2015/07/26 22:17)
[13] 第十二話-休暇×地球×海鳴-[りゅうと](2015/07/26 15:24)
[14] 第十三話-ホテル×ドレス×着火-[りゅうと](2015/07/26 16:01)
[15] 第十四話-接触×考察×燃焼-[りゅうと](2015/07/26 17:24)
[16] 第十五話-人によって出来ごとの価値が変化していく不思議-[りゅうと](2015/07/26 19:46)
[17] 第十六話-言葉にすれば伝わることと言葉にすると伝わらないものを使い分けることに対するさじ加減について-[りゅうと](2015/07/26 22:33)
[18] 第十七話-とある日常-[過去編][りゅうと](2015/07/26 23:56)
[19] 第十八話-出会う日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:15)
[20] 第十九話-起きる日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:20)
[21] 第二十話-駄弁る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:26)
[22] 第二十一話-出向く日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:31)
[23] 第二十二話-語らう日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:42)
[24] 第二十三話-廻る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 23:39)
[25] 第二十四話-真実隠蔽-[りゅうと](2015/09/12 00:00)
[26] 第二十五話-似通う境遇-[りゅうと](2015/09/13 01:50)
[27] 第二十六話-桃色発起-[りゅうと](2015/09/13 02:01)
[28] 第二十七話-父子の顛末-[りゅうと](2015/09/13 02:24)
[29] 第二十八話-旧知再会-[りゅうと](2016/01/01 02:57)
[30] 第二十九話-敗者の日-[りゅうと](2016/01/02 04:41)
[31] 第三十話-交差する未明-[りゅうと](2016/05/16 01:01)
[32] 第三十一話-嘘も方便-[りゅうと](2016/05/16 01:44)
[33] 第三十二話-平穏?な幕間-[りゅうと](2016/05/21 23:38)
[34] 第三十三話-明かせぬ過去-[りゅうと](2016/05/22 00:39)
[35] 第三十四話-その情報、危険につき-[りゅうと](2016/05/22 00:59)
[36] 第三十五話-接触其々-[りゅうと](2016/06/05 01:03)
[37] 第三十六話-擦れ違う言葉-[りゅうと](2016/08/06 19:45)
[38] 第三十七話-忘却事件-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[39] 第三十八話-想い混線-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[40] 第三十九話-風邪っぴきなのはさん-[りゅうと](2017/03/01 01:10)
[41] 第四十話-ユーノくんとの裏事情-[りゅうと](2010/11/28 18:09)
[42] 第四十一話-彼と彼女の事情-[りゅうと](2011/02/28 23:49)
[43] 第四十二話-桃色奮起-[りゅうと](2011/04/20 03:18)
[44] 第四十三話-連鎖するいろいろ-[りゅうと](2011/05/15 01:57)
[45] 第四十四話-微進する諸々-[りゅうと](2011/06/12 02:06)
[46] 第四十五話-高町トラウマパニック-[りゅうと](2011/07/08 03:14)
[47] 第四十六話-それは己の未来の如く-[りゅうと](2011/11/20 02:53)
[48] 第四十七話-変化は微細に-[りゅうと](2012/05/05 23:46)
[49] 第四十八話-答えの日①-[りゅうと](2013/01/04 03:56)
[50] 第四十九話-答えの前に考察を-[りゅうと](2013/09/08 23:40)
[51] 第五十話-答えの日②-[りゅうと](2013/11/11 01:13)
[52] 第五十一話-友達として-[りゅうと](2014/10/29 00:49)
[53] 第五十二話-ファントム分隊-[りゅうと](2014/10/29 00:48)
[54] 第五十三話-彼の思うゼロの先-[りゅうと](2015/06/18 23:03)
[55] 第五十四話-動き続ける思惑の裏-[りゅうと](2015/12/21 01:51)
[56] 第五十五話-そしてわたしは名前をつける①-[りゅうと](2016/03/12 23:53)
[57] 第五十六話-そしてわたしは名前をつける②-[りゅうと](2016/05/06 00:37)
[58] 第五十七話-そしてわたしは名前をつける③-[りゅうと](2016/06/26 02:46)
[59] 第五十八話-そしてわたしは名前をつける④-[りゅうと](2017/05/22 00:40)
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[9553] 第三十五話-接触其々-
Name: りゅうと◆352da930 ID:73d75fe4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/06/05 01:03
鼻先に感じる吐息と、目先にある閉じられた瞳
整った顔立ち、特徴的な栗色の長髪のサイドテール。上気した頬と、緊張でこわばった唇。
それら全てと、俺との距離が縮まっていく。
近付く。俺の意思に関係なく。8年をかけて形成されてしまった俺とそいつとのしがらみとかそういった面倒なことの一切合財全てを無視して、俺とそいつの距離が縮まっていく。
抵抗しようと意識しても、なにも変わらない。
俺と目の前のこいつとの間にある距離は、まるで誰かが奪っていくかのように徐々に失われていく。
体は動かない。
むしろ、体があるのかも分からない。
俺の視界にあるのはそいつの姿だけで、自分の手も、足も、何もかもが映っていない。
いっそ、俺は首だけその場に安置されているなにかの哀れな実験体だとでも言われた方がよっぽど現実味がある。なにしろ、首を捻って顔を逸らすことすら許されていないのだから。
もちろん、首だけで安置なんてそんなわけがないと気付いてはいるが。
これは、きっと夢だ。
夢であるなら、首が動かないことにも、この状況を全力で拒否する意識がないことも説明がつく。
そうして考え込んでいる間にも近づく距離。
そして、その距離がゼロに────
もはや逃げることは出来まいと、俺はきつく目をつぶった。
出来ればこの夢が、目の前の最悪な結果を実現させるよりも先に、覚めますように────






























と言うところで「────っっっ!?」と言う感じの声にならない悲鳴とともに目を覚ました俺は、するりと何の迷いもなく昨日シャーリーに借りたストレージデバイスを手にとって起動させた。
明晰夢と言うものがある。
夢を見ている最中に、自分でこれは夢だと気付いたまま見続ける夢のことをそう言う。
そもそも夢ってやつは、脳が記憶を整理する過程で、そいつの深層意識からトラウマとか願望とか普段の想像とか日常の光景とかそういうものが引っ張り出されて構成されているわけだが、明晰夢ってのはそういうものの全てをひっくるめて自分の望む方向に夢を軌道修正することがあるとかないとかどっかのあれで読んだような読んでないような……。つまりさっきのあれはそのどちらかということになる。
トラウマか、願望か。
いや、考えるまでもなくトラウマだよ、うん。
だってあいつから逃げられないってシチュエーションとか無理矢理に近づいてくるあいつとか、まるでいつもの光景だったから。間違いない。
ただ、高町から逃げられないってシチュエーションも、すり寄ってくる高町のことも、心の底では望んでしまっているのだとしたら、この言い訳は根本の理論から瓦解するわけなのだけど。
いや、マジでそれはねー、と思いたいけど。
あいつは昔からずっともちろんのこと、今は俺だって、本当に、本気でそんなつもりはないのだ。
昔は……違うあれは若気の至りだ。若さゆえの屈強な想像力が悪い方向へ働いていただけで、断じてそれ以上でも以下でもない。
予め言っておくと、俺にはこの、俺の存在理念を根本から揺るがしかねない案件について小一時間ほど考察を重ねるだけの準備はあるのだ。
……が、壁掛け時計を見るにそんな時間は用意されていない。よって、緊急手段をとることにしようと思った。
そもそも、考えるべきことを思い出せなければ、さらに言えば、そういうことを考えていたと言う記憶すらも消え去ってしまえば、きっと俺は幸せになれると思う。
非殺傷設定での俺の本気を脳髄に叩き込めば、先ほどの記憶を根本から抹消し、しかる後にすっきりとした目覚めを迎えることが出来るはずだ。
よって失敗は許されない。俺の度胸的に二度目をするような覚悟はなかったので絶対に許されない。
もちろん、ただの魔力弾では駄目だ。その程度の魔力ダメージでは、きっと望み通りの結果を得られはしない。
今手元にあるのがファントムでないことは不安要素の一つとなっているのは間違いないが、あいつが俺のところに帰ってくるのを悠長に待っているほどの余裕は今の俺の中にはなかった。
俺は展開したストレージデバイスの先端に魔力弾を一つ作りだすと、それに全神経を集中させて一点を凝視、その先に魔力を全力全開で集中させ、そして圧縮する。
あまりに時間がかかりすぎるのに加え、魔力を大幅に消費してしまう上に誘導弾として使うには不安定すぎる代物になるためために戦闘中には絶対にやらないレベルの緻密なコントロールによって、そこに密集する荒々しい魔力の奔流。
数分をかけて手元の魔力を金きり音がするほどの高エネルギー体にまで昇華させた。
さて、あとはこれを愚鈍にして衆愚な我が脳髄へと叩きこむ作業を始めるか……と杖を自分の方へ向けようとしたところで────

「ん……。セイゴ……なにこの音────…って!?」

エリ坊が目を覚ましてこちらを見て、寝ぼけ眼を一気に覚醒させて顔を青褪めさせた。

「せ、セイゴ……? なにしてるのさっ!?」
「……え、なにって……。ちょっと自分に向けて引き金を引こうかと……」
「まるっきり意味が分からないんだけど!?」

その反応は至って自然だから安心してほしい。俺だって若干自分のやっていることの意味が分からなかったりしているくらいだから。
だが、

「止めるな、エリ坊。俺はな……俺は、今すぐにでもここ数時間……いや、そんな虫のいい話でなくともいい。ここ数日ごとでも構わない。この脳裏に染みついたクッソ薄汚ねえ記憶を失いてえんだ……」
「えええええっ!?」

相変わらず素晴らしい反応をするよね彼。もういっそのこと局員とかやめてリアクション芸人でも目指せばいいんじゃないだろうかとか思ってると、その隙にソニックムーブで近付いてきたエリ坊に両腕を掴まれる。
で、

「せ、セイゴ。とにかく落ち着いて話し合おう? でないとほら。そんな高圧縮の魔力弾をこんな場所で発射したら、部屋が吹き飛んじゃうから……」
「ああ、その点は大丈夫。対象に接触したら周囲に対魔力障壁を発生させて二次被害を防ぐ設定を────」
「正常な判断能力失ってるくせにどうしてそう言うところは抜け目ないんだよセイゴはっ!?」

怒られた。や、まあ怒られるだけのことやってるような気もするから仕方ないかも知れんけどね。

「とにかく、その魔法を解除してよ! 本当に危ないからっ!」
「お前……俺が黒歴史と言う名の束縛から抜け出る唯一の方法を禁止するってのか……っ!」
「なんの話さ!?」

そんな感じでごたごたやってたんだが、この魔法が暴発すると俺はともかくエリ坊が危ないので手順を踏んで魔力を安全にお片付け。
その後すんごい剣幕でエリ坊に怒られた。
朝っぱらからなにを馬鹿なことしてるのとか大体セイゴはいつも無茶苦茶だよとかあんな魔力を集中させた魔力弾を頭になんて打ち込んだらいくら非殺傷設定だって記憶どころか頭まで吹っ飛んじゃうよとかそんなん。
言われてみれば確かにその通りであった。と思ったあたりでようやく正気を取り戻す。
俺はなにをしていたのだろう。まさかここまで判断能力を失うとは……。いろいろあれだったのは事実だけど情けない……。
いや、むしろ前から思っていたんだが、寝起きの俺の判断能力の低さが恐ろしい。
昔から寝て起きてしばらくはまともに思考が働かないのが常で、特に朝とか極端に低血圧っぽいなにかのせいでグダグダだからなー、俺。普段に特別血圧が低いとかでもないんだが……。
やっぱこのあたりは、アレのことにも関係してるんだろうかという気もしなくもないが、結局今に至るまで原因とかよく分かってないからこれから先もよく分かんないんだろうなあ。
そんなこんなでエリ坊の説教が佳境に差し掛かってきたあたりで、なぜこんなことをしたのかと聞かれたりしたけど、流石に言う気になれなくて黙秘。
それから謝ったり許されたりしてから二人でサクサク出勤した。
けどいろいろあったせいで朝練に出る気にはなれないというか高町と会う気になれなかったので、エリ坊に用事があると言っといてくれと伝言頼んでさっさとオフィスへ。
それから適当に端末立ち上げて仕事をかき集め、誰もいないオフィスで一人寂しく雑務をこなす。
まあ寂しいとは言ったものの、一人で仕事ってのは今朝のあれを極力記憶の彼方に追いやりたい身としては、むしろ良かったかもしれない。
テンポよく仕事を続け、気がつくとちょうど新人連中が朝練終えるような時間になっていたので飯でも食おうと思い、適当に切り上げて席を立ったところで通信が入る。
誰ぞと思って回線開くと、相手は残念ながら高町。あいつの顔が端末に映し出された瞬間今朝の夢のことが頭を過ぎってバツが悪くなるのが自分でもわかる。
別にああいう夢だって、今回が初めてだったわけではない。こう見えてと言うか見たまんまと言うか、俺とてその辺に転がる普通の男だ。ああいう夢で目が覚めることだって時々ある。
いろいろと語弊はあるのだが、良くも悪くも俺にとって身近な異性だった以上、高町が夢に出てきたことだってもちろんあった。
ただ、高町が出てきた夢がああいう風に展開するってのはお初にお目にかかるあれであり、こちらとしても何とも調子が狂うというもので。
この夢展開は何を暗示しているんでしょうかねえ……。まあ、夢なんて意味がないことの方が多いけどな。とか一人溜息をつくと、無視されていると思ったのか画面の向こうの高町が怒った風に俺の名を読んだ。
更にもう一つ溜息をつきながら、何か御用ですか高町さんと聞くと、今から取調室へ来てとのご命令。
ああ、なんかもう嫌な予感しかしねえ……。俺のこのテの勘とか高確率であたるからねホント。あたって欲しくない気持ちに比例して当たるから。反比例してくんないかなマジで。
エリ坊からどういう話を聞いてあれしたか知らんが眉間にシワを寄せるのは年頃の女がするようなことじゃねーよねとか思いながら仕方なく取調室へと向かうことに。
で、俺の予想通り高町の要件は俺にとっての最悪なわけで。
俺の背後に『続・ヴィータとの情事その行方』的なテロップでも出せよもう。好きにしろよもう。
なにせ取調官の席に座る高町の背後に八神待機してますからね。どうやらシグナムさんの説明だけじゃ納得できなかったらしいですね。
とか思いながら、今朝の夢の件での気まずさとか、こないだのキャロ嬢の件での苦々しさとかを噛み締めつつ超捨て鉢な態度で話聞いてたら、なんか知らんけど八神が空気を読んだ。
なんかいろいろと言い訳並べて俺の援護をしてくれたので、それに便乗して事なきを得る俺。
今日ほど八神に感謝した日が他にあっただろうか? いや、無い(反語)
何せ昔から高町とヴィータに余計な知恵を仕込んで俺の逃げ道を無くすのが当然みたいなところあったからねこの人。
そのおかげで怪我した当初はいろいろと思うところもあったからあいつらと出来るだけ距離を置きたかったのにもかかわらず、前より話する時間増えたりしてたから。
しかも最低月一で俺の休日に合わせて一緒にどっかお出かけに付き合わされたりとかしてたし。
セイス隊長のところに行ってからは忙しかったからそれほどでもなかったが、それまではこいつの掌の上で転がされていたのは間違えようもなく、随分と苦汁を舐めさせられたものだった。
そんな、俺の不幸を見るのが至上の喜びだと思っているのだと信じて疑わなかった相手の優しさを垣間見て、久しぶりに感動した。これがギャップルールですね、分かります。
その後、全力で八神にお礼を言って取調室を離脱。昨日グリフィスくんに迷惑かけた分でも取り返してやろうと思ってオフィスへと舞い戻り雑務開始。
で、いつも通りにグリフィスくんに回された仕事片付けたり、先日の出動で消費した備品の追加発注の決済の細かい調整したりとかいろいろとやってたうちに気付いたんだが、腹減った。
そう言えば高町に呼び出されたせいで結局朝飯にありつけてないよね俺。
でも時間的に皆様就業中だし、俺だけ抜けて一人昼飯ってのも気が引ける。上司の呼び出しで時間が取れなかったとはいえそれはそれこれはこれ。
とはいえ昼休みまであと少し。まあ仕方ないので、適当にその辺の自販機で十秒チャージ飯でも買って昼まで持たせようかと思ったものだから椅子から立ち上がってオフィスを出ようとしたところで視界の端にちらつく小さい影に気付く。
俺の位置からは若干死角になりがちなデスクの陰に隠れ、頭を出したり戻したりしながら、しかし頭の横で括った金色の髪だけはぴょこんとはみ出させつつこちらの様子をうかがう影。
まあ、なんでこいつがここにいるんだろう護衛はどうしたザフィーラェ…とか、これの保護者じゃないのか高町ェ…とか、保護対象の監視はちゃんとしろよ高町ェ…とかいろいろと思うところはあったんだが、全部無視してスタスタとオフィスを出た。……ところで念話が入った。

『ちょっとせーくん! なんでヴィヴィオの相手してあげないのっ?』

ちょっと本気で、 ま た お ま え か とキレかけた俺を誰が責められようか。けどここで怒るのも大人気ないので努めて平静を装いつついつも通りを心がけて返事をする。

『……うっさいですね。あんな胡散臭い行動してるガキの相手なんて御免こうむりますよ、俺は。つーかあなたに呼び出されたせいで朝飯抜きだから今から十秒飯買いに行くんで邪魔しないでください』
『いたいけな女の子よりゼリー飲料優先なのっ!?』

はい優先です。……とまではっきりと返事できるほどに人の心がないわけではないので、近場に隠れていた高町を探し当ててとりあえず話を聞くことにした。
て言うか高町と一緒にスバ公までついてきたんだが野次馬かこいつ。ところでいつも一緒にいる相棒がいないようですけどどうしましたかと聞いたら、なんか八神に連れられて聖王教会のお偉いさんに会いに行ったんだとか。
ふーんと思いつつとりあえず場所を移して自販機のところへ。
ちなみにそんな俺たち三人組の後ろを通路の陰に隠れたりしつつ尾行のような何かをしながらついてくるウサギのぬいぐるみを抱えた少女V。
目的の自販機にたどり着き、どれを買おうかと商品のラインナップに目を滑らせながら、あれ相手にしなくていいんですかと高町に聞くと、せーくんのせいで近寄ってこないんだよと言われ、俺のせい?と首を傾げる。

「せーくん、もう忘れたの? ヴィヴィオに私のことで嘘ついたでしょ?」
「ついてません」
「ついたでしょーっ!?」

自販機に金突っ込んでボタンを押しながらしれっと言うと、うがーっとなって突っかかってきたので、はいはい分かってますよと宥めすかす。
きっとつい先日の、口からビームを吹く云々のお話のことだろう。
にしても、今朝は会わす顔など無いと思ったくらいだったが、会って話してみれば意外と普通にふるまえるものだね。
まあこの辺は、以前誰かさんが俺に言った、デリカシーの無さってやつがいい方向に働いているってやつなのかもしれないが。
それはともかく、

「前も言いましたけど、口からかどうかはともかく、嘘を吐く度俺を模擬戦に誘ってディバインバスターと言う名のビームで焼こうとしていたのは事実ですよね」
「そ、それは……。そういう素振りを見せただけで実際にやったわけじゃ……。と、とにかく、せーくんはあんな小さな子に嘘ついたりしてなんとも思わないのっ!?」
「いや俺、嘘とは友達なんで。友達のことを口に出したからってなにか思うとかそう言うのはないので」
「流石にその言い訳はどうなのかな……!」
「セイゴさん、開き直り方が斬新過ぎる……」
「それほどでもない」
「誰も褒めてないよせーくん……」

呆れるスバ公の横で高町が相当ガックリしていた。まあ、そんなこと別にどうでもいいので、取り出し口から出てきたアルミ製の小さなパックのキャップを外し、吸い出し口を口に含んで中身を吸う。

「で、その嘘がどうなると、あの子があんな尾行下手くその高町さん二世的なストーカーになるんですか?」
「す、すとっ……!」

高町が絶句した。なんぞ。まさか自覚ないのか。
そーいえばそのテの事件の担当になったこともあるんだが、事情聴取で話聞くとストーカー加害者の主張って一貫して、俺にはそんなつもりないとか、私は正しいことをしているとか、そんなんだよな。
以前とか、私は彼と前世からの魂でつながっているのよとか言いながら取調室で大暴れした素晴らしい感性の持ち主もいた。ちなみそれを聞いた直前に、もう一方の男性の方からは、深夜に家路を急いで街を歩いていたら、いきなり背後からショルダータックルをくらい、「ああ……あなたは私のデスティニー……」と言う言葉とともに貞操を奪われそうになったのでなんとか隙をついて管理局に通報したんだと言う主張を聞いていたので、そこで大体の舞台背景を察した俺。
ところでその時期、年度始め特有にある、新人の不手際で仕事が滞ると言う状況を何とかするために、俺たちベテラン陣はいつもの1.5倍ほどの仕事をこなさなければならないわけだが、こんな取り調べを延々続けていては俺以外のフォロー要員の人たちに迷惑がかかるのでとりあえず後輩呼び出してあの場を一抜けることにした。
決して途中で怖くなって後輩にバトンタッチしたわけではない。
それにほら、新人たちにもちゃんと事情聴取の経験積ませないといけないしね。うん。
……取調室前の廊下で、泣きながら「いやッス、初めての事情聴取があの犯人なのだけはホントいやです助けてっ……」と縋ってきた後輩を谷底に我が子をつき落とすライオンになった気持ちで涙を呑みながら取調室へとおしこんだ俺だった。
後輩は犠牲になったのだ……。行き過ぎた妄想の犠牲……その犠牲にな……。
それから二時間ほどの後、調書と共に涙を引っ提げて、鬼のように仕事を片付ける俺のところへずーんとした空気を背負ってやってきたその後輩の肩に手を置いてうんうん頷きながら、「飯、奢るよ」と切り出す俺だった。
まあ俺にとってはそう言う、戯言と仕事の延長線上にある物語的な何かでしかないんだが、ストーカー本人にしてみるとそれがどうしても正しいのだという主張を恥ずかしげもなく口にしてるからね。
なるほど。これが確信犯という言葉の正しい使い方か。とか一人勝手に納得しつつアルミパックの中身を全て飲み干し、ゴミを折りたたんで近くのゴミ箱に放り込んだところで、ようやく平常心を取り戻したらしい高町が口を開いた。
その高町の主張を分かりやすくまとめるとこうなる。
ヴィヴィオは、自分に嘘をついた俺のことが許せなくて、そのことについての謝罪、あるいは別のリアクションがあるまでは、俺に徹底抗議をする姿勢を崩さないつもりだそうだ。
それがあの、物凄く構って欲しそうな感じを振りまいているくせに、こちらに一定の距離を保っている理由だそうで。
まあ、それに対する俺の感想なんて、「ふーん」程度のものでしかないのだけれど。
向こうが遠ざかるなら、俺の方から追いかける理由もないと言うかなんというか。
もともと子供の相手は不得手だし。
あの子の相手は高町がするだろうし。
つーか嘘つかれて嫌なら、そもそも俺に近づかなきゃいいのに。
それに、あの年頃の子は俺に近づけない方がいいんじゃないかな。
俺っていわゆる"アク"が強すぎるし、悪影響が強そうだ。自分で言いたかないけど。
それに、ある程度自意識をもって生き始めてるやつら相手ならまだしも、あんな中途半端な年齢の奴は影響が濃そうでなんかやだ。

「そんなわけで、俺からはアクションを起こしませんけれど、なにかご意見でも?」
「大有りだよっ!」

さっきの心中を適度に簡略化して高町たちに伝えたらなんか怒られた。
や、確かに、嘘っぽいなにかをついた点については俺にも思うところはあるけれど、それを謝らせたいなら自分で文句を言いに来いと言いたい。
自分は何も言いださずに、遠くから非難の視線を向けてるだけ。もしくは、その非難の視線の意味を誰かに教えて待ってるだけなんてのは、なんかなーと思う。
世の中、待ってるだけで自分の都合のいいように回ったりしないと思うよね。
などと一見正しそうな言い訳考えてるけど、結局のところ自分から面倒に関わりたくないだけだけど。
子供の相手とか、その場のノリだけで引き受けるほど楽な話じゃない。
そりゃ、迷子の相手するとかそういう、その場限りのことならいい。けど、ここのこの話は、そんな感じとは思えない。
最近俺の方に回ってくるセイス隊長の任務も量が落ち着いてきてはいるので隊舎に居残りしやすい手前、高町たちが出動の時に俺がこいつの相手をするってシチュエーションとか普通にありそうだ。
そういう風に、しばらく苦楽を共にする関わりを持つ以上、なんだかんだで最後まで面倒を見てしまうのが俺のどうしようもなく中途半端な部分なのである。
で、もしそうなるのなら、相手がどれほどちっちゃかろうが子供だろうが、俺にだって付き合い方を要求する権利くらいください。
まあ、我がままで大人気ない対応だと言われればそれまでなんだが。

「とにかく、俺の方からは関わりません。あっちのアクション待ちでお願いします」
「せーくん……」

高町がすんげえ残念そうに眼を伏せる。だからどうというわけでもないが、なんともバツの悪い気分になって、頭をかく。
場の空気が壮絶に悪い。高町の横のスバ公とか、少々きつめに視線を細めて、セイゴさんのせいなんですから何とかしてくださいと言わんばかりに俺の方にアイコンタクトとってくる。
言われなくともこちらも気まずいので、なんか別の話題でも持ち出して誤魔化そうと思い立ち────…一つ、昨日の流れで確認しておかなければならないことがあったことに気付く。
だからさらりと話題を逸らすついでに聞いた。

「そういえば、昨日あなたに一つ聞きたいことが出来ていたんですが」
「え、聞きたいこと?」

俺が唐突に切り出すと、高町が沈んだ様子をなんとか振り切って顔を上げた。首を傾げてるので補足説明。
ティ────ってところまで口に出して心の中でハッと気付く。ここでティアのことを嬢付きで呼ばなくなったことがばれては、またニックネーム付けろだ何だとめんどくさいんじゃなかろうかと。
別にいつも通りにあしらうことに関しては是非もないが、今この場で話の論旨がズレるのはよろしくない。一回ズレると元の場所に戻るまでどれほどかかるか分からないものな。
ここまでの思考でカンマ数秒。
というわけで、急遽嬢付きで名前を繋げることに。ティ────ア嬢とかおかしく途切れた呼び方をしたせいで眉を顰めた高町の横でなんで嬢付きに戻ってるんだろうと言う感じで首を傾げているスバ公に肝を冷やしつつ要件を口にした。

「俺に近接戦闘について教えてもらいたくて、あなたにも許可をもらったと言っていたんですが、本当ですか?」
「あ、あのことだね。うん、それなら本当だよ」

高町が頷いて、それから大まかな流れを説明してくれる。
要するに、ティアの目指すオールマイティな戦技と、俺の持ってる戦技に近しいものが見えたので、ティアが俺にその辺のことを習いたいと高町に進言したんだとか。
高町の方もそのあたりのことは考えていたようだ。そういえば全く応じる気は無かったから話を聞き流していたせいでうろ覚えだけど、そもそも俺にしつこく六課への勧誘をかけていたのはこのあたりのことで誰かへの指導についていろいろ手伝ってもらいたかったからとか言ってたような。
アレってティアのことだったのか。
いや、それであのことを納得したりとかしないけどね俺。手伝って欲しいとかそういうのだったら、実戦データとか映像とか送ってくれれば暇なときにそれをファントムが解析してなんとかしようとくらいは思うから。
とか言ってみると、

「けど、それだとティアナのクセとか、いい所とかが分からないままアドバイスだけもらうことになっちゃうから、良くないことになっちゃうと思ったんだけど……」
「……まあ、その辺は確かに書類上のデータだけじゃ微妙なところですけどね」

仮に今俺があいつに戦闘上でのヒントのようなアドバイスするとして、その内容のいくつかは、あいつの戦い方を直接見ていなければ出来ないことだと思う。
ただ、それはあくまでアドバイスの領域なのであって、一から近接戦闘を教えるとなると話は別だ。
俺の近接戦闘は、俺が俺の癖を自分自身で分析して、何年もの年月をかけて自分のためだけに作り出した形態でしかない。要するに典型的過ぎるくらいの我流なのだ。
いや、それを言ったら明確な何とか流とかそういう派閥に入っていない限りはたいていの局員が我流なんだが、俺のは普通の局員の誰もが通る戦技の基本とかの教本とかの内容からすらかなり外れた場所を行っているので、その辺も問題だと思う。
誰かに俺のやり方を教えてそれが合理性を保てるようなものになるかなんて皆目見当もつかないし、そもそも俺のやってることを同じだけやり込もうとすると、いろいろ試行錯誤していた部分は俺の方で簡略化したとしても、軽く見積もって5年は地道な自主トレする感じなのだ。
普通の課で自分の部下に対して指導するならそれでも特に問題無いんだろうが、確かこの課って一年ポッキリのお試し期間的な運用だって聞いた気がするから、残りの寿命そんなに多くないよね。
だから昨日から迷っているのだった。
安請け合いは出来る。安請け合いなんて言うくらいだから簡単に。
けど、それが原因で生じた現象には、責任を持たないとならない。それが他人に物を教えるってことだと思う。
これを引き受けると、これまでみたいに外野から自分の考えを口にしてるだけだといけなくなる。
しかもこの課の状況からして、最後まで責任が取れるとも思えない。
正直、基本をさらい切ることすら出来ずに解散といった具合になるだろう。
けど昨日、このことについて説明しても、ティアは一歩も引きはしなかった。

「あんたの負担になることも、これが正しい選択かどうか判断できないことも分かってるわよ。けど、それでもあんたから吸収したいことがあるから」

だから、お願いします。と、頭を下げられて、俺としては弱ってしまった。
その場はちょっと考えさせてくれと誤魔化した。
だから高町の方はこの事についてどう思ってるのか聞こうと思ってこのように話題に上げたのだが、こっちはこっちで俺に任せる気満々で何とも言えない雰囲気である。

「あの、セイゴさん」
「ん?」
「ティアのお願い、聞いてあげてくれないかな」

この後夜にでも返事することになってるのでどうしようかとグルグル思考をループさせてると、それまで借りてきた猫のように黙りこくっていたスバ公が、控えめな態度に強気な色を浮かべた瞳をこちらに向けて、そんな事を言い出した。

「ティア、前に言ってたんだよ。強くなることもそうだけど、六課が終わるまでの残りの時間で出来ることを、六課が終わった後の自分の道につなげたいって。私の勝手な想像だけど、きっと、セイゴさんからもそのためのヒントをもらいたいんだと思う」
「……」
「昨日のセイゴさんの言ってたことも分かるけど……。でもティアは、責任とか、後のこととか、そう言うこともちゃんと含めて考えて、それでもセイゴさんに頼んでるんじゃないのかな……?」

それはまあ……多分そうだろう。
あいつだって六課が来年の今頃にもう無いことは分かってるはずで、俺が今まで散々時間をかけて訓練してたことだって知ってるはずだ。
それでも俺からいろいろ技術を盗みたいと思ってくれたと言うのなら、ありがたいことだと思う。
それは俺が今までしてきたことが、他人の糧になれるくらいには意味のあることだと言う証明だと言えるはずだから。
そう考えると、責任どうこうで逃げる方が無責任な気がしてくるから人の心ってやつは不思議だ。
スバ公に説得された形ではあるのだが、まあ、少し前向きに考えてみようかななんて思ったあたりで腰に衝撃。
小さくよろけて何事かと後ろを向いて視線を落とすと、金色の小さな頭が背中に密着してた。
腰にはそいつの腕が回されがっしりロック。その気になればこの場で締め上げることが出来る態勢である。
え、ちょ、ま……え!? とか思いながら荒れ狂う心中を押し隠して全身に嫌な汗をかきつつ事態の推移をうかがっていると、金色の頭がむずむず動いてこちらを見上げた。
で、

「……せーご、どうしてうそついたのっ」

少々頬を膨らませながら、怒った様子を隠そうともせずに聞いてくる。
さっきの高町との話を聞いていたのかどうだか知らないが、どうやらあまりに相手にしてくれないので強硬手段に出たようだった。
しかしこの手の体当たりを誰に言われたわけでもなく敢行とは、同居数日にして確実に高町の性格を引き継いでいますね分かります。
なにこれ……こわい……。
このままいくとこいつ、高町と同様のとんでもなく俺に都合の悪い成長を遂げる可能性がデンジャー。
そもそも腰にしがみついているところからして怖い。怪力怖い。マンホールの蓋怖い。いや最後は別に怖くは無い。
思考が激しくグダついているのは自覚している。しかしこの状況。対応を間違えれば俺の下半身が不随になるのは不可避の事態であり、子供と言うのはどの辺に発火スイッチがあるか分からないものだから何をしようと不随ルートを避けられなかったりするかもしれないあたりもうどうすればいいのか自分でも分からなくなってきてあかん思考回路が13kmやby市丸ギンとか言葉遣いがおかしくなりつつ焦る。

「せーごっ!」

息を呑んでなにも言わない俺に焦れたのか、ヴィヴィオがさらに体を乗り出して詰め寄ってくる。
俺はさらに背筋が冷える。
近くの高町たちが俺が焦ってるのを見て何を勘違いしたのか何ださっき言ってたことはセイゴさんなりの照れ隠しかーとかなんとか微笑ましそうに苦笑してるけどそんな事態じゃねーから。
俺の腰が大ピンチすぎてマジでヤバい。マンホールの蓋持ち上げるような怪力とか恐ろしくて声も出ない。バリアジャケット装着したい(俺が)ストレイト・ジャケット装着させたい(ヴィヴィオに)
そんなこんなで「あー、いや……」とか、誤魔化しの言葉を並べつついろいろ考える俺。
そうこうしてるうちにヴィヴィオがこっちを見たままぐずり始めたので、仕方ねーとばかりに言い訳を始めることに。
数分にわたってなんかいろいろと言葉を並べ続けていた気がするんだが、散々お話をこねくり回して結局変な所に着地した。

「いいか。確かに俺は嘘を吐く。だが、約束は破らないように努力はする。つまりいい人だ」
「……そーなの?」

そうなのと言い聞かせてると高町たちがめっちゃ胡散臭げな表情を俺に向けてた。けど知らん。周囲の評価など今はどうでもよかろうなのだぁ!
も一つ言うとスバ公が小声でぼそりと努力だけなら誰にでも出来るよねとか呟いてたけどこちらも気にしない。

「けど、ママはうそをつくのはわるいことだっていってたよ?」
「……ママ?」

ママって誰ぞ。なんだ、いつの間にか引き取り手でも見つかったんですかって例の研究所の追手じゃねーよねとか思ったけど流石にそりゃねーよと自己完結。
誰のことかと首を傾げると、ヴィヴィオが俺から離れて高町を指差した。愕然とする俺。しかしつられるように俺も高町を指差し、眉根を寄せつつ聞いた。

「……えっと、ママ?」
「えっと、うん」

ちょっと照れが入った風にはにかみながら、本当のママが見つかるまで、私が代わりになれたらって思ったの。とか説明する高町。
……なんかいろいろ言いたい事があるようなないような……。まあそれは今は置いておこう。

「つーか、先日のあれは嘘ってよりかは冗談の類だったんだけどなあ……」

子供でなきゃ絶対信じないような内容だったし。

「大体、大なり小なり誰だって嘘なんてついてると思うぜ?」
「そーなの?」
「そうなの」
「それじゃあ、ママも?」
「ああ……。いや、高町さんは多少アレだから嘘つけないんじゃね?」
「アレってなに!?」

いや……アレはアレである。
家族とかに対して、アレアレ、アレ取ってよアレ。と頼みごとをするようなアレアレ精神でもって、アレについてはお察しあれ。
俺の肩を掴んで揺さぶってくる高町を適当にいなしながら、そういう意味では高町さんの言うことは信じていいと思うぜとかフォローを入れる。フォローになって無い気もするけど気にしない。
だからまあ、嘘っぽいものをついたのはごめんと謝り、けど、俺多分これからも冗談とかそんなん言い続けると思うから、それが嫌なら寄ってこない方がいいぜ。とか予防線を張ってみた。

「ぅー、せーごいじわる……」
「意地悪とかいわれてもな……。つーかこのテの冗談言わなくなったら、俺が俺じゃなくなるみたいなもんだし」

俺の会話の80%近くがああいう冗談とかそういったもので構成されてるのは俺の知り合いなら誰でも分かることなのだが、まあヴィヴィオが子供だからそう言う意を介せないってのも今の問題の一因だったりするのかもしれない。
かといって、目の前の少女のためだけにそういうのをやめるってのも何とも……。

「ああ、じゃあこうしようぜヴィヴィオ」
「……?」
「俺のつく嘘を……そうだな。3回見破れたら、なんか欲しいものプレゼントしてやるよ」
「え……?」

ヴィヴィオが不思議そうに首を傾げる。

「それ、ほんと?」
「さあ、どうだろうな。本当かどうか、よく考えてみるといいよ」

苦笑しながら言うと、ヴィヴィオがまた頬を膨らませた。

「むぅー。ごまかそうとしてる……」
「誤魔化そうとなんてしてないさ。だってこれ、そういう勝負だろ?」
「ぅーっ! せーごのいじわるっ!」

そう言って舌をべーとやってからヴィヴィオが走ってどこかへ行ってしまう。

「あ、ちょっとヴィヴィオっ!」

それを高町が追っていった。さすがに去り際に俺に非難の視線を向けていったので、小さくため息を吐く。
そんな俺を、その場に残っていたスバ公が呆れた目で見ていた。

「……セイゴさん。いくらなんでもさっきのは……」
「大人気ないって? まあそうなんだけどな。自覚はあるんだけど、俺って責任ある立場ってのがあんま好きじゃないんだよ」
「……知ってるけど。それ、今の話と関係あるの?」
「少なくとも俺にとってはな。考え方なんて人それぞれだろうから、高町さんとかお前がどう思ってるかは知らないけど。……それになぁ」
「え?」
「これから先の将来、あいつ、いろいろと大変になるだろうからさ。今のうちに底意地の悪い大人の本性知って慣れとくってのも、悪くないと思わないか?」
「────っ。そ、それって……」
「個人的な意見だけど、子育てって、憎まれ役が居た方が少なからずいいんじゃないかと思うんだよ、俺は」

それだけ答えてから、セイゴさんっ!と呼ぶスバ公を無視してひらひら手を振りつつ俺はその場を後にした。
さて、いろいろあって出遅れたけれど、お仕事後半、頑張りますか。





























2010年5月19日 投稿

2010年8月30日 改稿

2016年6月5日 再改稿


序盤の誠吾のなのはさんへの葛藤(若気の至り的な意味で)についての説明

過去:なのはさんが構ってくる→なんでだろう→まさか自分に気がある?→いやしかし……→最初に戻る
現在:なのはさんが構ってくる→ ま た お ま え か →終了


次回予告

午前までに任された仕事を終え、念願の昼休みを過ごす誠吾。
朝昼兼用の食事もそこそこに、彼は一人でとある部屋を訪ねる。
しかしそこには既に先客がいるのだった────


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