場所はエリ坊の部屋。
そこで俺はPS2のコントローラーを無駄に巧みに操り、幻影刃、幻影刃、魔神剣・双牙、いくぞっ!月閃光、散れっ、虎牙破斬、刻めっ、臥竜閃、そこかっ、幻影刃、魔神剣・双牙、飛燕連斬、臥竜閃、そこかっ、月閃光、散れっ、月閃光、散れっ、いい気になるなっ!目障りなんだよ!僕の目の前から────消えてしまえっ!魔神────煉獄殺!いい気になるなっ!塵も残さんっ!奥義────浄破滅焼闇!闇の炎に抱かれて消えろ!と言う緑川ボイスを聞きながら敵を屠る。
敵とは勿論、画面の向こうで馬鹿なあり得んあり得んぞぉぉぉぉと断末魔を上げているchaosスバルバ……もといchaosバルバトス・ゲーティアさん(TODリメイク版)である。
しかしあれだ。浄破滅焼闇使いたい。リアルで。いや無理だけどさ。俺魔力変換資質『炎熱』ないし。シグナムさんなら出来るんだろうか。
やー、でもあの人西洋剣一本使いだしねー。俺みたいに中途半端に鞘使った二刀流とかしてるの見たことないし。となると滅焼闇は無理か……。
あー、しかし緑川ボイスいいなマジで。そういや緑川ボイスと言えば高町の兄さんの恭也さんの声がめっちゃグリリバボイスそっくりだったなー。
リアルであの美声とかマジ憧れるわー。しかも顔いいし性格いいし妹想いだし全国のお兄さんの理想形だよねマジで。
おまけに超強いし。俺が一瞬で背後とられた8年前のあの日。肩を叩かれるまで気付かなかった時には恐ろしいを通り越してなんともいえない気分になりました。
ところで真面目な話に移るが、幻影刃とか実戦投入できそうじゃね。
高速移動と一閃による切りつけを融合させた高速剣技。斬りつける時に全身に魔力を纏って突進すれば、実践でもかなりいい線いきそうな気がする。
まあそんな現実逃避はともかく。
こないだ追加で親父から郵送されてきたいくつかのテイルズシリーズ。その中でも俺個人としては横スクロールの中では戦闘が一番面白いと感じるTODリメイク版をプレイするin平日の真昼間であった。
ちなみに俺の横では金髪のおこちゃまが興味深そうにディスプレイに見入りながら俺に寄り添ってきており、そんな俺たちをエリ坊とキャロ嬢が少し離れた位置から苦笑して見ている。
なんぞこれ。いや、てかこれなんて罰ゲーム?
とか何とか思わずにはいられない俺の気持ちを誰かキャッチしてほしい。電波的な意味で。
「ねー、おじちゃん」
「……」
「おじちゃん。おじちゃんてばー」
「……おい。さっきから何度も言ってるが、おじちゃんはやめろ」
俺はそんな歳じゃない。……多分。いや、世間での22歳って実際どうなんだろうか。5歳くらいが相手だと普通におじさん認定を受け入れなければならないレベルなんだろうか。
しかしそれを言ったらフェイトさんだってあれだと思う。本人には言わないけど絶対。俺はまだ、知らぬ間に首を刈り取られていましたなんて状況は御免である。
何はともあれ事情を説くと、要するにこいつ的に俺は高町から自分を引き剥がした悪者だったわけで。
だから高町が帰ってくるまでは俺に責任を取らせる心積もりらしい。
フェイトさんと八神に連れられて高町が部屋から出ていくと、こいつときたらいきなり俺の制服の裾をガシリと掴み、おじちゃん、あそぼ?とか言い出したのだ。
俺はその場で石像にでもなったかのごとく制止した。つか思考ごと体が動かなくなった。
なにしろ、おじちゃんである。
こちとらこれでもまだ若いつもりなのだ。結婚適齢期だってまだ先だし、筋肉痛だって一晩寝れば現れる。
考え方だってガチガチに凝り固まったりしないようにしてるつもりだし、体力だってその辺のガキよりよっぽどある。
なのに、おじちゃん。
その一言で撃沈された俺は、何一つ言い返す気力すら湧かず、最初からこいつの相手をするために呼ばれたらしいエリ坊たちとともに場所を移して今に至るわけだった。
ところで事後確認したことだが、今日の俺勝手に有給入ってたらしい。
どうやらシャマルさんが俺の体調鑑みて勝手に休暇を入れてくれたようだ。
要するに最初っから暇だった俺はこいつの相手としては渡りに船だったわけで。
そのうちティア嬢たちとエリ坊たちが交代するらしいが、まあどうなろうと知ったことじゃない。
いま重要なのは、この子供に俺の呼称をどう変更させるかである。
「むぅ~。おじちゃんだってヴィヴィオのことヴィヴィオってよんでくれないのにー」
「ああ、なるほど。つまり貴様は対価を要求しているというのだな少女よ」
「たいか……?」
ですよね、難しい言葉は分かりませんよね。ああ、カッコつけた遠回りな言い回しが俺の会話の意義と言っても過言ではないのにそれを否定されている。泣きたい。
でも俺は優しい(笑)し心が広い(嘲)から語彙を変えることにやぶさかじゃない。ああやぶさかじゃない。
「……だからつまり、俺がお前をヴィヴィオと呼んだら、お前は俺のことをおじちゃんと呼ぶのをやめるのかってこと」
「ん? ……んー。うん」
……えらい間があったんですけど大丈夫なんだろうかこれ。あれじゃないよね。ヴィヴィオって呼んでも俺の方の呼び方変えないとか言う鬼畜設定じゃないよね。きっとこの子は純粋だから大丈夫だよね!?
まあ悩んでいても仕方あるまい。なれば実戦あるのみよとか思ったので実践する。
「ではヴィヴィオ。ヴィヴィオは俺のことをどう呼んでくれる?」
「んー。おじちゃんはなんてよんでほしいの?」
そう聞かれると困る。とりあえずおじちゃんだけはやめてもらいたいのは間違いないが、だからと言って誠吾とか誠吾さんとか呼ばれるのも何とも言えない気分である。かといってお兄ちゃんとか言うのは違う気がするしなあ……。
とか思ってエリ坊に意見を仰ぐと、あいつはうーんと唸ってから「あ」といいことを思いついたような態度をして、
「パパとか?」
「まさかエリ坊を手にかけねばならない日が来るとは……」
即座に立ちあがってエリ坊との距離を詰め、ヘッドロックをかまして頭を締め上げる。筋肉痛? シャマルさんにもらった薬飲んだら大分マシになった。今は普通に動き回れるレベル。
「うぐあぁぁぁぁ! ごめんなさいごめんなさいっ!」
「ふははははっ、許してほしいかエリ坊! もし許してほしければ高町に面と向かって、好きです、僕と模擬戦してくださいと言うと約束しろ!」
「それどう考えても今よりさらに状況が悪いんだけどっ!?」
「ならば貴様の頭蓋は今この時をもってお釈迦となる」
「ゆ、許してえぇぇぇぇ!」
しまいには暴れる俺たちの近くであははと苦笑しているキャロ嬢に助けを求め出すエリ坊だった。
助けてキャロっ!とか超必死に言うもんだからキャロ嬢も見かねたのか「セイゴさん、その辺で」と俺にやんわりと攻撃の中止を促す。
まあキャロ嬢が言うなら仕方ない。ぱっと手を離すとエリ坊がどさりと崩れ落ちた。きゃっきゃとヴィヴィオが喜んでた。楽しそうでなにより。
「うぅ、酷いよセイゴ……」
「酷いのはどっちだ。誰が子持ちか。彼女すらいないわ!」
言ってて悲しいけどな!
「むー、だったら何て呼んでほしいのさ」
「いや、それを言われると弱いんだがな」
「なら、お兄ちゃんとかどうかな?」
「なーキャロ嬢。俺がお兄ちゃんて柄かよ?」
「うん」
「うん」
「なん……だと……?」
これは酷い予想外。こいつら俺のことそんな風に思ってたのか……。
「うーん、でもそれが嫌なら普通に名前を呼んでもらうしかないんじゃ……」
俺としては微妙なところなんだが、別の案がないなー。んー、せっかくのキャロ嬢の提案だし、それでいいか。
「よし、ヴィヴィオ」
「なにー?」
「俺のことは誠吾と呼べ」
「せ…いご?」
「そう、誠吾」
「せい、ご……せいご……────…せーご!」
「おう?」
「わかった。せーごってよぶ!」
無邪気にそう宣言したヴィヴィオは、せーごせーごと連呼しながらキャロ嬢に突進していった。なぜそっちだ。まあ俺は楽だからいいけど。
で、それを器用に受け止めるキャロ嬢。さすがにいろいろ訓練受けてるだけあって身体バランスもいい感じになってきてるよね。
とか何とかやってたら来客が来た。
エリ坊が応じると相手はティア嬢だった。どうやら仕事が片付いたのでエリ坊たちと交代しに来たらしい。
スバ公? まだ終わってないらしいよ。手伝ってやらなかったのかよと聞いたら、うんまあ、ちょっとそういう気分じゃなくてとか微妙に目を逸らしながら言われた。
なんだろう。この微妙な反応はとか思うけどまあいいや。深く追求しても面白いことなんてないだろうしね。
「じゃあとりあえず、僕とキャロは隊舎に行くね、セイゴ」
「おう。あと半日だけど頑張ってな」
で、
「こんにちは、ティアナ・ランスターです。ヴィヴィオって呼んでいいかな?」
「……う、うん」
そんな感じで自己紹介突入。座り込んだティア嬢がヴィヴィオと面をつき合わせていた。
しかし何だあの物腰柔らか120%増しは……優しげでかわいい機嫌のよさそうな笑顔のおかげで、普段のティア嬢と同一人物とは思えんぞ……。
なぜなら俺と話してる時は眉間のシワがボンゴレ十代目である。
いつも眉間にシワを寄せ(俺の言動がイラつくから)祈るように拳を振るう(俺のバカが治るようにツッコム的な意味で)
いや、多分俺以外の前じゃあんな感じだと思うけどね。高町とか相手だと礼儀正しいし。
それに子供相手だから余計に気を遣ってるんだろう。
とはいえヴィヴィオは若干人見知り気味で、あいさつが終わるととてとてと走って俺の後ろに隠れてしまった。
飴SUGEEEEEE。まさかこんなに懐かれるとは思わなかった。やはり子供は単純ですねとか思ってたら、
『飴云々と言うより、あんたに害が無いって気付いただけでしょ。それなりに一緒にいたんだから』
『あれ、俺口に出してましたか』
『口と言うか、念に?』
『無意識で念話を使った……だと……?』
『その事実は私の方が驚きたいわよ……』
なんて感じに話してたら、さっき着替えた私服のジーパンの布をくいくい引っ張られた。
そっちを見るとヴィヴィオが不満そうな顔で俺を見上げていた。
「せーご、あそんでよー」
「ん。ああ、なら次はどうする? アニメ店長でドラグーン背中に付けたべジータフルボッコにするか?」
無論chaosで。とか言ったらティア嬢が首を傾げてた。まあ知識なきゃそんなもんだよね。
「ううん。ごほんよんでー」
「本? なんか読むようなもんあったっけか」
首を傾げてるとヴィヴィオがとてとて走ってどこかに行った。数秒ほどでまたとてとてしながら戻ってくる。
その手には一冊の本が握られていた。題名は────
偽物語(上)
……うん。これはまずい。
明らかに5歳の子供に聞かせるような内容じゃないね。
おのれエリ坊、読んだらキチンと元の場所に戻しておけとあれほど言っておいたのに、適当に机の上に置いておきましたね帰ってきたら折檻じゃー!とか思いながらあぶら汗超かいてた。
多分入ってる箱の表紙絵が幻想的だったおかげでもってきたんだろうが、内容はもはや大人の楽しみなレベルである。
いやまあ、そんなんエリ坊に読ませるのもどうよとか言われたら言い返せないけど、あいつ10歳のくせに変に老成してる部分あるしさー。化物語上巻から読みたいって言うから順番に貸してるってだけで、別にいいかなとか思ったり。
けど話の内容的に偽物語下巻はまたエリ坊のトラウマを刺激したりしないか今からかなりビビってる俺。
まあ以前のアビスの時の数日後にもうああいう物語読まない方がいいんじゃねと忠告したら、大丈夫だよ。感動してまた泣いたりするかもしれないけど、それはそれだからとか言われたりしたから何とも言い返しにくい感じであった。
まあいいや。俺はあいつの体のことを気にしないと決めているし、あとは野となれ山となれだ。
と現実逃避しながらヴィヴィオの手から偽物語(上)をひったくり、背後で不思議そうな表情をしているティア嬢を見た。
「とりあえずティア嬢。ヴィヴィオは本を読んでもらうことを御所望のようなので、高町の部屋からかっぱらってきたあの袋に入ってるとかキャロ嬢が言ってた気がする絵本を読んであげるといいと思います」
「別にいいけど、あんたはどうすんのよ」
「疲れたから寝る」
「……その子、そんなことさせない気みたいだけど」
おィィ。どうして足に抱きついてるわけ?
とか何とか言いながら、結局、ヴィヴィオを抱えながら絵本を読み聞かせるティア嬢の横で欠伸を噛み殺しつつ退屈に耐える俺という構図が出来上がった。
とはいえしばらくすると眠くなってきたようでうつらうつらし始めたから俺が適当に毛布引っ張ってきてソファで寝かせることに。
いいよね子供はフリーダムでさ。食って寝て遊んで食って寝て遊んでの繰り返し。でも俺が5歳の時とかこんなことしてた覚えがない。
医学書の山に埋もれて育った俺かっこいい(キリッ
……ああ、虚しくなってきた。この話題はもうやめようとか思ってたあたりで飲み物取ってくると言っていたティア嬢が戻ってきた。
「そういえば、随分仲良くなったのね。わざわざ名前で呼ばせるなんて」
「本気でそう思うか? 選択肢がおじちゃんとパパとお兄ちゃんとせーごだぞ? こん中なら圧倒的に名前で呼ばせるだろ」
突き出されたコーヒー入りのカップを受け取りながら溜め息を吐く。
「……あー、うん。なんかごめん」
「別に……。まあこんだけ歳離れてたらこんなもんでしょ」
もう一度ため息を吐くと嫌な雰囲気を払拭しようとでも思ったのか、ティア嬢が焦り気味の声音で言った。
「そ、そう言えばあんた、昨日は隊舎に泊まったのよね?」
「ん、ああ。こっちに戻ってこようかとも思ったんだけど、シャマル先生とか親父とかが泊まっていけってうるさくてな」
肩を竦めつつ言うと、ティア嬢は何か考えるようにふーんと相槌を打った。
「ま、いいわ。それともう一つ聞きたいんだけど」
「なんぞ」
「あんた、なにかする気?」
「────? なにかする気って、何の話だよ」
「とぼけないで。……例のSランク魔導士相手の対抗策、もういろいろと考えてるんじゃないの?」
「……何のことかな」
「あんた……致命的にこういう突発的につく嘘が下手ね」
うっせーよ! つかなんでお前が気付く。俺の予想じゃ一番最初に気付いてごちゃごちゃ言ってきそうなのは高町だと思ってたのにっ!
「別に。勘よ」
「勘で人の行動を読むんじゃねーよ……」
「ついでに言うとこの間のあんたとなのはさんの話から考えたのよ。昔は随分と負けず嫌いだって言ってたし、負けた相手に挑むのが普通みたいなところもあったみたいだから」
カマかけてみただけ。とか言われてorzした。
なに自分から自白してんだ俺。いくらなんでも単純思考過ぎるでしょう?
とか壮絶に落ち込んでたんだがティア嬢はそんな俺にお構いなく続きを喋る。
「で、なにかする気なの?」
「……いや、する気は一応あるんだが、今のところは指針が立ってないというか……」
「ふーん。だったらシグナム副隊長に鍛えてもらったら?」
なん……だと……?
あまりにも自然に迷いなく言うもんだから驚くしかない。なにこの子、なに言ってんの?
「だってそうでしょ。楽して強くなれるわけないんだから、Sランクの敵相手にあんたが勝つなら、それくらいの事やらないとだめでしょ」
「いや、しかしだな……。俺、今右手があれっぽくてしばらく使用禁止で……」
「じゃあ反撃なしで副隊長の剣避けるだけの訓練すればいいじゃない。その方が難しいし」
「なん……ですって……?」
「何で敬語なのよ……」
「なんと言うドS発言……。お前の前世は間違いなく鬼」
「うっさいわね。て言うか魔法の方は? 強化した方がいいんじゃないの?」
「確かにそうだがどうしろと」
「流石にそこまで知らないわよ。あんたの戦闘タイプから言って、リミッター系の魔法でも覚えればいろいろ変わってくるんじゃない?」
「リミッター、ねえ……」
リミッターってーと、高町とかのブラスター系の魔法ってことか?
いやしかし、高町があの手の魔法を俺に教えるとは考えにくいし、俺もあいつには教わりたくない。五月蝿いし。
つーか何の疑問もなくティア嬢の言葉に従いつつあるけどなんでだろう。
いや、こいつの言葉がそれだけ俺の中での理にかなってるからなんだけどね、なんでこいつはこんなに的確なアドバイスを出せるんだ。
シグナムさんとの訓練のことも、その内容も、新しく覚えるべき魔法のことも、その全てがそのうち俺がたどり着くはずだったろう回答ずばりビンゴだった。
なにこれ。こいつ他人の心を見透かす能力でもあるのかとか思ったけどそりゃないか。
きっとこれがこいつの才能なんだ。いろんな情報を統合して答えを出す。
まさしくリーダー向きの素晴らしい素質。凡人凡人言ってたけど、結局こいつもスペシャリストじゃねーか。
こりゃますます俺は置いてけぼりフラグですね分かります。全くこれだから子供は成長が早いとか思いながらちょろっと思いついた。
「おお、もしかして彼なら相談に乗ってくれるかも知れん……」
「彼って、ユーノさんって人?」
「あれ、何で知ってんの。つーかなんで分かった!?」
「え、あ、いや……あんたなら六課の人には習いに行かないだろうと思ったし、それ以外だとその人しか思いつく人がいなかっただけよ」
「お前は人のことを見透かし過ぎでござる。探偵でも目指した方がいいんじゃねーの……ってああそうか。執務官って若干探偵的な頭脳労働もするんだったな」
フェイトさんとか一人で事件解決もお手の物である。頭いいよねあの人も。
「……まあいいや。とりあえずアドバイスは受け取っておくぜ。サンキューなティア嬢」
「あ、うん。まあ別に大したことは言ってないけどね」
あれだけの推理が大したことないならこの世の探偵共は全員飯を食いっぱぐれることになると思います。
とか言ったら、……ありがとうとかちょっと気まずそうに眼を逸らしながら言った。
で、
「……と、ところで」
「あん?」
「……あんた、いつまで私のことティア嬢って呼ぶ気?」
「いや、いつまでもなにも……いつまでも?」
「……。……いい加減子供扱いされてるみたいで癪に障るから、その『嬢』っていうのやめてくれない?」
「癪に障るとはずいぶんな言いようですね、私泣きそう」
「あ、ご、ごめんなさい……。言いすぎた。……えっと今更だけど、ニックネームで呼ぶならティアにして」
「えー、今更変えんのマジめんどい」
「めんどいって……むしろ文字数減ってるじゃない」
「気分の問題なんだよーめんどーめんどーマジめんどーて言うか今更とかマジ今更なんですけどー登録されたお名前を変更していいのはークソガキまでだよねー、キャハハ」
「……クロスミラージュ」
『Yes.Master』
「なあティア。今日はいい天気だな!」
「かなり曇ってたわよさっき」
「そこは嘘でもいいから合わせてねっ!」
とか何とかもうグダグダである。なんかこいつと話してるといつもこんなオチばっかな気がした。いや、気だけじゃないと思うけど。
とか考えてたら仕事を終わらせてテンションあがってるスバ公が訪ねてきた。
そのままティアじょ……じゃなくてティアと一緒にヴィヴィオの寝顔見に行ったのでああ、あとは適当にこの二人に任せて楽をしようそうしよう。
まずは昼寝ですね分かりますとか思いながら、とりあえず一つ大きな欠伸をする俺だった。
介入結果その二十三 スバル・ナカジマの疑念
ティアの様子がおかしい。
そうはっきり確信することが出来たのは、雑務整理の終わらない私をおいて、ティアがセイゴさんのところへ向ってしまった時だった。
なにがどう、と聞かれたら詳しく答えることはできないけど、それでもおかしいと思う。
昨日の夜からどこか上の空で、私が話しかけても別のことを考えているみたいに返事が曖昧で。
そんな風になったのは一体いつからだったかと考えて、やっぱり昨日ティアが宿舎に帰ってきた時からだったと言う結論にたどり着く。
きっと、私がティアをおいて先に帰った後に、何かがあったんだと思う。
だけどティアは、それを私に相談してはくれなかった。
それは少し寂しかったけど、ティアにだって話したくないことくらいあると思うから、我慢できる。
ティアは、必要になれば話してくれると、そう思うから。
そう思えるくらい、私たちは相棒だと思うから。
だから、ティアが相談してくれるまで待とうって、そう思った。
そんな決意から時間が経って、場所はエリオの部屋に移る。
「てかティア。そういやお前、それ読めんの?」
「それって、日本語のこと? まあ漢字ってのは難しいけど、慣れればなんとでもなるわね」
「なん……だと……? この天才肌! 謝れ! 日本語習得するのに一週間かけた俺に謝れ!」
「……それも十分おかしい記録でしょ。大体私分かんないところはクロスミラージュに解読してもらってるからそこまですごいわけでも……」
「俺だって別に大した記録じゃねーよ。分かんないところはお前みたく端末頼りだったし、結局完璧にマスターするまで5年はかかったしな。つーかなに傷物語から読んでんすか。読むなら化物からがいいと思います。時系列的に傷でも構わないからどっちでもいい気がするけどね!」
「だったらいいでしょ。それにしてもこの主人公、欲望が全身から滲み出てるわね……。エロの上書きってなによ……。男子の一人称視点だとこんなものなのかしら」
どう思う、スバル?と突然聞かれて、ぼうっとティアの異変の原因について考えていた私は変な声を上げた。
「ひゃ、ひゃいっ!? なにティア!?」
「……聞いてなかったならいいわよ。どうしたのよさっきから。いつにも増して挙動不審じゃない」
「そ、その言い方は酷いよティアー……」
「そうだぞティア。キョドーフシン・ナカジマだって必死に生きてるんだぞ。邪険に扱ったらいかん」
「セイゴさんがもっと酷いっ!」
不当な扱いの撤回を必死に訴えると、セイゴさんは苦笑しながら「わるいわるい」と私の頭をぽんぽん叩いた。
そんな私たちを無視して、ティアは手元の真っ赤な表紙の本に見入っている。なんだろう、あの本。さっきティアがセイゴさんから暇つぶしにって借りてたみたいだけど。
「ねえ、ティア。その本……」
「ん。これ? あんたも何か借りて読めば? ヴィヴィオはしばらく起きなさそうだし、なのはさんたちももうしばらくは帰ってこないでしょうし」
「ただし貴様に日本語が読めるか? まあ無理ならデバイスに訳してもらえばなんてこたないけども」
「本かぁ。読むの久しぶりかも」
言いつつセイゴさんに手渡された一冊の本を開く。
本の名前は化物語(上)
最初は自分だけで読み解こうと頑張っていたんだけど、流石に関わりの深くない日本語をいきなり読むのは辛いものがある。
なにより、楽しく読書がしたいのに頭を捻っているのではホンマツテントーだ。
だからセイゴさんに頼んで音読してもらうことにした。
ティアに呆れた目で見られ、セイゴさんに「なん……だと……?」と言われてしまったけど、とりあえず内容を知りたいだけだからとお願いする。
「最近は本を音読させるのが流行りなんですかね。ヴィヴィオにも要求されたんですが」
「ヴィヴィオと私じゃ要求した理由が違うと思うけど……」
「どっちも字が読めないので読めと言っている件」
「私が読めないのは日本語だよっ!?」
「その歳でこっちの言葉が読めないとかありえないから当たり前でござる。しかし化物語を音読……なんと言う羞恥プレイ。……まさか確信犯かっ!?」
「……これ、そんなに酷い内容の本なの?」
手元の本を見つつ言うと、そうではないがまあいろいろと声には出しにくい。ラギ&ガハラさん的な意味で。とか言われたけどわけが分からない。
で、
「ティアさんへ、俺の代わりによろしくね」
「……いやよ、今忙しいもの」
「おいィ! お前傷物語読んでるだけじゃねーか!」
「だから忙しいんでしょうが」
「なん……だと……?」
と言い争っている二人を見ながら、私は苦笑した。
それにしても、いつの間にセイゴさんはティアのことをティア嬢と呼ぶのをやめたんだろう。
ヴィヴィオがなのはさんに抱きついていた時にはまだ呼んでいたはずだから、きっとティアがさっき一人でこの部屋に来た時に何かあったんだよね。
……むぅ。なんだか面白くない。
うまく言葉に出来ないけど、これってもしかして、嫉妬、なのかな?
セイゴさんはいつもの通りの態度だけど、ティアの方は前みたいな、セイゴさんとの間に一本線を引いたみたいな、拒否するような感じが消えてる。なんだか二人とも、いままでよりやり取りが自然体だと思う。
だから、私の知らないところでいきなり二人の仲が縮まっていたから、戸惑ってるのかな……。
でも、それが嫉妬だとして、どっちに?
いや、そんなこと迷うまでもなく分かりきっているけどさ。
きっとティアの隣をとられたみたいで、拗ねてるんだろうな。多分ティア達は、そんな風に思ってないのに。子供っぽいよね、私。
なんて思いながら、私は本に目を落としている相棒の方を見つつ、セイゴさんの音読を聞いていた。
ところで、セイゴさんの音読は微妙な感情の込め方がやたら上手だった。
驚いて途中でティアと二人で笑ってしまったけど、そしたらセイゴさんがうがーって怒って読むのをやめてしまったけど、嫌な気分は無くなったから、良かったって思う。
彼の周りは、今日も平和だ。
少なくとも、今は。
2010年3月12日 投稿
そんな感じで三十二話でしたー。
ここから先、いろいろと伏線仕込みが多発ですねー。
そんな感じでまた会いましょー。
2010年3月18日 大幅加筆 「スバル・ナカジマの疑念」追加
2010年8月29日 改稿