<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.9553の一覧
[0] 【習作】半端な俺の半端な介入録(リリカルなのはsts オリ主)最新五十八話更新[りゅうと](2017/05/22 20:30)
[1] プロローグ-別れと出会いと-[りゅうと](2018/07/08 02:01)
[2] 第一話-旅と道連れ世に情け-[りゅうと](2018/07/08 02:23)
[3] 第二話-驚き桃の気キャロさんの気-[りゅうと](2018/07/08 02:41)
[4] 第三話-愛しさと切なさとなんかいろいろ-[りゅうと](2018/07/08 03:00)
[5] 第四話-朝練と三等空尉と部隊長と-[りゅうと](2018/07/08 03:11)
[6] 第五話-六課の中の誠吾-[りゅうと](2015/07/26 21:34)
[7] 第六話-朝と依頼と高い所と-[りゅうと](2015/07/26 21:42)
[8] 第七話-初任務とあれ以来のそれ-[りゅうと](2015/07/26 21:45)
[9] 第八話-始まりと決意と焦りと-[りゅうと](2015/07/26 21:53)
[10] 第九話-一つの出会いと焦りの果て-[りゅうと](2015/07/26 21:59)
[11] 第十話-中二×理念=フラグ-[りゅうと](2015/07/26 22:09)
[12] 第十一話-経過と結果と副作用-[りゅうと](2015/07/26 22:17)
[13] 第十二話-休暇×地球×海鳴-[りゅうと](2015/07/26 15:24)
[14] 第十三話-ホテル×ドレス×着火-[りゅうと](2015/07/26 16:01)
[15] 第十四話-接触×考察×燃焼-[りゅうと](2015/07/26 17:24)
[16] 第十五話-人によって出来ごとの価値が変化していく不思議-[りゅうと](2015/07/26 19:46)
[17] 第十六話-言葉にすれば伝わることと言葉にすると伝わらないものを使い分けることに対するさじ加減について-[りゅうと](2015/07/26 22:33)
[18] 第十七話-とある日常-[過去編][りゅうと](2015/07/26 23:56)
[19] 第十八話-出会う日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:15)
[20] 第十九話-起きる日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:20)
[21] 第二十話-駄弁る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:26)
[22] 第二十一話-出向く日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:31)
[23] 第二十二話-語らう日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:42)
[24] 第二十三話-廻る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 23:39)
[25] 第二十四話-真実隠蔽-[りゅうと](2015/09/12 00:00)
[26] 第二十五話-似通う境遇-[りゅうと](2015/09/13 01:50)
[27] 第二十六話-桃色発起-[りゅうと](2015/09/13 02:01)
[28] 第二十七話-父子の顛末-[りゅうと](2015/09/13 02:24)
[29] 第二十八話-旧知再会-[りゅうと](2016/01/01 02:57)
[30] 第二十九話-敗者の日-[りゅうと](2016/01/02 04:41)
[31] 第三十話-交差する未明-[りゅうと](2016/05/16 01:01)
[32] 第三十一話-嘘も方便-[りゅうと](2016/05/16 01:44)
[33] 第三十二話-平穏?な幕間-[りゅうと](2016/05/21 23:38)
[34] 第三十三話-明かせぬ過去-[りゅうと](2016/05/22 00:39)
[35] 第三十四話-その情報、危険につき-[りゅうと](2016/05/22 00:59)
[36] 第三十五話-接触其々-[りゅうと](2016/06/05 01:03)
[37] 第三十六話-擦れ違う言葉-[りゅうと](2016/08/06 19:45)
[38] 第三十七話-忘却事件-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[39] 第三十八話-想い混線-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[40] 第三十九話-風邪っぴきなのはさん-[りゅうと](2017/03/01 01:10)
[41] 第四十話-ユーノくんとの裏事情-[りゅうと](2010/11/28 18:09)
[42] 第四十一話-彼と彼女の事情-[りゅうと](2011/02/28 23:49)
[43] 第四十二話-桃色奮起-[りゅうと](2011/04/20 03:18)
[44] 第四十三話-連鎖するいろいろ-[りゅうと](2011/05/15 01:57)
[45] 第四十四話-微進する諸々-[りゅうと](2011/06/12 02:06)
[46] 第四十五話-高町トラウマパニック-[りゅうと](2011/07/08 03:14)
[47] 第四十六話-それは己の未来の如く-[りゅうと](2011/11/20 02:53)
[48] 第四十七話-変化は微細に-[りゅうと](2012/05/05 23:46)
[49] 第四十八話-答えの日①-[りゅうと](2013/01/04 03:56)
[50] 第四十九話-答えの前に考察を-[りゅうと](2013/09/08 23:40)
[51] 第五十話-答えの日②-[りゅうと](2013/11/11 01:13)
[52] 第五十一話-友達として-[りゅうと](2014/10/29 00:49)
[53] 第五十二話-ファントム分隊-[りゅうと](2014/10/29 00:48)
[54] 第五十三話-彼の思うゼロの先-[りゅうと](2015/06/18 23:03)
[55] 第五十四話-動き続ける思惑の裏-[りゅうと](2015/12/21 01:51)
[56] 第五十五話-そしてわたしは名前をつける①-[りゅうと](2016/03/12 23:53)
[57] 第五十六話-そしてわたしは名前をつける②-[りゅうと](2016/05/06 00:37)
[58] 第五十七話-そしてわたしは名前をつける③-[りゅうと](2016/06/26 02:46)
[59] 第五十八話-そしてわたしは名前をつける④-[りゅうと](2017/05/22 00:40)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[9553] 第二十九話-敗者の日-
Name: りゅうと◆352da930 ID:73d75fe4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/01/02 04:41
目が覚めると、見上げた空が青かった。



……って、ちょっと待った。おかしい。なにかが決定的におかしいです。とか思いながら首を傾げる。
起きぬけなせいで頭がぼんやりしてはっきりとは言えないが、確か俺、ゼストさんと地下水道で切り結んでたはずだよね。
それがなんでいきなり屋外で目ェ覚ますことになってるんですかねとか心の中で思いながら、とりあえず事態の把握に努めようと周りの景色を確認するために体を起こそうとして────起きられない。
両腕がうまく動かなかった。正確には、左腕は力を入れるたびに鈍痛のようなものがはしって動かしたくないし、右腕はなんとか全神経を集中して持ち上げようとしてみるもその意思に反して腕は一センチすら上がらない。首だけ動かしてざっと見てみるも、左腕のBJの肩口が裂けてその下から青痣になって腫れた腕が覗いている以外は見た目はいつも通りで、右腕の方はBJ越しには何も変わらないように見えるのにも関わらずである。
それでも何とか起き上がったろうと体を横倒しにしようともぞもぞやってたら、右腕のホルスターからいつもの騒がしい声が聞こえてきた。

『おおっ、目が覚めたかマスター』
「……む、起きたか」

声がした方を見ると、そこには見慣れた騎士甲冑に身を包んだ桃色の髪をポニーテールにした女傑────シグナムさんが静かに佇んでたので首を傾げた。
なんだこの状況。なにがどうなってこんな展開に持ち込まれたんだよ今の俺はとか思って思い当たる。

「ああ、負けたんですね。俺」
「そのようだな」

シグナムさんは俺の呟きに小さくそう答えると、カツカツと靴音をたてながらこちらへと近づいてきて隣に膝をついた。
その歯に衣着せぬ物言いに、ちょっとくらい誤魔化して言ってくれてもいいのにと内心苦笑していると、彼女は俺の頭の近くに膝をついて顔を覗き込んできた。

「お前からの通信が途切れた後、その座標に私が遣わされた。……本当はヴィータが行きたいと駄々をこねていたのだが、あの様子では冷静に事を運べるか心配だったからな」
「……そうですか。熱心ですね、本当に」

そんなに俺の身の上が心配ですかと思うものの、この様じゃあ心配させるのも無理ないかと自嘲する。もう少し上手く立ち回れると思ったのだけれど、結局はこの体たらくだった。

「私がたどり着いた時には、既にお前はボロボロの体でな。息を切らせ、手に持った刀を地面に突き刺し、それに縋ることで漸く立っているという風情だった」

ボロボロだった────ってことは、戦闘もいろんな意味で佳境に入った頃に彼女は駆け付けて来たらしい。ぶっちゃけ全く気がつかなかった。
なにしろあの時、俺の目も耳も他の感覚の全てを目の前の敵に向けていたのだから。周りの状況に気を配る余裕なんてなかったし、そうでもしなければ最初の数秒でやられていただろう。
尤も、そうまでしてすらまともな一撃を入れることは出来なかった。
どこかで甘く見ていたのだ。あれだけやれば、なんとでもなるだろうと。
全力で駆け回ったというのに、攻撃を凌ぐのが精いっぱいでそれ以上のことはなにも出来なかった。
手持ちのカートリッジをほぼ消費し、あの場で応用できた全ての魔力弾を撃ち放ち、斬撃の一回一回に込められるありったけの魔力を込めたにもかかわらずだ。
そんな、俺の限界の先にセメント塗り固めて無理矢理道を作ったような方法を使えば、体のコンディションがこんな状態になるのは当然と言えば当然で。
あの戦闘は間違いなく俺の今できる全てだった。にもかかわらず俺は左腕にBJを貫通するような魔力ダメージをまともに受け、なのに何一つやり返すことが出来ない。
しかも、俺が今ここで生きているのは、あの人が俺の願い通りに非殺傷設定を作動し、その上でさらにあの狭い通路で大なり小なり動きを制限されて戦っていたからにすぎない。……もしかしたら、旧知の間柄ゆえの手心を加えられていた可能性もある。
そうでなければ今頃俺の左腕は無残に宙を舞っていただろうし、シグナムさんがあの場に来る前にあの世へ旅立っていたに違いない。

「お前が相手をしていた男は、私の姿を見るとともに踵を返して姿を消した。それに連動してお前が気を失ったのだ。……よほど無理をしたようだな」

そしてその後この人は、ぶっ倒れた俺を抱えて地上に移動し、ファントムからの情報で体には異常がないと確認できたので、六課に迎えの要請を入れてからここで俺が目覚めるのを待っていたのだという。

「にしても、良かったんですか? 槍使いを追わなくて」
「虫の息で倒れ込んだお前を置いてか? それはありえんだろう。後で高町とヴィータになにを言われるかわかったものではない」
「……申し訳ないです」
「いや、深追いはしたくなかったというのもある。それに、無事でなによりだ」

正確にはとても無事とは言えないのだが、それをここで言っても詮ないことだろう。
と、そこで漸く俺の意識は他の事に向く。レリックを確保しに行ったあいつらと、ヘリの方のあれはどうなったのか。
いや、ここでこの人が暇を持て余して俺の相手をしている以上、結果自体は分かりきったようなものではあるのだが、俺が知りたいのは経過なので仕方ない。
なので他の場所はどうなりましたと聞いてみると、なぜかファントムが無意味に気を利かせて勝手にシャーリーのところに連絡繋いでメンドくさいことに。現場の状況は管制官に聞くのが一番だというのは分かるが、今の状況でその選択はあまりよろしくない。
通信繋がって開口一番に怒られた。勝手に回線切るとは何のつもりかと。
そのせいで新人たちの方も若干動揺したし(ティア嬢が冷静だったので何とかなった)、ヴィータもかなり焦ってたし(シグナムさんが冷静だったので問題なかった)、私たちも心配した(グリフィスくんが冷静だったので(ry)のだと普段の人懐こくて明るい声とは一味違うトーンで怒られた。
……だけど、確かに悪いことをしたとは思うが、間違ったことをしたとは思っていない。
あれだけの実力者相手にするという時に、余計な何かに気を取られてはそれこそ一瞬でカタが付いてしまう。
ああいう立ち合いでは、集中力が全てだ。特に相手との間に圧倒的な実力差があるならなおさらである。
相手の様々な挙動から、少しでも多くのことを分析して、そこから少しでも、コンマ一秒でも早く敵の次の行動を予測して対抗策を打つ。
そこまでしてすら、五分には届かないようなレベルの敵を相手に、余計な何かを気にかけられるはずがない。だから、通信を繋いでおいて一々誰かの声を聞いてなんていられないと思った。
大体、通信繋いどいてもどうせ俺が一方的にぼこられる音声が聞こえるだけなんだから、別にいいじゃないかと思うんだけど、それを言ったらなんだか微妙に涙声になってしまって俺としては弱るしかない。
かといってこのまま気まずい雰囲気を長引かせるのはよろしくない。俺の心情的にも彼女のお仕事的にも。
仕方ないからこの件については後できちんと話をすることを約束し、とりあえず具体的に現状について情報を聞き出すことにした。
まずはヘリの安否といろんな防衛の話。
まあ毎度のことながら現れるガジェット共の量が多いのに高町をヘリの護衛に回したせいで対ガジェットの防衛線を支えるのにそれなりに苦労したらしいけど、八神がリミッター解除してフェイトさんと一緒に無双して何とかそこは維持したらしい。
一方ヘリの方はと言うと、途中どっかの誰かが馬鹿パワーの砲撃打ちこんだりいろいろしてきたらしいけど、そこは流石高町。見事に撃退して追い返したそうだ。
しかしまあ、よくもAランク相当にまで減衰した魔力でSランク相当はあったらしい砲撃を真正面から受け止める気になるよね。そりゃ後ろに庇護対象がいるなら俺だってそうするかもしれないけどさ。
で、次は新人四人組。
俺との通信が途切れた後、前線に出た八神の代わりに指揮権を得たグリフィスくんの指示で俺より先にレリックを確保するよう指示を出された彼らは、途中ギンガさんと合流してから俺が当初向かうはずだったポイントへ向けて一直線に急行。
間にいたガジェット共は全て殲滅したそうです。俺が避けた分も含めて結構いたのにな。いやー、最近あいつらマジ強いなーとか思うよね。
で、目当てのレリックを手に入れたはいいものの、そこで件の紫色の少女と遭遇。俺が前に提供してた情報から速攻で交戦し一度は少女を確保するも、なんか地面に潜る能力を持ったわけわからん奴に邪魔されて結局取り逃す羽目になったとか。
他にもなんか知らんけどいろいろとあったみたいよ。ツヴァイ並みにちっちゃな妖精さんに攻撃受けたとか、なんかのボスキャラ的な異形が無意味に素早かったりパワー凄かったりで翻弄されたんだとかそんなん。
けど結局はレリックも無事確保できたそうです。やー、なんだかんだで負けたの俺だけかー。……あーくやしいねー。

「新人たちの成長が著しい。今後が楽しみだな」

それだけ言って、シグナムさんが起きられるかと聞いてくる。俺が苦笑気味に無理っぽいですと言うと、仕方ないなと呟いて体を起してくれる。
背中を支えられて一息つくも、相も変わらず左肩は痛いし右腕はうまく動かないしで散々である。
と、両腕をだらんと垂らしていることに気付いたのか、シグナムさんが眉根を寄せた。

「左腕は分かるが、右腕も何か不具合があるのか?」

そう言われて、さあ、なんでしょうねと首を捻るも、実は一つだけ心当たりがある俺。
そう、あれは俺がカートリッジ制御の限界を調べようと延々とカートリッジで魔力強化した勢い付きすぎて扱い辛くなった刀を振り回した日の翌日だった気がする。
今と同じように右腕が上がらなくなり、仕方なくその日一日見事な役立たずとして左手のみでデスクワークに没頭していた気がする。
要するにあれだろうこれ。

「筋肉の酷使、だと?」
「ええ、相手が格上だったとはいえ、カートリッジを連続で使いすぎたみたいです。明日には特大の筋肉痛にでもなってるんでしょうね……」

あれ正直マジで辛いよね。あまりの辛さに泣いたことすらあった気がする子供時代。
あの患部を動かすたびに発生する剣山で断続的に刺され続けているような痛みは、いつになっても慣れるものでない。けど、こういうのって魔法で痛みを緩和するとうまいこと筋肉が成長しないんだよね。だから仕方ないのでいつも放置するのだ。

「しかし、両腕が動かないとなると歩くのもままならないのではないか?」
「ええ、まあ。というかそもそも、全身違和感だらけではあるんですよね、今。症状が顕著なのが腕だというだけで」

おまけに魔力はほぼ底をついている。気を失った理由にはこれも含まれていそうだなとか考えながら、これじゃあ空も飛べないしどうやって帰ろうかと頭を悩ませ始めたところでぐいっと体を持ち上げられた。
と言うか肩に担ぎあげられた。誰に云々は言うまでもないが。

「……あの、シグナムさん?」
「なんだ、あまり喋らない方がいいぞ、舌を噛む」

いや、確かに舌を噛むのは怖いのであまり喋りたくはないんだが、この状況はちょっと俺としても思うところがあるというかなんというか……。
てか、

「もしかして、地下からここまで俺を運んだ時にも……」
「ああ、こうして運んだ」

ですよねー。大の大人を運ぶのに女の人がおんぶは無いだろうし、お姫様抱っことこの状況を比べられたら俺としてもこの米俵を担ぎあげる的な方を選ぶだろう。てかこの方法を選んでくれてありがとうとお礼を言いたいくらいでもある。
ただ、

「……なっさけねーなー、俺」

担がれて空を飛ばれ、自分がいた場所が廃ビルの一つの屋上だったのだとようやく気付いたあたりでそんな自虐の言葉が出てきてしまうのも、今の状況では致し方無いのだと分かってほしい。
そんなわけで俺は、彼女に担がれて新人たちとの合流ポイントまで向かうのだった。






























介入結果その二十 ゼスト・グランガイツの消沈





かつての友とよく似ている。



それが、敵として相対したそいつを見た時の感想だった。
無造作に延ばされた黒の髪や、あいつとは違って能面を張り付けたような表情は浮かべていないなどの多少の差異はあるものの、顔の造形は昔の奴にそっくりであったし、瞳の色も奴と同じ灰色。
なにより、攻撃を仕掛けた俺を見る瞳に宿る何かがあいつのそれと酷似していて、直感的にあいつの親族であると察してしまっていた部分もある。
あいつの息子、セイゴ・プレマシーが管理局に入局していたことは知っていた。
始まりが、どこだったのかは知らない。ただ、いつからかあいつとセイゴの間に何かおかしな『ずれ』が出来ていたことに最初に気付いたのは、俺だったのではないかと思う。
体に何か不具合があれば、俺はその度あいつの元に通っていた。
いろいろとあって、セイゴが診察室に居座ることになってからは、何度か会わされたことがある。
あの頃のセイゴは、子供にしては落ち着いた、しかし何かを諦めたような表情を浮かべていて、母の死からいまだに立ち直っていないのだろうと思わせた。
それにはジェッソも気付いてはいた。しかし、どうすればいいのかは分からず。俺も答えることはできず。時間だけが過ぎていく。
そんなある日。セイゴが六歳の頃だ。俺が仕事上がりに家路を急いでいると、ジェッソから通信が入った。
話がしたいと頼まれて、何事かとあいつの勤める病院まで足を運ぶと、そこで待っていたのはセイゴが喧嘩の末に家を出ると言い残して飛び出してしまったということだった。
それだけ伝えて押し黙るジェッソ。
だが俺は、それだけの要件でわざわざ自分を呼び出したジェッソを怒る気にも、セイゴと喧嘩したという事実を慰める気にもならなかった。
昔から言葉が足りない男だった。だから、あの時も聞いたのだ。



なにをにやにやしながらこんな話をしているのか、と。



するとあいつは、こう言うのだ。

「────嬉しい……? 反抗されたことがか?」
「ああ、あれが世に言う反抗期と言うやつなのだろう。……あの子は真が死んでからというもの、私の言うことをよく聞くいい子になってくれた。だが、それだけでは駄目だとも思う」
「……まあ、確かにな」

人の言うことを聞くだけなら、誰にでも出来る。
しかし、自分の意見を他人とぶつけるというのは、思いのほか難しいものだ。
自分が正しいと思うことと、相手が正しいと思うことの中身が違っていれば、自分が相手と衝突しなければならない時だってある。
しかし言葉と言うのは不便なもの。自分の思いを100%完全に相手に伝えることができる人間などいないだろう。
しかしそれでも、少しでも相手に自分の気持ちを伝えなければならない。そのための練習期間とも言うべきものが、反抗期だと、俺はそう思っている。
もちろんそこで、自分が折れて相手に従うという道もある。しかし、それだけでは渡っていけないことだってあるだろう。
だからこその準備期間。

「あの子は自分の意思で、自分の進む道を考えてくれた。それが嬉しくてたまらないんだよ、私は」

ジェッソは、自分の息子の成長を喜ばしいと言っていた。
……あれからもう何年の時が経っただろうか。
最後にセイゴと会ったのは、喧嘩の前のあの診察室でだった。
その後のセイゴのことは、時々ジェッソからかかってくる通信で知ったことになる。
セイゴが大怪我をし、そのことで話し合いの場を設けたあの二人が仲違いをやめた日の夜には、ジェッソと二人で祝杯をあげたものだ。
だが、『あんなこと』があって、あの時から時間の感覚すら曖昧になってしまっている自分がいて。
久しぶりに会ったあいつの息子は、昔とは違う吹っ切れた表情を見せていた。
久しぶりに見た旧知の顔だ。感慨が湧かないわけがない。
だが、俺はそんな事を出来る状況の中にはおらず、しかし、少しでもいい、言葉を交わしてみたいとは思っていた。
だが、あんな形でそれが達成されようことなど、誰が予想するか。
俺には、正体を明かす気などなかった。
しかしあいつは、そんな事を気にすることもなく俺の正体を見破り、言葉の端々からジェッソと上手くやっていることを匂わせる言葉を吐く。

「……だからこそ、戦いたくはなかったのだがな」

そう呟きながら、俺は地下水道を駆け抜ける。
セイゴと交戦した場所からは大分離れた。手加減したとはいえかなり消耗させてしまった手前、誰かあいつの援護が来るまではとあの場で留まっていたが、それもあの騎士甲冑の女性が来たからにはもう問題ないだろう。
とはいえ、セイゴの力は予想を遥かに超えていた。まだ粗削りな部分は多く、俺から見れば未熟この上なくは思うが、あと数年もすれば剣術だけならあんなカートリッジの無駄打ちをしなくとも俺相手に数分もたせるくらいにまでには成長する。

「……だが」

今回の俺の目的は、最初からおとりでしかなかった。
俺に管理局の連中が気を取られている間に、ルーテシア達がレリックを確保する。
セイゴが一人で俺の相手をしたために計画は狂ったが、最初からそういう話だったのだ。だから手加減して見逃すという方法もとれた。
しかし、次は正面から叩きつぶさなくてはならないかもしれない。
俺は、スカリエッティとは相容れない。だが、もはや管理局とも相容れるものではない。
状況がそれを許さなければ、俺はあいつと真っ向から衝突することになる。
そしてその時には、もう手加減云々の話ではなくなっているだろう。

「………」

これはもしかしたら、あの時なにも出来なかった、そして、今も満足に信念を通しきれない俺への、天罰なのかもしれない。
このままいけば、次は殺し合うようなことになる。そんな確信が、なぜだかあった。

「────くそ……」

俺は、暗澹たる気持ちになりながら、ルーテシアとの合流ポイントへと向かった。



────それ以外、なにも出来なかった。































介入結果その二十一 ティアナ・ランスターの葛藤





『セイゴさん! セイゴさん、応答してください!』

それは突然だった。
そう、クロスミラージュが繋いでいた回線を通して、シャーリーさんが不吉な言葉を口走ったのは、本当に突然だった。
彼女の発したそれは、あいつの目の前に敵性の魔導士が登場したことを告げる言葉。
それを告げるシャーリーさんの声音は焦りで満ちていて、なのに、それに対応するあいつの声は、その状況を予想していたかのように冷静そのもの。
そしてその冷静な声音のまま私たちに指示を出し、気が散ると理由をつけて回線を断絶させた。
私も一瞬、かなり焦った。
けれど、気付いた。戦闘に関しての状況判断だけなら、あいつは六課の中でなのはさんたちよりも相手との力量差を測ることに長けているのではないかと思っていたことに。
それを長年の経験でか、または努力してか……それとも別の何かの要因で手に入れたのかは分からない。だけど、あいつと一緒の任務に向かう時、あいつはどんな時でも焦りで判断を間違うようなことは無かった。
それどころか、神経質なくらいに相手とのやり取りの先を先を読もうとしてすらいた。
それは自分の限界と、相手の能力の想定を誤差無く把握できなければ不可能なこと。
だからそれが出来ているあいつは、今だって絶対に無茶なことはしないはず。私はそう結論付けて自分に言い聞かせ、無理にでも平静を取り戻そうとした。
にもかかわらず、彼女だってあいつの強かさは分かっているはずなのに、シャーリーさんは途切れた回線を繋げようと躍起になっているようで、さっきからあいつの名を呼び続けていた。
その、『セイゴさん、セイゴさん!』と叫び続ける彼女のせいで、また不安になる。
だから、聞くしかなかった。

「シャーリーさん、あいつの前に現れた魔導士って……」
『────っ、あ、ご、ごめんなさい、回線切って無かったよね……。だ、大丈夫。きっとセイゴさんなら問題な────』
「シャーリーさん!」

誤魔化そうとするシャーリーさんに焦れて、私はつい怒鳴ってしまった。けど分かってほしい。
あのシャーリーさんが、私たちと回線が繋がっていることすら忘れるほど動揺する状況。
それが、今。
今まで六課で働き続けてきた中で、私はそんなところは見たことが無かった。
だとしたら、今あいつの前にいる魔導士は────

「……シャーリーさん。あいつは、勝てるんですか?」
『……ごめんなさい。分からない……いえ、こんな言葉で、きっとティアナは誤魔化せないね』
「────…っ」

その一言で、もう既に私は察してしまった。
あいつの魔力ランクはAA。けれど実質、その実力は長年の蓄積で卓越した戦技のおかげで、少なく見積もってもAAAランクの相手ならば善戦できるレベルにまで到達している。と言うのが私の見解。
その力をもってして、シャーリーさんに『この敵には勝てない』と思わせられるほどの実力。

「……Sランク魔導士」

自分で呟いた直後、全身に怖気がはしった。
何か大事なものが壊れた時のような、してはいけない失敗を犯してしまった時のような、体の内側に直接冷気を注ぎこまれたような、全身から血の気が引くような、そんな感覚。
どこかで過去にも味わったようなその怖気を押し殺して、私は息を呑んだ。
Sランク魔導士。なのはさんたちに匹敵するレベルの実力者。それが今、あいつの前に立ちはだかっている魔導士なのだろう。
額を汗が伝う。
口の中が一気に乾く。
気が付けば左手を力任せに握りしめていた。
AAの魔導士が、何の対策もなくSランクの魔導士に単体で挑むなんて、時速50kmで走る車を正面から素手のみで止めるのに等しい暴挙だった。
今すぐ助けに行きたい。
けれど、私たちの今の任務は?
大体、私たちが行ったところで何かが変わる?
下手をすれば、私たちが隙をつかれて、なお窮地に追い込まれてしまうかもしれない。
けれど、もしかしたら力になれるかもしれない。
二律背反。
私は、二つの思いに囚われて動けなくなった。
行くべきか、行かないべきか。どちらを選んでも後悔してしまいそうな、そんな選択肢。
そのあまりの重大さに、押しつぶされて泣きそうだった。けれど、泣いてどうなる。今泣きたいのは、きっとあいつの方だ。

「ティア……」
「────…っ!」

そんな、考え込みすぎて周りのことが全く見えなくなっていた私を引き戻したのは、スバルだった。
声を掛けられて弾かれるように彼女を見ると、その表情は不安で満たされていた。
だから私は、一気に正気を取り戻した。
そうだ、ここで悩んでいてどうする。
あいつはこう言っていたじゃないか、こっちに接近するなら注意しろ。なんなら迂回してレリックを追った方が安全かも知れない、と。
つまり、どちらでも構わないから、自分で決めろということだった。
そしてそれは、それほどに私を信用しているということではないのだろうか。
助けに来るのも、別の場所に行くのも自由。
本当は、あいつにそんな事を決める権限なんてありはしない。私たちへの命令は、隊長の人たちから下されたものだ。
けれど、それでもあの言葉は、私を信じてかけてくれたもの。
そう、あいつは私を信じてくれた。意識的にか無意識的にかは分からない、けれどあいつは、私に任せてくれた。
だからきっと、私もあいつを信じるべきだと思った。
だから────

「スバル、みんな。あいつのことは心配だけど、私たちはレリックの確保を優先するわよ」

私の言葉にスバルたちは息を呑み、そしてそれから表情を引き締めた。
スバルはともかく、エリオとキャロ……特にあいつと仲のいいエリオには、辛い選択を迫っていると思う。
だけど、私たちの今するべきことは、私たち新人にとっての脅威であるSランク魔導士の相手をあいつがしているうちに、レリックを確保することだ。
もともとそれが目的で、六課は動いていたのだから。
だから今は、あいつを信じて動くべきだ。
あいつは、死なないし負けない。私たちがレリックを確保するまでの間、絶対にSランク魔導士を足止めしてくれる。
そう信じて行動することが、きっと私たちに今できる『最高』だ。
だから私は、身を翻して地を蹴った。
あいつの信頼に、少しでも早く応えるために。





この後、私たちは途中でギンガさんと合流し、レリック反応までの最短距離を力任せに突破した。
以前までなら途中でへばっていただろうその無茶な工程も、なのはさんたちに育て上げられた魔法の腕と、あいつに付き合わせてもらうことで培った体力のおかげで苦ではなかった。
それどころかみんなそろって驚くほど体力的にも精神的にも余裕があって、回収したレリックを奪いに来た敵性魔導士相手にも互角以上の戦いをすることが出来た。
地中を移動するという特異な能力を使う敵が現れたせいで敵対魔導士は逃がしてしまったけれど、あいつとの任務で学んだ周囲への警戒行動が功を奏し、彼女たちもレリックに手を回すほどの余裕はなかったらしく、それ以外は何の問題もなく事を終えた。
後から駆け付けてきたヴィータ副隊長が目を丸くしていたほどだから、よっぽど上手くやれたんだと思う。
それから通信でシグナム副隊長にあいつを無事に回収したという報告を聞いて、ようやく張りつめていた緊張がとけて、私はその場にへたり込んでしまった。
「新人にしては上出来のメンタルコントロールだったよ」、とヴィータ副隊長はフォローしてくれたけど、その後に笑ってつけ足した「そこで腰が抜けなけりゃな」なんて一言のせいで素直に喜べなかった。
それから立てなくなった私は、スバルに負ぶわれて(嫌だと言ったのに半ば強制的に)シグナム副隊長たちとの合流ポイントへ向かうとあいつがシグナム副隊長に担がれて精気のぬけた表情で私に向けて「やぁ、奇遇じゃまいか。お互い間抜けな格好だ」なんて言い出して、心配していたのが馬鹿らしくなったりしたのだけど、蛇足である。































2010年2月9日 投稿

この物語も、ようやく折り返し地点のあたりに到達しました。
今後ともよろしくお願いします。

2010年2月28日 大幅加筆 「ティアナ・ランスターの葛藤」追加

2010年8月29日 改稿

2016年1月2日 再改稿


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044898986816406