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No.9553の一覧
[0] 【習作】半端な俺の半端な介入録(リリカルなのはsts オリ主)最新五十八話更新[りゅうと](2017/05/22 20:30)
[1] プロローグ-別れと出会いと-[りゅうと](2018/07/08 02:01)
[2] 第一話-旅と道連れ世に情け-[りゅうと](2018/07/08 02:23)
[3] 第二話-驚き桃の気キャロさんの気-[りゅうと](2018/07/08 02:41)
[4] 第三話-愛しさと切なさとなんかいろいろ-[りゅうと](2018/07/08 03:00)
[5] 第四話-朝練と三等空尉と部隊長と-[りゅうと](2018/07/08 03:11)
[6] 第五話-六課の中の誠吾-[りゅうと](2015/07/26 21:34)
[7] 第六話-朝と依頼と高い所と-[りゅうと](2015/07/26 21:42)
[8] 第七話-初任務とあれ以来のそれ-[りゅうと](2015/07/26 21:45)
[9] 第八話-始まりと決意と焦りと-[りゅうと](2015/07/26 21:53)
[10] 第九話-一つの出会いと焦りの果て-[りゅうと](2015/07/26 21:59)
[11] 第十話-中二×理念=フラグ-[りゅうと](2015/07/26 22:09)
[12] 第十一話-経過と結果と副作用-[りゅうと](2015/07/26 22:17)
[13] 第十二話-休暇×地球×海鳴-[りゅうと](2015/07/26 15:24)
[14] 第十三話-ホテル×ドレス×着火-[りゅうと](2015/07/26 16:01)
[15] 第十四話-接触×考察×燃焼-[りゅうと](2015/07/26 17:24)
[16] 第十五話-人によって出来ごとの価値が変化していく不思議-[りゅうと](2015/07/26 19:46)
[17] 第十六話-言葉にすれば伝わることと言葉にすると伝わらないものを使い分けることに対するさじ加減について-[りゅうと](2015/07/26 22:33)
[18] 第十七話-とある日常-[過去編][りゅうと](2015/07/26 23:56)
[19] 第十八話-出会う日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:15)
[20] 第十九話-起きる日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:20)
[21] 第二十話-駄弁る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:26)
[22] 第二十一話-出向く日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:31)
[23] 第二十二話-語らう日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 00:42)
[24] 第二十三話-廻る日常-[過去編][りゅうと](2015/07/27 23:39)
[25] 第二十四話-真実隠蔽-[りゅうと](2015/09/12 00:00)
[26] 第二十五話-似通う境遇-[りゅうと](2015/09/13 01:50)
[27] 第二十六話-桃色発起-[りゅうと](2015/09/13 02:01)
[28] 第二十七話-父子の顛末-[りゅうと](2015/09/13 02:24)
[29] 第二十八話-旧知再会-[りゅうと](2016/01/01 02:57)
[30] 第二十九話-敗者の日-[りゅうと](2016/01/02 04:41)
[31] 第三十話-交差する未明-[りゅうと](2016/05/16 01:01)
[32] 第三十一話-嘘も方便-[りゅうと](2016/05/16 01:44)
[33] 第三十二話-平穏?な幕間-[りゅうと](2016/05/21 23:38)
[34] 第三十三話-明かせぬ過去-[りゅうと](2016/05/22 00:39)
[35] 第三十四話-その情報、危険につき-[りゅうと](2016/05/22 00:59)
[36] 第三十五話-接触其々-[りゅうと](2016/06/05 01:03)
[37] 第三十六話-擦れ違う言葉-[りゅうと](2016/08/06 19:45)
[38] 第三十七話-忘却事件-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[39] 第三十八話-想い混線-[りゅうと](2017/02/27 23:00)
[40] 第三十九話-風邪っぴきなのはさん-[りゅうと](2017/03/01 01:10)
[41] 第四十話-ユーノくんとの裏事情-[りゅうと](2010/11/28 18:09)
[42] 第四十一話-彼と彼女の事情-[りゅうと](2011/02/28 23:49)
[43] 第四十二話-桃色奮起-[りゅうと](2011/04/20 03:18)
[44] 第四十三話-連鎖するいろいろ-[りゅうと](2011/05/15 01:57)
[45] 第四十四話-微進する諸々-[りゅうと](2011/06/12 02:06)
[46] 第四十五話-高町トラウマパニック-[りゅうと](2011/07/08 03:14)
[47] 第四十六話-それは己の未来の如く-[りゅうと](2011/11/20 02:53)
[48] 第四十七話-変化は微細に-[りゅうと](2012/05/05 23:46)
[49] 第四十八話-答えの日①-[りゅうと](2013/01/04 03:56)
[50] 第四十九話-答えの前に考察を-[りゅうと](2013/09/08 23:40)
[51] 第五十話-答えの日②-[りゅうと](2013/11/11 01:13)
[52] 第五十一話-友達として-[りゅうと](2014/10/29 00:49)
[53] 第五十二話-ファントム分隊-[りゅうと](2014/10/29 00:48)
[54] 第五十三話-彼の思うゼロの先-[りゅうと](2015/06/18 23:03)
[55] 第五十四話-動き続ける思惑の裏-[りゅうと](2015/12/21 01:51)
[56] 第五十五話-そしてわたしは名前をつける①-[りゅうと](2016/03/12 23:53)
[57] 第五十六話-そしてわたしは名前をつける②-[りゅうと](2016/05/06 00:37)
[58] 第五十七話-そしてわたしは名前をつける③-[りゅうと](2016/06/26 02:46)
[59] 第五十八話-そしてわたしは名前をつける④-[りゅうと](2017/05/22 00:40)
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[9553] 第二十七話-父子の顛末-
Name: りゅうと◆352da930 ID:73d75fe4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/09/13 02:24
朝。とはいっても時間的にはまだ早朝に類する時間帯で、俺はそんな時間帯であるにもかかわらず少年と少女が立っている場所から少し離れた隊舎の正面玄関のところでタバコをふかしていた。
理由は簡単。人を待っているからである。
ところでここで一つ小話。俺がタバコを吸うときの心理状態ってやつは、大きく分けて二分される。
一つは心底退屈なとき。まあ仕事の関係上こうなる日ってのはそう多くないのだが。
二つ目は別の使い道。イラっとしたときとかそわそわしてる時なんかである。
まあ別に、俺にとってのタバコってのはただの時間つぶしの趣味って部分が多いからそこまで大量摂取はしないので細かいことはどうでもいいんだけども。
問題なのはなぜ早朝の朝っぱらから子供二人がいる前で眉根を寄せて煙草をスパスパやっているのかである。ちなみに一応言っておくと、エリ坊とキャロ嬢の位置からは風下なので大丈夫。その辺抜かりはない。
さて話を戻そう。俺がこんなところでタバコを吸ってる理由、それはさっきの二つの症例にあてはめるなら後者に属する理由によるもので、要するに今ここで俺が到着を待っている人物に会うのに若干緊張と言うか拒絶反応と言うか……まあ別に悪い意味が込められているわけではないのだがなーとか思ってるとようやくというかなんというか、一台の車がこちらへやってきて俺たちの近くに停車し、運転席のドアが開いてそこから一人の男性がおりてきた。
俺は携帯灰皿にタバコの吸い殻をねじ込んでからその人物に手を振り、久しぶりだな、親父と声をかける。
親父はそんな俺を見て、ああとだけ言いながらこちらに歩み寄ってきた。
ピンと伸びた背筋。身長は俺より少し低いくらいで、オールバックにした金髪にはいくらか白髪が入り混じる。この人も結構歳とったなとか思いながら、俺はこちらへ寄ってきた二人組を指差しつつ言った。

「紹介しとくぞ。こっちがエリ坊、こっちがキャロ嬢。今日は奇特なことに俺たちの道程に是非とも御供願いたいという二人組だ」

まあ本来の目的はそのあとの息抜き的なもので、こっちの用事はこの子たちにとってはついででしかないのだけれど。つーか時間の問題的にやむなく連れて行く感じになってしまったけど、本当にいいのかなあと思ったりもする。二人はいいとか言ってたけど、あんまし大人数で行くようなとこでもないしなあとか口には出さず思ってると親父が難しそうな表情してた。何かと思って聞いてみる。

「エリボウ……。……ふむ、まるで猪のように猛々しい名前だな。人間関係においてはさぞかし無鉄砲に相手の懐に突っ込んでいくのだろう」

聞いたことを後悔した。俺は頭痛がして頭を押さえた。
いや、ちゃんと紹介しなかった俺が悪いんですけどね。しかし誰が予想出来ようか。あれを本名だと思うなど。

「ち、違いますよ! エリ坊っていうのはあだ名で……本名はエリオ・モンディアルですっ!」
「ああ、そうなのか。これは申し訳ない。……となると、そちらのお嬢さんの名前も、キャロ・ジョーではないと?」
「ええっ!?」

今度はキャロ嬢の番だった。驚くのも無理もないね。
つかどこの「燃え尽きたぜ、真っ白にな」だ、それは。なに、なんなの? 全力を出した後この綺麗な桃色の髪が真っ白に脱色されるの? 目指すは驚きの白さなの?
そんなこんなで、ジョー! 立つんだジョー!とか思ってるうちにキャロ嬢の方もきちんと自己紹介を終え、親父も普通に自己紹介をして、二人の前に立ち膝になって視線を合わせ、よろしくと握手していた。
ここ数年で、この人も随分こういう気配りができるようになったよなあと思いつつこんなところで立ち話も難なのでさっさと車に乗り込むことにした。ちなみにここからの運転手は俺。朝早くからわざわざ運転してきてもらったのだ、運転交代くらいしないと申し訳が立たん。
と言うわけで運転席の方に回り込んで車に乗り込む寸前、親父がさっさと助手席に乗り込んだのを確認して、俺は後部座席に乗り込もうとしている二人を呼び止めて耳元で呟いた。

「すまんな。この人なんか結構ずれてるんだよ。許してやってくれ」
「……ううんいいよ。流石はセイゴのお父さんだなって思った」
「あ、私もです」
「なん……だと……?」
「聞いたか誠吾。これは随分と光栄なことだな」

おい、聞こえてたのかよ。盗み聞き? 盗み聞きなの、ねえ!?
助手席から乗り込んだくせに運転席から顔をのぞかせつつそんなことを言っている親父。あまりにも茶目っ気が過ぎるでしょう?
とりあえず俺は反論するのも面倒だったので適当に頷いた。

「ああ、うん、そうですね……」
「なんだ、どうした誠吾。歯切れが悪いぞ」
「……気にしないでくれ。なんでもない」

どうせなに言っても無駄である。あれ以来この親父、俺に対してファンキーになりすぎだと思う。……いや、母さんの手紙によるとこっちが素か。俺が知らなかっただけで。

「……とにかく、さっさと行こう。時間がもったいない」
「そうだな。では頼むぞ、誠吾」
「はいはい、了解ですよ」

そんなやり取りをしつつ、俺たちを見て楽しそうに笑っていたエリ坊たちを後部座席に押し込んで、俺たちはちょっとしたドライブへと出かけることになったのだった。






























親同伴。
という状況でこなす何かってやつは、自分が幾つになったところで気恥かしいものがあるというかむしろ歳を重ねるごとになんだかいやーな空気を纏っていくあれだよな。
と言うのが我が友人であるとある一人の男の言葉である。
しかしこの言葉の真意、実は俺にはよくわからん。
数年ほど前に友人たちが酒の席にてそんな議題で小一時間熱論を戦わせていたのを傍から見たことがある身であるのは間違いない。
しかし親同伴なんて行事自体をほぼ経験していない俺はあの席で周りの連中から羨ましい羨ましい恨めしいとか何とか這いずるような声音で呟かれながらにじり寄られて恐怖した思い出しかなく、それ以降もあの親父と連れ立ってどこかへ出かける機会と言うものの大抵が二人きりであるか、あるいは親子二人で参加しなければならない世間への対応的な何かくらいしか覚えがなく、あいつらは何をあんなに昼飯時に嬉々として弁当箱を開けたら中に生のウナギだけが丸々一匹入っていたような表情を浮かべながら、酒の席であるにもかかわらずネガティブなテンションで、なのにあんなに熱心に語り合ってたのかが理解できていなかった。
そう、理解できてはいなかったのだ。……ついさっきまでは。
俺は目の前の信号が変わったのを確認すると、適当にアクセルとクラッチを操作して発進した。それから右手でハンドルを固定したままクラッチを踏みこんでギアを適当にトップへと誘導する。
きっとまだ時間的に明け方だからなんだろうが、俺の運転するこの車以外の車両はたまにすれ違う対向車線のトラックくらいのもので、あまりの開放感に少しでも気を抜くとアクセルの踏みこみすぎでいつのまにかスピードがどっかの豆腐屋の息子に喧嘩を売りかねない感じになりそうだったのでそこだけは注意しつつ快適なドライブを……

「それで誠吾。お前は一体いつの間に私に内緒で子供など作ったんだ」

……決め込もうとしたところで、朝早くに一応訓練メニューこなしてから出かけたせいでまだ少々眠かったのか後ろの座席で仲良く眠っている二人を起こさないような声量で全く悪びれもせずに聞いてくる助手席に鎮座しているこのアホを誰かどうにかしてくれ……。
もしかしたら本人はとびきりのジョークでも口走っているつもりなのかもしれないが現実は非常である。はっきり言ってそろそろボディにブローでもくれてやろうかというくらいさっきから延々延々と俺が返答に窮するような質問ばかり重ねてくるこのクソ親父をそろそろ眠らせてもいいよね。許されますよねお母様!?
……とか心の中で絶叫しながら、安全な運転を後部座席の二人へと提供するためだけに怒気を抑え込み、俺はハアとため息を吐くのだった。
……今更わかった。
自分と親との間に発生しているこのジェネレーションギャップっつーか温度の差。普通に知り合いに聞かれたくないわ。
て言うか今は二人とも寝てるからいいけどこの後のことを思うと運転中にも関わらず頭を抱えたくなりますよね。

「ところで誠吾、冗談はさて置いてなのだがな」

冗談と自己で認識していたあたりに悪意を感じた。いや、認識してないならないでそれは問題だけどな。

「……んだよ。もし次に死ぬ程寒い言葉をその口からはき散らしたなら、俺は躊躇することなく助手席のドアを中央分離帯に直撃させる準備があるぞ」
「どうやって」
「サイドブレーキ上げてハンドル切ってドリフトをかます」
「そうか。だが安心しろ。残念ながら真剣な話だ」
「そうかよ。……で、なに?」

聞き返しながらバックミラーでエリ坊たちの様子を確認すると、エリ坊の肩にキャロ嬢が寄りかかって寝入っていた。あれシートベルトつけてなかったらもっと倒れ込んで膝枕になりそうだなとか苦笑して、兄妹のごとく仲よさげに眠る二人から視線を外して前を見たところで親父が口を開いた。

「先ほど私は、この二人と自己紹介をし合っただろう?」
「ああ、そうだな。で、それが?」
「実はこの二人の名前、数年前に聞いたことがあるのだ。時期はそれぞれ違っていたがな」

そこまで言われて、ああと思った。きっと保護されてからのどこかのタイミングで病院に連れて行かれた時の情報が、親父の耳にも入ったのだろう。
エリ坊はクローン的なあれで、キャロ嬢はなんかすげえ竜を呼び出したのが理由で里を追い出されたとか何とか言ってたような。

「そこでいろいろと良くない噂を聞きかじった。もともと私の管轄外での出来事がたまたま耳に入った程度の情報だったから詳しく知っているわけではないのだが……」
「ふうん。で?」
「お前は知っているのか? この子たちが過去、どういう扱いを受けてきたのかを」
「うん。知ってる」
「そうか。ならいい」

あまりにもあっさりと話を打ち切られ、拍子抜けしてちらりと親父の方を見ると、なんか満足そうに小さく笑ってやがった。
ああ、なるほど。

「相変わらず言葉が足りないな、親父」
「……そうだな。自分でもそう思うよ」
「最初からそう聞けばいいだろ。この子たちとはうまくやれてるのかって」

本当に、昔から一言少ないのだ、この人は。だから俺があんなに馬鹿になるんだ。

「そうだな。すまない。……だが、これも性分でな。一朝一夕には是正出来ん」
「だろうな」

もし出来ていたら、俺はもっと素直でまともな性格に……ああ、想像できない。
ま、いいか。これでも自分の性格、それなりに気に入っているしな。






























side:なのは





それは、せーくんが目を覚ました日の夕方のことだった。
あの事件からはもう既に三日近くが経過し、せーくんが目を覚ましてからは4時間ほど経っている。
せーくん一人に割り当てられたこの個室には、わたしとせーくん以外は誰もいない。ロロナさんとヴィータちゃんは隊への報告に戻ってしまったし、ついさっきまではめまぐるしく室内を駆け回っていた看護士さんたちも、せーくんの精密検査が終わったと同時に他の仕事に戻ってしまった。
だけどわたしは、せーくんの傍を離れる気にはなれなくて、けれどせーくんのベッドの脇で椅子に座っているだけでは手持無沙汰で。
だから、せーくんが精密検査を受けている時にお見舞いにやってきた部隊長さんが持ってきたフルーツセットの中に入っていたリンゴをむいて、

「……あ、あーん」
「…………」

それをフォークで刺してせーくんに食べてもらおうと思ったのだけど、せーくんは物凄く眉根を寄せて目を半目にしてわたしを見るだけで、口をあけてくれようとはしない。

「……えっと、リンゴは嫌い?」
「……いえ、どちらかと言えば好きです。特にアップルパイ用に甘く煮つめたのなんかは」
「あ、フィリングのことだね」
「……フィリング? そういう名前なんですか?」
「うん。わたしのお父さんとお母さん、喫茶店をやってるから、そう言うのは詳しいんだ、私」
「……へえ、喫茶店の娘ですか」
「うん。……えっと、あーん」
「…………」
「……うぅ、どうして食べてくれないの?」

わたしが弱りながらそう言うと、せーくんはすごく深いため息をついてから、私の手からフォークとお皿を奪い取って、シャクシャクとリンゴを食べ始めた。

「……もしかして、恥ずかしかったの?」
「……そうですよ。怪我人とはいえこの歳にもなって年下相手からいちいち食べ物を口に運ばれるのなんて、私にとってみればただの拷問ですのでね。……と言うか、よくもまあ遠慮なくこういうことが出来ますね」
「……だって、せーくんが言ってくれたんだよ?」
「……なにをですか」
『気にしてませんから、だから私と接するたびに今回のことをいちいち思い出して余計な遠慮をして、面倒な気苦労かけないでくださいね』って」
「確かにさっきそんなことを言った気もしますけど、それとこれとは話が別でしょうに……」
「……やっぱりわたし、もっとせーくんと距離を置いた方がいいかな?」
「それはやめてください」

あまりにもきっぱりと即答で言いきられて、わたしは目を丸くした。

「そんなことをされて、また嫌な気分を忘れるために無茶な訓練されて、なのに任務中は上の空で、その上どこかで怪我をされたら、私があなたを庇った意味がなくなってしまうでしょう」
「う……。ごめんなさい……」
「分かっているのなら、もう少しそういう自分の性格を把握していないような発言を控えてください。余計に疲れますから……」
「……はい」

わたしがしゅんとすると、せーくんはそれを見てまた溜め息をついてから、リンゴを齧り始めた。
それからしばらく、室内に響くのはせーくんがリンゴを咀嚼するしゃくしゃくという音だけ。
そのうちたちまち彼はリンゴを平らげて、お皿の上にフォークを載せてそれをわたしの方に差し出してきた。

「……ごちそうさまでした」
「……え、あ、うん! お粗末さまでした!」

嬉しくてそう言うと、せーくんは目を丸くしてからまた溜め息を吐いた。……うぅ、どうすれば笑ってくれるのかな……。
と言うような悩みを抱えながらお皿を片付けてもう一度椅子に座りなおしたところで、病室のドアが開かれた。
ロロナさんたちが戻ってきたのかと思ってそちらを見ると、そこに立っていたのは見知らぬ……だけど、誰かに似ている男の人だった。
わたしの知らない人だから、せーくんの知り合いかなと思って彼の方を見ると、せーくんは目を見開いて固まっていた。
そんな彼の口元だけが動いて、絞り出すように掠れた声を出す。

「……親、父……?」
「え……?」

お父さん? せーくんの? と思ってもう一度ドアのところに立っているその人を見ると……確かにどことなく、せーくんと似ていると思う部分がいっぱいあった。
男の人は「失礼する」と低くて大人っぽい声で言うと、そのまま部屋の中に入ってきた。
わたしはあわてて立ち上がると、その人に向けて頭を下げた。

「こ、こんにちは! せーくんのお友達の、高町なのはですっ!」
「……ああ、これはどうもご丁寧に。ジェッソ・プレマシー、この子の父親です」

わたしがあいさつすると、ジェッソさんも一緒に頭を下げた。……だけど、それだけ。
ジェッソさんはそれだけでわたしに対する興味を失ったように視線をそらして、それからせーくんの方を見た。
そして、悲しそうな眼をしながら、口を開いた。

「……誠吾。話があるのだが、今は大丈夫か?」
「……ええ。構いませんよ」
「え……」

親子なのに、敬語? そう思って自然と、口から疑問の声がこぼれていた。
それを聞きとってまたわたしがいることに気付いたのか、ジェッソさんがわたしの方を見る。
その目が暗に、すまないが席をはずしてくれと言っているように見えて、わたしはあわてて、

「あ、わたし邪魔だよね。今出ていくから……」

そう言ってせーくんの傍を離れようとしたとき、肩に手が掛けられた。

驚いて振り返ると、せーくんが気まずそうな顔をしながら困っているような口調で言った。

「……すみません。迷惑だとは思います。ですが、ここにいてもらえませんか?」
「え、でも……」
「お願いします」

そう言って、せーくんが頭を下げた。私はびっくりした。
せーくんがこんなにもあっさりと頭を下げたこともそうだけど、なんだかその姿がいつもの彼より全然頼りなくって。けど、それがなぜだかわからない。
だからどうしていいかわからなくて、わたしはジェッソさんの方を見た。
するとジェッソさんは、「……別に私は構わないから、好きにするといい」と言ってから、わたしとは反対側の椅子に座ってしまう。
仕方ないのでわたしももう一度椅子に座ったところで、ジェッソさんはベッドの上のせーくんに語りかけた。

「誠吾。無茶をしたな」
「……ええ、そうですね」
「担当の先生から話は聞いた。今回は大事無いそうでよかった。一週間で退院できるそうだな」
「……ええ、まあ」
「……だから、早速で悪いが、本題だ」
「……相変わらず、口数が少ないですね、あなたは」

せーくんが目を伏せながら、からかっているような、なのに泣きそうな声で言った。
けどジェッソさんは、それを無視して言う。

「……誠吾、私にはもうこれ以上、お前が傷ついていくことを見過ごすことはできん。管理局を辞めるんだ。大丈夫だ、お前なら別の仕事に就いてもすぐになんとでもなるだろう」
「────なん…っ!?」

その言葉に、せーくんは目を大きく見開いた。そして顔をくしゃくしゃにゆがめてから、俯いた。肩が小さく震えて、その姿は傍目に見ると泣いているようにも見える。……けど、それはありえなかった。

なぜなら、

「────……ぇょ」
「────なに?」




「────うるっせえんだよおぉっっ!」





わたしも、そしてジェッソさんも、目を見開いた。
今までどんな時でも、絶対に敬語を使うことだけはやめようとしなかったせーくんが、感情を剥き出しにして叫んだ。

「なんなんだよ、あんた。なんでっ、なんであんたはそうなんだよぉっ!」
「────…誠吾」
「なんで……っ! なんでいつもは俺に見向きもしないくせに、こんな時に限ってそうやって正論振りかざして父親面するんだっ!?」
「────…!」
「もうやめてくれよ……。もう、期待させないでくれよ……! 俺に、諦めさせてくれよ……っぅ」

ジェッソさんの顔が、見る見るうちに蒼白になっていった。けど、わたしはせーくんを止めることも出来ず、ただ立ち竦んでいた。だって、せーくんと出会ってから初めて、彼の『本当』を見た気がしたから。だから、今せーくんを止めちゃいけないんだと思った。
せーくんは全てを拒絶するように叫び続ける。

「大体、あんな生活を強制しなきゃ俺の面倒を見れないってんなら、俺は自分にとって重荷だって初めからそう言って放りだせばよかっただろうが!」
「……違う、私はそんなつもりでお前に医療の道を勧めていたわけでは────…」
「何が違えってんだよ! ……分かってたんだよ。俺はあんたにとって、母さんの忘れ形見でしかないってことくらい。…だからあんたは、俺にあんなに無関心だったんじゃないのか……」
「……言い訳にしかならんだろうが、私はただお前に幸せに生きて欲しかっただけだ。……私はすべてにおいてダメな人間だったが、医学のことなら助言ができる。お前が医療の道へ進んでくれれば、お前の生きる手助けをできると思ったのだ」
「その結果がクソガキだった俺をあの診察室に詰めさせて、医学書の山に埋もれさせることだったってのか? ……ふざけるなよ……」
「……そうだな、その通りだ。すまない。……だが私にはもう、医学しかなかったのだ」
「────っ」

せーくんが息を呑んで目を見開いた。見開いたその瞳には────



「────そっか、そうだよな。母さんをあんたから奪ったのは、俺だもんな」



涙が、溢れていた。
ジェッソさんはそれを見て、驚愕していた。
震えるように喉を鳴らし、声を絞り出す。

「お、前……そんな風に思っていたのか?」
「だって、そうだろうが。体弱いくせに俺なんか産んで、そんで、そんで……っ」

ジェッソさんは茫然とした表情で、なぜそれを……と呟く。それから、ハッとした。

「────そうか、手紙かっ! くっ────もういい、やめろ誠吾、私は……」
「いいよ親父。無理すんなよ。あの手紙に全部書いてあったからわかる。母さんはあんたのことを理解して、あんたは母さんのことを理解して、そして愛し合ってた。それを邪魔したのは俺だ。だから、だから俺なんて────…っ」




────ウマレテコナケレバ、ヨカッタノニ────




……っ────! 違う、違うっ!



「────もう、やめてっ!」



気がついたら、わたしは叫んでいた。
二人が驚いてこちらを見る。

「もう、やめてください。自分を責めないで…っ、せーくん……! わたし、わたしは……っ」

さっきのせーくんの言葉は、小さい、けれど明確な拒絶だった。
それはどうしようもなく暗い感情で、だけどわたしは共感してしまっていた。
だから、気付いてしまった。
たとえ向かうベクトルが違くても、その気持ちは、その暗い感情は、わたしの心にもあるものだということに。
だからわたしは、否定したかった。
そんなことは無いんだって。
何も持っていなくたって、迷惑をかけたって、たとえ悪い子だったって、それでも、それでも彼は────わたしは────ここに居ていいんだって、嫌いになったり、しないんだって、そう、言って欲しかった。
彼のためなんかじゃない。
わたし自身の、保心のために。
ジェッソさんは、わたしの方からせーくんの方へ向き直ると、厳しい表情を浮かべて口を開いた。

「誠吾、先に言っておく。私の頭は正常だ」
「────は?」
「────ふん……っ!」

ジェッソさんがいきなり地面に膝をついて頭を床に思い切り打ちつけた。せーくんは目を見開いて驚き、「はあっ!?」と目を見開きながら唖然としていた。
あまりにいきなりな展開に、わたしも声が出ない。
そうしているうちに、打ちつけた頭をそのまま地面に擦りつけたままでいたジェッソさんが口を開いた。

「すまなかった、誠吾」
「……あんた、医者のくせに人体の急所を大事にしないとか、ありえなくねえか?」
「問題ない。怪我なら後でいくらでも治せる。私の知り合いに優秀な医者が多いのは知っているだろう?」
「……ああ、嫌ってほどな」

泣きそうな顔で、せーくんが言った。

「だが、体の傷はいつでも修復できようとも、お前との絆を修復するのは、今この場をおいてほかにない」
「親父……」
「私の心は、今体を張って示した通りだ。今まで済まなかった。私は、お前と心を通わす努力すらしなかった癖に、お前は私のことをいつか必ず理解してくれると勝手なことを思っていたのだ」
「……」
「だが、結局はこの通りだ。お前を追い詰められる必要のないものに追い詰めさせ、今ここでその口からあんな言葉まで吐かせてしまった。それを止めることの出来なかった私は……ただの馬鹿だ」
「……っ」
「こんな様では私の顔など見たくもないだろうが……。私は、今からでもやり直せるものならやりなおしたいと思っている。だから────」

だからそのために、私は何をすればいい?
そう言ってジェッソさんは、喋るのをやめた。
部屋の中が沈黙で満たされる。
誰も言葉を発さず、誰も物音を立てない。
響く音は時計が時間を刻む音くらいだった。
せーくんは、秒針が10回ほど音を刻んだのと同時に口を開いて、

「じゃあ、喧嘩しようぜ」

そんなことを、いつもわたしや他の同僚の人に向けるのとは違う、軽快で何一つ気負った様子の無い口調で口にした。
わたしがそれを聞いて目を丸くしてぽかんとしていると、

「……そうか、それもありか」

ジェッソさんは苦笑しながら立ち上がり、凄い勢いで床にぶつけたせいか、割れた額から頬に流れる血を舌でぺろりと舐めとりながら、

「言っておくが、私は強いぞ?」

凄絶な笑みを、浮かべた。
せーくんはジェッソさんの様子に満足したよう笑いながらに頷くと、ベッドから降りて両手の指を鳴らし始めた。
……うぅ、いつも思うけど、あれって痛くないのかな……。

「なあ、親父。考えてみたらさ、俺たちが喧嘩するのって初めてじゃないか?」
「……そうだな。恥ずかしい限りだ。私がガキだった頃は、あれほど気に入らないことがあれば喧嘩して白黒つけていたというのに、成人してから大人の汚さを身につけてそんなことも忘れていたようだ。私がどれほどお前に腫れ物に触るかのような態度で接してきたのかがありありとわかる。だがこんな腐れた関係も……」

ジェッソさんも両の拳の指をバキバキと鳴らし、

「────今日で終わりにしなければな」

不敵に笑う。

「さて、ちょうど良く管理局期待のエースという名のレフェリーもいることだし、時間無制限一本勝負と行こうか、親父殿」
「え、ちょ、ちょっと……」

そんな役、押し付けられても困るよっ!と言う間もなく、二人はお互いの服の胸のあたりの布を掴んで捻りあげた。

「いいだろう、来い。貴様に私がこの十年間、どれほどお前のことを考えて生きてきたかを教えてやる」
「あ、あの、ちょっと待って……」
「反吐が出らァ。俺の方こそ、今までどれだけ寂しい思いをしてたか教えてやる」
「え、え、えぇぇぇ!?」
『────行くぞっ!』
「う、うわぁぁん! やめてくださぁぁいっ!」

このあと、わたしが押したナースコールに呼ばれて駆けつけてきた病院のスタッフさんと一緒に、罵り合いながら殴りあう二人を必死で止め、そのあときっちりせーくんと『お話』をすることになるのだけど、それはまた別のお話。





side:なのは────out






























始まりがどこだったかなんて、もう覚えちゃいない。
だからあの人が医学書を俺に与えるだけで、まともに話もしたことがなかったことに気付いたのは、一体いつのことだったかもわからない。
母さんが死んで、もとから仕事が忙しくて俺に構ってくれてなんかいなかったあの人が、俺を一人にしないようにと自分の仕事場に連れてきてくれた時には素直に嬉しかった。
そして、他人に預けるという選択肢を捨ててまでそれだけのことをしてくれるのだから、俺のことを大事に思ってくれているのだと思っていた。
けど、それなら親父がなぜ俺から距離をとっているのかがわからなくて。
そんなとき、親父からあの手紙を渡された。
母さんには、俺がキチンとものを考えられるようになったら渡してほしいと言われていたそうだ。
その手紙には、俺の知らないパズルのピースが、いくつも隠れていた。
当時二十二歳だった母さんが次元漂流者としてミッドチルダで保護され、その治療を親父が担当したこと。
元から体が弱かったこともあり、次元漂流の影響で体調を完全に崩してしまった母さんの退院は、容易ではなかったこと。
その長い入院の間に、二人に恋心が芽生えたこと。
それからいろいろあって、母さんがミッドチルダに住むことになったこと。
────そして……




俺を身籠った母さんが、出産の過程で自分の体がどうなるかすら省みずに俺を生もうとしたこと。




それから、俺を生むまでにボロボロになった体で、四年近くも俺の面倒を見てくれていたこと。
そこまで読んで、俺は耐え切れずに手紙を読むのをやめた。
あの手紙を読んで、それから数限りない様々なことを考えて、結局俺がたどり着いたのは、俺が生まれたせいで、親父と母さんが不幸になってしまったんだという想像だった。
親父が俺を気にかけるのは、俺が母さんの忘れ形見だったからだ。
あの人は、母さんのために俺を必死で育てようとして、けれど母さんが死んだ原因である俺を育てることに苦しんでいた。
それがこんな、中途半端な対応を生んでいるのだと思った。
だから俺は、あの人から母さんを奪っておいて、その上これ以上迷惑を掛けることはできなかった。
そう思ったから、あの人が俺のことを心配しなくてもいいくらいに、偉くなろうと考えた。
そうすれば、母さんのために俺を立派に育てるという建前も無くなって、少しは楽にしてあげられる。
今更気付いたことではあったが、どうせ今だって、まともに話した記憶なんてない。
だから今なら、俺も諦められる。親父と友好な関係を築くことを。
親父に、俺を憎むことだけを考えさせることができる。
……認められなくとも構いはしなかったし、認められるとも思ってはいなかった。
けれど俺には、あの時それ以外の道を選ぶだけの余裕なんて、もう無くなっていた。



どれだけ言い訳を重ねても、俺のせいで母さんが死んだのは、紛れもない事実だと思っていたから。



本当は、俺も親父も、そんなことを望んでなんていなかったのに。






























久しぶりの通信画面越しでない対面であったのと、怪我をしたばかりで多少精神的に不安定だったとはいえ、あんな風に取り乱すなんて流石に自分でも予想外で。
だけどあれは、今まで散々ため込んできたものだった。それが爆発したのが、たまたまあのタイミングだったのだと思えばそれまでで、まあそんな場面に居合わせた上に俺にとっても親父にとっても抑止力になるだろうと思ってその場に残ってもらった高町には申し訳なかったが、気の済むまで普段の鬱憤を吐き散らしてすっきりしている自分がいるのも確かだった。
……とはいえ、今思えば、なんとも恥ずかしいことを叫びあっていた気がする。
具体的には、
あいつが死んだのは私の力不足のせいであってお前は関係ないんだ調子に乗るなよ悲劇の主人公気取りかこの馬鹿息子!
んなこと言ったって俺が生まれなきゃ何の問題もなく幸せな夫婦やってられただろうがクソ親父!……あれ、よくよく考えてみればそもそも俺が生まれたのって親父のせいか? 親父が欲望に身を任せてやらかしたせいか? おいジジイてめーなんで体が弱いの知っててやらかした、自重と我慢て言葉を知らんのかボケェ!
あいつとの愛の形が、証が、子供が欲しかったんだよ!
てめー一時の感情に身ィ任せてんじゃねーよ医者なら冷静に動けぇっ!
確かにそうかもしれんが私もあいつも後悔など微塵もしとらんぞおっ!
てめーはともかく母さんはわからねーだろうがぁっ!
わかるさ! あの時あいつは生まれたばかりのお前を見て笑って言ったんだ!「かわいい子、産んでよかった」となあっ!
────!
その後だってあいつは死の間際までお前を大事に育てていたんだ! だから、あいつがあれほど愛したお前が、引け目を感じることなど一つもないんだ!
────だけどあんたは辛そうに俺を育ててただろうが!
確かにそうだ。だが、それは私の未熟さゆえだ。私の力不足で彼女を救えなかったことをいつまでもくよくよ悩んでいたから、お前に合わせる顔もかける言葉もなかったんだよ!
とか罵り合ってるうちにナースコールで駆けつけた病院のスタッフさんと高町に取り押さえられ、父さんはスタッフさんたちに連行された。
俺はそのまま高町に床に正座させられ、説教されていた。
思えば、二人とも相手に嫌われるのが怖くて本音ぶつけあえてなかったとか笑い話にもならん。
男二人して女々しすぎる。

「もう、聞いてるのせーくん!」
「……ええ、聞いていますよ高町さん。それはともかくそろそろ正座を崩してもかまいませんか。これでも一応怪我人だというのに、裸足でリノリウムの床に座らせるとか存外あなた鬼畜ですね」
「~~~っ! もう、もうっ! 全然聞いてないじゃない!」

ぴーちくぱーちくと喚きながらポカポカと俺の頭を叩いてくる高町。痛くはないが結構さっき親父に殴られた頬の傷に響く。

「わかった。わかりましたから冷静に話をしましょう。ね?」

俺は高町の両手を掴んで攻撃をやめさせ、とりあえず真剣に話をすることにした。
確かに俺のことを心配して見舞いに来てくれているこいつの前であんな喧嘩をしたのはまずかった。

「……にしても、人間の記憶なんて本当、適当なものですよね」
「え?」
「物心つくかつかないかくらいの時の記憶とはいえ、今更になって思い出しましたよ。私の夢が妙に現実くさかった理由。……確か、親父と母さんに楽な生活をさせてやりたかったんでした。昔から父さんは鬼のように仕事をしてましたからね。私がしっかりすれば、そんな無理をさせることもないだろうと思ったんでしょう」

殴られてる途中に思い出しました、壊れかけのテレビみたいですね、私。と苦笑しながら言うと、エースさんは複雑そうな表情を浮かべた。
それからしばらく、沈黙が続く。
一分、二分、三分とそんな状況が続いて、正座している俺の足が血液不足でビリビリし始めたころだった。

「……ねえ」
「はい。なんでしょうか」
「……親子喧嘩って、さ」
「ん?」
「どんな、感じなの?」
「は?」

俺はポカンと口を開いた。今この子、なんて言った?

「あの、あなたもしかして……」
「……うん。小さい頃のことは覚えてないけど、大きくなってからはお母さんとも、お父さんとも、喧嘩ってしたことないの。ましてさっきみたいな取っ組み合いなんて……」

衝撃の真実。管理局のエース、親父にも殴られたことないのに。他人のことは言えないけどな
……そう言えば地球に、そんなことを言うロボットアニメの主人公がいるとか、前に先輩が言ってたっけ。今度借りてみようかな。
とか思いつつ口を開く。

「んー、なんというか……」
「う、うん」
「痛い」
「……うん」
「けどですね、相手も自分も手加減してるのが分かるというか、あの人は私の怪我に響かない場所殴ってたし、私もあの人の急所と手は外して殴ってたし、無意味に気を遣って疲れたというか……」

下手に医学的知識があるからどこでも殴るということが出来ない喧嘩。
全くもってどこまでも不器用くさい。アホかと思う。今思えばもっと本気でどこそこ構わず殴りゃ良かったとか思う。今さらだけど。
つーか何で俺ついさっきの喧嘩のことをこんなに真剣に考察せにゃならんのだろう。

「というかなぜそんなことを聞くんですか。……もしかしてしたいんですか? 喧嘩」
「っ!」

ビクリと体を震わす高町。…なんだこの反応。訳がわからん。……ってちょっと待て、今まで喧嘩したことない、それで多分こいつは喧嘩をしてみたいと仮定する。で、その質問をすると怯える。これはつまり────

「……あの、勘違いだったら謝りますけど」
「え……」
「あなたもしかして、喧嘩して嫌われるの…怖いとか言いませんよね?」
「────っっ!」

えー、ビンゴですか……?

「わ、私……っ」

これは気まずい。なにがって、聞くだけ聞いといてなんだけど、俺には答えの出しようがない。
彼女と彼女の親が喧嘩したとして、彼女の親が彼女を嫌うかどうかなんてわかりようがない。
世の中いろんな人がいて、他人どころか肉親の考えていることだって自分には読み取ることすら出来やしない。
その上彼女の親のことなんて何も知らない俺が、余計な口を利けるわけもない。
けど、俺がこんなこと聞いたせいで彼女が今いろんなことに目茶目茶ビビってるのは事実で。
だったら、放ってどっかへ行くのは気分が悪すぎる。

「……あの、高町さん」
「────…っ。な、に?」
「私はあなたに助言できません。けど、できるかもしれない人は知ってます」
「────え」
「もう一度、会ってみませんか? 私の父、ジェッソ・プレマシーに」






























そのあと、高町が親父とどういう話をしたのかは詳しくは知らない。
けど親父に話を聞いた限り、高町の親なら大丈夫だろう、とのことだった。
なんでも親父の奴、高町に相談受けてすぐに高町の自宅に連絡とって、お宅のお子さんのせいでうちの息子が怪我を負ったんですがどうしてくれるんですか。大体言っておきますがお宅のお子さん全身ボロボロになってるのにあんたらは一体何を見てたんだーとか何とかいろいろいちゃもんの電話をかけたらしい。
そして、その反応を見て、大丈夫だろうって。
だから、一回喧嘩してみなさいって。
そう言って、高町を送り出したそうだ。
渡りに船とばかりに、今の高町には喧嘩をする理由がある。
俺の怪我と高町の疲労。
高町の方から仕掛けることはなくとも、うちの親父が掛けた電話のおかげで、高町の親御さん側には娘を叱る理由が出来てしまっていた。
あとはそれに、高町が反発すればいい。
なんか知らんがそのコツは教えておいたとか親父が言っていたのが激しく不安でならん。
しかしまあ、これ以上俺には出しゃばりようがない。
どうせ俺は半端な奴で、他人の人生への介入なんて、中途半端にしか出来やしないのだから。
……と思っていたのだが、喧嘩会場が俺の病室になったことでそういうわけにもいかなくなった。
高町の家族が俺に謝りにわざわざ病室を訪ねてきたとき、父親を名乗る男性が高町にその場でどうしてこんなことになったのかと聞こうとして、お父さんには関係ないでしょと高町が反抗したのだ。
予想外すぎて話についていけない感はあったのだが、親父の奴普段病院でその類の喧嘩は見慣れているせいなのか自分も親だからなのか、親が言われてぶちぎれる地雷を熟知してやがる。
その地雷を次々と高町が投入したせいか、おかげで個室とはいえあまりの五月蝿さに婦長さんまで乗り出して事態を収拾する始末だった。
なぜ俺が高町家族と高町の間を取り持つことになったのかは知らないが、お母さんと思われる人やお姉さんと思われる人やお兄さんと思われる人も高町父と一緒になってグダグダだったから大変でした。
……親父の奴、結局のところ俺に丸投げもいい所だった。今度会ったら文句言ってやろう。
……なんて、普通の親子関係みたいな思考ことができるようになったことに驚いて、それからそれに苦笑して、けれどどこかそれを楽しんでいる自分に気がついて、なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなった。



────そんな日だった。






























────と、言うわけで。

「ここが我が母上様に当たる御方、『真(まこと)・プレマシー』の御墓となります」

俺はそう手で指し示しながら、つい先ほどまで通信をつないでいた端末をズボンのポケットに突っ込む。もちろん相手は高町だった。
なぜかと言われれば俺と父さんの喧嘩云々を第三者の視点からエリ坊たちに語ってもらうためで、それ以上でも以下でもない。
別にこんなこと説明しなくてもよかったんだが、なんかこう……成り行きで説明する流れに。俺いつも余計なこと言うからなー、おまけに今日は親父もいるし。
高町の方も、どうやらエリ坊たちがいないから時間には問題なかったようで、快く引き受けてもらえて助かった。自分でやるのはめんどいからな、説明。
ただ、フェイトさんとか八神が近くにいたみたいで、いろいろ情報ばれたのはまあ別にいいんだけど少し恥ずいなあと思わなくもない。
ところで分かっているとは思うがここはとある墓地である。敷地的にはこじんまりと狭い印象があるのだが、すぐ近くに見える海と、綺麗に整備された芝生のおかげでとても開放的な雰囲気がある。親父が選んだにしてはいい場所だと思う。
さて、ここまで言えばもうお分かりだと思うが、俺の……と言うか、俺と親父の今日の目的は、墓参りだ。
本当は命日であるあの日に行きたかったところではあったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
何せあのお母様ときたら、あの手紙で俺と親父に面倒な遺言を残してこの世を去ったのである。なかなかの策士だ。
……まあ策士策に溺れると言うかなんというか、俺があの遺書とも呼べる手紙を読み切らずに途中で放棄することは想定していなかったらしく、俺がそれに気付いたのはあの喧嘩のあと、退院してから改めて手紙を読みなおそうと思った時だったけどな。

「遺言?」

そうエリ坊が首を傾げた。隣でキャロ嬢も不思議そうな表情をしていたので、俺と親父は苦笑しながら説明する。

「真は、自分の墓参りは本当に暇な時だけしてくれればいいと、そう遺書に書き残していてな。今を生きるあなたたちが、仕事を疎かにしてまで死者である私に気を遣うのは許しません。だそうだ」
「ったく、何様のつもりだってんだよな。散々自分の我がままで俺と親父を振り回しといて、挙句の果てには死後まで命令と来た。おかげでそれを理由にズル休みも出来やしねえ」

俺が冗談口調で肩を竦めると、親父がまた苦笑した。
そういえば、と親父は目を閉じながら何かを思い出すように言った。

「誠吾が生まれたばかりの頃、私は毎日のように無理にでも仕事を切り上げて帰宅した。そんな私に、彼女はいつもこう言っていたよ。『私と誠吾のせいにして、大事なお仕事を休まないで』と。『私のせいで、あなたなら助けられるはずだった命が失われたら、その人に申し訳が立たないから』と」
「そのくせ、本当は自分が一番診てほしかったんだけどとか恨み言が書いてあったよ、あの手紙」

俺は前半の俺の生い立ちが書かれた数枚しか読んでなかったから、改めて後半を読みなおしたときにはどうしようかと思ったものだった。
内容がシリアスからメルヘンへと移ってまたシリアスへと移り変わっていく様はどこか感動すら覚えたくらいだ。

「つーか、最初から全部読んでたら、あんたと喧嘩することもなかったかもな。私は誠吾が死ぬほど愛しいですとか、恥ずかしげもなく書いてあったし。それに私が死んだのは誰のせいでもないらしい」
「……そうだな。まあそういう事情もあって、とりあえず形として彼女の体調が落ち着きを取り戻してからは、私は以前のように仕事を続けた。もちろん連絡は数時間に一度のペースで入れていたし、何かあればホットラインを直通させられるようにしてはいたがね」
「本当、格好つけるだけ格好つけて、面倒事ばっかり残して死ぬなよってんだよ。……母さんは馬鹿だなあ」

そんな風に、なんとも言えない気持ちになってしんみりとする。
と、服の裾を引っ張られて意識を引き戻された。
視線を後ろに向けると、エリ坊とキャロ嬢が不安そうな表情をしながら俺を見上げていた。
どうやら気を遣わせてしまったようで、少々反省する。どうにもここに来ると気が滅入る。
……ただまあ、最初からそう長くない命だったとはいえ、それを自分のせいで縮めさせちまった身としては、ここに来るといろいろ感慨深いものがあるのもわかってほしい。
漂流した時の何かが、もともと弱かった母さんの体に影響を与えたのは間違いなかった。
退院した時点での彼女の寿命は、長くて十年、短ければ八年持てばよかったそうだ。
ちなみにその時既にもう、親父と母さんは好き合っていたそうで。
もともと歳の近かったこともあったのだろうが、それ以前に二人は驚くほど気が合ったとか。……これなんてエロゲ?
下らないあれはともかく、いろいろあって、結局ミッドで暮らすことになった母さん。そして彼女は、ある日唐突に思った。
今はいい。今は自分が元気だから、父さんを一人にすることはない。けど、その先は?
自分の死んだあとは?
こんなに優しい彼を一人で残すことが許されるのか。
答えは、NOだった。
だから母さんは、無理を承知で子供を作ろうとした。もともと自分が子供を欲しかったのもあったらしい。
ただ、それ以上に自分の生きた証を残したかったそうだ。
自分のために。父さんのために。
俺は、っははと苦笑しながら二人の頭を撫でた。

「悪いな、勝手に黄昏れちまって」

そう謝ると、二人はふるふると首を振った。横で親父が柔らかく笑っていた。……なんだその生温かい視線はとか思うが突っ込んだら負けな気がしたので話をそらそう。ああそうだ、ちょうどいい話題があった。

「そうだ。今日はわざわざこんなところまで付き合ってくれた君たちに、特別に俺の名前の由来を教えてやろう」
「……? 由来…?」
「ですか?」
「うむ。ちなみにこれを自分から教えるのは、お前たちが初めてだ。尤も高町は自力で気付いたけどな」

まあ、あいつ地球出身だから気付くか。いくら語学系が苦手とはいえ。ちなみに八神は知らん。気付いてるかもしれないけど聞いたことないからな。
そんなわけで、キョトンとする二人相手に俺は滔々と語ってやった。
母さんが当時必死になって考えた、愛情あふれるらしいこの名前の由来について。





























2010年1月15日 投稿

2010年8月29日 改稿

2015年9月13日 再改稿

3人と見せかけて4人でお出かけでしたな回。
父親の出現タイミングをどうするか悩んでいたのですが、
やはり今後の展開的にこのあたりが妥当かと思い、こういう展開に。

…それにしても、長くなってしまいましたw


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