介入結果その十七 エリオ・モンディアルの理論武装
セイゴには、お気に入りのゲームタイトルがかなりある。
その中の一つに、なのはさんたちの出身世界である、第97管理外世界『地球』で発売されている、テイルズオブシリーズというものがあるらしい。
それは、主人公を操作して戦闘や謎解きをしたりしながら話を進めていくロールプレイングゲームというもので、設定に突っ込みどころの多い部分もあるのだけど、いろいろと考えさせられることの多いストーリーを扱っていて、物語がかなり興味深くて楽しいのだとか。
ついでに言うと戦闘の方も工夫が凝らされていて楽しいらしい。
デバイスもないのにドラゴン倒したりできるんだぜ、この主人公。すげーよなって、笑いながら言っていたこともある。
一回携帯ゲーム機でプレイしているのを見せてもらったこともあるんだけど、横スクロールで金髪の主人公が技名を叫んだりしながらデバイスの補助も受けずにいろんな剣技や魔法を使って戦っているのを見て、少しかっこいいなと思ったりもした。
それをセイゴに話したら、じゃあ今度ディスプレイと据え置きのゲーム機持ってくるから、やってみるか?と言われて、セイゴがゲーム機を持ってくるのが少し楽しみだったりするのも事実だ。
僕だって男の子で、ああいう主人公がカッコよく戦ったりして世界を救う物語を見るとわくわくする。
……そう、僕もわくわくするんだ。だから、朝練の後の朝食の席で、真剣な表情をしながら────
「魔神剣の練習でもしてみるか……」
とか言いだしたセイゴを相手にしても、僕は絶対に逃げたりはしない。
……うん、逃げたりはしないよ。ホント。……うん。
最近、なぜか俺が新人組の朝練にまで参加することになっている。なんでだろう。
……いや、別にいいのだけど。確かにセイス隊長のところにいたときより実戦の数が減ってきてるし、こういう訓練に参加することで感覚が鈍らないようにすることは大事なわけなので。
という理屈で高町に丸め込まれたんですけども。あの三対一の試合の後。本当のことだから言い返せなかったけどさー。
まあそれも別にいい。俺にとって得だって理屈が有るから、ティア嬢たちと戦うのも了承はしてる。
……ガシガシ実力つけてるこいつらにいつ追い抜かされるか戦々恐々もしてる。
今はまだ俺の方が実戦経験豊富だから抑え込めてるけど、そのうちマジで追い抜かされるよねこれ。
前は一年後にはとか言ったけど、この分だと三ヶ月後には……。
……と、そこまで考えてこの話はよそうと思った。俺の心がガードブレイクしかねない。
ちなみに、そんな感じで俺の自尊心を内側から崩そうとしている面々のうち数人は、現在シャワーを浴びてる最中なのだが、俺とエリ坊はさっさと上がって食堂で飯食ってる。流石に女子は風呂が長い。
で、エリ坊と適当に会話したりしながら朝食の席でぼんやりとくだらねーことについていろいろ考えてた。
いろいろ考えてたら、つい思ったことが口をついて出てしまった。
具体的には、テイルズのゲームの中での術技って今の俺が再現できるものが何個かありますよねああ魔神剣使いたいとかそんなどうでもいいことの延長線上にあるあれなんだが、その漏れ出した俺の妄想を聞いてたエリ坊の態度がやばい。
こいつにはPSPで出てるテイルズやってるの見られてるから技名のこととかも全部ばれてるし。
あ、うん、そうだねーとか言いながら物凄く目を泳がせてやがるエリ坊。やめて! そんな目で見ないで!
いや、気持ちはわかるけどさ。
でもそんなゲームと現実の区別のつかない駄目な人間を見る目はやめてください後生だから。
こう見えて俺も結構デリケートな人間なのである。なのに六課の中での貴重な癒し成分であるエリ坊にこんな態度を取られたら俺の胃袋がストレスでマッハだ。胃潰瘍さんこんにちは。
それは何とか回避したい。だからここはそれっぽいこと言ってごまかす系の努力を始めよう。
「エリ坊、お前が俺にある意味恐れをなしかけているのはわかる。いまの発言はかめはめ波の練習を毎日欠かすことなくし続けるたゆまぬ努力を惜しまない人間のみが許されるセリフレベルですしね」
「……かめはめ波? て言うかよくわかんないけど、許されるの?」
「だからこれは見苦しい言い訳になってしまうんだが聞いてほしい」
「……むしろ僕の話を聞いてよ」
落ち込むエリ坊。悪いとは思うけれどそんな余裕はない。今は俺の名誉回復が最優先。
で、
「もしお前に剣を持たせたら、襲爪雷斬が出来るようになると思わないか……?」
「………うん。それは否定できない」
すんごく気まずそうに、そして嫌そうに頷くエリ坊。
ちなみに襲爪雷斬とは、雷を纏わせた剣で上下に二度斬りつける技である。
まあこの程度のことなら魔導士なら頑張ればどうとでもなる。しかも困ったことに、他にも何個か再現できそうな技があるので、
「そう考えると自然と、俺もなんか使いたくなるじゃんか」
「それで、魔神剣?」
「うん」
軽くうなずいた。エリ坊が目を伏せた。
「……セイゴ」
「……はい」
「強く生きてね」
「ちょっと隊舎の屋上から飛び降りてくる」
「わあああああ待った待った待ったごめんなさい冗談ですっ!」
羞恥と絶望に打ちひしがれて席を立とうとしたらエリ坊に邪魔された。とりあえず止めてくれてありがとう。さすが純粋な少年。これが八神相手だったら笑っていってらっしゃいとか言われるんだろうね。
とかそんな感じでエリ坊とじゃれてるうちに他の連中もトレイの上に飯のっけて一緒に机に近づいてきたので、とりあえず口止めして会話を切り上げる。こんな俺の汚点を六課に広めてなるものか。
幸い心優しいエリ坊は何の話してたのとキャロ嬢とかに聞かれてもなんでもないよと曖昧な笑顔で誤魔化してくれた。マジでありがとう。感謝。
ちなみに、その日のうちに親父に郵送頼んでたPS2と液晶モニタがエリ坊の部屋に届いたので、早速セッティングしてプレイさせてみた。
ソフトのタイトルはテイルズオブジアビス。とある貴族様の家に生まれたルークという少年が、生まれた意味を知る旅に出るRPGである。
なんでこれかと言いますと、これしか一緒に郵送されてこなかったから。親父に通信で聞いたら、これ以外はどこにあるか分からなかったそうな。
ところで本当に俺の私物だらけになってきてるエリ坊の部屋。もうマジでこのまま住んでもいい気がしてきた。……日和やすいなー、俺。
それから三日後のことになる。
あれから毎晩暇を見つけては液晶モニタの前でPS2のコントローラーをカチカチやっているエリ坊を目撃していたので、そろそろ髭男爵が主人公の出生の秘密について明かした頃かなーとか思いながら仕事の関係上あいつより二時間近く遅れて帰宅するとエリ坊が液晶画面の前で泣いてた。
なに、そんなにあの髭達磨の所業が腹に据えかねたっていうか主人公の境遇が可哀想になったんですかとか思いながら泣いてるエリ坊に歩み寄って頭を撫でつつ「どうした」と聞くと、この子いきなり自分の昔の境遇について語りだした。
俺にはなんだかよくわからんのだが、この子誰かのクローンなんだそうだ。
で、昔は研究施設に監禁されて実験対象として辛い生活を送っていたそうで、同じようにお屋敷に七年間監禁のような生活を送っていた主人公相手に、自分よりはマシな境遇であるとはいえ少しだけ感情移入していたそうなんだが、生まれた理由まで同じような感じだったことが明かされたせいで感情移入しすぎて信頼していた人に裏切られた主人公が可哀想で涙が堪えきれなかったそうだ。
俺は、こいつも結構波乱万丈な人生送ってるんだなーとか思いつつとりあえずポケットに入れてあったハンカチで涙でグシャグシャになった顔を拭いてから正面から抱き締めて抱っこしてあやしてみた。
子供扱いしないでよとか頬を膨らませて言ってたけど気にしない。泣いてる子供はこうやって落ち着かせるのが一番だ。
そんなこんなでグダグダやってるうちに、
「……セイゴ、こんな話聞かされたのに驚かないね」
とか言ってきたので、こういう話には結構耐性あるからなーと笑いながら言ってみる。
なにせ親父と和解してからこっち、散々っぱら家でそういう理不尽な境遇で生まれたり生かされたり殺された連中の話を聞かされてきてたから。
病院にはそういう人たちが集まりやすい。まして親父は有名な医者だ。そういう相談を受けることも多い。
そしてそのことについての意見を俺に聞くことも少なくなかった。だからこういう話は慣れていた。
大体俺からすれば、そのオリジナルの子のことなんて知らないのだ。だから、俺にとってのエリオ・モンディアルはお前だけで、そっちのエリオとは別もんだろ?
そう説明したら、エリ坊は少し悩むように口を閉じてから聞いてきた。
「ねえ、セイゴ」
「ん、どした」
「セイゴにとって、僕ってどんな存在?」
「んー、かわいい弟分?」
「ホントに?」
「嘘ついてどうすんだよ。つーかなに、もしかしてあんな話聞かされたからって俺が態度変えるとか思ってんの? だとしたら甘いぜ。俺から拒否されたかったら高町でも持ってこいってんだ」
「……なのはさんに言っていい?」
「あ、ちょっと待ってごめんなさい。ホントやめて後が怖いごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「あはは、嘘だよセイゴ」
「……マジで心臓に悪いからやめてくれ」
「セイゴが悪いんじゃないか」
「ですよね」
とかそんな感じでグダグダ喋っていたら、そのうち疲れたのかいつのまにかエリ坊が寝こけてしまったので、苦笑しつつベッドに運んでやる。
エリ坊を寝かしつけてから、フェイトさんに連絡を入れた。
こういうことを聞かされたんですけど、ご存知でしたかって?
返答は、はい。
俺は厳しい表情を浮かべているフェイトさん相手にそうですかと呟いて、
「ま、それでもあいつはかわいい弟分だから、ご安心を」
小さく笑ってそう言って、通話を切った。
それからベッドの上で小さな寝息を立てているエリ坊の頭を撫でて呟いた。
「いろいろあるよなあ、人生ってさ」
エリ坊が小さく頷いた気がしたけど、俺は気にせず頭を撫で続けた。
次の日、エリ坊に呼び出されて待ち合わせ場所に行くと、キャロ嬢やティア嬢、それにスバ公とロングアーチのアルトがいて、そいつら相手にエリ坊が出生の秘密を明かし始めた。
ついでにキャロ嬢も明かしてたけどな。こっちも結構へヴィ。才能を持ちすぎるってのも考えもんだよな。俺も変な部分で同じような経験あるからわかるけど。
そんな感じで、先日の俺の秘密に対するお返しとでも言わんばかりにいろいろと話しを聞かされた、そんな日でした。
2010年1月7日 投稿
2010年8月29日 改稿
2015年9月13日 再改稿
新人四人の休暇まであと一歩。です。