「俺のターン。思い出のブランコ発動。レッドアイズブラックドラゴンを1ターンのみ墓地から復活させ、魔法カード黒炎弾」
黒炎弾の効果によって相手ライフに2400のダメージを与える。
「更にレッドアイズブラックドラゴンをリリースし、レッドアイズダークネスドラゴンを召喚!」
「こ、攻撃力5400……!?」
「こっちの墓地のドラゴンの数を正確に把握してるお前にビックリ。レッドアイズダークネスドラゴンの攻撃で俺の勝ちー」
レッドアイズいいよレッドアイズ。向こうの世界でやってた一期から久しぶりに遊戯王やったら凄い変わっててビックリ。
いつの間にかレッドアイズのサポートカード増えてて俺大喜び。シンクロとか融合涙目過ぎる。
こっちの世界でも遊戯王は小学生に大人気でした。遊戯王すげー。
フェイトとの出会いから二日後。俺の魂のレッドアイズデッキでクラスメイトをフルボッコしつつ、なのはの席へと目を向ける。
なのはから電話で温泉のあらましを聞いた後、今日改めて相談ということになったのだが、肝心のなのはがまだ登校してきていない。
まぁ、どのみち俺がまだ念話使えないのと、周りの目があることもあって放課後までロクに話せないんだけども。
「くそっ、もう一回だっ」
「あいあいよー」
遊戯王はこの世界にもあったけどデュエルディスクはこの世界になかった。残念。一度あのノリでデュエルとかやりたかったんだけどなー。
スカさんあたりに頼んだら作ってもらえないだろうか。ふとフェイトとなのはがバリアジャケット姿でデュエルしてるところを想像してみた。
やべぇ、みてぇ。
などと、アホなことを考えてるうちになのはが登校していて、いつも通りアリサ、月村と話しこんでいた……のはいいんだが。
めちゃくちゃ落ち込んでますと、これ以上ないくらい顔に書いてあった。なのはと話している二人もそれに気づいていて、顔を曇らせている。
もうちょい、隠せよ、と言いたいが小学三年生には無理な注文か。早めにフォロー入れとかないといけないなぁ。
「疾風のゲイルを特殊召喚!」
「げっ、BF自重しろ」
余所見していたらBFにフルボッコされたでござる。
「あっ、ちょっとごめん」
いつものように三人でお弁当を食べてると、なのはの携帯からメールの着信を告げる音が鳴り響く。
「誰から?」
「えっと、ゆーとくんからだ。なんだろ?」
「アンタ、最近あいつと仲良いわよね。なんかあったの?」
「あー、えっと、まぁ、色々ありまして」
まさか魔法の関連の事件に関わることになったと説明するわけにもいかず、適当にお茶を濁すなのは。
だが、アリサとしては今のあからさまに落ち込んでいるのに何も話そうとしないことに加え、更に隠し事をされているようで非常に面白くない。
その不満を隠そうともせず、ぷくーっと頬を膨らませていた。
「アリサちゃん、ヤキモチ?」
「誰が誰によっ!?」
「うふふ、誰だろうね~?」
話題になった少年とアリサの間にちょっとした確執というか因縁があるのを承知の上での言葉である。
ムキーっと言い返すアリサと宥めるすずかにほんの少しだけ笑みを零したなのはは、飲み物を飲みながら少年からのメールを開き、
盛大に噴き出した。
「うわっ、きたなっ!?」
「な、なのはちゃんっ!?」
「け、けほっ、ごほっ」
突然、噴き出してむせるなのはの背中をさする二人。
こっそりとなのはの携帯を覗き見ればそこにはフォークを咥えた同い年くらいの金髪の女の子の姿があった。
「だ、大丈夫っ!?」
「いきなりどうしたのよ?」
なのはの背中をさすりながら、二人して顔を見合わせるアリサとすずか。この少女の何がなのはをここまで動揺させたのかさっぱり検討がつかない。
「ご、ごめん。ちょっとびっくりし……て?」
二人のおかげでなんとか落ち着いたなのはの目に、むせた原因となったメールの差出人である少年の姿が映る。
それはひとまず良しとしよう。だが、問題は少年が手にしていたものにあった。携帯電話。メールを送ったのが彼であるならば携帯を持っていることも当然。だが、その持ち方はメールを送ったというより、どう見えても携帯に備えられたカメラを使用した持ち方である。
カメラを手にした彼が何を撮ったのか。あまり嬉しくない想像がなのはの頭をよぎる。
そしてそれを証明するかのように少年はニヤリとしか表現のしようのない笑みを浮かべ、ゆっくりと背を向ける。
「アリサちゃん、すずかちゃん、ちょっとゴメンっ!!」
「ちょ、ちょっとなのはっ!?」
「なのはちゃんっ!?」
そそくさと食べかけのお弁当を片付け、慌てて少年の後を追いかけるなのは。残された二人はその後を追うことも出来ず、ただただ呆然とするばかりであった。
「もー、なのはもアイツも一体何なのよーっ!!」
「お、落ち着いて、アリサちゃん」
いつもの癇癪を起こすアリサを宥めるすずかだったが、不意にアリサが浮かべた表情にズサリと後ずさる。
「フッフッフ、こーなったらもう直接アイツをとっちめてやるわ。全部アイツが原因に違いないっ!そうに決まってるわっ!」
「ア、アリサちゃん?」
何やらヤバイ感じにテンションの上がってる親友にドン引きのすずかであった。
「ゆーとくんっ!!」
「廊下を走ってはいけません」
屋上から逃走して間もなく、ダッシュで駆け寄ってきた白い悪魔に補足された。
まぁ、こっちは普通に歩いてただけだから当然なのだけども。
「えっ、あうぅ。って、そうじゃなくてさっきの写真どういうことっ!?」
「いやぁ、狙ってはいたんだけどまさか、あそこまで上手くいくとは思わなかった。ほら、見て見て、虹出てる」
さっき激写したばかりのなのはが噴き出した決定的瞬間の写メを見せる。
我ながら絶妙のタイミングだった。せいぜいフェイトの写メにビックリして驚いた面白顔を撮ろうとしただけなのに、ここまでのネタに昇華させられるとは思わなかった。
「に、虹なんて出てないもんっ!っていうかなんでそんなの撮ってるのっ!」
「いや、面白そうだったからつい」
わたわたと顔を真っ赤にして、両手を振り上げるなのはに真顔で返す。
「つ、ついじゃないよっ。そんなの早く消してっ!」
「えー?せっかくこんなに綺麗に撮れたのに」
「綺麗とかそういう問題じゃないよっ!」
「おぉ、そろそろ昼休みも終わるね。戻らないと」
「まだ時間あるもんっ!」
「なに、レアカードをよこせ?なんというご無体。仕方ないなぁ、ほら」
ポケットから遊戯王カードを一枚取り出してなのはに渡す。
「そんなこと一言も言ってな……ってこれゴキボール!レアカードですらないじゃんっ!」
「なんと、俺の魂のカード、レッドアイズをよこせと?なんという白い悪魔。残酷を通り越して鬼畜だ」
「だからそんなこと言ってないってばーっ!」
そんなこんなでなのはさんで遊んでいるうちに昼休みは終了しました。
結局、なのはの写メは削除させられてしまったが、事前に家のPCに送信済みでバックアップはバッチリだ。
昼休みが終わった後も終始なのはに睨まれたけど、少しは元気が出たみたいだしオールオッケーだろう。多分。
「ちょっと付き合ってくれない?」
放課後になった途端、金髪幼女に呼び出しを食らう。
なんだか知らんけどめっちゃ不機嫌っぽい。一体俺が何をしたというんだろう?
「ごめん、俺ちょっと小学生は恋愛対象として見れないんだけど……」
「何の話をしてるかーっ!?」
胸倉を掴まれて揺さぶられた。なんという理不尽。
「なのはっ!」
「は、はいっ!?」
アリサ同様、俺に詰め寄ろうとしていたなのはの動きがピタリと止まる。
「ちょっとコレ借りてくわよ」
「え、あ、う、うん」
「え、何。俺、モノ扱い?」
「うるさい」
思いっきり睨まれた。
『なんだかよくわかんないけど、後でフェイトちゃんのこと、ちゃんと話してよ?』
アリサのあんまりな剣幕にビビりながらも念話を飛ばしてくるなのはに、苦笑しながら頷いて手を振る。
「じゃ、ちょっとこっち来なさい」
「ごめんね。アリサちゃん、どうしてもゆーとくんに聞きたいことがあるんだって」
「愛の告白ならあと八年後くらいだと嬉しいんだけど」
「するかっ!!」
そしてズルズルと引き摺られるままに屋上へ。相変わらずこの子は俺に対して容赦ないなぁ。
「で、一体あんた、なのはに何したのよ?」
「いきなり俺悪者認定?」
「ほら、最近のなのはちゃんってよくゆーとくんと一緒にいるでしょ?だからアリサちゃん妬いてるんだよ」
「なるほど。ツンデレ乙」
「納得するなーっ!誰がツンデレかっ!?そもそもあたしが誰に妬いてるっていうのよっ!?」
「誰にって、ねぇ?」
「ねぇ?」
月村と二人で顔を見合わせて頷く。
「むきーっ!」
俺と月村の反応にアリサがますますヒートアップ。
「そこはむきーっじゃなくってうるさいうるさいのほうがポイント高いと思うんだな」
「シャラップっ!あんたは余計なこと言わなくていいのっ!すずかもこいつに合わせない!」
「と言われましても」
「ホントのこと言ってるだけだもんねぇ?」
「ねぇ?」
「あぁ、もうっ、あんたら二人はいつもいつもーっ!!」
「はい、どーどー」
「落ち着いて深呼吸してー。はい、すーはー」
なにやら血圧がヤバイくらいに上がってそうなアリサを二人で宥める。そのうち血管切れるんじゃないだろうか。
毎度毎度、実にからかい甲斐のあるお子様である。
「はーはー、もう、アンタに付き合ってると日が暮れるわ。いいわ、もうさっさと本題に入るわよ」
「どうぞ、どうぞ」
「あんたとなのは。最近二人でいつも放課後何かコソコソしてるでしょ?おまけになのはったらこないだから妙に落ち込んでるのに、アンタのメール一つで元気になるし……」
最後のほうは何やら小声でボソボソと聞き取りづらかったが、アリサの言いたいことは大体理解できた。微妙に誤解されてるような気がしなくもないが。
「要約するとなのはがいなくて寂しいからあたしも仲間に入れろ。んでもって落ち込んだなのはを励ます方法教えろってことでOK?」
「うん、大体そんな感じであってるかな」
「なななな、なんでそーなるのよっ!?」
「顔真っ赤にして言われても」
「説得力ないよねぇ?」
「ですよね」
「ぐぬぬぬぬっ」
アリサが今にも肉体言語で会話してきそうな件。怖い怖い。からかうのもほどほどにしておこう。
「まぁ、冗談はともかくとして」
「冗談っ!?」
「まーまー、落ち着いて」
月村が宥めていてくれる間にどう伝えたもんか考える。流石に俺から魔法のことをバラすわけにもいかんのだけど。
「ま、確かに今のなのははちょっと面倒なことになってるけどさ。大丈夫、そのうち全部綺麗にまるっと収まるから」
「……あんたは関係ないの?」
「無関係じゃないけどどっちかっていうと俺はサポーター。主体はなのはだねぇ」
「……」
そこで黙って睨まれても困るのだけども。
「そんな心配しなくても大丈夫だって。時間が経てばあいつもちゃんと話してくれるから」
「そんなのあんたに言われなくてもわかってるわよ……っ」
「でも、今なのはが困ってるのにあいつが何も話そうとしないのがムカつく?そんなあいつを助けられない自分が悔しい?」
「……っ」
アリサの顔が悔しそうに歪み、月村が反射的にその手を押さえるように掴む。
「そうよっ!アンタの言うとおりよっ!悪いっ!?」
「んにゃ、全然。それでいいと思うよ。むしろ羨ましいくらい。おまえらみたいな親友がいるあいつがね」
俺も友達くらいはいるけど親友と呼べるような間柄の奴はいない。それなりに小学生をやってはいるが、やっぱり性格的にクラスから時々浮いてる時もあるくらいだ。
だからこの子らみたいに親友といえる存在がいるのは素直に羨ましいと思う。
まぁ、前の世界でも恋人はいたけど親友はいなかったから、元々の性格に問題があるんだろうな、うん。
「ま、俺が今回、事情を知ってるのも、フォローできるような立場にいるのはホントただの偶然だし。そんなに嫉妬しなくても平気だよ」
「……あたしたちにできることはないの?」
「んー、いつもどおりにしてればいんじゃね?いつも通り話して喧嘩して。多分それがなのはにとって一番良いことだと思う」
我ながらありきたりの言葉過ぎて、何のフォローにもなってない気がしてきた。どうしよう。
「ふぅん。それともあいつのこと信じられない?あいつ一人じゃ自分の悩み一つ解決できないとでも?」
「……あー、もうっ!わかったわよ!なのはのこと信じて待ってればいいんでしょっ!」
「おー、ぱちぱち」
「アリサちゃん、えらいっ」
月村と二人で拍手で祝う。
「あんたら二人、絶対私のことバカにしてるでしょ?」
「そんなことないよ、ねぇ」
「ねぇ」
月村の言葉に同意するように頷いておく。
「はぁ、もういいわよ。た・だ・し」
俺たち二人が頷く様に諦観したようにため息をついたアリサはびしぃっと俺に指を突きつける。
「今回の件に関してはあんたに任せるっ!しっかりやりなさいよっ!」
「イエッサー、承りましたですー」
アリサお嬢様の命令に敬礼で持って応える。
「うん、よろしい」
俺の敬礼にアリサは腕組みして満足そうに頷き、月村はホッとしたようにため息をつく。
「私たちにできることがあったら教えてね。いつでも手伝うから」
「じゃ、十年後結婚してくれ」
「あはは、十年後に考えてみるよ」
あっさりと流された。やはり月村は他の二人に比べて手強い。
「さて、んじゃ、俺はもう行くよ」
「なのはちゃんのこと、よろしくね」
「あいよ」
月村の声に片手を上げて答えながら背を向ける。
ちびっこの信頼を裏切らないよう、できるかぎりのことはしようと改めて思う。
なんだかんだで、小さい子にはいつも笑って欲しいと思うのだ。
柄にもない保護者気分全開のまま、なのはの元へと向かう。
さてさて、なのちゃんにはどーやってフェイトのこと説明しましょうかねぇ。
「あ、ゆーとくん!」
なのはと待ち合わせた公園に着くと、俺のことを見つけたなのはがすぐさま駆け寄ってくる。
先に合流したらしいユーノもその肩に乗っかっていた。
「アリサちゃん達の話って何だったの?」
俺を呼び出した時のアリサの剣幕がアレだったのでずっと心配してくれていたようだ。さっきまで俺に対してプンスカ怒ってたのに。切り替えが早いと言うか心配性というか。
「おまえのことをよろしくってさ。あと、困ったことがあったら何時でも力になるからって伝言」
「え?」
「二人ともおまえが落ち込んでるの気にしてたんだよ。今日のなのは、ずっと落ち込みモードだったからなぁ」
「わ、わたし、そんなに落ち込んでるように見えた?」
自覚症状はなかったらしい。
「誰がどう見ても。なぁ、ユーノ?」
「うん。流石にあれはバレバレ、かな」
「うぅ……ごめんなさい」
別に責めてるわけじゃないんだから、そんなにかしこまらくてもいいのに。
「はいはーい。謝るくらいならさっさと元気だしましょーねー」
「ふぁふぁにっ!?」
シュンと落ち込むなのはの頬をむにむにと掴みながら引っ張る。
「おー、よく伸びる伸びる」
「ひひゃいひひゃいひやひいふぉー」
じたばた暴れ出したので仕方なく指を離す。
「うぅー、ゆーとくんがいじめるー」
うっすらと涙を浮かべながらほっぺを抑えるなのはに睨まれるがそこは大人の余裕でさらりと受け流す。
「子供同士の微笑ましいコミュニケーションです。なぁ、ユーノ?」
「あ、あははは……どっちかっていうと好きな子にちょっかい出すいじめっ子のような」
「ふえ?」
「はっはっは、ねーよ」
ユーノの発言に目を丸くするなのはに苦笑せざるを得ない。
冗談にいちいち反応せんでもと思ったけど、スルー技能を習得されると俺がつまらなくなってしまうので口に出さない。
「ま、それはさておき落ち込んでるなのはにご褒美です」
「あぁ、フェイトちゃんっ!?」
俺が見せた携帯のディスプレイを見たなのはの目が驚きに見開かれる。ディスプレイにはパフェを目の前にして緊張した面持ちを浮かべるフェイトの姿。
「そうだよっ、さっきからずっと聞こうと思ってたけどなんでゆーとくんがフェイトちゃんの写メ持ってるのっ!?いつっ!?なんでっ!?どーしてっ!?」
「お、おおおっ?」
物凄い剣幕で肩を揺さ振られる。肩を掴むなのはの力が思いのほか強くてビックリ。これが火事場の馬鹿力かっ。
「な、なのは、落ち着いてっ!」
「あ、ご、ごめん」
イイ感じに脳を揺さぶられてる俺を見かねたユーノの制止に、ようやくなのはから開放される。
できればもっと早く止めて欲しかった。
「うぅ、気持ちわりぃ」
「え、えと、それでなんでゆーとくんがフェイトちゃんと?」
取り繕うように声を上げるなのはに何か言おうとも思ったが、これ以上引っ張るのも可愛そうなので素直に本題に入るとしよう。
「実はかくかくしかじかこういうわけで」
「わかんないからっ!」
ですよね。
「えーと、なのは達が温泉に行ってる間にジュエルシードめっけたら、あの子に会って」
「え、ジュエルシード見つけてたのっ?」
驚きの声を上げるフェレットの質問に頷き、
「うん。で、渡してって言われたからそのまま渡しちゃった。てへ」
「てへ、じゃないよっ!」
「うん。正直、自分でもキモイと思った。もうやんない」
「「そっちじゃないからっ」」
ダブルで突っ込まれた。二人揃って息ぴったりですね。
「で、まぁ、お腹空いたから一緒にご飯食べに行っただけ」
「え、それだけ?」
「それだけ」
一部やりとりを省略しているが、嘘は言っていない。
ポカンと呆気にとられていたなのはだが、やがてその体がブルブルと震え出す。
「ずるい、ずるい!なんで私のときは話も聞いてくれなかったのにゆーとくんとは一緒にご飯まで食べるのっ!?いつの間に仲良くなってるのっ!?」
そんな風に手をぶんぶん振って抗議されても困る。フェイトがなのはの話を聞かなかったのに俺は関係ないぞ。
そもそもご飯食べただけでまともな会話らしい会話もしてないし、仲良くなったわけでもないのだがそこは黙っていよう。
借金のことは間違っても口に出せない。
「えーと、ほら。なんていうか、これが恋?」
「変だよっ!」
「なのはの突っ込みレベルが上がった。おめでとう」
「絶対、君のせいだよね」
「いや、そんなに褒められると……」
「褒めてないから」
「はっはっは」
このフェレットもどきも段々遠慮無くなってきたよね。よきかな、よきかな。
「うぅ、ゆーとくんばっかりずーるーいー!」
「さらにフェイトがジュエルシード集めてる理由も知ってるぜ。フハハ、うらやましかろう?」
「ううーっ」
ぷくーっと、河豚のように頬を膨らまるなのはにニヤニヤせざるをえない。
大分元気が出てきたみたいだけど、根本的な解決はしていない。もうちょっとだけ背中を押してやるとしよう。
「で、どうする?俺からフェイトの事情聞く?それとも本人から聞く?そもそもなのははフェイトをどうしたい?」
まぁ、聞かれても教える気はないのだけども。俺から聞いたところでフェイトとの関係が前進するわけでもない。
原作どおり、なのは自身の想いと言葉をフェイトにぶつけないと意味はないのだから。
「私は……私がしたいことは……」
俺の問いになのは目を閉じ、自分の胸に手を当てて考え込む。そしてほどなくゆっくりとその瞳が開かれる。
その瞳には先ほどまでとはまるで別人のような、確固たる意思と決意が刻まれていた。
「私は……あの子を知りたい。ちゃんと言葉を伝えて、あの子と話をしたい」
「うん」
なのはの期待通りというか予想通りの言葉に俺は満足げに頷く。九歳のくせに俺なんかよりよっぽど芯が強いよ、本当。
「なら、なのはのやり方で思うとおりにやればいいよ。言葉をぶつけて、それでも足りなければ拳でも魔法でもなんでもいいさ」
「え、と、さすがに拳はちょっと……」
「はっはっは。愚か者めっ!世の中にはぶつかることで深く結びつく友情なんて腐るほどあるっ!」
「えぇぇ」
「って、そもそもアリサと仲良くなったのって拳で語り合ったからじゃなかったっけ?」
ふと思い出したけど、確かなのはがアリサと月村と一緒にいるようになったのはそれからだったような気がする。
「あ、あー、そ、そういえばそんなこともあったかなぁ。あ、あははは。ってなんでゆーとくんがそれ知ってるのっ!?」
「や、屋上から下を見てたらたまたま目撃して。いやぁ、まさかタイミングよく見れるとは思ってなかった」
よく考えたらあの頃から拳で語り合って仲良くなるお話の片鱗はあったのか。原作エピソードを目撃したことに興奮しててナチュラルにスルーしてた。
「あぁ、そういえばアリサと取っ組み合いしてる写メも残ってるぞ?距離あったからちょっと写り悪いけど」
「わー!わー!わー!見せなくていいからっ!!」
携帯を取り出そうとしたら必死ななのはに取り押さえられた。今さら隠さなくても。
「そーかー。んでフェイトとも拳で語り合った末に仲良くなるんですね。なんという悪魔的お話」
「うぅ、べ、別に好きでそうなってるわけじゃないもん……」
本能で実行してるわけですね。さすが戦闘民族。敵じゃなくて良かった。
と、これ以上いじめたら立ち直れなくなりそうなのでこの辺りでやめておこう。
「冗談はともかく大丈夫。なのはのやり方で思ったとおりにやればいいよ。なのはの想いは絶対にフェイトに届くから。俺が保障する」
「……本当にそう思う?」
不安そうに見上げるなのはにはっきりと頷く。
「もちろん。俺だって一緒にご飯食べるくらいはできたんだから。自信持ってやればいい。な」
「……うん。私やってみる!」
俺の言葉になのはは力強く頷く。
そう、こいつのどこまでも素直な言葉と想いは必ずフェイトに届き、確かな絆を結ぶ。
俺はその未来を知っているのだから。
「んじゃま、お話をする前に撃墜されないよう、対フェイト戦対策の秘策を授けてしんぜよう」
「はい、よろしくお願いします!」
「……なんで勇斗がそんなことできるの?」
勢いよく敬礼するなのはと対照的にユーノは訝しげな視線を向けてくる。空気嫁。
「ふぅん、愚問だな。フェイトのバリアジャケットを見ればスピードを優先し、防御を犠牲にした紙装甲だってのは一目でわかる。今までの話を聞けばフェイトのバトルスタイルや弱点ぐらい容易に想像がつくさ」
「そ、そういうものなの?魔法の知識すらないのに……凄い洞察力だね」
「へぇー、ゆーとくん凄い……って、なんで目を逸らすの?」
「いや、別に」
本当のところはそんなの見てわかるはずもなくて、初めから予備知識として知っていただけである。
そんな俺に向けられるなのはの尊敬の眼差しが眩し過ぎてちょこっとだけ良心の呵責があったりなんかして直視できなかったわけで。
……今後はもうちょい自重しよう。
で、そっから先はレイジングハートの意見を交えながら小説の受け入りでフェイト攻略法と、今後のなのはの訓練メニューを相談したり。
「で、順調に前に俺が言ったとおりのハッピートリガーな砲撃魔法少女への道を歩んでるわけだが、世間一般の魔法少女なイメージとどんどんかけ離れていく感想はどう?」
「……お願いだから聞かないで」
そのままフフフと暗い笑みで自嘲されては、流石の俺も突っ込めない。
誰にも指摘されなかっただけで実は結構気にしてたのかもしれないなぁ。
今日はなのはの塾があるので、今後の指針となのはの訓練メニューを決めたところでお開きとなる。
なのはは帰宅後に塾へ。その必要がない俺とユーノは各自でジュエルシード探索となる。
「じゃ、また明日なー」
「あ、ゆーとくん!」
「んにゃ?」
いつも通り手を上げて背を向けたところで呼び止められた。
「なんじゃい?」
「え、と、その、ありがとう。色々と」
何を、と首を傾げる俺に構わず、なのはは言葉を続ける。
「ゆーとくんのおかげで色々なことに答えが見えた気がする。ゆーとくんがいなかったら、私ずっとうじうじしてたと思う」
まぁ、俺がいなくても君は自分で答え出せたんだけどね。
俺がしたのはその答えが出るまでの過程をちょっと変えただけで大したことはしていない。
「ま、細かいことは気にすんな。俺ができることなんてこんなアドバイスぐらいしかないんだしな」
そう、俺に出来るのはこの程度。例えこの先に起きる出来事を知っていても、できる事など高が知れているのだ。
フェイトがプレシアに虐待されているのを知っていても、なのはとフェイトが戦う時も、時の庭園の決戦時にもただ指を咥えて見てることしかできない。
自分から首突っ込んでおきながらやってることがしょぼすぎて泣けるね、こんちくしょう!
「そんなことないよ」
密かに自嘲する俺の内心を知ってか知らずか、なのははニッコリと微笑む。
「ユーノくんやゆーとくんがいてくれるから私も頑張れる。三人一緒だからここまでやれたんだよ」
俺みたいな口先だけの言葉と違い、なのはのそれは本心からの言葉。
自分より小さな女の子に励まされてどーするよ俺。
「なのはが恥ずかしいセリフを真顔で言ってるのだが、ユーノはどう思う?」
「えっ、ぼ、僕に振るの?」
「えと、ゆーとくん、もしかしてる照れてる?」
「いや、それはない」
慌てるユーノを気にも止めずに、なのはは嬉しそうな笑みを浮かべるが、残念ながらまったく俺は照れてないのできっぱり否定しておいた。
ちょっとだけもっと頑張ろうと思っただけだ。
「うー。ちょっとぐらい照れてくれてもいいのに」
俺の顔を覗き込んだなのはは、実際に俺が照れた様子を微塵も見せてないことがとても不満そうだった。
「ふぅん。俺に対して優位に立とうなど十年早いわ」
「ぶー」
そんなこんなでなのはがあっさりと笑顔を取り戻してから数日後。
「またもやジュエルシード発見。俺ってロストロギア探索の才能あるかもしれん」
ただの運ですね、はい。
見つけたジュエルシードをポケットにしまいながら、なのはと連絡を取るべく携帯を取り出す。
まだ発動の予兆はなかったが、早めになのはに封印してもらわないと安心できない。
なのは・ユーノ組とはあらかじめ捜索範囲を分けて別々に行動していたが、二人ともそう遠くない距離にいるはずだ。
『もしもし?』
「あ、俺だけ……どっ!?」
突如として感じた魔力に息を呑む。ここら一体に広がるように魔力流が発生したのだ。
電話の向こうでも同じように息を呑む気配が伝わってくる。
『ゆーとくん、これってっ!』
なのはの切羽詰った声に、嫌な予感を膨らませながら首肯する。
「あー、フェイトとアルフだな。これ」
あの二人も近くに来ていたのか。アレ?この展開って記憶にあるような?
と思ったそばからポケットに入れたジュエルシードがヤバげな光を発していることに気付く。
「ヤ、ヤバッ……!」
慌ててポケットに手を突っ込んでジュエルシードを取り出すが、すでにそれは辺りを覆いつくさんばかりの輝きを放っていた。
ジュエルシードを放り出そうとするが、その行動に移る前に体の感覚が消失する。
『ゆーとくん!?どうした……!……!』
電話の向こうから聞こえるなのはの声が遠ざかる中、ディバインバスターでフルボッコにされる自分の姿が脳裏によぎっていく。
イ、イヤ過ぎる……!
こんな展開聞いてねーよ!そもそもジュエルシードの暴走に巻き込まれて救出されるってまるっきしヒロインの役割じゃねーかっ!!
俺、男だよッ!ヒロインじゃねーよっ!オリ主ならオリ主らしく格好良くヒロインを助ける役割やらせろよっ、ドチクショー!!
そんな思いを声に出すことも叶わず、俺は意識を手放した。
■PREVIEW NEXT EPISODE■
思い悩み、戦い続ける少女を見守ることしかできない勇斗。
未来を知りつつも、少年にできることはあまりにも少ない。
少女の力になりたい。
皮肉にもその想いが新たな混乱をもたらすのであった。
ユーノ『黒いドラゴン』