俺は今数十人の人間に囲まれている。囲んでいる者達は全員思い思いの武器を構え、俺をきつくにらみ据えてくる。
「こぉぉぉ・・・・」
俺は空手の息吹法をまね、気合いを入れて構える。スッと右手を前に突き出し、指先でクイクイと合図してやる。
「ぜいっ!!」「ふんっ!!」「はぁっ!!」「うりゃっ!!」
瞬間、囲んでいた者達から4名が飛び出し、四方からエモノを振り下ろしてくる。
それら刃の腹を手で払い、背後から向かってきた者の手首を掴み、正面から向かってきた者へと叩き付ける。
その後即座に一歩後退。左右から向かってきた者達の第二撃が眼前を通り過ぎる。
さらにしゃがみ込んで背後からの横払い、おそらく槍や戦斧の類だろう、を回避する。
そのまま回転して足払い。宙に浮いた相手へと追撃の蹴りを放とうとするが、さらにその後ろにいた者と目があったため跳躍回避。
少々高く跳び周囲を見回そうとしたところ、飛ぶ斬撃が四方八方から飛んでくる。
うっとうしいので先ほどのように腹を払い、斬撃同士を衝突させたり、囲んでいる連中へと打ち返してやる。
数秒の滞空を終え、着地しようとしたところを前後から挟み打つように刃が振り抜かれた。
眼前から攻撃した者はおそらく驚愕の表情を浮かべているだろう。背後から仕掛けてきた者同様に。
何せ目の前にいた俺が消えたのだから。俺の現在地は眼前から仕掛けてきた者の刀の上、そこに片手倒立をして居る。
未だ俺のことに気付かず、無防備な後頭部を曝している者に向けて強かな一撃をくれてやる。
「い、一体今何を・・・・?」
「ああ、別に大したことじゃないですよ。逃げ場がなかったんでね、跳び箱の要領で刀の上に体を持ち上げ、そのまま運んで貰っただけです」
後ろから仕掛けてきた者も俺がどう動いたの解らなかったらしく、しょうがないので解説してやる。
「運が良かったですね?たまたまあなたの刀がこの人の刀の下をくぐって。でなければ倒れているのはあなたでしたよ」
後ろから仕掛けてきた者が俺の言葉に青ざめる。
「さて、続きです。どっからでもかかってきてください」
閑話:ある小隊の風景
「お疲れ様でしたー」
返事はない、ただの屍達のようだ。
「か・・・、勝手に殺すな・・・・・」
「おや、まだ意識がありましたか、スモーカーさん」
目の前で立ち上がろうとしているのは、ボロぞうきんの内の一人と化したスモーカーさん。
「おま・・・・気絶するほど続けさせるんじゃねえよ・・・・・あいててててて」
立ち上がるのを諦めたのか、スモーカーさんはその場で胡座をかいた。
「半分は“一筆入魂”の反動でしょうに。ま、スモーカーさんは能力強化だけでしたから反動も少ないでしょ」
ここはシャボンディ諸島の修練所。さっきまで俺が戦っていたのはスモーカーさんの部下達。
スモーカーさんの部隊に配属された俺は、約束通りこの部隊を徹底的に鍛え上げている最中なのだ。
以前のようにキャラ憑依させて戦闘経験を蓄積、加えて俺の組み手の相手にも最適と一石二鳥。
もっとも、全力で憑依合体させようモンなら未だに数分が限度。故にある程度抑えめにかけるよう心がける必要がある。
組み手相手の俺も、能力なんぞ使ったらあっという間に決着してしまうので使えない。
同様の理由で六式も使用できず。なお、武器は未だに使用禁止中です。
「でもまあ全員強くなりましたね」
「そうか?未だにお前に一撃たりとも入れられてないんだが・・・・・」
「気付いてませんか?徐々に能力をかけるの強めていってるんですよ」
「あー、道理で日に日に疲れるようになるわけだ」
「それに俺の能力に振り回されるんじゃ無くって、自分で動けるようになってきてますしね」
俺がここに配属されて早一月。余所から戦闘経験持ってきている海兵達は、日に日に実力を増していっている。
技量は言うに及ばず、体力、判断力、それらを使っての応用力。
こっちも攻撃貰わないようにするのが精一杯になってきたしな。反射的に致死レベルの攻撃を放つのを我慢してるのは秘密だ。
「それはそうと、そろそろコイツら治療してやってくれないか」
「そうですね、転がしとくのも何ですし」
「それで、お前は今何してるんだ?」
「んー?体から出した墨に攻撃力を持たせるバリエーションを訓練中」
治療と運搬を終え、あぐらをかいた俺は、手の平の上で墨の球体を維持しながら答える。
「墨ってただの液体だろ?文字として使わないと攻撃力なんて皆無だろ」
「そうでもないですよ」
左手を振って流刃を飛ばしてみせる。
「要はこんな感じです。でも、今のは腕の勢いで刃状になっただけです。体を動かさないで同様のことが出来るようになりたいんですよ」
文字を使えば早いけど、そればっかりに頼らずに自力も上げないとね。
「・・・・そこまで必要なのか?」
「強さに十分なんてモノはありませんよ。まだ死にたくはありませんからねー」
「感心な事だ。所で話は戻すが、その手の平の上のは何だ?」
「これですか?まだ未完成なんですけどね。でも名前はあります、螺旋丸って言うんですよ」
ナルトが苦労するはずだよ。制御が難しすぎて成功しないんだよね。今んところ一定方向に高速回転させるのが精一杯。
「俺にはただの球体に見えるんだがな」
「まあ見た目はねえ。うーん、これならそれほど危険じゃないから・・・・・パス」
「うおっ!!」
俺が放り投げた螺旋丸(未完成)をつい手を伸ばしてしまうスモーカーさん。
が、手と球が接触した瞬間思い切り腕がはじけ飛び、華麗にトリプルアクセルを決めて頭から着地する。
「あー、大丈夫ですか?大丈夫じゃない?そうですか、すいません」
地面に仰向けに倒れ、問いかけに対しブロックサインで答えてくるスモーカーさん。
声も出ないほど痛かったんですか・・・・
「あー、痛ってえな。何しやがる」
「あたっ!!」
再度“回復”をかけたスモーカーさんは俺の頭に拳骨を落とす。
威力を過小評価して余計なダメージを与えてしまった為、俺は大人しく拳骨を受けた。
じいちゃんの拳骨で慣れてるから、大して効かないしね。
「それで、あれはどういう技になるんだ?さっき食らって高速で回転しているのは解かったんだが」
「まあ墨を高速回転させる技であることに変わりはありませんよ。ただ完成版は乱回転してますけど」
「乱回転?」
「ただ回転させるだけじゃあ回転の当たる場所によって、どんな風に弾け飛ぶか解りませんからね」
墨である以上オリジナルと違って圧縮とかできないけど、質量がある分ちょっとした渦潮になったんだよね。
正式に名付けるなら水遁・黒色螺旋丸ってところかな?
この世界じゃオリジナル知ってるのは俺だけだから、黒色もなにも無いんだけどさ。
「いまいちどんな技か解らんな。見てみたいから完成したら教えてくれ」
「別に完成版見せるんなら今すぐ出来ますけど?」
「は?完成してるんだったら何で今訓練してるんだ?」
「完成したのは文字あり版ですよ。今やってるのは純粋な制御訓練です」
そう、さっきから螺旋丸の訓練には文字を使用していない。文字ありだと無しの時の数倍疲れるんだよね。
もっとも、無しの時は集中しなけりゃいけないことを考えると、今のところありの時の方が使い勝手いいんだけど。
「今の能力の使い方じゃ武器の消費も馬鹿になりませんからね。制御上手くなって1分ぐらいは使えるようにならないと」
「能力者っていうのも大変だな」
「いえ、たぶん武器のこと考えなきゃいけないのは俺ぐらいのモンです。
あと、武器を使うのは破壊力を上げるためじゃなくって、自分にダメージが来ないようにするためです。
それに武器を使うと戦闘スタイルのバリエーションが増えるんですよ」
刀一つ取ってみても、斬魄刀各種、名刀、妖刀その他諸々。科学技術・魔法要素を盛り込めば更に増える。
「っと、話が逸れましたね。これが“螺旋丸”です」
「さっきと変わらんように見えるが?」
「いえいえ、さっきと比べて破壊力は段違いですよ」
そう言って修練場に置かれた鎧に打ち付ける。
“螺旋丸”と胴体部分が接触した瞬間球体がほどけるように流れを変え、胴体を複雑な軌道を描きながら駆けめぐり、削る。
いや、削るではなく『抉る』が正解か。
胴体は跡形もなく砕け、墨が駆けめぐった四肢はズタズタに引き裂かれている。
・・・・思うに、金属製の鎧に打ち込んだためこの程度で済んだのだろうが、水分の多い人間等に打ち込んだ場合、
磨り潰された肉体によって更に肉体が磨り潰されるってことになりそうだな。
浮かんだ光景はミックスジュー・・・・止めよう。気持ち悪くなる・・・・・・
初めて当ててみたけど、一撃必殺過ぎて使えんじゃないか。
「未完成バージョンとはいえ、そんなモンを人に使うんじゃネエよ・・・・・」
「いやあすんません、物に当てるのは初めてだったモンで。でも墨だけでも結構いけるって解ったでしょ?」
「まあな、だがちゃんと加減しろよ?流石にそれは殺り過ぎだ」
何か知らんが俺が使える技ってオーバーキルなの多いな。自重しないとね・・・・・
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今回の一言
お久しぶりです。何とか生きてます・・・・・・。風邪ひいた後パッタリと意欲が無くなっちゃいました・・・・・・・
前作で力尽きたら嫌とか言いながらこの体たらく。ホント申し訳ないorz
年が明けたので心機一転して別の作品を書いてリハビリ。別の名前使ってチラ裏で浮気してます。
ちょっとやる気が出てきたので、1、2ヶ月に一本のペースで書いていこうと思います。
今後もお目汚しさせていただきます。