「皆の者!妾が国の禁を破ってまでこの者を呼び込んだのは、この者が世界屈指のまじない師であるからじゃ!!」
ハンコックさんが城のテラスから身を乗り出して演説してるけど、人を勝手にまじない師にしないで欲しいね。
まあ、魔法みたいって自分でも思うような能力だけどさ。
「この者のチカラによって、妾達は忌まわしきゴルゴンの目を消し去ることができた!!見よ!!」
バサァ、とマントを脱ぎ捨て背中を露わにするハンコック達。
一瞬目を背けようとする人もいたけど、全員ハンコック達の背中を見て目をハートにしてる。
「キャーーーー!!」「セクシーーーーー!!」「おお、ありがたや・・・・!!」
老若男女問わず凄い人気だな・・・・・・。でも、
「ハンコックお姉様・・・・・」「ハァハァ、蛇姫様のうなじ・・・・・・」「・・・・・・・・・ジュルリ」
この鼻血出してる連中大丈夫か?
むしろこの国大丈夫か?!
女の園だからある程度はいるかもとは思ってたけど、一角から放たれるピンク色のオーラが凄まじいぜ!!
おまけでその一角からは、俺に対して恐ろしいほどの殺気が向けられてきてるよ・・・・・
あの人達にとって俺は、お邪魔虫って事か。
一人で歩いてると消されそうだな・・・・・・
「みなのもの、今宵は宴じゃ!食料庫を空にしても構わん!存分に飲むが良い!!」
まあ、ハンコック達は浮かれてるせいか全く気づいて無いっぽいけど。
いやあ、背中の焼き印消えたのがよっぽど嬉しかったんだねえ。
でも、俺のことは無視ですか?そうですか・・・・・
寂しくなんか無いんだからね!!
第十三話:酒の勢いでつい語っちゃった
取り敢えずこれでハンコックは七武海に残るだろ。任務成功って事で帰るかな・・・・
そう思ってきびすを返し、歩き出したけど、
シュルルル
「ん?うおおぉぉぉぉぉぉーーーーーー?!!」
体に何か巻き付いたと思ったら、一気に天井近くまで持ち上げられる。
巻き付いたモノを目で追っていくと、人獣形態のソニアと目があった。
「こんなにもめでたいって言うのに、何処に行こうって言うのかしら?」
「いや、本来俺はハンコックに七武海残留をお願いしに来ただけだから、残ってくれそうだし帰ろうかなーって」
昔懐かし顔合わせみたいな感じになってたけど、一応お仕事で来てるから、早く報告に帰んなきゃいけないんだが。
「あら、私たちのお酒は飲めないって言うのかしら?」
そう言って自身の数倍はあろうかという樽を抱えてるマリー。
その台詞を言っていいのは酔っぱらいだけなんだけどねー。
「いや、でも七武海残留の報告が・・・・・」
「そんなモノ他の者に行かせればよい。それに宴のメインがおらねば盛り上がらんじゃろう?」
おおう、ハンコックもノリノリかよ・・・・・
このまま断るとタダじゃ済みそうにないねぇ。
「ハァ、解りましたよ。お手柔らかにお願いします」
「ふふ、まかせておけ」
ダメだ。目がやばい。
覚悟を決めて飲むしかないか。念のため“酒精分解”は用意しておくかね。
ドンチャン、ドンチャン
うーむ、女性って言っても戦士だねぇ。宴の様子が男顔負けだよ。
飲みっぷりまで男らしい。樽片手に一気とか人間じゃねえ。
さすがにこの世界だけのことはある。体の大きさと飲み食いした量が明らかにおかしい。
「どうしたのぉ~、キースゥ~?酒が減ってないわよぉ~」
「ソニアさん飲み過ぎですよ」
ベロンベロンに酔っぱらってるよ。美人が台無しだ・・・・・・
「だってぇ~、今日は今まで生きてきた中で一番嬉しい日だものぉ~。だからあなたも飲みなさ~い」
嬉しい、ね。
天翔る龍の蹄は人間以下の証明。これが消えて彼女たちは晴れて人間に戻れた、か。
ロズワード一家の奴隷の扱いを考えるに、彼女たちも似たような目にあったと考えた方が良いな。
っち、何であんなのをのさばらせておくんだか。
「浮かれるニョはわかるけどニョ、飲み過ぎじゃニョ、サンダーソニア」
おお?この独特な話し方は、
「おニュしがモンキー・D・キースニャね?始めましてじゃ、ワシはニョン婆と言うもニョじゃ」
「ああどうも、始めまして」
確か先々々代皇帝グロリオーサだったっけ?このちっこいばあさん。
「お主には礼を言わねばニャらんの。よくぞこの者達の呪いを解いてくれたニョ」
「呪い、ですか」
ソニアさんに目を向けると、安らかに眠っている。
大分飲んだみたいだし。
「うむ、呪い、じゃ。あれニョせいでこの者達はこの島におりニャがら、心は天竜人達にとらわれておる。
ワシは逃げ出してきたこの者達をこの島に連れて戻ってきたニョじゃが、毎夜夢ニョ中で攻められて飛び起きておった。
それは今も続いておる。あれが消えればきっと少しは落ち着くじゃろうて」
記憶は終始よみがえる、ってやつか。十年後であれなら今はもっと酷いって事になるか。
背中のことがあるから、この国にいても油断できなかっただろうしさ。
心の中に刻まれた深い傷。俺なら能力で直せるのかもしれんが、この傷は自力で直してもらわないとね。
いくら俺でも人の心の中にまで土足で上がり込むような事はしたくないからさ。
もっとも、彼女たちが望むのならば何とかしようとするけどね。出来るかは知らんが。
「湿っぽい話にニャったの。今宵は宴、お主も飲みニャされ」
すでに結構飲んでるんだけどねえ。ハンコックさん達に勧められてさ。
それに、周りにボア三姉妹の誰かがいるからそれほどでもないけど、隙を見て何人かが俺の所に酒を注ぎに来るし。
思いっきり上座に座らされてるから目立ってしょうがないよ。
男が珍しいもんだから、すっげえ注目されてるし。
「あの、お酒をお持ちしました」
また来たか。もう腹ん中タプタプだから飲みたくないんだが。
そう思って振り返ると、俺と同じくらいのちびっ子達。
あれ?どっかで見たことがあるような・・・・・
「いや、もう腹一杯だからさ。もうお酒はいいですよ」
ああそっか。ルフィ助けた娘達か・・・・
「その代わりと言っちゃ何ですが、話し相手になってくれませんか?ソニアさんも寝ちゃったし」
男に対して変な認識を与えないために、ちょっと話してみたかったんだが、
「ならば妾が話し相手になろう」
「へ、蛇姫様!!失礼しました!!」
ああ、行っちゃった。タイミング悪いよハンコックさん。
ああ・・・・やっぱ男の基準がルフィになるのか。世の男達、ゴメン。
「何じゃ、妾は邪魔じゃったか?」
「いえ、そんなことはないですよ!だからそんな顔しないで下さい!!」
落ち込んでも美人!と思ったけど、一角から殺気が・・・・・・
その後、無理矢理酒飲まされてたんだけど、今度は嫉妬オーラが飛んでくる。
俺にどないせーちゅうねん。
「のう、キースよ」
「ん?何ですかハンコックさん」
うーん、肌にほどよく朱が入って色っぽいねえ。
「お主は何故海軍などにおるのじゃ?お主のチカラならば危険な目に遭わずとも、大抵の事なら出来よう?」
ああ、その事か。
そういや今まで誰にも聞かれたこと無かったな。
「うーん、なんと言っていいですかねえ・・・・・・・。まあ、最初は自分の身の安全のため」
「身の安全?海軍なんぞ進んで危険に首を突っ込むような仕事ではないか?」
「そりゃそうだけどさ、俺は祖父のコネを使って事務にでもなろうと思ってたんだ。
あの頃はそれほど強くなかったからさ・・・・」
ドンパチするだけが海兵の仕事じゃないからね。
それでも、もし入隊するのにある程度の強さが必要な場合は、政府関係の仕事に就くつもりだったし。
「だけどさ、悪魔の実を食べて、能力を手に入れてからはそれなりに強くなった。だからさ、欲が出た」
本当は能力が戦闘でも使えるって知ってからだけどさ。
「欲、じゃと?」
「そ、欲。世界を隅々まで見てみたいっていう欲。好奇心って言う名の欲」
この世界には未知がある。元の世界ではほとんど無かった未知が。
海底の島『魚人島』、雲の上の島『空島』、恐竜がいる島『リトルガーデン』
加えて悪魔の実やダイヤルといったアイテム達。
それら全てを見たい、知りたい、触りたい!!
何より、世の中の真理とか、小難しい理論なんて言う限りのないモノじゃなく、
地図の空白という、限りがありながら、なお埋められていない未知。
地図の空白を埋める、心躍るモノ。その名を『冒険』
「誰も踏みしめたことのない、まっさらな新雪の様な地図の空白に俺の足跡を残したい。そう思ってしまったんだ」
ゴールド・ロジャーはグランドラインを一週しかしてないからね。行ったことがない所も当然あるはずだし。
まあ、記録に残る前に誰かが通ったかもしれないけど、所詮は自己満足。
俺の持ってる地図の空白が埋められればそれで良いのさ。
「まるで子供じゃの」
「子供ですから」
ま、中身はもうちょい年いってるけど、今は、ね・・・・・
「じゃが、それならばなおさら海軍などにおらぬ方が良いのではないか?冒険家にでもなれば良かろう?」
「まあ俺も初めはそう思ってましたよ。」
だから海兵にされそうになって必死に抵抗したんだけどさ。
「でも逆だったんですよ」
「逆とは?」
「海軍にいた方が得なんですよ。よく考えてみてください?冒険家なら船のクルー集めたり、物資なども自分で用意しなけりゃいけません。
海兵だったら仕事ですけど、同僚とはいえ海兵って護衛付きで世界が回れますからね。島の上で休暇だって取れますし」
新世界はともかく、前半の海なら全ての島のエターナルポースぐらいあるだろ?
わざわざログ溜めて一から回り続けるよりは手っ取り早い。
楽できるところはしとかないとね。
「それに何より今は大海賊時代。生半可な事じゃ世界を旅するなんて出来ません。海賊が多すぎるんですよ。
だから俺は海兵として、自分が安全に航海するために間引いてるんです」
自分で言っといて何だけど最低だな俺。でも死にたくは無いんだよ。
略奪や、むやみに戦闘ふっかけてくる海賊の数が減らんことには危ないからね。
「安全になっても、もし政府が未開の地探索の許可くれなかったら、その時は冒険者に転職するよ。ワンピースも拝んでみたいしね」
「ほう、ひとつなぎの大秘宝を・・・・・・。お主も狙っておるのか?」
「いんや、俺は見るだけでいいや。貴重品はポケットに入るぐらいで十分さ」
まあ、ワンピースがどんなモンか知らんが、持ってるといろんな人から狙われて、気も休まらないだろうしね。
「おっと、酒の勢いでつい余計なことまで話してしまいましたね。これは秘密にしておいてくださいよ」
「ああ。お主は背中の秘密を黙っていてくれた。じゃから妾達もその秘密を守ろう」
「感謝します」
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
今回の一言
ニョン婆の話し方書きにくい・・・・
あと野望を語ってみたり。キースのっていうより、未知云々は作者の本心だったり。
前人未踏の地とか、秘境とかって憧れません?
この地球に、人が歩いていけるところにはあんまり残ってませんけど。
子供の頃は近所の林や廃墟を探検するだけでも『冒険』って言えたんですけどね。