※この作品は、小説家になろう様にも投稿させて頂いております
俺は幼女と暮らしている。
黒目がちな大きい瞳にふわふわの黒髪、愛らしい顔立ちの幼女だ。
なにを考えているのか、ほうっておくとほとんど一日中、ぽけっとしている。あんまりかわいらしすぎて、このあいだなど学校に行くのも忘れて幼女をながめていた。
翌日、欠席の理由を正直に話したら、「すわ、幼女監禁か!?」と教師が家にすっ飛んでいった。
数時間後、悪質な嘘で学校を騒がせたという理由でひさしぶりに停学になった。
幼女をみつけられなかったらしい。
あたりまえだ。幼女は俺の制服のポケットのなかで寝息をたてている。
俺は幼女と暮らしている。
手のひらに乗るようなかわいい幼女だ。俺の右胸のポケットがお気に入りの場所だ。
停学期間中はだれにも気兼ねせず、幼女に話しかけられる。身振りで返す幼女をみてにやけていると、幼馴染の日宮貴音(ひのみやたかね)が勝手に入ってきやがった。
どうやら俺が停学になった事実を、どこからか聞きつけたらしい。
「昼間からなにを一人でニヤニヤしているの。いやらしい」
幼女をみているんだ。と返すと、問答無用で病院までひっぱっていかれた。
「昼間から人にはみえないものがみえるらしいんですけど……」
失礼な女だった。
「心の病です」
医者も失礼だった。
俺は幼女と暮らしている。
だが、ほかの人間には幼女がみえないらしい。もったいないことだ。こんなに愛らしいというのに。
停学も解けて学校に行くようになった。幼女とふたりきりの時間を犠牲にして登校するなんて、律儀なものだと自分でも思う。
まあ、幼女も連れてきてるんだけど。
ポケットのはしから顔をのぞかせて、ぽんやりと授業をながめている幼女はかわいい。
幼女しかみてなかったのが気に喰わなかったのか、数学のメガネ教師に一番難しい応用問題を前で解かされた。
むろん、わかるはずがない。俺の脳内メモリは幼女の画像でいっぱいいっぱいだ。
「授業中にくだらんもの見てるからこの程度の問題がわからんのだ」
幼女が、くだらんものだと?
三秒で解けた。正直どうやって解いたのかは覚えていない。
俺は幼女と暮らしている。
起きるのも顔を洗うのも学校に行くのもおやすみするのもずっといっしょだ。
だが、最近そんな素敵な幼女ライフに邪魔者が割り込んできてこまっている。
「さあ、今日も授業がすんだらカウンセリングに行くからね」
「お断りだ」
医者に行って以来、幼馴染の貴音は俺に付きまとうようになった。うっとうしい。とこぼしたら、隠れファンが大量に釣れた。
「おま、あの日宮貴音がついてくれるんだぞ!? なにが不満なんだ!」
たしかに。貴音は美人である。ご近所でも美人で評判だ。そのわりに学校で表立った支持がないのは、それをすれば自分の嗜好がややマニアックだと自白するようなものだからだろう。
まあ、貧乳はさておき、彼女がもうしぶんない容姿と性格の持ち主であることには、俺も異論はない。
だが、あえて言わせてもらうならば。
「あいつは幼女じゃないから」
ロリコン扱いされた。
俺は幼女と暮らしている。
ほうっておけば日がな一日ぽけっとしている幼女をみていると、慈しむような感情とともに微笑が浮かぶ。
学校ではロリペド野郎扱いをうけている俺だが、あえて言っておこう。俺が幼女に対して抱いているものは、もっと高尚な感情であると。
かんがえてもみてほしい。
手のひらサイズの幼女なのだ。悪戯しようにもできないじゃないか。できないじゃないか。
だから俺と幼女の関係は、あくまでプラトニックなもの。そして俺が幼女にたいして抱く想いは恋愛感情というよりは父性愛にちかいものなのだ。
俺はあくまで紳士だ。それだけは勘違いしてほしくない。
さあ、幼女を風呂に入れるか。
俺は幼女と暮らしている。
休日は幼女とともにゆるやかな時のうつろいを楽しむのが習慣なのだが、最近それが崩されつつある。
今日もインターホンが連打され、幼女が驚いて飛びあがった。ハナマルな反応だ。
「さあ、今日こそは病院でカウンセリング受けてもらうからね!」
騒ぎの主は、例によって幼馴染の日宮貴音である。
なぜ他人ごとにここまで熱くなれるのか不思議でならないが、この近所でも美人で評判の娘は、俺を真人間にすることに情熱を燃やしているらしい。
「いやだ」
いつも通り三文字で拒否した。
彼女の酔狂に付き合う時間があるならば、俺はその時間を幼女観察につかう。どうしても俺にカウンセリングを受けさせたいなら病院のほうから来いというものだ。
しかし、すこしもめげない貴音は不敵に笑う。
「だと思って今日はカウンセリングの人を連れてきたんだから!」
「病院からきました」
ふたりとも締め出した。
日本語って難しいね。
俺は幼女と暮らしている。
が、その生活は急速に侵されつつある。
「やはり心の病としか……きっと孤独な生活環境が生み出した幻想なんでしょう。根気よく接してあげて、心の殻を溶かしてあげることが大事です」
病院から来たカウンセラーにそう言われたことが彼女の心に火を点けたらしい。なぜか一人暮らしの俺の家に貴音が住みついてしまった。親御さんがしつこいほど「君を信用しているぞ」と釘を刺してきたのはあれか、だいじな娘が傷モノにされることを危惧しているのだろうか。
そんな心配などまったくないというのに。
俺はあくまで紳士である。
さて、今日も幼女を風呂に入れるか。
俺は幼女と暮らしている。
残念なことにふたり暮らしではない。幼馴染の日宮貴音とも、一緒に暮らしている。
なにげなく学校でそのことを話したら、貴音に頭がへこむほど殴られた。なぜ隠すのか。不思議でならない。
カウンセラーの言うことを真に受けて、俺のことを「孤独感から妄想にとり付かれた可愛そうな少年」だと誤解している貴音は俺のために食事を作ったり、親身になって話しかけてきたりする。
普通ならば幼女との時間を削られ、怒るところではあるが、住人が増えたことを幼女が喜んでいるのでまあよし。
かわいいは正義。
だから幼女は正義なのだ。
さて、今日も正義を追及しよう。
俺は幼女と暮らしている。
すでに家になじんだ第三の住人、幼馴染の日宮貴音は、俺のことを「孤独感から妄想に取り付かれたかわいそうな少年」だと誤解しているらしい。なにかにつけて親身になって面倒をみてくれやがる。たとえ好意からだろうと、無礼は無礼だと気づいてほしい。
まあ、そんな些末事より幼女である。
さいきんの幼女はといって、とくに変わったことがあるわけでもない。
相変わらずのかわいらしさは俺を魅了してやまない。このあいだなどはオレの教科書を覗きこもうとしてポケットから滑り落ち、したたかに打ったお尻を涙目でさすっていた。
そんな幼女をガン見していたら、数学のメガネ教師に授業態度について文句を言われた。
「幼女幼女言って、そんなことだから毎度テストで赤点ギリギリなんだ」
つぎのテストでは全科目百点とります。
俺は幼女と暮らしている。
目に入れても痛くないほど可愛い幼女は、あいかわらず暇さえあればぽけっとしている。それをじっとみているのは俺の最高の楽しみなのだが、そのあたり、同居人にして幼馴染の貴音は理解していないらしい。ゲームやらなにやら持ってきて俺と遊ぼうとする。まあ、ゲームはみてる幼女の反応が楽しいのでOKなのだけど。
それはともかく、俺の評価が変わってきた。
「妄想世界の変態紳士」から、「幼女が絡むと超人化する上級変態紳士」へとランクアップしたらしい。やはり期末テストで全科目満点とかやらかしたせいか。それともそのあとのクラス対抗のバレーボールで、幼女を馬鹿にした敵チームを殺人スパイクで全殺ししたせいかもしれない。
それを知ってか、クラスの連中はわりと頻繁に俺を超人化させようとする。
そんなひとりがぬかした一言。
「さすがの幼女パワーでも、東大合格までは無理だろ」
みせてやろう。俺の幼女への想いが、どれほどのものかを……
おは幼女。
俺は現在、東京で幼女と暮らしている。挑発に乗ってうっかり東大に合格したせいだ。俺自身は地元の国立に進学するつもりだったのだが、教師どもは「たのむからわが校のためにも東大に進学してくれ」と泣いて懇願してきた。ことわりきれなくて、故郷を離れることになってしまった。もともと身軽な身だからかまわないけど。
これで晴れて幼馴染にして同居人の日宮貴音とも縁が切れると思っていたのだが。
「はいはい、ようじょようじょ」
思ったより貴音は勉強ができたらしい。こいつも合格してやがった。腐れ縁はまだ続くようだ。
こちらで一緒に暮らすことに、貴音の両親はもはやなにも言ってこなかった。むしろ歓迎するようなふしすらがあったのは、はて、なぜなのだろう。
そういえば大学の入学式のとき、新入生代表やらされた。正直面倒だ。
例によって俺は幼女と暮らしている。
大学でもいつもどおりポケットから講義をながめる幼女を見つめる日々である。このごろの俺の評価というものは、「いつもぼやっとしているやる気のない学生、ただし美人の彼女持ち」ということになっている。
残念ながら美人の彼女というのは幼女ではなく、幼馴染にして同居人の日宮貴音のことである。
貴音と俺が付き合っているというのは大いなる誤解ではあるのだが、同居しているというのはまぎれもない事実であり、それが気に食わないやからもいるらしい。
そして、そんなヤツにかぎって俺のNGワードに触れてしまうのである。
さあ、今日も幼女をつまらないもの扱いした馬鹿者どもに、きわめて合法的な正義の鉄槌を下すか。
青天井じゃなくてよかったね。
ようじょ!(挨拶)
俺は幼女と暮らしている。同居人で幼馴染の日宮貴音にすらみえない幼女だが、そのかわいらしさはこの世でもっとも尊いものだと確信している。
それゆえ、幼女のすがたを写真に収めることにした。
「いや、無理でしょ」
幼女が俺の妄想の産物だと誤解している貴音の言など無視して、デジカメを連写する。
なにも写っていない。どうやら、あまりのかわいらしさにデジカメがその姿を捉えることすら拒んでいるらしい。
「いやいや、どこまでポジティブなの」
貴音のツッコミは無視。
それから。俺の執念に音をあげたデジカメは、ようやく一枚だけ幼女の愛らしい姿を写しだした。
「うそ! 念写!?」
とんでもなく失礼なことを言いやがった貴音の鼻先に映像を突きつけると、ヤツは絶句していた。
写真は引き伸ばして部屋の壁に貼り付けました。
俺と幼女が一緒に暮らしはじめて、二年の歳月が流れた。
そのあいだ幼女はまるで成長していない。いつも愛らしい笑顔を俺に向けてくれる。素晴らしいことだ。素晴らしいことだ。
貴音が昔のアルバムをひっくり返してきた。
中学生の貴音や小学生の貴音が、アルバムを埋め尽くしている。
そのちかくに、俺の姿はない。
当然だ。小学生になってから、俺と貴音は疎遠になっていた。
仲がよかったのはそれ以前で、思えば貴音もいい幼女だったように思う。俺の家にはそのころの写真が一枚もないので、仔細には思い出せないが。
「みて」
そう言って貴音がさしだしたのは、古い写真だった。
目を向けて、絶句した。
むじゃきに笑う幼い俺の隣に、花のごとき笑顔を浮かべている――幼女の姿があったのだ。
おもわず目の前の幼女と見比べる。
うりふたつの笑顔を浮かべた幼女はとてとてと駆けていき、貴音が持つアルバムの上にちょこんと座った。写真の上に置かれた幼女の手は、ちょうど手をつないだ俺と貴音の写真のうえに置かれた。
幼女の口が、音なき言葉をつむぐ。
や・く・そ・く
その言葉に、俺はひとつつの約束を思い出して。
役目を果たしたと言うように、幼女は写真の中へ吸い込まれていった。
「ずっと、ずっといっしょにいようね」
大昔の、貴音との約束。
時とともにとけていった他愛ない誓いが、あのころの想いとともによみがえってくる。
まったくなんてことだ。この俺が、幼女との約束を忘れていたとは。
あらためて貴音をみた。
おもえばこいつは、俺が遊ばなくなってからもそれとなくそばにいた。あのときの約束をずっと守っていてくれていたのだ。
「ね? この写真、ちょっと似てると思わない?」
すこし嬉しそうに話しかけてくる貴音の手を、俺は迷わずとった。
「貴音」
「な、なに? いきなり真剣な顔で」
頬を赤らめる元幼女を前に、告白の言葉をさがす。
「俺と幼女を作らないか?」
もとい。
「幼女を作るために俺と一緒になってくれ」
もとい。
「――俺の幼女を産んでくれ」
顔が変形するほど殴られた。
八年後。
俺は幼女と暮らしている。
黒目がちな大きい瞳にふわふわの黒髪、愛らしい顔立ちの幼女だ。
なにを考えているのか、ほうっておくとほとんど一日中、ぽけっとしている。あんまりかわいらしすぎて、このあいだなど会社に行くのも忘れて幼女をながめていた。
「あなた! 幼女(いとめ)ばっかり見てないで会社に行きなさい!」
貴音(つま)に怒られた。