「カン──ツモ、嶺上開花」
4456白白白發發發 カン中中中中(←)
ツモ4
「──大三元、48000です」
「…………」
「…………」
「…………」
呆然とする三人を視界にも入れずに、咲はゆっくりと席を立つ。
「ありがとうございました」
聞こえるとも思えない小さな声でそう言って、そのまま対局室を出る。
「──ん、っとと」
ざわざわと騒がしい外に出た途端、突然膝の力が抜け、その場でたたら踏んだ。
「あ、あはは。……思ったより、大変かも……」
予想以上に体力が消耗しているらしいことを自覚して、咲は力なく笑う。
笑うしか出来なかった。
対局直前、いきなり全身を蝕むような虚脱感に襲われ、気が付けばここまで症状が悪化していた。
(……前にも、こんなことあったっけ……?)
思い出すのは、原村和と行った染谷まこの雀荘──、
(あの時と──いや)
そこで遭った、彼女である。
(あの人が……ここにいるんだ……!)
あの時感じた粘つくような重い空気が、会場内に蔓延していた。もう一人の方はともかく、彼女はとても高校生には見えなかったが、この気配を間違えるはずもない。それに見た目の話で言えばこちらの部長も似たようなものだ。どこにでも、年不相応に大人っぽい人はいるのだろう。
今感じている彼女の気配で、あの時と違う点はただ一つ──、
(次元が違う──っ!)
あの時の彼女には油断があった。何がどうなろうと最後にはどうせ自分が勝つのだと、完全にこちらを見下していて──隙があった。その傲慢もまた強さに繋がるモノなのだろうが──今は違う。
今の彼女は雀荘の時など比較にもならない、純粋な闘争心を滾らせているようだった。
「……大中なごえぶぅっ!?」
「咲ちゃんよくやったじぇー! ってありゃ?」
息苦しさの中、思い出した彼女の名前を口に出そうとして、咲は横から抱きついてきた片岡優希にぶっ飛ばされた。
「何やってるんですか優希!」
「ご、ごめん咲ちゃん! 細い腕なのにいつも軽く受け止めてくれるから調子乗って思いっきり突っ込んじゃったじぇ!」
「たたた。いや、大丈夫だよ優……希……ちゃ」
「咲ちゃん?」
立ち上がろうとして、咲は今度こそ全身からあらゆる力が抜けたのを感じた。
ガクリと、立とうとしたその場で膝をつくが、その膝や腕にも力が入らず、溶けるように倒れた。
「────!?」
「────! ────!?」
「────!」
何も聞こえなかった。
優希が何事か叫んで、和や、少し離れた場所にいる他の部員達も駆け寄ってくる。
(……大中直子……これが、あなたの……)
それらを視界に入れながら、咲の意識は抗いようもなく闇の中に沈んでいった。