集落を攻撃するというのは中々に大変なのである。
例えば、狙う対象が村ならば、金銭には期待できないが、半面、食料には期待できる。だからこそ、一番狙ってはいけないのは、畑や備蓄庫。これから貰い受けようと思っているものを自ら壊すのは馬鹿の極み。
町の場合は、商館や工房等の富を生む施設を狙ってはいけない、無論、一般家屋にも財があるのだが、俺の無益な殺傷はしたくないという慈悲の心が功をなす。こうやって、今から攻撃するぞと飛び回り威嚇することによって、最低限の資産を持って逃げる事ができる、結果として人間達は破産せずに済み、俺はより多く儲かる。
次に攻撃方法ではあるが、火系統のブレスを推奨したい。風や水では、建物が石造りという事もあり、人間達にとって後始末が面倒であるためだ。勿論俺自信、力加減があまり巧いほうでは無いので、余波で攻撃対象外まで壊してしまう可能性がある。しかし火ならば、人間達を恐れさす有効的な手段だ、竜は自然の驚異そのものだと。それに、どうせ加減が出来ないならより心理的に圧迫できるのがいいのである。
つまるところ、合理的に物事を取捨選択した結果としての方法であり、決して、捕虜に『貴方、口臭がきつい』なんて言われたからではない。あくまでも、人間達を恐怖に陥れるためであり、口腔内の雑菌を焼き殺すためのものではない。勿論、朝晩の歯磨きを念入りに行う事は清潔さを保つ為であり、捕虜の言動に傷ついた訳ではないということを明言させて戴く。
次世代ドラゴン
何時もの用に巣の入り口に置いていかれた金銀財宝、食料と怯えた生贄…いい加減、生贄の『竜は人間を食べる』という考えから離れたらどうだ、と思う。他の生贄達に説得させるように言ってあるが、やはり長年言われているだけあって中々考えを改めようとしない。
認識を改めさせる事も視野に入れて古参の生贄を何人か解放すべきかと考えつつ、適当に珍しい貢物が無いかなと物色してみる。
「…ふむ、これは珍しい反物だな」
白い光沢と滑らかな手触りが特徴的な服飾用生地。東方原産の、高級生地だった筈だが、さて、名称は何と言ったか…。
「うわ、ご主人様、これシルクですよっシルク!」
そうそう、絹だ。実物はこれが始めてだが…成程、確かに権力者が愛用するというのも頷ける。試しに腕に巻いてみたところ、実に心地よい肌触りが…ん? 何故かメイドから凄い視線が。
「………」
きらきら。
「………」
きらきらきらきら。
「………」
きらきらきらきらきらきらきらー。
「………あー、わかったわかった」
結局、根負けしたような形ではあるが、絹の反物をメイドに渡すと、プルプルと震えた手で受け取りうっとりとした顔で眺めてそのまま数十秒、今度は手の甲で感触を試しては悦に入る。なんか、怖い。
他の作業中のメイド達も気づいたのであろうか、皆、手を止めてシルクを見ている。そろそろこのメイドは反物に顔を押し付けて頬ずりしそうだ、誰か止めろ。
「メイド48号、貴方は何をやっているのですか! 他の者も仕事しなさい!」
「ひえっ、連隊長!?」
怒り心頭といった風なセリアの形相に逃げるかのように持ち場に戻るメイド。俺はそれを見て苦笑しつつ、手元に返された絹の反物に視線を戻す。
「ご主人様、昼食の準備が整っております。」
「ん、わかった」
しかし、反物とか貰ってもな…出来れば、財貨とか流動性が高い物のほうが嬉しいんだがなぁ…。加工するにしてもお金が掛かるし…保管には気を使わなければならないし…。
「ああ、セリア。これを服に加工できないか?」
「はい、早速ご主人様の丈に合うようにしますので食後にでもお時間を戴きたいのですが」
「いや、俺じゃなくて婚約者に渡そうと思ってな」
メイド達の反応を見る限りではこれを服にしてプレゼントすれば喜んで貰えるだろう。それなりに量は有るので服二着分ぐらいならなんとかなる。というより、大人二人分無かったとしても、一人はまだ体躯が小さいので実質1.5人分だ。
「かしこまりました。では手配を致しておきます」
寸法を測らねばならないので、早速手紙を出しておこう。喜んでもらえれば幸いだ。
「セリア、その前に」
「なんでしょうか?」
「――触っていくか?」
反物をひらひら、光を受けて艶を放つシルク。ごくりと唾を飲む音は俺かセリアか。
「………ちょ、ちょっとだけ」
「あーっ! 連隊長ずるいぃぃぃ!! 私にも触らせてくださいよー!」
女を魅了してやまない東方世界の特産物。希少な品であるが故の悲劇である。
というわけで、手紙を送った数日後の事である。
「…あー、本当に来ましたね」
「貴方達、準備は大丈夫ですか?」
「はい、連隊長、ばっちりです」
場所は竜の間、魔法で巣の外を映し出している状況である。
本来ならば、巣の入り口でお出迎えと言いたい所なのではあるが、何分状況が状況なのだ。巣の外には、いざカマクラ(東方にある都市らしい)と言わんばかりの侵入者達、遥か後方には競い合うように猛スピードで近づいてくる二人の婚約者。尚、この準備というのは両方の意味での歓迎の準備の事である。
それはともかくとして、手紙が届いて即行動というのは余程暇だったのだろう。気持ちはわかる。
「ご主人様、慕われてますねー」
「多分、暇だったからだと思うぞ」
「またそんな事を言って、ご主人様はこれだから…もう、フラグビンビンですよ?」
「…お前は一体何を言っているんだ」
メイド一号は時々良くわからない事を言うから困る。フラグってなんだ。
後、競い合うようにと先程言ったが、多分違うだろうな…エルザは只、早く到着するために全力で、ルヴィアは単純に負けたくないからだと思う。負けず嫌いだし。
「あ、敵が婚約者様達に気づいたようです」
「本当だ、必死に逃げようとしてるね」
「…婚約者様達が攻撃しようとしてますっ」
「衝撃防御体制、緊急発動ーっ!」
や、やめてー、巣を壊さないでくれぇ。
せめて、被害が少なければいいなと思いつつ、二人の攻撃を見守る。
迫り来る業火と重力場、魔法画面だとわかっていてもつい、反射的に身構えて…。
衝撃というよりは、一瞬だけの巨大地震とでもいうべきものが襲い掛かってくる。なんとか、壊滅的な被害は免れたようではあるが、入り口付近は酷い事になっているだろうなぁ…はぁ…また出費が。
「…うわぁ、これは酷いです」
「ちょっと、これは目を疑うと言いますか…」
「ご主人様よりつよーい」
画面に目を向ければ巣の入り口に二人の婚約者。エルザ側は紙のように押し潰された侵入者だったモノで周囲一帯を真っ赤に染めて、ルヴィア側はルヴィア側で地表面が赤く溶け出した溶岩状態になっていた。それも丁度、二人の真ん中のラインで対極的に。
後、誰だ、俺より強いって言った奴は…当然の事を何を今更言うのか、説教したい気分だ。
「…あー、とりあえず迎えに言ってくる。先程の衝撃は心配ないと生贄に伝えといてくれ、後二人の目につかないように」
やれやれ、頭が痛い事だ…竜が一人居るだけでこれだけ騒がれるというのに、それが二人も、俺を合わせれば三人も居るとなると、侵入者がこれから来るだろうか…。いや、来てもきっとかなり手強い相手になりそうだが。
これはもう、開き直って破産の覚悟をするべきか、いや、死にたくは無い。ここは頭を下げてでもルヴィアかエルザ辺りに巣に住まわすべきか、いや、やっぱり死にたくないからやめよう。
手紙なんか出すんじゃなかった、と思いつつ入り口付近に近づくが、多少、衝撃によりガタが来ているものの十分に補修は可能であることがわかって少し気分が軽くなる。外側は…まあ適当に石なり砂利なりでなんなりと誤魔化せばいい。
さて、入り口はすぐそこだ。
「久しぶりだ、二人とも」
手を広げ、歓迎の意を示すと同時に小さい婚約者が走りよってくる。
「…汝っ! 会いたかったのじゃ!」
ここで物語のようにふわりと抱きしめれば絵になるのだが、何分、エルザは小さくても女なので、その突進力は笑えないし受け止めきれない。
つまり結論として、その角度上、ルヴィア側の熱で赤くなっている岩盤に叩き付けられる形になるのは必然であり、その状況で尚、腰辺りに回されたエルザの手を火傷させぬように、岩盤に接しないようにするのは竜の村での教育の賜物であると言わざるを得ない。
「会いとうて、会いとうて…でも迷惑かと思っていけんかったのじゃ…汝よ、寂しかったのじゃ…」
「俺からは会いにいけないが…迷惑ではないから何時でも来るといい、歓迎するぞ」
自らの背中が焼ける痛みをこらえつつ、目に涙を溜めている小さい婚約者にそう優しく言って、頭を撫でる。
「…むぅ、また汝ばかり大きくなりおって…妾は全然大きくならんぞ」
「何、エルザより俺のほうが年が上だからな、当然の事だ。すぐにエルザも大きくなるさ」
何というか、これで背景が血染めの岩盤とか赤く溶け出している岩盤とか、後、ルヴィアとか居なかったらもうこれ凄い雰囲気になってそうだ。物語でもここで濃厚なキスシーンは定番である…諸事情によりできないが。
「ふふ…やはり汝が妾の婚約者でよかったのじゃ…」
「ん?」
「何時でも、どこでも、汝の気が済むまで……構わんからの?」
「…?」
すっと、手を離して唱えるは拙いながらも治癒魔法…気づかれていたのか。回復量は微々たるモノだが、その心が何より嬉しいものである。
エルザが最後に目配せした先には少々憮然とした表情の紅い婚約者。
「…良く来てくれた、会いたかったぞ」
殴られるのを覚悟で、軽く抱擁してそう呟く。
婚約者が二人なんていう前代未聞の状況だからこそ、片方だけに愛情を注がないと決めた。村での酷い苛めで一番辛かったのが、無視されるという事だったから。
だからこそ、俺は二人を平等に愛すると、出発の時に決めたのだ。だから今ここで殴られようとも、殺されようとも、俺はこの手を離さない…それが情けない俺が今出来る精一杯の愛し方。
「え…あ…ちょっ離れなさい!?」
拒否するかのように、ぎゅっと強く抱きしめる。柔らかい体と鼻をくすぐる淡い香り、そして少し騒がしい心臓の脈動。
やがて、逃れようと暴れだすが、ルヴィアを傷つけぬ用に全身に力を張って抑えつける。
「嫌か?」
「あ…うぅ…し、知らないわよそんなことっ!?」
まだ混乱しているのだろうか、本気を出せば直ぐにでも振りほどけるだろうが、まだ俺でも抑え込めるので、存分にこの抱き心地を堪能することにしよう。
「…本当はな」
ばたばたと暴れるルヴィアに優しく諭すようにゆっくりと語りかける。
「今直ぐにでも、お前達を迎えに行きたいんだが…」
それが功を成したか次第に力が抜け、俺の話を聞く体勢に入ったようだ。
「まだまだ俺は未熟で、巣作りも完全じゃなく、途中で挫けそうにもなったりするから…」
そうして、今では完全に力を抜いて俺に身を預けているような状態になっている。
「だから、顔を見せるだけでもいいから、来てくれないか?」
「…なんで?」
「――それだけで俺は頑張れるから」
触れるかのように首筋にキスを一つ。
「……うん」
む? 心なしか背中にルヴィアらしい手が。いや、もしかしたら慣れない事をしたものだから、脳内で恋人同士が抱き合ったような錯覚に陥っているだけかもしれない。
「……私、会いに行くね」
「ああ、会いに来てくれ」
長い抱擁も漸く終わり、ゆっくりと体を離した後、すべきは優しく最後までエスコート。
「さて、ここで話をするのもなんだ…案内しよう、俺の巣を」
…
……
………
応接間の机に広げられた絹に二人の婚約者から驚嘆の声が漏れる。
驚きも無理は無い。竜の村やこの巣の地方では絹なんて文献上の存在でしかなく、その文献も単語としての絹という言葉はあれど、どのようなモノなのかは調べるのは困難であったのだ。俺がそうだったのだから。
故に二人は絹というのを知ったのはこれが最初かもしれないし知っていたとしても実物はこれが始めてだろう。
「良い手触りなのじゃ…これを使った服を貰えるのかや?」
「ああ、その為に呼んだんだ…デザイン等は後で詳しく、な」
その言葉に何度も何度もお礼を言ってくるエルザに背中が痒くなる。何分、お礼を言われるなんていう経験は殆ど無い…言う事は沢山有ったが。
「素敵な素材ね…」
「喜んでくれて幸いだ」
メイド達が居る竜の間までは普段より素直だったルヴィアが竜の間に入ると何時も通りの不機嫌になって怖かったのだが、絹の前にまた先程のような素直さが出て俺も幸いだ。絹万歳。
「セリア、仕立てにはどれくらいかかりそうだ?」
「2着となると…デザインにもよりますが、凡そ3日程ですね」
「ふむ」
デザインを決めるにしてもそれなりに時間が掛かるだろうし…一週間程度は見積もっておくべきか?
その間、二人はどうするのか、一度聞いておこう。
「二人共ちょっと良いか?」
手触りが良いだの、着色は可能なのかだの語り合っている二人に問いかける。
「実際にデザインが決まって服が出来るまで3日程掛かるらしいが、その間はどうする?」
滞在しとくにしろ、一度帰るにしろ準備が必要なのである。色々と。
「滞在していくわ」
「出来上がるまで待つのじゃ」
即答だった。そしてすぐに今度は絹の使用面積について熱く議論し始めたので調整役のメイドは二人のプレッシャーを一身に受け持つ身に。
「セリア、一悶着が起きそうな気がするから絶対に捕虜と生贄には会わさないように」
「はい、既にメイド達に命令は出しております。それより巣の防衛体制の事で相談が…」
「わかっている、その点に関してはメイド1号に先程新たなプランを用意するように言ってある、後、二人の寝室ではあるが…」
こそこそと内容が内容だけに小声で会話。最も二人は白熱してきた使用面積についての議論に夢中なのでこちらに気が向くとは思えないが。メイド27号頑張ってくれ…っ! こっちに助けを求めるんじゃない…っ!
「ご主人様ー、こちらが新しいプランとなっております。多少割高になってしまいますが…これでも跳ね上がった『恐怖値』に対応できるとは思えません」
恐怖値? なにそれ?
「ああ、ご苦労…セリア、多少安くなっても構わん、捕虜の身代金取得を優先してくれ」
「かしこまりました」
さて、プランの吟味に掛かるとしようか…どれどれ?
『推奨案#1
・暗黒騎士450万B *5 =2250万B
・ハラミボディ850万B *5 =4250万B
・漆黒騎士3100万B *3 =9300万B
・各種増改築(罠付き) =12000万B
・服飾仕立て代(職人技) =200万B
総計 28000万B
オプション
・竜の巣強化対策Ⅰ =5000万B
(説明)竜族の迎撃参加可能。被害額(中)
・竜の巣強化対策Ⅱ =7000万B
(説明)竜族の迎撃参加可能。被害額(小)
・竜の巣強化対策Ⅲ =10000万B
(説明)竜族の迎撃参加可能。被害無し。
・竜の間・紅 =7500万B
(説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『ルヴィア』使用可能。
・竜の間・黒 =7500万B
(説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『エルザ』使用可能。
・竜の間・愛 =15000万B
(説明)婚約者が喜ぶ。迎撃時『ルヴィア』『エルザ』使用可能。『ローガス』能力値UP』
何、これorz
「……セリア、ちょっとメイド1号を叱っといてくれ」
「え、えー!? いや、流石に推奨案#1~5はアレですけどっ現実案は普通ですから! 痛い痛いっ連隊長痛いですー!」
ちらりと右を見ればそろそろ実力行使に出そうなルヴィアとエルザ。そして震えながら土下座しているメイド27号。
ちらりと左を見れば耳を引っ張りながら頭をグリグリしているセリアとされているメイド1号。
もう何か色々と諦めたくなった今日この頃であった。
現在の状況
・財力『350万B』(借金総額2000万B)
・H技術『13H』
・魔力『475M』
・恐怖『412!』
・捕虜『6人』
・巣豪華度『20豪華』
・配下モンスター『12部隊』
おまけ劇場
『少女マンガのあのシーン』
最初の生贄「ご主人様、お許しくださいぃ。そこはらめぇっらめなのぉっ」
新人生贄「あのー…センパイ。何やってるんですか?」
最初の生贄「イメージプレイ」
新人生贄「あの、せめて誰も居ないところでやってくれませんか?」
最初の生贄「まだまだ青いわね。そんなのじゃローガス様を満足させられないわよ?」
新人生贄「あの、そういう問題じゃ…」
最初の生贄「もう、邪魔しないで。今、貴女の見ている前で犯されている所なんだから」
新人生贄「え?」
最初の生贄「あぁん、後輩の見ている前で繋がったままなんて、頭がフットーしちゃうよぉっ」