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No.9101の一覧
[0] 運命に 流れ流され 辿り着き(風の聖痕)[酒好き27号](2009/10/03 23:05)
[1] 第2話[酒好き27号](2009/05/26 23:57)
[2] 第3話[酒好き27号](2009/05/29 04:41)
[3] 第4話[酒好き27号](2009/05/28 04:04)
[4] 第5話[酒好き27号](2009/05/29 04:25)
[5] 第6話[酒好き27号](2009/05/29 05:08)
[6] 第7話[酒好き27号](2009/05/30 01:40)
[7] 第8話[酒好き27号](2009/05/31 19:54)
[8] 第9話[酒好き27号](2009/06/10 20:22)
[9] 第10話[酒好き27号](2009/06/10 20:29)
[10] 第11話[酒好き27号](2009/06/21 05:16)
[11] 第12話[酒好き27号](2009/07/06 03:33)
[12] 第13話[酒好き27号](2010/03/13 01:06)
[13] 第14話[酒好き27号](2010/03/13 01:08)
[14] 第15話[酒好き27号](2010/03/13 02:55)
[15] 第16話[酒好き27号](2009/09/01 21:31)
[16] 第17話[酒好き27号](2009/10/03 23:10)
[17] 第18話[酒好き27号](2009/12/03 16:52)
[18] 第19話[酒好き27号](2009/12/06 23:19)
[19] 第20話[酒好き27号](2010/03/13 03:00)
[20] 第21話[酒好き27号](2009/12/20 21:58)
[21] 第22話[酒好き27号](2010/01/22 03:00)
[22] 第23話[酒好き27号](2010/01/22 03:20)
[23] 第24話[酒好き27号](2010/01/25 15:18)
[24] 第25話[酒好き27号](2010/02/11 20:52)
[25] 第26話[酒好き27号](2010/03/13 03:04)
[26] 第27話[酒好き27号](2010/03/16 19:51)
[27] 第28話[酒好き27号](2010/03/17 22:00)
[28] 第29話[酒好き27号](2010/03/18 17:31)
[29] 第30話[酒好き27号](2010/03/22 23:46)
[30] 第31話[酒好き27号](2010/04/22 00:07)
[31] 第32話[酒好き27号](2010/06/09 13:27)
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[9101] 第24話
Name: 酒好き27号◆3e94cc3d ID:17f35bae 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/25 15:18


「あのお嬢ちゃんは元気だねぇ」


 背後から鳴り響く人目もはばからない絶叫を聞き流しながら、道哉は空を駆けていた。

 綾乃が放った太陽と見紛うばかりの力の行使は彼が気配を消して隠れるためのちょうどよい隠れ蓑になってくれた。

 先ほど操に害が及ぶ可能性に思い至ってからの捕捉は完璧だ。

 こういう場合、一番危険なのは操が建物から出てきた瞬間。ならば敵がこちらに気づく前に先制する。

 道哉は自身の気配と姿を付近にいる『かもしれない』相手から完璧に隠しつつ、周囲に意識の糸を伸ばしていた。


 某有名デパートの中から操が姿を見せる。

 彼女は既に傾き始めた日の光に軽く目を細めると、先ほどまで道哉がいた方向に足を向けた。

 と、その行動を唐突に停止させ、逆方向に向き直り斜め上空に視線を向ける。

 道哉が感知する範囲で、その方向ではおよそ1km先まで建物以外に何もない、はずだ。

 それでも彼女は周囲に目を向け、平日であるためかまばらな人通りを認めると、早足で歩きだした。

 その足取りに油断はなく、向かう方向は人気のない大通りからは外れた場所。

 操が風術師以上の感覚を持っているとは思わないが、周囲に一般人がいると困る『何か』を感知したに違いない。


「あの辺か?」


 道哉は自身の隠蔽結界を乱さないよう細心の注意を払いながら操が目を向けたあたりを捜索する。



 風を舞う塵。談笑する声。車のクラクション。気流。熱。光。


___見つけた。



 ほんのかすかな違和感。

 中身こそわからないが、一度気づいてしまえば否応なく目が行ってしまうほど強力な結界が緩やかに移動していた。

 光の屈折率を極限まで精密に操作するその力は、例え目を凝らしたところで早々見破れるものではないほどに自然だった。

 見たところ、位置関係からすると先制攻撃は可能だ。

 問題はある程度まで力を集めた場合にすぐさま気付かれることだが……。

 チラリと操に視線を向けた。


「……優先順位の問題だな」


 対象の動きから自身が未だ見つかっていないことを確信すると、彼は一気に加速した。

 空高く舞い上がった状態から流星のごとく落下する。


「きゃっ!」

「静かに。それと火の精霊も抑えろ」


 物陰に入り、気休め程度に相手の直線攻撃がしづらくなった瞬間の操を抱き上げると、何重にも隠蔽結界を重ねつつ高速で舞い上がった。


 200m……300m……400m……


 息をひそめるように、されど迅速に飛ぶ道哉の腕の中で、やはり操は震えていた。

 抱える腕に力を込める。


「もう大丈夫だ」


 うつむいた顔を見ることはできないが、彼は操の耳元で力強く囁いた。


「は……い……」


 道哉の胸元をを指が白くなるまで握りしめ、彼女はか細い声で返事をする。


「にしてもよくわかったな。俺も初見じゃわからなかったってのに」

「悪意には……敏感になってしまいましたから」


 あえてそれ以上言及することはせず、道哉は軽い態度で話題を変えた。

 それに答える操は先ほど感じたものを思い出したのか、両手により一層力を込める。

 しばらく安全と思われる場所まで飛ぶと、手近なビルに着地し操をおろす。


「っと、大丈夫か?……いや、大丈夫だな?」


 力が入らないのか道哉に抱きつくようにバランスを崩した操に、彼はあえて厳しい言葉を使った。

 血の気が失せて白くなった顔で、操は歯を食いしばる。


「はい、大丈夫です。けど……もう少しだけ、このままで」


 自らの体を抱きしめるようにしながら道哉の肩に正面から寄りかかる操は、どこか泣いているようにも見えた。

 無理もないだろう、操を抱き上げた時に一瞬だけ解放され、道哉にも向けられた鳥肌の立つ程に醜悪な気配。

 怨念で鍛えられたオーラのごとくからみつくそれは、一般人なら気絶しても不思議ではない。



 そこで道哉の携帯が震える。



 左手で操の背をやさしく叩いてやりながら、彼は通話ボタンを押した。


『頼まれてた神凪と風牙の情報だ。今日の10時過ぎに神凪の分家3名が風の妖魔と思われる犯人によって殺害された。高レベルの使い手以外は屋敷に引きこもってるようだから、それ以外の情報がないのは勘弁してくれ』


 聞こえてきた軽薄な男の声に、道哉は思わずひとつ舌打ちをしてしまう。


「遅い」

『だから勘弁してくれって言っただろ?あんな化物揃いの一族のトップシークレットをこの短時間に入手した俺を褒めてほしいね』

「こっちは既にその犯人らしき奴に襲われかけたばかりだ」

『おいおい、相変わらずあんたも化物だな。神凪に正面から喧嘩売る妖魔に会って生きてるのかよ。どうせ無傷なんだろ?』

「こんなときでも俺の情報を集めようとする根性は買うけどな。まぁいい、ところでその程度の情報で金を払うと思ってるのか?」

『思ってないね。というわけでメインディッシュだ』


 電話先から、分厚い紙の束をめくるような音が断続的に響いた。


『理由は不明だが神凪和麻が風巻流也と合流、今から2時間前に電車ごと潰されて行方不明になってる。各所の監視カメラから直前に会っていた仕事の依頼人周辺まで調べたから間違いない』

「2時間前?もっと早く持ってこれなかったのか」

『裏を取るために無茶したら妨害受けてな、そのせいでこっちもヤバい。しばらく逃げさせてもらうよ』

「犯人と妨害者が分からないのが痛いな。まぁ情報としては十分だ。料金はサービスで100万やるよ」

『それ5時間前に俺から脅し取った金の一部じゃねーか』

「自業自得って言葉知ってるか?」

『情報屋にそんな質問は無意味だね。ま、精々頑張ってくれ』


 最後まで軽薄な態度を崩さず、情報屋は電話を切った。

 閉じた携帯電話を弄びながら道哉は操に視線を向ける。


「聞いていたな?」


 操の顔色はいくらかマシなものになっており、しっかりと自らの足で立っていた。


「はい。まずは宗主に連絡を取りましょう。私が口添えすれば信じてくれるはずです」


 報告、連絡、相談を正しく行おうとする操の意見を、どこか虚ろな道哉の笑いが斬って捨てた。


「さっきな、綾乃に襲われてうっかり風術を使ったんだが……」

「…………そういえば先ほど初めて知りましたが、道哉様は風術師でしたね」


 敵が風の妖魔だと断定されている状態に、どう考えてもおかしいタイミングで帰国した道哉が風術を身に着けていた。

 その偶然としてはあまりにも出来過ぎた状況にしばし言葉を失う操だったが、強靭な精神力で思考を再構築すると代替案を考え始めた。


「綾乃さまと敵対したならもう容疑は固まってしまっているでしょうし……私が言っても操られている、で終わってしまうことに」


 問題の当人よりもよっぽど真剣に悩む操に、道哉は思わず微笑ましい視線を向けてしまう。

 彼にしてみれば神凪にどう思われようと構わないし、宗家以外の有象無象などまとめてなぎ倒す自信があった。


「道哉さまも真剣に考えてください!」

「ん?ああ、操が操られるっていうのはずいぶん高度なギャグで……」

「なんでそうなるのですか……もう、こういうところは変わっていないのですね」


 本当に珍しく疲れたような溜息を吐いた操に、思考をまとめていた道哉が口を開いた。


「そうだな、狙われたことだし操が心配だ。事件がひと段落するまで俺が取った部屋に泊まってけ」

「え!?あの、その……」


 思わぬ方向の返事に、操は眼を白黒させる。

 『そういう意味』でないことは流石にわかっているだろうが、赤くなった顔を隠しきることはできていなかった。


「そうだ、着替えはあるか?うん、取りに行くとかケチなことは言わないからさっさと買いに行くぞ」

「あの、道哉様、今はそのようなことをしている場合では」

「何言ってるんだ、金銭をふんだんに使用した本家の結界に神炎使いが2人と炎雷覇持ちだぞ?心配するだけ無駄無駄」


 操が必死に緊急事態だと主張するものの道哉は全く取り合わず、彼女は手をひかれるままに店へと入っていく。

 顔を真っ赤にして恥ずかしさや混乱を鎮めようとしている操も、冷静だったならばそれに気づくことができたかも知れない。



 楽しそうに笑いながらも、それとは対象的に冷たい光を帯びて周囲を睥睨する道哉の眼差しに____









「ずいぶんと豪華な部屋なのですね……」

「そりゃあロイヤルなスイートだからな。シャワーなんかの時は外に出てるから好きにくつろいでくれ」


 3時間後、彼らは諭吉が群れをなして飛んで行くほどの荷物とともに道哉が泊まっているホテルに来ていた。

 とある高名な建築家とデザイナーが手掛けたという部屋は調和のとれた美しさを見せている。

 部屋はリビング、寝室、ダイニングなどに分かれており、明らかに一人で使うには過ぎた造りをしていた。

 純和風の造りである神凪の屋敷とは異なった豪華さに、操といえども驚きを隠せないようである。


「驚くほどか?霊障の解決なんかを依頼されると解決した礼に泊まって行ってくれとか言われるだろう。それに神凪でも忘年会とかあった気がするが」


 その辺は少しでも依頼料を安くしたいホテル側の思惑もある気はするが。

 それはともかく、一般人には決して手出しできない怪奇現象を解決してくれる専門家とは、予約が尽きないはずの部屋に礼として泊まらせてもらえるほど有難がられる存在であるはずなのだが。


「いえ、私は比較的解決が容易な事件で慣れようとしていましたから……それに、現宗主はそれほど贅沢をなさいませんし」


 そんな道哉の疑問に答える操の表情には若干の陰りがみられる。

 『分家最強』などと言われていても、彼女はまだまだ重要な依頼に関わらせてもらえる段階にはいないのであった。


「ああ、確かに宗主は無駄な贅沢が嫌いそうだな。引退した爺どもなら別なんだろうけど」


 そんな益体のない話をしながら荷物を降ろして片付けていく。

 封を解くのを手伝っているうちにうっかり下着を手にするものの、特に感慨もなく片づけれたのを見た操が若干不満顔であったりしたひとコマなどがありつつ、おおむね平和に緩やかな時間が過ぎていった。


「さて、少し遅くなったが飯にしよう」

「そうですね……この場合はどうするのでしょうか?」

「ここはロイヤルスイートの客ならいつでも好きな時間に食事を持ってきてくれるらしいぞ」

「至れり尽くせりとでも言うべきでしょうか?……にしても、ずいぶん手慣れているのですね」


 感心したような操の視線がくすぐったい。

 以前ロイヤルスイートに泊まったあげく、とある事件によってホテルごと周囲が更地になったことは内緒にしておくことにした道哉だった。



 と、そこで非通知着信。


 操はそこでほんのかすかに強ばった道哉の顔と手つきを見逃さなかった。


「道哉様……?」

「いや、何でもない」


 動揺を悟られた自身を脳内で微塵に刻みながら、道哉は素早く表情を取りつくろう。

 気づかれないように一つ深呼吸。

 この場面、このタイミングで来る電話など一つしかない。

 それをわかっていながらも、切り捨てたはずの自分の弱さが泣き言をもらした。



 既に大幅に変わったはずの運命に、一縷の望みを。






「どちらさまで?」

『私だ』


 それは彼にとって全く変わらず、懐かしささえ感じるほどに無骨な声だった。

 久しぶりに会う人たちに何と言ったものかと、脳内でリハーサルまで繰り返してきた道哉が唯一避けてきた存在。

 幼き日々の敵であり、壁であり、そして憧れだった存在が電話の向こうにいる。

 決別したはずだ。決別できていたはずだ。それなのに、たった一言でこれ以上ないほどに揺さぶられる自分は何だ。


「只今デート中です。馬に蹴られないうちに退散をお勧めしますよ」

『戯言は不要だ』


 強がりにも似た台詞を一言で斬って捨てられ、彼は一瞬だけ虚空に放り出されたような感覚に陥っていた。


「人生には余裕というものが必要ですよ。急いては事を仕損じると……ええと誰だかが言っていたとかなんとか」


 彼の手を離れた精神は簡単に均衡を失うかと思われたが、予想に反して彼の唇は軽やかに音を紡ぎ始める。


『なぜ日本に戻ってきた?そして大神の娘がそちらにいるはずだが』

「もちろん帰ってきたのは操に会うためです。彼女とは昔結婚の約束をしましてね、っと冗談だ。ペーパーナイフでもその持ち方は怖い」

『神凪の屋敷に出頭しろ。お前には神凪の術者殺害の容疑がかかっている』


 照れ隠しなのか真面目な場面でふざけたことに対してなのか、判別がつかない怒りの表情で物騒なものを向ける操を軽くあしらいながら、道哉はあくまでも気楽に答えた。


「で、『厳馬殿』は私が犯人だとお思いで?先ほど襲われかけたこっちとしては巻き込まれていい迷惑ですよ」


 その呼び方にどれほどの感情がこもっているのか、どれほど多く意味で印象深い言葉だったのか、それを真に理解できるのは彼ら二人だけだろう。

 世界が凍ってしまったかのように長い沈黙。

 その道哉の表情に何を見たのか。いつの間にか操はソファーに座っていた道哉の隣に腰かけ、その手を軽く握っていた。

 その行為に特別な感情はなく、ただ傍にいることだけを主張するかのようにささいなものだった。


『……風術を、使ったそうだな』

「……ええ、色々ありましてね。下術だなどと言われてしまうかもしれませんが」


 お互いが絞り出すように出した声は、どこか他人事のように響いた。

 何も聞かず、何も語らず。

 互いの深いところまで入り込もうとしないやり取りは、彼らを知るものから見れば驚くほど臆病な態度だった。


『綾乃に、またしても勝ったか』

「煙に巻いて逃げたのを勝ったというのだったら」


 どこか調子の狂うやり取り。

 少々不審に思う道哉の気持ちを察したのか、厳馬は咳払いとともに話題を仕切りなおした。


『神凪と敵対する気か?』

「因果応報。そちらが手を出すならばこっちが黙っている道理はありませんが」

『……この馬鹿者が。このままではらちが明かん、直接会うのがいいだろう。今から向かうから場所を言え。都心ならば少々時間がかかるだろうが』

「それには及びませんよ、移動速度ならこちらが速い。神凪の屋敷からだっら……ええと、港の見える丘公園がいいでしょう。人払いはそっち持ちで」


 前世と今世が噛み合ったあの事件のすぐ後に行った場所。原作での親子対決の決着の地。

 父を超えようという誓いを今こそ果たすときだろう。

 【風の聖痕】をなぞる気などないが、あの頃の自分は験を担ぐような気持ちで誓ったのではなかったか。



『……わかった』

「あれ、驚かないんですね」



『子の成長を見たいと思うのは、特別なことではないだろう』




 しばし絶句する。

 浮かんだのはかすかな怒りだ。

 嬉しいと思う気持ちがないわけではない。驚きの気持ちがないわけではない。

 だが、それでも思ってしまうのだ。






___何を今さら。






 体は既に戦闘準備で、体はホットに頭はクールに。ならばやることは一つだけ。


「……なら、手加減は無しだ」

『いいだろう、身の程というものを知るがいい』


 既に宣戦布告とも取れるやり取りを交わし、今まさに電話を切らんとする道哉だったが意外な言葉でそれをひきとめられた。


『最後に、そこにいるだろう大神の娘に代われ』

「そんなことを言う時点で俺が犯人じゃないことくらいわかってるだろうに」

『いいから代われ』


 すごく嫌そうな顔をして電話を差し出す道哉に、不思議そうな顔をしながら最新機種の携帯を受けとった。



「はい、お電話代わりました……はい……はい…え?そうなのですか……はい、わかりました」



 丁寧に返事をしながら厳馬と話す操を尻目に、道哉は手早く外出の準備を整えていた。

 軽くジャケットを羽織って、手首に時計を巻きつける。

 刃物が入ったホルダに伸びた手は一瞬ためらうかのように停止し、振り切るようにそれをつかみ上げると懐に突っ込んだ。


「はい、ではまた……」


 厳馬との会話が終わったのか、携帯電話を差し出してくる操に笑みを一つ返すと彼は再びそれを耳に当てた。


「場所は入口近くの展望台に30分後程度」

『……わかった』


 親子とは思えないほどの簡潔なやり取りで、あっけなく通信は途絶する。

 既に最初見せた動揺を完全に消し去った道哉に、操は形容しづらい視線を向けていた。


「私が行くと無粋でしょう。ここでお待ちしています」

「駄目だ。満足に戦えない身で何を言ってる」


 彼女が遠慮気味に申し出たその言葉を道哉はタイムラグなしで却下する。

 一度狙われた身でそのようなことは自殺行為だ。あの吐き気がするような妖気一つで動けなくなるような彼女を置いていくのはあまりにも不安だった。


「厳馬様がおっしゃってました。神凪でも私たちが東京にいるということ以外の居場所はつかめないと……道哉様のおかげでしょう?」


 その言葉に道哉は押し黙った。

 先ほどの妖魔らしき存在さえ騙しきった彼の結界は、その後高速で離脱したゆえに周囲の尾行を全て消し去っていた。

 いくら探査・戦闘補助に優れた風牙衆といえども、術者として上を行く道哉の結界に隠された火の精霊の気配を感知することは難しい。

 神凪であり、多くの火の精霊をかかえる操の気配を辿れなくなった彼らは、東京という人ごみの中で自らの目で彼らを探すことになっていた。

 加えて、デパートや専門店の監視カメラや今現在宿泊している高級ホテルの宿泊者名簿に干渉するほどの権限は神凪にもない。

 場所が特定されていない以上、この部屋にかけられている何重にも重ねられた防御、隠蔽の結界が操を守るだろう。


「確かにあれから一応ダミーは用意したし、周囲にさっきの妖魔と偵察者の様な気配はない。でもな操、この世に絶対はないんだよ」


 道哉は既に忘れているが、今彼らが泊まっている場所は原作で和麻が用意した部屋とは異なる。

 特別な理由はなく、東京都心という何かと便利な場所にあり、同時に情報管理と防衛システムが徹底した稀有なホテルだったから程度のものだった。

 だが、そのホテルすらも『ただの』一流。

 あの妖魔相手には不安が残る。

 だが、彼は意図せずして東京にいる操、横浜の神凪を分離することによって敵の捜査の手を制限することに成功していた。

 捜査範囲、この場合は気を配らなければならない範囲が大きくなることで相手の精度が落ちている。


「……わかったわかった。すぐに終わらせて帰ってくる」


 一歩も引かない。そんな目をしてこちらを見つめる操に、道哉はとうとう根負けした。

 東京での足取りに対する偽装は自信がある。実際操を連れていった方が危険が高いかもしれない。

 諦めたように首を振ると、彼は立ち上がった。そのまま何を言うわけでもなく出口へと歩き出す。


「いってらっしゃいませ」

「…………ああ」


 彼らしくないそっけなく返されたその返事が、本当は操に来てほしくなかった彼の心境を表していた。














 海に面して開けた展望台。そこでついに親子が対峙する。

 風牙によって、夜には目立ち過ぎる炎術を隠すために張られた簡易的な結界。


 入口から堂々と歩いてくる厳馬には、王者の風格すら漂っていた。


 両者ともに、お互いの姿を視界に入れ無言で相手に近づいていく。




「……っらぁ!」

「……ふんっ!」



 道哉の腹と厳馬の頬。


 互いに突き刺さった拳は、彼らの22年間が全て込められたかのように重い一撃だった。
















 あとがき

 ありのままに起こったことを(ry
 『可能な限り原作に近づけようと書いた綾乃が感想でフルボッコだった』何を言ってるかわからねーと(ry
 どうも、そんな感じの作者です。
 前回の綾乃はウザい、ああこんなんだった等の賛否両論があったようですがその辺は原作の内容からも仕方がない面があるかなと思いました。
 できるだけマイルドにしたいなと思っていた私としては涙目。
 私の筆力不足もあるので少々感想に対する補足を。

 綾乃と交戦した場所は、操と観光地を巡ってた最中の街中です。さすがに皇居前は洒落にならないw
 道哉を勘違いで殺そうとした綾乃。原作もそういう視点で読むとアレですね。そういう価値観についてはそのうち作中で。
 彼らが東京に行ったのは私に横浜の土地勘がなかったからです。実はそれ以上の意味がな(ry
 というのは冗談で、日付が違うのに綾乃が同じ土蜘蛛の依頼をしているのはおかしいから場所も変えなきゃなという感じですね。それ以外の理由は今話参照。
 この補足部分が消えていたら『ああ、23話にこっそり修正入れたな?』とか思ってください。精進精進っと。

 相変わらずマイペースな更新速度ですが、更新頻度は前向きに善処したいと思います。
 では、皆様の感想指摘等をお待ちしております。




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