試合会場。
そこでは現在、第一から第十七までの全小隊の隊長による紅白戦が行なわれている。
白組の大将は第一小隊長ヴァンゼ、紅組の大将はゴルネオ。
第十小隊を除く十六の小隊は後はくじ引きで紅白に分かれ、大将から以下小隊戦での順位順に並んでいる。従って、白組となったニーナは七番目に位置している。
その白熱する試合会場の一角で。
レイフォンは悩んでいた。
何に悩んでいたかと言えば、先だってのフェリからの告白から始まる一連の出来事だった。
フェリ・ロス、という一人の少女の言葉は、躊躇い心地よい今の空間を保ちたいと願っていた、或いは未だ自身の心にあった迷いを拭い去った。
故に。
彼女達もまた動く。
「レイフォン……私ね、フェリさんから貴方に告白したって事を聞いて、もう一度考えてみたの。私は貴方の事をどう思っているのかって」
「……リーリン?」
リーリン・マーフェスは決断した。
「レイフォン、私も貴方の事が好き。フェリさんに渡したくない」
その言葉はレイフォンを揺さぶる。
レイフォンとてリーリンを嫌っていた訳ではない。むしろ、共にあるのが当然と思っていた女性だ。それだけに、逆に意識した事がなかった。だから、彼女のその言葉に呆然としてしまった。
「フェリさんとも話したけれど……きちんと考えて。そうして結論を出して。何年かかっても構わない。私達はそれまで待つから……ただ、フェリさんがここを卒業する前に結論を出してくれればそれで構わないから」
そうして、更にレイフォンの苦悩が深まる中で。
メイシェンもまた動いた。
「あ、あの……レイとん……」
「メイ?」
困惑と動揺と苦悩の中にあったレイフォンは、声を掛けてきたメイシェンに疑問の声を上げる。
明らかに何かしら深い、重大な決意を浮かべたその真剣な表情故に。
「レイとん……私、貴方が好き。初めて会った、あの時。あの時から私……レイと…レイフォン・アルセイフが好きです」
真剣な表情で顔を真っ赤に染めて、けれどメイシェンははっきりと言い切った。
そうして彼女もまた、リーリンと同じく。
「あの……これもフェリさんやリーリンさんとも話したけれど……しっかり考えて。私達、それで選ばれなかったとしても怨んだりしないから」
そう言って、メイシェンはこれ以上は限界だったのだろう。
湯気でも出そうな程に顔を赤く染めて、走り去った。
だからこそ、レイフォンは悩む。
誰かの事を明らかに好きだというなら問題はない。
誰かの事を嫌いだというなら問題はない。
だが、今、レイフォンは決められない。
リーリンの事は好きだ。まだ自覚のない頃から常に傍にいた存在であり、あの事件の時も常に味方でいてくれた。
だが、果たして自分が彼女に抱いているのは愛情なのだろうか?それとも友情なのだろうか?
フェリの事は好きだ。彼女の念威には幾度も助けられた。彼女は確かに表情にこそ欠しいが、それは念威操者である以上仕方ないし、それだけに時折そこから零れる表情が可愛らしい。
だが、果たして、自分が彼女に抱いているのは愛情なのだろうか?それとも共に戦う者への信頼なのだろうか?
メイシェンの事は好きだ。彼女はある意味最も戦いから遠く、可愛らしい。
だが、果たして、自分が彼女に抱いているのは愛情なのだろうか?それとも単なる庇護欲なのだろうか?
逃げるのは簡単だ。
だが、レイフォンは彼女らから逃げたくはない。
だからこそ、真剣に悩む。
この件に関しては相談出来そうなのは、シャーニッドぐらいだ。だが、当のシャーニッドはというとこちらもまた、実は結構悩ましい状況になっている。
実はシャーニッドもまた、ネルア・オーランドから真剣な告白を受けていた。
シャーニッドがダルシェナに好きだと伝えた、という事を聞いた彼女は、他ならぬシャーニッドとダルシェナがいる場所で堂々と宣言したのである。
無論、ダルシェナは怒ったが、ネルアは逆に問い詰めたのだ。
『なら、貴方はどうなのですか?シャーニッドさんを愛しているのですか?』
その問いにダルシェナは即答出来なかった。
嫌っている訳ではない。一時は怨みもしたが、それも互いに仲直りした今では過去の話だ。
だが、果たして自分はどう思っているのだろう?
ネルアははっきりと全てを捧げてもいい、と言うぐらいにシャーニッド一筋に愛していると告げた。では自分は?
悩むダルシェナにネルアは告げた。
「ダルシェナさんもきちんと結論を出して下さい。でないとシャーニッドさんが気の毒です」
それと共にシャーニッドにも告げた。
「私待ちますから。振り向いてくれるまで待ちますから」
ここまで真剣に言われては、シャーニッドとしても軽々しく返答は出来ない。
どうしたものかとダルシェナ共々悩み続けている。
という訳で、第十七小隊は常になく、真剣な恋騒動の真っ只中だ。
錬金鋼メカニックたるハーレイを除く、武芸者中で関係ないのはニーナとナルキの二人……本当に事情さえ知らないとなると、隊長であるニーナだけだ。ナルキはメイシェンから相談受けているし。
その頃ニーナは第十四小隊隊長シン・カイハーンとの試合に勝利をおさめていた。
お陰で、ハーレイはどこか落ち着かない思いをしていた。
何しろ、第十七小隊の人間は誰もが真剣且つ思い悩んでいる空気を漂わせ続けている。
右からシャーニッドに、左からレイフォンに挟まれている身としては何とも居心地が悪い。
遂に耐え切れなくなって、シャーニッドに声を掛けたのは、レイフォンの無意識に発している圧力に声を掛けづらかったのだろう。
「あの、シャーニッド先輩……一体どうしたんです?何か皆えらい硬いような……」
「ん?ああ」
ハーレイの声に我に返った様子のシャーニッドはちょっと考えて、一転真剣にも見える顔を作ると……。
「実はだな、俺に愛情を注いでくれる女性と俺が愛情を注ぎたいと思っている女性との関係が」
「すいません、もう、いいです」
演技がかった雰囲気で語るシャーニッドの様子に、『何時もの事か』と気にして損した、という気持ちで遮った。
実の所、もしハーレイがシャーニッドの目を見ていれば、決して冗談半分ではない事に気付いただろうが、なまじシャーニッドがしょっちゅう女性を口説いている事や女性に好かれている事を知っているハーレイとしては、そこまで深く考えなかった。
かといって、改めてレイフォンに聞くには、レイフォンの雰囲気がピリピリしすぎていて、下手に声を掛けられない。
結局、ハーレイは沈黙して、試合に集中している振りをして、縮こまるしかなかった。
まあ、ニーナの試合中なのは事実なので、素直に応援に専念しやすかった、というのもあるのだが。と。
「何をしに来た?」
突然、レイフォンが前を向いたまま呟くように言った。
一瞬、レイフォンが誰に語りかけたのか分からなかったが、直後にハーレイの後ろ、空いていた座席からの声がその疑問に答えた。
「つれないさ~ちょっと挨拶に来ただけさ」
ちらり、とレイフォンとフェリ以外の一同が視線をやると、そこには予想通りの姿。
サリンバン教導傭兵団団長ハイア・サリンバン・ライアの姿があった。相当に巧妙な殺剄は気配を感じさせなかったけれど、それでも気付いたレイフォンの凄味が当人がどこかきつい雰囲気を漂わせているだけに周囲にも感じさせた。
「挨拶?」
「そうさ、体験入学決まったさ。一応ここの学生になるから、多分武芸大会にも参加する事になるさ~」
それは学園都市ツェルニにとっては朗報だった。
ハイアは、しかし、仮にもサリンバン教導傭兵団の団長だ。そんな人物が入学してもいいのだろうか……そう、一同が疑念を持った時、いきなりレイフォンが凄まじい勢いで後ろへと何時でも錬金鋼を抜き放てる姿勢で向き直った。そして……他の一同がその態度に反応するより前に、呆気に取られた声を出した。
「……サヴァリスさん?」
「やあ」
ハイアの更に隣に腰を降ろそうとする青年。
おそらく、それがハイアにさえ腰を降ろしたままだったレイフォンに反応を起こさせた人物と判断した一同は、『誰?』という視線をレイフォンに向ける。
「……サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。ゴルネオ先輩のお兄さんで……僕と同じ天剣授受者の一人です」
「はじめまして」
にこやかに笑う、その姿はとてもそうは見えなくて。
けれど、レイフォンと同じ天剣授受者という言葉は、見た目で相手を侮るには重すぎて。きっと彼もまた、レイフォン同様自分達が束になってかかっても敵わない相手なのだろう。
「しかし、いい時に来れたね。ちょうどゴルの試合中か」
その通りで、今しも試合会場ではニーナ・アントークとゴルネオ・ルッケンスの試合が行なわれている最中だった。
今は、互いに一撃一撃を交わし、そうしてゴルネオが拳を振るう度にニーナの体が弾かれるという事態になっている。
「え、ええと……何が起きているか聞いていい?」
ハーレイの言葉に、考えに没頭していたレイフォンもサヴァリスの登場で我に返った事もあり、素直に承諾した。
「細い化錬剄の糸を隊長の体につけているんですよ。その糸を伝って、拳打の衝撃を伝えているんです」
「うん、『外力系衝剄の化錬剄変化、蛇流』っていう技なんだけどね」
「糸だあ?」
レイフォンとサヴァリスの言葉に、武芸者であるシャーニッド、ダルシェナ、ナルキが一斉に目を凝らす。
「あ、そういや何か見えるな。四本?」
「確かに……そうだな」
シャーニッドとダルシェナが口々にそう言うが、ナルキにはそこまでよく分からない。
言われてみて、じっと目を凝らして、ようやく何とか、という程度だ。矢張りこの辺りは、銃を用いた狙撃手という立場上、活剄と目の強化を得意とするシャーニッド。続いて、解散したとはいえ、第十小隊の副隊長を務めていたダルシェナの両者に比べ、まだ一年生であるナルキとの差、という事だろう。
「でも、本来ならもっとたくさんの糸を出せると思うんですけどね」
「そうだね。本当なら、もっとたくさん糸を出して、伝達する糸を変えないと意味がない。実際、よく目を凝らせば、どういう動きをすれば、どの糸から拳打の衝撃が来るか分かるから、後半からはきちんと防御出来ているしね……ゴルと戦ってる、あの子が使ってるのは金剛剄だね、あれはレイフォンが?」
「ええ」
「多分、この後にもまだ試合が残ってるから剄を温存しておきたいと思ってるのだろうけれど……中途半端だね。やるなら、例え一時的に剄を多く使っても、勝負をさっさと決めにかかるべきだと思うんだけど」
「そうですね。既に隊長も剄を分けて練るやり方は教えてますからね……このままだとジリ貧なのは分かっているでしょうし、一撃で決めようとするでしょうね」
「うん、そんな処だろう」
シャーニッドもダルシェナも口を挟まない。というか、折角の達人同士の解説なので、成る程と思いながら、試合を見ている。
実際、この二人の会話に割り込めるとしたら、現在のこの場では、ハイアぐらいのものだろう。そのハイア自身はといえば、面白そうに試合ではなく二人の様子を見ている。
結局、試合そのものは雷迅を放ったニーナの一撃を、ゴルネオが読みきって、風蛇と呼ばれる衝剄を捻じ曲げる技を持ってニーナの脇腹を打ち、それで勝敗は決まった。
そのゴルネオ自身も、しかし、ニーナの速度が生み出した衝撃によって体が痺れ、紅組の大将であるヴァンゼとの戦いではまともに戦えず、紅組が順当に勝利を収めた。
その様子を見ながら、レイフォンが呟いた。
「雷迅は確かに僕が教えた。けど、僕は何時雷迅を知った?」
その呟きに反応したのは、サヴァリスとハイアだ。
他の一同はよく聞き取れなかった、そのぐらい小さな声だった。
「グレンダンじゃないのかい?」
「違いますね。自分は何時その技を見たか、ぐらいは覚えています、けれど、あの技に見覚えはない。なのに、僕は雷迅を知っている」
ふむ、とサヴァリスも考え込んだ。
確かに、あの技はそれなりに派手な技だし、鍛えれば相当に使える技だった。決して単なる小手先の技ではない、そんな技ならそう忘れる事もないというレイフォンの言葉はもっともだろう。
「君の流派じゃないね。あの技は明らかに重量級の武器の使用を前提としたものだ。サイハーデン刀争術とは相容れない」
「俺っちも、あんな技うちの流派で見た事なんてないさ~。それに、あんな技、刀には合わないさ」
ふむ、と三人が三人とも考える雰囲気に他の面々も口が出せない。
「天剣の誰かかと思ったけど、それも違うねえ……」
「ええ、僕とサヴァリスさんは違う。念威操者であるデルボネさんは置いておいて、ティグリスさん、カナリスさん、リンテンスさん、リヴァースさん、バーメリンさんも弓、細剣、鋼糸、盾、銃という武器の性質上、あの技とは相性が悪いのは変わらない」
「トロイアットは化錬剄が得意だけど、ああいうある意味無骨な技とは縁がないしね。ルイメイも余りああいう技と武器の相性は良くないだろう。彼の武器は自分自身が突っ込むような形状の武器じゃない」
「ですね。そうすると、後はカウンティアさんとカルヴァーンさんですけど……」
「二人の得意とする戦いの形とは明らかに違うからねえ。カウンティアぐらいだろう、可能性があるとしたら。けれど、彼女はアレを大きく上回る威力の技がある。敢えてあれを使う意味はないだろう?」
「やっぱし、どっかで偶然見たんじゃないさ~?」
「そう、なのかなあ?」
うう~ん、と考えるレイフォンであったが、当人が思い出せないならば、これ以上どうする事も出来ない。それに教えたという自覚のあるレイフォンを除けば、他一同にとってはレイフォンという技のデパートのような相手が教えた、という事だけで十分だ。結局、その場は試合が終わった事もあり、すっきりしない思いを抱えるレイフォンを余所に終わりを迎える事になった。
さて、試合が終わった後、ニーナが合流したが、それに加えて引っ張られてきた者がいる。サヴァリスがいる以上当然かもしれないが、ゴルネオだった。尚、ゴルネオが引っ張ってこられた事で、シャンテも肩に張り付いている。
もっとも、ゴルネオ当人は、この場所にいる筈のない兄の姿を見て硬直していたが。
「に、兄さん……何故ここに?」
「いやあ、届け物があってね?」
あくまで、にこやかな笑みを崩さないサヴァリスではあったが、ゴルネオは知っている。
この人は、この笑顔のままで汚染獣と戦い、ルッケンスの弟子達(自分含む)を容赦なく打ち倒すという事を。
まあ、さすがに現状でどうこうする事はないと思うが、思いたい。
それはさておき。
「それで今回の試合って一体何の為だったんだ?」
それが話題になったのはまあ、当然の話だった。
「隊長達の最終的な実力査定だな」
ニーナが言うには、潜入部隊の隊長を決める為だろう、という。
ヴァンゼは基本的に鉄板な作戦を選択する武芸者だ。確かに、前回の第十七小隊との戦闘のように奇策を用いる事がないではないが、奇策は所詮奇策。本来は劣勢の、或いは数の、或いは質で劣る側がかけるものだ。何故かといえば、奇策は破られた時、一気に窮地に陥る事になるからだ。
私達の世界においても奇襲・奇策で名を馳せたのは大体劣勢な側だ。桶狭間での織田信長然り、太平洋戦争での山本五十六やロンメル然り……これが小隊戦のような相手がどんな相手か事前に分かっていれば、その裏をかくような戦いも出来るが、都市対抗戦とあってはそれも出来ない。
必然的に正面戦力を用意して、それとは別個に予備戦力相当の小隊を用いて相手の本部、というか勝利条件を狙うという形になる訳だ。
「まあ、正面決戦用の主戦力に防衛部隊を配置すれば、大体一小隊ぐらいが妥当だろう」
実際、まだ明かせないが戦略会議でもそのような話になっている事だし。
そうなると、うちが選ばれる可能性は高いだろう、というのがシャーニッドの台詞だった。
実際、大規模部隊統率の経験や力量、学年などを考えるとそうなる可能性は高かった。
「そうすると、俺っちもあんたらに加わるさ?」
「でしょうね」
レイフォンの反応は素っ気ない。
が、ハイアの言葉は割りと可能性の高い言葉だった。今更、どこかの正式部隊に所属、というのは困難だし、かといって仮にもサリンバン教導傭兵団の団長を、こういう言い方はなんだが有象無象の武芸者と混ぜて使うのは明らかに戦力の無駄だからだ。
「ふうん、じゃあ、僕も体験入学って事で、加わってみようかな?」
「……兄さんは学生ではないでしょう」
どこかゴルネオは疲れたような口調だった。
……もし、正式にそれが認められたら……。
(……兄さんとヴォルフシュテイン、サリンバン教導傭兵団の団長……真正面から全戦力をぶつけた所で相手に抵抗する術などないな)
想像しただけで、相手が哀れになってきた。
が、よくよく考えてみれば、そもそもレイフォンとハイアの二人が加わる時点で、相手にとっては不幸以外の何物でもない、明らかな過剰戦力である事に気付いて、溜息をついた。
その後は、今後の日程……今後の避難訓練の日程や、その際の行動の確認を取り、解散となった。
この時、レイフォンが避難訓練の手順をまともに覚えていない事に呆れたニーナが叱ったが、レイフォンとサヴァリスが二人して、そんな体験がまともにない事を知り、押し黙る事になった。
何しろ、グレンダンは危険地域をうろついているせいで、都市間戦争など殆ど経験がない。
そして、レイフォンもサヴァリスも数少ない戦争でも、グレンダンを敵とした相手都市がまともな戦闘を行なえた記憶がない。
……とりあえず、都市内戦闘が基本となる為に、罠などの配置を覚えておくように伝えはしたが……そう言われると、本物の実戦に未だ出た事のないニーナとしては何も言えなかった。
「あ、そうそう」
そうして、別れる際に忘れていた、とでも言いたげな様子でサヴァリスがレイフォンとゴルネオを呼び止めた。
「何か……?」
「うん、一応伝えておこうと思ってね。ガハルドが死んだよ」
余りにあっさりと、加えてサヴァリスは何時ものように笑顔を崩さず伝えられたので、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
「っ!それは……」
「ああ、違う違う、別にレイフォンとの試合の怪我が悪化したとかじゃないよ?そっちはすぐ治って、何だか一生懸命鍛えてたみたいだったんだけどね?幼生体の大群に混じってグレンダンに潜り込もうとした特殊な老生体と一対一で遭遇しちゃってねえ。まあ、足止めには成功してくれたんで、僕とリンテンスさんで仕留めたんだけど」
一瞬まさか、と思ったのだろう。レイフォンとゴルネオの顔色が変わったのを見て、事情を察したか、サヴァリスはパタパタと手を振って、それを否定した。と、同時にレイフォンとゴルネオも少しほっとした様子になる。
ゴルネオにとっては確かに悲しい話だが、それならば仕方がない、と諦めもつく話だった。
老生体は強い。そして、幼生体に混じってという事は、一期の老生体ではない、二期以降の老生体。
そんな相手と遭遇すれば、幾等混じる為に小型サイズの老生体だったと言っても、天剣ではないガハルドでは太刀打ち出来まい。まあ、老生体の足止めに成功して、殲滅の成功に一役をかったというならば、グレンダンの武芸者としても誉れだ。
きっと一門から正式に葬儀を挙げてもらえた事だろう。
無論、実際には体を乗っ取られたガハルドはサヴァリスと一対一の戦いの末に満足して逝ったのだが、そんな事を馬鹿正直に言う程サヴァリスはお人好しではない。それに嘘は言っていない。ガハルドの犠牲のお陰で老生体を倒すきっかけを得られたのは確かだし、表向きは一門をあげて葬儀が行なわれたのも事実だ。
本当の事を言って、波風を立てる必要はどこにもない。
(せめて、これでゴルが同じ天剣とか、天剣並っていうなら、怒らせて兄弟喧嘩するのも楽しかったんだけどねえ)
内心で、そう思ったサヴァリスは、それでもにこやかな笑顔で二人と別れると振り向いた。
尚、レイフォンは、いやシャーニッドもそうだったが、別れると再び一時的に忘れていた重要な案件を思い出し、次第に悩み深い顔になっていたが、そこら辺はサヴァリスの知った事ではない。
……正直、サヴァリスには、女性から告白されて悩む、という事自体に興味が持てないからだ。
実際、サヴァリスは自分がどこか【欠けている】のだと思っている。自分はこれまで、女性に幾人にも熱い視線を向けられ、父からは見合いもさせられてきたが、誰一人として興味を持てなかった。無論、だからといって男性が好きという訳でもない。
だからこそ、サヴァリスはルッケンスの家はゴルネオに継がせるつもりだった。だが、まあ、それは今はいい。
振り向いた先には、ハイアがどこか暗い陰を負った様子で佇んでいた。
「さて、それじゃ傭兵団に陛下の言葉を正式に伝えに行こうか」
そう、これからサヴァリスは自身が、ツェルニに来た理由の一つ、表向きの理由をこなしに行く。
そして、それはおそらく。
サリンバン教導傭兵団の終焉となるはずだった。
『後書きっぽい何か』
どうにも時間がかかりました
いや、色々ありまして……親父は倒れるは(一時危篤状態)、書き出したワンピ小説はなまじ毎日更新をやってただけに、何時しかやめるにやめれなくて……
しかし、何よりオリジナル展開が基本となってしまった事が大きいですね
基本となる流れそのものは原作のが使えますが、それ以外は……
悩み悩み書いてます