※これは原作準拠ではありますが、ギャグ要素をたっぷり含んでいます
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第十三代ツェルニ生徒会長、それがカリアン・ロスだ。
四年生にして生徒会長へ当選し、歴代の中でも一際高い支持率を誇る天才だ。その手腕は未だ学生というのが信じられない程で、必要なら躊躇なく汚い手も取れるだけの決断力がある。
そんな彼のある意味欠点は歌だ。
先だっての小規模なイベントの際に生徒会書記達の女性の頼みに負けて、歌を歌ったはいいが、一曲歌い終わった時、周囲に起きている者は誰一人いなかった。それどころか電子精霊であるツェルニさえ気絶したという話が後から報告として上がっている。
まあ、何が言いたいのかというと、カリアンは二度と歌うまいと心に決めたし、書記達も記録にさえ残していない程のカリアンにとって忘れたい記憶だった。
「そういえば、お前の歌だが……」
だから、ヴァンゼがそう呟いた時、カリアンは思わず眉を潜めた。
「……一体なんだい、あの事はもう忘れたいんだが」
隣で書類の処理を手伝ってくれていたセリナがピクリと反応したが、それ以上は平然とした様子で手を止める事もなかったのはさすがと言えよう。
「いやな。まあ、気持ちは分かるんだが……あの歌が電子精霊さえ気絶させたのは事実だろう?」
さすがに、ヴァンゼもあの時の事を思い出したのか、申し訳なさそうな顔だが、それでも言う必要があると考えたのかそう告げた。それにはカリアンも渋々ながら同意する。事実は事実として受け止めねばならない。
「……そうだね、それで?」
「あの歌を汚染獣に対する武器、いや兵器に使えないかと言い出した者がいてな?」
「……なんだって?」
話を纏めると以下のような事になる。
当初考えられたのは、武芸大会における使用だった。少なくとも人に効果があるのは、既にはっきりしている。それだけにこちらが事前に耳栓なりしておけば、多大な効果があるのでは、と考えられたのだ。
だが、これは却下された。
理由は単純で、当然ながらそれは生徒会長を武器として使用する事に他ならない。イコールで敵からの攻撃を受ける可能性は増大し、生徒会長に直接戦闘力がない以上、フラッグと並んで護る対象が増える事になる……というのは建前で。
当たり前の話だが、学園都市間の武芸大会に措いては学園都市連盟の監視の下で行われる。
さて、この際において……どう説明するのか。
音波兵器?
いやいや、こうした広域破壊兵器は使用を禁止されている。
移動都市はサイズの関係上、広域破壊兵器を用いた場合、その全てが効果範囲に入る事になりかねない。そうなれば、最悪一般人にも被害が出る。これは戦争でも武芸大会でも変わりないが、こうした広域破壊兵器は禁止されているのはきちんと意味があるのだ。
従って、この時点で会長の歌を音波兵器として説明するのは却下される。
では、歌という事で士気を高める為の応援歌として……。
相手が気絶するような歌で士気を高めるツェルニの生徒達。
……想像しただけで、何かイタイものを見るような目で見られる光景が目に浮かぶ。例え、それで勝利を得られたとしても、だ。
他の学園都市にツェルニの生徒会長の欠点を盛大に知らしめるような事はやめよう、というか歌を武器にするというのはツェルニの恥になりかねない。
よって却下。
とはいえ、使わないのはそれはそれでもったいない。
結果、次点として提案されたのが……対汚染獣兵器としての開発だった、という訳だ。
「……つまり、私の歌は剄羅砲扱いという訳かね?」
さすがに、笑顔ながら頬が引きつっているのは隠せない。
「いや、上手くいけば剄羅砲以上の効果が見込めると連中は言ってるが……」
腹が立つというか、考えただけで欝になりそうというか。
いずれにせよ本音を言えば、断じてやりたくないが、現状では断りづらい。……何しろ、自分自身がツェルニを護る為と称して、実の妹に一般教養科から武芸科への転属を強制したりしているのだ。
『ツェルニを守る為なら如何なる手も取ると言った筈では?たかだか歌を歌う程度で揺らぐ程度の信念というのに、私には権力を使って、強制したんですね?』
……フェリに知られようものなら、冷たい視線でそのぐらいは言われそうな気がする。
嫌われるのは覚悟しているが、軽蔑されるのは兄として避けたい。
……そう、どう言い訳しようが、所詮は歌。結局の所今回犠牲となるのは精々がカリアンのプライド程度なのだ。それで一人でも犠牲者が減る可能性があるのならば……。
自身の判断に内心気持ちが重くなりつつも、カリアンはヴァンゼに認める旨を告げた。
内心で、使う機会が来ない事、つまりは汚染獣の襲来が自分がこの都市を離れる時までもうない事を願いつつ。それならば願っても、誰にも恥じる事はない筈だから。
そして、世の中は残酷な事に願った事は敵わないのも真実というものだった。
奇しくも、装置が完成した、その僅か四日後。
汚染獣の学園都市ツェルニへの接近が確認された。
今回発見された汚染獣は幸い大した事はなかった。
第一期の雄性体が三体。
本来ならば、これだけの数がいれば戦闘経験が少なければ通常の都市ではかなりの覚悟を決めなくてはならない所だが、何しろ現在ツェルニには天剣授受者という最強の武芸者とサリンバン教導傭兵団がいる。
後者はお金が必要とはいえ、前者だけでお釣りがくる。
まあ、逆に言えば、カリアンにとっては不幸な話ではあった。
老生体というのであれば、話は簡単だった。間違ってもツェルニの近距離で戦闘する訳にはいかないので、戦闘を行うのはレイフォンを主力とし、都市外戦闘を行う事になる。その場合当然だが、カリアンの出番はない。
だが、この程度の敵ならばわざわざ危険な都市外戦闘を仕掛ける必要はない。
かくして、カリアンはマイク片手に外縁部にいた。
兵器ではない。
ツェルニの外へと向けて設置された移動式の巨大スピーカーを主体としたシステムはどう言い変えようが、その本質はカラオケの化け物と大差はない。
逆に言えば、これで汚染獣を撃退出来るのならば対費用効果に措いて絶大なものがある。
犠牲者も出ず、投入された費用も僅かで汚染獣を叩き落せるとなれば……下手をすれば、自分は母都市に戻っても同じ事を求められるようになるかもしれない、と思うとカリアンは憂鬱だった。
『いや、まて』
ふと考え直す。
よく考えてみれば、汚染獣が自分の歌ぐらいでどうこうなる訳がないではないか。
元々期待されてない事だ。
そう、実の所この実験は期待されてはいない。当たり前の話だ。どちらかというと、大して予算もかからないし、万が一多少なりとも効果があれば儲けもの、とヴァンゼからして判断している。
そう考えると気持ちが楽になった。
「そろそろ射程内です、会長お願いします」
その言葉と共にカリアンの前に背を向けて並ぶ武芸者らが一斉に耳を塞ぐ。
正直、これを見てるだけで気持ちが重くなりそうだ。
溜息混じりにカリアンはそれでも、歌を歌いだした。
結論から言おう。
効果はあった。
というか、ありすぎた。
汚染獣は歌が始まると共に、びくりと身体を震わせ、身を捩って逃れようとし、慌てて逃走しようとして果たせず、そのまま意識を失ったらしく落ちていった。
さて、スピーカーは都市の外へと向けられ、一同はそのスピーカーの後ろにいた。
武芸者の後ろにいたのはカリアンだけだ。カリアンが後ろにいたのはこれまた当然の話で、武芸者ではないカリアンは汚染獣に襲われたら一たまりもないので、後方に置き、歌が効果なければ、そのまま武芸者による戦闘に突入予定だったのだ。
……何が言いたいかというと、スピーカーを通さず、ただマイクを持って歌っていただけ。武芸者一同は耳を塞いでいたというのに、破滅的な震動は耳を塞いだぐらいで防げると思ったのかーと言わんばかりに汚染獣のみならず武芸者達も気絶させたのだった。
「とはいえ、効果は確認出来たからな。改良して、正式なツェルニの兵器として採用が決まったそうだ」
「おめでとうございます。貴方もこれで、自分の力でこの都市を守れるという訳ですね、私などよりずっと効果的に」
「えーと……まあ、効果があったのならいいんじゃないでしょうか?」
ヴァンゼ、フェリ、レイフォンらが口々に告げる言葉にカリアンはふうっと目の前が暗くなった。
「…………夢か」
ふと目を開けた時、そこは生徒会長の部屋だった。
別に気絶したからここに運ばれた、という訳ではないのは、目の前の処理途中の書類の山が示している。
……先日の祭りでの歌が余程気になっていたようだ。まさか、夢であんな場面を見るとは。
苦笑しつつ、しかし、仕事中に居眠りとは気付かない内に疲れが溜まっていたのかな?と思いつつ、次の書類を手にとって……カリアンは固まった。
ちょうどそこへヴァンゼが何か相談事だろう、書類を持って入ってくる。
「カリアン、すまんが相談したい事が出来てな……」
言いかけて、カリアンの手の書類に気付いたらしい。加えてカリアンの様子がおかしいと気付いて、近くまでやってくる。どうした?と覗き込んで、書類をざっと確認して、ああ、と頷く。
「そういえば、お前の歌だが……」
「だが断る」
ヴァンゼが言いかけたのを、素晴らしい笑顔で一刀両断にすると、『カリアン・ロス生徒会長の歌における対汚染獣兵装の開発』とある書類をそのままシュレッダーに放り込んだ。
『後書きっぽい何か』
気軽に書きました
ドラゴンマガジンで、カリアンが極悪な音痴だと判明した話を読んで、ふっと思いついた話です
まあ、外伝って事で笑った読んで下さい