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No.9004の一覧
[0] ほんの少しだけ優しい世界(鋼殻のレギオス再構築もの)※外典投稿(多分こうならない未来の可能性のお話)[じゅっ](2012/08/20 23:04)
[1] 人間模様[じゅっ](2009/07/22 13:07)
[2] ツェルニの事情[じゅっ](2009/07/22 13:09)
[3] 出会いと遭遇[じゅっ](2009/07/22 13:11)
[4] 既定の道、未定の道[じゅっ](2009/07/22 13:18)
[5] 第十七小隊[じゅっ](2009/07/22 13:14)
[6] 恋する気持ちと決意[じゅっ](2009/07/22 13:20)
[7] 幕が開く時[じゅっ](2009/07/22 13:22)
[8] アルセイフ道場(上)[じゅっ](2009/07/22 13:23)
[9] アルセイフ道場(下)[じゅっ](2009/07/22 13:25)
[10] 踏み抜いた獣の巣[じゅっ](2009/11/18 18:49)
[11] 戦場の坩堝[じゅっ](2009/11/18 18:51)
[12] 戦塵静まる時来たりて[じゅっ](2010/02/17 18:38)
[13] 外伝1[じゅっ](2009/07/22 13:34)
[14] 再開する日々、変わる日々[じゅっ](2009/07/22 13:36)
[15] 指揮官の苦悩[じゅっ](2009/07/22 13:37)
[16] 歩む者、迷う者、そして蠢く世界[じゅっ](2009/07/22 13:40)
[17] 準備と日常[じゅっ](2010/01/14 01:58)
[18] 届かぬ者の苦悩[じゅっ](2010/06/16 11:31)
[19] それぞれの気持ち[じゅっ](2009/07/22 13:46)
[20] 目覚める恐怖[じゅっ](2010/06/16 11:38)
[21] 決着[じゅっ](2009/07/16 00:41)
[22] 外伝2[じゅっ](2009/08/21 23:00)
[23] 力を求める者[じゅっ](2009/08/04 03:11)
[24] 力を求めた、その終焉[じゅっ](2009/08/13 00:31)
[25] 遭遇[じゅっ](2009/08/21 23:00)
[26] 廃貴族[じゅっ](2009/08/30 00:15)
[27] 脆き心とその逃げ場所[じゅっ](2009/09/07 08:26)
[28] ディクセリオ・マスケイン[じゅっ](2009/09/16 12:10)
[29] その名は雷迅[じゅっ](2009/11/04 16:07)
[30] 後始末、そして生まれる疑念[じゅっ](2009/11/18 18:46)
[31] 外伝3[じゅっ](2009/11/30 23:26)
[32] 遭遇、サリンバン教導傭兵団[じゅっ](2009/12/08 12:19)
[33] 明かされた時[じゅっ](2009/12/10 00:49)
[34] そして、時は動き出す[じゅっ](2009/12/13 01:15)
[35] オワリの始まり[じゅっ](2010/06/16 11:34)
[36] 幕は下がれど、未だ終わり見えず[じゅっ](2010/06/16 11:36)
[37] ほんの少し優しい結末の一つ[じゅっ](2010/01/29 00:01)
[38] 外伝4[じゅっ](2010/02/17 21:01)
[39] 新たなる幕は彼方で開く[じゅっ](2010/03/06 02:08)
[40] 合宿初日[じゅっ](2010/03/11 02:16)
[41] 合宿二日目の片隅で…[じゅっ](2010/03/20 00:14)
[42] 合宿最終日[じゅっ](2010/04/08 01:25)
[43] スカウト[じゅっ](2010/04/15 04:23)
[44] 未来に向けた模索[じゅっ](2010/04/22 22:13)
[45] 外伝5[じゅっ](2010/05/09 00:23)
[46] 宴の前[じゅっ](2010/07/13 21:28)
[47] 武芸大会-マイアス戦[じゅっ](2010/07/13 21:09)
[48] 外典[じゅっ](2012/08/20 23:03)
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[9004] 決着
Name: じゅっ◆021c89c9 ID:0a1503ef 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/16 00:41
 既に汚染獣との戦いは四日目に入ろうとしていた。
 汚染獣との戦いが最も豊富なレイフォンも何期かまでは読み取れなかったが、この汚染獣は実にシンプルな攻撃方法で、搦め手の手段は取ってこなかった。それが救いと言えば救いだったが、その分極めて厄介だった。
 この汚染獣はその巨体を球体のように丸め、その巨体でもって体当たりを敢行してきたのだ。
 単純極まりない攻撃だが、それが巨体と莫大な重量を持って、しかも高速で転がってくるとなると、弾き飛ばされる岩の欠片でさえ弾丸の勢いで襲ってくる。それ自体にレイフォンを殺傷する効果はないにせよ、都市外装備を切り裂くには十分過ぎる。
 しかも、厄介な事にこの汚染獣には浸透系の剄技が通じない。レイフォンの感じた手応えから推測するに、おそらくこの汚染獣の装甲は幾枚もの甲殻が重なっており、その隙間に膨大な生命のエネルギーが流れているという感触だった。
 言うなれば、単純に頑丈な物理的装甲以外に剄による装甲を纏っているのと同じで、この幾層にも重なったもう一つの装甲が剄技による浸透攻撃を緩和させ、本体まで届かせないでいた。
 かといって、この汚染獣の甲殻は通常の汚染獣のそれと比べても更に強固で、天剣の一撃をもってさえ僅かずつ抉るのがやっと、という状況だった。
 
 この状況下において、手が出せないでいたのがゴルネオとシャーニッドだった。ちなみに現在、シャーニッドはゴルネオのランドローラーに移動しており、もう一台に乗った彼は預けられた食料その他と共に距離を置いている。これは最悪ゴルネオとシャーニッドが援護の結果として汚染獣にやられたとしても、レイフォンが勝った場合に戻る為の足を失わない為だ。
 動き回るとはいえ、汚染獣に当てる事は可能だろう。
 的となる汚染獣は巨大であり、如何に距離が離れているといえど、シャーニッドが外すような相手ではない。
 だが、当てたとして意味があるのか?となるとこれは否定せざるをえない。
 シャーニッドの銃は二重複合錬金鋼であり、その威力は本来使っている銃と比べても遥かに大きいが、それでもレイフォンの一撃と比べれば話にならない程度のものでしかない。そのレイフォンの一撃を弾く相手に何が出来る、というのだ。
 おまけに伝わってくる念威による情報から浸透系の剄技すら通じないという。
 自分達が危機に晒されたとしても、その結果として勝率が上がる、というなら賭ける価値はある。
 だが、その可能性がないとなれば、今は動けない。

 「ちっ……なんつーか、デタラメな相手だな」

 「汚染獣とはそういうものだ」

 シャーニッドは実感していた。成る程、これなら前にやりあった幼生体なぞ最弱と言われて仕方あるまい。蛇のような足のない、百足のような殻に覆われた全身を球体のようにして、その質量で持って相手を圧殺する。その一方で物理・剄双方に対応した分厚い装甲と高速で回転する事で防御を行う。
 厄介なのは一方向のみの回転ではないという事だ。
 レイフォンが青石錬金鋼の鋼糸を伸ばして転がってくる側面へと退避しても即座に慣性を無視したかのように九十度ぐらいまでならば曲がって追撃してくる。

 「……負けんなよ、レイフォン」

 手を出せない悔しさを抑え込んで、シャーニッドはそう呟いた。

 内心の焦りを抱えていたのはツェルニでも同じだった。
 汚染獣が脱皮すると共に、ツェルニは進行方向を変えた。矢張り、ツェルニは汚染獣が死んでいると判断していたというのがこれで確定した訳だが、現状既に四日目に入ろうかというのに推定敵捕捉圏内(汚染獣の追撃から逃れられない範囲)から離脱出来ていない。
 現在も汚染獣はレイフォンに隙あらば、ツェルニの方へと向かう動きを緩めていない。恐るべき感知範囲と言えた。
 感知範囲から逃れられていないならば、後は速度が物を言う。が、多脚でガチャガチャ動くのと、球体が高速で回転しながら進むのとどちらが速いか等考えるまでもない。
 そして現在の懸念はもう一つ……。

 「……フェリの様子は?」

 生徒会室に詰めるカリアンがそう問いかけた。

 「……正直厳しいそうです。かなり疲労が蓄積しています」

 念威操者は肉体は通常の人間と大差ない。結果、ずっと起きていれば、どんどん肉体は疲労し、武芸者と異なり剄で強化するという手も使えない。無論、これをカバーする方法はある。
 武芸者と異なり、念威操者は後方よりの支援を行う為、複数の念威操者によるローテーションを組むか、熟練の念威操者ならば自身の意識を分割し、その一部で持って肉体を制御し、睡眠を取るような真似さえ行う。
 が、ここでフェリの経験不足が表に出ていた。
 フェリは念威操者として極めて優れた才能を持っている。それこそ天剣授受者の一人であり、天剣唯一の念威操者デルボネが見れば、自身の後継者に、と願うかもしれない程に……だが、いかんせん、現状のフェリには汚染獣との戦闘の経験が致命的なまでに不足している。ましてや相手は汚染獣最強の老生体、戦っているのは自覚は未だかもしれないが好意を抱いている相手。気の抜けない激しい戦闘はフェリから余裕を奪い去っていた。
 かといって、カリアンからすればフェリ以外の者に念威を代行させる事も出来ない。
 残念ながら、フェリに匹敵する念威の持ち主は現在のツェルニにはいない、というか通常フェリ並の才能を持つ念威操者を都市が外に出したがる筈がない。フェリにせよ、レイフォンにせよ今ツェルニにいるのは、それぞれの事情による例外なのだ。
 もし、今フェリから他の念威操者に切り替えれば……それは言うなれば、高速でレースをしている車がいきなり窓の大半を塗り潰されたような結果を生むだろう。或いは狭い山道を走っている際に昼からいきなり夜へと変わった時起きる結果でもいい。いずれにせよ、その結果待っているのは高確率で破滅なのは間違いない。
 戦闘さえ終われば、他の念威操者が代行しても構わない。彼らに求められるのはツェルニの外に出ている四名が帰還する為の誘導だ。だが、今。一瞬の隙も許されない激しい戦闘の只中に措いては――。

 「……各小隊の念威操者と共に医療班を待機させておいてくれ。戦闘終結次第彼女は強制的にでも休ませる」

 それでも、今出来る事をやる。彼らの為す事が戦う事ならば、自分に出来る事はツェルニの生徒達を動揺させない事、戦闘終了後勝利敗北いずれの結果にせよ対応方法を考える事。その為にカリアンは、生徒会は動き続ける。

 
 鋼糸を伸ばし、横手の大地に絡める。
 瞬時に大地へと移動し、移動する。
 その際の移動は水鏡渡り――超高速移動だ。理由は単純、走るどころか旋剄でも相手の速度に対処しきれないのだ。
 巨体というのは『大男総身に知恵が回りかね』という言葉があるように、愚鈍なイメージがあるが、実の所巨体というのは想像以上に恐ろしい。
 巨大な体は当然ながら莫大な質量を秘め、一撃一撃の破壊力を増大させる。
 巨大な体は耐久力も大幅に向上させ、強烈な一撃による被害を相対的に軽減させる。
 そして。
 地味に厄介なのが、巨体は小さな人の身と比べ、僅かな身動きであっても大きな移動距離を取る事が出来る、という事だった。
 これを現在の戦闘に当てはめてみれば、幾等横に回り込もうとしても容易に相手は修正が可能だ。まあ、元々円の中心点にいる相手が円の円周上にいる相手を視界に捕らえる方がその逆より遥かに楽、というのもあるのだが。
 レイフォンが如何に達人級の武芸者とて人には違いない。疲労は着実に蓄積していく。
 それでもレイフォンは止まらない。止まる時はどちらかが死んだ時だと分かっているからだ。
 相手が突っ込んでくるのに合わせ、伸ばした鋼糸でその体に沿うように空へと舞い、一撃を与える。

 『外力系衝剄の変化、轟剣』

 通常の錬金鋼ならば耐えられず砕けてしまう程の膨大な剄が天剣へと絡みつき、長大な刀と化す。それでもってまず一撃、更に瞬時に離れていく、その前に切り離し『閃断』で更に一撃。
 最初の一撃にて自らを巻き込むようにして刀を回転させた一撃――カウンティアの剄技、餓蛇を放ったが、高い破壊力を持つこの一撃でも表面が削れたに留まった。或いはカウンティア自身の一撃ならばもっとマシな結果が得られたのだろうが……。ただ記憶にある彼女の十回の攻撃で果たしてこの汚染獣を削りきれたのか?と問うならそれはレイフォンの記憶通りならば正直疑問符がつく、という所だろうか。それ程にこの汚染獣の甲殻は硬く、分厚い。
 しかし――。

 「これで仕込みは終わりだ」

 再び回避と共に放たれた一撃が甲殻を打ち砕き、汚染獣の甲殻の内側に秘められていた柔らかい肉体を抉り、その体液を噴出させる。汚染獣が苦鳴の響きを上げ、戦闘開始後始めて停止、体を解いた。

 レイフォンが行った事は然程複雑な事ではない。
 一点に集中した水滴が時をかけ、岩を穿つように。レイフォンも汚染獣のただ一点に攻撃を集中しただけだった。ただ一点に集中された攻撃が僅かずつその甲殻を抉り、砕き、削り……遂には穴を穿った。結果だけ述べればそれだけだ。
 もっとも、シャーニッドは後に『やっぱ凄いわ、お前』と呆れたような口調で、その行為を評価している。
 考えてみて欲しい。
 高速回転する少なくとも直径数十メルトルに達する球体のただ一点を、実に四日間に渡って攻撃し、削り続けるというのがどれ程の難事であるか。走っている車のタイヤ、そのただ一点を自身も動きながらひたすら突き続けるのがどれ程難事か考えてみるといい。
 だがレイフォンはそれを為した。
 無論、それにはフェリの細かな、そして的確なサポートあっての事だ。事実、フェリが消耗している原因の一つはそれもあった。当てるのはレイフォンの役割であり、場所が分かったからとて簡単な事ではないが、常に位置をマークし続けたフェリもまた凄まじい。実際、後にやり方を聞いたツェルニの全員が『自分には無理』と述べている。
 
 遂に穿たれた甲殻だったが……汚染獣はここで思わぬ反応を見せた。
 丸まっていた以上想定されていた事だったが、言うなれば汚染獣にとって背中の甲殻だった。それが砕かれると共に、汚染獣は突如として球体となっていた自身の体を解き、レイフォンに相対した。
 これまでが球体だったなら、ちょうど蛇が敵に相対するかのように、或いは獲物
を狙うかのような体勢へと変化したのだ。

 「……ツェルニを追うより僕を仕留める事を優先した、って事か」

 これまでは汚染獣はレイフォンへの攻撃を仕掛けつつ、それでもツェルニを追う姿勢を見せ続けていた。それこそがレイフォンのつけいる隙であり、一点集中攻撃を可能とした要因でもある。だが――。

 「これで腹が柔らかい、というならやり様は幾等でもあるのだけれど……」

 この汚染獣は腹も甲殻で覆われていた。
 或いは背中のそれよりは幾分柔らかいのかもしれない。だが、四日かけて一点集中攻撃でようやっと穿った甲殻だ。如何にそれより柔らかかったとしても一撃やそこらで破れる程柔らかいものではあるまい。
 そして、都市を追う片手間に相手をしていたこれまでと異なり、今の汚染獣はレイフォン一人に集中している。下手にその内側に飛び込めば、瞬時に汚染獣はその身を球体と化すだろう……甲殻の檻の中、圧殺を逃れる隙間があるかどうかを試してみたくはない。
 これが老生一期ならば、より飢えが激しい。
 忍耐が必要だと分かっていても、耐え切れぬ程に。だが、今回の敵は老生三期以上、一期程の飢えはない。
 もし、このまま相対し続けた場合、どうなるだろうか?
 ……おそらく勝負をかけざるをえなくなるのはレイフォンの側だ。この瞬間もツェルニはひたすら汚染獣からの逃亡を図っている。それはすなわち、都市との距離が開き続けている事を意味している。余りに離れすぎては都市へと戻れなくなる。汚染獣から逃亡を図ろうとしない、対峙にも時間をかけられるグレンダンとは違うのだ。体力その他を考えてみても、時間は間違いなく汚染獣の味方だ。

 『どうする――?』

 レイフォンが動き、その背に回り込もうとしても、汚染獣はすかさずその体を動かし、常にレイフォンをその正面に捕らえ続けている。このままでは――。
 そう思った時、声が響いた。

 『よう、レイフォン。ちょっと待てよ、今隙作ってやるから』

 シャーニッドの声がヘルメット内に響いた。

 距離にしておよそ二キロメルトル。
 本来は十分過ぎる距離であり、更に抉れた渓谷の陰からとなれば、本来なら安全圏だろう。だが、百メルトルを越す巨体と、あの最大移動速度及び破壊力を見ては、自分らの位置が安全だとは思えない。それでもやる。何故なら――。

 「勝負どころ、って奴だろ?こいつは」

 「ああ」

 先程までは自分達には何も出来なかった。しても意味がなかった。
 だが、今は違う。
 今ならば、分厚い鎧、その一部が剥がれた今ならば、意味がある。
 二キロメルトル、という距離はシャーニッドも未体験の距離だ。これまでは精精数百メルトルの距離だった。無論、銃の性能差もある。これまでの銃にはそこまでの射程距離はなかった。今抱えている大型銃にしても有効射程距離でいえばギリギリだろう。
 だが、それがどうした。
 レイフォンは故郷でも優れた武芸者だったという。汚染獣と幾度も戦ってきたという。確かに凄い話だ。自分なぞ汚染獣との戦闘経験は先だっての、あの時まで一度もなかった。あの命を賭けた緊張感をシャーニッドは忘れられない。中には未だ夜寝ている時に、あの時の戦闘を思い出して飛び起きる生徒もいるという。
 けれど……。

 「俺にも先輩の意地って奴があるんでね……」

 レイフォンが自身の後輩であるのは、紛れもない事実だ。見栄と言われようが、プライドと誤魔化そうがどうでもいい。恐怖を捻じ伏せ、標的の圧倒的な威圧感を脳裏から排除し、狙うはただ一点。その巨体に比すれば小さな小さな穴。ゆらゆらと揺れ動くそのただ一点にシャーニッドは驚異的な集中力で狙いをつける。
 撃つ。
 強烈な反動を或いは内力系活剄で捻じ伏せ、或いは逃がし、慣れぬ者が撃てば腕を痛めてしまう、下手をすれば骨折するであろう、その反動を受け流し、シャーニッドは五発を連続で撃ち込んだ。
 結果から言えば、全てが当たった訳ではない。五発中二発は僅かに狙いが逸れ、ターゲットの周囲に着弾した。
 しかし、残る三発は正確にターゲットに着弾し、その柔らかい身を切り裂いた。

 おそらく、この汚染獣はなまじ恐ろしく硬いその甲殻で身を鎧っていただけに、長らく肉を抉られる苦痛というものを忘れていたのだろう。おそらく都市を襲った事もあったのだろうが、その時も甲殻を破られるような目には合わなかったのだろう。当然だ、天剣授受者がその膨大な剄を注ぎ込んで、且つその膨大な剄を生かす事の出来る武器を持ち、尚これだけの時間がかかった相手だ。一般の武芸者ではその表面を僅かに削るのが精一杯だろう。
 そしてそれ故に汚染獣の反応は大きなものとなった。
 苦鳴の鳴き声を上げ、汚染獣は身を捩じらせた。
 これまでレイフォンに集中していた汚染獣は新たに自らに苦痛を与えた存在を探し、思わずという様子でその身を捩り……瞬間、レイフォンに背の傷跡を晒した。
 密かに伸ばされていた鋼糸。傷跡の縁へと引っ掛けられた、ただ一本の糸。その上をレイフォンは超高速で駆け抜ける。
 そして、そのままレイフォンは――汚染獣の肉体、その内側へと突撃した。
 今度こそ汚染獣はただの苦痛ではない、自らの命の危険を感じさせる激痛に身を捩るどころではない、もがくように暴れだした。

 シャーニッドの一撃の後、ゴルネオは即座にランドローラーを後退させていた。
 ここまで相手からの視界を極力遮るような位置を計算してきた。真っ直ぐではないが、可能な限りそのルートを通り、汚染獣から距離を取る。この為にシャーニッドは後ろ向きに座っていた程だ。

 「おいおい、レイフォンの奴汚染獣の中に飛び込んだぜ?」

 「……大丈夫だ、都市外装備、それも天剣授受者のそれならば、数時間は汚染獣の胃液にも耐える筈だ」

 にしたってなあ、というシャーニッドの呟きに同意もするが、同時にその光景を知る者達、或いはこの場にいるゴルネオ達であり、或いはフェリであり、或いはカリアンやヴァンゼは驚きの次に、レイフォンの行動の意味を理解していた。
 数メルトルの穴を穿つのにあれだけの時がかかったのだ。甲殻を粉砕し続け、仕留めるのはほぼ不可能。その巨体を考えれば、その傷とてそのままでは掠り傷に過ぎない。
 では、どうする。
 頑丈極まりない、硬い装甲で身を覆う巨人に対抗するには、その内側に飛び込めばいい。内側からならば……その装甲も意味はない。
 もっとも、それが普通の武芸者に出来る度胸があるかといえば、それは疑問というか不可能だろうが……。
 軽く身を捩っただけで飛び込む前に弾き飛ばされるかもしれない。
 肉体が如何に柔らかいといえど、筋肉が表面を覆っている。その筋肉の壁を突破出来るだけの一撃がなければ、そこで弾かれて終わる。
 突破出来たとしても汚染獣の体内という少しずつ溶かされる恐怖の中で、その前に殺し尽くす事が出来るのか……。
 レイフォンとて汚染獣の内部に突入するなど、初めて天剣として汚染獣と戦った時以来の事だ。あの時は考えが甘く、確実に殺せないと思うと共に、新調したスーツを早速汚したとアルシェイラに叱られたものだったが……逆に言えば、あれから経験と技を磨くだけの時間があった。
 もし、内部に取り込まれた際、どうするか。それまでの手持ちの剄技ではどうも確実性に欠ける。試行錯誤していたものに、ツェルニで見た小隊戦の剄技で閃き、完成したのが餓蛇と背狼衝の合わせ技。背から放つ衝剄で推進力と回転を得、餓蛇の回転の動きで持って肉を切り裂き、抉る。
 この技にレイフォンは特に名をつけてはいない。敢えて名付けるならば、『天剣技、牙蛇舞』とでもつけるべきだろうか。おそらく、外から見れば、剄の余波を尾のように引きながら汚染獣の身を抉るその光景は、まるで巨大な蛇が獲物の表面を撫でるように動きつつ、その牙で喰らい続けているかのように見えた筈だ。ただし、消費される剄も膨大で、とても一般の武芸者には使えまい。
 どれだけの時が流れたのか分からない。
 或いは一瞬だったのかもしれない、或いはそれなりの時が過ぎたのかもしれない。
 誰もが息を呑んで見守る中……特に外から見ている限りは中で何が起きているか分からないのだから……暴れ狂っていた汚染獣の動きは次第にその動きを緩慢にし、遂に一際無念の思いを込めたかのような咆哮と共にぐらり、と体を傾け、そのまま大地へと崩れ落ちた。

 『………汚染獣の生命反応消失しました』

 フェリの言葉がしばしの間を置いて響いたが、未だ誰も歓声を上げない。その歓声が爆発するように洩れたのは、先に空いた穴からレイフォンの姿が飛び出した時だった。

 『……汚染獣を殲滅しました』

 レイフォンのその声が、戦闘の終結を告げた。


『後書き』
今回、オリジナルの剄技を出しました……ご意見色々あると思いますが、ご容赦を

老生体戦終結です
今回の老生体にはシンプルイズベストで考えてみました。いかがだったでしょうか
戦闘の描写については……難しいですね、本当に

※次回は外伝2予定です 

※見づらい、という意見がありましたので会話の部分だけ試しに改行してみました
いかがでしょうか?こちらの方が見やすい、というのであれば、次回から修正していきたいと思います


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