Fate/stay night -SAVE OUR SHIPS-第5話 一日目・夜 嵐の始まり(Ⅰ)夕方、一通り町を巡り終えた私は衛宮邸に戻った。居間で寛ぎつつ、コンビニで買った冬木市の地図を広げてこれからの事を考える。私の今の体、この人形の体には魔力を感知する能力がある。その力のお陰で分かった事だが、この冬木市には魔力が集中している場所、つまり霊脈が二つあった。一つは『遠坂』という家。確か前回の聖杯戦争にも参加した魔術の名家だ。もう一つは『柳洞寺』という寺。中に入ってみると一人の美しい女性がまめまめしく熱心に男物の服を干していた。その姿は見惚れる程に綺麗だったが、邪魔するのも悪いと思った私は早々に寺を出た。また、前回の聖杯戦争終結の地である新都の大火の跡、それと『間桐』の館にも行ってみた。大火の跡は人家の無い公園となっていた。私ならば慰霊塔を立てるだろうが……、いや、公園という形で良いのかもしれない。その地にて眠る死者達も公園の四季の移り変わりを眺めることで心を癒せるかもしれないから。『間桐』の館はとても陰気な感じがした。こんな家に住んでいるあの少女の身を考えると気が滅入るほど排他的で退廃的な空気だった。ともあれ、こうして町を巡ったわけだ。さて、これからどうするか。私が持ってきた全ては切嗣に渡され、病床の彼はそれらの助けをもって聖杯戦争に関わる筈だった。しかし切嗣は既にいない。そして私自身にはマスターとなる力も資格もない。ならば、他の誰かへと助力を申し出るしかない。私や切嗣の想いに共感し、我々の目的を成し遂げてくれるマスターにだ。前回でアーチャーのマスターだった男は問題外。間桐もアインツベルンもまず無理だろう。遠坂は『冬木の管理者』としての地位にある。まずもってその体面に泥を塗る行為はしない。つまり体面に係わると説得できれば、私に協力してくれる可能性は高い。柳洞寺の方だが、霊脈がある以上、マスターが居る可能性は高い。しかし、あの美しい女性のような感じの良い空気が漂うのだから、あの家に住む者、つまり魔術師もまともな人間と見て良いだろう。さて、遠坂と柳洞寺と、私はどちらの者に協力を申し出るべきか?聖杯戦争において非道な行動をしない事を条件にして交渉し……。いや、軽率な判断は危険だ。しばらくは彼等の戦い方を見よう。それから判断しよう。となると、どうやってこれから始まる戦いを観察するか、という問題になる。私にキャスターと同じ能力があれば楽なのだが。さすがにこの人形でもそこまでの力はなかった。……しかし、彼は遅いな。ふと、あの少年、士郎の事が気になる。随分と考え込んでいる内に、外は完全に暗くなっていた。彼には夜は家に居るようにと言ったのに、何をしているのだ?あと、一時間経っても帰ってこないのなら、彼の姉貴分に連絡をしよう。彼女の家の電話番号は、と……。私は腰を上げ、電話機が置かれている所へと歩く。この時代の電話であれ、私の時代での通信機であれ、普通はその近くに連絡先が書かれたメモがあるもの。それをさがして彼女の番号を調べるとしよう。と、その時、玄関が開く音がした。帰ってきたか。まったく心配させてくれて。安堵の息をつきながらそちらに向う。思った通り玄関には士郎がいた。五体無事だった。走って帰って来たのか荒い息をしていたが。しかし私は、「どうした、それは?」と、半ば驚愕し、かすれた声で彼に問う。少年の胸には、何かが突き刺さった跡があった。そして彼の破けたシャツは紅く染まっていた。