8歳の冬 6
現在我が家は重い空気に支配されていた。そのときまでは
マイルとドランと伴って来たのは、それぞれの男親とガトの父親、そして長。
今は家の中のテーブルに座っているが、ガトの父親とファーガスはガトを探しに行っている。
6人座れるテーブルの、片側に私と長と父が座り、もう片側にはマイルとドランが座り、もう一つの椅子は空いている。
「なあノル。父さんには話が全く見えないんだが、おまえらケンカしただけなんだよな?」と、空気を読まずに聞いてきた。
「まぁケンカしただけといえばそうだけども、子供のケンカで終わるといいなぁとは思ってたかな。でも、長が一緒に来てるってことは、このケンカの理由が広まるのはマズイってことなんじゃないかなぁ?」
「うむ、まあそうなんじゃが、ワシも詳細は知らぬのでな。マイルの父親に聞いた理由じゃと、口止めする必要があるかもしれぬとは思ったのう。どちらにせよ、ガトが来てからじゃな、ところでノルよ。米神の傷は大丈夫か?」
「うーん。ジクジクして痛いけど、我慢できないほどじゃないかな。父さん、まだ血でてる?」
「血は止まってるかもしれんが、腰巻布に血が広がって見ているだけでもちょっと痛いな。ノエル、ホラットさん呼んできて」
「はーい」
「・・・・長、この上でホラットさん呼ぶのはどうなんだろう?話の拡散を防ぐ的な意味で」
「ノーダ・・・お主もう少し物事を考えんか」
「(´・ω・`)ショボーン」
「ところで父さん、父親的に息子に怪我をさせた事について思うところは無いの?」
「そうだ!うちの息子を傷つけたやつは誰だ!」
私「遅いよ・・・」
祖父「遅いな・・・」
長「遅いのう・・・」
「(´・ω・`)ショボーン」
家族と長に総ツッコミを受けて、どことなく目が潤みだしている父を眺めてニヤニヤしていると、ガトのエリ裏を掴んで引き摺ってきたガトの父親が、ドアを開けて入ってきた。続いてファーガスも
「それでは、詳細を聞くことにしようかの。まずノル、何があったか教えて・・・」
「こんにちはー!ノル君怪我したんだって?大丈夫?とりあえず傷を見せてねー」ドアをバターンと開けてホラットさんが現れた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・(汗)」
「・・・と、とりあえずホラットはノルの傷を見てやってくれ、ノルは治療を受けながらでいいから何があったか話すように」
「あー・・・うん、えーと・・・なんか気が抜けちゃったなぁ」
「いいから話せ!」
「はーい。えーとまず、ファーガスがその3人?に言われてウチの狼2匹を寄越せと言いに来た。
ファーガスとは特にケンカすることもなく、話をして帰らせた。
次に、ファーガスが彼らの集まってるグループから追い出されて私のところにきた」
「その辺は関係あるのかの?」
『とりあえず頭に巻いてるこれ取るわねー』
「あんまり無いかもしれない」
「核心部分をとっとと話さんか!」
『あっ自分でこれ治療したの?ノル君やるぅ!いい応急処置だね!』
「えーと2日前、家に居るときにガト・マイル・ドランの3人が家にきて、剣呑な雰囲気だったからその場に居た姉ちゃんとメリス、トニとメルに狼2匹も家の中に非難させた、その場に狼いたら下手すると3人とも噛み殺しかねないし」
『あらー、結構ザックリいっちゃってるわね』
「ふむふむ」
「で、ケンカになった。理由は狼を寄越せって言ってきた3人の言葉を拒否したこと」
『ふんふーん(ゴリゴリ)』
「それで最初はガトと僕だけでケンカしてたんだけど、ガトを押し倒して殴ってた時にマイルとドランが乱入してきて、それからは3人で殴られて蹴られた。ちょっとホラットさんその虫なに!?なんですり潰してるの!?」
『これはミエットの幼虫よー、これとートロサの葉を一緒にすり潰して傷口に塗るの』
「うわぁ・・・。で、最後に『痛い目に合いたくなかったら明日狼達を俺達の所に連れて来い』って言って3人は帰っていった」
『ふんふんふーん(ごりごりごりごり)』
「次の日は、傷から熱がでて僕は一日寝てた。そもそも俺達の所に持って来いって言われても、持っていく場所知らない上に、渡す気なんかさらさらなかったけどね」
『できたっ!ちょーっと痛いけど我慢しようねえ』
「それで今日、ファーガスに3人の家の場所を聞いて、マイルとドランをそれぞれ待ち伏せて1対1でケンカしたん・・・・うぁ!いたい!痛いよホラットさん!?なにそのネバネバしたうす緑色の物体は!?え、なんでまだ刷り込もうとしてるの!?ちょっと、まって?あ・・あああああああああああああああ!!?」
『うふふーぬーりぬーり』
「そ・・・それで、2人ともケンカして泣くまで殴って帰ってきて、ここに・・・」
「ノルよ、無理するなよ・・・」
『次は体かな?服脱がせるわよー』
「まってホラットさん!脱ぐ!自分で脱ぐから!」
『そう?』
「なんで残念そうなんだ!」
『だってーノル君の体が気になるじゃない?怪我とか大丈夫かなーって』
「うう・・・なんだかもうぐだぐだだよう」
『あらー結構体も擦過傷とかひどいわね』
「え・・?塗るの?それ。大丈夫、もう自分で処置したから」
『応急処置でしょー?傷のことなら私に任せて!』
「ちょ・・まって・・うぁ・・・あ・・・あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『コレ塗っておけば大丈夫よ!』
「・・・・ゴホン。3人とも、ノルの言ってたことはそれで合ってるのか?」
「・・・うん」「・・・うん」「・・・はい」
「ノルエンはなんかもう見てて可哀想になってくるから置いておくとして」
「シクシクシクシク」
『ほらー傷ついたら今度からちゃんと来るのよー?』
「年下を3人で殴る蹴るするのも気に入らんのは確かじゃが、今回の焦点は狼2匹を暴力で脅し奪おうとした点じゃな」
「こんなことになるかもしれないと思ったから、親には話さずに僕らだけでどうにか治めようと思ったのに・・・うぁ、痛みと匂いで涙でてきた」
「臭いのう、ノル、あっちにいっておれ」
「ひどくない?それ!?」
『それじゃあ向こうで包帯まいてあげるわねー』
「ウォルフとウィフは一応家畜扱いとなっておる、家畜を盗んだ場合の罰は追放じゃ。今回は未遂とはいえ、暴力で奪い取ろうとしたことがちょっとまずい。いまだ成人はしていないからという問題では済まぬ、かといって実際は盗んだわけでもないしのう」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!なんでまだ塗るの?いじめか?これはいじめなのか!?」『塗り忘れと、薬余ってるからついでにいっぱい塗っておくわねー』
「まぁ厳重注意ってところじゃな、罰は・・・そうじゃのう。おぬしらそれぞれの家で、井戸を掘ること。家族が手伝っても構わん。ノルはこの家にある井戸を一人で掘ったらしいが、本当か?」
「シクシクシクシク・・・2ヶ月くらい掛けてほとんど一人でやった・・・よ」
『もーノル君があんなの作っちゃうから、掘る場所を占ってくれって皆に言われて私忙しかったのよ?くやしいから顔の傷にも薬塗ってあげちゃう』
「うぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うむ、まぁそんな感じで今回はよしとしよう、3人ともそれぞれ家で存分に怒られれば良い。ああ、ホラット。ついでにこの3人の傷もみてやってくれ」
「うははははあははは!僕の受けた痛みと苦しみの半分でもその身で受けるといいさ!」
『ノル君治療したら元気になったわね♪』
「なお、ここでした話を他に漏らすことは無いように。もし何か聞かれても、子供のケンカだったってことで口裏を合わせておくこと。まあそこの3人には、年下のノルに負けたという印象がつくわけじゃが、そこは甘んじて受けておけ。これも罰じゃよ」
なんかもう、ぐだぐだである。
この後、治療を受けた3人はマジ泣きした。
それぞれの家庭でこってりと叱られた後、家族で穴掘り作業がんばってくれといった辺りでこの1件は収束するかに見えたが、最初のケンカを見ていたメリスが彼女の友人達に『3人でノル君を苛めてたけど、ノル君一人一人とケンカして勝っちゃった』のような話を広めてしまい、彼ら3人の『年下に負けた男』という印象は、1週間もしないうちにディアリス中に広まった。
幸運だったのは、家の中に居たことで狼を寄越せと言っていた件を聞いていなかった事だが、ついでに私にも『怒らせたら怖い子』という印象が女の子達の間で広がっているとノエルに聞いた。
ファーガスは彼らと遊ぶことが少なくなり、大体私のところに来てはくだらない話をしたり、一緒に散策したりしている。
麦踏みの時期が差し迫った冬のある日の出来事
といった感じでこの話は終わりです。
一度フルボッコ編を書いたのですが、後に繋がっていく話とか考えると
主人公何者だよ?とか、やりすぎだよな!とかそういうイメージしか浮かばなく、後に話を繋げていくのが難しくなりそうだったので、全部修正して書き直し。
ホラットさんを呼んでみたら、えらいことになっちゃった今回のお話。
ほとんど会話というこの作品にしては異色の展開で進んでみました。