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No.8823の一覧
[0] じゃぷにか闇の日記帳 【A's再構成】【完結】[男爵イモ](2009/11/19 05:15)
[1] Nachthimmel 1[男爵イモ](2009/05/22 17:24)
[2] Nachthimmel 2[男爵イモ](2009/06/18 02:30)
[3] Nachthimmel 3[男爵イモ](2009/06/18 02:31)
[4] Nachthimmel 4[男爵イモ](2009/06/18 02:32)
[5] Nachthimmel 5[男爵イモ](2009/06/18 02:33)
[6] Nachthimmel 6[男爵イモ](2009/06/13 16:52)
[7] Nachthimmel 7[男爵イモ](2009/07/26 05:27)
[8] Nachthimmel 8a[男爵イモ](2009/06/21 10:24)
[9] Nachthimmel 8b[男爵イモ](2009/07/26 05:28)
[10] Nachthimmel 9[男爵イモ](2009/07/06 20:26)
[11] Regenwolken‐a[男爵イモ](2009/07/26 05:28)
[12] Regenwolken‐b[男爵イモ](2009/07/26 06:08)
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[8823] Nachthimmel 7
Name: 男爵イモ◆16267a69 ID:23e52052 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/26 05:27
・8月10日 火曜日 快晴
 今日は特別な日。とても素敵なことが起きた。






 浮遊感がはやての目を強制的に覚ました。直後、彼女の体はひっくり返ったピザみたいに床に着陸する。

「むぎゅ」

 交通事故に遭ったカエルもかくやという見事な潰れっぷりを披露したはやては、何が起きたのかわからなかった。
 なにか、夢を見ていた気がする。
 夏野菜カレーを食べる夢だと思ったが、すぐにそれは昨日の夕食の記憶だと気がつく。
 それでは、本当に見ていた夢はどんなものだったのか。
 思い出そうと頑張るが、無理だった。漸近線みたいにもどかしい感覚だけが頭の中に充満するだけで、求めるものは手に入らない。そもそも、なぜ思い出そうとしているのかもわからない。
 不快なモヤモヤを残したまま諦める頃には、ひんやりと冷たかった床に体温が移っていた。その生暖かさで、はやては自身が床に這いつくばっていることを認識した。
 網戸とガラス窓とカーテンで濾過された日光が、部屋を薄明るく照らしている。どうやら朝らしい。
 頭にかかった霧もだんだんと晴れてきた。

「ベッドから落ちるなんて初めてやわ……」はやては床に張り付いたまま呟いた。

 幸いにしてベッドはそれほど高くない。頑張れば上り直すこともできそうだ。
 両手を床について、オットセイみたいな体勢を作る。
 背中を反らせることによって頭を高く持ち上げ、あごをベッドの端に引っかけるようにして乗せる。
 床から手を離し、すかさずベッドの上、頭の両横に置く。
 腕に力を込めて、体を持ち上げる。
 上半身で乗り上げた後は、腕と胴体を上手く使って這い上がる。
 こうして一仕事終えたはやては、しかし、息一つつく暇もなく硬直した。

「……えっと」首を傾げる。「誰?」

 視線の先には、枕を抱きかかえて寝る幼女。あどけない寝顔が、はやてとそう変わらない年齢であることを告げている。

「んん……」幼女が寝返りを打つ。「はやてぇ……」

「え? ヴィータ?」眠りの甘みがブレンドされた声で名前を呼ばれた瞬間、それが誰であるかをはやては直感した。

 直後、ごろりんと寝返りをうったヴィータの小さい体に押されて、はやてはまたもやベッドから転げ落ちた。

「むぎゅ」

 再びオットセイになった彼女は、めげずに、でもちょっと涙目でベッドをよじ登った。そして、すっかり目が覚めてしまったので、三十分ほどじっくりとヴィータの寝顔を観察してから、はっとする。
 急いで闇の書を開く。
 しかし、昨日の日記に対する騎士たちからの返事は、ヴィータのことには特に触れていなかった。なので、本人から説明があるのだろうと推測し、再び寝顔を眺めることにした。
 更に三十分経ったが、飽きは一向に来る気配がない。
 このままヴィータが起きるまで眺め続けるのも楽しいだろう。けれども、ここではやてはもっといいことを思いついてしまったので、後ろ髪引かれつつも部屋を後にすることになった。
 向かう先はキッチンである。
 火を扱うそこは冷房をつけてなお暑かったが、それを上回る情熱で以て、はやては立派な料理を作り上げた。それもこれもヴィータを喜ばせたい一心によるものだ。料理は愛情などというが、初めて他人のために料理を作ったはやてには、その言葉が酷く納得いくものに思われた。

「あーん、もうあかん、脳がフットーしてしまいそーや」はやてはくねくねした。

 自分でも危ないと思うほど、心が躍っていた。これが最高にハイってやつなのだろう。いまならその辺を走っているロードローラーだって持ち上げられそうだ。
 キッチンとダイニングルームを行ったり来たりして、ちょうど全ての皿をテーブルに並べ終わったときのことだった。
 廊下を走る大きな音を、彼女の耳が捉えた。
 ドラムみたいに激しい足音はどんどん近づいてくる。

「はやて!」叫び声が部屋に飛び込んできた。それを見たはやては、ボウリング玉を連想する。

「おはよーさんやー。えっと、ヴィータでええんかな?」

「あ……、うん」

「そか」はやては微笑む。「ほんならヴィータ、まず朝ご飯に……、と、その前に着替えなあかんな」黒い粗末な服から視線を外し、天井に向けて数秒の思案。それでコーディネートは完成した。「うん、サイズも同じくらいやし、いまは私の服で我慢したってな。ほら、そうと決まればもっかい部屋に戻るでー」

 あまりに普通なはやての様子につられてか、ヴィータは素直に頷き返す。
 はやては、つい先ほどまでの気の昂ぶりが嘘のように落ち着いていた。目覚めたヴィータを前にした途端、自分でもどうしてなのかわからないが、そうなったのだ。
 しかし、熱から醒めたわけではない。
 真夏のギラギラ輝く太陽から、春の柔らかい日ざしに変わったようなもの。言い換えるなら、自身を満たそうとする一種の攻撃的なところがなくなって、逆に、色々なものを上げたいと思うようになった。求める交換の方向こそ劇的に変化したが、交換したい、関わりを持ちたいという根本の部分は何一つ変わっていない。
 要するに、幸せだということだ。





「メシウマ!」
「デカウマ!」
「ヘクトウマ!」
「キロウマ!」
「メガウマ!」
「ギガウマ!」
「テラウマ!」
「ペタウマ!」
「エクサウマ!」
「ゼタウマ!」
「ヨタウマ!」





「こやつ、やりおるわ。全て平らげおった」はやては弟子の秘められし力に戦慄を禁じ得ない老師の口調で呟いた。

「もうお腹いっぱい」あれだけの料理をどこに格納したのか、小さいままのヴィータが言った。「ごちそうさま、はやて」

「はい、おそまつさま。お茶飲む?」

「うん、ありがと」

 尋ねるよりも早く、はやては急須から熱い緑茶を注ぎ始めていた。その様子を、ヴィータがじっと見つめている。
 湯気を立てるマグカップ。ふわりと広がる香り。冷房の効いた真夏の室内と組み合わせれば、なかなかの贅沢品である。

「熱いから気をつけてなー」

 ヴィータはマグカップを小さな手で受け取って、口元に運び、ゆっくりと傾ける。ちびちびと熱いお茶を啜る姿は、両手で大事そうにカップを抱える仕草や、その小柄な体格と相まって、小動物のように見える。今度はその様子をはやてが眺める番だった。
 視線にエネルギーが宿るなら、間違いなく華奢な体を貫通していただろう。そして、それほど熱心に見つめられれば、見られる側が気づくのも当然のことだった。

「……なに?」

「なんでもー」はやては自分がニコニコとしているのがわかった。一歩間違えれば頬が落ちてしまうかもしれない、と思う。

「あそう……」困惑顔のヴィータは、視線をマグカップの水面に戻した。が、一分も経たない内に耐えられなくなって、再びこちらを向く。その視線が、先ほどと同じ質問をしていた。

「なんでもないよー、気にせんとってー」

「…………うん」ヴィータはますます困った顔になる。それが可愛らしくて、はやてはますます喜んだ。

 同じようなやり取りが、お茶が冷めるまで続いた。
 頑張って息を吹きかけた甲斐あってぬるくなったそれを一気に飲み干し、ヴィータははやての方を見る。
 目が合う。
 唐突に、ヴィータは自分の顔を両手で挟むようにして叩いた。パン、と乾いた音が鳴る。

「ど、どないしたん?」はやてはびっくりして尋ねる。

「気合い入れただけ」ヴィータが答えた。彼女の真剣な瞳が、はやてをまっすぐ見る。「ごめん、はやて」

「え?」

「最初から……」しかし、言葉はすぐに失速し、目がわずかに揺れる。それでも、はやてから逸れることはなかった。やがて口が開く。「……本当は、あたしだけは、最初から出てこられたんだ。それに、闇の書があっても、やっぱり広い家に一人でいるのは寂しいって知ってた。でも、出てくるつもりはなかった。だから、ごめん」

 はやては返事をせずに、しばらく黙っていた。
 怒っているのではない。ただヴィータの発言を分析し、考察していただけだ。そちらの回路が熱を上げるほど回転しているせいで、感情にまでリソースを回す余裕がなかった。
 耳で聞き取った言葉を、頭の中で繰り返し再生して、精密機械のようにスキャンする。そんなイメージを抱いたときには、既に答にたどり着いていた。

「出てこられるんはヴィータだけ?」

 はやての予想通り、ヴィータは頷く。

「そんなら仕方ない。ヴィータも優しいから……」はやては微笑む。「シグナムかシャマルか、それともザフィーラ……、んー、みんな言いそうやけど、でも、そう……、最後に背中押したんはシャマルかな」

「うん。自分たちのことは気にしなくていいから、はやての傍にいてあげてほしいって」

「そう言われても、気にならんはずないもんなあ。それに、みんなの方こそ闇の書の中で寂しかったんとちゃうか?」手を伸ばして、はやてはヴィータの頬に触れた。「みんなに謝らなあかんのは私の方や。ヴィータを取ってしまってごめんな、って」

「ううん」ヴィータは首を振る。「あたしたちは、はやてがいたらそれだけでよかったから。でもさ、シャマルは寂しがり屋だから……、だから、はやてがたくさん話しかけてあげてよ」

「そうなん?」はやては尋ねる。いまいちイメージに合わなかった。「シャマル、寂しがり屋?」

「え? あ、いや、あたしが言ったってことは」ヴィータはここまでの態度と一転、大慌て。大げさに見えるが、真面目な表情と同じく、こちらも地なのだろう。

 はやては不意に、梅雨明けの空を思い出した。雨降りばかりだった空が、青く晴れ渡った日のこと。
 もう一ヶ月以上も前だ。

「あはは、安心しー。言わへんよ」

 今日の空も、雲一つ見あたらない。
 綺麗に晴れている。





・8月10日 火曜日 快晴
 今日は特別な日。とても素敵なことが起きた。
 ついにヴィータと一緒にご飯を食べることができました。
 ヴィータは美味しいと言ってくれた。安心です。
 そして、シグナム、シャマル、ザフィーラの三人に謝らなければいけないことがあります。
 みんなからヴィータを取ってしまってごめんなさい。
 みんなは闇の書の中に三人きりで寂しくはないですか?
 これからは、みんなでもっとたくさんお話しましょう。






 翌朝はやてが見た返信より抜粋。

『我々は闇の書から出ることはできずとも、主はやての姿を見ることができます。それだけで寂しさを感じることはありません。あまり心配しないでください。 Signum』
『ヴィータちゃんをよろしくお願いしますね。きっと楽しい生活になりますよ。 Shamal』
『我等のことは気になさらず、主はやてはご自身の生活を第一にお考えください。もしそれでもと仰るなら、ヴィータにかかる手間で帳消しにして頂ければ。 Zafila』




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