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No.881の一覧
[0] はこ (ホロウ×月姫クロスオーバー・ホロウネタバレ有り)[仮性悪魔](2005/11/25 20:53)
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[881] はこ (ホロウ×月姫クロスオーバー・ホロウネタバレ有り)
Name: 仮性悪魔
Date: 2005/11/25 20:53
遠坂たんけんた~い、遠坂たんけんた~い♪
はいっ、我々は只今、遠坂邸の掃除へとやって来ています!
我々と言ってもワタクシ、アンリ士郎ただ一人なんですがっ!

つーかまぁアレだ。
何回か前のループで体験した遠坂凛所有のびっくり面白宝箱とかあったろ?
あの中に入って四日目の夜を迎えたらどうなるか? とか思っちゃったワケよ。
どうもあの中ってば『この世界』の時間軸から微妙……いや、盛大にズレてるみたいだし、そーすっと繰り返す四日間というルールだって無効化しちまえんじゃない?
そこで10月11日の今日、掃除と称して留守中に入り込んだ遠坂凛の寝室で宝箱に潜入しようってハラなわけ。
こんな行動、衛宮士郎がとるハズも無いんでオレ丸出し出ずっぱり状態よ。イヤン。
……では他にも色々室内を物色してみたい欲望を抑えつつ宝箱オープン!

―――箱の中には、ちんまりと少女が入っていた―――

「はい?」

思わずバタンと蓋を閉じる。
いや、ナンデスか? なんか見覚えの無い幼女が中に入ってたような。
つーか生きてんのか、アレ?
一見して生気の感じられない―――そのクセやたら存在感と言うか魔力の感じられるヒトガタだったぞ?
まさか遠坂のヤツが幼児誘拐の末に実験材料として使い殺してこの中に詰め込んだなんてオチじゃ―――いや、俺は信じてるぞ。信じてるからな、遠坂。

それにまぁ、この中は変な所と繋がっていることもあるし。
以前も別の時間軸、別の空間座標の箱から混線してきたお嬢様とご一緒する事になった事もあったじゃないか。
あの後の顛末については不覚にも記憶があやふやなんだが……多分、思い出さない方が精神衛生上良いような目に遭ったんだろう……

ともかく、もう一度開けてみたらいつも通りというオチだって可能性としては有るワケで。
意を決してもう一度オープン・ザ・ボックス!

―――箱の中には、ちんまりと幼女が入っていた―――

うわ、ヤベェ目が合っちまった。
キョロリと、大きな瞳でもってこっちを見返してくる小娘。
サラサラの金髪、折れそうに細っこい手足、人形じみて整った小作りな顔立ち、柔らかそうな白いドレスはシルク地に金糸銀糸の刺繍入り。
どっから見てもイイトコのお嬢さんって感じの娘だが、その目だけは尋常じゃねぇ。
紅い。
ソレは強烈な魔力(チカラ)を秘める、真性の魔眼のイロだ。

「アナタ、誰?」

小首をかしげて小娘が口を開く。

「オレは―――だ」

思わず答えてギョッとする。
何気なく聞かれただけのはず、無意識に答えただけのはずだったのが、強烈な言霊に引っ張られて本当の―――衛宮士郎を被っているオレ自身の、名乗れるはずの無い名を答えさせられたのだから。

「テメェこそ……何者だ?」

一気に緊迫したオレの雰囲気など気が付かないのか気に留めないのか、小娘は箱から小鳥のようにヒラリと立ち上がり部屋へと侵入してきやがった。
ふわりと、足首に届くほどの長い金髪がなびく。
そして、優雅な動きでペコリと会釈しつつ

「はじめまして、この世の全ての悪。私は、アルクェイド・ブリュンスタッド」

そんな、トンデモナイ事を口にした。

 *****

「ほー、それじゃ、その爺さんがこの箱をくれたのか」
「そう。大事な物をこの中に入れなさいって」

オレがとりあえずと入れた砂糖たっぷりミルクティーのマグカップを両手で包むように持って、ポツポツとコトの経緯を語るアルクェイド。
テーブルを挟んで座る、やや背が足りずに難儀している姿は普通の小娘のようにも見える。
袖口から伸びる手首も指も、ちっさくって細っこいが―――折れそうだなんて感想、とんでもない。
コイツがその気になりゃあ、枯れ木のようにペキリと折られるのはむしろオレの方。

アルクェイド・ブリュンスタッド。

真祖の白き姫君。堕ちた真祖の処刑人。吸血鬼共の天敵。おそらくは、攻性生物として五指に入るこの星の頂点の一人だ。
例えば、あのアインツベルンのサーヴァントですら、コイツの前では紙切れのように八つ裂きにされるに違いない、犬や蜘蛛にも匹敵する真性の殺戮者。
ついでに言えば、コイツに箱を渡したって言う爺さんはキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。宝石、あるいは万華鏡の名で知られる五人の魔法使いの一人だろう。
遠坂の始祖のお師匠さんにあたるらしいが、なんでも落ちてくる月を魔法で押し返したとかなんとか。
はっきり言ってどっちも歴戦の化物。
この世の全ての悪なんぞ、コイツ等の前じゃ霞むどころか消え失せる勢いってもんだ。

「でも私は『大事な物』って何の事か判らなかったわ。それで、お城の皆に大切な物って何かを聞いたら、我々にとって一番大切なのは貴女ですって言われたから」
「はぁー、それではこの中に?」

コクリと頷く姫君。
普通なら心温まるチョット良いオハナシなのだが、そこには一片の温もりも感じられなかった。

ときに、衛宮士郎という俺ならともかく、アンリ・マユというオレはけっこう物知りである。
何処かの王様は「世界は我のものなのだから、我の知らぬ場所があっては下々が迷おう」などと言っていたが、道理はそれと同じ。
世界の全てを呪うという立場上、呪うべき対象たるその世界について、ある程度の事は「知っている事になって」いる。
コイツも、魔法使い共も、それに俺も、その「ある程度の事」に含まれる存在。
この世が本なら、俺達は本文よりも目次に組する者。
この世がゲームなら、俺達はプレイヤーではなく明記されたルールの方に近い。
世界の登場人物というよりも舞台装置と言うべき存在なのだ。だから、コイツはオレを知っていたし、オレもコイツを知っている。
そして、その役割や経歴の大まかな部分も。

真祖の姫君とは、愛され、育まれるものではない。
ソレは本来『運営』される同胞殺しの武器だ。
元来、真祖なんて連中には人間性など対してありゃしない。
奴等は自分の持って生まれた役割に従って生きるだけの存在でしかない。
役割とはつまり、増えすぎて星を蝕む人間種を管理し、処罰する抑止力としての機能だが、やつ等はその殺しに喜びも悲しみもなーんも感じねーんでやがる。
それは『生きている』と言うより『在る』というだけの在り方。
だってそうだろ?
自分の欲望もなく、果たすべき役割だけを機械的に果たすなんて、生きているとは言わない。それじゃあまるで、何処かのセイギノミカタじゃねーか。

ともかく、だからコイツに『お城の皆』とやらが言ったのは『大事な兵器』『替えが少ない殺人の道具』って程度の意味でしかない。そこには愛情なんてありゃしないし、そもそも真祖には愛情自体持ち合わせが無いんだから、仕方ねぇっちゃあ仕方ねぇ事だ。

もっとも、真祖にも感情らしきものは一つだけ存在する。
それが吸血衝動。
人間の血を吸いたいという欲望だけが、真祖の感情―――ニンゲンに対する愛情なのだ。
そんな愛に、溺れるヤツがいる。
血を吸いたいと言う欲望に抗いきれずに堕ちる真祖がいる。
そんなヤツは魔王と呼ばれ、同属から壊れたモノとして排除される運命にあるのだ。

その執行者、同族殺しこそアルクェイド・ブリュンスタッド。
オレの目の前で、フンフンと物珍しそうにクッキーの匂いを嗅いでいる小娘だった。
『大事な物』なんて言葉の意味も知らない、物知らずな小娘、だった。

―――イライラする。
実の所、真祖の処刑人とは言っても、コイツ自身がそうだと言う訳じゃ無い。
実体を持つものの、人よりも精霊に近いコイツ等真祖は腕力や運動能力が肉体に左右される事は少ない。少ないがそれでも、単純なリーチは腕の長さ、瞬発力には脚の長さが関わってくるし、なにより肉体的に未熟な者は精神的にも熟し切る事は難しい。
だから、この姫君はこの後数年の眠りを経て、成熟してから実戦に充てられるはず。
あの箱を通じてココに来ちまったが、本来コイツは過去の存在。処刑人と呼ばれるのは、これから先のコイツである。

だからコイツはまだ、くだらない繰り返しを体験してはいないだろう。
同族を殺し、記憶を消す。
それが真祖達の、姫君の運用法。
そしてまた同族を殺して、リセット。
また同族を殺し、リセット。
また殺しリセット。また殺しリセット。リセット。リセット。リセット―――

それは
名前すら奪われたある男が
体験させられたあの空虚とどれほどの違いがあると言うのか

「冗談じゃねぇ」
「?」

思わず漏らした声に反応する小娘。
不思議そうにオレを見る姿はそこらのガキと何も変わらない。
一番大切な姫君。
一番大切な殺戮兵器。

いいさ。全部オレがブチ壊してやる―――

 *****

てなわけで、やって来ました『わくわくざぶーん』。
ここで閉館時間までたっぷり遊ばせて、白い姫君をあーぱー吸血鬼にしちまおうって算段だ。
うんうん、買ってやった白い水着も良く似合ってるぜ。

「………………」

流れるプールで浮き輪に捕まってプカプカ浮いてる姫君。
連れてきておいて言うのもアレだが、日光も流れ水も平気とは、なんつー吸血鬼か。
規格外にも程がある。

「………………」
「なぁ、もーちょっとワーとかキャーとか反応は無いのかよ?」
「どうして?」

…………ダメだこりゃ。
波間のクラゲの方がまだ感情を持ってるんじゃないかと言う様な無感情。
顔は可愛らしいが、やっぱりお人形だな、コイツ。
だが、ここで諦める訳にはいかん。作戦第二段階実行と行こう。

「よーし、それじゃあビーチボールで遊ぼうか。ルールは知ってるか?」
「知らない」
「あー……とりあえず、こう、投げたボールを相手の方に叩いて返すんだ。で、ここに引いた線からこっちがお前の陣地、あっちが俺の陣地。自分の陣地でボールを落とした方が負けな」
「わかった」

コクリと頷くアルクェイド・ブリュンスタッド。
よしよし、おにーさん素直なガキんちょは好きだぞー。

「じゃあ行くぞー! そーれ」
「……そーれ」

―――その瞬間。
ビーチボールが音速の壁を突破した。

「は?」

ありえない速度を与えられ、空気抵抗に圧縮されて錐のように変形したビーチボールが、オレの腹へと突き刺さる。

「ぎ―――」

加速度によって増加した瞬間のエネルギーは数トンに達しただろうか。
スパン、という乾いた音と共に吹っ飛ぶオレ。

「―――やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

そのまま波のプールへ突っ込んだオレは、海面を二つに割って反対の壁面へ突き刺ささった。

 *****

「大丈夫?」
「鍛えてますから」

人差し指と中指を揃えて立てて、手首をクルリと回しながら答える。
イヤ、マジで、普段の衛宮家で鍛えられてなかったら再起不能だったぞ。
とにかく、スポーツはダメだ。特に対戦型のはダメダメだった。
死んだって一日目に戻るだけとはいえ、オレだってこんな所で死にたくは無いし。
さて、そうなると安全っぽい遊びを考えなければいけないワケだが……

「そうだ、お城を作ってみるか」
「……おしろ?」
「おう。この波のプールにゃ丁度良く砂まで敷き詰めてあるからな、こー砂を集めてだな、ぺたぺたと固めて……」
「……お城」

瞬間。
周囲のマナが凝固した。
並みの魔術師数千人分に及ぶかと思える、突き抜けた自然干渉の力が解放される。
空想具現化。
受肉した精霊である真祖が持つ、あらゆる現象を意思のままに出現させる世界の書き換え。
その規模は真祖の純度に左右されるが、ブリュンスタッドの名を持つ者は、その名と同じ城を具現化すると言う―――

「ちょ、ちょ、ちょっとま―――」

止める間もあればこそ。
アルクェイドは周囲の砂をかき集めて、千年城ブリュンスタッドのミニチュアを具現化させた。
高さ、俺の身長の二倍強、幅はその2.5倍はあろうか。
時間が凍りつく。
いや、そう言う魔術ではなくあくまで比喩表現。
本日、わくわくざぶーんにはカップル親子連れギャルおば様集団ヤロウばっかの寂しい集まりなど、沢山の一般人の皆様が楽しいひと時を過ごしているわけで。
そんな中でこんなとびっきりの不思議現象など起こされたらパニックになってしまう。
幸い、今なら現実を脳が受け入れきれずに停止しているようだし―――

「お城?」
「いっ…………」
「い?」
「今すぐ元に戻しなさーい!!」
「きゃっ!?」

―――うやむやにして誤魔化すしか無いのであった。

 *****

戻すのも一瞬でやんの。
つくづくレベル違いの能力を持ってやがる。
一瞬で現われて一瞬で消えた、まさに砂の城に関しては、どうやら集団白昼夢か何かという事で、全員深く考えないようにしたらしい。
その辺、人間ってのは信じたい事しか信じない常識的態度ってヤツが深く身についてて、オレとしてはいい加減かつ大変素晴らしい習性だと思っている。ケケッ。

人工砂浜を元に戻した後、手作業で砂を盛って山を作ったりトンネルを掘ったりもしてみたが、姫君はお気に召さないらしく終始無表情。
まぁ『思うだけ』でアレだけの事が出来る存在にゃ、こんな遊びは面白くも無いか。
正直オレにとっても退屈だし。

こーなったら仕方が無い。
伝家の宝刀を食らわせてくれる。
この『俺』、衛宮士郎の持つ最強スキル!

餌付けの威力を思い知るがいい!!

「おい、食いモン奢ってやるから着いてこい」
「…………」

意外と砂山造りに集中してたのか、反応に一拍間が空いた。
大きな赤い眼が俺を見ると、パチパチと数度瞬く。
それからコクリと頷いて、水着から砂を払いながら立ち上がるアルクェイド。

「あー、そうだな……先に手を洗って来い、あっちに水道があったから。洗ったらあっちの青いパラソルの下に集合な」
「…………」

コクリコクリと、律儀に指示の回数だけ頷くと、姫君は金髪を揺らして水場へと小走りに駆け出した。
素直は素直なんだよな。
ただ、中身のパワーがブルドーザーなだけで。

さて、あの小娘が好みそうな食いモンを……まぁそれほど口が肥えてるって事も無いだろう。真祖の城に料理好きが住み込んでるとも思えないし。アレの好物と言うなら生き血だろうが、まさかそれを呑ませる訳にもイカンしなぁ。
人間の血液は真祖にとって格別の寒露。
けれど、それは精霊や神霊すらも狂わす猛毒なのだ。
かつて、メデューサと呼ばれた神霊の女も怪物となったように―――

「っと、今は買い物、買い物」

定番のヤキソバにフライドチキン、焼きオニギリ、ホットドック、本格ハンバーガー、カキ氷、トロピカルジュース。アルクェイドに食べさせたら大きなお友達がハァハァ言いそうなフランクフルトにソフトクリーム。
おお、なんかロコモコとかヤキトリ丼まで有るよ、ここのメニュー。

まぁ適当に……オススメ! とか書いてる本格ハンバーカーとやらで良いか。
「おう、待ったか?」
「……?」

クキっと首を傾げる真祖の姫君。
こいつ、待つとか待たされるとかいう時間感覚も持ってないのか、ひょっとして。
なんてーか―――色々とムカツクのはナニが原因なのやら。

「まぁいいや。とりあえず食ってみろ。存外時間がかかった分、ウマイかもよ」
「いただきます」

おお、ちゃんとお行儀は叩き込まれてるのか。
ついでに十字でも切って日々の糧を神に感謝したりしたら爆笑したんだが。
おっ、食ってる食ってる。
小さな口には余るそれをまぐまぐと食う姿は小動物のようだ。
が、残念なことにあまり美味そうにはしてくれない。

「…………旨いか?」
「馬?」

ダメじゃん。
味覚が無い―――いや、食う事が楽しいって認識が無いのだろう。
真祖って連中の全てがそうなのか、コイツが特別に育てられたのか。
ホントに、ナニが楽しくて生きてやがるのか。
ああもう、どーしようも無いじゃねーか。
仕方ない。せめて料金分ぐらい泳いでから帰るか。

「ったく……ソレ食ったらもうひと泳ぎ行くぞ」
「コレは?」

口の周りにケチャプを付けて姫君が指差したのはトロピカルジュース。
見た目が楽しかろうと思って買ってきたのだが、今時ハートを描くストローが二本刺さっているというコッ恥ずかしいカップル仕様だったりする。

「ああ、これは飲み物。こうやって―――!?」

ストローを咥えて飲んでみせた途端、アルクェイドがもう一方のストローに口を付けやがった。
うがぁ!? これじゃあまるでロリコン兄さんみたいじゃねーか!?
慌ててストローから口を離すオレ。
が、口にストロー咥えたままのアルクェイドが、オレのストローの先を手にとって突きつける。

「……ん」
「いや、ちょっと待て」

何が気に入ったのか、二人で飲みたいらしい。

「ん!」
「だから、あのな?」

チラリと横を見ると、なんだか隣の席のカップルが二人の世界を創ってトロピカルジュース飲んでる。
テメェ等が原因ですかそうですか。

「ん!!」

姫君の赤い目に光りが灯る。
このガキ、ついに魔眼まで使ってきや――――――
「きゃー、仲の良い兄弟ね」
「でもチョット危なくないー?」

髪の色とか全然違うだろうが、この通行人AB!!

 *****

「あー、なんか疲れたー」

ドサリと、遠坂邸のソファーに腰を下ろす。
勝手知ったる他人の家。
手には二人分のミネラルウォーターのペットボトルを冷蔵庫から失敬しております。
あの後幾つかのプールを廻ってみたが、姫君は始終無表情のままだった。
それでも、最期の抵抗とばかりに、ペットボトルを渡しながら聞いてみる。

「あー、なぁ、おい。今日はその……楽しかったか?」

イマイチ要領を得ないオレの問い。
それに、またクキリと首をかしげて。

「分からない。『楽しい』が何なのか、分からない。ゼル爺はいつか気付くって言ったけど、私にはまだ分からない」
「……そっか」

思わず肩が落ちる。作戦は失敗に終わったようだ。
負け惜しみ交じりに、最期の捨てゼリフを吐く。

「まぁ、仕方ねぇか。そうだな、その『いつか』が来た時、今日の事を思い出してくれや」
「それは無理。私はこれから眠りについて、これまでの事は忘れてしまうから」
「なっ!?」
「私は、必要の無い事を覚えていてはいけないの。だから、これから大人になるまで眠って、必要なことだけ覚えたままで目覚めるって、皆が言ってたの」

おい。
おいおい。
おいおいおいおいおいおい。
そりゃ何の冗談だ?
こんなガキを殺しの道具にするために育てて。
ほんの僅かな思い出を持つことも許さずに、勝手に必要と不要に別けて切り捨てさせるのか?

星を穢す悪魔となった同胞を抹消するための、それは崇高で大切な責務。
真祖という、星のために奉仕する事だけを存在意義としたセイメイの、それはセイギ。
だが、そのために犠牲を強要される側の気持ちは―――自分が哀れだと悲しむココロさえ奪われたモノの魂は。
いったいどうしたら、救われると言うのか―――

「それで良いのかよお前は。それを、哀しいとか悔しいとか思わないのか?」

怒りに、赤く染まる視界。
その中で、アルクェイドはコクコクと水を飲み干して

「分からない。私はそういう風に出来ていて、そういう風に出来ていないから。ただ、ゼル爺は言っていたわ。楽しいという気持ちがどんなものか、そんなものは、道端で石につまづいた拍子に気がつくものだって……もっとも、私は石になんてつまづかないけれど」
「…………」
「その言葉だけは、きっと目覚めた後も覚えていると思う。たとえ忘れたとしても、覚えていると―――貴方の事と今日の事も、覚えていたいと思う」

静かに、ただ淡々と語るアルクェイド・ブリュンスタッド。
それで問答は終わりと告げるように、クルリときびすを返した。

「帰る。おみず、ごちそうさま」
「アルクェイド・ブリュンスタッド!」

宝箱の中に入ってゆく白い背中。ゆれる金の髪。
その背に、思わず声をかけた。

「真祖の白い姫君、お前に『この世の全ての悪』が呪いをかけるぞ。それも飛びっきりの呪いだ。お前はこの先、きっと、ぜったい、間違いなく、石につまづく。それも特大のトンデモナイ怪物級の石にだ。馬鹿みたいで、はちゃめちゃで、奇跡のような石にだ。せいぜい派手にスッ転びやがれ!!」

当然ながらオレにそんな呪いをかける能力なんか無い。
これは、ただの祈りのようなもの、ただの願いのようなものだ。
それでも、心から、オレは、この世の全ての悪は願った。
いつかコイツを受け止められるような、度量の大きな石コロに、コイツがつまづくようにと。
だからまぁ、それだって呪いの一種になったって良いだろう。

箱の蓋が閉じる寸前。
純白の姫君が振り向いた口元が、笑みの形になっていたのは。
たぶん、俺の見間違いなのだろうけど。

 *****

バタンと、蓋が開く。
暗い部屋。冷たい空気。
ここは千年の沈黙に閉ざされたふるぶしき城、千年城ブリュンスタッド。

「おかえり、ちいさな姫」
「……ゼル爺」
「眠りに着く前の、ほんの小さな冒険は楽しかったかい?」

箱を開いてアルクェイドを出迎えたのは、ニコニコと笑う魔法使い。
銀のお髭に赤い目の魔法使いは、いつも楽しいと言って笑っている。
アルクェイドには分からない。
楽しいという意味すら判らない。

「わからない」

今日出会った『この世の全ての悪』は、ずっと何かに怒っていた。
頑張ってる誰かが報われないのは許せないと、そんな事を思っているようだった。
アルクェイドには分からない。
怒るという気持ち自体が理解できない。

「わからないわ、ゼル爺。でも」

でも。

忘れたくないと、思った事がある。
最期にかけられた呪いも、覚えていたいと思った。
それは、きっと―――

「―――でも、『大切』って何なのか、少しだけ分かったかもしれない」

それは不確かな陽炎のように。
目が覚めれば忘れている幻のように。
けれど、箱の中にぎゅっと詰めて守っておきたい、大切な、大切なユメのカケラ。


そしてずっとずっと未来。
姫君は特大のトンデモナイ怪物級の、馬鹿みたいで、はちゃめちゃで、奇跡のような出会いを経験して。
青空の下で笑ったり怒ったりするようになるのですが。
それはきっと、もう皆が知っているお話です。


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