久しぶりの更新なのですが、一点ご注意
今回は実験的にシリアス解除しております。
イメージが崩れたりしても作者は責任はとりませんし、賠償もしませんが、謝罪は致します。
申し訳ないorz(←ヘタレの予防線)
大丈夫だという方は下へどうぞ
《アークラインの煉獄塔》 第50階層 月齢:《小望月》
相変わらず最低限の休暇と座学以外は《煉獄塔》へと詰めるPT《紅銀狼》であったが、45階層からこの50階層に到達するまでに約2週間という時間をくっており、徐々に進行スピードが遅くなって来ていた
さらに月齢も《小望月》とモンスターが凶暴になっていく為、思うように先へと進めずにいた
「ちっ、すまん、一匹そっちに抜けちまった」
「了解。私が対処するわ、ノルンは敵後衛の牽制をお願い」
「わかった」
前線でジークに抑えられていたオークの影を縫うように現れたゴブリンナイトが、ジークの横をすり抜けていってしまう。最前線で斧槍を振り回し筋骨隆々の魔物オーガと豚頭のオークを吹き飛ばしているジークが激しく打ち合いながらも、後ろの二人に伝える
次の瞬間、弓を背中のホルダーへ収めたルナが腰の双剣を引き抜きゴブリンナイトへと切りかかっていく。あでやかな容姿から判断したのかゴブリンナイトは左手の盾を構え、雄叫びと共に一直線に突進を仕掛ける。が、その先にルナの姿は無く、見事に回避されたたらを踏む事となった
当のルナはまるでダンスを踊るかのようにゴブリンナイトを回転しながら避け、無防備なその背後にたった。そして両手に構えた剣を分厚い鎧に守られていない首筋と腰の継ぎ目から刺し込み、切り裂いてしまう
魔人種モンスター大半にとっての急所を抉り取られたゴブリンナイトは耐え切れず魔力光を放ちながら《煉獄塔》に喰われて行く。後には、その存在があった事を示す盾が乾いた音を立てて地面へと転がるだけであった
その頃になるとオーガ一体とオークアーチャー1体を残し全滅しており、ジークがオーガと、ノルンがオークアーチャーとそれぞれ戦闘を行っていた
もっとも、力任せにしか戦えないオーガと歴戦のジークでは技量が高い分ジークが押しており、足の遅いオークの弓使いが接近された時点でノルンの勝利は確定しているのだが
ルナがそう考えながら双剣を鞘に収め、背中の弓を再度取り出し矢をつがえようと構えたとほぼ同時にオーガとオークアーチャーが光を放ちながら消えていく
「……終わったようだな」
「みたいですね」
「まだほんの3ルームしか進んでいないのに消耗が激しいわね」
そう言いながら、ルナは矢を回収しながら《結晶》を拾い集めていく
「ああ、幾ら《小望月》とは言え、このモンスターどもの凶暴性は異常だな。……嫌な予感がしやがる」
「でも、引けませんよね? 正直このごろ迷宮攻略スピードが落ちているので余裕をもって探索したいです」
周囲を警戒中しているノルンを横目に床に散らばった武器・防具を回収していくジーク。生物以外の多種多様な物を保管できる《ペナーテスの法袋》唯一の弱点が、入れた物の重量は変わらず持主の負担となるという点である
その結果、基本的に軽い《結晶》の類はルナ、杖やローブといった軽装備はノルン、剣槍斧金属鎧といった重量級の武器防具はジークが回収を担当する事となった
「それは確かだが、死んだら意味がないだろう。っと、この盾なかなかの良品……って、俺が欲しいのは金属鎧なんだよ。いらない時には無駄にドロップする癖に欲しい時には全くドロップしてくれないんだよな」
「って、ジークさんの鎧もう傷だらけじゃないですか!?」
この階層を探索する前の打ち合わせで嬉しそうに金属片を打ちつけた強化革鎧お披露目していた彼を見ていたルナがその革鎧の傷跡をみて驚く
金属部分はまだマシなのだが革の部分が矢の痕、剣で斬られた痕がしっかりと残っており今日が初めて使用したようには見えない程、消耗していた
「ははっ、何時もの癖で回避より攻撃での前線維持選択したらこのざまだよ。やべぇ、ポーションと鎧のメンテナンス代金を考えると本気で泣けてくる」
「ああ、ジークさんそんなに動かないで下さい。私の快癒魔術は範囲も回復量も少ないんですから、動かれてしまうと止血ぐらいにしかならなくなってしまいます」
《結晶》を回収し終わったルナがスキルを使いヒールをかけていく。本人が言うとおりの効果しかない術の為、戦闘中の使用は不可能で、効果も下級ポーションと同程度とはっきり言って薬箱程度の扱いだったりする
もっとも資金不足に喘ぐ《紅銀狼》にとってはありがたい品物の為、重宝されていたりもするのだが……
「ルナ、もう大丈夫だ。そろそろ、移動しようか」
「わかりました・・・・・・ん~、右と左どっちに行きます?」
「学内報によれば、どっちでも階段まで行けるみたいですよ」
「学内報って、それは信用できるのか?」
そう言ってルナが持っている紙を覗き込むと、そこには確かに現状と同じマップが記載されていた。それを見て感嘆の溜め息を放ち、道順を確認していく。
幸いどちらのルートも罠の類は確認されておらず、注意すべきはモンスターだけのようだった
「これは有り難いな・・・・・・今は北を向いてるから、最短ルートだと左ルートを通って次のルームで北に向って2ルーム移動で階段部屋だな。右ルートだと、どん詰まりまで行って北に4ルーム、西に5ルーム、南に1ルームで到着と」
「明らかに左ルートの方が早いですよね・・・」
「ただこの階段前の大広間が怪しいな。今までのパターンからすると高確率でボスモンスターのお出ましだ」
「どうしましょう?」
そう言って顔をつき合わせて首を傾げ悩むルナとジーク。そんな二人を指差しながらノルンが決断を迫る
「ここで悩んでたって仕方ないでしょう!? ここはさっさと多数決で決めましょう。私は左ルートを推します。理由はもし大広間にボスが居たとしても、戦うなり、突破して階段に逃げ込むなり、ここまで逃げて来るなりすればいいからです」
「むっ、確かにそれはそうだが、万が一退却も許してくれない場合もありうるし、俺は右ルートかな」
「・・・・・・期限も迫ってきておりますし、時間短縮優先で左ルートをお願いします」
というわけで、女性陣の選択によって左ルートを行く事になった。塔内は基本的に小部屋・大部屋を人が三人並んで通れるぐらいの広さの通路が繋いでおり、通路の途中でも罠やモンスターと対面する事は良くある事であった
見た目はレンガ造りの通路なのだが、馬鹿みたいに頑丈な素材で出来ているらしく武器や魔法で破壊される事はほとんどなかった。もっとも歴代の修練生の中には大広間の床の大半を爆砕した天災級の魔術師や希少スキル《破砕の眼》を使用して壁をぶち抜いた怪物はいたりするのだが・・・
「ここにはモンスターは無し、か」
「やっぱり次のルームですか・・・・・・」
「だろうな」
左ルート一つ目のルームにはモンスターはおらず、部屋の中も特に異常は無かった。その中心で三人は顔をあわせて相談するが、ここまで来たら行くしかないと結論に達し、北へと向う通路へと足を踏み入れる
そのまま3分ほど進み問題の大広間を視認出来る位置へと辿り着き、三人は溜め息をついた
「・・・いないみたいだな」
「心配して損しました」
「早く51階へ向いましょう」
そう言って《紅銀狼》の三人が大広間に足を踏み入れた瞬間、大広間の出入り口が塞がれてしまう
「なっ、罠!?」
「ククク、引っ掛かりましたね!?」
「グフフフ、このテイドのワナにカかるとはナンとテイノウなモノタチなのでしょう」
「ムッムッムッ、我等のワナ素晴らしかっただけであろう」
「うわぁ、マジで伝説の三匹かよ。てっきり都市伝説か何かとおもってたのに・・・・・・」
「というか、あの三匹はなんなのですか!? おかしいでしょう!? とくに真ん中のオーク! 首から上を外せば唯の変態じゃないですか!!」
次の瞬間、周囲に響いた声と同時に天井から部屋の中心へと三つの影が飛び降りる。その言葉を聞いた瞬間、ジークはTPOを忘れその場に跪きうなだれてしまう。見事なorzであった
次に起きたのは三体の影を姿を直視したノルンの錯乱であった。その三体はゴブリン、コボルト、オークであった。だが、その装備が明らかにおかしい。三匹とも赤を主体とした色のピッチリとしたスーツに身を包み、眼には大きなゴーグル手足には白い手袋と白いブーツ・・・明らかに防御力は無さそうであった
ノルンもまだコボルトとゴブリンだけであったのなら、まだ耐え切れたのだろうが三匹の中心に立つオークはダメであった。というのも、どうやら三匹のスーツはほぼ同じ物で、オークの体積はゴブリン・コボルトの2倍~3倍ある。そう、オークはピッチピチの赤スーツに身を包んでいたのだ。どれぐらいピッチピチかというとオークの腹の毛の数を数えられるくらいにピッチピチだった
「ククク、どうやら恐怖で錯乱したようですね。15年前は登場した瞬間に爆砕され、20年前は変態の一言を残して逃げられ、30年前は出口を閉め忘れたせいで突破された我等トリプルヒーローズにもとうとう勝利の時・・・」
「クフフフ、そう苦節30年、とうとう我等にも勝利の時がくるのだ」
「ムッムッムッ、ようやく我等のちか「死ね、豚がッッ!!」あ・・・あれ?」
「フフフ、ジークフリート様? 早くあの腐れた汚物を取り除いて下さいな、フフッ、フフフ」
大広間中心でポーズをとりながら自分たちの言葉に酔っていた三匹、特に中心に居たオークへと矢が突き刺さっていく。初めは額に、次は喉と胸部に突き刺さっていく。それを呆然と眺めるジークであったが、後ろからの小さな声で我に返る
「了解いたしました!」
「フイウちとはヒキョウなり! レッド、ダイジョウブか!?」
「すまんヴァーミリオン・クリムゾン、俺はここまでのようだ・・・・・・俺の仇を頼む!」
「・・・レッドォォーーーー! 貴様等ぁゆるさんぞぉぉ!!」
「……煩いわね」
光へと変換されていくオークを抱きながら怒りの咆哮を上げるコボルトに対して冷ややかな微笑と侮蔑の視線を浴びせ、一言でその怒りを切り捨てるルナ
それを冷ややかさを背中にひしひしと感じながら敵へと一目散に吶喊を掛けるジーク。正直目の前のボスモンスターよりも後ろで冷ややかな狂気を放つルナの恐ろしく感じていたりするジークであった
「ほら、ノルン、一番の汚物は取り除いてあげたのだから、いい加減正気に戻りなさい? あんまり手間を掛けさせるようなら明日からの御飯はピクルス尽くしにするわよ?」
「それはヤメテ!! って、何でルナの《月神の加護》が発動してるのよ!?」
「フフフッ、そんな事はどうでもいいじゃない。それよりもアレを処分してきて、ね?」
「分かったから、その笑いはやめて!」
そのやり取りの間にもコボルトとゴブリンが虚空より取り出した剣と激しい打ち合いをしているジーク。1対2でしかも相手はボスモンスターであったが、恐怖に駆られたジークの後先考えない攻撃で一応の均衡は保たれていた
そこへ長剣を振りかざしてノルンが割り込んでくる。その援護攻撃に礼をいうより先に、ジークは真顔かつ小声でノルンへと問いかける
「…ノルン、あの状態は何だ?」
「……あれは《月神の加護》の特殊スキルが発動してるの。発動条件は精神的に大ダメージを受けた時、発動中は月と狩猟の女神セレネの狂気と冷酷さに影響されるのよ」
「だから、あの状態なのか・・・」
「ナニをこそこそとハナしている!?」
「征くぞ、ヴァーミリオン! 合体攻撃だ!!」
「おう、我等のちk「五月蝿いッ!!」」
ノルンにジークが色々と確認しているのを見て馬鹿にされていると逆上したコボルトとゴブリンが必殺技っぽいモノを放とうとした瞬間、苛立ちを込めて投げたジークのトマホークがコボルトの頭にスコンという良い音と共に直撃する
「バ、バカなタめのアイダはコウゲキされないハズ・・・ヴァーミリオン・・・・・・ヴァーミリオーーーン!!」
「で、続きは」
「えっと、スキル効果はPTの弓矢・投擲武器・魔術――遠距離攻撃の威力・命中率のU「それよりも発動を終わらせる方法は!?」って、ショック状態から落ち着い「フフフッ、ジークフリート様、ノルン、余裕ですか?」ごご、ごめんなさい、今すぐ倒します」
「同じく頑張ります!! ・・・・・・ん? コボルトは何時の間に倒したんだ?」
「………気づいてなかったんですか」
「何がだ? っと、それより後1匹潰せばこの状態から抜けれるんだ! ノルン、いくぞ!!」
「勿論です」
「サキにイったドウシタチよ、どうかワタシにチカラを」
一気に間合いを詰める二人を見つめながら、そう言って剣を振りかざすゴブリン。その言葉に従って空中にオークとコボルトの亡霊が現れ、ゴブリンの中へと入っていく。次の瞬間、ゴブリンの小柄な身体を黒い靄が囲い、中から骨と肉が軋む音が辺りへと響き渡る。ちなみにルナは亡霊となったオークをみて小さく舌打していたりする
そうして、靄が晴れたそこにはコボルト程の身長の三面六臂のゴブリンがいた
「クフフフ、どうだ、これがワタシタチのサイシュウオウギ、トリプルヒーロズverアシュラだ!!」
その六本の腕に一個ずつ武器を持ち、紅いスーツの上に豪奢な金属鎧を装備したゴブリンが声を張り上げ、誇らしげに《紅銀狼》へと武器を突きつける
「気持ち悪い」
「腕の稼動域が狭まりすぎだろ、常識的に考えて・・・」
「……汚物は消毒しないとね?」
「え? ウソぉ・・・」
次の瞬間、《紅銀狼》に散々言われ、斧槍の嵐に吹き飛ばされ、剣と炎の乱舞焼き刻まれ、止めに矢の豪雨に降られ、六臂あろうとも意識が一つでは防ぎきれず、圧倒的な物量差によって殲滅された
塞がれた通路も開き、三人は無言で残された武器を回収していく
「早く帰ってねよう・・・」
「…………ええ、今日は帰りましょう」
「あぅぅ、ジークさんの前でやっちゃったぁ・・・」
階段の上にある51階転送機に辿り着いた三人が放ったその言葉が本日の最後の会話となったのだった
あとがき
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回は戦闘をちょっとコメディっぽくしてみたつもりですが、作者の筆力ではこれが限界でした
お許し下さい
後、毎回多くの感想を下さる方々本当にありがとうございます。
リアルで色々と事情が重なり更新がおざなりになっておりまして、申し訳ない(不景気のバッキャロー!
今後も細々と更新は続けていくつもりですので、何卒よろしくお願いします
おまけ
今回のBOSSモンスター
名称:トリプルヒーローズ
概要:
オークヒーロー:レッド コボルトヒーロー:ヴァーミリオン ゴブリンヒーロー:クリムゾンの三体から構成されるボスモンスター
戦闘力は三体揃っていれば全能力A判定だが、一体でも欠けるとCまで弱体化してしまう。英雄といえども所詮は低級魔人種である
過去、3回しか確認されていないレアモンスターだが、見た目から全力で戦闘を拒否されるか、初めから無視されてしまい、戦闘になる事すら稀なモンスター
あまりのインパクトの為に、アークラインでは都市伝説として代々語り継がれている(作中のジークの伝説~はこれ)
PS
修正しました。遅くなって申し訳ないです