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No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
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[8635]
Name: Neon◆139e4b06 ID:547a6d2b 前を表示する
Date: 2018/07/29 02:18
「お前の部隊に俺を加えてほしい」



開口一番、効果音が出そうな程のアップでゲルトが詰め寄った。

食事処での一席である。

対面に座っているのは一人。

仕事上がりなのだろう、管理局の制服に袖を通したままの女性だ。



「……ゲルト君。
 駆け引きって言葉、聞いた事あるか?」



箸を掴んだままで目を瞬かせる彼女、八神はやては呆れたように引きつった声を上げた。

彼女の前にはまだ通しが置かれただけ。

茶の一杯も口にしてはいない。

ようやくと腰を下ろした瞬間の出来事であった。



「もちろんだ。
 だから先にこちらの希望を伝えさせてもらった」

「直球勝負やなぁ……」



ゲルトには微塵も気後れする様子はない。

らしいと言えば、らしいか。

シグナムの仲介で卓を囲んだ二人。

ゲルトとはやて。

旧友にしてかつての同僚。

ゲルトにとって共に過ごした時間で言えばなのはやフェイトよりも濃い付き合いという事になる。

そんな彼女はオホン、と咳払いを一つ。



「それでは、ゲルト・グランガイツ・ナカジマ准陸尉。
 あなたを採用する事で我々にどういったメリットがあると思いますか?」



だからこそはやてはややおどけたような声音で箸を突き付けてみせた。

さながらマイクでも向けるような仕草。

意外にもゲルトは小芝居に乗ってくれた。



「はい、私は地上部隊勤務が長い為に現場レベルでの顔が利きます。
 少々の無理を聞いてもらう程度の貸しは作ってありますから、各所との連携が取りやすくなるでしょう」



それこそあちこちから舞い込む救援要請に渋りもせず応じてきた。

恩を売ったというと聞こえが悪いが、面と向かってゲルトにNOを言える地上部隊員は少ない。



「また、僭越ながら戦闘単位としても便利であると自負しております。
 たとえ大幅な魔力制限を受けたとしても不足なく戦闘が可能です。
 新設部隊では魔力保有制限が悩みの種なのでは?」



戦闘力については言わずもがなである。

少なく見積もっても地上部隊随一。

大きく見るなら教導隊最上位クラス。

伊達にエースオブエース、高町なのはと相打ってはいない。

それでいてゲルトはリミッターの影響を受けにくい。

一部隊の保有できる魔力の総量には制限が設けられている現状、これは大きなメリットと言えた。



「なるほど、確かに強力な隊長陣を抱える当方としては少ない魔力でも戦える騎士の存在は魅力的ですね。
 ですがあなたほどの才能が現部隊から異動するとなると周囲の反発が大きいのではありませんか?
 そうなると最初に仰られた地上部隊との連携に支障が出るのでは?」

「いえ、少なくとも108部隊内での反発はありません。
 部隊長との交渉も任せて頂いて結構です」



説得できるカードはあるという事だろう。

それは何だろうか。

それはゲルトにとって、そしてナカジマ家にとっての因縁か。

その話題は……まずい。




「何より遺失物管理課での職務として戦う事になるのは先日現れたガジェットドローンになる筈。
 私は過去、首都防衛隊所属時にアレらとの交戦経験があります。
 AMFへの対処法も、ガジェットらを製造している人間にも心当たりがあります」



これだ。

やはりゲルトはこちらの事情を察している。

ミッドチルダ式全盛の今の時勢では確かにAMFの存在は鬼門。

それに対する心構えが出来ているかどうかで随分違う筈だ。

言うだけはあって、現実に彼はガジェットの群れをほぼ単独で圧倒してのけている。

ゲルトを拒む合理的な理由など存在しない。



参ったなぁ。



穏やかな微笑みを浮かべながら、はやては内心で溜息を吐く。

こうなる事は読めていた。

個人的にもゲルトは是が非でも欲しい人材だ。

シグナムにも散々説かれたが、今更ゲルトの能力について云々される必要など微塵もない。

かつての同僚であり、長年の知己。

彼の頼もしさなどよく承知している。

しかもガジェットとの交戦経験が豊富で、戦闘機人事件の正真の当事者。

この件に関しては他の誰より強い熱意を持って当たってくれるだろう。

これ以上の優良物件がどこにあるというのか。

だが……だが、しかし。



わざわざカリムに釘刺されてしもうたからなぁ……。



スポンサーの意向には逆らえない。

そうでもなければもうとっくの昔にゲルトは部隊メンバーに名を連ねていた事だろう。

最善の手は目の前にあるというのに、その方法も分かっているというのに、それを選べない。

これが中間管理職という事か。

はやては茶で喉を湿らせながらもう一度心の中で大きく嘆息する。

その瞬間を、ゲルトは見逃さなかった。



「……やはり、カリムさんから止められているのか?」



咽る事も出来ずに息を飲んだ。

心臓が止まるような衝撃。

まさに急所を突かれた。



「――――カリムがどう関係あるん?」

「どうやら当たりらしいな」



平静を装い、取り繕ってみてもゲルトの目は誤魔化せない。

先のガジェット戦からこちら、ゲルト自身驚くほどに勘が利くようになった。

気配の変化に対する嗅覚が鋭くなったとも言える。

一から間を飛ばして十を察するような、飛躍した結論が閃くのだ。

むしろ後から思考の流れを自ら推理するような羽目になる。

以前から時折戦闘の最中に感じる事もあったそれが日常生活にも現れるようになった

それでも、この直感は信頼に足るとも理解していた。

断片は揃っているのだ。



「シグナムがここ最近頻繁に教会に誘ってくれていたからな」

「…………」

「ああ、勘違いはするな。
 シグナムは何も話していない。
 とはいえ、俺に一声もかからないってのはあまりに不自然だろう?」



かつてはやてが研修生として108部隊に来ていた頃も幾度か自分の部隊について仄めかしていた。

それが現実味を帯びた途端にお声がかからなくなる。

不審に思ったのはそこだ。

こちらの素性などもちろん把握されているに違いない。

その上で部隊の人事に口出しできる人間はどれだけいるか。

部隊長であるはやてが遠慮する人間とは誰か。

それを逆算しただけだ。

こう考えてみるとシグナムは己の部隊加入に随分骨を折ってくれていたのだろう。



「しかしカリムさんか……。
 そこまで嫌われているとは思わなかったが」

「それはちゃうで」



もはや誤魔化しは利くまい。

そう取られても仕方ないが誤解を与えたままは良くない。

特にゲルトと教会の関係悪化の原因になるなど死んでも御免だった。



「むしろ逆や」

「俺の加入を妨害するのにか?」

「ちゃう、私はゲルト君を分隊長には出来ひん。
 それがゲルト君を新部隊に入れられへん理由や」



准尉はあくまで下士官の最高位。

士官を差し置いて隊長の地位に就くなどあり得ない。

さて、では彼女の作る新部隊の構成員とは何者か。

部隊長は当然発起人であるはやて。

恐らくはなのは、フェイトといった幼馴染勢。

半ば私兵集団でもあるヴォルケンリッター。

いずれもゲルトより上の階級の人間ばかりだ。



「俺は下っ端で全く構わないが」

「分かってるよ、私はな。
 でも他人の思う“良かれ”が絶対にその人の為になるとは限らへん」

「お節介な。
 俺が直接話しても無理か?」

「う~ん、まぁ無理やろうな。
 この件かてカリムが全部仕切ってる訳と違う」

「そうか……」



つまり教会のもっと上層部が動いていると。

この小僧一匹に一体何を期待しているのやら。

“予想通り”新部隊に自分自身が加入するのは無理筋らしい。



「ただ、これは私の決定や。
 ゲルト君を押し退けてでも欲しいと思った人材がおった、結局は私が選んだ事や」

「……流石に部隊長だ」



あくまで責任は全て自分に、という事らしい。

友人相手にここまで啖呵を切れるとは見事。

ここは嫌味もなく素直に称賛を贈る。

そうでなくては。



「まぁ、恨みはしないとも。
 昇進から逃げ回ってきたツケが回ってきたって事なら自業自得だ」



……良し。



ゲルトはさも無念を噛み殺すがごとく口元を覆って見せる。

むしろ今更いいよ、などと言われても困る所だ。

これでようやく本題に入れる。



「なら次の提案だ」

「伺いましょう」



こちらが、いやさこちらこそ本命。

これを外す訳にはいかない。



「俺の知り合いを紹介する。
 そいつの適正を見て欲しい」

「知り合い……ゲルト君の代わりって事か?」



ゲルトは頷いた。



「士官学校を出たばかりだが伸びしろは十分だ。
 お前が欲しいのは手元で育成できる新人だろう?」

「それ、もしかして……」



はやても流石に気付いたか。

そうとも。



「ああ、ティアナ・ランスター三等陸尉だよ。
 もしかするともうチェック済みか?」



ある意味当然だろう。

ティアナはゲルトの弟子として公式に登録されている。

つまりはゲルトやクイントといった地上最精鋭から直接指導を受けた証に他ならない。

ただ、



「そらリストには上がっとるけど、ええんか?」



何事かあればすぐに解散される期間限定の実験部隊。

思惑はどうあれ、新部隊の実情はそれだ。

進んで参加したがる人間は限られてくる。

新人狙いは魔力保有制限の兼ね合いだけでなく部隊の構成事情が大きい。

昇進のチャンスを狙う若年層くらいにしか魅力を提示できないのである。

部隊長である自分で言うのも何だが、妹分を薦めるような魅力的な環境ではない。



「構わない。
 ティアナは執務官志望だ。
 現役執務官のフェイトから学べる事は多い」



執務官は言うまでもなく狭き門だ。

義兄も執務官だったというフェイトとの勤務は必ず得るものがあるだろう。

亡き兄の遺志を継ごうというティアナにとっては見逃せる筈もないチャンス。

そこに実績もついてくるなら言うことなしだ。



「ただ、あいつに部隊指揮の経験はまだない。
 部下には気心の知れた奴を入れてくれた方が安定するだろうな」

「例えばスバルとかか?」



ああ、とゲルトは頷いた。

ティアナとスバル。

訓練校と士官校とで進路は分かれたが、寝食を共にした二人の信頼感は上々。

奇しくもティアナがゲルトに弟子入りしたのは丁度はやてが108部隊に出向していた時分である。

その辺りの事情ははやても承知している。



「スバルならコンビで動く訓練も積ませてある。
 それに憧れのなのはと働けるなら喜んで誘いを受けるだろうよ」



スバルはあの空港火災で助けられて以来、ずっとなのはの背を追っている。

ゼストに憧れた自分にもその気持ちは理解できる。

まず断るまい。



「お誂え向けやな」

「俺にとっても、お前にとってもな」



まったくや、とはやては頷いてみせた。

視線は一度テーブルに下りた後、再びゲルトへ。



「ゲルト君からみて二人はどんなもんかな?」

「……客観的とは言い難くなるが?」

「そら構へん。
 まぁ、訓練校の成績とか一通り目ぇは通したから優秀なんは分かる。
 でも、ゲルト君にはちゃう目線があるやろ?」



もっともである。

さて、自分にとっての二人がどうであるか……。

あまり言葉にした事もない、が。



「……まずティアナは、性根とは裏腹に器用な奴だな。
 完全に畑違いの俺達の指導でもきっちり吸収するものは取り込んでる。
 魔法の手数もなのはの下でならまだまだ増やせる筈だ」



当然だがゲルトやクイントではミッドチルダ式を教えてやる事はできなかった。

結局ティアナが学んだのはベルカ式を起点としたミッドチルダ式へのメタ戦術に過ぎない。

ゲルトらが教えられたのは言わば少ない手札でも、つまり弱くても勝つための方法論だ。

“強くなる”方法を教えてやれた訳ではない。

むしろそこから自分の欠点や死角を減らすべく噛み砕いて実践できるというのは器用な証。

教導隊流のミッドチルダ式に触れれば一気に伸びるに違いない。



「逆にスバルはバカみたいに真っすぐだ。
 搦め手が得意なタイプじゃないが、正面からぶち抜けるだけの爆発力がある」



シューティングアーツは母クイント直伝。

仮想敵は兄ゲルトに姉ギンガ。

些か以上に贅沢な環境であろう。

切り札であるIS、振動破砕こそ素性秘匿の観点から封印させているが、十分な戦闘力だ。



「まさか、カリムさんから二人まで禁止されてるとは言わないだろうな?」

「無いけど、ちなみにもし言ったら?」

「そうだな……教会のお節介にはほとほと愛想が尽きた、という事になるかもな。
 そもそも訓練とはいえベルカの自治領なんて縁もない所へ通ってたのが異常だよな?」

「……言われてんでよかったわ」



恐ろしい。

おおよそ最悪のシナリオだ。

ベルカ希望の星であるゲルトが教会と袂を分かつ、その原因になるなど考えたくもない。

タダでさえ微妙な聖王教会との関係が一気に悪化するだろう。

こちらのやって欲しくない所までバレているらしい。



珍しく意地の悪い真似を……。



当の本人はこちらの視線などどこ吹く風。

にやりと口元を釣り上げる様は、白髪の元上司をダブらせた。

あの人もよくあんな風に悪戯っぽく笑っていた。



「ゲルト君ちょっとナカジマ三佐に似てきたんとちゃう?」

「それはどうも、これ以上ない誉め言葉だな」



皮肉も通じないのか。

冗談でもなく満更でもない様子だ。

それはともかく、とゲルトは居住まいを正した。



「二人とも最低限は仕込んだ。
 足手まといにならない事は保証する」

「ゲルト君がそこまで言うほどか……」

「ああ、何せ俺から“腕一本”もぎとったコンビだ」 

「それは将来有望やなぁ」



苦笑しながら左手を叩いてみせる。

けらけら笑うはやては半ば贔屓目混じりとでも思っているのだろう。



「にしてもティアナ・ランスター三等陸尉に、スバル・ナカジマ三等陸士、か……」



ふぅむ、とはやては顎に触れた。

ゲルトの教え子達。

士官学校や訓練校での評価も上々。

ゲルトがごねるようなら難しいかと思っていたが、彼の方から薦めてくれるとはありがたい。

どうしても自分を入れろと粘られるのが今日最も警戒していた訳だからこれは嬉しい誤算である。



「…………」



魅力的な話だ。

ゲルトは無闇に世辞を言うタイプではない。

事前調査でも注目していたが、これは期待できる。

ゲルトとの仲が良好であると教会にアピールできるのもいい。

彼自身の加入を受け入れられない現状、提案としても現実的な話だ。

内容はほぼこちらの考えていた代替案と同じ。

即答はできないが、最良の選択肢と言っていいだろう。

そう考えれば腹はすぐに決まった。



「まずは会ってみる。
 それからの決定になるやろうけど、ええかな?」

「もちろん。
 だが気に入るさ、俺の自慢の妹分達だ」

「それ、二人の前で言った事あるん?」

「……おだてると調子に乗る。
 今のも余所に流すなよ」

「ふふっ、お兄ちゃんも大変や」



二人自然に笑みが零れた。

今くらいは同じ年頃の友人同士として同じ時間を。

ようやくと目の前の食事に箸を伸ばす。

今更ながらに舌鼓を打ちながら二人は久方ぶりに親睦を深めるのであった。




**********





「もうこんな時間か。
 送っていこう」



話が決まった後はただ和やかな食事会だった。

思えばこうしてゆっくりと向かい合う時間など随分久しぶりの事。

お互い積る話は幾つもあった。

しかして楽しい時間ほど瞬く間に過ぎ行くもの。



「ええよ、そんなに遠い訳でもないし」

「もう少し話したい事もある。
 俺に付き合ってくれないか」



それはとても世間話をするとは思えぬ真摯な面持ちであった。

むしろこれからが本番という事であろうか。



「……そういう事ならお願いしようかな」



はやてに断るという選択肢はない。

普段も使っているというゲルトの大型二輪は表に停まっていた。

二人乗りを想定した大出力のモデルだ。



「ほら、使ってくれ」

「ありがとさん」



無造作に投げ渡されたフルフェイスのヘルメットを受け取る。

デザインは明らかに女性ものだった。

平時はギンガが使っているものに違いあるまい。

少し悪い気もしたが、ゲルト自身の誘いである。

流石走り出しも手慣れたものでタンデムに不安は感じなかった。

夜風は食事で温まった体を気持ちよく冷ましてくれる。

車両での移動とはまた違う爽快感。

背後に流れていく灯火の光。



「それで?
 話したい事ってなんなん?」

「…………」



話すだけなら食事処でも出来た。

わざわざ場所を変えるとなると重要な話には違いない。

それも移動中かつヘルメットで口元まで覆ってという事になると盗聴対策、あるいは読唇対策まで気にしている事になる。

深読みのし過ぎでなければ相当の話になるだろう事は想像に難くなかった。



「もしかすると気付いてるかもしれないが……」



ゲルトも遂にポツポツと口を開き始めた。



「俺は、何としてもスバル達をお前の部隊に入れたい。
 その為なら、俺は俺自身の因縁も脇に退ける」

「……みたいやね」

「理由がある」



カーブを曲がり、一般道から高速道路へ。

湾岸のハイウェイを深紅のテールランプが彩る。



「俺の経歴については調べたな?」

「それは――うん、勝手にごめん」

「いい、手間が省ける」



特に気にした素振りも見せないゲルトは話を続けた。



「ならそれを踏まえてまずは昔話に付き合ってくれ。
 話は十年以上前。
 俺が戦闘機人第一号、タイプゼロファーストと呼ばれていた頃の話だ」



己の起源。

全ての始まり。

死と鮮血に彩られた過去。



「知っての通り、俺は人を殺めた事がある。
 それも何人もな。
 性能試験でもしたかったんだろうが、魔導師やら傭兵やらと殺し合った」

「…………」



茶化すような話ではない。

無言のはやては彼の独白を聞き逃さぬよう耳を寄せた。



「俺は死にたくなかった。
 がむしゃらだった。
 何をしてでも生き残りたい、そんな未練があった」



それが無ければ案外あっさりと死んでいたかもしれない。

いや、きっとそうだ。

腕前以前の問題である。

幼く未熟だった自分に、相手を殺してでも生き残るという決心ができたかは怪しい。



「当時研究所には俺以外にも二人の実験体がいた。
 俺が倒れれば次はあの子達の番だ、俺はそれが許せなかった」



それだけは絶対に許し難かった。

だからこの手を血に染めた。

幾つもの死線を潜り、幾つもの命を奪った。

精神は摩耗し、怨嗟を呟く亡者の声に夜も眠れない。

それでもあの子達を守りたかった。



「だから俺は生き残れた。
 あの子達が、俺にとっての命だった」



今は抱えるものも多くなったが、あの頃の自分にあったのは二人だけだ。

あの二人がいたからこそ、死線を潜る事ができた。

潜ろうという気概ができた。

例え血に塗れても。

例え手足を吹き飛ばされても。

それでもあの二人の為なら戦えた。



「それが、ギンガとスバルだ」

「……え?」



呆然としたような声。

振り返らなくても分かる。

はやての見開かれた目が瞼に浮かぶようだ。



「二人は俺よりも早く施設から保護されて、それまでの経歴は抹消。
 戦闘機人としてじゃあなく、母さんと父さんの実の娘として迎えられた」



この上ない幸運だった。

彼女達は生まれも育ちも真っ当な人間という事になった。

後ろ暗い世界とは縁が切れたのだ。

初めてこの世の奇跡を信じる事ができた。



「なんでそんな大事な事、私に……?」



はやてにもようやくこの異様なまでの防諜に合点がいった。

ゲルトがことさら義理の姉妹を大事にしていたのも納得である。

成程これは気を使う筈だ。

しかし、ならばこそ解せない。

秘密を知る人間は少ないほどいいのは当然。



「なぜか?
 決まってる」



ゲルトにとっても苦肉の策だった。

それでも必要なのだ。

はやてが、彼女の部隊が。

それらの力が。



「スバルの事を守ってほしい」

「……誰かに狙われてるんか?」

「証拠は何も。
 ただゼスト隊が壊滅したあの日、俺達は完全に待ち伏せされていた」



脳裏にありありと思い浮かぶあの日の惨状。

偶然の出会いである筈がない。



「局内の、それもかなりの上から情報が漏れていたのは確実だ。
 ギンガやスバルの身の上も知られている可能性は捨て切れない」



そして昨日のガジェットのギンガへ向けた不審な視線。

ゲルトは同一の敵であると判断した。

そして姉妹の秘密にも辿り着いている危険性が高いと言わざるをえない。

だからこそ最悪の事態に備え、スバルを危険な災害救助の現場から遠ざけておきたい。

そして出来るなら信頼できる強力な部隊へ預けたい。

はやての新部隊設立はゲルトにとって、いやナカジマ家にとっても好都合だった。

父や母も同意しての事だ。

勘の域を出ないゲルトの妄言を、二人も信じてくれた。



「お前の所なら寮生活で二十四時間誰かの目が届く。
 しかも部隊の構成員は指折りの精鋭揃いだ。
 これ以上の部隊は地上のどこを見てもそうはない」



部隊長、八神はやて。

教導隊のエースオブエース、高町なのは。

法務を統括する執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

ヴォルケンリッター、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。

バックヤードスタッフも充実している。

次元航行部隊レティ提督の実子、グリフィス・ロウラン。

元武装隊員、ヴァイス・グランセニック。

執務官補佐、シャリオ・フィニーノ。

ゲルトの口から次々に挙げられる面々。

総じて若いが、実力のある人間ばかりである。

名前の羅列に驚いたのはむしろはやての方だった。



「もうそこまで調べたんか……」

「俺も捜査官だ。
 言ったろう?
 地上にはツテがある」



まだ正式な部隊立ち上げ前なのだが、中核メンバーの殆どは把握されているらしい。

人脈がある事は知っていたものの、それを単独で使いこなせるとは思わなかった。

ゲルトは本気で新部隊、機動六課に妹分達を送り込む気のようだ。

どれもこれもスバルの身の安全への不安からか。



「ガジェット共が相手なら、どこかの段階で必ず戦闘機人事件と関わって来る。
 そして奴らが実際に生きて動く戦闘機人に手を出さない保証はどこにもない」



サンプル、標本、実験体。

嫌な想像は幾らでもできた。

その末路がどうなるのかも。

それをこそゲルトは恐れる。



「お前が必要と判断したなら今の話を部隊内で共有してくれてもいい」

「本気なんか?」

「ああ、本気だ」



思わずゲルトの腰を掴む手が強くなる。

彼に迷いは感じられない。



「言うたら悪いけどティアナは隠れ蓑か?」

「そう思われても仕方ない。
 確かにあいつはスバルの体の事情を知ってるし、仲もいい。
 あいつがスバルの直接の上司になってくれるなら言う事なしだ」



結果的にはティアナを出汁に使ったようなものだ。

言い訳はしない。

しかしティアナもまたゲルトにとっては身内同然。



「ただ、あいつにとっても今回の事は絶好の機会だ。
 あいつの夢を叶える手伝いをしてやりたい、これも俺の本音だ」



二兎を追う。

常のゲルトではありえぬ強欲。

それもティアナとスバルの為ならば飲み込むのが彼だ。

それがゲルトだ。



「不足だが手土産も用意させてもらった」



さらにゲルトは己の上着のポケットを探るように告げた。

言葉の通りに彼の衣嚢をまさぐれば出てきたのはごく小さなフラッシュドライブであった。

はたしてその中身は、



「俺が記憶する限りの戦闘機人関連の捜査情報と、個人的に今日まで集めてきた追跡資料が入ってる」

「それって八年前の?
 でもあの事件は……」

「ああ、現在機密情報扱いで当時関わってた俺でもアクセスできない。
 だからこれ自体に証拠能力はないと思ってくれ」

「……いや、十分過ぎるお土産や」



ペンよりも軽いフラッシュドライブが今はとてつもなく重く感じる。

機密指定された捜査情報の恣意的な漏洩。

言うまでもなく厳罰に処されてもおかしくない危険な行為だ。

ゲルトの覚悟の程が伝わってくるようである。

しかし、解せない。



「なんでや、なんでここまで……。
 私らがガジェットを追ってるからか?」

「それもある。
 ただ、決め手はお前達なら信じられると思ったからだ」

「私達なら?」



ああ、とゲルトは頷いた。

その言葉に嘘偽りなく。

何度でも言おう。



「俺はお前達なら信じられる。
 信じて、妹達を預けられる」



それはこれまでの友好が結んだ信頼。

それはこれまでの行動から読み取れる打算。

情と理。

二つが揃ったからこそ踏み切れる。

例えば、



「はやて、お前は誇り高い。
 シグナム達と縁を切るならお前は普通の人間として暮らせたはずだ。
 闇の書の汚名を被る事もなく、教会や管理局の顔色を窺う必要もなかった」



しかし彼女はそうしなかった。

わざわざ汚名を背負い、新たな家族を見放さなかった。

その決断をした。

なら、同じく新たに身内となる部下を見放すような真似はすまい。

そう信じられる。



「フェイトは、優しい奴だ。
 人造魔導師計画を潰しながら、エリオ達の面倒も見てる。
 口だけじゃなく実際に行動に移せる人間だ」
 


ゼストやクイントもそうだった。

可愛そうだと憐れむ人間はいるだろう。

どうにかしないとと叫ぶ人間もいるだろう。

だが、人の命を預かる事はそれとは全く違う。

それを出来る人間が、同じ人造生命たる同胞を見捨てる訳がない。

そう信じられる。

そして、



「なのはは、あいつは……」



彼女は特別だ。

彼女は既に二度までもゲルトを救ってくれている。

スバルを、そしてゲルト自身を。

妹にとっての憧れの星。

己にとっての――――。



「あいつは、強い。
 俺にはできない戦い方ができる。
 俺にはできない守り方ができる」



戦技教導隊のエースオブエース。

己が一対一で勝ち切れていない唯一の存在。

あいつは、あいつならばやってくれるかもしれない。

今だからこそ本当に思う。



「俺も、お前達のようにやれていればな……」



その呟きの力のない事。

ゲルトとは思えぬ無力感に満ちた声音だった。

はやては思わず目の前の背中を見る。

客観的に見て大きな、そして逞しい背中だ。

鋼の騎士の異名に恥じぬ戦士の体付きであろう。

あのシグナムをすら凌ぐ近接戦の熟練者。

地上最強を謳われる鉄壁の男。

しかしはやては初めてその綻びを見た。

どれだけの葛藤があったろう。

絶対に譲らないと思われた因縁を退け、何よりも大事な妹を他人に託した。

彼にとって命同然と断言するほどの存在を、自分に。

どうしてこの信頼を、この覚悟を裏切れるだろうか。



「そんな事言うたらあかんで。
 スバルやティアナにとっては最強に格好ええお兄ちゃんやねんから」

「……だといいんだが」

「珍しく弱気やなぁ。
 少なくとも――――」



少し背を伸ばす。

ゲルトの腰に回した手を彼の肩へ。

耳元で囁くような姿勢。



「今夜のゲルト君は最強に格好ええよ?」



左耳をくすぐる微かなブレス。

ゲルトは思わず言葉を無くした。

耳が良過ぎるのも問題だ。

ヘルメット越しでも彼にはその吐息を感じ取る事ができる。

運転中に振り返る訳にもいかないが、一体どういうつもりやら。



「それは、どうも――っておい危ないぞ」

「んー、ヘルメット被ってると赤ぁなってるんか分からへんなー」

「……運転中にふざけてくるなよ」



肩越しに無理矢理顔を覗き込もうとするはやてを押し戻す。

こういう奴だったな、そういえば。

肩の力が抜けていくようだ。



「俺が仕事中なら減点取ってるぞ」

「おっ、いつもの調子出てきたやん」



くすくすと笑いながら、はやてもまた覚悟した。

さらに二つの命を背負う覚悟だ。

我ながら度し難い。

課せられた任務を完遂し、実績を作ること。

カリムの依頼を全うし、立場を固めること。

さらにはゲルトの願いに応え、信義を貫くこと。

これら全てを同時にこなさなければならない。

どれ一つとっても無理難題ばかり。

決して躓けない最初で最後とも思えるチャンスに、これほどの重責の連続。

賢しく生きるなら考慮にも値しない選択。

なのに最早スバルとティアナの部隊入りについては己の中で決定事項としてある。



ゲルト君、ほんま駆け引き上手くなったんちゃう?



しかし悪くない気分ではあった。

それは単車の疾走感がそうさせるのか。

潮薫る海風がそうさせるのか。

それとも――――いや、そういう事にしておこう。





**********





ひとしきり沿岸の夜景を楽しんだ末、バイクははやてらの家の前に止まった。

話は伝わっていたのだろうか、玄関口には既にヴォルケンリッターが勢揃いでお出迎えだ。

傍目には仲のよい家族そのものであろう。



「おかえりなさい、はやてちゃん」

「ただいまー、皆」

「ゲルトもすまなかったな。
 主を送ってくれた事、礼を言う」

「いや、俺も楽しんだよ」



彼女らがその気になれば都市の一つや二つは簡単に落ちる。

ゲルト自身と同じく、死山血河を乗り越えた古強者達。

遍く知られるのは闇の書の守護騎士という悪名高い負の遺産。

だが過去はどうあれ、ゲルトには頼もしい友人達である。



「妹さん達の件は何とかしてみる。
 その分いっぱい働いてもらう事にはなるやろうけど」

「少々でへこたれるようなヤワな鍛え方はしてない。
 精々扱いてやってくれ」

「なのはちゃんにもそう伝えとくわ」

「教導隊のエースオブエースが見てくれるなら安心だな」



ひとしきり笑ってからゲルトは表情を引き締めた。

両踵を揃え、理想的なまでの直立姿勢。

思わずはやて達も姿勢を整えてしまう。

そして彼は恭しく頭を垂れた。

完全に相手の権威を認める態度。

何ら恥じる事などない。

だからこそゲルトははやてに急所を預けたのだ。



「……俺の家族をどうか、よろしく頼みます」

「妹さん達二名。
 謹んでお預かりします」



一夜。

ただの一夜。

しかし数多の運命が動いた一夜。

ゲルトの決断が、そしてはやての決断が、いかな未来を引き寄せるのか。

スバルの未来は、そしてティアナの未来は、いかな分岐を迎えるのか。

これは、そういう物語。


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