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No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
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[8635] 白き天使の羽根が舞う 後編
Name: Neon◆139e4b06 ID:5d276556 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/07 17:59
なのはは確かに空気が破裂する音を聞いた。

硝煙が吹き散る間こそあれ、それを突き破ってゲルトが飛び出した。

カートリッジによる瞬間加速よりさらに上。



「っ!」



まずい。

向かい来るゲルトへとっさにも三連射。 

だが、



「当たらないっ!」



弾道を読んでいたかのようにゲルトはかわす。

その程度の間でゲルトはなのはを間合に捉えていた。

視界一杯に映るのは槍を振りかぶったゲルトの威容。

既に死線。

完全な回避は厳しい。




『Protection』



レイジングハートを突き出し、選んだのは防御の型だ。

ナイトホークが振り下ろされるのと、障壁がなのはを覆うのは同時。

しかし相手の構えを読み取り、魔力を感じ、なのはが抱いた直観はシンプル。



――――受けきれない!?



事実左上方から入った刃はあっさりとなのはの障壁に食い込んだ。

抜かれる。

直感を信じたなのはは身を捻るが、それでも避けきれない。

刃が迫る。



『Barrier Burst』



爆発。

衝撃。

閃光が視界を埋めた。





**********




『おおーっと、突然の爆発!!
 ナカジマ准尉が高町一尉を追い詰めたかという瞬間、突然の爆発っ!!』

『私の目には高町一尉が自らバリアを爆発させたように見えましたが……』




桜色の爆発は二人が接触した中心で発生した。

障壁に過剰魔力を流し込んで行う近接戦闘の裏技だ。



『二人の距離が離れます!!』



爆風が無理矢理に間合いをこじ開けた。

衝撃を予期していたなのははともかく、ゲルトはまともにその直撃を受けている。

なのはのポイントが100ポイント、ゲルトが200ポイントダウン。

なのは、3900点。

ゲルト、3500点。

距離は再びナイトホークの射程外へーーーー



行かせるか。



『いっ、いえ攻める!
 ナカジマ准尉の猛攻です!!』



不意を打たれながら、彼の動きに淀みはない。

下がるなのはと追うゲルト。

同様の爆発は連続して起きた。

やや後方で一発。

左に流れて一発。

高度を落として一発。



『な、何が起きてるのでしょう!
 こちらからは爆発しか確認できません!!』



サーチャーの切り替えが追いつかない。

映像で確認できるのは爆発のみ。

ズームでは無理だと判じた撮影班がサーチャーを広角へ切り替え、ようやく動きが分かってくる。



『高町一尉による自爆で双方ともにダメージが蓄積している模様。
 今の時点で高町一尉が持ち点3600ポイント、ナカジマ准尉が3200ポイントです!』

『ここに来て一転ナカジマ准尉の攻勢は恐ろしいものがありますが、高町一尉の粘りも素晴らしいですよ』



騎士必殺の間合いに位置してなお、彼女は今まで凌ぎ切っている。

見れば防御はほとんどその用を成してはいないのではないか。

障壁が破られるまでの一瞬を見切って爆発。

その反発を利用して身の直前まで迫った刃から寸でで逃れている。

並大抵の度胸でできる事ではない。

なにせ渾身のバリアすら容易く斬り裂くほどの攻撃だ。

まともに喰らえば一撃死もおおいにありうる。

いや、そうなるに違いない.



『しかしナカジマ准尉はどうしたことでしょう。
 最初は様子見をしていたということでしょうか』

『いえ、サーチャーからの情報によると反撃の直前からナカジマ准尉の魔力が急増しています。
 これは恐らく……』

『恐らく?』



見るものが見れば分かる。



「フルドライブだ……」



猛追に晒されながらも、なのはは正確に状況を掴んでいた。

ゲルトは今魔導師が無意識にかけているリミッターを意図的に解除している。

それゆえのこの異常な出力か。

滾るほどの魔力は刃に、飛行に、さらに体へも割り振られている。



引き離せない……っ!



今またゲルトは連弾をかわした。

バリア自爆の閃光に紛れた攻撃であるが、さらに射撃の隙をついて飛び込んでくる。

明らかに一定のラインを意識した動きだ。

一拍で踏め込める間合い。

再度の爆発。

ナイトホークがバリアに食い込む一瞬を狙って引き剥がす。



『離れればまたあの誘導弾が来ます。
 ナカジマ准尉は例え無理をしてもああして接近するより他ありません』

『まさに接戦。
 互いに防御がほとんど意味をなさない殴り合いです!』

『それでいてそれぞれ一撃で相手を落とせるだけの地力はあります。
 一瞬も目を離せませんよ、これは』



諦めない.

むしろゲルトの動きはさらに精度を増していた。

その証拠に追撃の間隔が徐々に狭まってきている。

こちらの射撃への回避距離も縮まっていた。

見切られているのだ。

撃てば撃つほど癖が見抜かれていく。



「同じ技が何度も通じるか」



声ならぬ声。

刻一刻と追い詰められているのが分かる。

なのはは焦燥が肌を焼くのを実感として認識した。

短期決戦にかけるべきは自分の方か。

早く勝負に出たくなるこの衝動。

ゲルトの放つ重圧の厳しさに、激しさに、遂に。



しまった!



『再びの爆発!』

『いや、早い!
 あれでは!』



爆発が浅い。

ゲルトを抑えるにこれでは不足。

そのミスを逃す彼ではない。

攻撃が来るぞ。



なに……?



視界が開けたゲルトは直進しながら回転。

決戦の最中、敵手へ背を向ける愚行。

しかしその一瞬だけなのははナイトホークを見失った。

僅かな時間だ。

しかし次の瞬間、なのはの眼前には石突きが迫っていた。



「嘘っーーーー!?」



コマ落としのように背中越しへ脇から放たれた一突き。

線でなく点の動きが幻惑した。

驚く暇すらない。

咄嗟に頭を反らす、その至近。

前髪を散らす文字通りの紙一重で黒槍をやり過ごす。



「これも凌ぐか」



弾んだ調子の声に続いて次撃が来る。

腰を捻ればそのまま横薙ぎの一閃へ連結。

コンパクトな振り抜きはナイトホークそのものの長大さを思えばありえぬ程に素早い。

咄嗟に動いてくれた体が一杯まで沈んでこれもかわすが、なのはを以てしても反応できたのはそこまで。



「うあっ!?」



右肩を襲ったのはゲルトの踵だった。

ゲルトは一呼吸とて置くつもりはない。

振り抜きの回転はさらに蹴撃の予備動作に化け、連撃へ昇華した。

それも、こちらがかわすのを確認して“から”繋いでいる。

それでいてバリアジャケットが無ければ骨の一本や二本は砕けていたに違いないと確信させるこの威力。

思い切り振り下ろされたハンマーと何ら変わりない。

勢いのまま弾き飛ばされながらもなのはは歯を食い縛って声を噛み殺す。

考えるのは一つだ。



距離が、開く!!



それが今最も肝心な事。

この間合いではゲルトの独壇場だ。

引き離せ、もっと。

蹴り抜かれた肩を庇いながら退くなのはは、そこで悠然とナイトホークを担ぐゲルトの姿を見た。

足を止め、大きく開脚。

明らかに大技の予備動作だ。



「かっ!!」



それは呼気だったのだろう。

ここはもうゲルトの間合いの外。

しかし肌を焼くような危険信号はむしろその激しさを増しーーーー



「ッ!?」



斬られた。

そう認識したのは結果が先。

咄嗟に用意したバリアすら見事に斬り裂かれ、なのはは胴を水平に薙がれていた。



「あ、えっ……!?」



慮外の攻撃に動揺しながらも状況確認は怠らない。

ゲルトの右手に握られたナイトホーク。

通常両手で保持されるそれは今右腕一本で握られている。

握りは順手、掴みは奇妙なほど柄の端。

それで間合いを伸ばしたか。



でも、これは……。



どこかで見た何かが脳裏を過る。

重さよりも間合い重視。

この鋭さ。

鞭を思わせるしなり。

ベルカ。

騎士。

……シグナム。

ストンと得心がいった。



「シュランゲ、フォルム……!」

「猿真似だが、なあッ!」



返す刃はなんとかかわせた。

流石に切り返しは遅れるようだ。

が、その間合いは驚異に違いない。

よく一緒に訓練していたとは聞く。

その際に学び取ったのか。

デバイスではなく、己自身を適応させて。

自身を刃と一体とする。

いかにも彼らしい。



でも、



『高町一尉のポイントが一気に1800ポイントダウン!
 しかし一尉は健在です!!』



今度は私の番っ!!



曲がりなりにも防御していたのが良かったのだろう。

ならばと魔法をセレクト。

不意の一撃を受け、ゲルトの追撃は目前に迫っていたが、なのははむしろ落ち着いた気持ちでそれを見つめている。 

金の瞳が開かれ、とどめとばかりに黒塗りのナイトホークが動く。

今だ。



『Flash Move』



瞬間移動のように消えたなのは。

完璧なタイミングだったろう。

さしものゲルトとて攻撃に入った段では隙ができる。

黒き刃は空を切り、なのははどこへ?



後ろかーーーー!?



静止状態から急加速。

一瞬でゲルトの背後をとった彼女は砲撃体勢へ移行する。

それが見えずともゲルトには耳へ届く排莢音で全てを察せられた。

位置は死角、やや上方。

しかし攻撃を外した自分にはこの瞬間に反撃の手がない。



「ディバイィィィンーーーー」



どうする。

このまま全力飛行で避けきれるか。

考えがまとまるより早く無理だとゲルトは断じた。

一撃を与えるために減速した直後だ。

今から動いても間に合わない。

ならば取れる手段は一つ。



「IS発動!!」



現れる赤橙色のテンプレート。

タイミングは間髪入れず、



「バスターーーー!!」



渾身の砲撃がその中心へ突き刺さる。

桜色の光と赤橙の光。

どちらも譲らない。

障壁の表面を這い、強制的に散らされた砲撃は幾重もの光柱となって海面を抉る。

吹き上がる波の高さがそこに込められた力を物語っていた。

その光量。

その衝撃。

その轟音。

映像越しにですら伝わる圧倒的魔力。



『またも逆転!!
 華麗に准尉の背後をとった一尉の砲撃が炸裂ぅ!!』

『防戦一方の展開から鮮やかに主導権を取り戻す高町一尉の手並みは惚れ惚れするほどです。
 が、鋼の騎士の異名も伊達ではありません。
 あの至近距離からの攻撃を耐えています!』



まさしく怒濤。

押し寄せる滝のような砲撃だが、ファームランパートは変わらずその堅牢をもってゲルトを守る。

だからこそゲルトは離れず、逃げず、障壁に貼り付くようにただ耐えていられる。

しかし、



重い……!



一点突破なら分かる。

記憶にあるゼストの斬撃などは身震いするほどに洗練されていた。

しかしほぼ面での攻撃だ、これは。

まるでこちらを飲み込もうとするような未曾有の勢いがある。

ここまでの砲撃は初めてだ。

が、しかし。



『光が消えていきます!!』



徐々に細まるように消える光。

ダメージカウンターは回っていない。



『なっ、ナカジマ准尉が凌ぎ切りました!!
 完璧にきまったカウンターを全て耐え切り、無傷でやり過ごしましたっ!!』



いや、これからだ。



興奮した司会の声とは裏腹にゲルトの思考は冷えている。

障壁の向こうでは再びレイジングハートの周囲へ光が集まっていく。

こちらの足は完全に止まった。

砲撃の反動を利用してなのはは後退している。

位置関係はほぼ上下に分かれていた。

となれば、



『Accel Shooter』



来た。

十分に練り上げた誘導弾が、計十二発。

花開くように展開した魔弾の数々が上空から降り注ぐ。

速度は速く、数も多い。

機動力で振り切れるものでもないのは先の通り。

まずは数を減らす事だ。



「オオ――――ッ!!」



全周から迫る弾丸の脅威。

ゲルトが選んだのは、なのはの不意を打った時の再現だ。

シュランゲフォルムを模した異常なほど浅い掴みでナイトホークを振り抜いた。

柄を滑るように動いた手の平が柄尻にてホールド。

しなやかな片腕から放たれた斬撃は常よりも遠く、常よりも広くその威力を発揮する。

たったの一振り。

ファームランパートを足場にするよう天地逆さまに貼り付いた彼は、それで五発もの魔弾を斬って捨てた。



「凄い……」



なのはも感嘆を禁じ得ない。



「けど!」



それでも全部は処理しきれない。

なのはにとっても幾らか破壊されるのは織り込み済みだ。


長槍の手数には限界がある。

防御や回避など委細構わず圧殺する為の十二連弾である。



「厄介な……!」



ゲルトは逃げるよりない。

ファームランパートを蹴り、落下速度も利用して下へ。

残りの弾丸はゲルトの影を射抜くや一瞬停止。

獲物を見つけた猟犬よろしくこちらへ突っ込んでくる。

ご丁寧に広がってくるのは一息に破壊されぬ為の用心だろう。



「鬱陶しい!」



片や逃げ、片や追う。

追い付いてくる弾丸をさらに二発斬り、それでも五発が残る。

なのはと正対したまま、後ろ向きに全力落下するゲルトにはその軌跡まではっきりと見えていた。

それぞれが別個の意思を持つように軌道をズラして迫る。



捌けないか、これは。



ナイトホークを振り抜いた姿勢のまま、自分へ食い込もうとする弾丸を見つめる。

減点方式のルールを思えば軽い一発たりと受けるのは辛い。

だが、問題ない。



ここまで来れば、な。



口元に笑みが過る。

そしてゲルトは海へと飛び込んだ。






**********





『高町一尉の攻撃に追われ、ナカジマ准尉が海面に激突!
 水中に消えた彼の姿は依然確認できません!』

『この場所において唯一といっていい隠れ場が水中です。
 准尉が仕切り直しを図るとしたらこれしか選択肢はなかったでしょう』



その通り。

しかし結果的に距離は再びなのはの間合いにまで離れ、ゲルトは貴重な勝機を一つ逃したことになる。

さらに五発の追撃を受け、全速力で海面に激突したゲルトの持ち点は大幅にダウン。

加えるなら時間の問題もあった。



『残り時間も一分を切ろうとしている所です。
 ナカジマ准尉はタイミングを問わず、間もなく飛び出さざるをえません』



勝負が決まるとしたら次の交差。

ゲルトが海面より飛び出し、なのはと接触できるか否か。

それで決まる。

誰もがそれは分かっていた。



「兄さん……」



108隊舎の大型テレビを見つめるギンガも。



「ゲルトさんが押されるなんて……」

「どっちも、凄い」



メディアルームのモニターを凝視するティアナやスバル。

そして無論、なのはにも。



「やっぱり強いなぁ」



呟きながらもなのはの目は海面を広く警戒していた。

なのはが見たところ、ゲルトの強さはひとえに魔力制御の妙に基盤がある。

飛行、回避、攻撃に至るまで一切運用に無駄がない。

集束型魔法を得意とする彼女だからこそ、空気中に残るゲルトの気配の薄さを敏感に感じ取っていた。

これ即ち、ほとんどの魔力が遺漏なく魔法へと注ぎ込まれている証左である。

魔力の消費を最小限に抑えるという意味でも効果が高いが、彼の場合一撃の威力を極限まで高めるという意味合いでも恐ろしい力となろう。

何と言っても、



フルドライブまで完璧に使いこなしてる。



彼がリミッターを解除したのは試合のかなり前半だ。

それでいて魔力暴走が起こる様子もなく、内傷を患う気配もない。

ありえるのか、そんな事が。



「うっ……」



思索を巡らす内、ズキンと刺すような痛みが胸をついた。

表には出さない。

姿勢も呼吸も見た目上は変化のないように。

高速機動からの砲撃は思いの外負荷が大きかったということか。



……大丈夫。



経験則からしてすぐ治まる痛みだ。

この程度なら試合に問題はない。

思考を戻そう。

ゲルトの強さを例えるならば、



シグナムさんみたいに鋭くて、ヴィータちゃんみたいに重い。



スピードだって直線に限ればかなりのものだ。

全身を包む黒衣に輝く黄金の瞳、そしておそるべき威力を秘めた長柄物。

フェイトとも通じる要素は多々あった。

しかし挙げた三人とは決定的に違う所もある。



明らかに長期戦を意識してる、よね。



一対一の戦闘で彼がそこまで手こずる事もないだろう。

地上部隊で応援に呼ばれることが多いからなのか。

どことなく一対多に重きを置いたスタイルのようにも思える。

ならば次の一手も全く変わらず苛烈な筈だ。

消耗など期待してはならない。



「私も全力でいかないと」



応じてレイジングハートがカートリッジをロード。

一発、二発、三発。

さらに二発の計五発を連続ロード。

充溢する魔力は必殺に足る。



「いくよ、レイジングハート」

『Starlight Breaker』



なのはの足元へ巨大な魔法陣が展開する。

今までのどれより大きい。



厳かな儀式のように彼女は愛杖を構える。

その先端へ流星のように光が集まり始めた。

その彩りは桜に、そして赤橙。



『おっとー、高町一尉が何やら魔法の準備を始めました。
 見たところ大技のようではありますが……』

『周辺魔力が高町一尉を中心に集まっているようです。
 となればまず間違いありません。
 狙いは一尉の得意技――集束砲でしょう』



相手の魔力をも利用する必殺の一撃。

オーバーSランク魔導師たる彼女の常識外れの容量から放たれるそれは、たとえ防御の上からでも相手を一方的に蹂躙する。

要諦は二つだ。

まずは空間に散逸する魔力を統合。

周辺魔力を掻き集め、次に自身の魔力と混ぜ合わせながら加圧する。

既に空気中に霧散した魔力を実用レベルで引き出すという時点で常人が逆立ちしてもなし得ぬ絶技である。

その威力は他者の魔力も上乗せされる分飛躍的な向上を見せ、さらに同程度の砲撃を形成するのに比べ魔力的負担も少ない。



『なるほど!
 高町一尉は最大の一撃で勝負に出るようです!』



発射準備よし。

ゲルトの残留魔力が希薄な為に時間が掛かったが、これだけあれば問題ない。

悠然と構えるレイジングハートの先端。

膨大な魔力の塊が発射の合図を、開放の時を待っている。

なのはは荒れ狂う魔力を押さえ付けながらその時を待った。

残り時間は少ない。



絶対に仕掛けてくる。



こちらはいつでも構わない。

海面は未だ平穏のまま、ゲルトの影も形もなかった。







**********





さて、どうするか。



一息つく。

ゴボリと上がった気泡が海面へ上がっていくのが見えた。

ゆらゆらと揺れて光の元に帰っていく。

海中に身を没したゲルト。

その心は意外なほど穏やかである。



頭は冷えていい感じなんだが……。



せっかく詰めた距離は開いてしまった。

こちらの最高速を知られた以上、再接近は容易ではない。

隠し玉一つでは、恐らく不足。



二の矢が必要か。



そちらが問題である。

待ち構えているなのはの意識を逸らす策に“あて”はあるが、さらにもう一手欲しい。

ゲルトは自らの戦闘経験に問い掛けた。

今日まで乗り越えてきた戦闘、訓練の中にこの状況を打開できる何かがある筈。

時間がないのだ。

必要なのは機動力。

と、



「ん……?」



不意に天上から注ぐ光が目にちらついた。

青い世界を貫く光。

まるでオーロラのようであり、カーテンのようであり、そしてリボンのようでもあった。

何気なく伸びした手に纏わりつく青いリボンを幻視。



『頑張って。
 見てますから』



耳へ響くように支える言葉が甦る。

何とはなし手を固く握った。

無論、掌に残るものはない。

が、



……行くか。



策はなった。

いつかなのはにも告げた通り、今の自分はゲルト・G・ナカジマだ。

家名ありのゲルト・G・ナカジマ。

それらしくいこうじゃないか。





**********





予兆は突然。

前方のゲルトが落ちた辺りが不意に盛り上がる。



「来たっ――――!?」



レイジングハートを握る手に力がこもった。

一時も間をおかず照準をそちらへ。

だが、違う。



ゲルト君じゃない!



間一髪、寸でで発射を取り止めた。

海面の隆起から現れたのは衝撃波。

無論ゲルトが撃ったものだろう。

スピードは拍子抜けなほど遅く、狙いすらこちらから外れている。

不慣れな遠距離系攻撃に加えて視界の利かぬ海の中からでは無理もなかった。

ゲルトもこれで倒すことなど考えてはいまい。

ならば、囮だ。



「どこから来るの……?」



一瞬後に来るだろう突撃に備え、なのはは動かず周囲の警戒に集中する。

外れる攻撃は無視だ。

熟練の騎士が待ち伏せの意識を逸らしたこの瞬間を逃す訳がない。

海から目を逸らす愚だけは避けなければ。

そして、来た。

意外にも先の衝撃波と同じポイント。

が、



「また違う?」



今度は斬撃の形をとった射出刃。

衝撃波に倍する速度で迫るが、やはりこれも見当違いの空へ飛んでいく。

囮が二回。

次こそ本命か。

動かぬことを選んだなのはは再びスターライトブレイカー発射体勢のままに耐える。

ゲルトが頭を出した瞬間に面制圧で削り切るのだ。

だから今は待つべき時なんだ。

理解している。

なのになんだ、この肌を炙るような焦燥は。

何か、見落としてる。マルチタスクの賜物だろう。

砲撃を維持しながらも思考は鋭敏。

そして答えに至る。

さっきの二発は同じ地点から、同じ軌道で飛んだ。



でもスピードが違うって事は!!



衝撃はいきなり来た。



爆圧だ。

最初に飛んだ衝撃波を二段目の斬撃が切り取り、封入された破壊力を撒き散らしたのだ。

突如海面となのはの間で発生した無色の爆発が彼女を襲う。

とは言っても所詮は当てずっぽう。

ダメージと言えるほどの判定もない。

が、



目を瞑っちゃダメ!!



これこそがゲルトの狙い。

何としてもスターライトブレイカーだけは維持だ。

今度こそゲルトが来る。

それも恐らくは同じ場所から。

こんなものはこちらの目を晦ますための猫騙しに過ぎない。

そして遂に、



「出たっ!!」



間違いない。

海水面を突き破り、ゲルトが現れた。

飛沫を全て弾き飛ばすほどの超加速。

フルドライブの出力を全て推進に回しているらしい。

しかしそれなら好都合!



「スターライトッッ――――!」



あの加速では曲がれまい。

できるのはそれこそフェイトくらいのもの。

見る限りゲルトは直線加速に特化したタイプだ。

当てる。


当たるはずだ。



「ブレイカァァァァッ!!」



極光が落ちた。

視界を塗り潰す怒濤の烈波。

全てを染め尽くす凶暴な閃光。



飲まれる。



ゲルトはただそう受け止めた。

威力、規模共に先ほどの比ではない。

まさになのはの全力全開。

これがそうか。



「……しかし、勝つ!]



全くスピードを緩める事なく突撃したゲルトはISを発動する。

絶対防御のテンプレート。

しかし進行方向と平行に展開したそれは身を守る為にあるのではない。

今、足を止めればジリ貧だ。

一瞬の躊躇もなく、ゲルトはそこへナイトホークを叩き付けた。

両手掴みの逆手持ち。

その様は、まるで棒高跳びのボールターのように。

跳ぶ!



突き出す力で身を跳ね上げる。

棒高跳びとの違いは槍を手放さないくらいか。

速度を落とさぬままにゲルトの軌跡は放物線を描く。

そして越えるのはバーではない、

圧倒的魔力でもって迫る必殺の砲撃だ。

かわし切れないコートの裾が消し飛び、余波だけで纏った装甲が溶けていくのが分かる。

ダメージカウンターも反応しているだろう。

だからと言って、それがどうした。



「うおおおおぉぉぉッ!!」



ビリビリと肌で威圧を感じながら、空中でくるりと縦回転。

姿勢を整えたゲルトはなのはを捉えた。

光の始点で必死に反動を抑え込んでいる。

こちらには気付いたのだろうが、遅い。

射線を飛び越えたここは既に己の間合いだ。



『ナカジマ准尉が肉薄!!
 決着かッ!?』



振り下ろす。

その瞬間、光がようやく収まり始める中、なのはがこちらを向いた



「――――ッッッ!?」



その視線にある何かの余裕がゲルトの神経を焼く。

粟立つ背筋の悪寒に逆らわずに無理やり横へ飛んだ。

が、飛行魔法だけでは極限まで高めた推進力を殺し切れない。

発動させたファームランパートを蹴り飛ばし、転がるように跳ねる。

千載一遇、これ以上ない絶好の機を放り投げてでも。

加速Gが体を軋ませ、そして――――



「がッ!?」



杭で打たれたように動きが止まった。

原因は明らかだ。

右手に絡みついた桜色のリング。



バインドか!?



肩が千切れんばかりの衝撃が右腕を襲った。

強制的に引き留められた慣性が暴力となって荒れ狂う。



あれだけの魔法が、囮だと!?



自分なら凌ぐ、となのははそう読んだのだ。

そうして飛び込んでくるように誘った。



見事にはまった自分はまな板の鯉か

だが、しかし。



『Devine――――』

「らあッ!」



反射的に放った蹴り足がこちらを向く前にレイジングハートを外へ弾く。

動け。

瞬く間すら惜しいのだ。

どうにかレイジングハートを手放さなかったなのはが後ろへ退くのとゲルトが拘束を引き千切るのとはほとんど同時。

力任せにバインドを破ったゲルトだが、距離は既に一足の外。

安全圏へ逃れたなのはが再びレイジングハートを構えるのを見た。

また誘導弾だ。



「そいつは飽きたと言った!!」



刀身へ魔力を集中。

レイジングハートが十連の誘導弾を発射すると同時、ナイトホークの穂先は斬撃を撃ち出していた。

全方位から広がって迫る弾丸に対し、ゲルトの斬撃は足を止めたなのはへ一直線に飛ぶ。

彼女は棒立ちのまま、誘導弾の操作に集中している。
が、



「わっ!?」



そうだ、お前なら避けるだろう。

あわやというところで動いたなのはは射線から逃れてみせた。



それでいい。



ゲルトはその彼女へ向けて突撃する。

広がった誘導弾を抜ける最短ルートはここだ。

円形に広がった弾丸の顎、その中心目掛けて飛ぶ。

自ら死地へ飛び込む乾坤一擲の大博打。

しかしなのはの集中が回避へ取られたこの瞬間だけは勝ちの目も残る。



「――――させないっ!



なのはの立ち直りは予想よりも早かった。

いまだ横っ飛びの最中に魔弾の網を手繰って寄せる。

まばらに散開していた弾丸がそれぞれこちらへ向けて軌跡を変えるのを感じた。

一端制御を手放した魔法だというのに、もう再掌握を済ませたらしい。

出来るなら隙がある内に懐まで飛び込んでしまいたかったが……。



らしくなってきた。



歯噛みしながらも自身、奮い立つのを感じている。

ビリビリと中枢神経へ迸るのは武者震いというものか。

最高の性能を引き出せ。

最高の答えを弾き出せ。

統率を取り戻して迫る弾丸の雨。



これを凌ぐ技が、俺にはある!



「IS発動!!」



防御ではない。

この魔弾相手にそれが無意味だというのはこの戦いの中何度も証明された。

だからゲルトはそのテンプレートを“踏む”。

踏み抜く程に強く、強く。



「ナカジマの何たるかを見せてやる」



駆けた。

駆け抜けた。

力の流れは体が覚えている。

爪先で抉り、膝で押し出し、腰で踏み出す。



『バリアを足場に!?』

『ナカジマ准尉が躱しています!

『た、体捌きのみで、誘導弾を!!』



なんのと言って、ゲルトが最も得意とするのは地の上だ。

脚を活かせる環境だ。

足運びすら虚実を織り交ぜた。

姿勢を下げれば射線を潜れる。

跳躍すれば飛び越えられる。

飛行魔法をも織り交ぜれば重力の軛すらゲルトの歩みを阻みはしない。

バランスを崩すほどの低姿勢でも転倒することはなく、天地逆さまの走行すら可能。



空を飛び行く翼竜でありながら、地を這い進む伏龍。



ゲルトは疾風となった。





**********





映像の中、ゲルトは空中に発した己のシールドの上をひた走る。

外縁に行けば次のシールドへ乗り換え、次の動きを予測させない。

時に階段状に、時に大きく広がって。

オンオフを猛烈に切り替え、咲いては散る赤橙色のテンプレートは空を彩る花火のようですらある。

それを観戦するシグナムが呟いた。



「古代ベルカ式ではないな」

「えっ」



何気なく、しかしはっきりと彼女は断言した。

機動力を優先したあの戦闘スタイル。

とにかく動く事を念頭に置いた戦闘思想が読み取れる。



「どちらかと言えば、あれは近代のベルカ式の動きに近いように思います」

「確かに、妹さんのギンガとかは近代ベルカ式やったけど……」



直線スピードはともかく、細やかな身体制御では彼女をも上回るのではないか。

彼の戦いぶりはギンガよりもさらに上の完成度を見ているよな、そんな気配がある

この違和感は、一体……。



「忘れてもらっちゃあ、困るのよね」



やれやれと漏らすのは遠く離れた一般家庭のリビング。

そこでテレビの前に座った女性だった。

ギンガやスバルを思い起こさせる青い髪は、彼女らとの血縁の証明。

皆まで言うまい、



「隊長だけじゃないの。
 ゲルト君は私の教え子でもあるんだからね」



誰にともなく胸を張って彼女は自慢する。

息子の晴れ舞台に昂揚するのはクイントだとて同じ。

彼女はゲルトがファームランパートを足場に使い始めた瞬間から気付いていた。

格闘術の基礎として叩き込んだシューティングアーツは彼の技能に合わせて手直しされ、今テレビの向こうで開花している。

戦いの最中、追い詰められる程に研ぎ澄まされていく戦闘技芸。

そう、昔から負けず嫌いな子だった。



「頑張れ、男の子!」





**********





悪くない。



テンプレート上をグラインドしながら、ゲルトは恐ろしいまでに体を包む全能感に酔いしれていた。

それは快感といってよい。

自らを構成する全てが一分残らず意志の支配下にある、という確信。

研ぎ上げた 技術テック感覚センス魔法マジック

あらゆるスキルが呼吸同然に連動する。

無駄はなく、漏れもなく、ただ一つの目的へ向かって集束



「今度は逃がさん」



見える。

姿勢を立て直したなのはは既に魔弾の制御を完璧に回復していた。

中央突破したゲルトへ向けて側面、あるいは後方から殺到する弾丸勢。

視線は一点なのはを射抜きながら、駆動する肉体は脅威への対処を機械的な精度でこす。

どうしてもかわせぬものは手甲で弾く。

弾けぬものは比較的防御の厚い部分で受け止める。

前進だ。

前進あるのみだ。

そして遂に、



『抜けたっ……!』



誰もが息を忘れた。

ゲルトがなのはを間合いに捉える。

肩に引っ掛けたような大上段。

包囲を突破したとはいえ、ゲルトの後方からは魔弾の群れが迫っていた。

事ここに至り身を覆う魔力は臨界を超えて吠え猛る。



流石、ゲルト君。



敵手を眼前に、なのはは射撃にこだわらなかった。

足首を中心に翼を象った魔力を集中。

セットするのは高速移動魔法Flash moveだ。

捨て身の突撃を前にいかなる防御も牽制も意味をなさない。

どうした所でもろともに切り伏せられる以外の未来が想像できなかった。

ならばどうにかあの槍を凌ぎ、カウンターで討ち取る。

それしかない。

覚悟は決まっていた。

だからこそ、なのはが意識するのはゲルトの踏み込みのタイミング。

傍目には分からないくらいに小さく、しかし確かに彼がファームランパートの壁面を踏み切ったのを捉えた。

この間合いでは相手が動くのを待ってから動くのでは既に遅い。

初動を見落とすこと、すなわちこれが命取りとなる。
ならばここだ。



『Flash move』



案の定、今までで最も速い穂先の動きは捉えることすらできなかった。

だが如何に速くとも事前の動きで真後ろへ下がったなのはの衣服を裂く事すらできず、虚しくも完全に空を切る。



「よけられた!



極限の集中のみが可能にする最高のパフォーマンス。

震えが起こり、痺れが走り、歓喜が踊る。

それが、お返しとばかりの罠とは知らず。

背中に衝撃があったのは直後のこと。



「ーーーーえっ?」



それは思わず口から出た疑問符ほど柔らかいものではない。

息が詰まるほど、背骨が軋むほどに強かなインパクト。

激突したのだ、壁に。



何がーーーー!?



無理やり吐き出される呼気に喘ぎつつ、辛うじて目線だけを後ろへ流す。

一瞥で十分だった。

煌々と輝く赤燈の障壁。

それが完全に彼女の背後を遮断していた。



ゲルト君の、ファームランパート……!



やられた。

ダメージを感知してか、なのはのボイントが減少。

しかしその計測など待つわけもなく二人は動く。

既に姿勢を整えたゲルトは踏み込んでいた。

刃をなのは一点へ捧げる刺突の型。

体ごとぶつかって行く構え。

詰みだ。

なのはは折れるだろうか。

いや、



「まだだよ!!」

『A.C.S stand by』



カートリッジが三発弾け、レイジングハートの先端へ超高密度の魔力が凝固。

桜色の刃の形で固着する。

ゲルトはその全てを視認している。



こいつ……ッ!



その形はまさに戦槍。

槍と槍。

その鋭さは主の望むがまま。

貫き、穿ち、血路を拓く。



「ナイトホーク!!」

「レイジングハート!!」



逃げ場はない。

正面から、勝つ。

極限まで高められた集中は互いの瞳の奥すら覗けそうな錯覚をも生じさせる。

無謬の闇を暗示す、不朽の黒槍。

不撓の光を具現す、無窮の桜槍。

どちらも残りポイントを削り切るには十二分。

決着だ。

ーーーー激突した





**********






『どっちだ……!』



立ち上がる者もいた。

目を皿のように開く者もいた。

誰も彼も他の事を考える余裕など一切なかった。

モニターの中、映し出されるのは重なり合う二つの影。

項垂れたなのはがゲルトの肩へ寄り掛かるようにぐったりとしている。

体重を全て預けているようにも見えた。



……ならば、



『なっ、ナカジマ准尉です!
 何と言う大番狂わせでしょう!!
 鋼の騎士、ナカジマ准尉が高町一尉を下すッ!!』

『ーーーーいや、まだです!
 まだダメージ判定が出ていません!!』



興奮して歓声を上げる実況とは別に、解説もまた熱を上げた。
その視線は映像端に映し出された魔導師達のライフカウンターに注がれている。

まだ最終判定が出ていない。

あえて観戦者を焦らすかのように回転する数字列。


桁が一つ消え、二つ消え、そして最後の一桁。

その表示はゼロ。

両者ともに、ゼロ。



『こ、れ、は……』




ゲルトはナイトホークをなのはの腹部へ突き立てた姿勢で静止していた。

その肩で、レイジングハートの刃を受け止めながら。



『相討ち!?』



決着に湧きかけたギャラリーの間にもさざ波が走る。

なのはの執念の結果が、そこにあった。





**********





ふぅ、と篭った熱を冷ますように溜息を吐き出す。

それは潮香る風の中へ溶け、広がる間もなく吹き散った。

合わせて刃の消えたレイジングハートが肩から抜けて落ちる。



「嫌いじゃあないがな、しぶといのは」



肩に乗しかかる重みを支えつつ、ゲルトは呆れたように呟いた。

淀みなく動いた左手がそのまま落ちかけたレイジングハートを掴んで止める。

強風吹き荒ぶ海上ではあったが、囁きが届かないということはなかった。

それも当然だ。



「相棒を落とすのはどうかと思うぞ」

「あはは、というかまだ左手、動くんだ……」

「頑丈なのが自慢でね」



むしろお前が喋れる方が驚きだ。

先程のダメージも響いているのだろうに、あまり悪気を感じない曖昧な笑みがそこには浮かんでいた。

わずかに数センチの距離だ。

なのはのほつれた髪が顔を撫で、正直くすぐったい。

ナイトホークが待機状態へシフトし、空いた右手はなのはを支えるように彼女の腰へと据えられていた。

自力の飛行すら困難ななのはに代わり、その場への浮遊を維持するのは全てゲルトである。



「ごめんね、ありがとう」

「気にするな」



加重は問題ない。

ナイトホークの直撃を食らって平気なはずはないのだ。

やせ我慢もここまでくれば立派である。



「今度は、支えられちゃったな。
 ねぇ、覚えてる?私達が初めて会った時……」

「ああ、覚えてる」



忘れた事はない。

フラフラになりながらもこちらの助けを拒否されたのは彼女との出会いの時であった。

あれから随分時間も経ったが、瞼に浮かぶほど鮮明に記憶にある。



お前は知らないだろうな。



醜く膿んで腐っていた自分に、その姿がどれほど眩しく、美しく映ったものか。

言葉ではない。


ただ彼女のその在り方がゲルトには輝いて見えた。


正道よ、かくあれかし。


どうしようもなくまとわりついた虚脱と倦怠を殴り飛ばし、そうして今の自分はここにいる。


だからこそゲルトという人間にとって彼女は尊敬に値する存在なのだ。


スバルが憧れるのも分からなくはない。


……業腹ではあるが。


ならばと、彼はもたれるままになっていた彼女の体を横抱きに抱え上げた。


顔をなぶる髪が鬱陶しいし、受けた恩を少しも返せぬでは己の沽券に関わる。



「わ、わわっ、ゲっ、ゲルト君っ?」

「大人しくそうしてろ。
 ヘリが来た、上昇する」



すっとんきょうな声を上げた彼女がこちらのコートの裾を掴むのを尻目に、目線にて背後を示す。

見上げれば確かに遠方から接近する影があった。

二人の回収用に派遣された管理局のヘリで相違あるまい。

ことさらゆっくりと高度を上げるのはなのはの体を慮っての事か。

腕の中では借りてきた猫のようにじっとした彼女がいる。

目が再び合ったかと思うと、その整った面貌に浮かんだのは笑みであった。



「なんだ」

「んーん。
 ただ、何だかゲルト君お兄ちゃんに似てるなー、って思っただけ」

「やめてくれ。
 この間合いで一矢報いられるとは……いい面の皮だ」



げんなりと眉をしかめたゲルトは溜息混じりにうそぶいた。

腹部の痛みに顔をしかめつつ、なのははなおさらゲルトの姿に遠い地にある兄の姿をだぶらせる。

見た目も体格もなんら接点はないが、そう雰囲気がどことなく似ている。



「騎士の誇りが許さない?」

「それならかっこいいかもしれないけどな。
 ……兄貴分も大変なんだよ」

「え?
 なんて?」



自嘲のような最後の呟きは風に飲まれた。

らちもない事である。

首を振ったゲルトは思考の隅を過ったギンガやスバル、ティアナの横顔を振り切った。



「何でもない。
 行くぞ甘えん坊」

「いっ、いいよ!
 もう自分で飛べるもん!」

「そうかい」

「ほっ、ホントだよ!」



ゲルトは取り合わずにヘリへ近づいていく。

こうして、彼と彼女の戦技披露会は幕を下ろした。





**********





「相討ち結構、大いに結構」



戦技披露会は無事に幕を閉じた。

例年と違ったのはただ一点。

武装隊きってのエースと引き分けた一人の陸士隊員の存在。

ギャラリーにとっては山あり谷ありの見応えある試合だったのだろうが、思惑忍ばせる黒子達には中途半端な結末だったろう。

父にとってもそうであろうとオーリスは思っていたが、



「見ただろう、オーリス。
 あのほっとした連中の顔を!」

「はい、中将」



声音にも顔色にも喜色が溢れていた。

思い出しているのは分かり易いほど安堵の吐息をついた大会主催陣の表情だろう。

控え目にみても愉快で堪らぬといった風情である。



「あれだけの舞台、あれだけの有利な条件を持ち込んでおきながら、蓋を開ければあの体たらく。
 さぞ肝も冷えた事だろう」



飛行魔法すら維持できなくなったなのは。

彼女を抱え、回収ヘリまで送り届けたゲルト。

試合が引き分けに終わったとしても対比は明白であった。

その点に関してはオーリスも同意だ。



「私もどうにか最後の面目だけは保ったという印象を受けました」



まずもって全てが武装隊有利に整えられ過ぎていたのだ。

第一には飛行が絶対となる海上。

戦術機動を研究し尽くした武装隊、それも教導団には何程のこともあるまいが、本来陸士部隊員にはそれだけでも大きな負担だ。

さらに遮蔽物のない環境は砲撃魔導師にとって絶好の狩り場となる。

勝負を決するポイント制度についても同様だろう。

ゲルトならば一撃で相手を落とせるに対し、ミッドチルダ式ではどうしても手数がいる。

特に頑健な古代ベルカ式を行動不能にするというなら、なおさらの事。

しかしそれも指定されたダメージ量を与えるだけでよいならハードルは大いに下がる。

名目はどうあれ、全て仕組まれた茶番だった。

そも陸士部隊と教導隊で求められる練度の差など改めて説明されるまでもない。

負けて当然だった。

それを覆してのけた。

はっきり言おう、痛快だ。



「加えるなら最後の一手、致命度で言えば胴体中央を捉えた准尉の優勢でしょう。
 試合内容としても後半は勢いで圧倒していたように思います。
 やはり流石はゼストさんの息ーーーー」



はっと気付き、口を止める。

座り悪くオーリスは唇を結んだ。

しかしレジアスは気にした様子もない。



「どうした、その通りだろう」



尚のこと深められた笑みはまるで熱に浮かされたよう。

演説でもうつようにレジアスは宣言した。

椅子を跳ね除けて立ち上がり、拳を握る。



「見たか、空の矇昧ども。
 たかだか腕の一本をとった程度で満足しているようだが、武装隊執念の一撃だと?片腹痛いわ!」



鼻で笑うように言い捨てた。

ゲルトは戦闘機人なのだ。

腕の損傷がなんらの支障もきたさぬ事、数日もあれば完治可能である事は既に証明済みである。

痛み分けなどでは決してありえない。



「腕が無くなろうが足が無くなろうが、あいつにとってはさして変わらん。
 “普通の”人間と同じに考えるなよ。グランガイツが貴様らの思惑通りになどなるものか!」



あれぞ地上の星。

身が砕け、血反吐を舐めてなお立ち上がる我々の騎士だ。

そう謳うレジアスに張り付くのは凶相とも呼べるもの。

言葉通りであろう。

つくづく彼は思惑通りにはいかない。



あのゼストさんそっくりの小さな子が……。



何年前だろう。

彼の陸士部隊派遣を決定した時、レジアスも、そしてもちろんオーリスもこんな事態を想定すらしていなかった。

それでも今日、試合で活躍する彼の姿からは匂い立つ程にゼストの気配を感じた。

幼き日、自分にとってもあの人はヒーローだった。

記憶にあるそれとなんら遜色ない無謬にして力強い背中。

思わず二重にダブって見えたほどだ。

恐らくは父もそう。

しかしその衝撃の大きさがこれだとすれば、



「見ているがいい、アインヘリアルが正式に運用され、戦闘機人が20も投入されるようになれば地上は劇的に変わる、変えてみせるぞ!」



あの魔導師アレルギーの強い父が規格外のオーバーSランク魔導師をして“普通の”人間と呼ぶ感覚とは何であろう。

もし仮に戦闘機人の異常性と比較し生身であるという点で我々と変わらぬと言っているのであれば、それは良い傾向と言えるだろうか。

オーリスは一つの大きな不安が芽生えるのを感じた。



中将は、酔っておられるのでは。



亡き友を思わせるゲルト・G・ナカジマという存在に。

片腕の致命的損傷すら数日で完治してのけたその不死身さに。

そして、失った過去をもやり直せるという幻想に。

父はゼストと見る筈だった夢の只中にいるつもりなのかもしれない。

美しく、眩い夢の中に。

しかし、そうであるなら、



「負けてくれていたほうが、良かったのかもしれない……」



無様に、完膚無きまでに、言い訳のしようもないほど。

オーリスは聞こえぬ程の声音で呟いた。

そうであれば、父の考えも変わったかもしれない。

いかに頑丈であろうとはいえ、戦闘機人も所詮は強化された人間に過ぎない。

負けもする、傷付きもする。



死にも、する。



それは背筋も凍る想像であった。

もしもそうなった時、自分はグランガイツを二度喪うという現実に耐えられるだろうか。

父を止められる存在もまた、グランガイツ以外にはありえない。

いや、



だからこそ止められないのか?



時に美しさが心を蝕むこともある。

時に誇りが信念を捻じ曲げることもある。

順調に見える戦闘機人計画もそのほとんどがゲルトの才覚によるもので、レジアスの関与するところは全くといっていいほど存在しないのが現状。

ゲルトやその義妹達、父の計画にとっては全くのイレギュラーだった。

その生まれも、育ちも、活躍も、全てレジアスの思惑の外の存在。

しかしそれが今、唸るほどの成果を絶えず叩き出している。

対して父の企みが何をもたらしたか。

親友の死。

直轄精鋭部隊の壊滅。

一司令官としても、一個人としても悪夢と呼ぶほかない。

しかしそんな悲劇をも糧として、ゲルトは成長していく。

彼の歩む道筋にレジアスという役者の介在する余地など微塵もない。

そんなものを必要になどしていない。

今までも、そして恐らくはこの先も。

グランガイツが為せばこうなるのだと、まざまざ見せつけられたようなものだ。

だからこそ、戦闘機人計画に今だ固執しているのか。

せめても、己の選択が間違っていなかった事の証明の為に。

もしそうなら、



ゼストさん……。



オーリスは記憶に残る大きな背中を思い浮かべてみた。

あなたはこんな私達を見て、なんと言うだろう。

嘆くだろうか、怒るだろうか、それとも呆れられるだろうか。



どちらにせよ合わせる顔は、ありそうにないな。



彼女もまた、囚われている。

Gグランガイツという名の呪縛に。




**********






「…………」



夜道。

不意に足を止めた男が空を仰いだ。

都市部を大きく外れた山間部に星の煌めきを遮るものはない。

視界を覆うのは美しくもはかない無数の輝き。

手を伸ばせども届くことは、ない。



「旦那ー、どうしたんだ。
 ルールーも先行っちゃってるぜ?」

「アギトか」



赤い髪を二つに纏めた少女と、目深にフードを被った長身の男。

少女の方は手の平に乗るほどの大きさで男の肩辺りを浮遊していた。

一見して妖精を連想させる佇まいである。



「あっ、でももし辛いようなら今日はこのへんで休むことにしようぜ。
 火ならすぐアタシが起こすしさ!」



彼女の容貌にあるのは強い心配の色。

畏まる必要はないと言っているのだが、違法な研究施設から拾い上げてからこちら彼女の傾倒は日増しに強くなっているように思う。

それだけ不安にさせるほど、我が身の状態は深刻に見えるということだろうか。

どちらにせよ不要な気遣いであった。

亡者に未来など不要である。



「いや、少し考え事をしていただけだ。
 行こう」

「旦那が、そう言うなら……。
 でも良くない時はすぐに言ってくれよ?」

「ああ」



男は歩き続ける。

感傷的になっているのだろうか。

歩みを進める度、一歩ごとに彼の意識は過去へと引き戻されていく。

それは彼があの哀れなチンクと別れ、亡霊として再びの生を歩み始めた頃にまで。


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