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No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
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[8635] さめない熱
Name: Neon◆139e4b06 ID:08c16964 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/13 20:48
夕の焼け空が闇に呑まれて行く頃合い。

空の高い所で色が塗り替えられていく。



「嫌な空だな……」



くゆるタバコの煙が上る。

それを追うように空を見上げながら男は呟いた。

男はいわゆる無頼である。

非合法な組織に属し、非合法な活動に従事し、非合法な資金を受ける。

なんの因果か転がり落ちてこちら、もう十五年を越えようとしていた。

特別頭が良かった訳でも、特別腕っ節が強かった訳でもないが、それでも多少は備わっていた魔法の才能が評価されたらしい。

ひとまずの所食いっぱぐれずにはこれた。

とはいえ大して規模の大きい組織という訳でもない。

敵対勢力の勃興に伴い管理局の締め付けも厳しくなってきた昨今、さらにその勢力は先細りを進めていた。

ここに至り、危機感を覚えた幹部勢は博打を打った訳だ。



「オヤっさんも無茶を言う」



ミッドチルダへ活動の拠点を移す。

一応の理屈はあった。

辺境へ向かうほど、むしろ駐在する管理局部隊の締め付けは厳しくなる。

勲功に飢えているという事もあるし、緊急の事態に対し応援が見込めない彼らは徹底的だ。

自分自身を守る為にも、海の部隊は容赦しない。

それに比べれば最悪、陸の部隊の方が錬度の面から見ても組みしやすいだろう。

要するに平和ボケしたミッドならなんとかなるだろうとたかをくくっているのである。

今日にしても、なんだか自分にはよくわからない絵画やらの取引、の護衛が仕事だ。



「いかがでしょう。
 ご期待にそえましたしょうか?」

「おお、美しい……」

「こちらに美術館の鑑定書も用意しております。
 額縁は私共からのサービスということで。
 これからもよい取引を期待させていただく意味で、どうぞお受け取り下さい」



もちろん、贋作である。

鑑定書もでっち上げだ。

むしろ一番金が掛かっているのは高価な木材をつぎ込んだ枠の方だと言うほどの有り様。

それでも馬鹿な金持ちは引っ掛かる。

特に脱税やら隠し資産やらと、どこかに賢い抜け道があるなんぞと戯けた事を考えている輩には覿面だ。

本人自身が後ろめたく感じているなら問題になる事もない。

どのみち、金になるならなんでもいいのだ。



「では確かに」

「取引成立だ」



とりあえず何事もなく一件は落着らしい。

それがなによりだ。

もう一度空を見上げる。

もはや夜に沈んだ空を。





**********





つつがなく、と全てそう片付けば良かったのだが。



「兄貴、兄貴!
 あいつら逃げちまいましたよ!?」

「ははっ、やっぱミッドは大した事ねぇな!
 オヤジの言ってた通りだ!」

「馬鹿野郎!
 遠巻きに囲まれかかってんだよ!
 撃て、近付かせるな!!」



検問に引っかかった。

それが全てではない。

知らぬ顔をしていればいいものを、職務質問に少々突っ込まれた程度で若いのが焦った。

焦ってショートデバイスを展開した挙句、衆人環視の中で魔力弾を乱射した。

最悪だ。



とにかく隙見て逃げるしかないぞ、クソ……ッ。



今は車を盾に睨み合いの状態だが、放っておけば続々と応援がやってくる。

もし武装隊でも出張れば車両などは何の用もなすまい。

どいつもこいつも甘く見過ぎだ。



オヤっさんもな。
ニュース見てねぇのかよ。



ここ最近陸士部隊の噂は顕著だ。

中でも何とか言う騎士の兄妹がヤバいという話である。

オーバーSランクなど怪獣も同然だ。

まともに戦おうなどと考える事自体がナンセンスである。

そんな考えが浮かぶ内にも、魔法弾が目の前を掠めていった。

よそに気を回している場合では――――。



「…………ん?」



何だ、この音は。

遠く、遠雷のように響く轟音。

近付いてくる。

しかし、姿はない。

拡散し過ぎている為に方向も分からない。

いや、近付いてきたせいか徐々に分かってきた。



「上……?」



見上げた空から響く、これはエンジンの音だ。

そして遠目ながらもはっきり視認できる、青のレール。

高機動用の仮想路。

そこまで認識した瞬間、男の脳裏にはあるフレーズが浮かんだ。



見ろ、あの夜闇裂くブルーリボン。
聞け、あの高らか響く行軍歌。



騎兵隊キャバルリー……」



彼らは来る。



「ナカジマ兄妹……!!」



呻きが漏れると同時、盾にしていた車両が真っ二つに切り落とされた。

自重に耐えきれずVの字にくずおれる車体。

眼前に降り立つのは黒い衣に黒い長槍を携えた長身の青年。

そして青いライダースーツに四肢を白銀の装甲で武装した長髪の少女。

間違いない。



「投降して下さい」

「危険魔法使用、管理局員襲撃、公務執行妨害その他の罪で全員逮捕する。
 デバイスを捨て、手は頭の上に出せ」



呆気にとられる一同を前に、騎士達は悠然と口上を読み上げた。

なんらの緊張も見てとれない。

本当の修羅場を潜った人間は幾らか見てきたが、そういった人間特有の匂いがあった。



こいつは、手に負えん。



一目で分かる隙のない佇まい。

若造、と言わせぬ眼光の鋭さ。

相対した瞬間に格付けが済んでしまった。

これが一回り以上も年下の人間が発しうる圧力なのか。

動けば、終わる。



……駄目だ、呑まれるな。



手が震えるのを感じつつ、男は手の中のデバイスを握り直す。

その時初めて汗がびっしりと覆っている事に気付いた。



「手前ぇ」



しかし、恐れを攻撃性に変える性質の人間というのもいる。

それは若さというべきか、勇猛というべきか。

どちらにせよ全員をこんな状況に追い込んでくれた糞ったれには違いない。



「舐めんなやぁぁぁぁっ!!」



激情のままに放たれる魔力弾の連打。

距離は10mにもならぬ、必殺の間合い。

が、しかし。




「ーーーーッ!?」



恐慌に駆られたチンピラ程度の動きが通用する相手ではない。

魔力弾の射出に先んじた赤橙の障壁が連弾を弾く。

慮外の暴走に硬直したのはむしろ自分達の方で、舞い降りた騎士達の眉を動かすにすら不足であった。

ただ、攻撃した男へ集中する黄金の瞳が二対あるのみ。



「ーーーー何してるっ!
 撃てっ、撃てっ、撃てぇぇぇぇぇ!!」

「なっ……止めろ!
 撃つな、お前ら絶対に撃つな!!」



視線に晒された男の声音は、もはや悲鳴といって差し支えなかった。

パニックの伝播は早い。

男の制止も虚しく、訳も分からずに攻撃を始める無頼達。



「硬ぇ……!」



それでも障壁は小揺るぎもしない。

遮二無二叩き込まれる魔力弾の尽くを止めてみせた。

それが数秒だろうか。



「投降の意志なし。
 やるぞ、ギンガ」

「はい……!」



遂にナカジマ兄妹が動いた。

動くとなればそれは苛烈の一語だ。

障壁を迂回し、左右に別れた騎士達が戦列を蹂躙する。

弾ける怒号。

途切れる悲鳴。

十はいたはずの手勢がみるまに溶けた。

接近戦の間合いに入られた時点で勝負は見えていたと思うべきか。



「ぷっ、プロテクション!」



大槍の威圧に負けた男達は防御を選択。

しかしゲルトの動きに躊躇はない。

いつもと同じに振るうだけ。

いつも通りに、ただ勝つ。



「そんな!!」

「嘘だろ、シールドごとーーーー!?」



重厚な刃。

たぎる魔力。

刃身一体の戦技。

剣線を阻み得るなし。

草木を刈るがごとく、ゲルトは無頼を薙ぎ倒していった。



「ブリッツショット!」



恐れを振り払わんが為の魔力の乱打。

ろくろく照準も絞らぬ散弾。

しかしギンガの機動に恐れはない。

いつもと同じに駆けるだけ。

いつも通りに、ただ勝つ。



「速い!?」

「クッソ当たれぇぇぇ!!」



唸る拳。

鳴り響く爆音。

人馬一体の戦技。

疾走を阻み得るなし。

巻き藁を打つがごとく、ギンガは無頼を吹き飛ばしていった。



なんの冗談だよ、これは……。



手下が尽く地に沈む。

それをただ男は見ていた。

一歩も動けず、一言も発せずに。

反撃せずにいたからか、男は未だ攻撃対象にされずにいた。

一人、世界から切り離されたように立ち尽くしている。

見ればナカジマ兄妹は最後の集団へ襲い掛かる瞬間であった。

男にもほど近い、膝立にてデバイスを構えた三人組。

しかし僅かに距離がある。

先手は無頼の方にあった。

それは確かに唯一の機と言っても良かったろう。

緩慢に流れる時の中、魔弾の集積光が弾殻を形成する。



まさか。



その期待が頭を過る。

しかしそれもゲルトの姿が消えた、一瞬までのこと。



「どこにッ!?」



横あいから伸びた青いリボンーーウイングロードがゲルトの姿を覆い隠すまで。

正確には、その薄い壁を貫いたゲルトが戸惑う三人を仕留めるまでの事だった。

一瞬標的を見失った程度で混乱する有象無象などカカシ同然。

最後の一人がデバイスをへし折られ、同じく地に沈む。

それが男の心の最後の一片を砕いた。



「…………」



ずるりと滑ったデバイスが手をすり抜ける。

妙に響く音が耳を叩いた。

と、同時に首筋へ気配。



「ーーーーっ」



それが高速で振り抜かれた槍の穂先であることに気が付いたのは視界の隅で静止した刃を確認した時だ。

手勢を打ち倒したナイトホークで間違いはない。

片手一本、バックハンドで振り抜かれたそれは薄皮一枚で静止している。

男にはゲルトがこちらを振り向く所までしか分からなかった。

しかし気付けばそこにある。

自らの素っ首に打ち込まれる筈だった刃。

目前のそれを見てしまえば呻きすら迂闊に漏らす事はできない。



う……く……。



動けない。

目を逸らす事もできない。

ただ黄金の瞳に射抜かれている。

乾く喉。

震える膝。

天敵を前にするとはこういう気分だろうか。

"威"である。

分かりやすい暴力を背景にしたプレッシャーが、男の気勢をことごとくへし折ってのけた。

通りの向こうにいる陸士達にすらそれが分かる。



「出てきて、一分少々……」



盾にしていた装甲車から体を離しつつ、若い陸士が呻いた。

立っている者は他にいない。

局員との間に激しい戦闘があった筈の路地も今はひっそり静まり返っている。



「あれが、騎兵隊キャバルリー

「そうだ。
 あれがナカジマ兄妹」



同じく立ち上がった陸士が頷く。



「“俺達の”ストライカーだ」





**********





「いかがかなものかな、最近の地上は」

「武装隊の出撃件数はここ数年、下降の一途のようですな」

「その一事だけなら私達の苦労も報われたと歓迎するのだが……」



大袈裟に吐かれたため息はそれだけに白々しく見える。

トントン、と苛立ったように指で叩くのは手元に表示された数値群。

特にその一点である。



「応援要請に比した制圧率も低下しているのはどういう事かね」

「はっ。
 それは――――」


無論、近年武装隊が急に弱体化したような事実はない。

精鋭から選抜された彼らは過酷な訓練にも耐え、常にその練度を保っている。

全員分かってはいるのだ。

その理由は単純。



「要請に従いまして部隊が到着した頃には、既に現場が制圧されているからであります」



どこからともなく溜め息が漏れた。



「グランガイツ・ナカジマ准陸尉か……」



彼が全てを持っていく。

頭の痛い問題だ。

各方面の出撃承認が必要な武装隊に比べ、部隊長個人の判断で行動可能な彼ーーーーもとい彼らのフットワークは軽い。

武練の程もそうであるが、飛行適性のある彼はクラナガン中どこでも現れる。

特に俊足を誇る義妹とのコンビを組み始めてからこちら、最近では武装隊に要請を出すより先に108部隊へ連絡がいく。

そんな事例まであると聞く。



「地上部隊の縄張り意識にもほとほと困ったものだ」

「よほど介入されるのが気に入らないとみえる」

「聞けば准尉は元々あのレジアス・ゲイズ中将の部下らしいじゃないか。
 上が上なら下も下ということか」



レジアス中将が武闘派であり、強硬な地上権威主義者であることは有名な話だ。

そして首都防衛隊所属時のゲルト直轄の上司など、調べればすぐに分かる。



「しかし現実問題、どうするかね。
 これは武装隊の存在意義にも関わる問題だ」

「確かに」

「このままの空気が蔓延するのは、よろしくありませんな」



治安維持の観点からも、武装隊の“威”が損なわれるような事態は避けなくてはならない。

ここいらで何かしらの手を打つ必要がある。

効果的で分かりやすく。

そして出来る限り多くの目に触れる形でだ。



「そこで、なのですが」



言葉とともに一つの書類が卓上に添えられた。

作成中の企画書だ。

タイトルは“72年度戦技披露会”。

内外向けに武装隊がその技量を披露するべく設えられた、大舞台である。

全員、その提案の意味は正確に汲み取った。



「これを、使わせては頂けないでしょうか」

「戦技会か……」

「悪くはない。
 しかし、誰を出すつもりだ?」



戦わせるのはいい。

そこで武装隊らしい技前を見せつけ、武装隊のなんたるかを証明する。

単純で明快な図式だ。

だからこそ肝心なのはそこである。

勝つのは当然としても、テレビ映えや一般人受けも考えなくてはならない。

ひたすら距離をとってアウトレンジから射殺すような真似は逆に不満を高める事になろう。

フェアに“見せる”というのも重要なファクターである。

しかしそうなると、



「相手は仮にもオーバーSランク騎士だ。
 生半可な人選では向こうを喜ばせるだけの結果になりかねん」



相手は一対一において定評のある古代ベルカ式。

居並ぶ面々とていずれも激戦を潜り抜けた歴戦の古兵である。

腕前を侮る人間は誰もいなかった。

腐っても武装隊。

実力主義に偽りはない。



「はい。
 ですので、こういう趣向はいかがでしょうか」

「ほう、これは……」



既に用意されていた企画案。

その内容は、



「いいだろう」

「君の思うようにやってみたまえ」





**********





時空管理局士官学校、市街地戦演習場第2グラウンド。

少年が駆ける。

衣装は時空監管理局の正式規格のバリアジャケット。

その年の若さと場所を思えば、今期の訓練生であろうとは想像はつく。



「うおぉぉぉぉっ」



銃撃が掠めた。

胴、腕、頭。

際どいところを突く魔弾を寸ででかわしつつ、射手への接近を敢行する。

軌道は予測しにくいジグザグ軌道。

刃を展開した杖状のデバイスを携え、少年は一陣の風となって演習場を駆ける。



あれだーーーー



目指すのは遮蔽物として用意された屏である。

相手の魔力自体は恐れるほどでもない。

近付きさえすれば、勝てる。

接近戦闘には自信があった。

例え相手が“鋼の騎士の教え子”であろうと同じ事。



いや、だからこそ負けられない。



なぜ彼女なのか。

少年は突撃を敢行しながら、オレンジのツインテールを風に任せた敵手をねめつけた。

総じて魔力に優れる訳でも、特殊な能力があるわけでもない。

ましてや性質から異なるミッドチルダ式の担い手である彼女が、どうしてエースの弟子たりえるのか。

いや、理由は分かっている。

“鋼の騎士”ゲルト・G・ナカジマと眼前の少女。

ティアナ・ランスターとの繋がりは余りに有名だ。



あのニュース……。



逃走中の凶悪犯を捕縛した鋼の騎士の表彰式典。

殉職した武装隊員、ランスター二等空尉の遺族へあてたメッセージ。

あれを見て局員を志したのがこの少年でもあった。

いつか自分も、と。

やっかみといえばそれまでだが、憧れや情熱に身を焦がす若い世代のこと。

入学初日から随分な騒ぎであったことを覚えている。

自らの戦種もゲルトの影響を無視できない。

だからこそ、この模擬戦では自分が倒す。

他の同期生も彼女を狙っているだろうが、譲るつもりはない。



俺が、俺が…………!



勢いのまま遮蔽物へ飛び込み、急制動。

そして跳躍。

一瞬後に自分が通っただろう位置を正確に魔弾が貫くのを確認し、少年はほくそ笑んだ。




「勝った!」



屏を上に飛び越えた少年はティアナを目指す。

刃を大上段に振りかぶり、全体重をかけた必殺の構え。

目に入るのは驚愕に震える瞳か、諦めに閉じられた瞼か。

否。



「やっぱりこっちか」



彼を出迎えたのは悠然と構えられた銃口。

左のデバイスのみが彼のフェイントに乗り、本命はしかとこちらに向けられている。



読まれてた!?



半身でハンティングホラーを構えるティアナに焦りはない。

切れ間なき二連の銃声が少年を貫く。

正確に眉間を捉えた連撃は意識を刈り取るに十二分。

それだけではない。



「そこッ!」



飛び込んできた姿勢のまま崩れ落ちる相手には目もくれず、ティアナは上方へハンティングホラーを向けた。

何も標的の見えない屋上への制圧射撃。

殆どが甲斐もなく空へ消えていくが、その目的は漁夫の利を狙い隠れ潜んでいたシューターの頭を押さえる事にある。

突然の射撃に動揺した敵は屋上深くへ身を隠して息を殺した。

ティアナが自らの位置に気付いている事も理解できたろう。

すぐにその場を離れるほど慎重ならこちらは一息がつけ、そして慌てて反撃してくるような粗忽者ならばーーーー



「いない!?」



弾幕の切れ間を好機と体を乗り出したシューターは、しかし無人の路地を見下ろすだけだった。

ティアナの影も見当たらない。

消えた。



「ホントに頭出すなんて」



死角から伸びた腕が突然視界に飛び込む。

無論の事、デバイスが握られたそれはティアナのもの。

拍子抜けするほど容易く至近距離に相手を収めた彼女は、やはり躊躇わずにトリガーを引いた。

ほぼゼロ距離にての二連射。

虚を突かれて防ぎ得るものではない。

ティアナは相手が倒れるのを確認し、ようやく息を吐いた。



「ふぅ……」



ぶらん、と屋根の縁に捕まったティアナが脱力する。

右のアンカーに体重を預け、彼女は腕一本で建物の壁面に張り付いている。

あえて弾幕にムラを作ったのは相手をこうして誘い出すため。

一時の緊張は解しつつも、ティアナは油断なく路地へと舞い降りた。



「そんな気はしてたけど、やっぱり狙われる……か」



ティアナ自身、自分が目立っている自覚はあった。

規格通りの杖状ストレージデバイス使用者も少なくない中、喧嘩を売るほど高級なワンオフの拳銃型デバイス。

しかも人格AI搭載のインテリジェントモデル。

そして何より局関係者で知らぬ者はない“鋼の騎士”の教え子であるということ。

技量の判断基準の一つとして、魔法技術の指導者などは特に理由のない限り一般の目に触れる形で公開されていた。

といって、実際のところは身元保証人と大差はない。

ゆくゆくは重大な責任と強力な権限を預けられる士官の卵である。

本人の人格や素行などを一々監視していられない以上、そういった後ろ盾の存在が人事や進路に影響することもまた、暗黙の了解ではあった。

ゲルトは何ら気にした様子もなかったが、彼に憧れて入局を志した者も少なくない中、彼女は多大な憧憬と、そしてそれに匹敵するやっかみも買っていたのだ。

そこへ来ての遭遇戦を想定した士官候補生達によるバトルロイヤル。

生徒間の交流も兼ねて、との通例行事だが狙われるのは必然だった。



「それでも」



決意も新たにカートリッジを入れ替える。

自分自身のみならず、ゲルトの名誉までかかるとなれば尚更。

勝つ。

その為に、意識しなくてはならない事がある。



ジャイアントキリング。



己の分は弁えている。

ここにいるのは皆士官候補生。

将来を嘱望されたエリート達である。

中にはあからさまに豊富な魔力量や、レアスキルを誇示する者もいた。

しかし、



私は違う。



超硬度のファームランパートや驚異的な破壊力を誇る振動破砕。

あんなものは自分にはない。

魔力量も同じ。

目を引くと言えば精々が幻術魔法くらいのもの。



でも、だからって負けられない。



あの日、ゲルトらに全てを告げられた日にも思った。

相手が戦う為に生まれた存在だから?

レアスキル保持者だから?

だからなんなのか。

だから自分が敵わないのも仕方ないとでも?



そんなわけない。



“負けていい”理由なんてない。

正式に局員となれば相手なぞ選べようもないのだ。

高ランクの魔導師と戦う事もあるだろう。

数で優る相手に挑む事もあるだろう。

そんな時に、相手が特殊だからというのがなんの言い訳になるというのか。

ましてや凶悪犯罪に立ち向かう執務官を目指すとなればなおさらの事。



だったら、同じ事でしょ。



持てる全ては限界まで引き出す。

相手に全力は発揮させない。

そして勝つ。

ゲルトに身をもって叩き込まれた通り。



「まずは、主導権を取り続ける事」



ティアナは駆け出した。

自ら敵を求めて疾走。

守勢に回れば一揉みに潰される。

それは分かっていた。

だからこそ、こちらから仕掛けに行く。

そうとも。



「私は諦めたりなんて、しない……!」





**********






魔弾が連続する。

一方、のみならず二方。

炸裂する破壊力は標的を捉えず、幾重にも交差する。

ティアナと敵手が一直線に並ぶ柱を挟み、乱打戦。

しかしながら移動しながらの射撃は通常に比べ難度が跳ね上がる。

ことに側面方向への平行移動となればその差は歴然。

肩が跳ね、息は上がり、腕も安定しない。

撃ち合いとなれば相手の弾幕に意識も散らされる。

大したこともない距離に比して全く命中しないのも無理からぬ事。

それでも徐々に修正された弾幕が、互いを射抜くのも間近。

その寸前を狙い、



「ハンティングホラー!!」

『イエス、マスター』



金属音を上げ、マウントレールのアンカーが発射体勢に。

威嚇も兼ねて適当に乱射しながら戦闘の帰趨を描いていたティアナ。

その目算通りに宙を裂いた銛が敵手背後の壁面を抉り、さらに。



ここだーーーー!



引っ張られるように強引に軌道を変えたティアナが動く。

平行移動から突如の垂直機動。

自分を射抜いた筈の弾丸を置き去りに、一気に敵手の死角へ躍り出る。

壁に激突する勢いを壁面を蹴り飛ばす事で耐え、フリーの右手をターゲットの背中へと。

相手は急に視界から消えたティアナに反応できていない。

終わりだ。

直後、遠慮のない連弾が目標を射抜いた。


「よしっ」


相手が路地に沈むのを確認し、ティアナはさらに動く。

新たに敵を求め、戦う。

基本的には攻勢に出る訳だが、局面に合わせて戦闘のパターンも様々。

時には浴びせかけるような連射で前面に意識を集中させたところを誘導弾で不意打ちに。

時には格闘用のショートエッジでバリアをこじ開けた上で正面突破。

時には幻術に釣られた相手を狙い撃ちに。

軒並み戦闘時間は接触から数手の内。



なんとか……やれてる……。



しかし元より潤沢でない魔力量から連戦に続く連戦。

さらに分の悪い勝機に全てを託す、薄氷を踏むような戦い。

今までの訓練とは違う種類の疲労がティアナを消耗させる。



「あと、何人よ……」



何度目の会敵だろう。

カートリッジの負荷もあわせて厳しくなってきたころ、それは起こった。

敵を求めて角を曲がった瞬間、同期の訓練生と出くわした。

相手が待ち伏せていたようには見えなかったが、疲労のせいだろう。

ティアナは先手を相手に譲ってしまった。

相手のデバイスがこちらを向く。



っ、防御……!



咄嗟に張ったシールドは間に合った。

が、見たところ突然の接触に相手は混乱している。

息切れも構わず滅多やたらに撃ち込まれる魔力の弾丸がその証拠。

まさに乱射としか言いようがない。

狙いも甘く、弾殻の精度もまばら。

だが、これはなかなかまずい状況だ。



「こっちは少ない魔力やりくりしてるっていうのに……!」



ティアナの場合総魔力量はもとより出力も平均から大きく超えるという事はない。

体を覆うシールドを長時間維持するだけでも辛いのだ。

根比べはできない。

このままでは圧殺される未来が待つのみ。



やるしかない!



甘い射撃を見切って反撃。

相手が怯んだところを畳み掛ける。

これしかない。

決断は早かった。

撃ちかけられて3秒程、ティアナが動く。



「ああぁぁぁぁっ!!」



身を捻りながらシールドを解除。

射線から逃れつつ左のハンティングホラーで敵手を狙う。

もはや癖となりつつあるダブルバースト。

照準もそこそこの抜き撃ちだったが、その連撃は見事に相手の顔の傍を掠めていった。

威嚇には十分。

よし、と思いつつティアナは立射姿勢へ。

得意な型に嵌めようとしつつーーーー



「ーーーーぅあっ!?」



肩を撃ち抜く衝撃によろめいた。

右肩だ。

さらに続く射撃、射撃、射撃。

ティアナが路上へ倒れるまでに計6発の弾丸がその体に突き刺さった。

無論非殺傷設定ではある。

が、あまりにもな過剰攻撃であった。



どうして……っ。



誰しもが戦闘の才を持つ訳ではない。

パニックに陥った相手に視覚を掠るような威嚇を理解できる訳がない。

分かっていた筈なのに。

もはや声もなく、ティアナの意識は闇に落ちた。





**********





「やっぱり訓練厳しいな〜」

「ホントにね。
私ほらここのとこアザできちゃったし。
基礎トレなんてここに来るまででもう十分やってきたっての」

「早く実戦で役に立ちそうなことやらないかなぁ」



そんな士官学校の夜。

厳しい訓練を終えて体を休めれば愚痴の一つも零れようというもの。

寮の談話室には同じように身を伸ばした少女達が思い思いにやっと訪れた休息を楽しんでいた。

シャワーを浴びたティアナも例外ではない。

乾ききっていない髪を拭いつつ、ラフな格好で入室した。

頭にあるのはここ最近の自身の傾向について。

総じて、ティアナは高いレベルでの成績を維持できている。

基本スペックでこそ劣る為に測定テストなどでは他者の後塵を拝することもままあったが、それも座学や模擬戦などでどうにかカバーの効く範疇であった。

模擬戦の勝利で明らかに不利と思える能力差を覆してきた訳だ。



でも、勝てない時は勝てない。



悩みはそこだ。

教官などからも折に触れて指摘される為に薄々気付き始めてはいた。

ティアナが勝てない時、相手は必ずしも優秀な人間ばかりではなかった。

むしろ評価としては全体からみても下位に属する候補生である事の方が多い位である。

能力が上な相手にほど食らいつき、能力が平凡な相手にほど手こずる。

これでは順序があべこべだ。



どうして……?



油断、慢心している。

真っ先に指摘された事だった。

しかし本当にそうだろうか。

ティアナもティアナなりに考えている。

なぜ勝てなかったのか。

いや、誤魔化すのは止めよう。



どうして負けたのか。



紙パックの野菜ジュースを啜りながら振り返る。

何故か。

しかし簡単にそれが分かれば苦労はしない。



もっと上手くやらないと。



飲み切ったパックを握り潰した。

正攻法では勝てない。

裏をかかなければ。

今よりもずっと巧妙に。

出来るなら分かっていても嵌らざるをえない位に。

ゲルトの得意とする戦法もそれだった。

一見は単純な真っ向正面突破に見えて、実に見事に心理の隙を突いてくる。

だからこそ無手で魔導師を鎮圧するというような無茶までやってしまうのだろう。

精神力を土台とした戦闘技芸。

鋼の騎士のなんたるかを、最も体現するところ。

ティアナの戦闘スタイルも殆どはこれに起因している。

そのために、もっともっと。



「あっ、ランスターさんだ!」

「えっ、ジャストタイミングじゃない!」

「ちょうどいいところに!」



と、一人闘志に燃えるティアナの元。

気付けば彼女を囲むように同期の候補生が集まっていた。

何事か、皆一様に興奮した様子である。



「何?どうしたのよ」

「それはこっちのセリフよ!」

「どうして何も言ってくれなかったの!?」

「はぁ?
 え、ちょっと一体何の事?」



やや気圧されたティアナは眉間に皺を寄せながら身を引いた。

こうして一方的に詰め寄られるような覚えなどない。

しかも全員が全員普通じゃない。



「ほら、あれあれ!」

「ナカジマ准尉から聞いてないの!?」



指指すのはデスクに設置されたウインドウ。

どこかのニュースサイトを漁っていたらしいその一面を占めるのは。



『今年度も開催!戦技披露会!!』



武装隊の通例行事だ。

その年の中でも特に出色とされる人物などが出場し、その才幹を広く世に示す。

見た目が派手な事もあり、世間的にも評判の高いイベントの一つである。

それ自体はいい。

問題なのはその下。

余興となるエキシビションマッチ。

その内容。

そのマッチメイク。



『“エースオブエース”高町なのは二等空尉』



押しも押されぬ本局武装隊、航空戦技教導隊のエースストライカー。

オーバーSランクの砲撃戦魔導師。

その若さと才能から将来を嘱望された今一番の注目株であり……。



確か、スバルの憧れの人。



聞いたことがある。

彼女が魔導師を目指した理由そのものの人物。

そして、もう一人。

エキシビジョンゆえの特別枠。

武装隊外からの特例参加。

ティアナもよく知る人物だ。



『“鋼の騎士”ゲルト・G・ナカジマ准陸尉』



あの幼き日、入院時の邂逅より実に五年。

同じ年齢。

同じオーバーSランク。

本局と地上。

空尉と陸尉。

片や教導隊仕込み、最新のミッドチルダ式。

片や自治区出身者直伝、真正古流のベルカ式。

両雄、激突。









(あとがき)


お待たせしました!!

ようやくと最新話投稿完了です。

本当はこの一話で戦技披露会までやりきるつもりだったんですが、思いの外ティアナの部分が長くなったので切り分けに……。

しっかし次回こそは遂になのは対ゲルトとなります。

趣味全開ぶちかます予定ですのでご期待ください。

それではまたよろしくお願い致します。

Neonでした!!




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