「今日からこのゼスト隊に配属になりました嘱託魔導師のゲルトです。
まだよく分からない事も多いのですが、ご指導よろしくお願いします」
時空管理局地上部隊の制服に身を通したゲルトが袖を切って敬礼する。
「もう全員知っていると思うが、ゲルトは前に踏み込んだ施設で保護した子供だ」
「あの時は助けていただいて本当にありがとうございました」
深々と頭を下げて謝意を告げた。
「へぇ、君が例の男の子か」
早速隊員達がゲルトを囲み、興味津々といった風で話かけてくる。
「聞いたぜ、真っ正面から隊長とやりあったんだろ?」
「ああ、その時一緒にいた連中見てるだけだったんだっけ?」
「うるせぇな!
あんなのの中に割って行けるか!」
「しかも隊長のデバイスぶっ壊したらしいじゃねぇか!
やるなぁ坊主!」
……え?
「ちょっ、ちょっと待って下さい!
俺、ゼストさんのデバイス壊したんですか!?」
隊員の思わぬ言葉に大慌てでゼストに確認をとる。
確かにあの時は本気で戦ってたけど!
言われてみればフルドライブ状態でゼストと打ち合ったのを思い出した。
ああ!やっぱりあれか!!
あの時ので壊したのか!?
「気にするな。
既に直っている」
そう言ってデバイスを展開して見せてくれた。
確かに今は直っているようだが……。
「す、すみません!
あの時は無我夢中と言うか、前後不覚だったと言うか……とにかくすみません!
助けようとしてくれてたのに俺は……!」
「己の未熟が為した事だ」
ゼストは一向に気にした様子もないが、ゲルトの方はそうもいかない。
恩返しの一歩目を踏み出そうとした瞬間に出鼻をくじかれ、意気消沈も甚だしい。
「あ~、もう!
来て早々何落ち込んでるの!」
見かねたクイントがゲルトの手を引き、強引に外へと連れ出していった。
「クイントさん!?
え?これどこ行くんですか!?」
「訓練場よ。
入隊の歓迎も兼ねて模擬戦やるの」
混乱した様子で行き先を尋ねるゲルトに、こちらを向いたクイントは足を止めず、しかし右目をウインクさせながら答えた。
**********
訓練場にゼスト隊のメンバーがフォワード、バックヤードスタッフ問わず集結し、中央に立つ二人を見つめていた。
渦中の二人は模擬戦に備え準備運動で体をほぐしている。
「そういえば、ゲルト君って模擬戦とかした事あるの?」
足を開いて伸脚しながらクイントが尋ねる。
「いえ、そういえば無いですね。
訓練といえばひたすらIS展開し続けたり、魔力刃形成したりしてましたから」
「じゃあ、言っておくけど手加減は無用よ?
非殺傷設定なんだから少々の事じゃ大した怪我もしないわ。
ドンと来なさい」
「はい!」
ウォームアップの終了した二人が対峙する。
「「セットアップ」」
二人が唱えると同時バリアジャケットがその身を覆い、デバイスが展開された。
「準備はいいわね?」
「いつでも」
クイントが右手のリボルバーナックルを突きだし、ゲルトが魔力でカウリングされたナイトホークを構える。
「それじゃあ、行くわよ!」
クイントが疾走を開始。
ローラーブーツを履いたその速度はかなりのものだ。
彼我の距離はおよそ20メートル程。
ゲルトはその場を動かず、迎え撃つというようにナイトホークを大きく振りかぶった。
石突きをクイントに向け、できる限り間合いを測られ難いように構える。
至極当然の発想だろう。
拳と槍ではリーチに大きな差がある。
こちらからわざわざ近付いて行くまでもない。
相手は接近せざるを得ないのだから飛び込んできた所を薙ぎ払えばいいのだ。
流石に牽制で魔法の一つも撃ってくるだろうが……。
「リボルバー、シューートッ!」
クイントがカートリッジをロード。
唸りを上げて回転する手甲から薬莢が飛び出し、拳撃と共に渦巻く衝撃波が射出された。
ゲルトは動じる事も無くISを発動。
眼前に展開したファームランパートが撃ち出された衝撃波を難なく受け止めた。
しかしあまり期待はしていなかったのかクイントは気にせずに突っ込んでくる。
一直線に突撃してくるクイントが間合いに――――
入った。
「でやあっ!!」
左足を大きく踏み出して間合いを更に広げ、槍というよりは薙刀のような形で薙ぎ払う。
腕だけでなく全身のしなりと体重移動を利用して振られた会心の一撃だ。
だが……。
見切られた!?
クイントはギリギリまで引き付けて宙を舞い、広範囲の斬撃をかわしてみせた。
頭上で更にカートリッジをロードする音が聞こえる。
恐らくさっき撃ってきたのと同じような魔法を撃つ気だろう。
「なんのぉっ!」
衝撃吸収を付加したISを未だ泳ぐデバイスの軌跡に展開。
強引に慣性を殺し、一瞬で持ち替えたデバイスの石突きを頭上に繰り出した。
「ウイングロードッ!」
石突きはクイントの左肩に突きこまれるはずだったが、彼女はそれにすら反応してみせた。
ウイングロードがクイントの右足を起点に螺旋を描いて展開。
ローラーブーツが魔力でできた道を滑走し、それに引っ張られるような形で身を捻らせる。
石突きは目的を見失いクイントの背中へと抜けた。
「!?」
「でぇぇぇぇぇいっ!!」
クイントは回転の勢いを用いて右手を叩きこむ。
ゲルトは咄嗟にISを展開して防御。
今まで何度となく自分の命を救ってきてくれた“力”だ。
まず抜かれる事は無いと防御には絶対の自信がある。
事実、衝撃波を纏って放たれた拳はテンプレートによって完全に防がれた。
しかしゲルトは至近距離から放たれた攻撃に反射的に目を瞑ってしまう。
ある意味でそれは身を守る為に行われる自然な行動なのだが、この場ではそれが明暗を分けた。
「おわっ!?」
着地したクイントに足を刈り取られ、地面に倒される。
気付いた時には顔の前にクイントの拳が止まっていた。
「ここまでね」
「ま、参りました」
ナイトホークを持つ右手も肩からクイントの膝に押さえられていて動かせない。
勝負あった。
**********
「く~、まさかあんなに簡単に負けるなんて……」
濃密な応酬ではあったが、実際にはただ一度の接触で負けているのだ。
もちろんゲルトとしてもクイントの実力を侮っていた訳ではない。
ただゼストの前で無様な所を見せてしまったと悔しさは拭いきれない。
「あはは。でもゲルト君も中々だったわよ。
IS、ファームランパート……だっけ?
あれとんでもなく硬かったし、反応も悪くなかったわ」
「だが、その分防御力に頼り過ぎている」
クイントがフォローしようとするが、ゼストは苦言を呈した。
「明日からの訓練ではそこも正していく」
「はい……」
それだけ言い残すとゼストは隊舎へ戻って行った。
ゲルトの方は欠点を指摘され、どうにも気分が落ち込んでいく。
実戦も経験し、腕前には自信があったというのにそれが崩れていくような気がした。
いや、正確に言うと自信があるというより――――
俺には戦う事しか……無い。
それしか教えられてこなかった。
だから自分が戦う事が恩返しになって、更にギンガ達にも早く会える。もしかしたら、まだ見ぬ同胞を助ける事にもなるかもしれない。
そう聞いた時、なら今度は自分の意志で、自分の選んだ戦いをしよう、とそう思った。
だから嘱託魔導師になった。首都防衛隊への配属も希望した。
そのはずだったのに。
はぁ~、何やってんだ俺。
(あとがき)
今回は作者の都合で2話に分けます。
そのせいでこの話がほぼクイントと模擬戦やって更に主人公ヘコませただけで終わっちゃいましたが、後の話もできる限り早く出すのでご容赦を。
まだ後半は推敲が終わって無いし、書き足したい事もあるので……。
後で纏めて出してもいいんですが、ある程度の間隔で投稿してないとこっちもダレてきますから。