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No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
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[8635] クロスファイアシークエンス
Name: Neon◆139e4b06 ID:013289b5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/02 23:41
今年もまたあの日が近付いてきた。

季節を越え、年を一周し。

それは仕方のない事だ。



「はぁ……」



だからといってそれが平気になる訳でもなく。

当時に比べれば遥かにマシだとはいえ、憂鬱になるのは避けられなかった。

さもありなん。

何といって明日は――――兄さんの命日だから。



「お墓参り、行かなくちゃね」



窓の向こうの星空を一瞥し、少女はベッドに入った。

オレンジの髪が似合う少女だった。





**********





工業地帯の近い沿岸部ともなれば民家も少なく、ただ闇雲に巨大な倉庫がひしめくように乱立している。

日が落ちてしまえば人気も殆どない。

月明かりはあれど人の顔を判別できる程でもなく、何か後ろめたい事をする人間には古今、打ってつけの場所と言えた。



「はっ……はぁっ……はぁっ……!」



そんな倉庫街、男が狭い路地を走っていた。

時に何かを確かめるよう振り返り、そしてまた走る。

星を眺める余裕などあろう筈もない。



「……うぉっ!?」



置かれていたゴミ箱に蹴つまづいた。

何とか耐えようとこらえてみるも、バランスは完全に崩れてしまっている。

無様に転倒して中に詰まっていたゴミをぶちまけた。



「ちっくしょう!
 何やってるんだ!」



逃げなければ。

逃げなければならない。

姿こそ見えないが、追っ手はもう近くに来ているのが分かる。

こちらに近づいてくるエンジン音。

バイクだろうか?

何にしてもこちらを追ってきているのは明白だった。



「誰がタレコんだ……!」



視線が行くのは転んでも手離さなかった右手のアタッシュケース。

ご大層に鍵付き、表面も頑丈そうな仕様で、よほど大事なものが入っているのだろうとは子供にも分かる。



「クソぉ!」



毒づきながら男は走る。

姿も見えないエンジン音に追われて。





**********





『逃走中の売人一名、阻止地点に向け北上中。
 十秒程で道路に出ます』



ゲンヤはゲルトの報告を指揮車の中で聞いた。

追い込みは上々。

ただ、それ以上進まれるのは少し面倒だ。

何とか転進させる必要がある。



「カルタス、聞こえてたな?
 カウント始めろ。
 頭ぁ出させるな」

『了解』



無論、ぬかりはない。

通信からはまた監視を行っていた人物とはまた別の声が聞こえた。

まだ若い男。

部隊内ではゲンヤに次ぎ捜査部主任を務め、現場においては小隊長もこなすラッド・カルタス三等陸尉である。



『五……四……三……二……一……』



カウントするラッドには走ってくる男の姿など見えてはいない。

ただゲルトからもたらされた情報に従ってタイミングを計り、そして、



『撃て』





**********





「はぁ……はぁ……」



ようやく道路が見えてきた。

あそこまで出れば足など幾らでもあるだろう。

車、バイク、タクシーでも何でもいい。



あそこまで、いけば。



無論、辿り着ければの話だ。

ゲンヤはそうさせるつもりもない。

男が道路へと飛び出そうとした瞬間――――



「うぉぉっ!?」



行く手を塞ぐよう、魔力弾の斉射が行われた。

およそ二秒間の制圧射撃だ。

幾重にも尾を引いた線が闇を切り裂く。



「ま、待ち伏せ!?」



男も反射的に足を止めざるを得なかった。

覗きこまなくても分かる。

完全に捕捉されているのだ。



他に、道は……!!



焦燥に焼かれながら、男の目が激しく動く。

前、左、右、上。

振り返って後ろに。



「……っ!」



見つけた。

脇道がある。

エンジンの音は近付いていた。

選択肢などはない。

男は駆け出した。





**********





『進路変更しました。
 そちらへ直進中』

「よぉしよし掛かった!
 後は網を手繰るだけだ」



喝采と共に手を叩く。

悪戯が成功した子供のように嬉しそうな顔だ。



「念の為カルタス達はそのまま待機。
 こっちは任せとけ」

『はっ、お気をつけて』

「おうよ」



ゲンヤの見る地図上で、先程男が曲がったのは逃げ場の無い一本道。

そしてその先はデッドエンドだ。



「さぁて……」



ゲンヤは改めて口元のインカムを掴む。

一息を吐いた彼は、しかし口調を幾分落ち着かせた。



「仕上げといくぞ、野郎共」

『イエスボス』



仲間の声が聞こえる。

現場にいる全ての部下達からだ。



「状況は殆ど詰みだが、忘れるな。
 現場に於いては臨機応変。
 そして何より――――」

安全第一セイフティ・ファースト

「満点だ。
 よぉし出るぞ!」





**********





「何だ!?」



男の目の前に突如指揮車が現れたのは次の瞬間だ。

目前の十字路を塞ぐように車両がバックしてくる。

と、同時に車体上部の投光器から強力なサーチライトが容赦なく浴びせかけられた。



「があっ!?」



二器からの集中放射。

本来数キロ先でも明瞭に照らし出す強力な光線だ。

目を覆っても光が貫通してくる。

夜の闇に慣れていただけに、尚の事サーチライトは男の目に効く。

指揮車を直視どころか、目を開けている事すらままならない。

その間にも耳には何人かの足音が聞こえて来ている。

見えはしないが、魔導師だろう。



『動くな。
 抵抗せず、そのまま地面に伏せろ』



外部スピーカーから聞こえてきたのは落ち着きのある壮年頃の男の声だった。

内容とは裏腹に特に急かす風でもない。

絶対の勝利故の余裕だった。



「うっ……」



腕で顔を庇いつつ後ろを振り返ってみても逃げ道はない。

バイザーで目を防御した魔導師が二人、後背を断っていた。

一人はナックルにローラーブーツまで装備した少女。

常に後ろに張り付いていたエンジン音は彼女だったらしく、走り屋もかくやというアイドリングを轟かせている。

が、むしろ問題なのはその隣の男。



まさか……。



光に目を細めながらも男の瞳は確かに開いた。

顎先までも覆い、三つ又の裾がはためく黒のロングコート。

身の丈程、光も反射しない重厚な黒槍。

間違いない。



「鋼の、騎士……!?」



噂位は聞いたことがある。

ゲルト・G・ナカジマ。

地上屈指とも囁かれる接近戦術のエキスパート。

本職の教会騎士すら歯牙にもかけずに薙ぎ倒すような化物だ。

チンピラが敵う相手ではない。

そしてもはや逃げられる状況でもない。

決断は早かった。



「投降……する」



どうせ死ぬ訳でもないのだ。

下手に逆らって痛い目を見る事はない。

ゆっくりと膝を着き、上体を倒す。

即座に駆け寄った何者かに体を押えられ、腕にはしっかりと手錠をかけられた。





**********





「状況終了。
 よくやってくれたな」

「特に何かした感じもしませんがね」

「私達は適当に歩いてただけですから……」



終わってみれば本当に呆気も無い作戦だった。

密輸の現場を押さえての取り締まり。

といって現場の方はロストロギアの疑いがあるとかで遺失物管理部の実行部隊が担当。

108の受け持ちは先のような取りこぼしの検挙だけだ。

まずないとは思いながら敵が魔導師であった場合を考えて慎重策を取ってみたが、おかげで隊員の負傷者はゼロ。

素晴らしい事である。



「――――おっと、通信か」



合同捜査本部の主任担当官であった。

階級は三佐。

ゲンヤと同格ではあるが、捜査体系での序列上は向こうが上という事になる。



『すまないナカジマ三佐。
 手間を取らせてしまった』

「ああいや、構いませんって。
 現場のモンは足動かしてなんぼですから」

『借りが出来たよ。
 後始末はこちらが引き受ける。
 そちらの部下にも礼を言っておいてくれ』

「了解しました。
 ではお願いします」



ふぅ、と一息つきながら通信を切る。

これにてお役御免という事だ。



「撤収するぞ。
 車出してくれ」

「了解。
 ちゃっちゃと戻りましょう」



今日も街を装甲車が東へ西へ。

その一つの側面にはやはり“Ground Armaments Service‐Battalion 108”のエンブレム。

しかしこの日ばかりはその文字も些かよれて見えた。





**********





「――――にしても、やっぱり遺失物管理部も人手不足なんですね。
 包囲しとって取り逃がすやなんて」

「あそこは生え抜き揃いだからな。
 その分手の回らない事もある」



ぼやくように呟いたはやてに、ゲンヤも苦笑で答えた。

思うに原因は管理局の体制、というかミッドチルダという世界そのものの性格によるものだろうと思う。

というのもここは管理局発祥の地であると共に人と技術の集う最先端の文明都市。

様々な文化、人間を許容せねばならない関係上、個人主義は一般レベルにおいても徹底していた。

例えばゲルトなどは一躍時の人ともなったが、かといって家に押しかけてくるような鬱陶しいマスメディアは存在しない。

ゲルトが顔を出すのは局とゲルト本人が了承した会見、取材によるもののみで、所謂突撃取材やらパパラッチなどというものは総じて嫌悪される存在なのだ。

この個人主義は進路に関しても明確で、基本的には能力さえあれば何処にでも行けるし、逆に勝手な異動というのも早々は無い。

オーバーSランクという超スペックの騎士が一地上部隊にいられるのもそれが一因であろう。

この気風は局が内外に誇れる美点でもあるが、それゆえに一線部隊の人材確保は深刻な問題になっていた。

誰もわざわざ危険な部隊に行きたいなどは思わないし、正義に燃える者ならより活躍できる海に行く。

キャリアの獲得や手取りの高さ、それに名声など様々な手を講じているが、一朝一夕に片付く問題ではない。



「ま、なんならお前さんが出世して変えてみてくれや。
 そうすりゃ、俺達も多少は楽になるさ」

「ええですねぇ。
 ほんならまずは防衛長官にでもならんと」



つまりは地上本部総司令だ。

言うまでもない事ではあるが、現在は入局四十年にもなろうかという大ベテラン、レジアス・ゲイズ中将がその任を預かっている。



「おお言うねぇ。
 んじゃあその次は?」

「もちろん最高評議会!」

「評議会か!
 ハッハハハ! 大きく出たもんだ!」



噴き出すように笑うが、丸きり冗談と言い切れない部分もある。

二十歳も前にして既に一尉。

佐官はもう目の前で、このぺースなら三十頃に将官位には食い付いているだろう。

だとするなら成程、防衛長官というのも決して無理な道では無い。



「っとに最近の若い奴は頼もしいねぇ。
 それに引き換えうちの連中と来たら……」



帰路に着く装甲車の中、隊員達にも多少の疲れが見える。

大事なく終わったとはいえ今回の事は急な出撃でもあったから仕方も無いが。

もちろん、はやて達だとて疲れが溜まっていない筈はない。



「やっぱり夜の出動は辛いか?」

「昨日に続いて連続なんでちょっと……。
 今日は仮眠室使わせてもらっていいですか?」

「ああ好きにしな。
 多分他にも何人かそうするだろ」



両壁面に向き合うように座席が設置された車内で、何人かがだれたように手を挙げている。



「ナカジマ三佐はどうします?」

「俺か?
 俺は別にどっちでも構わないんだが……。
 おい、ゲルト達はどうする」



ゲルトとギンガは隣合わせで座っている。

二人ともバリアジャケットは解除済み。

普段の制服姿である。

全く疲労の色も見せないのはこの二人位のものだろう。



「帰ります。
 明日、朝に少し寄りたい所があるので」

「ん?朝っぱらからか?」

「ええまぁ」



首を捻るようにゲンヤが聞き返した。

店を訪ねたり、人に会うには些かおかしな時間である。

別段職務でそのような事が必要な案件もない筈だ。

ゲルトもその空気を感じ取ったのだろう。



「――ああ、といってもごくごく個人的な用事ですよ。
 時間もそんなには掛かりません」

「そうか、まぁ今日の事もあるしな。
 多少の遅刻位は多めにみてやるからのんびり行ってきな。
 ……それで、ギンガはどうする?」

「准尉がそうするなら、私も帰ります」

「そうか」



日も落ちてはいるが帰れない事はない。

少々面倒な事に目を瞑れば、簡素な仮眠室より我が家の方が良いに決まっていた。

それにあまり家を空けてクイントに拗ねられても、その、なんだ……困る。



「ま、そういう訳で俺も帰る事にするぞ。
 今日の件は向こうさんが片付けてくれるらしいしな。
 報告書も明日でいいだろ」

「了解しました、三佐」



今現在においてゲンヤのスケジュールを管理しているのははやてである。

これは本来次席に当たるラッドなどがこなしていた仕事であったが、ただ傍で見ているだけというのも申し訳ないという彼女の提案から始まった。

そしてはやても実際に遺漏なくその職務をこなし、実務という観点からも隊内の信用を勝ち取り始めていたのである。

性格の一致もあったのだろうが、様々な事情抜きにゲンヤとはやては上手くやっていた。



「――ったくこれから暑くなろうってのに厄介事ばかり増えやがる。
 夜くれぇは大人しく寝とけってんだよなぁ」

「ほんまに。
 折角の美人の肌に吹き出もんが出来たらどうしてくれるんやろ」



ネクタイを緩めたゲンヤやはやてが冗談めかして笑い合った。

その声は車内にも伝播していき、遂には合唱となっていった。

それで終わっていればよかったのだが、



「――――あ」



というはやての一声で嫌な予感を感じたのはゲンヤだけではない。

何故と言って通信のコールがあったからだ。

それもオープンチャンネルで。



「三佐」

「なんだ嬢ちゃん」

「通信です」

「おう」



一拍を置き、



「応援の要請やそうで」

「……そうか」



はー、と溜息を吐きながら頭を振るう。

車内にも重苦しい空気が纏わりついた。

ゲンヤもうんざりといった様子ではある。

が、かといって無視などできる筈もなく。



「先方はなんだって?」

「十二、ないし十三台のバイクによる暴走です。
 既に同じ車線を走っていた車両に被害が出たらしく、早急に対処するよう命令が出てます。
 今は時速七十キロで二十七番ハイウェイを郊外に向け南下中。
 付近の部隊はこれに対応せよ、と」

「二十七番っていやぁ……」

「今自分達が走っているここです。
 多分もう少しで擦れ違うのでは?」



答えたのは何時の間にか傍にきていたラッドだった。

もちろん、その程度の事はゲンヤとて了解している。



「はぁ……全く……」



問題なのは、反対車線だ、という事。

ハイウェイの車線変更をするとなると大きくタイムロスせざるを得ない。

装甲車でここから追い付くのは至難だろう。

加えて言うなら先程逮捕した男を運ぶ護送車の警備もしなくてはならない。

と、なると、



「俺の出番ですか」



やはり飛行可能な魔導師の出番。

心得たもので、既にゲルトは席を立っていた。



「……すまん」

「ま、仕方ないでしょう。
 軽くシメて来ますよ」



冗談にもならぬ事を嘯きながらバリアジャケットを展開。

狭い車内では邪魔になるからかナイトホークは未だ手にはない。



「それなら私も連れて行って下さい。
 足手まといにはなりません」

「あ、じゃあ私らも行こうか?
 四人おったら何とでもなるやろ」

「お供しますです!」



と、車体後部に向かおうとしたゲルトの背にギンガの声が掛かった。

続いてはやて達も手を上げて同行を申し出てくる。



「しかし八神一尉は……」



とはいえ、ギンガはともかく正確に言うなら部隊員ではない研修生が前線に出てもいいものだろうか?

一瞬迷うように足を止めたゲルトだったが、こればかりは自身で判断できるものではない。

自然、決定権を持つゲンヤに皆の視線は集まった。

ゲンヤは宙を仰いで暫しの黙考。

そして。



「あー……まぁ、いいんじゃねぇの?
 何事も勉強だ、連れてってやれ」

「部隊長がいいんなら、俺は構いませんが」



出たのはそんな投げやりな言葉だった。

ゲルト他、皆それでいいのか、とも思ったが、部隊長の決定とあれば是非もない。



「どうせ俺らは間に合いそうもねぇ。
 それにお前向こうさんと話付けるの慣れてるだろ?
 嬢ちゃんにもその辺教えてやりな」

「……そういう事ですか」



無論、こういう部隊からの独立行動が度々起こるが故である。

本隊合流前に現場を制圧してしまう事もよくある為、ゲルトは本人の名声を抜きにしても地元部隊に顔が売れていた。

確かに指揮官にとっては有益な経験であるだろう。

少なくとも名前を覚えてもらって損はない。

加えて、



「ギンガの足の速さも役に立つ。
 忘れるなよ?
 お前の消耗は、陸の消耗だ」



ゲルト自身が108――――いや、地上部隊の切り札なのである。

即応性でいうなら航空隊、武装隊より遥かにありがたい存在だ

望むと望まざると、現実がそうなっている。



「連れて行け、命令だ」

「了解しました」



自覚を持て、って所か。



納得したゲルトは最早口を挟まず後部ハッチのパネルを操作。

上下にハッチが開き、隙間から外気が侵入してくる。

下に開いた部分は路面を擦る寸前まで下げた。



「先に出る。
 頭を打つなよ、ギンガ」

「しません!――――んんっ。
 はい、ゲルト准尉」



気負いもせずゲルトは飛んだ。

首都防衛隊期に経験したへリボーンやエアボーンからすれば何程の事もない。

一応後ろを走っていた車両が無い事は確認したが、それにしても慣れたものである。



「明日は早い。
 さっさと片付けるぞ、ナイトホーク」

『イエスマスター。
 ご随意に』



頷いたゲルトは一息に高度を上げた。

続いて上手い具合に肩の力も抜けたギンガも車体の縁に立つ。

火の入ったペイルホースの機関は早くも催促するように息巻いていた

再びバリアジャケットを纏った彼女は、後ろ向き――つまりゲンヤ達の方を向いたままで。



「ギンガ・ナカジマ、行きます」



軽く敬礼してみせる程の余裕を見せつつ、路面へと落下。

急な速度の変化と落下の衝撃で一瞬ふらつくが、ペイルホースの推力でそれも強引に捻じ伏せる。

即座に速度に乗ったギンガは装甲車に追い付いて見せるが、思いの他伸びが良い。

先の任務程度では物足りなかったのだろう。



「いいわ。
 本当の走りっていうのを見せてあげましょう、ペイルホース」

『一切の異存無し。
 真髄教授仕る』



ウイングロードを展開。

夜の街に残響を残し、彼女もまた空を駆けた。

そして、はやて達もまた。



「それじゃあ行ってきます」



はやてのバリアジャケットはいっそ豪華といってよかった。

装甲が設けられながらも芸術性を失わぬ装いに、ベルカの十字を象った杖型のデバイス――シュベルトクロイツを保持。

背の黒い六枚羽を除けば何処か聖職者を思わせる佇まいであった。



「おう。
 あの二人を頼むぜ一尉殿。
 それにリィンの嬢ちゃんよ」

「はい!」



羽撃く。

重力を感じさせない軽やかさだ。

これで現108部隊に存在する全飛行技能者が出撃。

一陸士部隊に四人も飛行技能者が居るのはそれだけで異常とも言える。



「さっ、て応援は出した。
 管制にも連絡しといてやれ」

「文面はどうしましょう」

「そうだな……ナカジマ兄妹と噂の研修生を向かわせた。
 下手に手ぇ出さずに封鎖に全力を挙げてくれ、だ」



まず万が一もあるまい。

何せ誰もが陸士部隊にして破格の能力を備えた一芸持ちだ。

規格外のゲルトやはやては言わずもがな。

リィンの補助能力も目を見張るものがあるし、場所を選ばないギンガの足の速さもそれだけで特筆に値する。

安心して現場を任せられた。

ただ、



「族の連中が可哀そうですね。
 流石に“優しく”はしてくれないでしょう」

「へっ、こんな夜中に人様へ迷惑掛けるからだ。
 精々痛ぇ目にでもあって更生してもらおうじゃねぇか」

「はは、まったく」



呵呵と笑うのはゲンヤだけではない。

誰もこんな夜中に駆り出されて気持ちのいい訳がなかった。





**********





「――――で、出てきた訳やけど……。
 どうしようか、アレ」



揃って飛ぶはやてが見下ろす先には、交通ルールを正面から無視したようなバイクが群れをなして走っている。

総勢十三。

殲滅となればいとも簡単だが、鎮圧となるとこれは中々難しい。



「下手に倒すと大怪我しますし……」

「停止勧告も聞きゃせえへんしなぁ……」



うーん、とギンガとはやても頭を捻る。

なにせバイクは今現在も走行中。

速度は大した事なく楽に追いつけるのだが、無理な実力行使で転倒されても面倒だ。



「こっちが躊躇うのを連中も分かってるからああして余裕で走ってられる。
 挑発のつもりだろうな」

「厄介ですね」



まったくだ。



少なくとも、些かなりと気が立っている時に相手したい手合ではない。

偶にこちらを向いたかと思えば中指を突き出してみたりと、心底こちらを舐めているらしい。

不愉快極まる。



「ゲルト君は何か考えある?」

「一つは」



とはいえ職務となれば私情は禁物。

ゲルトは控えめな表現ではやてに答えた。



「それってバイクごとぶった斬ろう、とかじゃないやんな?」

「まさか。
 ただ、このままだと適当な所でバラけて撒かれるのがオチ。
 ならいっそ調子に乗ってる今ここで一網打尽にするのが一番いい」



細々と数人捕まえたといって何になるだろう。

捕まえたとして、どのみちそれも尻尾切りだ。

出来るなら一般道に下ろす事無くケリを着けたい。

はやてもそれには異存なく頷いた。



「そうなるやろうな。
 けど中々厳しいで?」

「いや、一尉らの協力があればなんとかなる」

「あてにしてくれんのは嬉しいけど……」



はやては口ごもった。

元来、はやては前線に向いていない。

広範囲に渡る殲滅魔法をこそ得意とする彼女は、むしろ目視範囲内での戦闘は不得手とすら言えた。

彼女が指揮官や司令官などという後方勤務を目指し出したのにもその辺りの事情が少なからず絡んでいる。



「この四人なら出来る」



それでもゲルトは言い切った。

微塵も心配していないような堂々さ。

それも勝算あっての事。



「もちろん安全第一に、な」





**********





「うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!?」

「どわぁぁぁぁぁぁああああ!?」



高速道路に男達の野太い悲鳴が響く。

発せられるそばからそれは近付き、“本人と共に”こちらへと吹き飛んで来る。

見事な放物線を描きながら、男達は宙を舞っていた。

無論、珍走団の一味である所の彼らが空戦魔導師だとかいう事実はない。



「おお、ほんまに人飛んどる飛んどる」

「ゲルトさんもギンガも凄い力持ちですね!」



はやて達はそれを傍観者の視点で眺めていた。

誰が信じるだろう。

走行中のバイクから人間一人を摘み上げ、そのまま放るなどと。

男達は今もはやて達の方へ向かって飛んできている。

当然、このままだと路面に叩きつけられるは必至。



「っとと、あかんあかん。
 リィン、私は飛んでる二人の方やるからバイクよろしくな!」

「はいです!」



はやて達も動き出した。

はやてはシュベルトクロイツを振り下ろす動きで、バインドを多重展開。

リィンもまた自前の魔道書型デバイス“蒼天の書”を開く。



「おおおおお…………おごっ!?」

「あああああ…………あがっ!?」



地面へ叩きつけられようとしていた男達は両手足を縛られ空中で磔に。

彼らの制御から離れてもなおフラフラと覚束なく走っていた単車は、リィンの展開した“柔らかき支柱”によって停止させられた。

触腕を連想させる弾力のある柱は、道路はもちろん単車自体をすら傷つける事無くその勢いを殺し切っていたのだ。



いける。



磔になった男達を追い越し、はやては思う。

この調子ならそう時間もかかるまい。

ただ、



「安全第一、なぁ……」

「あはは、とりあえず怪我する人は……出なさそうですけど……」



その間もゲルト達の追撃は止まらない。

前を飛ぶ彼らは早くも次の集団に目を付けていた。



「俺は左、お前は右だ!」

「了解!」

「ひぃっ!!」



仲間が軽々と放り投げられる所を直に見ているのである。

二人の視線を受けた珍走団はそれだけで総崩れになった。

だが、今更速度を上げたとて逃げられる訳もない。

先に食い付いたのは加速で勝るギンガだ。



「く、来るなっ!
 来るなよぉ!」

「なら大人しくしなさい!」



走行中のバイクの上で出来る抵抗などたかが知れていた。

上方から平行して迫るギンガを威嚇するよう、遮二無二腕を振り回す位が関の山。

それもあっさりと掴まれてバイクから引き出される。



「てめぇこの放し――――い、いや放すな!
 放すんじゃねぇぞ!」



男の足が地面を擦るより早くギンガは上昇、加速。

すると男の態度も一変した。

腕一本で吊るされている現状、それにこれからどうされるかが思い出されたのだろう。



「八神一尉!リィンフォースさん!」

「お、おい!?」



だがギンガは男の叫びを無視。

速度を落とさず半回転すると、男を掴む手を大きく振りかぶる。



「行きまぁす!」

「止めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



遠、投。

ギンガのフォームと同じく男は綺麗な放物線を描き、そしてハイウェイを彩るオブジェの一つになった。

一方、ゲルトの方もまた然り。



「おいおいおい来るぞ!
 来てるぞ!?」

「分かってんだよンな事は!
 それより暴れんじゃねぇ!バランスが……!」



振り切れないゲルトの接近に、哀れなほど禿頭の巨漢が狼狽している。

恐慌とも言い換えてよいぐらいの慌てぶりだ。

場所を考えれば良かったろうに、タンデムしたバイクの後ろでは邪魔にしかならない。



「とばせって、なぁおい!!」

「なっ、くっ――やめろ!」



痺れを切らせた巨漢は運転手の肩を揺すり始めた。

焦燥の現れか、その勢いは激しい。

ついに運転手そのものがハンドルを誤り姿勢を崩した。



「っ無理だ、倒れる――――!」



のんびり行進していた時と違い、今は時速にして百キロ近くまで速度を上げている。

加えて、当然ながら男達はヘルメットなど被っていない。

まともに転倒などして怪我で済めばいいが、最悪は命が無い。

巨漢も運転手も先の運命を予感し固く目を閉じた。

その刹那、



「――――ナイトホーク」

『カートリッジロード』



カートリッジの弾け飛ぶ音と共にゲルトが急加速。

倒れ込む男達を浚い、安全な空へと舞い上がった。

一瞬の早業で二人を掴み取るその様は、さながら得物に襲いかかる猛禽といった風情である。

夜鷹ナイトホークとはまさに、であった。



「世話の焼ける……」



ゲルトは溜息交じりに悠々と空を行く。

高度はハイウェイを照らす街灯付近。

男二人を左右それぞれの腕で支え、加重分の飛行制御を調整し、それでもまだ限界だという様子はない。



「はぁ、助かった……」

「早く、早く下ろしてくれ!」



ゲルトが摘み上げた二人の反応は二つに分かれた。

オールバックの運転手はただ生きている事に感謝し、禿頭の巨漢は下を見て震え上がった。

高い所が苦手なのかもしれない。

猫のように首根っこを掴まれているので無理だが、そうでなければゲルトにでも縋り付いてきただろう。

ぞっとしない事である。



「なぁおいあんた!
 も、も、も、もういいだろ!?
 下ろしてくれよ早く!」

「下ろすとも。
 もちろん」



そんな二人へ交互に視線を送り、ゲルトは笑った。

苦笑のような淡いものではない。

むしろ彼にしては珍しい慈愛に溢れたものだ。

その言葉に巨漢は顔を輝かせ、対照的に運転手は表情を凍り付かせた。



『八神一尉、新しく二人追加です。
 準備は?』

『もちろん。
 いつでもオッケーや』

『了解。
 それではいきます』



念話で確認をとったゲルトはくるりと後ろを向いた。

少し後方のはやてがシュベルトクロイツを振り、合図を送ってきている。

それを捉えつつ、ゲルトは両の腕を突き出し二人を差し出すような構え。



「そら、反省してこい」

「……へ?」



ぱっ、と掴んでいた手を放す。

こちらは現在も飛行を続けているので、ゲルト自身の目には男達が遠のいていくように見えた。



「次にいくぞ」

『イエス、マスター』



何事も無かったかのような自然さでゲルトは再び前を向いた。

解放した後は些かも後方を気にした様子はない。

断末魔が如き絶叫をBGMに、鋼の騎士は今宵も空を駆ける。

そしてさらに十近い叫びがハイウェイに響いた。



結局、珍走団はこの日を以て全員逮捕。

冷たい留置場に放り込まれて反省したのか、チームも解散。

これ以降彼らが夜の街を騒がす事はなくなった。





**********





――――翌朝、午前七時



ゲルトの姿は公共墓地にあった。

見渡す限り墓碑が並び、ここだけは寒々とした風が吹き抜ける。

ゲルトが立っているのもある墓石の前だ。

脇にもう一つの花束を抱えながら、目の前の墓へと献花する。



「…………」



立ち上がったゲルトは、背筋を伸ばしてもう一度墓石を見つめる。

英雄の眠るここで無礼な態度は許されない。

足を揃えて敬礼。

姿勢には一分の乱れもない。



墓碑銘は、“ティーダ・ランスター”。



そのままで一秒、二秒、三秒。

たっぷりと時間をとって腕を下ろす。

何も言う事は無い。

そのままゲルトは立ち去ろうと振り返り、



「あ、あの――――!」



そこに少女を見つけた。

彼女もこちらを見ている。

彼女が声を掛けているのもこちらにだ。



「君は…………」



オレンジの髪を両側で縛った、ツインテールの少女。

見覚えは、ある。

二年前からは成長したようだが間違いない。

初めて出会ったのもこの場所。

ただ立っている場所だけがあの日とは反対だった。



「ティアナ……ランスター」



それが少女との再会だった。










(あとがき)


随分悩んだんですが、遂にティアナ登・場ッ!!

よく考えなくても初出から一年半近く放置だったんだなー。

といっても今回の出番はちょっとだけなんで、本番は次回ですが。

正直、賛否両論色々あるだろうなと覚悟はしております。


さて内容のほうですが、こっちは108部隊の割と大変な一日って感じです。

ぶっちゃけると次の為の前座というか何と言うか。

ちなみに今回のタイトルはワイルドアームズ3から。

「おいニトロじゃねぇじゃねぇか」という声もあるでしょうが、何だかこのタイトルしかない感じがしたんですよ。

多分次回もWA3からもらうと思います。



それでは、今回はこの辺で。

出来る限り早く投稿できるように頑張りますが、また次回お会いしましょう。

Neonでした!


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