<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.8635の一覧
[0] 鋼の騎士 タイプゼロ (リリカルなのはsts オリ主)[Neon](2009/09/21 01:52)
[1] The Lancer[Neon](2009/05/10 10:12)
[2] I myself am hell[Neon](2009/05/10 20:03)
[3] Beginning oath[Neon](2009/05/13 00:55)
[4] From this place  前編[Neon](2009/05/17 23:54)
[5] From this place  後編[Neon](2009/05/20 15:37)
[6] 闘志[Neon](2009/05/31 23:09)
[7] 黄葉庭園[Neon](2009/06/14 01:54)
[8] Supersonic Showdown[Neon](2009/06/16 00:21)
[9] A Wish For the Stars 前編[Neon](2009/06/21 22:54)
[10] A Wish For the Stars 後編[Neon](2009/06/24 02:04)
[11] 天に問う。剣は折れたのか?[Neon](2009/07/06 18:19)
[12] 聲無キ涙[Neon](2009/07/09 23:23)
[13] 驍勇再起[Neon](2009/07/20 17:56)
[14] 血の誇り高き騎士[Neon](2009/07/27 00:28)
[15] BLADE ARTS[Neon](2009/08/02 01:17)
[16] Sword dancer[Neon](2009/08/09 00:09)
[17] RISE ON GREEN WINGS[Neon](2009/08/17 23:15)
[18] unripe hero[Neon](2009/08/28 16:48)
[19] スクールデイズ[Neon](2009/09/07 11:05)
[20] 深淵潜行[Neon](2009/09/21 01:38)
[21] sad rain 前編[Neon](2009/09/24 21:46)
[22] sad rain 後編[Neon](2009/10/04 03:58)
[23] Over power[Neon](2009/10/15 00:24)
[24] TEMPLE OF SOUL[Neon](2009/11/08 20:28)
[25] 血闘のアンビバレンス 前編[Neon](2009/12/10 21:57)
[26] 血闘のアンビバレンス 後編[Neon](2009/12/30 02:13)
[27] 君の温もりを感じて [Neon](2011/12/26 13:46)
[28] 背徳者の聖域 前編[Neon](2010/03/27 00:31)
[29] 背徳者の聖域 後編[Neon](2010/05/23 03:25)
[30] 涼風 前編[Neon](2010/07/31 22:57)
[31] 涼風 後編[Neon](2010/11/13 01:47)
[32] 疾駆 前編[Neon](2010/11/13 01:43)
[33] 疾駆 後編[Neon](2011/04/05 02:46)
[34] HOPE[Neon](2011/04/05 02:40)
[35] 超人舞闘――激突する法則と法則[Neon](2011/05/13 01:23)
[36] クロスファイアシークエンス[Neon](2011/07/02 23:41)
[37] Ready! Lady Gunner!!  前編[Neon](2011/09/24 23:09)
[38] Ready! Lady Gunner!!  後編[Neon](2011/12/26 13:36)
[39] 日常のひとこま[Neon](2012/01/14 12:59)
[40] 清らかな輝きと希望[Neon](2012/06/09 23:52)
[41] The Cyberslayer 前編[Neon](2013/01/15 16:33)
[42] The Cyberslayer 後編[Neon](2013/06/20 01:26)
[43] さめない熱[Neon](2013/11/13 20:48)
[44] 白き天使の羽根が舞う 前編[Neon](2014/03/31 21:21)
[45] 白き天使の羽根が舞う 後編[Neon](2014/10/07 17:59)
[46] 遠く旧きより近く来たる唄 [Neon](2015/07/17 22:31)
[47] 賛えし闘いの詩[Neon](2017/04/07 18:52)
[48] METALLIC WARCRY[Neon](2017/10/20 01:11)
[49] [Neon](2018/07/29 02:18)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[8635] 疾駆 前編
Name: Neon◆e5438144 ID:013289b5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/13 01:43
ギンガが108部隊へ見学に訪れる。



前々から聞いていた話が現実感を帯び出したのはつい先日の事だ。

例年受け入れている訓練校からの実地研修にはまだ少し早い。

一時帰郷を利用して個人的に訪ねる、という話である。

身も蓋もない言い方をすれば身内のコネなのだが、この位は咎められる程の事でもない。



「それじゃあ、迎えに行ったついでに私達もお邪魔しちゃいましょうか」



なんて事を母が言い出さなければ。

そしてギンガもクイントも来るとなれば当然スバルも。

結局、一家総出の職場訪問という事になってしまった。

ギンガが空港に帰って来るのを迎え、その足で隊舎に向かうらしい。

予定ではほぼ日暮れ時になろうかといういうのに、だ。



「こりゃ、見学は建前だな」

「まぁ、夕飯にでも連れ出されるのがオチでしょう」



父とそうして苦笑を交わしたのもよく覚えている。

本当に、それだけの筈だったのだ。





**********





『緊急事態発生! 緊急事態発生!
 北部臨海第八空港にて大規模火災の発生を確認!
 未だ民間人多数が閉じ込められている模様!
 周辺の部隊は即時出動せよ!
 繰り返す……!』



ゲルトはその報を108の隊舎で聞いた。

そろそろギンガ達もこちらに向かっているかという頃。

早退が出来る程度には仕事を片づけ、一息入れながら待とうかと思っていた矢先である。



「な……ぁ……」



何よりもまず頭を打ち抜かれたような衝撃が走った。

向いでテーブルに着いていたゲンヤもスピーカーへと顔を向け、呆然とした表情を晒している。

事情を知っていた部隊員達もだ。

もちろん警報の意味は分かった。

第八空港が、今まさにギンガ達がいるだろう場所である事も。

だが、体が動かない。

動かせない。

空白の時間の中、飲みかけだったカップが滑るように落下していく。



「――――!」



カップが砕け散る甲高い音。

それが忘我の境にあったゲルトの意識を引き戻してくれた。

そして今の無駄な時間がどれほど大事なものかを悟る。



馬鹿か!? 俺は!!



硬直を吹き飛ばし、体を焼く程の怒りが体を駆け巡った。

硬く結ばれた唇から赤い血の筋が伸びる。

幾つも大切なものを失って、何も学んでいない。

今までそうして立ち止まっていて守れたものが一つでもあったか?

失うのが嫌ならば、恐いなら。



「先に、出ます」

「ゲルト!?」



一言だけを残して即座に身を翻す。

まだ仲間達は混乱しているようだが、構っている余裕はない。

焦燥も怒りも全てを燃料に、全力の疾走。

急かす心に抗う気など毛頭なかった。

そして、ゲルトには追い風も吹く。



「緊急事態につきナカジマ陸曹長の市街地飛行を許可する!
 行け! ゲルト!!」

「っ、了解!!」



背中を押すようなゲンヤの声にゲルトは心底感謝した。

その信頼に応えるが為、ゲルトはそれこそ振り返りもせずに走る。



「全員聞いたな!
 指揮車回せ! 空港に急ぐぞ!!」

「はいっ!」



残された108隊員達も立ち止まってはいない。

矢継ぎ早な指示の元、すぐさま行動に移っていた。

皆が慌ただしく動く中、一人の青年の姿を見つけたゲンヤが声を張る。



「ラッド!」

「はっ!」

「お前は魔導師二人付けて待機だ。
 留守は任せる」

「了解です。
 そちらもお気を付けて」



緊急事態とはいえ、ここを空にする訳にもいかない。

最低限の戦力と、それに現場指揮が可能な人間も必要だ。

今の108においてゲンヤが抜けるとなれば、その代役は副官であるラッドに回る。

ゲルトの名声のせいで影に隠れがちな彼であるが、ゲンヤはゲルトとはまた違う意味でこの青年を信頼していた。

心配そうなラッドに応じつつ、ゲンヤは隊舎の扉を開く。

そこには108の要たる隊員達が既に整列していた。

誰一人として気の抜けた素振りも見せない完璧な佇まいである。



「準備整いました!
 いつでも出られます!」

「よし、全員搭乗。
 ゲルトも先行してる。
 ……急ぐぞ」



ゲンヤはこの緊急事態にあっていつもと同じ冷静な素振りであった。

彼は部隊長なのだ。

内心がどうあろうと指揮官が部下の前で動揺してはならない。

その事をよく弁えていた。



「――――」



だからこそ握り締め、振るえる拳を見てもなお不安に思う人間などは一人もいなかった。





**********





日が沈む。

遥か彼方の地平線に、太陽はもうその姿を消そうとしていた。

夜の世界の訪れである。

地上の灯が星の如く輝き、誰の目も奪う地上の銀河を形成していた。

しかし地上数百メートルを行くゲルトの心を占めるのはそんな穏やかな光ではない。



炎。



夜闇をものともせぬその灯火は、天を覆わんとばかりに禍々しい黒煙を立ち昇らせていた。

それはゲルトにある不安な予感を喚起させるものである。

4年前の悪夢。

火に包まれ目の前で崩れ去る空港を、空の墓標の前に立ちすくむ自分を幻視する。

目の前に立つ、その墓碑の銘は――――



「……クソ!」



舌打ちと共に妄想を振り払う。

体が熱い。

嫌な汗がじめりと頬を撫でた。



「まだ連絡はつかないのか」



思わず喉をついて苛立ち交じりの声が漏れる。

聞こえによってはナイトホークに当たるような声音だ。



『はい。
 指揮系統も確立していないのか現場も混乱しているようです』

「こんな時に何を悠長な……!」



108を飛び立ってこちら何度となく応援の連絡をしてみたが一向にまともな返事がない。

未だ臨時のコールサインを確認しただけの事。

そもそも場を仕切れるだけの人間がいないか、それとも全体の掌握に手間取っているのか。

どちらにしても遅すぎる。

今はただの一刻も無駄にしたくは無い。

ゲルトはナイトホークへ視線を落とした。



フルドライブ……使うか?



魔力を全解放すれば飛躍的なスピードアップが見込める。

到着予定も短縮出来よう。

出来るなら今すぐにもそうしたい。

が。

かといって、デメリットも決して小さくはない。



……駄目だ。



ゲルトは意志の力でその誘惑をねじ伏せた。

縋りつきたい程に魅力的ではあったが、それは選べない。

今回は4年前とは違う。

救助活動にどれほどの時間がかかるか分からない以上、無闇に力を消耗するべきではない。

途中で魔力切れでも起こせば自分一人の命では済まないのだ。

無論、それはゲルトの本意ではありえない。

だがそうといって状況がよくなる訳でもなく。



「ペイルホースの信号は」

『申し訳ありません。
 この状況では二、三百メートルまで近付かなくては不可能かと』

「……分かった。
 そのまま現場を呼び続けろ」

『イエス』



かつてのゲルトにはギンガとスバルだけが世界の全てだった。

彼女らを守る事だけ考えていればよかった。

母にしてもそうだ。

ギンガ達や自分を引き取ってくれたというだけではない。

クイント自身共に死線を越えたゼスト隊の仲間であり、ゲルトにとってもかけがえの無い家族だ。

ただでさえ彼女は肺を片方失っている。

激しい運動は出来ないし、煙に巻かれて良い筈もない。

もう失いたくなかった。



何を、犠牲にしても。



そう思いながら、ゲルトは心のどこかで気づいていた。

もし彼女らを見つける前に他の要救助者に出くわした場合、最終的に自分がどうするのか。

公正たるべき管理局員としてどうすべきなのか。

本当に目の前で助けを求める人を放っていけるのか。

それでも、いやだからこそゲルトは祈らずにはいられなかった。



「頼む……頼むから無事でいてくれ……」



管理局に入った事を間違いだとは思わない。

自分に大切な家族があるように、他人にもそれがある。

それが害されるのは、ましてや失われるのは、許せない事だ。

だが、それがギンガ達を見捨てる結果になるのなら。

一番大事なものを守れないのなら。



俺は……俺は何の為に?



悩む筈もなかった理念が頭の中を巡る。

この手の力は何の為に?

誰の為に振るえばいい?

疑念はノイズとなって思考を乱す。



『抑えてください。
 防風式に乱調、速力に5%の影響が出ています』

「――――ッ!」



ナイトホークの言葉でようやく我に帰った。

なるほど、確かに術式に乱れがある。

何より顔を叩く風の存在でそれは明白だった。

こんな事にも気付かないでいたとは。



情けない。



冷水を流し込まれたように落ち着きを取り戻していく心。

自制とは武人として基本中の基本である。

ギンガにもそう教えてきた。

それはこのような時にこそ発揮すべきものだろうに。

一体、回らない頭で何が出来ると思っていたのだろう。



何の為の力、か。



先程の自問を思い出した。

答えなど、とうに出ている。



「ナイトホーク」

『はい』

「全員助けるぞ。
 目につく人は、全部だ」

『イエス、マスター』



やれるだけやる。

助けるだけ助ける。

その限界を伸ばすのが力だ。

取る捨てるなどは考える必要もない。

出来る。

出来る筈だ。



何故なら俺は――――



その思考を遮るように通信を告げるアラームが鳴り響く。

遅すぎたといってもいい通信本部からの連絡だ。



『こちら通信本部。
 遅くなって申し訳ありません。
 航空魔導師108-01聞こえますか?』

「こちら108-01、グランガイツ・ナカジマ陸曹長。
 状況の説明を頼む」



通信士はこちらよりもなお若いようである。

皮肉の一つでも言ってやりたい所だったが、それすらも惜しい。

無駄口も叩かずに先を促した。



『はい。
 現在原因不明の爆発による火災発生から10分が経過し、空港内には未だ40人近い民間人が閉じ込められている模様です』

「爆発?」

『輸送品の中に爆発物が仕込まれていたと思われますが、確認は出来ていません。
 また、空港の火勢は強く建物へのダメージも深刻なので、一般の消防では手が出せない状況です。
 陸曹長には負担を強いる事になりますが……』



単騎突入せよ、だろう。

口を濁しているが救助も殆ど進んでいないという事だ。

後続もまず期待できまい。

かなり危険である事は言うまでもないが、



「問題ない、慣れてる。
 使える侵入口は?」

『8番ゲートを使って下さい。
 マップ、転送します』



言葉と共に受信状況を知らせるインジケーターが出現した。

緑のバーが空白を埋めるまでは二秒ほど。

と、同時に様々な角度から見た空港の内部資料が展開された。

その中の一箇所で赤く点滅している部分があり、つまりはここが8番ゲートという事か。



『空港周辺構造図の受領確認。
 ゲート到着まで7分を――――』

「6分だ」


ナイトホークの報告に被せるようにゲルトは言い切った。



「6分で到着する。
 以降内部での救助活動に参加、そちらの指揮下に入る」

『りょ、了解。
 流石は陸上警備隊の“鋼の騎士”ですね。
 頼もしいです』

「航空隊の出動も急かしておいてくれ。
 ――――交信終了」



一瞬の雑音を最後に通信を切る。

聞こえてくるのは轟々と響く風の音だけ。

呼吸を整えるように深い息を吐いたゲルトは視線を再びナイトホークへ向ける。



「カートリッジ、ロード」

『イエス。
 ロードカートリッジ』



重い金属の擦過音と共に薬莢が弾け飛んだ。

高速の世界の中、硝煙たなびくそれは視界の隅で後ろへと吹き飛んで行く。

結果として残るのはカートリッジから供給された魔力の滾りだ。

己のリミッターは外していない。

フルドライブ程の出力はなく、効果時間もそれなり程度だが、無いよりはマシである。

風を掴む。

より強く。

より精妙に。



「今、行くぞ」



その瞳は金色。

ゲルトは一筋の光となった。





**********





この未曽有の大事故と戦っているのは、何もゲルトだけではない。

燃え盛る空港の眼前。

ここにも大いなる災禍へ挑む少女達がいた。



「はやてちゃん、応援の連絡がありましたです!
 陸士203、405部隊到着まであと5分。
 陸戦魔導師12名、医療班9名、一般局員23名だそうです」

「やっと魔導師が来たんか。
 首都航空隊はまだなん?」



現場指揮を任された若き本局特別捜査官、八神はやて一等陸尉。

彼女の補佐官であり、守護騎士として侍るリインフォースツヴァイ空曹長。

彼女らに課された責務はあまりにも重く、そしてあまりにも過酷だった。



「まだ出動の許可も出てないみたいです。
 情報が混乱してるみたいで……」

「早くせんと手遅れやっちゅうのに!
 今ある人間でなんとかするしかないんか……!」



人手が足りない。

それも深刻にだ。

目の前で火に包まれる空港を見る。

この一瞬にも誰かが命を失うかもしれないと思えば、すぐにもあそこへ飛んでいきたかった。

今この時ただ一人の魔導師でいられればどれほど楽か

それは抗い難い誘惑だった。

しかし。



それでも、私はここの指揮官や。



ここを空けてしまえば、それこそこの場の統制は崩壊する。

それは、助けられるかもしれない人間を殺す事に他ならない。

やるしかないのだ。

自分が為すべき事を。



「203と405の魔導師には東側に回ってもらうわ。
 防壁上手い人5人選んで燃料タンクの防御。
 あとは使えるゲートに振って救助活動や」

「はいです!」



考えろ。

考えろ。

今できる最善。

今できる限界。

見誤る訳にはいかない。

そうして思考を巡らす内にも状況はどんどんと変化していく。

けれども決して悪い事ばかりではない。



「通信本部から連絡!
 なのはさんとフェイトさんが空港内部に進入したそうです!」

「なのはちゃん達が……。
 来てくれたんやね」

「はいです。
 あ、あとそれから――――」



リインフォースが言い切るよりも早く、何かが上を駆け抜けた。

高速の飛翔体だ。

それはこちらを一顧だにせず空港へと真っ直ぐに飛んで行く。

残されたのは目を覆うような強い風と、そしてテールライトのように線を引く赤橙の光。



「あれは……ゲルト君か!?」



どこの魔導師かと思ったが、はやての脳裏に閃いたのは彼。

特にシグナムと仲のいい、黒槍を携えた地上の騎士だった。

咄嗟に口を衝いて出た言葉ではあったが、あながち間違いでもないと気付く。

あの魔力光には確かに見覚えがあった。



「はい。
 ゲルトさんです。
 108の本隊はまだ10分くらいかかるそうなんですけど」

「ゲルト君の本隊、って事はナカジマ三佐もおるな。
 そしたら私も前線に出れる。
 ……よし、頑張ろうリイン」

「はいです!」



そう108が来るなら、正確にはゲンヤが来るならだが、はやて達も指揮権を委譲して空港へ行ける。

得意な広域魔法の効果を如何なく発揮できるだろう。

とはいえひとまずはここの指揮が優先だ。

今もディスプレイの向こうでは多数の局員達がこちらの指示を待っている。



頼んだで、皆……!





**********





そして戦う者は空港の中にも。



「お姉ちゃぁん……。
 お母さぁん……」



無人のホールに不安気な声が響く。

子供の、泣きべその声だ。

火に包まれたホールに場違いな程の弱々しい声音。

それもその筈。

巨大な柱の向こうから姿を見せたのはまだ11才の少女である。



「二人共どこぉ……?」



言わずもがな、ギンガを迎えに来ていたスバルであった。

しかしその傍にギンガの姿はなく、また付き添いで来ていたクイントの姿もない。

この熱波と煙が支配する地獄に彼女一人。

たった一人きりだった。



「嫌だよ……。
 熱いよ……。
 もう歩けないよぉ……」



お気に入りの服は汚れ、どこかで擦りむいたのか膝には血も滲んでいた。

どうしてこんな事になったのか。

今日は離れ離れになっていた姉とようやく会えた日だったのに。



「どうして――――」



潤んだまなじりから零れたのは涙。

頬を伝う滴は揺らぐ火を映して宝石のような輝きを放っている。

だが、この地獄はそんな子供にも一切容赦がなかった。

すぐ左手から横殴りの爆風が彼女を襲う。



「うわぁぁぁ!?」



抗う術などない。

人形のように軽々と跳ね飛ばされ、地に倒された。

力無くうずくまり、痛みに喘ぐ。

そうすればもう動けない。



「……ぅぅぅ」



身を縮めてしゃくり上げる。

丸めた背は哀れな程に震え、溢れた涙はパタパタと痕を残す。

体中が痛くて痛くてしょうがなかった。

怖くて怖くてどうしようもなかった。



「こんなの、やだよぉ……。
 帰りたいよぉ……お父さん」



帰りたい。

帰りたい。

涙は止めどなく零れ落ちる。

例えば姉ならこんな事で泣かないのだろうか。

例えば母なら? 父なら?



「助けて、お兄ちゃん……」



あの兄ならばこんな事はものともしないのだろう。

一人で何とでもしてしまうのだろう。

もっともっと強ければ。

こんなに弱虫の自分でないならば。



「誰か、助けて……!」



そう泣く彼女の背後で絶望が口を開ける。

死神の足音はスバルの耳にも届いていた。

何かに罅の入る音。

それが広がっていく音。



「ぁ……!」



見上げる程大きな、女神をかたどったモニュメント。

それが倒れてくる。

視界を覆うように。

スバルを潰すように。

気付いた時にはもう遅い。



「――――!!」



死。



その一文字が頭を支配した。

身近に触れた事のないスバルにはそれがどういうものかはよく分からない。

が、生まれながらに埋め込まれた感覚は現実を教えていた。



嫌……!



これで何もかも終わる。

終わってしまう。

それは確実な未来だった。

原初の恐怖がスバルの体を縛る。

動きを止めた足はその場を離れる事を許さない。

それでも体を守ろうとする本能が身を固くし、呼吸すらも止める。



そして衝撃が――――



「…………?」



固く目を閉じたスバルの口から疑問符が零れる。

直後に訪れる筈だった衝撃が、来ない。



「え?」



恐る恐る目を開く。

すると、目の前に像があった。

時が止まったように、倒れる途中の姿勢のまま桃色に光るバインドによって空中に固定されている。



お兄、ちゃん……?



スバルが真っ先に思い浮かべたのは黒衣のバリアジャケットを纏った兄の姿だった。

しかし、兄の魔力光はこんな色ではない。

母や姉もだ。

では誰が?



「良かった。
 間に合った」



“天使”、だった。

炎熱の地獄に舞い降りた白い天使。

ただし彼女は長大な杖を手にした戦天使であった。

ここまで余程急いで来たのか肩が上下し、栗色のツインテールも揺れる。



「助けに来たよ」



見覚えは、あった。

確か――――



高町、なのは……さん。



よく兄が出ているテレビに出てくる局員の人。

兄は友達だと言っていたような気がする。

前に着地した彼女とぼんやりと見上げるスバルの目が合った。

何か気付く事があったのか、彼女も目を丸くしている。



「あれ?
 もしかして、ギン――――ううんスバル、かな?」

「え、あ……はい」

「やっぱり。
 昔ゲルト君が退院する時に会ってるんだけど、覚えてないかな?」



首を傾げて見せる彼女はそれこそ年若いただの少女に見えた。

しかしそれだけではない。

彼女こそ時空管理局本局武装隊の若手筆頭。

“エースオブエース”。

世界を見てもごく僅かな規格外の魔導師なのだ。



「えと……すみません」

「気にしないで。
 もう結構前になるしね」



この状況にそぐわぬ会話。

まるで街中で出くわしたかのような。



「あ、でも名前は知ってます。
 高町さん、ですよね?」

「うん。
 でもなのはでいいよ?」



いつの間にかスバルも上手く緊張を解かれている。

何故か彼女にはそんな安心感があった。

ただしなのはは話を続けながらも自分の周囲に魔法陣を展開。

着々と脱出の準備を進めている。



『上方の安全を確認』



レイジングハートの言葉に合わせて彼女が相棒を持ち上げた。

両手で、まさに砲を構えるようにホールド。

狙いは正面斜め上。

エントランスの構造上、この天井を一枚抜けばそれで外へ通じる。



『ファイアリングロックシステム解除。
 ――――撃てます』

「待っててスバル。
 安全な所まで、一直線だから」



粒子のように桃色の光が踊る。

踊って集まる。

蛍みたいだと、スバルは思った。



「一撃で地上まで抜くよ。
 レイジングハート」

『オールライト。
 ロードカートリッジ』



連続して二発をロード。

それと共に光はレイジングハートの先端へ。

リング状の方陣がそれらを強引に纏め上げ、圧縮。

異様なまでに加圧された魔力が一つの塊として押し固められている。

その早さ、規模、精密さ。

どれをとっても一級品である。



「ディバイィィン――――」



なのはが足を開いて反動に備えた体勢へ移行する。

時を迎え、魔法陣がさらに強く発光。

僅かな溜めを挟み、そして。



「バスターーー!!」



――――撃つ。



それは射撃などではない。

闇を祓う光の柱がそこにあった。

その勢いの前には天井など何ほどの事があろう。

容易く貫通した砲撃は夜を割り、天を分かつ。

煌々と燃える空港をしてなお輝きは霞むでもなく、その存在を高らかに誇示していた。



これが……。



呆然と立ち尽くすスバルはその光景から目を離す事ができず、ただただなのはの背中を見つめている。

雑多な有象無象は全て光の中に掻き消え、穴の空いた天井からは破片の一つも降ってはこない。

忌避していた筈の“力”。

紛れもなく人を傷つけ、物を破壊する力だ。

自分の中にもある、振るうべきではないもの。

でもこれは――――



違う。



多分、本当は分かっていた。

何もかも自分が怖がっているだけなのだと。

今目の前にあるものは、ずっと傍にあった事も。

それはきっと母が知っているもので、兄が持つもので、姉が目指しているものだ。



「さぁ、出よう」



こちらを振り返り、何でもないかのように笑うなのは。

月光を背負い立つ彼女の姿は美しかった。

幻想的なまでのそのビジョンは火に囲まれつつある現状を忘れさせる程で。

何かを言う事も出来なくて。



「もう大丈夫。
 よく頑張ったね」



柔らかな腕に抱かれて聞いた言葉。

その言葉で、ようやく自分が助かった事に気付いた。




この記憶は後にも薄れる事はなく、スバルの将来に大きな影響を与える事になる。

それは、目を逸らし続けた彼女が、“力”の何たるかを理解した日でもあった。









(あとがき)


何っとか2ヶ月は掛けずに済みましたな。

学際の準備やら打ち上げやら何やらあって今回は遅れるかもー、と思ってただけにホッと一息です。

さて本編ですが、ようやく入った空港火災編。

前編はスバルメインという事に相成りましたが、後編はどうなるやら。

この辺りの所はずっっと書きたかった部分なんで気合い入れてかかろうと思っております。

ちゃちゃっと手早く――――とはいかないかもしれませんが、中身は待たせるだけのものを用意しておくつもりですので、読者の皆皆様も乞うご期待!


ってな所でまた次回お会いしましょう。

Neonでした!


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035530090332031